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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

生活保護事業の実施に当たり、事業主体に被保護者の収入把握を適切に行わせることなどにより、生活保護費負担金の交付が適正なものとなるよう改善させたもの


(2) 生活保護事業の実施に当たり、事業主体に被保護者の収入把握を適切に行わせることなどにより、生活保護費負担金の交付が適正なものとなるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護費
平成11年度以前は、
(組織)厚生本省 (項)生活保護費
部局等 厚生労働本省(平成13年1月5日以前は厚生本省)、47都道府県
国庫負担の根拠 生活保護法(昭和25年法律第144号)
補助事業者
(事業主体)
道、府1、県10、市192、特別区8、計212事業主体
国庫負担対象事業 生活保護事業
国庫負担対象事業の概要 生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するために、その困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの
課税調査が速やかに行われていなかったなどのため過大な支給となっていた保護費 8億1473万余円 (平成9年度〜20年度)
上記に係る国庫負担金相当額 6億1105万円

1 事業の概要

(1) 制度の概要

 厚生労働省(平成13年1月5日以前は厚生本省)は、生活保護法(昭和25年法律第144号)等に基づき、生活に困窮する者に対する最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下「事業主体」という。)が、保護を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護費及び事業主体の事務経費の一部について生活保護費負担金(以下「負担金」という。)を交付している。また、事業主体は、被保護者が不実の申請により保護を受けたときなどにおいては、同法第78条に基づいて、保護費の全部又は一部を被保護者から徴収金として徴収することができることとなっている(負担金の概要については、前掲の「生活保護費負担金の経理が不当と認められるもの」 参照)。

(2) 保護の実施体制

 事業主体から生活保護に関する事務の委任を受けた福祉事務所には、福祉事務所長のほか、福祉事務所長等の指揮監督を受けて、現業事務の指導監督を行う所員(以下「査察指導員」という。)、現業を担当する所員(以下「現業員」という。)等を置くこととなっている。
 また、各福祉事務所では、効率的かつ効果的な業務運営を行うための生活保護業務実施方針(以下「実施方針」という。)を定めて、その中で具体的な取組の内容を事業計画として策定することとなっている。

(3) 被保護世帯の収入調査等

 保護費は、「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年社発第246号厚生省社会局長通知。以下「実施要領」という。)等に基づき、保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)を単位として、その所在地域、構成員の数、年齢等の別に応じて算定される生活費の額から、被保護世帯における就労収入、年金受給額等を基に収入として認定(以下「収入認定」という。)される額を控除するなどして決定することとなっている。
 また、被保護世帯は、収入状況に変動があった場合には、その旨を速やかに福祉事務所に届け出なければならないこととなっており(以下、この届出を「収入申告」という。)、現業員は、収入申告や被保護世帯に対する訪問調査等を通じて、被保護者の生活状況等を把握して、その処遇に反映させることとされている。
 そして、収入申告のほかに、当該被保護世帯の収入状況を客観的に把握するために、厚生労働省は事業主体に対して、被保護者の給与収入等に係る市民税等の課税関係資料(以下「課税資料」という。)と被保護者が福祉事務所に申告した収入状況との照合等の調査(以下「課税調査」という。)を毎年、全被保護世帯の世帯員全員について一斉に実施するよう実施要領等により指導している。この課税調査の結果、未申告の収入が判明して、被保護者が不実の申請等により保護を受けたことが明らかになったときは、事業主体は被保護者に対して保護費の全部又は一部を徴収金として徴収することとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 事業主体の課税調査等により判明した被保護世帯の保護費の不正受給に伴う徴収金は、全国で18年度14,669件、89億7849万余円と多額に上っている。そこで、本院は、合規性等の観点から、18、19両年度における被保護世帯の収入認定等、特に課税調査が適切に行われており、保護が適正なものとなっているかに着眼して、厚生労働省及び47都道府県の270事業主体の293福祉事務所(以下「検査対象事務所」という。)において、事業実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、以下のような事態が見受けられた。
 課税資料はおおむね毎年7月に閲覧可能となっていて、閲覧可能となった後速やかに課税調査を実施すれば、遅くとも8月には収入認定は可能であったと認められる。
 しかし、検査対象事務所のうち、47都道府県の212事業主体の234福祉事務所は、課税調査を8月以降に実施していたり、また、課税調査に対する査察指導員等の点検体制が十分でなかったなどのため調査漏れを生じたりなどしていた。このため、被保護者が前年から引き続き就労していて、7月以降も未申告の就労収入等が継続して発生しているのに、8月時点でもなお収入認定が行われていないなど、適正な収入認定が行われていないものが1,958世帯、計8億1473万余円あり、負担金6億1105万余円が過大に交付されていた。
 このうち、46都道府県(注) の151事業主体の159福祉事務所に係る604件、計5億0680万余円(これに係る負担金相当額3億8010万余円)は、課税調査時の調査漏れなどの理由により複数年度にわたって被保護世帯の未申告の就労収入等が認定されていなかった。
 また、上記1,958件の未申告の就労収入等の額については、前記のとおり、事業主体が被保護者から徴収金として徴収することとなるが、滞納となっているものが811件(20年6月末時点での滞納額計9600万余円)あり、これらについては、今後も事業主体が被保護者から徴収できなかった場合、不納欠損処理を経て最終的に国がその額の4分の3を負担することになる。
 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A福祉事務所は、課税資料が税務担当課で例年6月にまとまり、その閲覧も7月には可能となっているのに、課税調査を12月以降に実施していた。また、課税調査の実施に当たり、課税資料と被保護世帯の収入申告との照合等の具体的な作業について福祉事務所内の査察指導員等の点検体制が十分でなかったなどのため、調査漏れが生ずるなどしていた。さらに、課税資料の閲覧が可能となってから相当程度時間が経過した会計実地検査時点においても、なお徴収金の決定がなされていないものも見受けられた。
 上記のことから、課税調査を速やかに実施して、判明した未申告の就労収入等について直ちに収入認定を行い保護費の算定に反映させていれば、8月以降の未申告の就労収入等の額1333万余円(負担金相当額1000万余円)については、収入認定が可能であり、同額の保護費の支給が過大になっていたと認められた。また、これらのうち、複数年度にわたって課税調査漏れとなっているものが8件あり、これらに係る収入認定可能であった未申告の就労収入等の額が計1066万余円(負担金相当額800万余円)見受けられた。
 上記のように、事業主体において課税調査が速やかに行われなかったり、その後の事務処理が適切でなかったりなどしていたことにより、未申告の就労収入等が適正に収入認定されておらず、同額の保護費が過大に支給されていて負担金の交付が過大となっている事態は適切とは認められず、負担金の交付が適正なものとなるよう改善を図る必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。
ア 事業主体において、
(ア) 生活保護業務の実施方針に基づく事業計画の中で、課税調査を課税資料が閲覧可能となる時期に速やかに実施することを明確にしていなかったこと
(イ) 課税資料と被保護世帯の収入申告との照合等、課税調査時における現業員の確認作業が不十分であったこと、また、査察指導員等による現業員の確認作業の点検体制に不備があったこと
イ 厚生労働省において、事業主体に対して実施要領等において課税調査の一斉実施等について指導してきているものの、課税調査の実施時期等について技術的な助言等を行っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、20年10月に各事業主体に対して通知を発するなどして、事業主体において課税調査を速やかに行い収入認定が適正に行えるような事務処理体制の整備を図るよう次のような処置を講じた。
ア 生活保護業務の実施方針に基づく事業計画において、課税調査を6月以降、各自治体で課税資料の閲覧可能な時期に速やかに実施することを明記して、早期に調査を実施するよう指導した。
 また、調査の結果、未申告の収入が判明した場合には、その後も収入を継続して得ているか否かについて速やかに確認して、現在も継続して収入があることが判明した場合には、迅速に認定処理を行い、当該収入について遅くとも8月分の保護費に反映させるよう指導した。
イ 課税調査の実施漏れや実施の遅れなどの事態を防止するため課税調査の進行管理が組織的に行われるよう、現業員と査察指導員との連携や査察指導員等による点検体制の確立等により、課税調査を的確に行う点検体制の整備を図るよう指導した。
ウ 厚生労働省及び都道府県等が実施する指導監査の際に、課税調査の実施時期、課税調査の点検体制等について確認して、課税調査が早期に実施されなかったり、点検体制の整備が図られていなかったりなどしている福祉事務所に対する指導を徹底することとした。

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