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国立高度専門医療センターにおける診療報酬の請求に当たり、麻酔料等の請求額に過不足があったもの


(93)−(96) 国立高度専門医療センターにおける診療報酬の請求に当たり、麻酔料等の請求額に過不足があったもの

会計名及び科目 国立高度専門医療センター特別会計 (款)病院収入
  (項)診療収入
部局等 3国立高度専門医療センター(4病院)
請求過不足があった診療報酬 麻酔料、手術料等
請求過不足額 請求不足額  50,064,840円 (平成19年度)
請求過大額 31,673,420円 (平成19年度)

1 診療報酬の概要

(1) 診療報酬の算定及び請求

 国立高度専門医療センター(以下「ナショナルセンター」という。)は、がんその他の悪性新生物、循環器病、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾患等に関して、診断・治療、調査・研究及び技術者の研修を行うために病院、研究所等を設置しており、このうち病院では保険医療機関として患者の診療を行っている。
 保険医療機関は、「診療報酬の算定方法」(平成18年厚生労働省告示第92号。以下「厚生労働省告示」という。)等により、診療報酬として医療に要する費用を所定の診療点数(以下「点数」という。)に単価(10円)を乗ずるなどして算定することとなっている。そして、保険医療機関は、健康保険法(大正11年法律第70号)等により、診療報酬のうち患者負担分を患者に請求して、残りの診療報酬については、診療報酬請求書に診療報酬の明細を明らかにした診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して社会保険診療報酬支払基金又は国民健康保険団体連合会に対して請求することとなっている。

(2) 診療報酬の構成

 診療報酬は、厚生労働省告示により、基本診療料と特掲診療料から構成されている。
 このうち、基本診療料は、初診、再診及び入院診療の際にそれぞれ行われる診療行為又は入院サービスの費用等を一括して算定するもので、初診料、再診料、入院料等に区分されている。
 また、特掲診療料は、基本診療料として一括して算定することが妥当でない特別の診療行為に対して、厚生労働省告示において個々に定められた点数により算定するもので、注射料、処置料、手術料、麻酔料等に区分されている。

(3) 麻酔料及び手術料

 麻酔料は、厚生労働省告示により、麻酔の種類ごとに所定の点数が定められている。そして、マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔(注1) (以下「全身麻酔」という。)を、人工心肺を用いて低体温で行う心臓手術で実施した場合には、当該麻酔の点数にその100分の200に相当する点数を加算することとなっている。また、全身麻酔を分離肺換気(注2) による手術で実施した場合は、当該麻酔の点数にその100分の100に相当する点数を加算することとなっている。
 手術料は、厚生労働省告示により、手術の種類ごとに所定の点数が定められている。そして、肺切除術など特定の手術において自動縫合器(注3) を使用した場合は、当該手術の点数に、使用した自動縫合器の個数に応じた点数を加算することとなっている。また、手術において特定保険医療材料(注4) を使用した場合は、当該手術の点数に、当該特定保険医療材料の点数を合算した点数により算定することとなっている。このほか、乳腺(せん)悪性腫瘍(しゅよう)手術において、腋窩(えきか)部等の郭清(注5) を行った場合には、腋窩部等の郭清を行わなかった場合に適用される点数より高い点数を算定することとなっている。

(4) ナショナルセンターにおける診療報酬の請求事務

 ナショナルセンターは、これらの診療報酬請求事務をコンピュータシステムを使用して行っている。すなわち、手術等の診療行為を行った場合には、診療部門は手術名、麻酔の方法、使用した医療機器、特定保険医療材料等を伝票に記入するなどして料金算定部門に送付して、料金算定部門は、この伝票の記載内容をコンピュータに入力するなどして、これにより診療報酬の算定及び請求を行っている。

(注1)
 閉鎖循環式全身麻酔  閉鎖循環式全身麻酔器を用いて、患者の呼気中の炭酸ガスを除去しながら、麻酔ガスと酸素を補給する吸入麻酔法
(注2)
 分離肺換気  全身麻酔中に用いられる換気方法の一つで、右肺と左肺を別々に換気する方法
(注3)
 自動縫合器  胸・腹部臓器の切離と縫合閉鎖を同時に、かつ自動的に行える機器。胸・腹部の手術の際には、1ないし数個使用されることが多い。
(注4)
 特定保険医療材料  厚生労働大臣が手術等の所定点数に合算してその費用を算定することができると定めている特定の保険医療材料で、肝動脈塞栓(そくせん)材、内視鏡用粘膜下注入材等がこれに該当する。
(注5)
 腋窩(えきか)部等の郭清  悪性腫瘍(しゅよう)の転移の可能性があるわきの下などのリンパ節を系統的に切除する手術

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、6ナショナルセンター8病院のうち、3ナショナルセンターの4病院(以下「4病院」という。)において、合規性等の観点から、平成19年度の診療報酬の算定及び請求が適正に行われているかなどに着眼して、入院に係るレセプト控えなどの書類により会計実地検査を行った。

(2) 検査の結果

 検査の結果、4病院において、診療報酬請求額が不足していたものが843件、50,064,840円、診療報酬請求額が過大になっていたものが296件、31,673,420円あり、不当と認められる。
 これらについて、その主な態様を診療報酬の別に示すと次のとおりである。

ア 麻酔料に関するもの

 4病院は、全身麻酔を人工心肺を用いて低体温で行う心臓手術で実施したり、分離肺換気による手術で実施したりしているのに、麻酔の点数にそれぞれ100分の200又は100分の100の加算を行っていないなどしていた。このため、麻酔料が過小に算定されていて、診療報酬請求額が494件、34,374,090円不足していた。
 また、4病院のうち3病院は、全身麻酔を分離肺換気による手術には該当しない手術で実施しているのに、麻酔の点数に100分の100の加算を行うなどしていた。このため、麻酔料が過大に算定されていて、診療報酬請求額が14件、1,190,150円過大になっていた。

イ 手術料に関するもの

 4病院は、手術において自動縫合器を使用しているのに、手術の点数に、使用した自動縫合器の個数に応じた点数を加算していなかったり、特定保険医療材料を使用しているのに、その点数を手術の点数と合算していなかったりなどしていた。このため、手術料が過小に算定されていて、診療報酬請求額が319件、15,318,550円不足していた。
 また、4病院は、乳腺悪性腫瘍手術において、腋窩部等の郭清を行わなかった場合にも、腋窩部等の郭清を行った場合に適用される高い点数で手術料を算定するなどしていた。このため、手術料が過大に算定されていて、診療報酬請求額が278件、30,327,740円過大になっていた。

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
ア 請求不足については、診療部門において手術等の診療内容を伝票に記入する際に、麻酔の方法、使用した医療機器、特定保険医療材料等についての記入を漏らしたり、料金算定部門において伝票の記載内容をコンピュータに入力する際に、記載内容を見落とすなどして入力しなかったりしていたこと
イ 請求過大については、診療部門及び料金算定部門において、手術料の算定に関する認識が十分でなかったり、料金算定部門において伝票の記載内容を十分確認しないままコンピュータに入力したりしていたこと
 上記の事態をナショナルセンター及び病院別に示すと次のとおりである。

国立高度専門医療センターにおける診療報酬の請求に当たり、麻酔料等の請求額に過不足があったものの表1

(注)
 1件で、複数の診療報酬について請求過不足が生じている場合は、請求過不足額が最も多い診療報酬で分類している。