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第4 橋りょうの耐震化対策の実施状況について


第4 橋りょうの耐震化対策の実施状況について

検査対象 国土交通省(平成13年1月5日以前は建設省)
会計名及び科目 道路整備特別会計 (項)道路事業費
    (項)北海道道路事業費
    (項)離島道路事業費
    (項)沖縄道路事業費
    (項)地方道路整備臨時交付金
部局等の名称 国土交通本省(平成13年1月5日以前は建設本省)
国土交通省東北地方整備局(平成13年1月5日以前は建設省東北地方建設局)ほか7地方整備局
国土交通省北海道開発局(平成13年1月5日以前は総理府北海道開発庁)
内閣府沖縄総合事務局(平成13年1月5日以前は総理府沖縄開発庁)
北海道ほか46都府県
札幌市ほか11政令指定都市
対策の概要 道路事業の一環として、地震時に災害対策の円滑な実施を図るための救助活動及び避難者への緊急物資の供給等に必要な輸送等の安全を確保するため、既設の橋りょうの耐震性を向上させる耐震補強工事等を実施するもの
検査した橋りょうに係る耐震補強工事費   3040億円(平成7年度〜15年度)
直轄事業 1683億円
国庫補助事業 1357億円(国庫補助金相当額651億円)

1 橋りょうの耐震化対策の概要

(道路事業の仕組み)

 国土交通省では、道路法(昭和27年法律第180号)、道路整備緊急措置法(昭和33年法律第34号。平成15年4月以降は道路整備費の財源等の特例に関する法律。)、道路の修繕に関する法律(昭和23年法律第282号)等に基づいて、直轄事業と国庫補助事業として道路事業を実施している。このほか、道路事業には、地方費のみによって実施されている地方単独事業がある。
 そして、道路の種類及びその道路管理者は、道路法等に規定されており、政令で指定する区間(以下「指定区間」という。)内の一般国道については国土交通大臣、指定区間外の一般国道及び都道府県道については都道府県又は政令指定都市、市町村道については市町村が当該道路の道路管理者とされている。

(地震防災対策の取組)

 国の災害対策は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)に基づき内閣総理大臣を会長に内閣府に設置された中央防災会議が作成する防災基本計画を基礎として行われており、同計画に基づいて国土交通省は防災業務計画を、都道府県及び市町村は地域防災計画をそれぞれ策定している。そして、災対法によると、国の行政機関は、その責務として、都道府県及び市町村の地域防災計画の作成及び実施が円滑に行われるように、その所掌事務について、当該都道府県又は市町村に対し、勧告し、指導し、助言し、その他適切な措置をとらなければならないとされている。
 また、国は、地震防災対策を推進するため、東海地震を想定した大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)、阪神・淡路大震災を契機とした地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号。以下「特措法」という。)等を制定している。さらに、近年の地震防災に対する国民の関心の高まりから、これらの法律に加えて、静岡県から高知県までの地域を想定した「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(平成14年法律第92号)を制定するなどして地震防災対策に関する計画の策定、推進を図っているところである。

(防災基本計画に基づく耐震化対策の枠組み)

ア 国土交通省防災業務計画

 国土交通省では、災対法に基づき国土交通省防災業務計画(以下「防災業務計画」という。)を策定しており、道路等の地震防災対策について次のような措置を講ずるなどとしている。

〔1〕 道路等の地震防災対策を地方公共団体と連携しつつ計画的かつ総合的に推進する。

〔2〕 特措法に基づき都道府県知事が作成した地震防災緊急事業五箇年計画に盛り込まれた同省の所管事業については、その進ちょく状況を把握し、勧告等必要な措置を講ずるものとする。

〔3〕 地震に対する安全性を確保するため計画的に点検を実施し、点検結果に基づき、橋りょう等の耐震化対策を講ずる。特に、地震時に重要となる緊急輸送を確保するため必要な高速自動車国道、一般国道及びこれらを連絡する幹線的な道路並びにこれらの道路と地方公共団体の庁舎の所在地や救援物資等の備蓄・集積地点、避難地等とを連絡し、又はこれらの地点を相互に連絡する道路(以下「緊急輸送道路」という。)については、緊急輸送道路ネットワーク計画に基づき、関係機関と連携を図りつつ、震災時に必要な輸送機能を確保できるよう重点的かつ計画的に耐震化対策を推進する。

イ 都道府県地域防災計画

 都道府県では、災対法に基づき都道府県地域防災計画(以下「地域防災計画」という。)を策定している。この計画は、当該都道府県の地域に係る防災計画の基本となるものとされている。
 そして、地域防災計画では、道路の耐震化や緊急輸送道路ネットワーク計画に基づく緊急輸送道路の整備等を内容とした地震防災対策について定めており、橋りょうの耐震化はこれを基礎として実施されている。

(緊急輸送道路ネットワーク計画の策定)

 国土交通省では、8年5月に緊急輸送道路ネットワーク計画を策定するための通知を発している。このネットワーク計画の策定に当たっては、対象地域は各都道府県の単位で、地方整備局、都道府県等の道路管理者及び都道府県等の防災担当部局等からなる協議会を都道府県ごとに結成し、同協議会が策定主体となることとされている。
 緊急輸送道路ネットワーク計画においては、都道府県庁所在地、重要港湾、空港等を連絡する道路を第1次緊急輸送道路、第1次緊急輸送道路と市区町村役場等を連絡する道路を第2次緊急輸送道路、その他の緊急輸送道路を第3次緊急輸送道路と区分している(参考図1参照) 。そして、このネットワーク計画は、前記のとおり、防災業務計画や地域防災計画の基礎となっているものである。

(橋りょうの管理)

 道路管理者は、道路法により、交通の安全と円滑を図るため、道路を常時良好な状態に保つように維持、修繕することとされており、重要な道路施設である橋りょうについては、鋼橋の塗装や上下部構造の小破損の修理等の維持工事や橋りょうの機能回復、機能向上を図る修繕工事が行われている。橋りょうの耐震補強のための工事(以下「耐震補強工事」という。)は修繕工事と位置付けられている。
 そして、橋りょうについては、その維持、修繕に資するため、次のような管理が行われている。

ア 橋りょう台帳の整備

 道路管理者は、道路法により道路台帳を調製し保管することとされており、道路台帳には、橋りょうの幅員、建設年次等を記載する橋調書等の様式が定められている。また、同様式に定められている内容に加え、当該橋りょうの建設に際して適用されている「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)の年次や補修工事の内容等を記載した橋りょう台帳を橋調書とは別に整備するなどしており、これにより、今後の計画的な耐震補強に資することができるものである。橋りょう台帳に適用された示方書の年次を記載するのは、橋りょうの耐震設計は、被災経験と技術的な進展に伴い順次改良、整備されており、橋りょうの被害形態と被害を受けた橋りょうの構造条件及び適用示方書には強い相関関係があるとされていることなどによるからである。

イ 橋りょうの点検

 橋りょうの点検は、道路維持管理業務の一環として、管理する橋りょうの現況を把握し、異常及び損傷を早期に発見することにより安全、円滑な交通を確保するとともに、橋りょうの維持管理のための資料を得るために実施するものであり、損傷の早期発見のためパトロールカー内部からの目視を主体に行う通常点検、橋りょうの損傷状況を把握し健全度の判定を行うため定期的に詳細に実施する定期点検等の種類がある。
 そして、定期点検については、国土交通省において、管理橋りょうの増加、老朽化の進行等に伴う橋りょうの維持管理の重要性の高まりなどから、地方整備局等ごとに点検要領を個別に定めて実施していたものを、定期点検の頻度を原則として5年に1回とするなどの橋りょう定期点検要領を16年3月に定めている。
 上記の点検のほか、国土交通省では、大規模な地震等を契機として、昭和46年度以降、平成9年度まで6度にわたり、橋りょう等を対象とした全国的な点検(以下「震災点検」という。)を実施している。
 このうち、8、9両年度に実施した震災点検では、阪神・淡路大震災を教訓として、道路防災上重要と考えられる、橋長15m以上の橋りょうすべてと、15m未満であってもこ線橋、こ道橋及び複数径間を有する橋りょう(橋脚のある橋りょう)のすべてを対象に、橋脚等の現況の把握、適用示方書等について調査を実施している。

(耐震補強工事の内容等)

ア 耐震設計基準の推移と阪神・淡路大震災の被災状況

 橋りょうの耐震設計基準は前記のとおり逐次見直しが行われており、昭和46年には道路橋耐震設計指針が制定され、初めて落橋防止構造の規定が盛り込まれた。同指針は55年の示方書制定時に「道路橋示方書耐震設計編」として改訂され、橋脚について、軸方向鉄筋を計算上不要となる位置から一定以上の長さを延ばすなどの規定が盛り込まれた。
 この後、平成7年に発生した阪神・淡路大震災においては、表1のとおり、昭和55年の示方書より古い耐震設計に係る基準(以下「旧基準」という。)が適用されている橋りょうの被災度合いが高いものとなっていた。

表1 阪神・淡路大震災における橋脚の被災状況
(単位:基)

区分
適用示方書
橋脚の損傷度 合計
A B C D E
旧基準 昭和39年以前 82 166 152 744 1,612 2,756
昭和46年設計指針 1 1 29 108 151 290
昭和55年以降の示方書 0 0 14 43 293 350
計(橋脚数) 83 167 195 895 2,056 3,396
注(1)  A:橋脚が倒壊したもの、損傷変形が著しく大きなもの
 B:鉄筋の破断等の損傷、または変形が大きなもの
 C:鉄筋の一部破断やはらみだし及びコンクリートの亀裂等が見られるもの
 D:ひび割れの発生や局部的なコンクリートの剥離が見られるもの
 E:損傷がないか、あっても極めて軽微なもの
注(2)  兵庫県南部地震道路橋震災対策委員会の「兵庫県南部地震における道路橋の被災に関する調査報告書(平成7年12月)」に基づき作成した。被災の大きかった神戸市等の区域にある一般国道等の路線が対象となっている。

 そして、阪神・淡路大震災を契機として平成8年11月に示方書を改訂し、橋脚については、軸方向鉄筋を一定以上の長さを延ばすこととしていたものを更に橋脚の上部まで延ばすこととし、また、桁かかり長の確保、落橋防止構造等が補完しあって、全体として落橋を防止するシステム(以下「落橋防止システム」という。)を構築することとした(後記イ(イ) 及び参考図2参照 )。

イ 橋脚の補強及び落橋防止構造等の設置

 橋りょうの耐震補強工事には、橋脚の補強等の橋りょう各部の耐震性能向上による方法や落橋防止構造等の設置等による落橋防止システムの構築等がある。

(ア)橋脚

 阪神・淡路大震災で被害の大きかった鉄筋コンクリート橋脚の耐震補強工事には、既設橋脚に鉄筋コンクリートを巻き立てる工法や、断面の増加が少ない鋼板を巻き立てる工法等がある。

(イ)落橋防止構造等

 落橋防止構造は、地震時に上下部構造間に大きな相対変位が生じたとき、桁が橋台又は橋脚から落下するのを防止するため、桁と桁をPC鋼材等で連結するもの、上部構造や下部構造に鋼製ブラケット等の突起を設ける構造のものなどがある。
 また、落橋防止構造が破壊した場合でも上部構造の落下という最悪の事態を防ぐために十分な桁かかり長を確保することが重要とされている。既設橋りょうの桁かかり長を確保する方法には、鉄筋コンクリートや鋼製ブラケットにより下部構造の頂部を拡幅する方法等がある(参考図2参照)

ウ こ線橋等の耐震補強工事の進め方

 こ線橋、こ道橋及び複断面区間を有する橋りょう(下に並行して道路がある高架橋)(以下、これらを「こ線橋等」という。)の耐震補強工事に当たっては、道路法に基づくなどして、鉄道事業者等との間で、設計、施工方法、工事実施時期、工事の実施主体、費用負担等について事前に協議して実施することになる。そして、協議の結果、耐震補強工事を鉄道事業者等に委託することとなった場合には、道路管理者と鉄道事業者等との間で耐震補強工事の実施のための協定又は委託契約が締結され、委託工事として実施される。

(耐震補強の優先度と取組)

ア 耐震補強の優先度

 緊急輸送道路ネットワーク計画の策定に当たっては、個々の道路施設の耐震性を向上させるだけではなく、ネットワークとしての耐震性の向上を図ることとしている。そして、既設橋りょうの耐震性を一度に向上させることは困難であることから、橋りょうの耐震性や道路の重要性から優先度を決定し、効率的に実施していくことが重要とされている。

イ 耐震補強の取組

 国土交通省では、阪神・淡路大震災で旧基準が適用されている単柱橋脚の橋りょうの被災度合いが高かったことなどから、「緊急度の高い橋りょう(複断面区間の橋りょうやこ線橋、こ道橋等)のうち昭和55年の道路橋示方書より古い耐震設計に係る基準を適用した鉄筋コンクリート製の単柱橋脚及び落橋防止装置の補強を優先的に実施する」などとした事務連絡を平成7年5月に地方整備局、都道府県等に発している。
 そして、直轄事業、都道府県等事業では、上記事務連絡の考え方を基本に、7年度から9年度にかけて重点的に震災対策緊急橋りょう補強事業として橋りょうの耐震補強が推進されたところである。

2 検査の結果

(検査の背景及び着眼点)

 7年1月に発生した阪神・淡路大震災では、それまでの想定を超える強い地震動により橋りょう等の道路施設にも大きな被害をもたらした。これにより、大規模地震に備えた、橋りょう等の個々の道路施設だけではなく、道路のネットワークとしての耐震性の確保等の対策を推進することが必要とされた。
 そして、国は、従前から防災に関する計画の策定、道路施設の耐震設計基準の改訂、防災に関する特別立法等を行ってきており、阪神・淡路大震災を契機として更に、緊急輸送道路ネットワーク計画を策定して地震時においても道路がネットワークとして機能するよう図ったり、示方書を改訂して耐震設計基準の見直しを行ったりするなど様々な施策を講じて、国内各地域の大規模地震の切迫性を考慮しつつ地震防災対策を推進しているところであり、また、地震防災対策の実施状況に対する国民の関心は近年急速に高まっている。
 また、本院では、平成6年度決算検査報告において「阪神・淡路大震災を契機とした公共土木施設の検査について」を特定検査対象に関する検査状況として掲記しており、所見において、今後、既存施設の耐震化を計画的に実施することが重要であるとしたところである。
 そこで、阪神・淡路大震災以降進められている橋りょうの耐震化対策が、緊急輸送道路のネットワークとしての耐震性を図るものとなっているかに着眼して、次のような点などについて検査した。

(ア)橋りょうの耐震性と社会経済上の重要性から、緊急輸送道路内の阪神・淡路大震災で被災度合いが高かった旧基準が適用されている単柱橋脚のこ線橋、こ道橋、複断面区間を有する橋りょう(以下、これらを「緊急度の高いこ線橋等」という。)及び緊急輸送道路内の旧基準が適用されている橋長15m以上の単柱橋脚の河川橋(以下、これらを「緊急度の高い河川橋」という。)の耐震補強工事の実施状況は、どのようになっているか。

(イ)厳しい財政状況の下、管理橋りょう数が増加するなどしている中で、耐震補強工事費及び維持修繕関係事業費等は、どのように推移しているか。

(ウ)橋りょう台帳の整備等橋りょうの管理は、計画的な耐震補強の実施に資するものとなっているか。

(エ)推進体制について、橋りょうの耐震化についての具体的な中長期計画等が策定され計画的に推進されているか、緊急輸送道路ネットワーク計画策定時に組織された協議会は同計画の見直しや道路管理者間の連携に十分活用されているか、こ線橋等の耐震補強工事の実施に当たって鉄道事業者等との調整等は十分に図られているか。

(検査の対象)

 15、16両年に、東北地方整備局ほか7地方整備局(注1) 、北海道開発局及び内閣府沖縄総合事務局(以下、これらを合わせて「地方整備局等」という。)管内の青森河川国道事務所ほか56国道事務所等(注2) (以下「事務所」という。)並びに北海道ほか58都府県等(注3) が管理している橋りょうを対象に検査を実施した。これらのうち、15年は28事務所(注4) 及び32都道府県等(注5) における、7年度から14年度までの耐震補強工事費1648億余円(直轄事業843億余円、国庫補助事業805億余円(国庫補助金相当額361億余円))、16年は31事務所(注6) 及び29道県等(注7) における、7年度から15年度までの耐震補強工事費1556億余円(直轄事業992億余円、国庫補助事業564億余円(国庫補助金相当額300億余円))を対象に検査を実施した。
 また、都道府県等の検査に当たっては、地方単独事業に係る分も併せて調査した。

(検査の結果)

(1)耐震化対策の実施状況

 検査を実施した事務所、都道府県等の管理橋りょう数等及び耐震化対策の実施状況等は次のとおりとなっている。
 15、16両年に検査した57事務所が管理する橋りょうは15,752橋である。このうち、緊急輸送道路内の旧基準が適用されているこ線橋等は、緊急度の高いこ線橋等(単柱橋脚)369橋、単柱橋脚以外のこ線橋等1,501橋、計1,870橋、同じく河川橋(橋長15m以上)は、緊急度の高い河川橋(単柱橋脚)701橋、単柱橋脚以外の河川橋3,356橋、計4,057橋となっている(表2参照)
 また、15、16両年に検査した59都道府県等が管理する橋りょうは145,027橋である。このうち、緊急輸送道路内の旧基準が適用されているこ線橋等は、緊急度の高いこ線橋等(単柱橋脚)574橋、単柱橋脚以外のこ線橋等1,626橋、計2,200橋、同じく河川橋(橋長15m以上)は、緊急度の高い河川橋(単柱橋脚)2,433橋、単柱橋脚以外の河川橋8,555橋、計10,988橋となっている(表2参照)

表2 事務所、都道府県等の管理橋りょう
(単位:橋)

  
区分 管理
橋りょう数
左のうち緊急輸送道路内の旧基準が適用されている橋りょう数
a=b+e こ線橋等 河川橋(橋長15m以上)
b=c+d 緊急度の高
いこ線橋等
(単柱橋脚)
c
単柱橋脚以
外のこ線橋
d
e=f+g 緊急度の高
い河川橋
(単柱橋脚)
f
単柱橋脚以
外の河川橋
g
事務所 15,752 5,927 1,870 369 1,501 4,057 701 3,356
都道府県等 145,027 13,188 2,200 574 1,626 10,988 2,433 8,555
注(1)  事務所については、本文(検査の対象)の(注2) の57事務所を対象に集計した。
注(2)  都道府県等については、本文(検査の対象)の(注3) の59都道府県等を対象に集計した。

 そして、これらについて、橋脚補強や落橋防止構造等の設置がともに完了した橋りょう数(以下「完了橋りょう数」という。)及び耐震補強工事を着工しているものの橋脚補強、落橋防止構造等の設置が完了していない橋りょう数(以下「着工橋りょう数」という。)並びに両者を合わせた橋りょう数(以下「完了・着工橋りょう数」という。)等について調査したところ、次のような状況となっていた。

ア こ線橋等の実施状況

 こ線橋等のうち、緊急度の高いこ線橋等の耐震補強工事の実施状況は、次のとおりとなっていた。

(ア)直轄事業

 緊急度の高いこ線橋等369橋のうち、完了橋りょう数は143橋であり、その割合は38.8%となっている。また、完了・着工橋りょう数は303橋、未着工となっている橋りょう数は66橋となっており、緊急度の高いこ線橋等に対する完了・着工橋りょう数の割合(以下「完了・着工率」という。)は82.1%となっている。

表3 事務所の緊急度の高いこ線橋等の実施状況
(単位:橋)

完了
橋りょう数
着工
橋りょう数
b
完了・着工橋りょう数 未着工
橋りょう数
d

e=c+d
a a/e c=a+b c/e
143 38.8% 160 303 82.1% 66 369

(イ)都道府県等事業

 緊急度の高いこ線橋等574橋のうち、完了橋りょう数は218橋であり、その割合は38.0%となっている。また、完了・着工橋りょう数は348橋、未着工橋りょう数は226橋で完了・着工率は60.6%となっている。

表4 都道府県等の緊急度の高いこ線橋等の実施状況
(単位:橋)

完了
橋りょう数
着工
橋りょう数
b
完了・着工
橋りょう数
未着工
橋りょう数
b

e=c+d
a a/e c=a+b c/e
218 38.0% 130 348 60.6% 226 574

(ウ)耐震補強工事の着工時期

 上記の完了・着工橋りょう数を着工時期別に区分したところ、表5のとおり、事務所の完了・着工橋りょう数303橋のうち7年度から9年度に着工したのは224橋、完了・着工橋りょう数に占める割合は73.9%であり、10年度以降に着工したのは79橋となっている。また、都道府県等の完了・着工橋りょう数348橋のうち7年度から9年度に着工したのは239橋、完了・着工橋りょう数に占める割合は68.7%であり、10年度以降に着工したのは109橋となっている。事務所、都道府県等いずれの場合も7年度から9年度に着工した割合が10年度以降より高くなっていた。これは、事務所、都道府県等において、前記事務連絡を基本として緊急度の高いこ線橋等の耐震補強を推進することとし、7年度から9年度にかけて緊急的に取り組んだためと思料される。

表5 緊急度の高いこ線橋等の着工時期
(単位:橋)

区分 7年度〜9年度の
完了・着工橋りょう数
10年度以降の
完了・着工橋りょう数
完了・着工
橋りょう数
c=a+b
a a/c b b/c
事務所 224 73.9% 79 26.1% 303
都道府県等 239 68.7% 109 31.3% 348

 以上のように、事務所、都道府県等ともに、事業の実施に当たっては、おおむね旧基準による橋りょうであるか、こ線橋、こ道橋であるかなどの橋りょうの耐震性と重要性により耐震補強工事を実施する橋りょうを選定していたと認められる。その結果、緊急度の高いこ線橋等の完了・着工率は事務所で80%、都道府県等で60%を超える状況となっていた。しかし、完了・着工橋りょう数のうち完了橋りょう数を除いた事務所の160橋と都道府県等の130橋については、未着工となっている66橋及び226橋と併せて引き続き積極的な耐震補強の実施が望まれる。
 なお、緊急輸送道路内の旧基準が適用されているすべてのこ線橋等の実施状況についてみると、表6のとおり、事務所、都道府県等における1,870橋、2,200橋のうち、事務所の1,060橋、都道府県等の1,168橋は未着工となっており、地震時に比較的変位が少ないと考えられる単径間の橋りょうを含んでいるものの、緊急輸送道路ネットワークに耐震化の効果が早期に現れるように、必要な耐震補強を計画的、効果的に実施することが重要である。

表6 こ線橋等の橋脚形式別実施状況
(単位:橋)

区分 完了・着工
橋りょう数
未着工
橋りょう数
事務所 810 1,060 1,870
  単柱橋脚 303 66 369
壁式橋脚等 294 146 440
単径間 213 848 1,061
都道府県等 1,032 1,168 2,200
  単柱橋脚 348 226 574
壁式橋脚等 363 263 626
単径間 321 679 1,000
注(1)  壁式橋脚等は、単柱橋脚以外の橋脚形式の橋りょうである。
注(2)  単径間は橋脚のない橋りょうである。

(エ)こ線橋等の取組の状況

 こ線橋等の耐震補強工事の実施に当たっては、鉄道事業者等との間で詳細な協議が必要となり、道路管理者が計画してから完成までに相当の期間を要することがある。これらの中には、例えば、7年度以降、耐震補強工事に取り組んでいる橋長が約1,000mで一般の高架部分と鉄道と交差する部分(以下「こ線部」という。)を併せ持つこ線橋において、工法、工事時間等に制約が多く、その結果、13年度に、こ線部以外の高架部分の橋脚補強や落橋防止構造等の設置が終わったものの、こ線部の落橋防止構造等の設置ができず耐震補強工事が完了していない事例も見受けられた。したがって、鉄道事業者等との間で可能な限り早期の段階で協議、調整を行い、より計画的に対応することが重要である。

イ 河川橋の実施状況

 河川橋のうち、緊急度の高い河川橋の耐震補強工事の実施状況は、次のとおりとなっていた。

(ア)直轄事業

 15、16両年に検査した57事務所における、緊急輸送道路内の旧基準が適用されている橋長15m以上の河川橋4,057橋のうち、緊急度の高い河川橋は701橋となっており、完了・着工橋りょう数は177橋、完了・着工率25.2%となっていた。

表7 事務所の河川橋の橋脚形式別実施状況
(単位:橋)

区分 単柱橋脚
a
壁式橋脚等
b
単径間
c
d=a+b+c
完了・着工橋りょう数 177 235 119 531
未着工橋りょう数 524 1,387 1,615 3,526
701 1,622 1,734 4,057
注(1)  本文(検査の対象)の(注2) の57事務所の旧基準が適用されている緊急輸送道路内の橋長15m以上の橋りょうを対象に集計した。
注(2)  壁式橋脚等は、単柱橋脚以外の橋脚形式の橋りょうである。
注(3)  単径間は橋脚のない橋りょうである。

 また、このうち15年に検査した28事務所の緊急度の高い河川橋331橋のうち、完了・着工橋りょう数は109橋で、このうち完了橋りょう数は54橋、緊急度の高い河川橋331橋に対する割合は16.3%となっていた。完了・着工橋りょう数のうち完了橋りょう数を除いた残りの55橋については、未着工となっている222橋とともに計画的、効果的に耐震補強に取り組み、できるだけ早期に緊急輸送道路の耐震性を向上することが重要である。

表8 事務所の緊急度の高い河川橋の実施状況
(単位:橋)

完了
橋りょう数
着工
橋りょう数
b
完了・着工
橋りょう数
c=a+b
未着工
橋りょう数
d
e=c+d
a a/e
54 16.3% 55 109 222 331
(注)
 本文(検査の対象)の(注4) の28事務所を対象に集計した。

(イ)都道府県等事業

 15、16両年に検査した59都道府県等における、緊急輸送道路内の旧基準が適用されている橋長15m以上の河川橋10,988橋のうち、緊急度の高い河川橋は2,433橋となっており、完了・着工橋りょう数は1,032橋、完了・着工率は42.4%となっていた。

表9 都道府県等の河川橋の橋脚形式別実施状況
(単位:橋)

区分 単柱橋脚
a
壁式橋脚等
b
単径間
c
d=a+b+c
完了・着工橋りょう数 1,032 1,443 1,430 3,905
未着工橋りょう数 1,401 2,108 3,574 7,083
2,433 3,551 5,004 10,988
注(1)  本文(検査の対象)の(注3) の59都道府県等の旧基準が適用されている緊急輸送道路内の橋長15m以上の橋りょうを対象に集計した。
注(2)  壁式橋脚等は、単柱橋脚以外の橋脚形式の橋りょうである。
注(3)  単径間は橋脚のない橋りょうである。

 また、このうち15年に検査した32都道府県等の緊急度の高い河川橋1,451橋のうち、完了・着工橋りょう数は612橋で、このうち完了橋りょう数は261橋、緊急度の高い河川橋1,451橋に対する割合は18.0%となっていた。完了・着工橋りょう数のうち完了橋りょう数を除いた残りの351橋については、未着工となっている839橋とともに計画的、効果的に耐震補強に取り組み、できるだけ早期に緊急輸送道路の耐震性を向上することが重要である。

表10 都道府県等の緊急度の高い河川橋の実施状況
(単位:橋)

完了
橋りょう数
着工
橋りょう数
b
完了・着工
橋りょう数
c=a+b
未着工
橋りょう数
d
e=c+d
a a/e
261 18.0% 351 612 836 1,451
(注)
 本文(検査の対象)の(注5) の32都道府県等を対象に集計した。

(ウ)耐震補強工事の着工時期

 完了・着工橋りょう数を着工時期別に区分したところ、表11のとおり、15、16両年に検査した57事務所の完了・着工橋りょう数531橋のうち7年度から9年度に着工したのは221橋、完了・着工橋りょう数に占める割合は41.6%であり、10年度以降に着工したのは310橋となっている。これは、事務所において、7年度から9年度にかけて主に前記の緊急度の高いこ線橋等の耐震補強を推進することとし緊急的に取り組んだためと思料される。また、15、16両年に検査した59都道府県等の完了・着工橋りょう数3,905橋のうち7年度から9年度の完了・着工橋りょう数は2,261橋、10年度以降の完了・着工橋りょう数は1,644橋となっており、7年度から9年度の完了・着工橋りょう数が上回っている状況となっていた。これは、阪神・淡路大震災直後に緊急的に耐震補強工事を推進し、その後事業が減少傾向にあるためなどと思料される。

表11 河川橋の着工時期
(単位:橋)

区分 7年度〜9年度の
完了・着工橋りょう数
10年度以降の
完了・着工橋りょう数
完了・着工
橋りょう数
c=a+b
a a/c b b/c
事務所 221 41.6% 310 58.4% 531
都道府県等 2,261 57.9% 1,644 42.1% 3,905
注(1)  事務所は、本文(検査の対象)の(注2) の57事務所を対象に集計した。
注(2)  都道府県等は、本文(検査の対象)の(注3) の59都道府県等を対象に集計した。

 なお、15、16両年に検査した57事務所及び59都道府県等における、緊急輸送道路内の旧基準が適用されている橋長15m以上のすべての河川橋の実施状況についてみると、表7及び表9のとおり、事務所、都道府県等における4,057橋、10,988橋のうち、事務所の3,526橋、都道府県等の7,083橋は未着工となっており、地震時に比較的変位が少ないと考えられる単径間の橋りょうを含んでいるものの、緊急輸送道路ネットワークに耐震化の効果が早期に現れるように、必要な耐震補強を計画的、効果的に実施することが重要である。

(エ)橋長100m以上の橋りょうの取組の状況

 毎年度、道路法第77条に基づき行われている道路現況調査によると、橋長100m以上のものを長大橋、100m未満のものを中小橋と区分して調査しており、長大橋は14年度の全国の集計で9,567橋となっている。地理的条件にもよるが長大橋は河口に近い橋りょうに見受けられ、このような長大橋が被災した場合、復旧に多大な時間を要することが予想され、交通機能に与える影響も多大である。特に、河川と主要な道路が数多く交差している都道府県においては、緊急輸送道路に多くの長大橋が架橋されており、これらの長大橋が被災した場合、その箇所で道路が寸断され、緊急輸送は極めて困難になることが想定される。そこで、緊急輸送道路内の旧基準が適用されている橋長15m以上の河川橋のうち、16年に検査した31事務所及び29道県等の未着工橋りょう2,232橋及び3,305橋についてみたところ、事務所が管理する指定区間内の一般国道の12時間交通量の平均13,267台を上回る交通量のある長大橋が162橋、同様に都道府県等が管理する指定区間外の一般国道の平均交通量6,109台を上回る交通量のある長大橋が91橋となっていた。
 この長大橋の取組について、ある1事務所をみたところ、次のような状況となっていた。すなわち、同事務所は緊急輸送道路内の橋りょうを168橋管理しており、このうち旧基準が適用されている橋長15m以上の河川橋は35橋、このうち長大橋は12橋で、更にこのうち単柱橋脚の長大橋(緊急度の高い河川橋)は6橋となっていた。
 上記の河川橋35橋のうち耐震補強工事の完了・着工橋りょう数は8橋、このうち長大橋は5橋で、更にこのうち単柱橋脚の長大橋(緊急度の高い河川橋)は3橋となっており、比較的長大橋の耐震補強に取り組んでいると考えられるが、未着工となっている長大橋の中には、12時間交通量が5万台を超えるものも見受けられた。
 上記のような長大橋が被災した場合には、緊急輸送にも多大な影響が考えられることから、計画的、効果的に耐震補強に取り組み、できるだけ早期に緊急輸送道路の耐震性を向上することが重要である。

(2)道路事業に係る事業費及び耐震補強工事費等について

 耐震補強工事は修繕事業の一環と位置付けて実施されており、直轄事業においては、直轄道路維持修繕費が耐震補強工事費に充てられ、都道府県等が実施する場合は、国庫補助事業、地方単独事業ともに橋りょう補修費等が耐震補強工事費に充てられている。
 そして、我が国の近年の厳しい財政状況等から公共事業費は全般的に抑制される傾向にあり、道路事業に係る事業費(以下「道路関係事業費」という。)についても同様の傾向が見受けられるところである。一方、各道路管理者の管理する橋りょう数は年々増加する状況となっている。このため、橋りょうの耐震補強工事の実施状況等を検査するに当たって、7年度以降の耐震補強工事費の推移のほか、道路関係事業費及び維持修繕関係事業費の推移について分析した。

ア 事務所における耐震補強工事費等の推移

 16年に検査した31事務所における耐震補強工事費等の推移は、次のような状況となっていた。
 阪神・淡路大震災直後の7年度を除き、2年ごとで耐震補強工事費の推移をみたところ、8、9両年度は311億余円となっており、14、15両年度の245億余円のほかは、国の総合経済対策等により道路関係事業費が40%以上も増加した年度がある中、10、11両年度は167億余円、12、13両年度は222億余円と8、9両年度と比較して29%から46%の減少となっている。

図1 事務所の耐震補強工事費等の推移

図1事務所の耐震補強工事費等の推移
(注)
 直轄道路維持修繕費は、橋りょうを含む、道路の維持、修繕に係る費用である。

イ 都道府県等における耐震補強工事費等の推移

 16年に検査した29道県等における耐震補強工事費等の推移は、次のような状況となっていた。
 耐震補強工事費は減少傾向にあり、阪神・淡路大震災直後の7年度を除き、2年ごとで耐震補強工事費の推移をみたところ、8、9両年度は444億余円となっており、10、11両年度は356億余円、12、13両年度は281億余円、14、15両年度は252億余円と8、9両年度と比較して20%から43%の減少となっている。
 これを国庫補助事業、地方単独事業別にみても減少傾向となっており、国庫補助事業が8、9両年度の132億余円から14、15両年度は117億余円に、地方単独事業が8、9両年度の311億余円から14、15両年度は135億余円に減少している。

図2 都道府県等の耐震補強工事費等の推移

図2都道府県等の耐震補強工事費等の推移
(注)
 橋りょう補修費等は、橋りょう補修に係る事業費の合計額である。

ウ 維持修繕関係事業費の推移

 事務所、都道府県等ともに道路関係事業費により整備されてきた橋りょう数は増加しており、これらの橋りょうが年々老朽化する中、維持修繕関係事業費の負担増が懸念されているところであるが、維持修繕関係事業費は、事務所において7年度に1500億余円だった直轄道路維持修繕費が15年度には1128億余円に、都道府県等において7年度に国庫補助事業及び地方単独事業合わせて351億余円だった橋りょう補修費等が15年度は257億余円となるなど、ともに減少傾向が認められた。
 このように、阪神・淡路大震災直後に緊急的に耐震補強工事を推進したことなどにより、事務所、都道府県等において8、9両年度の耐震補強工事費が他年度と比較して多額となっていた。しかし、特に、都道府県等において、厳しい財政状況等から維持修繕関係事業費とともに耐震補強工事費もおおむね減少傾向となっている。

(3)橋りょうの管理について

 橋りょう台帳の整備及び定期点検の実施の状況について16年に31事務所及び29道県等を検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 橋りょう台帳の整備状況

 事務所、都道府県等においては、その管理する橋りょうの橋脚補強や落橋防止構造等の必要性について、基本的に8、9両年度に実施した震災点検の結果によって把握しているところであるが、以前の補修工事の内容や、損傷の状況等の現況を記録し計画的な耐震補強に資するような十分な整備がなされていない台帳が見受けられた。また、耐震補強工事を実施した場合には、その内容等を正確に記録しておくことが重要となるが、工事内容等が十分に把握できない橋りょう台帳が見受けられた。このように、橋りょうの過去の補修内容や実施した耐震補強工事の内容等を十分に把握できない橋りょう台帳が4事務所、20県市において見受けられる状況となっていた。

イ 橋りょう点検の実施状況

 橋りょうの定期点検は、橋りょうの現況を把握するために原則として5年に1回(15年度までは10年に1回)程度行うこととされており、地方整備局等においては、管内の事務所の管理橋りょうを対象に毎年度定期点検を実施し、15年度では10地方整備局等管内の管理橋りょう数18,322橋のうち1,649橋を11億0600万余円で実施している。都道府県等においては、通常点検は行っているものの厳しい財政状況等から定期点検を実施している都道府県等はほとんど見受けられなかった。
 定期点検が行われない場合、通常点検では発見できないような損傷等の現況についての把握が困難となり、的確な耐震補強工事の実施に支障を来すことが考えられる。
 耐震補強を計画的、効果的に行うためには、橋りょう台帳等を十分に整備し、適用示方書や正確な補修内容等を把握することにより、必要な耐震補強についても把握できるようにしておくことが重要である。また、パトロールカーによる目視の通常点検のほか、より詳細な点検となる定期点検等を的確に実施し、橋りょうの損傷状況の把握、健全度の判定、点検結果の記録を行い、必要に応じて維持、補修を行うことも重要である。しかし、上記のように、橋りょう台帳等の整備が十分でなかったり、定期点検が十分に行われていなかったりしている状況が見受けられた。

(4)推進体制について

ア 耐震化計画

 緊急輸送道路ネットワーク計画においては、緊急輸送道路の耐震化対策を計画的に推進していくとしているが、橋りょうの耐震化について、具体的な中長期計画等を定めている事務所、都道府県等はほとんど見受けられず、実施に当たっては、前記事務連絡を基本として事務所、都道府県等がそれぞれ重要性を判断して実施している状況となっていた。このような状況の下、個別の橋りょうごとの判断で耐震化を進めた場合、緊急輸送道路ネットワークに耐震化の効果が早期に発現しないおそれがあると考えられる。

イ 協議会及び道路管理者間の連携

 緊急輸送道路ネットワーク計画の策定要領によると、必要に応じて適宜計画の見直しを行うこととされているが、ほとんどの協議会は、解散こそしていないものの、緊急輸送道路ネットワーク計画の見直しを行っていないなど協議会を開催していない状況となっていた。そして、緊急輸送道路ネットワークに耐震化の効果が早期に発現されるためには、自ら管理する橋りょうにとどまらず、協議会等を通じて他の道路管理者が管理している橋りょうの耐震化の状況を把握するなどし、実施時期の調整等を綿密に行うことが重要である。しかし、事務所、都道府県等では具体的な調整等を必ずしも十分に行っていない状況が見受けられ、各緊急輸送道路の管理者が、それぞれ、重要と考える優先順位に基づいて実施している状況となっていた。
 多数の路線を管理する都道府県等と主要な国道を管理する事務所において、上記のような状況のまま橋りょうの耐震化が推移した場合には、個々の橋りょう単位での耐震性は確保できるものの、緊急輸送道路ネットワークに耐震化の効果が早期に発現しないおそれがあると考えられる。

ウ こ線橋等の耐震化の推進

 こ線橋等の耐震補強に当たっては、鉄道事業者等が自ら行う工事の実施時期との調整や設計、施工方法等、鉄道事業者等との綿密な打合せ、調整が必要となる。このため、多数のこ線橋等の耐震補強を効果的に実施するためには、橋りょうごとに事前の協議を十分に行うとともに、計画的に対応することが重要となるが、鉄道事業者等との間で計画的な調整等を実施している事務所、都道府県等はほとんど見受けられなかった。そして、橋りょうごとの耐震補強に当たって、事務所、都道府県等が耐震補強工事の実施について申し入れても、鉄道事業者等が自ら行う工事の予定等により実施時期の延期を求められるなどして、実施時期等について、鉄道事業者等との計画的な調整等が行われない場合は、橋りょうの耐震化の円滑な実施に支障が生じ、緊急輸送道路ネットワークに耐震化の効果が早期に発現しないおそれがあると考えられる。

3 本院の所見

 東海地域をはじめとして、地震防災対策に対する社会的要請は近年急速に高まっており、橋りょうの耐震化は道路行政において重要な課題の一つとなっている。このような中、国土交通省においては、阪神・淡路大震災以降、橋りょうの耐震化対策を推進してきており、今後も引き続き橋りょうの耐震化対策を推進することとしている。
 しかし、直轄事業、都道府県等が行う事業の緊急輸送道路内の旧基準が適用されている橋りょう等の耐震化の状況は、前記の「検査の結果」で記述したとおり、その実施状況や推進体制等が必ずしも十分であるとはいえない状況となっており、地震発生時において、地震の規模等によっては、災害対策の円滑な実施を図るための救助、消火活動及び避難者への緊急物資等の輸送に当たって、緊急輸送道路としての機能が十分に発揮できなくなるおそれがあると思料される状況が見受けられた。
 ついては、我が国における橋りょうの耐震化は重要な課題の一つであることから、国、地方ともに厳しい財政状況の中ではあるが、より計画的かつ効果的に橋りょうの耐震化対策を推進することが肝要である。
 そのためには、災対法等に基づき、国土交通省において、自ら又は各道路管理者に地域防災計画に基づく緊急輸送道路の耐震化の推進が円滑に行われるよう指導、助言するなどして、次のような方策を講じ、橋りょうの耐震化対策の推進体制を充実させることが望まれる。

ア 橋りょうの耐震化対策の推進に当たって、各地域における橋りょうの耐震化についての具体的な中長期計画等を定めること

イ 緊急輸送道路ネットワーク計画の策定時に組織された協議会を活用するなどし、関係機関との調整、連携等の枠組みを強化し、計画的な耐震化対策の推進が効果的になされるようにすること

ウ 二次的被害をもたらす危険性があるこ線橋、こ道橋又は複断面区間を有する橋りょうの実施時期等について、鉄道事業者等との間で、可能な限り早期の段階で調整を図り、工事を委託する場合はその内容及び費用に関する協議を十分に行い、計画的な耐震化対策の推進が円滑になされるようにすること

エ 橋りょう台帳等を十分に整備し、定期点検等を的確に行いその結果を必要に応じて耐震補強に反映できるようにするなど、計画的、効果的な耐震補強の実施に資するように努めること

オ 国土交通省において、上記アからエを踏まえ、橋りょうの耐震化についての意識を十分に持って、都道府県等の橋りょうの耐震化の進ちょく状況を適時適切に把握し、地域防災計画に基づく緊急輸送道路の耐震化の推進が円滑に行われるよう、指導、助言するなど必要な措置を講じること、また、直轄事業の橋りょうの耐震化の進ちょく状況を適時適切に把握し、必要な措置を講じること

 そして、他の道路事業に配意しつつも、社会的要請を踏まえ、緊急輸送道路ネットワークに耐震化の効果が早期に現れるように、橋りょうの耐震補強を計画的、効果的に実施することが望まれる。

(注1) 東北地方整備局ほか7地方整備局  東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州各地方整備局
(注2) 青森河川国道事務所ほか56国道事務所等  青森河川、三陸、仙台河川、秋田河川、湯沢河川、山形河川、酒田河川、福島河川、常陸河川、宇都宮、大宮、千葉、東京、相武、長野、新潟、長岡、富山河川、金沢河川、静岡、浜松河川、名古屋、三重河川、北勢、飯田、滋賀、福知山河川、京都、大阪、豊岡河川、兵庫、和歌山河川、紀南河川、福井河川、倉吉河川、福山河川、広島、山口河川、徳島河川、香川河川、松山河川、大洲河川、中村河川、福岡、北九州、熊本河川、大分河川、鹿児島各国道事務所、札幌、小樽、函館、旭川、網走、帯広、釧路各開発建設部、北部、南部両国道事務所
(注3) 北海道ほか58都府県等  東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県、札幌、仙台、千葉、横浜、川崎、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、北九州、福岡各市
(注4) 28事務所  三陸、秋田河川、湯沢河川、福島河川、常陸河川、相武、長野、長岡、金沢河川、名古屋、飯田、静岡、福知山河川、京都、豊岡河川、兵庫、福井河川、倉吉河川、福山河川、香川河川、中村河川、熊本河川、大分河川各国道事務所、札幌、函館、帯広、釧路各開発建設部、南部国道事務所
(注5) 32都道府県等  東京都、北海道、京都、大阪両府、岩手、山形、群馬、埼玉、神奈川、富山、山梨、岐阜、静岡、愛知、和歌山、島根、岡山、山口、徳島、愛媛、福岡、長崎、熊本、大分、沖縄各県、横浜、川崎、名古屋、京都、大阪、北九州、福岡各市
(注6) 31事務所  青森河川、仙台河川、山形河川、酒田河川、宇都宮、大宮、千葉、東京、新潟、富山河川、浜松河川、名古屋、三重河川、北勢、滋賀、大阪、和歌山河川、紀南河川、広島、山口河川、徳島河川、松山河川、大洲河川、福岡、北九州、鹿児島各国道事務所、札幌、小樽、旭川、網走各開発建設部、北部国道事務所
(注7) 29道県等  北海道、青森、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、千葉、新潟、石川、福井、長野、三重、滋賀、兵庫、奈良、鳥取、広島、香川、高知、佐賀、宮崎、鹿児島、沖縄各県、札幌、仙台、千葉、神戸、広島各市

(参考図1)

(参考図1)

(参考図2)

(参考図2)