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生活保護事業の実施において、詐取等を防止するため、事業主体における内部統制を十分機能させることなどにより保護費の支給事務等を適正に実施させるとともに、詐取等に係る事案の把握体制や負担金の精算方法等について整備するよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


(1) 生活保護事業の実施において、詐取等を防止するため、事業主体における内部統制を十分機能させることなどにより保護費の支給事務等を適正に実施させるとともに、詐取等に係る事案の把握体制や負担金の精算方法等について整備するよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護費
平成11年度以前は、
(組織)厚生本省 (項)生活保護費
部局等 厚生労働本省(平成13年1月5日以前は厚生本省)、30都道府県
国庫負担の根拠 生活保護法(昭和25年法律第144号)
国庫負担対象事業 生活保護事業
国庫負担対象事業の概要 生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するために、その困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの
内部統制が十分に機能していない福祉事務所数 30都道府県173事業主体の210福祉事務所
平成14年度から19年度までの間に詐取等の事態が発覚した福祉事務所数 19都道府県35事業主体の43福祉事務所
上記の詐取等に係る国庫負担対象事業費等 2億0566万余円 (平成9年度〜19年度)
上記に係る国庫負担金相当額 1億4237万円    

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

 生活保護事業の実施における詐取等の事態の防止について

(平成20年10月31日付け 厚生労働大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 事業の概要

(1) 制度の概要

 生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)等に基づき、生活に困窮するすべての者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的として行われるものである。
 そして、保護は、その内容によって、生活扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助等の8種類に分けられており、これらの保護費は金銭給付又は現物給付により支給されている。

(2) 負担金の概要

 貴省は、法等に基づき、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下「事業主体」という。)が保護を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護費及び事業主体の事務経費(以下、両者を合わせて「費用の額」という。)の一部について、生活保護費負担金(以下「負担金」という。)を交付しており、全国における負担金の交付額は平成18年度で2兆0040億余円、19年度で1兆9798億余円に上っている。
 負担金の各事業主体に対する交付額は、「生活保護の国庫負担金の取り扱いについて」(昭和44年厚生省社第169号厚生事務次官通知。以下「交付要綱」という。)により、次により算定することとなっている。
 すなわち、事業主体において、当該年度に調査、決定した返還金等(注1) の額等(以下「返還金等の調定額」という。)を費用の額から控除して、これに過年度の返還金等の調定額に係る不納欠損額を加えて国庫負担対象事業費を算出する。そして、これに国庫負担率を乗じて負担金の交付額を算定する。

費用の額-返還金等の調定額+不納欠損額=国庫負担対象事業費、国庫負担対象事業費×国庫負担率(3/4)=負担金の交付額

 返還金等  事業主体は、被保護者が急迫の場合などにおいて資力があるにもかかわらず保護を受けたときは、法第63条に基づき返還金として、また、被保護者が不実の申請により保護を受けたときなどにおいては、法第78条に基づいて徴収金として、その保護費の全部又は一部について徴収することができるなどとなっている。

(3) 保護の実施体制

 生活保護業務の実施機関である都道府県知事又は市町村長(特別区の長を含む。)は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関する事務所等(以下「福祉事務所」という。)の長に対して保護の決定及び実施に関する事務を委任することができることとなっている。
 そして、福祉事務所には、福祉事務所長、保護担当の管理者等(以下、合わせて「管理者」という。)のほか、管理者の指揮監督を受けて、現業業務の指導監督を行う所員(以下「査察指導員」という。)、現業を担当する所員(以下「現業員」という。)及び事務を行う所員を置くこととなっている。
 これらの所員の主な業務は次のとおりとなっている。
ア 査察指導員は、保護の決定及び実施に係る現業員による事務処理について審査を行い、現業員に対して現業活動の実施上の助言、指導を行うなどの指導監督を行う。
イ 現業員は、保護の決定及び実施に係る調査等の事務処理を行い、保護決定の手続、保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)の指導援助等を行う。
ウ 事務を行う所員は、保護費の支給事務等庶務的な事務を行う。

(4) 保護の決定及び実施等

 保護の決定、実施等に関する事務は、地方自治法(昭和22年法律第67号)の規定に基づく法定受託事務(注2) として行われており、貴省及び都道府県は、市町村の法定受託事務の処理について、指導監査、技術的助言等を行うことができることとなっている。そして、貴省は、指導監査、技術的助言等の一環として、保護費に関する経理事務処理上の事故防止を図るために、「生活保護法施行事務監査の実施について」(平成12年社援第2393号厚生省社会・援護局長通知)等において監査事項を定めている。その中には、事業主体が保護に係る現金及び物品の支給等の事務処理について定期的又は随時に関係帳簿等との照合及び金額、数量の点検を行うこと、税務担当官署の協力を得て、被保護者に対する課税状況の調査(以下「課税調査」という。)を毎年実施して収入状況を把握すること、現業員による現金の取扱いについては、真にやむを得ない場合に限るものとして、取扱いに当たっては複数の職員で行うなどの体制を執ることなどが挙げられている。

 法定受託事務  法律又はこれに基づく政令により都道府県、市区町村が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令で定めるもの

(5) 保護費の支給方法の事務処理

 保護の実施に関する事務のうち、保護費の支給方法の事務処理については、おおむね次のように行われている。
〔1〕  福祉事務所の現業員は、被保護世帯からの申請、届出等に基づいて、電算システムに被保護世帯の収入・支出等を入力して保護費等の算定額等を取りまとめた調書(以下「保護決定調書」という。)及び被保護者に支給する保護費の内訳等を記載した通知(以下「保護決定通知書」という。)を作成して、管理者の決裁を受ける。
 保護費は、被保護世帯を単位として算定される生活費の額から被保護世帯における就労収入、年金受給額等を基に収入として認定(以下「収入認定」という。)される額を控除するなどして算定することとなっている。
〔2〕  事務を行う所員のうち、保護費の支給事務等を行う所員(以下「出納担当」という。)は、保護決定調書に基づいて支出の決裁を受けて、保護費を支給する。あわせて、現業員が作成した保護決定通知書を被保護世帯に送付する。
〔3〕  上記〔1〕 及び〔2〕 の事務処理は、被保護世帯の生計の状況の変動により、保護費に変更が生じたときも同様に行うこととなっている。そして、福祉事務所は、被保護世帯における金銭収入について、課税調査等を毎年実施して収入状況を把握することとなっている。
〔4〕  保護費の被保護者への金銭の支給方法は、被保護者名義の金融機関の口座への振込み(以下「口座払い」という。)や福祉事務所窓口での支払(以下「窓口払い」という。)があるが、他の支給方法として、被保護者が窓口で保護費を受領することができない場合に、例外として、現金書留等により被保護者に保護費を送付する方法等もある。また、これらの金銭の支給は毎月定例日(以下、この支給を「定例支給」という。)又はこれ以外に必要に応じて随時(以下、この支給を「随時支給」という。)になされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 近年、生活保護の被保護者数は年々増加しており、これに伴い負担金の交付額も増加していることを背景に、生活保護制度の適正な運営が求められているが、一方で、福祉事務所職員が多額の保護費を詐取、領得又は亡失するなどの事態が発生している。
 そこで、本院は、合規性等の観点から、保護費の詐取、領得、亡失等が発生した福祉事務所における再発防止対策は適切に執られているか、再発防止対策として他に追加すべきものはないか、また、その他の福祉事務所においても、生活保護業務について事務処理が適正に行われているか、点検体制等が機能しているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、30都道府県(注3) における173事業主体の212福祉事務所において会計実地検査を行い、次のとおり、それぞれ負担金の事業実績報告書等の書類により検査した。
〔1〕  14年度から19年度までの間に現業員、出納担当等による保護費の詐取、領得、事務け怠(事務処理を怠って保護費を過大に支給するなどしていたもののうち、懲戒処分を受けたものをいう。以下同じ。)及び亡失(以下、これらを合わせて「現業員等による詐取等」という。)が発覚した19都道府県(注4) 35事業主体の43福祉事務所において、事態の発生の要因は何か、再発防止対策が適切に行われているか。
〔2〕  現業員等による詐取等の発生していない25都道府県(注5) 147事業主体の169福祉事務所において、現業員等による詐取等が発覚した福祉事務所で事態の発生の要因となった事務処理等が行われていないか。

(検査の結果)

 検査したところ、次のとおり、30都道府県における173事業主体の210福祉事務所において、内部統制が十分に機能していないなどの事態が見受けられた。

(1) 現業員等による詐取等が発覚した43福祉事務所(19都道府県35事業主体)における事態の発生の要因、再発防止対策の実施状況等

ア 現業員等による詐取等の発生状況、態様等

 19都道府県の35事業主体の43福祉事務所において、現業員等による詐取等が46件、計2億0566万余円(負担金相当額1億4237万余円)見受けられており、現業員等による詐取等が毎年度発覚している状況となっている。
 また、現業員等による詐取等に係る金品の種類は、保護費、返還金等、被保護者等からの申出により預かった保護費等の金品(以下「預り金」という。)等となっている。
 そして、現業員等による詐取等の態様別に件数及び金額の構成比をみると、次表のとおりであり、詐取・領得が件数で56.5%、金額で72.0%となっている。

 現業員等による詐取等の態様別件数、金額等

態様 件数 構成比 金額
(千円)
構成比 負担金相当額
(千円)
詐取

領得
保護費、返還金等 20 43.4% 135,580 65.9% 101,068
預り金等 6 13.0% 12,678 6.1% 949
26 56.5% 148,258 72.0% 102,018
事務け怠 14 30.4% 49,575 24.1% 36,517
亡失 6 13.0% 7,830 3.8% 3,835
合計 46 100.0% 205,664 100.0% 142,371

(注)
 事案の態様は、1件の事案につき複数の態様がある場合は金額の大きい方で整理している。また、被保護者からの預り金等の金額については公金でなく負担金相当額の計算対象とはならないために、負担金相当額は詐取等の金額に国庫負担率を乗じて得た額と一致しない場合がある。

 また、現業員等による詐取等の期間及びこれらに係る金額についてみると2年以上のものが15件(32.6%)1億5189万余円(73.9%)に上っており、このうち5年以上のものが2件(4.3%)4968万余円(24.1%)となっていて、詐取等が長期にわたり行われているものが見受けられる。また、事態が長期化することにより金額も多額となっている。

イ 詐取等の発覚の端緒及び発生場所

 現業員等による詐取等の発覚の端緒についてみると、46件のうち内部監査、内部点検による発見によるものなど福祉事務所が調査した結果判明したものは16件にとどまり、人事異動に伴う引継ぎによる発見によるものが13件、被保護者等からの問い合わせによる発見によるものが12件等となっている。また、現業員等による詐取等の発生場所についてみると、福祉事務所内が39件を占めている。

ウ 現業員等による詐取等の事態の要因と事業主体における再発防止対策

 各福祉事務所が挙げている現業員等による詐取等が生じた要因を、現業員による現金の取扱いに関する不備、査察指導員による現業活動の把握や課税調査の進行管理等に関する不備及び福祉事務所の管理体制に関する不備の3種類に大別して、それぞれの要因に係る各福祉事務所における事務処理上の不備及びそれに対処するための再発防止対策を示すと、次のとおりとなっている。

(ア) 現業員による現金の取扱いに関する不備

 現業員による現金の取扱いについては、真にやむを得ない場合に限られており、その取扱いについては複数体制で実施することなどとなっているが、次のような事務処理上の不備が見受けられた。
〔1〕  現業員が単独で現金を取り扱っていたもの(19福祉事務所)
〔2〕  現業員が福祉事務所の内部規程等に違反して保護費、返還金等を現金で取り扱っていたもの(24福祉事務所)
〔3〕  現業員が例外として保護費、預り金等を被保護者との間で受け渡しする場合に、その取扱基準が明確になっていなかったもの(10福祉事務所)
 上記の不備に対処するための再発防止対策のうち、主なものは、現金の取扱いを複数の現業員等で行う体制の実施(23福祉事務所)、現業員の不必要な現金の取扱いの禁止(20福祉事務所)、現金の取扱基準の明確化(18福祉事務所)等となっている。

(イ) 査察指導員による現業活動の把握や課税調査の進行管理等に関する不備

 前記のとおり、査察指導員は、現業員の事務処理の審査や現業員に対する現業活動の助言、指導を行うこととされているが、次のような事務処理上の不備が見受けられた。
〔1〕  査察指導員が、現業員による被保護世帯の生活指導等の現業活動について十分把握していなかったもの(22福祉事務所)
〔2〕  現業員による被保護世帯の課税調査結果に対する点検等について、進ちょく管理が十分でなかったもの(14福祉事務所)
 上記の不備に対処するための再発防止対策のうち、主なものは、査察指導員による点検体制の強化(17福祉事務所)、査察指導台帳の整備・活用(13福祉事務所)、査察指導員によるケース記録の点検強化(9福祉事務所)、事務処理の早期化(7福祉事務所)等となっている。

(ウ) 福祉事務所の管理体制等に関する不備

 福祉事務所の管理体制等に関する不備は、多岐にわたっているが、主なものを挙げると次のとおりである。
〔1〕  現業員の担当期間が長期にわたっていたもの(5福祉事務所)
〔2〕  金庫の管理や保管方法が適切でなかったもの(8福祉事務所)
〔3〕  請求書等の審査、出納担当の点検等が十分でなかったもの(6福祉事務所)
 上記の不備に対処するための再発防止対策のうち、主なものは、現業員の担当期間の見直し(5福祉事務所)、金庫の管理の徹底(7福祉事務所)、出納担当の点検体制の整備、請求書等の審査の強化(8福祉事務所)等となっている。
 上記のように、詐取等が発生した要因は、保護費の支給等の基本的な事務処理について、事業主体においてあらかじめ内部規程等で定めていた正規の事務処理がなされていなかったこと、現業員等が行うべき事務の範囲や決裁権者等が内部規程等で明確に示されていないなど、点検体制、相互けん制等の内部統制が十分に確立できていなかったことなどがある。
 上記の43福祉事務所における詐取等の事態が生じた要因は、(2)に後述するように、現業員等による詐取等が発生していない福祉事務所の保護費の支給事務等においても同様に見受けられた。
 そして、各福祉事務所において執られた再発防止対策は、基本的な事務処理の再度の周知徹底や、事務処理体制の整備・強化等となっており、主として、それぞれ詐取等の発生の要因に対応した直接的な再発防止対策を執ったものとなっている。

エ 現業員等による詐取等が発生した福祉事務所において、追加する必要があると認められる再発防止対策等

 上記ウのように、現業員等による詐取等の発生した福祉事務所は、主として、事態の直接的な発生の要因に対応した再発防止対策を実施していたが、詐取等が発生しにくい客観的環境を整備することや、事態の長期化を防止するための基本的な再発防止対策が十分に執られていないことから、次のような事項について追加する必要があると認められる。

(ア) 保護費の支払方法の見直し

 各福祉事務所における保護費の定例支給の支払方法についてみると、口座払いが平均83%、窓口払いが平均13%となっているが、被保護者が希望していること、被保護者の居住地の近辺に金融機関がないこと、現業員が被保護者と面談するなどの必要があることなどの理由により、窓口払いの割合が40%以上と高くなっている福祉事務所も6福祉事務所見受けられた。
 また、保護費の随時支給については、事務処理の都合上被保護者の振込口座の有無にかかわらず窓口払いとすることが多く、窓口払いが平均55%となっていて、窓口払いの割合が80%以上の福祉事務所も16福祉事務所見受けられた。
 しかし、前記のとおり現業員の現金の取扱いは真にやむを得ない場合に限るとされており、また、現業員等の詐取等のうち保護費及び返還金等の詐取、領得又は亡失があった26件において、窓口払いの際の現金の取扱いの過程で発生しているものが17件と多い状況となっている。
 したがって、窓口払いすなわち現金払そのものを減少させるために、被保護者に支障があるなどの場合を除き口座払いとするなど支払方法の取扱いについて見直す必要があると認められる。

(イ) 保護決定通知書の被保護者への確実な送付

 前記のとおり、法等に基づいて、福祉事務所は保護決定通知書を保護費の変更の都度被保護者に送付しなければならないとされている。しかし、16福祉事務所においては、保護決定通知書の送付業務を現業員任せにしていて十分な点検等を行っていなかったことなどから、保護決定通知書が被保護者に送付されておらず、受領すべき保護費が被保護者に通知されていないために、被保護者が受領した金額と福祉事務所が支給した金額が相違していても、被保護者及び福祉事務所が長期にわたり気付かないおそれがある事態となっていた。
 したがって、保護決定通知書を被保護者に確実に送付することが保護費の適正な支給及び詐取等の長期化防止のために必要であるが、会計実地検査時においても、保護決定通知書の確実な送付について、対策が十分執られていない状況が見受けられたことから、その事務処理の方法を見直す必要があると認められる。

(ウ) 被保護者等からの保護費、返還金等に関する問い合わせの受付体制の整備

 詐取等の発見の端緒の一つとして被保護者等からの問い合わせが挙げられるが、その受付体制の整備状況についてみると、33福祉事務所は整備しているとしていたが、問い合わせの取扱いについて内部規程等で定めているのは1福祉事務所にとどまっている。そして、このような問い合わせの受付体制の整備については各福祉事務所の再発防止対策には入っていなかった。したがって、被保護者等からの問い合わせに対する受付体制等の事務処理について整備する必要があると認められる。

オ 現業員等による詐取等の事態の事例

 保護費の現業員等による詐取等の事態の内容、福祉事務所における事務処理上の不備及び再発防止対策について、態様別に事例を示すと次のとおりである。

(ア) 現業員等が保護費等を詐取したもの

<事例1>

 A福祉事務所の現業員Bは、平成12年11月から18年3月までの間に、保護費の随時支給等に当たり、水増しした保護費を電算システムに入力していた。そして、保護決定調書及び保護決定通知書の出力は行わず、保護決定調書の決裁を受けていなかった。
 しかし、同福祉事務所の電算システムは、現業員が保護費をシステムに入力すると保護費の被保護者別の支給台帳が自動的に作成されるシステムとなっており、出納担当は、保護決定調書に基づかずに現業員Bから提出された架空の支給一覧表により支給台帳を審査していたために、保護費が水増しされていることに気が付かないまま管理者の決裁を受けていた。
 その後、現業員Bは保護費を自ら被保護者宅に届けるなどと出納担当に説明して現金を受領したが、被保護者には届けずに、関係書類には自らが用意した印鑑等により受領印を押印して出納担当に提出して、保護費計41,528,471円を詐取するなどしていた。
 なお、上記の損害額は、現業員Bの家族から同福祉事務所に全額返納されている。
 このように、A福祉事務所において長期にわたり保護費の詐取を発見できなかった事務処理上の不備としては、次のような点が挙げられる。
〔1〕  現業員が保護決定調書について管理者の決裁を受けることなく、電算システムにより自動的に作成される支給台帳等に基づいて保護費の支給ができることになっていたこと
〔2〕  保護費の支給に当たり、出納担当が保護決定調書と支給台帳との突合を行うことになっていなかったこと
〔3〕  窓口払いにおける保護費の授受の方法等について、取扱基準等を明確に定めていなかったこと
 上記の不備に対処するために、同福祉事務所は次のような再発防止対策を執っているが、被保護世帯に対する保護決定通知書についての事務処理については引き続き現業員が発送業務に携わっており、また、発送漏れがないかの点検も行われておらず、再発防止対策が十分ではないと認められた。
〔1〕  電算システムを改修して、点検機能の強化を行うことにより、架空データの入力を行えないこととした。
〔2〕  保護決定調書と支給台帳等との突合を出納担当、査察指導員等が行うことにした。
〔3〕  出納担当が事故等により保護費が支給できない場合で、単身の被保護者が入院しており、医療機関等で保護費の取扱いができない場合等、真にやむを得ない場合以外は、現業員が現金を取り扱えないよう内部規程を改めて、現金管理の厳正化を図った。

(イ) 現業員が被保護者から預かった返還金等を領得したもの

<事例2>

 C福祉事務所の現業員Dは、平成14年3月から17年8月までの間に、被保護世帯Eが受給した老齢基礎年金計6,292,853円を返還金として預かったが、返還手続を行わずに領得していた。また、担当する他の被保護世帯についても同様の事態等があり、領得するなどした額の合計は6,598,420円となっていた。
 なお、上記の損害額のうち、6,576,620円については事態発生後に現業員Dを通して同福祉事務所に返納されているが、残り21,800円については補てんが終わっていない。
 このように、C福祉事務所において長期にわたり返還金の領得を発見できなかった事務処理上の不備としては、次のような点が挙げられる。
〔1〕  返還金等の納付について、返還決定が行われるまで被保護者に現金を持たせていると消費してしまうおそれがあるなどの場合に、現業員が現金を預かることを認めていたこと
〔2〕  課税調査により老齢基礎年金の受給について把握していたのに、これに係る収入認定、返還等の現業員の事務処理に関して査察指導員が進行管理を十分行っていなかったこと
 上記の不備に対処するために、同福祉事務所は次のような再発防止対策を執っているが、上記(ア)の事例と同様に、保護決定通知書の被保護者への確実な送付に対する再発防止対策は執られていなかった。
〔1〕  返還金を緊急に受入処理する必要がある場合の取扱いに関して内部規程を定めて、現業員は現金を取り扱わないこととして、出納担当が複数で返還金等の出納事務を行う取扱いとした。
〔2〕  月2回査察指導員会議を行い、査察指導員相互で適切な事務処理が行われているか点検を行うこととした。

(ウ) 現業員の事務け怠により保護費が過大に支給されたもの又は支給されなかったもの

<事例3>

 F福祉事務所の現業員Gは、平成17年4月から19年10月までの間、年金等の収入認定の事務処理を行っていなかったために保護費が過大に支給されていたり、医療扶助のうちの通院に伴う交通費の支給に係る事務処理等を行っていなかったために保護費が支給されていなかったりなどしていた。このため、25世帯に対する保護費25件、計7,252,595円が過大に支給されていて、58世帯に対する保護費190件、計2,800,111円が支給されていなかった。
 このように、F福祉事務所において長期にわたり事務け怠を発見できなかった事務処理上の不備としては、現業員Gが生活保護に精通していて信頼感があるとして、査察指導員が査察指導を十分行わずに現業員任せにしていたことが挙げられる。
 上記の不備に対処するために、同福祉事務所は次のような再発防止対策を執っている。
〔1〕  すべての被保護世帯について年2回査察指導員等による点検を行い、適正な事務処理が行われているか確認を行うこととした。
〔2〕  査察指導員が保護費の支給決定に関する事務処理の状況について点検を行うことで事務処理の遅延の有無を確認することとした。

(2) 現業員等による詐取等が発生していない福祉事務所における保護費等の事務処理の実施状況等

 現業員等による詐取等が発生していない169福祉事務所においても、現業員等による詐取等が発生した43福祉事務所と同種の事態が発生しないようにすることが重要であることから、前記の詐取等の事態の要因及び再発防止対策を踏まえて、各福祉事務所における保護費等の事務処理の実施状況について検査した。その結果、25都道府県146事業主体の167福祉事務所において、次のとおり、現業員等による詐取等が発生した福祉事務所と同様の事務処理上の不備が見受けられており、上記(1)と同様に、内部統制が十分に確立されていないなどの状況となっていると認められた。

ア 現業員による現金の取扱いに関する不備

(ア) 現業員が単独で現金を取り扱っているもの(22福祉事務所)
(イ) 現業員が複数で現金を取り扱うことにしているが、その取扱いに係る内部規程等が整備されていないもの(116福祉事務所)
(ウ) 現業員が例外として保護費、預り金等を被保護者との間で受け渡しする場合に、その取扱基準が明確になっていないもの(52福祉事務所)

イ 査察指導員による現業活動の把握や課税調査の進行管理等に関する不備

(ア) 査察指導員が現業員による被保護世帯の生活指導等の現業活動について十分把握するための査察指導台帳が作成されていなかったり、記録が十分でなかったりなどしているもの(107福祉事務所)
(イ) 現業員による被保護世帯の課税調査結果に対する点検等について、査察指導員が課税調査の状況を書類により管理していなかったり、課税調査の漏れに対する点検を行っていなかったりなど、査察指導員の進ちょく管理が十分でないもの(98福祉事務所)

ウ 福祉事務所の管理体制等に関する不備

(ア) 内部統制上、保護担当の在籍期間や担当地区の担当期間の限度を決めることが重要であるが、これらを定めず、現業員の担当地区の担当期間が3年以上となる現業員がいるもの(47福祉事務所)
(イ) 金庫の管理や保管方法が適切でないもの(72福祉事務所)

エ 保護費の支払方法及び保護決定通知書の送付状況等

(ア) 保護費の支払方法の検討
a 定例支給の窓口払いの割合が40%以上となっている又は随時支給の窓口払いの割合が80%以上となっているもの(定例支給35福祉事務所、随時支給54福祉事務所)
b 保護費の支払の窓口払いを継続することの必要性について査察指導員による点検がなされておらず、窓口払いから口座払いへの切り替えの検討が十分でないもの(60福祉事務所)
(イ) 保護決定通知書の被保護者への確実な送付
 被保護者に対して保護費支給額等を通知する保護決定通知書の送付について、送付事務を現業員任せにしているなど被保護者に確実に送付される体制になっておらず、事後的な点検もなされていないもの(109福祉事務所)
(ウ) 問い合わせに対する受付体制
 問い合わせに対する受付体制を整備していないもの(33福祉事務所)

(3) 貴省における指導監査の実施、現業員等による詐取等の事案の把握及び負担金の精算について

ア 貴省における事業主体に対する監査の実施状況

 貴省は、毎年すべての都道府県・政令指定都市が実施した福祉事務所の指導監査の状況を監査するとともに、自らも一部の福祉事務所を抽出して監査を実施している。そして、貴省及び都道府県等による監査結果についてみると、課税調査の不備、組織的な運営管理上の問題点、自主的な内部点検の実施及び活用、査察機能の充実等について指摘している。
 しかし、前記のように、現業員等による詐取等の要因となった事務処理上の不備が、詐取等が発生していない福祉事務所についても多数見受けられることなどから、詐取等の発生した福祉事務所において再発防止対策として実施した事務処理体制の整備が詐取等の発生していない福祉事務所においても実施されているか、詐取等が発生しにくい環境の整備や事態の長期化の防止を図るための体制整備がなされているかなどの指導監査についても一層強化する必要があると認められる。

イ 現業員等による詐取等の事案に係る貴省の把握

 貴省は、現業員等による詐取等については、主として、都道府県等に対する監査において資料を提出させることにより把握している。一方、現業員等による詐取等が発覚した場合の都道府県等からの報告については定めたものはなく、貴省に対して発覚時に報告を行うか否かについては都道府県等の判断に任されており、貴省に対して迅速な報告が行われていないものが見受けられた。
 しかし、現業員等による詐取等について、貴省に対して発覚時に迅速な報告が必ずしも行われていない事態は、詐取等の要因の分析、他の福祉事務所における再発防止対策の実施等が遅延することとなり適切とは認められない。
 したがって、貴省において、報告基準を明示するなどして、現業員等による詐取等が発生した場合には、都道府県等より直ちに報告を受けることとする必要があると認められる。

ウ 現業員等による詐取等に係る保護費等の負担金の精算について

 前記の35事業主体において、現業員等による詐取等に係る保護費等の負担金の精算状況は次のとおりとなっていた。

(ア) 現業員等による詐取等に係る保護費等の負担金の精算方法が適切でないもの

 前記35事業主体のうち、25事業主体においては、計1億5352万余円の負担金の精算に当たり、現業員等による詐取等に係る保護費等の負担金の精算の具体的な方法について交付要綱等に明示されていなかったことから、他の返還金等の調定額と区別せずに精算していた。
 しかし、上記の精算方法は次のような点から適切でないと認められる。
〔1〕  計上された返還金等の調定額1億5352万余円は、いずれも事業主体の職員の違法行為等により生じているものである。
〔2〕  詐取等に係る保護費等の損害が補てんされずに、上記の返還金等の調定額について不納欠損処理が行われた場合には、現在の負担金の精算方法では、不納欠損額に計上されて、最終的に国がその額の4分の3を負担することになる。
 なお、上記のうち2事業主体4408万余円(負担金相当額3306万余円)の損害が現業員等から事業主体に対して補てんされていない。
 したがって、詐取等に係る保護費等の負担金の精算に当たっては、詐取等に係る保護費等が国庫負担の対象とならないように、事業主体において返還金等の調定額に計上しつつ不納欠損額に計上しないなどの精算方法を採ることを明確にすべきであると認められる。

(イ) 現業員等による詐取等に係る保護費等の精算が速やかに行われていないもの

 4事業主体における現業員等による詐取等に係る保護費等442万余円(負担金相当額331万余円)については、現業員等の事務け怠等により支給が過大となっていたものなどであり、負担金の精算において保護費から減額する必要があるのに、事実関係の確認等で時間を要したなどのため、精算が速やかに行われていないものが見受けられた。

(是正及び是正改善を必要とする事態)

 事業主体において、保護費の支給事務等について内部統制が十分に機能していなかったことなどにより適正な事務処理が行われずに、現業員等による詐取等が生じていて、その再発防止対策についても必ずしも十分に執られていない事態は適切とは認められない。また、現業員等による詐取等の事態が生じていない福祉事務所においても、現業員等による詐取等が発生した福祉事務所と同様に、適正とは認められない事務処理が行われている事態は適切とは認められない。さらに、貴省において、現業員等による詐取等について直ちに報告を受ける体制が執られていなかったり、負担金の算定に当たり、現業員等による詐取等に係る保護費等が国庫負担の対象とならないよう明確にしていなかったりなどしている事態は適切とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のようなことなどによるものと認められる。

ア 事業主体において、
(ア) 保護業務を行う現業員と保護費の出納を行う出納担当との相互けん制、査察指導員による現業員の現業活動や課税調査等に対する点検等の内部統制が十分執られていないこと、また、被保護者に対する保護決定通知書の確実な送付、被保護者からの問い合わせなどに係る事務処理体制等が十分に整備されていないこと
(イ) 窓口払いの縮減及び現業員による現金の取扱いに係る事務処理の見直しが十分行われていないこと
イ 貴省において、
(ア) 保護業務を行う現業員と保護費の出納を行う出納担当との相互けん制、出納部門による保護費の金銭の管理及び査察指導員の点検体制が機能するよう、内部統制に関する技術的助言を十分行ってきていないこと
(イ) 現業員等による詐取等が生じた場合の事業主体から貴省に対する報告基準及び当該保護費に係る負担金の精算方法について、その具体的な取扱いを明確にしていないこと

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

 前記のとおり、これまで貴省は生活保護事業の実施に当たり、各種通知を発するとともに、研修・指導による事務の改善等を行ってきているところであるが、保護費の詐取等の防止等のために、事業主体における相互けん制等の内部統制を十分機能させることにより、保護費の支給事務等を法令等に従って適正に実施させるとともに、詐取等に係る事案の把握体制や当該保護費等の負担金の精算方法等について整備するよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

ア 事業主体に対して次のような技術的助言を行うこと

(ア) 福祉事務所における保護費の支給等の事務処理に関して、管理者、出納担当、査察指導員及び現業員が自ら行うべき事務の範囲、決裁権者等を内部規程等の文書により明確にして徹底を図ること、また、福祉事務所において、現業員の現金取扱いに関する事項、現業活動の把握、課税調査の進行管理、保護決定通知書の送付等の各点検項目を明確にすること
(イ) 窓口払いが行われている福祉事務所について、防犯上等のために窓口払いの必要性について検討して、窓口払いの縮減に努めること、また、現業員の出納業務への関与を縮減するよう事務処理の方法について見直しを行うこと

イ 貴省、都道府県等が実施する指導監査の際に、保護費の支給事務等における内部統制の実施状況を確認して、福祉事務所に対して指導を徹底すること

ウ 詐取等の事案の発生状況を直ちに把握する体制を整備するとともに、全国会議等の場において、法令等の理解及び遵守に対する認識の徹底に加えて再発防止対策が十分執られていると認められる優良事例を取り上げるなどして、事案の要因、再発防止対策等を紹介すること

エ 負担金の精算に当たり、速やかに精算を行うよう指導するとともに、詐取等に係る保護費、返還金等が国庫負担の対象とならないように、返還金等の調定額に計上しつつ、不納欠損額に計上しないなどの精算方法を採ることを交付要綱等で明示すること

(注3)
 30都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、山形、福島、栃木、千葉、神奈川、富山、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、徳島、香川、福岡、熊本、大分、鹿児島各県
(注4)
 19都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、宮城、福島、千葉、神奈川、愛知、三重、滋賀、兵庫、和歌山、岡山、広島、山口、徳島、福岡、熊本各県
(注5)
 25都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、山形、福島、栃木、千葉、神奈川、富山、岐阜、静岡、滋賀、和歌山、鳥取、岡山、山口、徳島、香川、福岡、熊本、大分、鹿児島各県