検査対象 | 国土交通省(平成13年1月5日以前は建設省) |
会計名及び科目 | 治水特別会計(治水勘定)(項)河川事業費 |
部局等の名称 | 国土交通省関東、近畿両地方整備局(平成13年1月5日以前は建設省関東、近畿両地方建設局) |
事業名 | 高規格堤防整備 |
事業の概要 | 人口、資産の集中、さらには中枢機能の集積の著しい大都市地域の大河川において、超過洪水等に対して、破堤による壊滅的な被害を回避し、治水安全度の向上を図ることなどを目的として、幅員の広い高規格堤防の整備を行うもの |
高規格堤防の整備を実施している河川 | 利根川ほか5河川 |
上記に係る高規格堤防整備事業費の累計 | 4965億円(昭和62年度〜平成15年度) |
1 事業の概要
国土交通省では、河川法(昭和39年法律第167号。以下「法」という。)等に基づき、洪水等による災害発生の防止を図るなどのため河川を総合的に管理し、公共の安全を保持することなどを目的として河川事業を実施している。
同事業の実施に当たっては、過去の主要な洪水や災害の発生状況などを総合的に考慮し、河川の流下能力を増大させるための整備を行うことなどにより、治水安全度の向上を図ることとしている。このため、河川管理者は各水系ごとに、長期的な整備の基本となる事項については河川整備基本方針、具体的な施設の整備内容等については河川整備計画、これらが未策定の水系については、河川法の一部を改正する法律(平成9年法律第69号)による改正前の法第16条に規定する工事実施基本計画(以下、これらを「河川整備基本方針等」という。)をそれぞれ定めることとしている。そして、河川整備計画は、学識経験者、住民の意見を聴取した上で策定することとしている。
河川整備基本方針等においては、過去の主要な洪水、水害実績、流域の人口、資産の集積等を勘案し、ダム等により洪水を調節する流量、河川の基準地点等で河道を流下する計画上の最大流量(計画高水流量)、計画高水流量が計画上の河道を流下するときの最高水位(計画高水位)、計画高水流量を安全に流下させるために必要な堤防の高さなどを定めている。国土交通省では、これらに基づき、災害を未然に防ぐため、洪水を安全に流下させるための河道の拡幅及び堤防の築造等の事業を実施している(以下、これら計画規模の洪水を対象として実施する事業を「一般河川改修事業等」といい、同事業によって、計画高水位以下の洪水に対応する構造として築造される堤防を「通常堤防」という。)。
一方、人口、資産の集中、さらには中枢機能の集積の著しい東京、大阪等大都市地域の大河川においては、一般河川改修事業等とあわせ、計画規模の洪水を上回る洪水(以下「超過洪水」という。)等に対して、破堤による壊滅的な被害を回避し、治水安全度の向上を図ることなどを目的として、高規格堤防整備事業が実施されている。
前記のとおり、河川事業は、従前から計画規模の洪水を対象とし、その氾濫の防止に必要な計画を策定して、これに基づき河川工事等を実施することにより進められてきた。しかし、洪水は自然現象である降雨に起因するものである以上、超過洪水が発生する可能性は常に存在しており、このような洪水によって、特に各種の行政的、経済的、社会的な中枢機関が集中した東京、大阪等の大都市地域における大河川の堤防が破壊されたとすれば、当該地域に壊滅的な被害が発生し、ひいては我が国全体の経済社会活動に致命的な影響を与えることが懸念される。このため、これらの地域においては、破堤に伴う壊滅的な被害の発生を防ぐことがより重要な状況となっている。
このような背景の下、「超過洪水対策及びその推進方策について」(昭和62年河川審議会(注)
答申)において、大都市地域の大河川における特定の一連区間において幅員の広い高規格堤防の整備を進めるべきとの提言がなされたことを受けて、昭和62年度に本事業が創設された。
高規格堤防は、超過洪水等に対しても耐えることができるようにするため、堤防の堤内地側を盛土することにより、通常堤防より大幅に広い幅員をもつ構造とするものである。そして、広い幅員をもつ高規格堤防は、通常堤防のように堤防としてのみ利用することとすると、沿川において多数の移転者が発生し、多額の用地費及び補償費が必要となるため、原則として用地買収を行うことなく施工し、完成後には地権者等が高規格堤防の区域内において住宅の建設など通常の土地利用が行えることを整備の基本としている。
高規格堤防の具体的な構造については、河川管理施設等構造令(昭和51年政令第199号。以下「構造令」という。)等においてその技術的基準が定められている。これらによると、高規格堤防は、超過洪水に対しても破堤を生じない堤防となるよう、これにより生ずる洗掘、滑り、浸透等に対して耐えることができる構造を持つとともに、高規格堤防の区域内の土地は通常の利用に供されることなどから、地震に対しても安全なものとして設計されることとしている。そして、高規格堤防の形状は、主として、通常の土地利用がなされる堤防上部を洪水が越流した場合でも、越流水による堤防の洗掘、浸透による破壊を発生させない安全な堤内地側の勾配を求めることにより定まり、その勾配は、一般的に、おおむね1/30程度となる。すなわち、高規格堤防は、隣接する堤内の土地の地盤高の状況によるものの、堤内地側におおむね堤防の高さの約30倍の堤防幅を必要とするものとなる(図1参照) 。
市街地における高規格堤防の整備に当たっては、次のように定められている。すなわち、市街地との一体的かつ計画的な整備を推進するため、「高規格堤防整備と市街地整備の一体的推進について」(平成6年建設省都計発第146号、建設省河治発第85号)により、高規格堤防の整備は大幅な土地の形質の変更を伴うこと、高規格堤防の区域内の土地が通常の利用に供されるものであること、また、その整備は都市計画法(昭和43年法律第100号)に基づく都市計画区域内で実施されることがほとんどであることから、都市部において高規格堤防の整備を行う際は、沿川地域の土地利用及び都市基盤施設の整備との整合を図る必要があるとされている。このため、都道府県の都市計画担当部局と河川管理者は、計画段階から十分な連絡調整を行うとともに、長期的かつ広域的視点から、高規格堤防等と沿川地域の市街地の整備に関する基本構想(以下「沿川整備基本構想」という。)を策定し、これに基づき計画的に整備を進めていくものとされている。
沿川整備基本構想は、高規格堤防設置区間を対象として、都道府県都市計画担当部局及び河川管理者等により構成される沿川整備基本構想策定委員会により策定され、沿川地域に係る都市計画、当該地域の市街化の動向等を踏まえ、次の事項等を定めるものとされている。
〔1〕 対象地区
〔2〕 対象地区の整備のマスタープラン
〔3〕 優先的に整備を進める地区
このように、市街地における実施体制については、上記のとおり定められているものの、市街化調整区域、農村部等それ以外の沿川地域においては、優先整備地区の選定等計画的な整備を推進するための実施体制について定められたものはない。
高規格堤防の整備を要する河川については、河川整備基本方針等において、高規格堤防の設置区間を定めることとされている(「河川法の一部を改正する法律等の運用及び解釈について」(平成3年建設省河政発第72号、建設省河計発第66号、建設省河治発第57号))。
現在、河川整備基本方針等において、高規格堤防を整備することとしている河川は、利根川、江戸川、荒川、多摩川、淀川及び大和川(以下「6河川」という。)であり、その要整備区間の延長は表1のとおり計872.4kmとなっている。
水系名 | 河川名 | 設置区間 | 注(1)
要整備区 間の延長 km |
策定状況 | ||
河川整備 基本方針 |
河川整備 計画 |
沿川整備 基本構想 |
||||
利根川 | 利根川 | 小山川合流点〜河口 | 362.5 | 未策定※ | 未策定※ | 未策定 |
江戸川 | 利根川分派点〜河口 | 120.6 | 未策定※ | 未策定※ | 策定済 | |
荒川 | 荒川 | 熊谷大橋〜河口 | 174.1 | 未策定※ | 未策定※ | 策定済 |
多摩川 | 多摩川 | 日野橋〜河口 | 82.4 | 策定済 | 策定済 | 策定済 |
淀川 | 淀川 | 木津川・桂川合流点〜河口 | 89.2 | 未策定※ | 未策定※ | 策定済 |
大和川 | 大和川 | 関西線第6大和川橋梁〜河口 | 43.6 | 未策定※ | 未策定※ | 策定済 |
合計5水系 | 6河川 | 872.4 |
2 検査の結果
国土交通省では、6河川において計画規模の洪水に対応する一般河川改修事業等を実施するとともに、超過洪水等に対しては高規格堤防整備事業を行っているところである。
ついては、一般河川改修事業等は進ちょくしているかについて、通常堤防の整備状況に着眼し、また、高規格堤防整備事業は事業開始以来約17年を経過し、事業費も多額に上っているが、一般河川改修事業等の進ちょくを踏まえつつ、事業効果が早期かつ最大限に発現されるような計画、実施体制等となっているか、事業が円滑に進ちょくしているかなどの観点から、破堤による想定被害額(注)
に着眼するなどして、高規格堤防整備事業を実施している6河川すべてを対象として検査を実施した。
(1)河川の整備状況
6河川における、各河川別の一般河川改修事業及び高規格堤防整備事業に係る平成6年度から15年度までの事業費は表2のとおりである。
区分 | 利根川 | 江戸川 | 荒川 | 多摩川 | 淀川 | 大和川 | 合計 |
6年度 | 8,080 5,628 |
13,470 5,135 |
5,750 7,073 |
1,360 751 |
6,965 6,819 |
2,730 1,000 |
38,355 26,406 |
7年度 | 11,760 6,000 |
19,963 6,620 |
16,676 10,240 |
3,738 1,500 |
8,774 9,010 |
4,280 2,120 |
65,191 35,490 |
8年度 | 8,873 6,370 |
23,002 5,687 |
8,115 14,100 |
1,651 1,662 |
3,151 10,000 |
2,207 2,200 |
46,999 40,019 |
9年度 | 6,301 7,385 |
25,012 5,061 |
4,753 17,657 |
1,064 1,704 |
2,278 10,163 |
1,954 3,350 |
41,362 45,320 |
10年度 | 22,647 9,936 |
29,095 4,239 |
12,200 21,467 |
1,830 1,552 |
3,466 10,895 |
2,894 3,563 |
72,132 51,652 |
11年度 | 10,045 8,245 |
29,506 5,503 |
8,609 18,685 |
2,738 2,314 |
3,461 8,714 |
2,242 3,969 |
56,601 47,430 |
12年度 | 16,847 8,437 |
26,469 7,153 |
6,802 17,798 |
3,343 2,367 |
2,897 8,217 |
1,530 3,896 |
57,888 47,868 |
13年度 | 10,446 12,273 |
22,217 5,097 |
6,541 15,156 |
4,897 4,035 |
2,316 11,800 |
3,109 4,401 |
49,526 52,762 |
14年度 | 9,353 13,287 |
15,428 5,391 |
10,651 16,685 |
4,912 6,331 |
2,660 8,332 |
1,791 6,999 |
44,795 57,025 |
15年度 | 5,271 13,662 |
10,992 5,397 |
3,966 13,175 |
4,529 3,351 |
1,275 8,696 |
1,188 7,694 |
27,221 51,975 |
6河川における一般河川改修事業等のうち、高規格堤防要整備区間における通常堤防の整備状況は、表3のとおりである。
河川名 | 要整備区 間の延長 (a)
|
完成堤防 | 暫定完成堤防 | 未完成堤防・未施工 | |||
延長(b) | (b)/(a) | 延長(c) | (c)/(a) | 延長(d) | (d)/(a) | ||
利根川 | km 362.5 |
km 212.4 |
% 58.5 |
km 89.2 |
% 24.6 |
km 60.8 |
% 16.7 |
江戸川 | 120.6 | 29.5 | 24.5 | 91.0 | 75.4 | − | − |
荒川 | 174.1 | 86.7 | 49.7 | 25.6 | 14.7 | 61.8 | 35.4 |
多摩川 | 82.4 | 59.5 | 72.2 | 4.4 | 5.3 | 18.5 | 22.4 |
淀川 | 89.2 | 85.1 | 95.4 | 3.4 | 3.8 | 0.7 | 0.7 |
大和川 | 43.6 | 27.0 | 61.9 | 14.6 | 33.4 | 1.9 | 4.3 |
計 | 872.4 | 500.3 | 57.3 | 228.3 | 26.1 | 143.8 | 16.4 |
注(1) | 完成堤防とは、通常堤防として必要とされ、構造令から定まる高さ、天端幅、のり勾配などの基本断面形状を満たしているもの。 |
注(2) | 暫定完成堤防とは、通常堤防の基本断面形状に対し、高さや幅の一部が不足しているもの。 |
注(3) | 未完成堤防とは、通常堤防の基本断面形状を満足しておらず、高さや幅が大幅に不足しているものであり、未施工とは、堤防必要区間において、堤防の築造に着手していないもの。 |
また、6河川における高規格堤防整備事業の実施状況は表4のとおりであり、事業着手から15年度までの累計事業費は4965億余円、これに係る事業延長(事業実施中の地区を含む。)は46.9kmで、このうち完成が4.1km、暫定完成が18.3km、事業中が24.4kmとなっている。
区分 | 利根川 | 江戸川 | 荒川 | 多摩川 | 淀川 | 大和川 | 合計 | |||
計画 | 沿川整備基本構想策定年 | 未策定 | 平成13 | 平成 12、13 |
平成13 | 平成8 | 平成8 | / | ||
設置 区間 |
上流 | 小山川合 流点 |
利根川分 派点 |
熊谷大橋 | 日野橋 | 木津川・ 桂川の合 流点 |
関西線第 6大和川 橋梁 |
/ | ||
下流 | 河口 | 河口 | 河口 | 河口 | 河口 | 河口 | / | |||
要整備区間の延長 | km | 362.5 | 120.6 | 174.1 | 82.4 | 89.2 | 43.6 | 872.4 | ||
事業実施 | 事業着手年度 | 昭和62 | 平成元 | 昭和62 | 平成元 | 昭和62 | 昭和62 | / | ||
累計事業費 | 億円 | 980.2 | 641.8 | 1634.0 | 275.3 | 1010.5 | 423.4 | 4965.4 | ||
完成 | 延長 | km | 0.8 | 0.9 | − | 1.6 | 0.1 | 0.5 | 4.1 | |
地区数 | 4 | 2 | − | 5 | 1 | 3 | 15 | |||
面積 | ha | 15.4 | 19.8 | − | 14.0 | 4.5 | 4.1 | 57.8 | ||
暫定 完成 |
延長 | km | 4.7 | 4.9 | 2.7 | 0.5 | 3.0 | 2.3 | 18.3 | |
地区数 | 10 | 9 | 10 | 3 | 15 | 7 | 54 | |||
面積 | ha | 64.8 | 55.8 | 37.5 | 1.1 | 31.9 | 14.5 | 205.6 | ||
事業中 | 延長 | km | 3.8 | 1.9 | 9.2 | 2.3 | 2.4 | 4.6 | 24.4 | |
地区数 | 7 | 5 | 13 | 7 | 8 | 9 | 49 | |||
面積 | ha | 81.3 | 38.2 | 112.7 | 20.0 | 31.6 | 52.5 | 336.4 | ||
合計 | 延長 | km | 9.3 | 7.8 | 12.0 | 4.5 | 5.6 | 7.5 | 46.9 | |
地区数 | 20 | 16 | 23 | 12 | 24 | 17 | 112 | |||
面積 | ha | 161.5 | 113.8 | 150.2 | 35.2 | 68.0 | 71.1 | 599.9 |
注(1) | 完成とは、高規格堤防の形状(所要の高さ及び幅)が完成したもの。 |
注(2) | 暫定完成とは、高規格堤防としての所要の高さ及び幅のうち一部が完成したもの。 |
注(3) | 地区数については、一部重複地区があるため、合計において一致しないものがある。 |
(2)各河川の状況
これら通常堤防の整備状況及び高規格堤防整備事業の整備状況を踏まえた上で、想定被害額(算定年度等は各河川ごとに異なる。)に着眼するなどして、それぞれの事業の実施状況等について各河川別にみると次のとおりである。
ア 利根川
図2
図3
〔1〕 想定被害額の状況
想定被害額については次のとおりである。
右岸側は、122.0km(河口からの距離。以下、位置に関する記述について同じ。)の江戸川分派点から上流の157.0km付近までの約35kmの区間ではいずれも8.7兆円を超え、最大となる136.0km付近では34.2兆円となっていて、それ以外の区間は13億円から1.0兆円となっている。
左岸側は、全川で326億円から2.8兆円となっていて、右岸側に比べて小さいものとなっている。
〔2〕 一般河川改修事業等の実施状況
通常堤防の整備状況についてみると、20km付近より下流はほとんど完成しておらず、20km付近より上流90km付近までは、両岸ともおおむね完成しているが、90km付近より上流側については、いまだ完成していない箇所が見受けられる。想定被害額が8.7兆円から34.2兆円となる右岸側の122.0km付近から157.0km付近までの間については完成している区間が多く見受けられるが、区間全体では、完成堤防58.5%、暫定完成堤防24.6%、未完成堤防・未施工16.7%となっている。
〔3〕 高規格堤防整備事業の実施状況
利根川においては、高規格堤防の要整備区間の延長362.5kmの大部分である335.9kmは市街化調整区域、未線引都市計画区域又は都市計画区域外(以下これらの区域を「市街化調整等区域」という。)となっている。市街化調整等区域においては市街地整備の動きが少ないこともあり、都市型事業との共同事業による高規格堤防整備事業の実施はほとんど期待できない状況であるため、利根川における高規格堤防整備の実施は、他の河川と比較して整備の進ちょくが遅れている。
そして、15年度末の高規格堤防の整備状況は、20地区(うち公園、河川防災ステーション等の公共公益施設のみによって整備されたものは15地区)で延長9.3kmとなっている。しかし、これらの地区は必ずしも想定被害額の大きい箇所で実施されてはいない。
なお、河川整備基本方針、河川整備計画及び沿川整備基本構想はいずれも策定には至っていない。
イ 江戸川
図4
図5
〔1〕 想定被害額の状況
想定被害額については次のとおりである。
右岸側は、河口から18.5kmまでの区間では2.7兆円から7.5兆円であるが、18.5km付近より上流で大きくなり、55.0km付近において最大23.5兆円となる。
左岸側は、全川で11億円から3.4兆円となっていて、右岸側に比べて小さいものとなっている。
〔2〕 一般河川改修事業等の実施状況
通常堤防の整備状況についてみると、全川にわたり完成または暫定完成堤防となっており、右岸側に比べ左岸側は完成区間が少ない。また、想定被害額が区間のほとんどにおいて10兆円以上となる右岸側の23.0km付近から上流側については、完成している区間がやや多く見受けられるが、区間全体では、完成堤防24.5%、暫定完成堤防75.4%となっている。
〔3〕 高規格堤防整備事業の実施状況
江戸川においては、高規格堤防の要整備区間の延長120.6kmのうち71.3kmは市街化調整等区域となっていることから、当該区域においては都市型事業との共同事業による高規格堤防整備事業の実施はほとんど期待できない状況となっている。
13年3月に策定した江戸川沿川整備基本構想では、破堤による大規模な洪水被害の想定されている箇所や水衝部など治水対策上重要な箇所について優先的な整備が必要であることや、整備完了区間に接続する箇所等において整備の推進を図ることとている。また、おおむね20年間で高規格堤防と市街地などの整備を推進する地区等を整備を推進する地区(10地区、約5.3km)、整備の計画づくりを進める地区(3地区)、調査・検討を進める地区(30地区)に区分し、整備・検討を進めるとしている(このほかに整備済みが5地区、約1.9km(同構想策定時現在の地区数で、暫定的な整備済みを含む。以下同じ。))が、上記には治水対策上重要な箇所を明確にしたものがない。
そして、15年度末の高規格堤防の整備状況は、16地区(うち公共公益施設のみによって整備されたものは10地区)で延長7.8kmとなっている。しかし、これらの地区は必ずしも想定被害額の大きい箇所で実施されてはいない。
ウ 荒川
図6
図7
〔1〕 想定被害額の状況
想定被害額については次のとおりである。
右岸側は、河口から上流の26.8km付近までが大きく、最大となる箇所は21.0km付近で20.5兆円である。26.8km付近より上流では、834億円から7.1兆円となっている。
左岸側は、河口から上流の47.2km付近まで10兆円を超える箇所が多くなっていて、最大となる箇所は34.0km付近で31.6兆円である。47.2km付近より上流では11億円から7.4兆円となっている。
〔2〕 一般河川改修事業等の実施状況
通常堤防の整備状況についてみると、区間のほとんどにおいて想定被害額10兆円以上となる左岸側の37.0km付近から下流側及び5兆円以上となる右岸側の38.2km付近から下流側については完成している区間が多く見受けられるものの、これらの区間より上流側については、ほとんど完成していない状況であり、区間全体では、完成堤防49.7%、暫定完成堤防14.7%、未完成堤防・未施工35.4%となっている。
〔3〕 高規格堤防整備事業の実施状況
荒川においては、下流部の想定被害額の大きい箇所で整備が進められているが、おおむね30kmより上流の左右両岸で市街化調整等区域が多く見受けられ、当該区域においては都市型事業との共同事業による整備を実施することはほとんど期待できない状況となっている。
12年3月に策定した荒川(東京ブロック)沿川整備基本構想では、高規格堤防整備計画区間を、同構想の対象期間内(おおむね20年)に高規格堤防と市街地の整備を推進する地区(7地区、約5.3km)、整備の計画づくりを進める地区(5地区)、調査・検討を進める地区(12地区)の区分により選定している(このほかに整備済みが5地区、約0.5km)。
また、13年8月に策定した荒川(埼玉ブロック)沿川整備基本構想においても、おおむね20年の間に高規格堤防と市街地などとの整備を推進する地区等を高規格堤防整備を推進する地区(4地区、約2.4km)、計画づくりを進める地区(4地区)、調査・検討を進める地区(7地区)に区分している(このほかに整備済みが3地区、約0.6km)。
しかし、上記には治水対策上重要な箇所を明確にしたものがない。
そして、15年度末の高規格堤防の整備状況は、両ブロックを合わせ23地区(うち公共公益施設のみによって整備されたものは11地区)で延長12.0kmとなっている。しかし、これらの地区は必ずしも想定被害額が大きい箇所で実施されてはいない。
エ 多摩川
図8
図9
〔1〕 想定被害額の状況
想定被害額については次のとおりである。
右岸側は、河口から上流の15.0km付近までが大きく、2兆円を超える箇所が存在し、最大となるのは7.8km付近での2.4兆円である。15.0km付近より上流では、17億円から5977億円となっている。
左岸側は、河口から上流の14.2km付近までが大きく、1兆円を超える箇所が多く存在し、最大となるのは11.2km付近の2.2兆円である。14.2km付近より上流では327億円から5104億円となっている。
〔2〕 一般河川改修事業等の実施状況
通常堤防の整備状況についてみると、全川にわたり左右両岸とも完成している区間が多いものの、想定被害額の大きい箇所において完成していない箇所があり、完成堤防72.2%、暫定完成堤防5.3%、未完成堤防・未施工22.4%となっている。また、12年12月に河川整備基本方針が、13年3月に河川整備計画がそれぞれ策定済みであり、河川整備計画によると、多摩川の治水上の課題として、5箇所の堰が洪水流下の阻害となっており、多摩川の弱点であることから、早急かつ計画的な対処が急がれるとされている。
〔3〕 高規格堤防整備事業の実施状況
多摩川においては、上記の河川整備計画及び13年2月に対象期間をおおむね20〜30年程度とする多摩川沿川整備基本構想を策定しており、これらにおいて、高規格堤防整備対象区間を高規格堤防推奨区間(氾濫区域が東京湾に向かって広がり、甚大な浸水被害が想定される区間であり、街づくりの構想の提案や検討を進め、整備に向けての気運を高めていく区間)と高規格堤防候補区間(上記以外の区間であり、地域における街づくりの気運や諸動向と一体的に検討を行う区間)とに二分している。また、同構想では、高規格堤防の整備又は検討を図る地区について、整備を推進する又は目指す地区(9地区、約6.6km)、整備の計画づくりを目指す地区(8地区)、当面、調査又は検討を行う地区(14地区)を選定している(このほかに整備済みが3地区、約1.0km)が、これらの地区は、上記の高規格堤防推奨区間と必ずしも対応していない。
なお、沿川は、ほぼ全川にわたり左右両岸とも市街化区域となっている。
そして、15年度末の高規格堤防の整備状況は、12地区(うち公共公益施設のみによって整備されたものは3地区)で延長4.5kmとなっている。しかし、これらの地区は必ずしも想定被害額の大きい箇所で実施されてはいない。
オ 淀川
図10
図11
〔1〕 想定被害額の状況
想定被害額については次のとおりである。
右岸側は、河口から上流の15.8km付近までの区間において大きくなり、10兆円を超える箇所が多く、最大は14.6km付近の16兆円である。15.8km付近より上流では5.7兆円から10.7兆円となっている。
左岸側は、河口から上流の25.8km付近までの区間において大きくなり、10兆円を超える箇所がほとんどを占めているが、最大は、8.6km付近の24.8兆円である。25.8km付近より上流では5.7兆円から6.4兆円となっている。
〔2〕 一般河川改修事業等の実施状況
通常堤防の整備状況についてみると、右岸側河口部付近及び2.2kmから4.2km付近を除き、全川にわたり左右両岸とも完成している区間が多く、完成堤防95.4%、暫定完成堤防3.8%、未完成堤防・未施工0.7%となっている。
〔3〕 高規格堤防整備事業の実施状況
淀川においては、おおむね20kmより上流の左右両岸で市街化調整等区域が多く見受けられ、当該区域においては都市型事業との共同事業による高規格堤防整備事業の実施はほとんど期待できない状況となっている。
8年3月に策定した淀川沿川整備基本構想(案)では、高規格堤防をある一定のまとまりのある区域ごとに整備を進めるため、優先整備地区(15地区)、優先検討地区(8地区)を設定している(このほかに整備済みが5地区)が、上記には治水対策上重要な箇所を明確にしたものがない。
そして、15年度末の高規格堤防の整備状況は、24地区(うち公共公益施設のみによって整備されたものは9地区)で延長5.6kmとなっている。しかし、これらの地区は必ずしも想定被害額の大きい箇所で実施されてはいない。
カ 大和川
図12
図13
〔1〕 想定被害額の状況
想定被害額については次のとおりである。
右岸側は、2.6km付近から4.4km付近までの区間、8.6km付近から10.8km付近までの区間、12.8km付近から18.0km付近までの区間において、大部分が3兆円を超え、最大は10km付近の12.5兆円である。
左岸側は、全川で39億円から1.3兆円となっていて右岸側に比べて小さいものとなっている。
〔2〕 一般河川改修事業等の実施状況
通常堤防の整備状況についてみると、左右両岸ともおおむね3km付近より上流側においてやや進展しているが、区間全体では、完成堤防61.9%、暫定完成堤防33.4%、未完成堤防・未施工4.3%となっている。
大和川では、大阪府と奈良県との県境に位置する亀の瀬地区で地すべり対策を施行中であるが、同地区で河川断面が大幅に狭小となっていたり、その上流で大小の支川が合流したりしているため、上流域に大量の降雨があった場合、同地区よりも上流域(奈良県)で浸水被害が発生している状況である。
〔3〕 高規格堤防整備事業の実施状況
大和川においては、8年3月に大和川沿川整備基本構想(案)を策定しており、同構想(案)においては、高規格堤防をある一定のまとまりのある区域ごとに整備を進めるため優先整備地区(7地区)、優先検討地区(10地区)を設定しているが、上記には、治水対策上重要な箇所を明確にしたものがない。
そして、沿川は、ほぼ全川にわたり左右両岸とも市街化区域となっており、15年度末の高規格堤防の整備状況は、17地区(うち公共公益施設のみによって整備されたものは9地区)で延長7.5kmとなっている。しかし、これらの地区は必ずしも想定被害額の大きい箇所で実施されてはいない。
(3)一般河川改修事業等と高規格堤防整備事業の実施について
(ア)一般河川改修事業等の実施状況
前記のとおり、高規格堤防を整備することとしている6河川においても、一般河川改修事業等として堤防の整備等が従前から実施されてきている。そこで、6河川の高規格堤防要整備区間における通常堤防の整備状況についてみると、原則として下流側から順次整備を実施してきているが、前記(2)「各河川の状況」を総合すると、表3のとおり、必要とする整備区間の延長に対して完成堤防の区間は57.3%、暫定完成堤防の区間は26.1%、未完成堤防及び未施工の区間は16.4%となっている。さらに、各河川でこれまで実施してきた通常堤防の整備状況についてみると、想定被害額の大きい箇所で未完成堤防・未施工となっている区間が少なからず見受けられる。
また、高規格堤防設置区間を含む全国の直轄管理区間の堤防のうち、約11,000kmを対象として、国土交通省において現在までに調査した完成堤防及び暫定完成堤防約2,000kmの約4割の区間では、計画高水位に達する規模の洪水が発生した場合、浸透破壊に対する堤防の安全性が確保されていない状況となっていることから、今後は、未調査区間の調査を進めるとともに、現時点で安全性の不足が確認された区間については、堤防の質的整備を計画的に実施することとしている。
(イ)高規格堤防整備事業の実施状況
一方、高規格堤防の整備状況についてみると、表4のとおり、16年3月末現在、事業完成区間と事業中の区間を合計すると、その延長は46.9km、累計事業費は4965億余円と多額に上っており、今後事業完成までには相当の長期間とさらに多額の事業費が必要となる状況である。
6河川のこれまでの高規格堤防1地区当たりの整備延長は平均で0.4km(最大3.1km、最小0.05km)程度であり、現状では一連の区間を連続したものとはなっておらず、また、必ずしも想定被害額が大きい箇所で整備されている状況にはなっていない。
(4)高規格堤防整備事業の実施体制について
6河川における事業の実施状況についてみると沿川地域の市街化の動向等を踏まえて実施する必要があるため、想定被害額の大きい箇所について、連続的、集中的に実施されている状況にはなっていない。
このような状況となっているのは、次のことなどによると思料される。
〔1〕 国土交通省において、高規格堤防整備を重点的に進める区間などを定める河川整備計画を多摩川を除いて策定していないこと
〔2〕 高規格堤防整備事業の実施に当たり、土地区画整理事業や民間開発事業等の都市型事業との共同事業により実施する方法が採られていて、これらの共同事業が、必ずしも想定被害額の大きい箇所や、高規格堤防が既に整備された地区に隣接する区間において事業化が進展するものではないこと
〔3〕 表5のとおり、6河川における高規格堤防の要整備区間の延長である872.4kmのうち、市街化区域の延長は345.5km、市街化調整等区域の延長は526.8kmとなっており、市街化調整等区域のうち466.3kmは農業振興地域にもなっている。そして、市街化調整等区域においては、市街地整備の動きが少ないこともあり、現在までに実施している地区については、その大部分が公共公益施設として沿川自治体と共同事業で実施した公園、河川防災ステーション等の整備となっていて、都市型事業との共同事業による高規格堤防整備事業の実施はほとんど期待できない状況であること。また、農業振興地域内の農用地等における高規格堤防の整備については、公共公益施設等により実施しているものの、その整備手法はいまだ検討段階にあること
区分 | 利根川 | 江戸川 | 荒川 | 多摩川 | 淀川 | 大和川 | 合計 | |||||||
要整備区間の延長 | L | km | 362.5 | 120.6 | 174.1 | 82.4 | 89.2 | 43.6 | 872.4 | |||||
市街化区域延長 | A | km | 26.6 | 49.3 | 76.4 | 81.3 | 69.5 | 42.4 | 345.5 | |||||
市街化調整等区域延長 | B | km | 335.9 | 71.3 | 97.6 | 1.1 | 19.7 | 1.2 | 526.8 | |||||
農業振興地域延長 | C | km | 330.5 | 40.2 | 80.9 | − | 14.7 | − | 466.3 | |||||
事業実施 | 延長 | l | km | 9.3 | 7.8 | 12 | 4.5 | 5.6 | 7.5 | 46.9 | ||||
進ちょく率 | l/L | % | 2.5 | 6.4 | 6.9 | 5.4 | 6.3 | 17.2 | 5.3 | |||||
地区数 | 20 | 16 | 23 | 12 | 24 | 17 | 112 | |||||||
市街化区域 | 延長 | a | km | 2 | 2.9 | 8.5 | 4 | 5.1 | 6.8 | 29.5 | ||||
進ちょく率 | a/A | % | 7.7 | 6 | 11.1 | 4.9 | 7.4 | 16.1 | 8.5 | |||||
地区数 | 3 (2) |
6 (2) |
15 (5) |
12 (3) |
21 (6) |
15 (7) |
72 (25) |
|||||||
市街化調整等区域 | 延長 | b | km | 7.3 | 4.8 | 3.5 | 0.5 | 0.5 | 0.6 | 17.4 | ||||
進ちょく率 | b/B | % | 2.1 | 6.7 | 3.6 | 45.4 | 2.5 | 56.6 | 3.3 | |||||
地区数 | 17 (13) |
10 (8) |
8 (6) |
1 (1) |
3 (3) |
2 (2) |
41 (33) |
|||||||
農業振興地域 | 延長 | c | km | 7.2 | 1.1 | − | − | 0.5 | − | 8.9 | ||||
進ちょく率 | c/C | % | 2.2 | 2.8 | − | − | 3.4 | − | 1.9 | |||||
地区数 | 16 (12) |
4 (2) |
0 (0) |
0 (0) |
3 (3) |
0 (0) |
23 (17) |
注(1) | ( )内は公共公益施設のみによって整備された地区で内書きである。 |
注(2) | 地区数、延長については、一部重複地区があるため、合計において一致しないものがある。 |
3 本院の所見
国土交通省では、計画規模の洪水による災害を未然に防ぐため、従来から一般河川改修事業等を進めているところである。6河川の高規格堤防要整備区間における一般河川改修事業等の実施状況についてみると、通常堤防整備の進ちょく率は完成堤防57.3%、暫定完成堤防26.1%などとなっていて、治水上、早期の完成が望まれる。一方、超過洪水に対しては高規格堤防整備事業を実施することにより、大都市地域における治水安全度の向上を図ることとしているが、同事業は土地区画整理事業や民間開発事業等の都市型事業との共同事業により実施する方法が採られていることなどから、その実施に当たっては、必ずしも治水上の重要度を判断する指標の一つである想定被害額に対応したものとはなっていない面が見受けられた。
このため、高規格堤防整備事業について、その投資効果を早期かつ最大限に発現させ事業がより効果的かつ効率的なものとなるよう、国土交通省において、次のような方策を講じることが望まれる。
(1)一般河川改修事業等と高規格堤防整備事業の実施について
6河川においては、通常堤防の早期の完成を目指すなど、一般河川改修事業等の一層の進ちょくを図ることにより、計画規模の洪水による災害の未然防止に努めることとし、高規格堤防整備事業の計画の策定に当たっては、一般河川改修事業等の進ちょくを踏まえつつ、想定被害額が大きいなど治水上重要な箇所を明確にし、当該箇所において整備をより一層重点的に実施するなど、地区ごとの位置付けを明確にしていくよう沿川自治体等との協議を進めること
(2)高規格堤防整備事業の実施体制について
〔1〕 高規格堤防整備事業の実施に当たっては、土地区画整理事業や民間開発事業等の都市型事業との共同事業が、河川整備計画により明確にされた想定被害額が大きいなど治水上重要な箇所において進展するよう、これまで以上に沿川自治体等に働きかけるなど種々の方策を沿川自治体等と協議、検討すること
〔2〕 市街化調整等区域については、都市型事業を共同事業とする現在の整備手法では高規格堤防整備の実施がほとんど期待できない状況であることから、当該区域のうち想定被害額が大きいなど治水上重要な箇所について事業が進展するよう、沿川自治体、農業関係機関を交えるなどして、整備手法の一層の協議、検討を進めること