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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

政府開発援助の実施に当たり、外務省及び独立行政法人国際協力機構において、援助の効果が十分発現するよう意見を表示したもの


政府開発援助の実施に当たり、外務省及び独立行政法人国際協力機構において、援助の効果が十分発現するよう意見を表示したもの

所管、会計名及び科目 (1) 外務省所管 一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費
(2) 独立行政法人国際協力機構 一般勘定
(3) 国際協力銀行 海外経済協力勘定(平成11年9月30日以前は海外経済協力基金。20年10月1日以降は独立行政法人国際協力機構有償資金協力勘定)
部局等 (1) 外務本省
(2) 独立行政法人国際協力機構(平成15年9月30日以前は国際協力事業団)
(3) 国際協力銀行(平成11年9月30日以前は海外経済協力基金。20年10月1日以降は独立行政法人国際協力機構)
政府開発援助の内容 (1) 無償資金協力
(2) 技術協力
(3) 円借款
検査及び現地調査の実施国数、事業数及びこれらの事業に係る贈与額計、経費累計額又は貸付実行累計額 (1) 10か国 65事業 390億2081万余円 (平成8年度〜17年度)
(2) 7か国 19事業 117億5868万余円 (平成8年度〜17年度)
(3) 5か国 17事業 3635億0354万余円 (昭和59年度〜平成12年度)
援助の効果が十分発現していないと認められる事業の実施国数、事業数及びこれらの事業に係る贈与額計又は貸付実行累計額 (1) 2か国 2事業 10億0041万円 (背景金額)
(平成13年度〜15年度)
21億4813万円 (背景金額)
(平成13年度〜15年度)
(3) 1か国 2事業 107億7948万円 (背景金額)
(平成4年度〜9年度)
131億4477万円 (背景金額)
(平成6年度〜11年度)

【意見を表示したものの全文】

 政府開発援助の効果の発現について

(平成20年10月31日付け  外務大臣  あて)
 独立行政法人国際協力機構理事長

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 政府開発援助の概要

 我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。その援助の状況は、地域別にみるとアジア、中東及びアフリカ地域に重点が置かれている。また、分野別にみると教育、水供給及び衛生、運輸及び貯蔵、エネルギー、農林水産業、環境保護等の各分野となっている。
 そして、我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成19年度の実績は、無償資金協力(注1) 1576億9559万余円、技術協力(注2) 821億4273万余円、円借款(注3) 6937億5080万余円(注4) 等となっている。

(注1)
 無償資金協力  開発途上にある海外の地域又は国の経済及び社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもの
(注2)
 技術協力  開発途上にある海外の地域又は国の経済及び社会の開発に役立つ技術、技能、知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、技術研修員受入、専門家派遣、機材供与等を行うもの
(注3)
 円借款  開発途上にある海外の地域又は国の経済及び社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として長期かつ低利の資金を貸し付けるもの
(注4)  債務繰延べを行った額99億0026万余円を含む。

2 本院の検査及び現地調査の結果

(検査及び現地調査の観点、着眼点及び対象)

 本院は、政府開発援助について、外務省が実施している無償資金協力、独立行政法人国際協力機構(平成15年9月30日以前は国際協力事業団。以下「機構」という。)が実施している技術協力及び国際協力銀行(平成11年9月30日以前は海外経済協力基金。以下「銀行」という。)が供与している円借款等(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、外務省、機構及び銀行(以下「援助実施機関」という。)において、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査を実施した。
〔1〕 援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が援助の相手となる開発途上にある海外の地域又は国(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分検討しているか。
〔2〕 援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、援助の実施に当たり公正な競争に関する国際約束の的確な実施は確保されているか、また、資金の供与等は法令、予算等に従って適正に行われているか。
〔3〕 援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体の進ちょく状況を的確に把握して、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。
〔4〕 援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
 また、相手国における事業の実施状況を中心に、有効性等の観点から次の点に着眼して現地調査を実施している。
〔1〕 事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。
〔2〕 援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合、その関連事業の実施と、は行等が生じないよう調整されているか。
〔3〕 援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は、当初計画したとおりに十分利用されているか。
〔4〕 事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。
 なお、20年10月1日の独立行政法人国際協力機構法の一部を改正する法律(平成18年法律第100号)の施行に伴い、無償資金協力は、機動的な実施の確保等の必要に基づき外務省が自ら実施するものを除き、機構が実施することとなり、また、円借款は、銀行の海外経済協力業務を承継した機構が実施することとなった。

(検査及び現地調査の方法)

 本院は、国内において、外務本省、機構本部及び銀行本店に対して会計実地検査を行うとともに、海外において、在外公館、機構の在外事務所及び銀行の駐在員事務所に対して会計実地検査を行った。
 一方、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか、事業が計画どおりに進ちょくしているかなどを確認するためには、援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院は、調査を要すると認めた事業について、相手国に職員を派遣して、援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどした。また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合には、援助実施機関を通じて入手した。

(検査及び現地調査の結果)

(1) 現地調査の対象及び実施概況

 本院は、20年次に、上記の検査の観点、着眼点、対象及び方法で、検査を実施して、その一環として、10か国において次の101事業について現地調査を実施した。
〔1〕 無償資金協力の対象となっている事業のうち65事業

(贈与額計390億2081万余円)

〔2〕 技術協力事業のうち技術協力プロジェクト(注5) 19事業

(19年度末までの経費累計額117億5868万余円)

〔3〕 円借款の対象となっている事業のうち17事業

(19年度末までの貸付実行累計額3635億0354万余円)

 上記101事業を分野別にみると、運輸及び貯蔵14事業、農林水産業14事業、保健10事業、教育9事業、その他社会インフラ及びサービス7事業等となっており、その国別の現地調査実施状況は、次表のとおりである。

 国別現地調査実施状況

国名 調査
事業数
援助形態別内訳
無償資金協力 技術協力プロジェクト 円借款
事業数 援助額
(億円)
事業数 援助額
(億円)
事業数 援助額
(億円)
ガーナ 15 8 83 5 30 2 135
インド 13 4 21 1 4 8 1,847
マケドニア 9 8 32 1 0
マレーシア 13 6 1 4 43 3 1,032
モロッコ 9 4 19 4 16 1 134
モザンビーク 6 6 65
サモア 12 12 68
ウクライナ 5 5 1
ウズベキスタン 9 5 19 1 9 3 485
ザンビア 10 7 78 3 13
101 65 390 19 117 17 3,635

 技術協力プロジェクト  技術協力の中核をなすもので、技術研修員受入、専門家派遣、機材供与等の事業を組み合わせたプロジェクトとして平成14年度から実施されている。13年度までは、プロジェクト方式技術協力として実施されていた。

(2) 検査及び現地調査の結果

 検査及び現地調査を実施したところ、次の事業については、援助の効果が十分発現していないと認められた。

ア 無償資金協力事業

(ア) 小中橋梁(りょう)建設計画

a 事業の概要

 この事業は、ガーナ共和国(以下「ガーナ」という。)地方部における住民の生活改善及び地域経済の振興のため、支線道路の18か所に、橋りょうを整備するものであり、外務省は、これに必要な資金として13年度から15年度までの間に計10億0041万余円を贈与している。
 上記18か所の橋りょうのうち13か所について、外務省は、ガーナの事業実施能力等を勘案の上、橋りょうの架設要領書の作成、架設の現場研修等の技術支援及び橋りょうの資機材の調達を我が国の援助の対象として実施しており、橋台の施工、橋桁(けた)の架設、工事完成後の維持管理等はガーナの負担で実施されている(以下、このような技術支援及び資機材の調達だけを対象とする援助を「資材調達型の援助」という。)。資材調達型の援助においては、ガーナが工事を行うことから、外務省は、工事の完成時の確認を行うことにしていない。なお、上記の技術支援は、我が国が7年度にガーナに対して橋りょう建設に必要な資機材の調達について援助した際に、資機材の配送誤り及び管理不備、ボルトの締付け不良等の事態が発生したことなどを受けて、本件事業の実施に際して新たに導入したものである。

b 検査及び現地調査の結果

 資材調達型の援助により建設された橋りょう13か所のうち1か所を選定して検査及び現地調査を実施したところ、次のような状況となっていた。
 ボルタ州に建設されたS−19橋りょう(19年1月完成。橋長15.6m、幅員4.2m。資機材の価格8,899,000円)は、ガーナが、鉄筋コンクリート製の逆T式の橋台を築造して、その上部に我が国の無償資金協力により調達した長さ約15mのトラス式の鋼製橋桁を架設したものである。基本設計調査時の図面等によれば、トラス式の鋼製橋桁は、トルクレンチ等を用いて高力ボルト(注6) により鋼製の部材を結合する構造となっている。そして、これら部材のうち、左右両岸の橋台との接合部にあって、主桁を構成する板状の鋼材同士を結合して補強したり、主桁と横桁の一部を結合したりする溝型鋼は、右岸側上下流2か所の結合部の内側と外側に各4本、左岸側上下流2か所の結合部の内側と外側に各4本、計32本の高力ボルトによって結合されることになっていた(参考図 参照)。
 しかし、左岸側の橋台と鋼製橋桁との接合部に設置される4か所の高力ボルトのうち、下流側の結合部の外側に設置される1か所の高力ボルトについては4本あるべきものが1本も設置されておらず、他の3か所の高力ボルトについても1本のみとなっていたものが1か所、2本のみとなっていたものが2か所となっており、計16本中11本が欠落していた。
 また、橋桁の接合部のうち、橋台と直接接する支承部は、橋桁等の荷重を確実に橋台に伝達して、風、温度変化、地震等に対して安全であることが求められており、ガーナは、本件橋りょうにおいて両岸の橋台の上流側及び下流側に支承を計4か所設置していた。そして、各支承の内側と外側各1か所、計8か所にアンカーボルトを通して、これらをナットで締め付けることによって橋桁を橋台に固定することにしていた。しかし、左岸側の橋台のアンカーボルト4か所のうち、固定状況を触手により確認することができた外側の2か所については、いずれも容易に手でナットが外せるほど締付けが不足しており、特に下流側のナットは浮き上がっていた。
 外務省は、資材調達型の援助により建設された橋りょうについて、工事の完成時に出来型の確認を行うことにしていなかったため、本院が現地調査を実施するまでこのような事態を把握していなかった。
 以上のとおり、本件事業により建設されたS−19橋りょうは、高力ボルトが多数欠落していたり、アンカーボルトのナットの締付けが著しく不足していたりしていて、安全性及び耐久性が損なわれている事態であり、援助の効果が十分に発現していないと認められる。

 高力ボルト  高張力鋼で作られたボルトで、接合しようとする材と材を強く締め付けて、接合面の摩擦力によって両者を固定するもの。

c 改善を必要とする事態

 上記のように、資材調達型の援助により建設された橋りょうの安全性及び耐久性が損なわれていて援助の効果が十分に発現していない事態は、我が国援助実施機関として必要な措置を講ずるなどの改善の要があると認められる。

d 発生原因

 このような事態が生じているのは、外務省が、資材調達型の援助について、技術支援及び橋りょうの建設に必要な資機材の調達を実施した後の援助の効果の確認として、工事完成時に出来型の確認を行うことにしていなかったことなどによると認められる。

(参考図)

トラス式鋼製桁橋りょう概念図

トラス式鋼製桁橋りょう概念図

(イ) ショクエ灌漑(かんがい)システム改修計画

a 事業の概要

 この事業は、モザンビーク共和国(以下「モザンビーク」という。)のショクエ灌漑(かんがい)システムの最上流部にある取水口、水位調整堰(せき)、水路横断施設等で構成される14.3kmの幹線水路を改修するものである。
 外務省は、これに必要な資金として13年度から15年度までの間に計21億4813万余円を贈与している。
 同システムは、受益面積が26,030haあり、上記の幹線水路のほかに、取水堰(せき)、一次水路(延長84km)、二次水路(延長269km)、三次水路(延長1,218km)及び排水路から成っている。
 同システムは、経年により施設が老朽化したことや12年2月に発生した大洪水により被害を受けたことから機能が大きく低下したため、モザンビークは、同年5月の援助国・機関会合の席上、同システムを改修するための協力を要請した。これを受けて、我が国が幹線水路の改修を、我が国以外の援助国・機関(以下「関係国」という。)が取水堰及び幹線水路以外の水路の改修等を支援するという基本方針が固められた。そして、関係国の支援を受ける改修工事は16年までに着手されて、19年までに終えることとされており、我が国を含む援助国間の協調を図る場として、月に一回程度開催されている農業分野の作業部会等において、幹線水路以外の水路等の改修工事が予定どおり実施されるよう援助国間の調整が図られることになっていた。

b 検査及び現地調査の結果

 検査及び現地調査を実施したところ、次のような状況となっていた。
 外務省が無償資金協力の対象とした幹線水路は、確保される流量として取水口から水位調整堰までが45.5m /s、水位調整堰から幹線水路終点までが43.0m /sとそれぞれ計画されており、15年10月に、ほぼ計画どおり改修が完了して、同システムの受益面積にかんがい用水を供給できるだけの機能を有していた。
 しかし、モザンビークの事業実施機関の説明によれば、幹線水路以外の水路等の改修が計画より遅れて一部しか完了していないことから、受益面積26,030haのうち、20年1月の本院の現地調査時において、かんがい用水を供給することができる面積は、7,000haにとどまっているとのことであった。このため、幹線水路の流量を計画の3分の1程度に当たる15.0m /sに調整しているとのことであった。
 そして、外務省は、現在も引き続きモザンビークに対して幹線水路以外の水路等の整備を進めるよう求めるとともに、これまで支援表明を行っていない国や機関にも参加を求めているとしているが、幹線水路以外の水路等が完成して、同システムが全体として機能するようになる時期は、現在のところ、明確には把握できていないとしている。

c 改善を必要とする事態

 以上のとおり、外務省が無償資金協力の対象とした施設の改修は完了しているものの、関係国の支援により行うこととされている施設の改修が遅れていることから、かんがい用水を供給することができる面積が計画を大きく下回っており同システムが効果を十分発揮していない事態は、我が国援助実施機関として必要な措置を講ずるなどの改善の要があると認められる。

d 発生原因

 このような事態が生じているのは、外務省、モザンビーク及び関係国間の綿密な調整が不可欠であったのに、その調整が十分でなかったことなどによると認められる。

イ 円借款事業

(ア) ベイスンブリッジ火力発電所建設事業

a 事業の概要

 この事業は、インド南部に位置するタミールナド州チェンナイ(旧マドラス)市に、主に朝方、夕方の電力需要ピーク時に発電を行い、電力の安定供給による民生の向上、経済の活性化を図ることを目的として、ナフサ(石油の精製過程でガソリンと灯油の中間にできる粗製のガソリン)を燃料とした新たな火力発電所として、ガスタービン発電機4基及びその関連諸施設を建設するものである。
 銀行は、これに必要な資金として5年3月から10年3月までの間に計107億7948万余円を貸し付けている。
 銀行は、本件事業について、11年11月に事後評価を実施して、インドの事業実施機関であるタミールナド州電力庁(以下「TNEB」という。)等と協議するなどした上で、12年3月にその結果を公表している。また、17年1月に事後モニタリングを実施して、TNEB等と協議するなどした上で、18年1月にその結果を公表している。このうち事後評価報告書によると、同発電所の年間実績発電量は、運転開始初年の10年では77GW(ギガワット。1GW=1,000MW(メガワット))h、11年では165GWhであり、年間計画発電量172.8GWhに対する割合は、10年では44.6%であったが、11年では95.4%とほぼ計画どおりとなっていた。しかし、事後評価の5年後に実施した事後モニタリングの報告書によると、計画に対する実績の割合は12年度107.6%、13年度98.9%、14年度180.5%となっており、14年度までは順調に稼働していたが、ナフサ価格の高騰により、その割合は15年度46.2%、16年度25.4%となり、実績が計画を下回っていた。そして、同報告書は、教訓及び持続性確保のための提言として、次のことに言及している。
〔1〕  ナフサ使用のプラントの運転費用は他のプラントの運転費用と比べて高いので、使用燃料をナフサから天然ガスに切り替えれば、運転費用が低減できること
〔2〕  将来、天然ガスの供給が受けられるか、液化天然ガス(以下「LNG」という。)貯蔵施設が建設されれば、本発電所の燃料を転換して、発電方式をコンバインドサイクル発電(注7) 所に転換して、常時発電することが可能になること
 そして、銀行は、事後評価及び事後モニタリングを実施することのほか、事業実施後必要に応じて現状の把握に努めて、可能な範囲で助言をするなどの事後監理を実施することにしており、本件事業についても、事後監理を行っているとしている。

 コンバインドサイクル発電  ナフサ及びLNGを燃料として用い高温でガスタービンを回転させて内燃力発電を行い、その排熱を利用して蒸気タービンを回転させて汽力発電を行う複合発電

b 検査及び現地調査の結果

 検査及び現地調査を実施したところ、次のような状況となっていた。
 同発電所においては、30MWのガスタービン発電機4基を運転することにより1時間当たりの発電量を120MW、1日当たり朝夕計6時間の運転を年間240日稼動させることにより年間の運転時間を1,440時間として、これにより、年間計画発電量を、前記のとおり、172.8GWhと算定していた。
 同発電所の事後モニタリング後の年間実績発電量は、17年度39.8GWh、18年度56.5GWhとなっており、年間計画発電量に対する割合は17年度23.0%、18年度32.7%となり、稼働の実績が計画を大幅に下回っていた。この理由について、TNEBの説明によると、20年1月の本院の現地調査時において、ナフサ価格の高騰により、本発電所にある4基のガスタービン発電機の一部の発電機の運転を抑制するなどの制限を行っており、このような状況は、ナフサの価格が急騰した15年以降続いているとのことであった。そして、銀行を通じてTNEBに確認したところ、19年度の年間実績発電量は63.3GWh、年間計画発電量に対する割合は36.6%となっており、17、18両年度と同様の稼働状況となっていた。
 このような事態に対して、事後モニタリング報告書で言及されていたとおり、発電方式をコンバインドサイクル発電に転換すれば、現在発電燃料として使用しているナフサは発電開始時に少量使用するのみで足りることになり、燃料の大部分をナフサに比べて安価なLNGに切替えることが可能となる。しかし、20年1月の本院の現地調査時において、TNEBは、コンサルタント雇用のための準備を進めているとしているものの、契約の締結等、同報告書で言及されていた教訓及び提言を踏まえた具体的な対応を執っていなかった。
 そして、TNEBは、22年を目途に発電方式をコンバインドサイクル発電へ転換させるため、本院の現地調査後の20年4月にインド国内の企業とコンサルタント雇用契約を締結して、事業のフィージビリティ(実現可能性)の確認調査、詳細設計、環境影響評価の実施、入札図書の準備、業者選定支援等を実施させている。今後の計画として、事業のフィージビリティが確認されれば、工事は約1年半程度の工期で完成するため、施工業者の選定を経てTNEBが完成の目途としている22年には、新たな方式で発電が可能になるとしている。この計画のとおり、コンサルタント雇用契約締結からコンバインドサイクル発電方式への転換に2年程度の期間が必要になるとしても、銀行とTNEBにおいて、事後モニタリング調査時の協議後、フィージビリティが確認されて速やかに対応していたとすれば、同発電所においては、20年以降新たな発電方式による発電が可能になっていたと考えられる。

c 改善を必要とする事態

 円借款事業で実施した施設の稼働の実績が、ナフサ価格の高騰により、15年度以降計画を大幅に下回っていて援助の効果が十分に発現していない事態は、我が国援助実施機関として必要な措置を講ずるなどの改善の要があると認められる。

d 発生原因

 このような事態が生じているのは、銀行において、17年1月に実施した事後モニタリングで得られた教訓及び提言を踏まえた積極的な協議、助言が行われていたとしているが、必ずしも十分でなかったことなどによると認められる。

(イ) ウドヨガマンダル肥料工場アンモニアプラント近代化事業

a 事業の概要

 この事業は、インドにおいて、ケララ州ウドヨガマンダル地区に国営肥料会社であるFACT(The Fertilisers And Chemicals Travancore Limited)を相手国事業実施機関として、アンモニアプラント1基等を建設するものである。
 銀行は、これに必要な資金として、6年10月から11年4月までの間に計131億4477万余円を貸し付けている。
 そして、銀行は、本件事業については、13年8月に事後評価調査を実施して、14年3月に事後評価報告書を公表しており、その中で次のことに言及している。
〔1〕  アンモニア事業の稼働実績は12年度において、生産能力(29.7万t/年)を超える約29.8万t/年に達しており、アンモニアを原料とする硫酸アンモニウム等の生産は目標値を超えた実績を上げている。
〔2〕  アンモニアの原料のナフサが、10年にインド政府の管理価格制度の対象から除外されて、その後ナフサの価格が高騰したこと、同国における肥料助成政策が見直されて、硫酸アンモニウム等の肥料については助成が得られなくなったことなどにより、FACTの財務状況が悪化している。
〔3〕  〔2〕 のことから、FACTは、生産コストを下げるため、原料をナフサからLNGに転換して原料費を削減することを試みるなどしている。
〔4〕  事後評価の教訓として、相手国政府の統制価格及び原料の国際市場価格のように経済の状況により変動するものは、相手国事業実施機関が管理できるものではないが、場合によって事業の妥当性や根拠を覆す要因となることから、案件形成時や審査時において詳細な調査と検討を行う必要がある。
 また、銀行は、事後評価を実施することのほか、事業実施後必要に応じて現状の把握に努めて、可能な範囲で助言をするなどの事後監理を実施することにしており、本件事業についても、事後監理を行っているとしている。

b 検査及び現地調査の結果

 検査及び現地調査を実施したところ、次のような状況となっていた。
 事後評価の報告後の13年度から18年度までのアンモニアの生産量は、約21.1万t/年から約24.9万t/年と、計画値29.7万t/年に対しておおむね順調であった。しかし、アンモニアの原料となるナフサの価格は、14年度以降高騰を続けて、FACTの説明によれば、17年度には本件事業におけるプラントの採算の限界となる1トン当たり20,000ルピー(邦貨換算額47,000円。為替レートは17年度出納官吏レートによる。)を超えて、19年度の第1四半期には1トン当たり29,000ルピー(邦貨換算額73,370円。為替レートは19年度出納官吏レートによる。)を超えるなど、その後も高騰を続けたとしている。その結果、前記のとおり、ナフサを原料とするアンモニアの生産コストが上昇するとともに、硫酸アンモニウム等の肥料に対するインド政府の助成が得られなくなるなどの状況となったことから、FACTは、19年7月に、本件事業におけるプラントの稼働を停止していた。
 FACTは、生産コストを下げるため、23年度を目途にアンモニアの原料をナフサからLNGへ転換するとしているが、20年1月の本院の現地調査時において、LNG導入のための契約を締結するまでには至っておらず、LNGに転換して原料費を削減することを検討しているとした事後評価調査時点から約7年が経過しているにもかかわらず、依然として原料の転換が実現していなかった。
 また、本院は、銀行が審査時において、インド政府が助成金の削減を行っていることなど当時の肥料セクターの問題点について検討を行っていたことを確認できたが、原料となるナフサの政府統制価格並びに国際市場価格の動向等に関する詳細な調査及び検討を行ったか否かについては、確認できなかった。

c 改善を必要とする事態

 円借款事業で実施した施設の稼働が、ナフサ価格の高騰等により、19年7月以降停止していて援助の効果が十分に発現していない事態は、我が国援助実施機関として必要な措置を講ずるなどの改善の要があると認められる。

d 発生原因

 このような事態が生じているのは、銀行において、13年8月に実施した事後評価で得られた教訓及び提言を踏まえた積極的な協議、助言が行われていたとしているが、必ずしも十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

 政府開発援助の効果が十分発現するよう、次のとおり意見を表示する。

(1) 小中橋梁建設計画のような資材調達型の援助においては、外務省は、出来型の確認を行うことにしていなかった。
 ついては、小中橋梁建設計画の事態を踏まえ、外務省及び無償資金協力を実施することとなった機構において、資材調達型の援助については、工事の成果物及び技術支援により移転された技術が十分活用されるよう、安全性及び耐久性に配慮して、技術支援をより一層強化するとともに、相手国が行う工事の完成時に、原則として、相手国から写真又は報告書を受理したり、外務省又は機構が現地へ赴いたりして出来型の確認を行うこと

(2) ショクエ灌漑システム改修計画においては、関係国が支援することになっている幹線水路以外の水路等の改修が計画より遅れて一部しか完了していないことから、外務省は、相手国の事業計画に対して多数の国等が関係する場合の関係国等との調整を十分に行う必要がある。
 ついては、ショクエ灌漑システム改修計画の事態を踏まえ、外務省及び無償資金協力を実施することとなった機構において、相手国の事業計画に対して多数の国等が関係する場合には、相手国及び関係国との調整を綿密に行い、関係国の支援を受けて相手国が実施している事業の早期完了に向けその進ちょくが一層図られるよう努めること

(3) ベイスンブリッジ火力発電所建設事業においては、相手国事業実施機関によるナフサからLNGへの転換が図られていなかったことなどの事情もあるが、銀行は、既に完成したプロジェクトの事業効果を十分発現させるため、事業完了後に事後評価及び事後モニタリングを行っていたものの、これらで得られた教訓及び提言を踏まえた積極的な協議、助言が必ずしも十分でなかった。
 ついては、ベイスンブリッジ火力発電所建設事業の事態を踏まえ、銀行の海外経済協力業務を引き継いだ機構において、事後評価及び事後モニタリングで得られた教訓及び提言が十分活かされるよう、相手国事業実施機関と協議を行い、現状の把握及び適時適切な助言を行うなどにより積極的な事後監理に取り組むこと

(4) ウドヨガマンダル肥料工場アンモニアプラント近代化事業においては、相手国事業実施機関によるナフサからLNGへの転換が図られていなかったことなどの事情もあるが、銀行は、既に完成したプロジェクトの事業効果を十分発現させるため、事業完了後も事後評価を行っていたものの、この評価で得られた教訓及び提言を踏まえた積極的な協議、助言が必ずしも十分でなかった。
 ついては、ウドヨガマンダル肥料工場アンモニアプラント近代化事業の事態を踏まえ、銀行の海外経済協力業務を引き継いだ機構において、
ア 事後評価で得られた教訓及び提言が十分活かされるよう、相手国事業実施機関と協議を行い、現状の把握及び適時適切な助言を行うなどにより積極的な事後監理に取り組むこと
イ 今後の案件形成時や審査時において、相手国政府の助成政策及び原料の国際市場価格のような経済状況の動向等について詳細な調査と検討を行うこと