会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)矯正官署 | (項)矯正収容費 |
部局等 | 15刑事施設 | ||
刑事施設における医薬品の調達の概要 | 刑事施設の被収容者に対する診療を行うために、平成19年度に医薬品を調達するもの | ||
上記の15刑事施設における医薬品の調達額 | 5億1549万余円 | ||
(1)医薬品の調達をすべて随意契約で行っていた6刑事施設における調達額 | 9179万円 | ||
(2)同等品を調達することにより節減できた調達額 | 5208万円 | ||
上記(1)、(2)の純計 | 計1億3559万円 |
(平成20年10月22日付け 法務大臣あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省の施設等機関である刑務所、拘置所等の刑事施設は、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(平成17年法律第50号。以下「処遇法」という。)により、懲役、禁錮(こ)又は拘留の刑の執行のため拘置される者等(以下「被収容者」という。)を収容して、必要な処遇を行うこととされている。
刑事施設においては、処遇法に基づき、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らして適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずることとされている。そして、刑事施設の職員である医師又は歯科医師(以下、両者を合わせて「医師」という。)は、被収容者が疾病にかかっているときなどは、速やかに診療を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとされており、すべての刑事施設において、被収容者に対する医療費は、一部を除き全額国が負担することとされている。
なお、刑事施設は、比較的軽微な疾病、短期的な疾病等に対する基本的、総合的な医療を行っているものが大部分であり、難治性疾患等の治療を行う、いわゆる先端的な医療は行われていない。
保険医療機関が使用する医薬品は、当該医療機関に設置された委員会等で比較検討等が行われて決定されているが、刑事施設における医薬品の調達方法は、次のとおりとなっている。
〔1〕 医師が自己の臨床経験等から医薬品を指定して、医療従事者は、医薬品の在庫量等から判断して必要と認められる医薬品を物品供用官に対して請求する。
〔2〕 物品供用官は、物品管理官に対して物品管理法(昭和31年法律第113号)第20条第1項等の規定に基づき払出請求を行い、保管物品の中に請求された医薬品がない場合等には、物品管理官は契約等担当職員に対して、同法第19条第1項等の規定に基づき取得措置請求を行う。
〔3〕 取得措置請求を受けた契約等担当職員は、会計法(昭和22年法律第35号)等の関係法令に基づいて、医薬品の取得のための手続を行う。
上記の手続は、法務省所管物品管理事務取扱規程(昭和41年法務省経甲(主)第556号訓令。以下「物品規程」という。)に定められた「供用物品請求書・物品取得請求書・物品取得通知書」(以下「取得請求書」という。)に所要の事項を記載して行うこととされている。
厚生労働省は、医薬品のうち新しい有効成分、効能、効果を有していて、臨床試験等により有効性や安全性が確認されて承認された医薬品を「新医薬品」、新医薬品と有効成分、分量、用法、用量、効能及び効果の点で同一性を有する医薬品を「後発医薬品」、後発医薬品がある新医薬品を「先発医薬品」としている。
また、医薬品の名称には、薬効成分となる化学物質の名称である「一般名」と各製造販売業者等が薬事法(昭和35年法律第145号)に基づき承認審査を受けて販売する際の名称である「商品名」とがあり、各医薬品には両方の名称が付けられていて、先発医薬品の同等品である後発医薬品には先発医薬品と同一の一般名が付けられている。
医薬品の薬価は、保険医療機関又は保険薬局が薬剤に係る診療報酬を請求する際の算定の基礎となる価格であり、厚生労働省がこれを定めた上で告示することになっている。このうち後発医薬品の薬価は、その薬価が初めて告示される場合には、先発医薬品の薬価に0.7を乗じて算定した価格とするなどとされており、先発医薬品の薬価より低くなるのが一般的である。また、医薬品の調達額は薬価より低くなるのが一般的である。
厚生労働省は、日本製薬団体連合会(注1)
会長に対して、平成18年3月に、後発医薬品の安定供給に関する通知を発したり、19年3月に、後発医薬品の情報提供体制の整備等について周知徹底を図る通知を発したりして、保険医療機関等が後発医薬品の使用を促進できるような環境を整えることとしている。
さらに、政府は、19年6月の「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月閣議決定)において、医療・介護サービスについて、質の維持向上を図りつつ、効率化等により供給コストの低減を図るとして、後発医薬品の使用促進については、「24年度までに、後発医薬品の数量シェアを30%(現状より倍増)以上とする」という目標を掲げている。そして、厚生労働省は、20年4月から、投薬を行うに当たっては、後発医薬品の使用を考慮するように努めなければならないなどとして、保険医療機関に対して後発医薬品の使用を促している。
刑事施設は全国に75施設設置されていて、19年12月末における被収容者数は約7万2千人に上っている。そして、同施設は、医療法(昭和23年法律第205号)上の診療所等として被収容者に対する診療を行うために多量の医薬品や医療資材等を調達しており、19年度に調達した医療に用いる医薬品は、計19億5124万余円と多額に上っている。
そこで、本院は、15刑事施設(注2)
において、合規性、経済性等の観点から、これらの医薬品が会計法令に従って適切に調達されているか、より経済的な調達方法はないかなどに着眼して、19年度に調達した医薬品のうち薬価が告示されている医薬品の調達額計5億1549万余円を対象として会計実地検査を行った。そして、検査に当たっては、医薬品の調達に係る契約書等の書類を確認するなどした。
検査したところ、次のような状況となっていた。
前記のとおり、15刑事施設における19年度の医薬品の調達額は、延べ3,466品目、5億1549万余円となっている。
このうち9刑事施設(注3)
は、一部の医薬品を除き一般競争入札を行い、品目ごとに最も安い単価を入札した業者と単価契約を締結していた。これに対して、6刑事施設(注4)
においては、19年度の医薬品の調達額が計9179万余円あるものの、1回の契約での調達が少量のため契約金額が少額であることから、すべての契約において特定の複数業者から見積書を提出させるなどして、最も安い見積書を提出した業者と会計法令の規定に基づき、随意契約を締結していた。
しかし、上記の9刑事施設が一定期間内に調達する医薬品を取りまとめた上で一般競争入札により医薬品を調達していること及び会計法令が競争契約を原則としていることなどを踏まえると、随意契約を締結していた6刑事施設においても、一定期間内に調達する医薬品を取りまとめた上で一般競争入札により医薬品を調達すべきであり、19年度に調達した医薬品(調達額計9179万余円)についてすべて随意契約を締結していたのは適切とは認められない。
15刑事施設における19年度の医薬品の調達実績は、次表のとおりである。そして、調達した医薬品の価格より薬価の低い同等品がないものが、延べ2,426品目、3億3890万余円あるが、調達した医薬品の価格より薬価の低い同等品があるもの、延べ1,040品目、1億7659万余円のうち、先発医薬品を調達しているものが、延べ865品目、1億4623万余円あり、調達品目延べ3,466品目の約25%に達していた。
調達区分 | 延べ品目数 | 調達額(円) | |
調達した医薬品の価格より薬価の低い同等品があるもの | 1,040 | 176,597,977 | |
上記のうち、先発医薬品を調達しているもの | 865 | 146,235,986 | |
調達した医薬品の価格より薬価の低い同等品がないもの | 2,426 | 338,901,404 | |
合計 | 3,466 | 515,499,381 |
このうち、13刑事施設(注5)
における医薬品の調達方法についてみると、物品供用官は、取得請求書の記載に当たり、品目欄に、医療従事者から請求を受けた医薬品の「商品名」を記載していた。そして、この取得請求書は、物品管理官を経て契約等担当職員に回付されて、契約等担当職員は、取得請求書の品目欄に「商品名」が記載されていたことから、そのまま当該「商品名」の医薬品を調達していた。
上記についての事例を示すと、次のとおりである。
A刑務所の契約等担当職員は、平成19年7月に、同刑務所の物品供用官が記載した取得請求書の品目欄に後発医薬品である「B」という商品名が記載されていたことから、「B」を1錠当たり3円84銭で調達していた。そして、この契約等担当職員は、同月に、同刑務所の別の物品供用官が記載した取得請求書の品目欄に「C」(「B」の先発医薬品)が記載されていたことから、「C」を1錠当たり12円14銭で調達していた。
上記のように、物品供用官が取得請求書の品目欄に「商品名」を記載した場合は、その商品名を指定したことになり、記載した商品名の医薬品に比べて価格の低い医薬品があるにもかかわらず、より経済的に医薬品を選定することについて検討が行われていない状況となっていた。
一方、2刑事施設(注6)
では、取得請求書における品目欄の記載に当たり、医師の判断が示された医薬品以外については、一般名を記入するなどして、「商品名」を特定しない取扱いとなっていた。このような調達方法を採っている2刑事施設においては、納入業者に在庫がない場合等を除いて同等品である後発医薬品を調達していた。
上記についての事例を示すと、次のとおりである。
D刑務所は、医薬品の調達に関して、物品規程で定められた取得請求書のほかに、医薬品の「一般名」欄、医薬品を例示するための「商品名例」欄、「薬品指定の有無」欄等が設けられている同刑務所独自の様式を作成していた。そして、医師が医薬品の商品名を指定しない場合には、物品供用官は、「薬品指定の有無」欄に「無」と記入することになっており、記入された書類は、物品管理官を経て契約等担当職員に回付されて、回付を受けた契約等担当職員は、同一の一般名が付けられた複数の医薬品から選択して調達できるようになっていた。
そこで、医薬品の調達に当たって、取得請求書に「一般名」を記載したり、同等品を選択できるようにしたりすると、19年度に調達した先発医薬品のうち同等品があるものについて、最も高い同等品の薬価により調達することとした場合でも、医薬品の調達に要する額は計9415万余円となり、調達額計1億4623万余円に比べて、5208万余円節減できたと認められる。
(注3) | 9刑事施設 千葉、府中、岡崎医療、三重、加古川、岡山、大分各刑務所、播磨社会復帰促進センター、東京拘置所
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(注4) | 6刑事施設 函館少年、秋田、栃木、川越少年、松山、佐世保各刑務所
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(注5) | 13刑事施設 函館少年、秋田、千葉、府中、川越少年、岡崎医療、三重、加古川、岡山、松山、大分各刑務所、播磨社会復帰促進センター、東京拘置所
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(注6) | 2刑事施設 栃木、佐世保両刑務所
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医薬品の調達に当たり、契約方式を随意契約で行っていたり、医師が医療上の必要性に基づく場合以外にも取得請求書に医薬品の商品名を記載していて、調達品目が限定されていたりして調達額が割高となっている事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 一般競争契約により医薬品を調達することについて、刑事施設の契約等担当職員の会計法令に対する認識が十分でなかったこと
イ 刑事施設において、取得請求書が先発医薬品を特定するような「商品名」を記載する様式になっていること、物品供用官等が医薬品に係る同等品についての十分な認識を有していなかったり、安定供給や情報不足に関する不安があったりして、後発医薬品が調達されるような方式を積極的に採っていないこと、また、貴省において、各刑事施設における取得請求書の記載について、十分な指導を行っていないこと
刑事施設では、被収容者の収容人員が収容定員を上回る状態が継続していることや被収容者の高齢化が進んでいることなどにより、今後、更に診療の対象となる者が増加していくものと考えられ、これに伴い、医薬品の調達量も増加することが見込まれる。また、後発医薬品については、安定供給が可能となるような方策を採ることとされているとともに、製薬会社の供給の状況についても情報が提供されている。そして、刑事施設の医療は、一部を除き全額国費をもって賄われていることから、経費の節減を図るため、医薬品の調達方法について検討が必要と認められる。
ついては、刑事施設における医薬品の調達に係る経費の節減を図るため、次のとおり是正改善の処置を求める。
ア 随意契約を締結している刑事施設は、会計法令に基づき、契約の競争性等が確保できるよう、原則として、一般競争入札による契約を行うこと
イ 刑事施設において、医師が医療上の必要に基づいて特定の医薬品を使用する場合以外は、取得請求書の品目欄に薬効成分の「一般名」を指定した上、選択可能な同等品を併せて記載するなどして、同等品を含めて医薬品を広く選定できる方法を採ること、物品供用官等が医薬品に係る同等品についての十分な認識を持ったり、後発医薬品に対する不安を解消したりするよう、物品供用官等に対して研修、情報提供等を行うこと、また、貴省において、各刑事施設における取得請求書の記載について、十分な指導を行うこと