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  • 平成15年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

畜産環境総合整備事業等により整備したたい肥化施設において、家畜排せつ物の管理を適切に行うことなどにより、事業効果の発現を図るよう改善させたもの


(4)畜産環境総合整備事業等により整備したたい肥化施設において、家畜排せつ物の管理を適切に行うことなどにより、事業効果の発現を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織) 農林水産本省
(項) 農業生産基盤整備事業費
(項) 牛肉等関税財源農業生産基盤整備事業費
(項) 農村整備事業費
(項) 牛肉等関税財源沖縄農業生産基盤整備事業費
(項) 北海道農業生産基盤整備事業費
(項) 牛肉等関税財源北海道農業生産基盤整備事業費
(項) 北海道農村整備事業費
部局等の名称 農林水産本省、東北、関東、北陸、中国四国、九州各農政局、沖縄総合事務局(平成13年1月5日以前は総理府沖縄開発庁沖縄総合事務局)
補助の根拠 土地改良法(昭和24年法律第195号)
予算補助
補助事業者 北海道ほか12県(うち事業主体、北海道ほか1県)
間接補助事業者
(事業主体)
公社13、農業協同組合1、計14事業主体
補助事業 畜産環境総合整備、畜産基盤再編総合整備、草地畜産基盤整備
補助事業の概要 草地造成等の基盤整備の一環として、畜産経営に起因する環境汚染を防止するなどのため、たい肥化施設の整備を行うもの
効果が十分発現していない施設 110施設
上記の施設に係る事業費 44億9978万余円 (平成11年度〜15年度)
上記に対する国庫補助金 21億9994万円  

1 事業の概要

(畜産公共事業の概要)

 農林水産省では、畜産環境総合整備事業実施要綱(平成7年7畜B第326号農林水産事務次官依命通達)等に基づき、畜産経営に起因する環境汚染の防止、生産性の高い経営体群の育成、畜産主産地の再編整備及び草地の整備を通じて飼料自給率の向上等を図るため、畜産環境総合整備事業、畜産基盤再編総合整備事業、草地畜産基盤整備事業(以下、これらを「畜産公共事業」という。)を実施している。
 そして、農林水産省では、畜産公共事業を実施する都道府県、都道府県農業公社等(以下「事業主体」という。)に対して、毎年度、多額の国庫補助金を交付しており、平成11年度から15年度までの国庫補助金の交付累計額は1343億余円となっている。
 畜産公共事業では、草地造成等の基盤整備の一環として、総合的な畜産経営の環境整備を行い家畜排せつ物のリサイクルシステムを構築することなどにより、家畜排せつ物を野積みしたり、家畜排せつ物からの汚水が施設外へ流出したりすることによる河川や地下水の汚染などの事態を防止するため、家畜排せつ物を発酵させ、たい肥化するなどの施設(以下「たい肥化施設」という。)を整備している。たい肥化施設には、畜産農家に設置し複数の畜産農家等が施設運営主体(注) となり、自らたい肥化などを行うもの(以下「たい肥舎」という。)と、畜産農家から比較的離れた場所に設置し市町村等が施設運営主体となり、多数の畜産農家から家畜排せつ物を収集してたい肥化などを行うもの(以下「たい肥センター」という。)とがある。

施設運営主体 たい肥化施設の管理、運営を行うもので、複数の畜産農家や市町村等により構成されている。

(事業の実施)

 畜産公共事業の実施に当たっては、事業の的確かつ効率的な遂行を図るため都道府県等が畜産農家ごとに、現在の家畜飼養頭数、将来の計画頭数等を記載した事業実施計画(以下「事業計画」という。)を作成することとなっており、たい肥化施設はこの事業計画に基づいて整備することとなっている。
 また、都道府県等は本件事業によって整備された施設の管理が事業の趣旨に即して適正に行われるよう努めるものとされている。

(たい肥化作業)

 たい肥化施設は、事業主体が草地開発整備事業計画設計基準(平成11年11畜B第213号農林水産省畜産局長通達)と堆肥化施設設計マニュアル(社団法人中央畜産会編)、または、これらに基づき都道府県の定める基準(以下、これらを「基準等」という。)により整備することとなっており、これらの基準等には、施設規模の算定方法、たい肥舎やたい肥センター内でのたい肥化作業の方法等が示されている。そして、基準等によれば、主なたい肥化作業は次によることとなっている。
〔1〕 畜舎から家畜排せつ物をたい肥化施設に搬入し、必要に応じてオガクズ、モミガラ等を水分調整材として混入して水分調整を行い積み上げる。
〔2〕 攪拌装置があるたい肥化施設の場合は、1日当たり1回〜2回の攪拌を行って60日〜90日間程度発酵させる。それ以外のたい肥化施設では、ショベルローダー等の作業機械により1箇月当たり1回以上の切返し作業を行って150日〜180日間程度発酵させる。
 これらの作業を実施することにより、家畜排せつ物が発酵する際の発酵熱(60度〜80度)で病原菌、雑草種子等が死滅し、水分の蒸発で、たい肥化施設から汚水が流出しなくなるなど環境汚染の防止に役立つとともに、良質なたい肥の生産が可能となる。また、水分の蒸発で、家畜排せつ物の重量が減少(20%〜40%程度)し、体積も減少することによりたい肥化施設の効率的な利用が可能となる。

(環境問題と管理適正化法)

 近年、畜産経営の大規模化の進行に伴って家畜排せつ物の発生量が増大し、また、農村地域の混住化が進み、野積み等の家畜排せつ物の不適切な管理が社会問題化してきていることなどから、家畜排せつ物の不適切な管理を早急に解消するとともに、たい肥の有効利用を促進するため、11年度に「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年法律第112号。以下「管理適正化法」という。)等が定められている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 農林水産省では、管理適正化法等が制定された11年度以降、たい肥化施設の整備を重点的に進めてきたところである。そこで、たい肥化施設において、家畜排せつ物が適切に管理されているか、たい肥化施設が事業計画どおり利用されているかなどに着眼して検査を実施した。

(検査の対象)

 北海道ほか15県(注1) において、11年度から15年度までに畜産公共事業により整備されたたい肥化施設は891件、これに係る事業費は計401億1950万余円(国庫補助金計187億9824万余円)となっており、このうちの469件に係る事業費計211億9175万余円(国庫補助金計101億2698万余円)を対象として検査を実施した。

(検査の結果)

 検査したところ、北海道ほか12県(注2) の16事業主体が整備したたい肥化施設110件、これに係る事業費計44億9978万余円(国庫補助金計21億9994万余円)において、畜産経営に起因する環境汚染の防止等を図ることを目的とする補助事業の効果が十分発現しておらず、適切とは認められない事態が次のとおり見受けられた。
(1)施設運営主体において、家畜排せつ物の管理が基準等に定められた方法により適切に行われておらず、家畜排せつ物が野積みされていたり、汚水がたい肥化施設から流出していたりしているもの
 これを原因別に分類すると次のとおりである。
(ア)家畜排せつ物の水分調整や切返し作業が適切に行われていないことによるもの

8道県 11事業主体 たい肥化施設77件 事業費 16億0455万余円
      国庫補助金 7億9071万余円

<事例>
 A公社では、平成14年度に、たい肥舎1棟(面積351m )を事業費1512万円(国庫補助金756万円)で整備している。
 しかし、施設運営主体において、たい肥化施設の整備目的に対する認識が十分でなく、適切な水分調整材の混入や、切返し作業を行っていなかったため、家畜排せつ物の水分が減少しておらず、汚水がたい肥舎から流出している状況となっていた。
(イ)たい肥化施設が補助目的どおりに利用されていないことによるもの

2道県 3事業主体 たい肥化施設18件 事業費 2億9122万余円
      国庫補助金 1億4383万余円

<事例>
 B公社では、平成13年度に、たい肥舎1棟(面積162m )を事業費1657万余円(国庫補助金828万余円)で整備している。
 しかし、施設運営主体において、たい肥舎の半分を資材置場としていたことから、その分の家畜排せつ物が搬入できず、これを農地に野積みしている状況となっていた。
(ウ)事業主体と畜産農家との間で、事業計画作成時の調整が十分に行われていなかったことによるもの

4県 4事業主体 たい肥化施設4件 事業費 24億8443万余円
      国庫補助金 12億1020万余円

<事例>
 C公社では、平成12、13両年度に、事業計画に基づき、18戸の畜産農家(養豚農家12戸、養鶏農家6戸)から家畜排せつ物を収集することとして、たい肥センターを事業費8億1383万余円(国庫補助金4億0691万余円)で整備している。そして、同センターでは、養豚農家が自ら家畜排せつ物置場を整備して水分調整などを行った後の家畜排せつ物を無料で収集することとしていた。
 しかし、同公社では、事業計画作成時に、養豚農家に対し、家畜排せつ物の水分調整などの収集時の条件についての説明を十分に行っていなかったことから、6戸の養豚農家においては、家畜排せつ物置場を整備しておらず、家畜排せつ物の水分調整を行っていなかった。このため、同センターでは、これらの養豚農家から家畜排せつ物を収集できず、家畜排せつ物は各養豚農家に野積みされたり、素掘り投棄されたりしている状況となっていた。
(2)畜産農家が廃業したためたい肥化施設が未利用となっていたり、畜産農家の飼養頭数が事業計画を大幅に下回っているなどのためたい肥化施設が低利用となっていたりしているのに、有効利用について十分検討されていないもの

7道県 7事業主体 たい肥化施設8件 事業費 8071万余円
      国庫補助金 3924万余円

<事例>
 D公社では、平成13年度に、事業計画に基づき、乳用牛46頭の家畜排せつ物をたい肥化することとして、たい肥舎1棟(面積188.2m )を事業費836万余円(国庫補助金418万余円)で整備している。
 しかし、施設運営主体のうちこの施設を利用していた畜産農家が病気を理由に畜産業を廃業したため、たい肥舎が15年4月から全く利用されなくなっているのに、近隣の畜産農家等による有効利用についての十分な検討が行われていない状況であった。
(3)たい肥化施設の設計が適切に行われておらず、汚水が地下に浸透するおそれがあるもの

2県 2事業主体 たい肥化施設3件 事業費 3885万余円
      国庫補助金 1594万余円

<事例>
 E公社では、平成15年度に、家畜排せつ物の水分調整を行うことを目的として、たい肥舎1棟(面積630m )を事業費1916万円(国庫補助金766万余円)で整備している。このたい肥舎は、床の上に厚さ15cm程度たい積させた家畜排せつ物を、攪拌装置を使用することにより発酵・乾燥させるものである。そして、この床の設計に当たっては、家畜排せつ物がたい積する部分(面積279.5m )にポリエチレンフィルム(シート幅2m、厚さ0.15mm)を布設し、その上に土(厚さ10cm)を敷き均すこととしていた。
 しかし、たい肥化施設の床は汚水が地下浸透しないようにする必要があるのに、ポリエチレンフィルムを重ね合わせただけの設計となっていて、その部分の不浸透性が確保されておらず、汚水が地下に浸透するおそれのある状況となっていた。
 以上のような事態は、家畜排せつ物のリサイクルシステムを構築することにより、畜産経営に起因する環境汚染の防止等を図るという本件補助事業の趣旨に照らして事業効果が十分発現されているとは認められず、改善を図る要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(ア)施設運営主体において、たい肥化施設の整備目的を十分に認識していなかったこと
(イ)事業主体において、たい肥化施設の利用状況を十分把握していなかったり、事業計画作成時の調整を十分に行っていなかったり、たい肥化施設を設計する際に、補助事業の趣旨に対する理解が十分でなかったりしていたこと
(ウ)道県において、農業公社等の事業主体が整備したたい肥化施設の利用状況の把握及び事業計画作成時の調整が行われているかの確認が十分でなかったこと
(エ)農林水産省において、道県及び事業主体に対し、たい肥化施設の効果発現に対する指導が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記に対する本院の指摘に基づき、農林水産省では、16年9月、各地方農政局等に対して通知を発し、前記110件の是正処置を図るとともに、事業の効果を十分発現させるため都道府県に対して事業主体への周知を含めた次のような指導等を行わせ、その結果について地方農政局等に報告させるよう処置を講じた。
(ア)畜産公共事業で設置したたい肥化施設の施設運営主体に対して、補助事業の目的や管理適正化法等の目的についての周知徹底を図るなどして指導体制の強化を図ること
(イ)たい肥化施設の現地調査を実施し、利用状況を把握するとともに事業計画作成時の調整の経緯を的確に把握すること
(ウ)現地調査の結果、適切な管理運営がなされていないたい肥化施設について、施設ごとに施設運営主体に対して適切な管理運営に向けた指導を行うとともに、その是正措置状況を報告すること
(エ)事業計画に対する利用率が著しく低いたい肥化施設について、具体的な改善計画を作成し、その達成に向けた指導を施設運営主体に対して行うとともに、改善計画が達成されるまでの間、その状況を報告すること

(注1) 北海道ほか15県 北海道、岩手、宮城、秋田、茨城、栃木、千葉、富山、山梨、愛知、島根、広島、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注2) 北海道ほか12県 北海道、岩手、宮城、秋田、栃木、千葉、富山、山梨、島根、広島、宮崎、鹿児島、沖縄各県