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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

療養給付費負担金の交付額の算定を適切なものにするため、国民健康保険における退職被保険者の被扶養者の適用を的確に行うよう改善させたもの


(3) 療養給付費負担金の交付額の算定を適切なものにするため、国民健康保険における退職被保険者の被扶養者の適用を的確に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)国民健康保険助成費
部局等 厚生労働本省(交付決定庁)
28都道府県(支出庁)
交付の根拠 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
交付先
(保険者)
市218、特別区17、計235市区
療養給付費負担金の概要 市町村の国民健康保険事業運営の安定化を図るために交付するもの
退職被保険者の被扶養者の適用が行われていない一般被保険者に対する医療給付費 49億3662万余円 (平成13年度〜17年度)
過大に交付される結果となっていた療養給付費負担金交付額 18億8219万円 (平成13年度〜17年度)

1 制度の概要

(1) 国民健康保険の療養給付費負担金

 国民健康保険は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)等が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関し、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等の給付を行う保険である。
 厚生労働省では、国民健康保険について各種の国庫助成を行っており、その一つとして、市町村が行う国民健康保険事業運営の安定化を図るため、療養給付費負担金(以下「国庫負担金」という。)を交付している。

(2) 国庫負担金の交付対象

 市町村の国民健康保険の被保険者は、一般被保険者と退職被保険者(注1) 及びその被扶養者(以下、退職被保険者の被扶養者を「退職被扶養者」という。また、退職被保険者と合わせて「退職被保険者等」という。)とに区分されている。
 そして、国庫負担金の交付の対象となるのは、一般被保険者に係る医療費(老人保健法(昭和57年法律第80号。平成20年4月以降は「高齢者の医療の確保に関する法律」)による医療を受けることができる者に係る医療費を除く。以下同じ。)となっており、退職被保険者等に係る医療費については、被用者保険の保険者が拠出する療養給付費等拠出金をもって充てられる療養給付費等交付金等で負担すること(以下、この退職被保険者等の医療費を被用者保険の保険者が負担する制度を「退職者医療制度」という。)となっていて、国庫負担金の交付の対象とはなっていない。
 退職者医療制度は、被用者保険と国民健康保険との給付割合に格差があった(注2) ため退職者は医療に対する必要性が高まる高齢期になって給付水準が低下すること、退職者を多く抱える国民健康保険は医療費負担が増大していることなどの給付面と負担面双方の不合理を是正するため、昭和59年に創設されたものである。

(注1)
 退職被保険者  被用者保険の被保険者であった者で、退職して国民健康保険の被保険者となり、かつ、厚生年金等の受給権を取得した場合に適用される資格を有する者である。
(注2)  平成14年度以前は、被保険者本人に対する給付割合は被用者保険では8割、国民健康保険では7割であった。

(3) 国庫負担金の算定方法

 毎年度の国庫負担金の交付額は、「国民健康保険の国庫負担金及び被用者保険等保険者拠出金等の算定等に関する政令」(昭和34年政令第41号)等により、一般被保険者に係る医療給付費から保険基盤安定繰入金(注3) の2分の1に相当する額を控除した額に国の負担割合(注4) を乗じて算定することとなっている。
 そして、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る患者一部負担金に相当する額を控除した額及び入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額とされている。
 ただし、被用者保険の被保険者が退職して国民健康保険の一般被保険者となった者について、退職被保険者等の資格がさかのぼって確認された場合は、一般被保険者に係る医療給付費から、その者が退職被保険者等となった日(以下「退職者該当年月日」という。)以降に一般被保険者に係るものとして支払った医療給付費を控除することとなっている。

(注3)
 保険基盤安定繰入金  市町村が、一般被保険者の属する世帯のうち、低所得者層の負担の軽減を図るため減額した保険料又は保険税の総額について、当該市町村の一般会計から国民健康保険に関する特別会計に繰り入れた額
(注4)  国の負担割合は、平成16年度までは40/100であったが、17年度は36/100、18年度以降は34/100に引き下げられている。

(4) 退職被保険者等の資格要件及び届出

 退職被保険者の資格要件は、国民健康保険の被保険者のうち、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)等の法令に基づく老齢又は退職を支給事由とする年金の給付を受けることができる者であって、被用者年金保険の被保険者であった期間が20年以上、又は40歳に達した月以後の被用者年金保険の被保険者であった期間が10年以上である者等となっている。
 国民健康保険の被保険者の資格を取得している者の退職者該当年月日は、当該被保険者が年金受給権を取得した日(ただし、年金受給権の取得年月日が国民健康保険の資格取得年月日以前の場合は国民健康保険の資格取得年月日)とされている。そして、被保険者が、退職被保険者の資格要件に該当する者(以下「退職該当者」という。)となったときは、その者の属する世帯の世帯主は、速やかに、市町村に退職被保険者の資格取得の届出をしなければならないこととなっている。
 一方、退職被扶養者の資格要件は、国民健康保険の被保険者のうち、退職被保険者の直系尊属、配偶者(届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)その他三親等内の親族であって、その退職被保険者と同一の世帯に属し、主としてその者により生計を維持するものなどとなっている。これについて、厚生労働省では、各都道府県に通知「退職被保険者の被扶養者の認定について」(昭和59年8月27日保発第79号)等を発して、退職被扶養者としての認定対象者の年間収入が130万円未満であって、かつ、退職被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は、原則として退職被扶養者に該当するものとすること、また、認定に係る年間収入については、可能な限り直近のものを用いることとするが、一般的には、前年の年間収入により認定しても差し支えないことなどの判定基準を示している。
 そして、退職被保険者が被扶養者を有するとき又は有するに至ったときは、その者の属する世帯の世帯主は、当該退職被保険者が退職被保険者となった日の翌日又は当該被扶養者を有するに至った日の翌日から起算して14日以内に、市町村に退職被扶養者の資格取得の届出をしなければならないこととなっている。
 また、退職被保険者等が、老人保健法による医療を受けることができるようになった場合(平成20年4月以降は65歳に達した場合)には、国民健康保険の被保険者資格は退職被保険者等から一般被保険者に異動することとなっている。

(5) 退職被保険者に係る届出を省略した適用

 保険者である市町村における退職被保険者への資格異動(以下「退職被保険者の適用」という。)は、前記のとおり、本来、退職該当者の属する世帯の世帯主からの届出を前提に行われるものであり、当該届出のない退職該当者については、従来、年金受給権者一覧表(注5) 等を活用して加入期間等を確認することにより、世帯主に届出を勧奨するなどして、退職被保険者の適用の的確な実施が図られてきた。

 年金受給権者一覧表  保険者である市町村において、国民健康保険の一般被保険者のうち退職該当者を把握して、退職被保険者の適用を行うために、各被用者年金保険の保険者が市町村別に作成する年金受給権者に係る一覧表であり、各都道府県の国民健康保険団体連合会を経由して毎年度定期的に市町村に送付されている。

 しかし、国民健康保険における退職被保険者に対する給付割合が15年度以降一般被保険者と同一の7割(14年度以前は、退職被保険者に対する給付割合は8割)となって被保険者の自己負担の割合に格差がなくなり、退職被保険者に係る届出が的確に行われなくなることが懸念された。そこで、退職被保険者の適用の的確な実施と被保険者の利便の向上を図るため、退職該当者であることを市町村が公簿等により確認することができるときは、届出がない場合であっても、当該届出を省略しての適用(以下「届出を省略した適用」という。)が可能となるよう、15年3月に国民健康保険法施行規則(昭和33年厚生省令第53号)の改正が行われた。
 また、これを受けて、同年同月、厚生労働省では、各都道府県に通知「国民健康保険の退職被保険者等に係る適用について」(平成15年3月31日保国発第0331003号)を発して、年金受給権者一覧表等により被用者年金加入期間等退職被保険者に該当する事実を市町村が確認することができる場合には、届出を省略した適用ができる旨を通知した。
 一方、退職被扶養者についても、同様のことが懸念されたが、厚生労働省では、退職被扶養者の資格要件に該当する者(以下「退職被扶養該当者」という。)の退職被扶養者への資格異動(以下「退職被扶養者の適用」という。)については、個別の世帯状況及び収入額を確認する必要があるとして、引き続き届出を省略した適用を認めていなかった。

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 20年度に新たな高齢者医療制度が創設されたことに伴い、退職者医療制度は廃止されることとなったが、26年度までの間に退職被保険者等となった者については、65歳に到達するまで、退職者医療制度を存続させる経過措置が執られることとなった。そして、20年度以降数年間は、退職被保険者等の数は増加することが見込まれており、引き続き退職被保険者等の適用を的確に行うなどその適切な運用が求められている。
 また、前記のとおり、退職被保険者については、届出を省略した適用ができるよう制度改正が行われたところであるが、退職被扶養者については、引き続き届出を省略した適用は認められておらず、専ら届出を勧奨するなどして適用が行われてきた。
 そこで、経済性等の観点から、国民健康保険の保険者である市町村において、退職被扶養者の適用が的確に行われ、ひいては、国庫負担金の交付額の算定が適切に行われているかに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、17年11月から19年6月まで、28都道府県(注6) の277市区において、当該市区が届出を省略した適用を行った退職被保険者と同一世帯に属する退職被扶養該当者の適用状況等について被保険者台帳等の書類により会計実地検査を行った。

 28都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、岩手、山形、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、新潟、福井、長野、静岡、愛知、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、徳島、香川、高知、福岡、長崎、鹿児島各県

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

ア 届出勧奨を的確に行っていないもの

 上記の277市区のうち、28都道府県の211市区では、16年度に73,106人の退職該当者に届出を省略した適用を行い、退職被保険者としていた。そして、当該市区の保有する被保険者の収入等に関する情報を活用して、退職被保険者に係る個別の世帯の状況及び収入額を確認したところ、当該退職被保険者と同一の世帯に属する者のうち、退職被扶養該当者と認められる者は35,062人であることが判明した。
 211市区では、退職被保険者の属する世帯に退職被扶養者の資格取得の届出を勧奨する文書を送付するなどの届出勧奨を行っていた。しかし、その後は、当該市区の保有する情報を活用することなく、退職被扶養該当者がいるのに届出を行わない世帯の把握や、届出を行わない世帯に対する再度の届出勧奨を行っていなかった。このため、退職該当者に届出を省略した適用を行ってから1年以上経過した17年度末においても、退職被扶養者の適用が行われていない一般被保険者(以下「未適用者」という。)は14,175人、退職被扶養該当者に対する未適用者の割合(以下「未適用率」という。)は40.4%となっていた。
 上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A市では、平成16年度に249人の退職該当者に届出を省略した適用を行っていた。そして、同市の保有する被保険者の収入等に関する情報を活用して、退職被保険者に係る個別の世帯の状況及び収入額を確認したところ、当該退職被保険者と同一の世帯に属する者のうち、退職被扶養該当者と認められる者は124人であることが判明した。
 同市では、上記の適用に当たり、退職被保険者249人の属する世帯に、退職被保険者の被保険者証を郵送していたが、併せて、退職被扶養該当者がいる場合は市役所に出向いて届出を行うよう勧奨する文書を同封していた。しかし、その後は、同市の保有する情報を活用することなく、退職被扶養該当者がいるのに届出を行わない世帯の把握や、届出を行わない世帯に対する再度の届出勧奨は行っていなかった。このため、退職該当者に届出を省略した適用を行ってから1年以上経過した17年度末においても、未適用者は69人、未適用率は55.6%となっていた。

イ 届出勧奨を的確に行ってもなお未適用者がいるもの

 一方、前記の277市区のうち、211市区以外の20都道府県の66市区では、16年度に9,060人の退職該当者に届出を省略した適用を行い、退職被保険者としていた。そして、当該市区の保有する被保険者の収入等に関する情報を活用して、退職被保険者に係る個別の世帯の状況及び収入額を確認したところ、当該退職被保険者と同一の世帯に属する者のうち、退職被扶養該当者と認められる者は3,820人であることが判明した。
 66市区では、退職被保険者の属する世帯に退職被扶養者の資格取得の届出を勧奨する文書を送付するなどして届出勧奨を行っていた。そして、その後退職被扶養該当者がいるのに届出を行わない世帯がある場合は、当該市区の保有する情報を活用してそれを把握した上で、これらの世帯に対して、電話、文書等により再度の届出勧奨を行っていた。この結果、42市においては未適用者がいなくなったが、24市区では退職該当者に届出を省略した適用を行ってから1年以上経過した17年度末においても、未適用者は712人、退職被扶養該当者2,425人に係る未適用率は29.3%、66市区の全体でみると18.6%となっていた。
 上記のとおり、届出勧奨を的確に行っている66市区における未適用率は、的確に行っていない211市区における未適用率よりも低くなっていた。また、66市区では届出勧奨を的確に行ってもなお、一部の市区において未適用者が相当数に上る状況となっていた。
 このように、退職被扶養者の適用が的確に行われていない事態は、国民健康保険と被用者保険との間の費用負担の不合理を是正して、国民健康保険の健全な財政運営を図るために設けられている退職者医療制度の趣旨にそぐわないものである。また、退職被扶養者の適用を的確に行っている保険者と的確に行っていない保険者との間で国庫負担金の交付が公平を欠く結果にもなっている。これらのことなどから、上記の事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(過大に交付される結果となっていた国庫負担金)

 前記アの211市区と、イの24市区との計235市区の17年度末における未適用者14,887人に係る退職者該当年月日から17年度末までの医療給付費は計49億3662万余円(13年度〜17年度)であり、これに係る国庫負担金計18億8219万余円が過大に交付される結果となっていると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 厚生労働省において、前記の事態について十分に把握しておらず、市区の保有する被保険者の収入等に関する情報を活用して、退職被扶養該当者がいるのに届出を行わない世帯を把握することなどにより、届出を省略した適用が可能となるのに、退職被扶養者に係る届出を省略した適用についての制度を整備していなかったこと
イ 市区において、退職被扶養者に係る届出勧奨を的確に行っていなかったこと、また、都道府県において、市区における届出勧奨の実施状況を十分把握しておらず、当該市区に対する助言が十分でなかったこと、さらに、厚生労働省において、退職被扶養者に係る届出勧奨の具体的な方法などについて明確に示していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、国民健康保険における退職被扶養者の適用を的確に行うよう、19年9月に都道府県に対して通知を発した。その後、20年3月に国民健康保険法施行規則を改正するなどして、次のような処置を講じた。
ア 市町村の保有する被保険者の収入等に関する情報を活用するなどして退職被扶養該当者に対して、退職被扶養者に係る届出を省略した適用を行うことができるよう制度を整備した。
イ 退職被扶養者に係る届出勧奨の具体的方法を定めるとともに、都道府県に市町村における届出勧奨の実施状況を把握させ、取組が十分でない市町村に対しては、その的確な実施を図るために助言させることとした。

 本院は、今回会計実地検査を行った28都道府県を含むすべての都道府県において、厚生労働省が講じた処置に基づき退職被扶養者の適用が的確に実施されているか、引き続き、検査していくこととする。