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  • 平成15年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

自動車損害賠償保障事業に係る定期分納者の債権管理に当たり、弁済状況の把握や督促等を適時適切に行い、債権の回収に努めるよう改善させたもの


(1)自動車損害賠償保障事業に係る定期分納者の債権管理に当たり、弁済状況の把握や督促等を適時適切に行い、債権の回収に努めるよう改善させたもの

会計名及び科目 自動車損害賠償保障事業特別会計 (項)保障費
部局等の名称 国土交通本省(平成13年1月5日以前は運輸本省)
事業名 自動車損害賠償保障事業
事業の概要 無保険車等の事故により、自動車損害賠償責任保険等による救済を受けられない被害者の保護を図るため、その被害者に対して保障金を支払うもの
保障事業に基づき代位取得し、管理している債権 9,897件  782億9369万余円 (平成16年6月末現在)
上記のうち弁済が滞っている定期分納者に係る債権 3,508件 372億1380万円  

1 事業の概要

(自動車損害賠償保障事業)

 国土交通省(平成13年1月5日以前は運輸省)では、自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号。以下「自賠法」という。)に基づき、自動車の運行によって生命又は身体を害された者の損害賠償を保障するため、運行する自動車に対して自動車損害賠償責任保険又は自動車損害賠償責任共済(以下、これらを「責任保険」という。)の契約を義務づけ、自動車の保有者及び運転者の賠償能力を確保することとしている。
 しかし、責任保険では、保有者が明らかでない自動車による事故のほかに、責任保険契約が締結されていない自動車による事故又は責任保険が締結されている自動車であっても盗難車等で被保険者の責任が発生しない事故(以下、これらの事故を「無保険車等事故」という。)の場合には、被害者は救済を受けられないこととなっている。
 このため、同省では、被害者救済の立場から自動車損害賠償保障事業(以下「保障事業」という。)を実施しており、被害者の請求に基づき、その受けた損害のうち、一定の限度額までの保障金を支払っている。
 そして、同省では、保障事業により無保険車等事故に係る被害者に保障金を支払ったときには、車両を運行して損害を与えた加害者及びこの者と不真正連帯債務の関係にある者(注) (以下、これらの者を「加害者等」という。)に対して被害者が有する請求権を代位取得し、取得した損害賠償金債権等を加害者等である債務者から回収することとしている。
 13年度から15年度までの間の無保険車等事故に係る保障金の支払件数及び金額は2,020件、64億0464万余円となっており、債務者からの回収額は12億9900万余円となっている。

不真正連帯債務の関係にある者 加害車両の所有者等で、同一の事故に関連して、善良な管理者の注意義務を怠ったなどのため、被害者に対して加害者と同等の賠償責任を負う者

(無保険車等事故に係る債権管理)

 国土交通省では、保障事業における無保険車等事故に係る債権については、「国の債権の管理等に関する法律」(昭和31年法律第114号。以下「債権管理法」という。)、「自動車損害賠償保障法の政府保障事業に係る債権の回収事務について」(昭和47年自保第248号運輸省自動車局長通達。以下「通達」という。)等に基づいて管理しており、債務者に対し、納入告知日を履行期限と定めて債務を一括して弁済させるとともに、この履行期限を超えても債務を弁済しない債務者に対しては、債務の弁済がすべて完了するまで延滞金を徴収することとしている。
 しかし、同省では、一括弁済が困難な債務者に対しては、次の〔1〕又は〔2〕により、いずれも、当初の履行期限を延長して、月払い等の定期的な分納(以下「定期分納」という。)を認めている。
〔1〕 債務者が無資力又はこれに近い状態にある場合は、債権管理法による履行延期の特約(以下「特約承認」という。)
〔2〕 〔1〕 以外の債務者で、資力、収入等からみて債権を短期間に回収することが困難であると認められる場合等は、民事訴訟法(平成8年法律第109号)による訴え提起前の和解(以下「即決和解」という。)
 また、一括弁済又は定期分納のいずれにも応ぜず、弁済が滞っている債務者に対しては訴訟を提起するなどして、強制執行を行うこととしている。
 以上の「無保険者等事故の保障事業に係る債権管理」について図示すれば、次のとおりである。

(図1)無保険者等事故の保障事業に係る債権管理

(図1)無保険者等事故の保障事業に係る債権管理

(和解調書等の条件)

 国土交通省では、特約承認又は即決和解を行うに当たっては、債務者との間であらかじめ履行条件等について合意を得るよう折衝した後、特約承認については、同省本省(以下「本省」という。)において承認を行い、履行条件等を定めた承認書を作成している。また、即決和解については、法務局を通じて簡易裁判所へ和解の申立てを行い、裁判所では、合意した履行条件等を定めた和解調書を作成しているが、この和解調書は確定判決と同一の効力を有するものとなっている。
 そして、同省では、特約承認の承認書及び和解調書(以下「和解調書等」という。)において、次の条件を附している。
〔1〕 特約承認日又は即決和解日から5年以内に限って履行期限を延長すること
〔2〕 和解調書等で延長した履行期限内は、通常の延滞金に代えて延納利息を徴収するが、この延納利息は履行期限内に弁済を滞りなく完了したときには免除すること
〔3〕 弁済を怠りその遅滞額が毎期の分納額の2回分に達したときには、定期分納を認めないこと

(債権の消滅時効)

 無保険車等事故に係る債権は、不法行為による損害賠償請求権であるため、その消滅時効は3年とされているが、確定判決又は即決和解によって債務が確定した場合には、消滅時効は10年とされている。また、債務の一部弁済や特約承認等の債務の承認行為等は、時効の中断事由とされており、当該行為が時効完成の起算日となる。
 このため、定期分納者のうち、特約承認者については、特約承認日又は債務の弁済日等から3年後が時効完成日となり、即決和解者については、即決和解日又は債務の弁済日等から10年後が時効完成日となる。
 以上の「定期分納者に係る債権の消滅時効及び履行期限」について図示すれば、次のとおりである。

(図2)定期分納者に係る債権の消滅時効及び履行期限

(図2)定期分納者に係る債権の消滅時効及び履行期限

(地方運輸局等による折衝)

 本省では、再三にわたる督促にもかかわらず、債務の履行等が全くなされずに時効完成日の到来まで1年程度と切迫している債権のうち、地方運輸局及び沖縄総合事務局(以下「運輸局等」という。)に、電話、面接等による債務者との折衝を行わせる必要があると認めたものについては、毎年度末に、当該債務者との折衝を指示する債務者リストを作成して運輸局等へ送付している。

(自賠債権の件数及び債権額)

 無保険車等事故に係る債権については、損害賠償金債権等のほか延滞金及び延納利息に係る債権(以下、これらを合わせて「自賠債権」という。)があり、国土交通省が16年6月末において管理している自賠債権の件数及び金額(いずれも不真正連帯債務者に係るものを含む。)は、9,897件、782億9369万余円となっている。このうち、定期分納者に係る件数及び金額は、4,865件(全体の49.1%)、584億7255万余円(同74.6%)となっている。

(定期分納者の弁済状況)

 上記の定期分納者に係る自賠債権4,865件のうち、和解調書等どおりに弁済がなされているものは1,357件、212億5874万余円(特約承認者96件、6億4066万余円及び即決和解者1,261件、206億1807万余円)に過ぎず、残り3,508件、372億1380万余円については弁済が滞っており、このうち1,840件、164億8225万余円は5年以上弁済が滞っている。
 そして、上記3,508件のうち、即決和解等から1回も弁済されていないものは473件、42億2272万余円で、大半の債務者は当初弁済していたものの、その後弁済が滞ったままとなっている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 無保険車等事故に係る自賠債権は、本来契約が義務づけられている責任保険を締結していない不法行為者等に係る債権であることもあり、その債権の回収は非常に低調なものとなっている。しかし、保障事業の健全な運営のためには、債権額のうち74.6%を占める定期分納者に係る自賠債権を適切に弁済させることが重要である。そして、これらの定期分納者については、当初は和解調書等に基づく弁済を行っていたものの、その後、滞ったままとなっている者が多いことなどから、定期分納者に係る債権の管理が適切に実施されているかに着眼して検査した。

(検査の対象)

 国土交通省において管理している定期分納者に係る自賠債権のうち、16年6月末現在で弁済が滞っている債権3,508件、372億1380万余円(特約承認者161件、8億1879万余円及び即決和解者3,347件、363億9501万余円)を検査の対象とした。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(ア)債務者の弁済状況の把握について

 本省では、定期分納者が弁済を行うと、翌月初旬に領収済通知書と歳入金を突合することによって弁済状況を把握できることから、これに基づき、毎月、納入者リストを作成している。
 しかし、このリストには前月に弁済した債務者しか記載していないため、弁済しなかった債務者については把握していないなど、和解調書等で延長した履行期限全体にわたる弁済状況を適時適切に把握していなかった。

(イ)弁済が滞っている債務者の状況把握について

 定期分納者のうち、和解調書等で延長した履行期限を経過しても履行されない自賠債権は、16年6月末において2,881件、291億7171万余円となっている。
 定期分納者は、本来一括弁済すべき債務について債務者が無資力であることなどにより、5年以内に限って履行期限を延長したものである。このため、弁済が滞っている債務者については、遅くとも和解調書等で延長した履行期限が到来する前までには、債務者の所在確認や資力の調査等を行い、弁済の条件等について検討すべきであったのに、本省では、特段の事情がない限り、時効完成が近づき、運輸局等に折衝を指示するまでは、その調査等を十分に行わせておらず、和解調書等で延長した履行期限を考慮した債権管理を行っていなかった。

(ウ)折衝を指示する時期について

 本省が運輸局等に対して債務者との折衝を指示した自賠債権は、13年度から15年度では596件(各年度の重複を除いた純計)となっているが、このうち消滅時効が10年の即決和解者557件についてみると、弁済等による時効中断から折衝を指示するまでの期間は、3年以内が1.0%に過ぎないのに対し、7年以上が70.5%に上っており、弁済等が滞ってから個別の折衝を行わせるまでに長期間を経過している状況となっていた。これは、通達において、即決和解者については時効中断から10年後の時効完成が切迫した自賠債権を対象として折衝を指示することとしていたためであると認められた。
 また、上記596件のうち、債務者との折衝により債務の一部が弁済された自賠債権は146件となっているが、消滅時効が3年と短い特約承認者のうち、弁済等が滞ってから1年以内に折衝を指示した者についてみると、折衝件数に対する弁済件数の割合は82.3%と非常に高くなっており、消滅時効が10年の即決和解者に対しても、より早い時期に個別の折衝を行っていれば、より多くの弁済が可能であったと認められた。

(エ)和解調書等に基づく管理について

 定期分納者が弁済を怠り、その遅滞額が毎期の分納額の2回分以上に達している自賠債権は、16年6月末において3,377件、354億7678万余円となっている。
 定期分納者に対する和解調書等においては、前記のとおり、遅滞額が2回分に達した場合には定期分納を認めないと定めているが、一括弁済を行う前には債務者の弁済の意思を確認するため、遅滞後速やかに履行を求める督促を行う必要があると認められた。
 しかし、本省においては、弁済が滞った債務者に対する督促状の送付を毎年度1回としており、16年1月に督促状を送付した対象者は14年7月から15年6月までに遅滞額が2回分に達した債務者となっていた。このため、2回分に達した時期から最長で1年6箇月を経過しないと督促状を送付しておらず、督促後も滞っている者に対して和解調書等に基づく一括弁済を求めていなかった。

(管理が不適切となっている債権)

 定期分納者に係る自賠債権については、当該債務者が無資力である場合もあり、その債権回収には困難な面があるが、国土交通省が管理している16年6月末の自賠債権のうち、弁済が滞っている定期分納者に係る自賠債権3,508件、372億1380万余円については、債務者の弁済状況等を適時適切に把握していなかったり、弁済が滞った期間等を考慮して督促等を行っていなかったりなど、その管理が適切でないと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、国土交通省において、次のようなことなどによると認められた。
(ア)定期分納者の弁済状況を適時適切に把握したり、遅くとも和解調書等で延長した履行期限が到来する前までに、弁済が滞っている債務者の資力等の状況を把握したりできる体制となっていなかったこと
(イ)運輸局等に折衝を指示する際に、時効完成が切迫している債務者をその対象としていて、弁済が滞った期間等を考慮していなかったこと
(ウ)遅滞額が2回分に達した債務者に対して、速やかに督促等を行っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省では、16年9月に、定期分納者に対する債権管理方針を定め、弁済状況を適時適切に把握したり、弁済が滞った期間等を考慮して督促等を行ったりするなど体制の整備を行うとともに、同月に、運輸局等へ通達を発するなどして、その内容の周知・徹底を図るなどし、債権の回収に努める処置を講じた。