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林業・木材産業改善資金貸付事業の実施に当たり、自主納付制度を活用することにより、貸付需要に対応した適切な資金規模として資金を有効に運営するよう意見を表示したもの


(1) 林業・木材産業改善資金貸付事業の実施に当たり、自主納付制度を活用することにより、貸付需要に対応した適切な資金規模として資金を有効に運営するよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)林野庁 (項)林業・木材産業等振興対策費
部局等 林野庁
補助の根拠 林業・木材産業改善資金助成法(昭和51年法律第42号)
補助事業者(事業主体) 17県
補助事業 林業・木材産業改善資金貸付
補助事業の概要 林業経営の改善等のために林業従事者等が必要とする資金の貸付事業を行う都道府県に対して、必要な資金の一部を助成するもの
資金造成額 86億5415万余円    
上記の資金に対する国庫補助金交付額 55億2934万余円    
平成21年度に自主納付の検討対象とすべき額 14億4792万円    
上記に対する国庫補助金相当額 9億6528万円    

【意見を表示したものの全文】

林業・木材産業改善資金貸付事業の運営について

(平成20年10月22日付け 林野庁長官あて)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 林業・木材産業改善資金貸付事業等の概要

(1) 事業の概要

 貴庁は、林業経営及び木材産業経営の健全な発展、林業生産力の増大並びに林業従事者の福祉の向上に資することを目的として、林業・木材産業改善資金助成法(昭和51年法律第42号。以下「助成法」という。)に基づき、林業従事者等が林業経営の改善等のために必要とする資金の貸付事業を行う都道府県に対して、当該貸付事業に必要とする資金の3分の2に相当する金額を国庫補助金として交付している。
 そして、都道府県は上記の貸付事業を行うため、特別会計を設置して、この国庫補助金に自己資金等を合わせて林業・木材産業改善資金(平成15年6月30日以前は林業改善資金。以下「資金」という。)を造成して、林業経営の改善を促進するために必要な機械の購入又は施設の設置等を行う林業従事者等に対して必要な資金を無利子で貸し付けている。また、この特別会計は、資金を借り入れた林業従事者等からの償還金を受け入れ、これを貸付財源に充当することを繰り返すことにより運営している。

(2) 貴庁における資金活用のための改善処置等

 本院は、13年次に林業改善資金について会計実地検査を実施した結果、都道府県において貸付需要に見合った適切な資金規模にするための検討が十分でなかったため、特別会計で多額の繰越金が発生して、都道府県費分も合わせた財政資金が効果を発現することなく滞留している事態について、平成12年度決算検査報告に本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項として掲記したところである。そして、貴庁は、13年10月に通知を発して、都道府県において特別会計の資金を貸付需要に対応した適切な資金規模として、貸付けが見込まれない額のうち、国の補助金に相当する額を国へ自主納付できることとするなどの処置を講じている。
 その後、貴庁は、貸付需要拡大のため、15年7月に助成法を改正して、貸付けの対象者を林業従事者のみならず木材製造業、木材卸売業等の木材産業の事業者まで拡充して、これに係る貸付金の限度額を1億円とするとともに、都道府県の直接貸付方式のほかに、銀行等の民間金融機関が都道府県から資金を借り受けて貸付けを行う転貸方式を追加するなどした。

(3) 資金の貸付け及び繰越しの状況の推移

 本件貸付事業を実施している47都道府県における資金の貸付状況をみると、15年に貸付対象者の拡充等が行われたこともあり、16年度以降は少しずつ増加する傾向にあるものの、表1のとおり、19年度末貸付残高は12年度の123億3763万余円を下回る109億9576万余円となっており、資金造成総額に対する年度末貸付残高の比率(以下「貸付残高率」という。)は、19年度末においてもいまだに49.2%と、前回検査した12年度の水準にとどまる状況となっている。この結果、19年度末においても資金造成総額に対する次年度繰越額の比率(以下「繰越率」という。)が50%を上回る状況が続いている。

表1  資金の貸付残高及び繰越状況
年度 資金造成総額(a)=((b)+(c))
  年度末貸付残高(b) 次年度繰越額(c)
    貸付残高率(b)/(a)   繰越率(c)/(a)
平成
12
千円
25,578,873
千円
12,337,630
48.2
千円
13,241,243
51.8
15 25,021,831 8,598,334 34.4 16,423,497 65.6
16 24,878,768 9,089,662 36.5 15,789,106 63.5
17 23,332,339 9,496,289 40.7 13,836,050 59.3
18 22,883,968 10,070,403 44.0 12,813,565 56.0
19 22,353,110 10,995,760 49.2 11,357,350 50.8

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 貴庁は、前記のとおり、都道府県において資金を貸付需要に対応した適切な資金規模とするために、貸付けが見込まれない額のうち国の補助金に相当する額を国へ自主納付できることとするなどの処置を講じてきたところである。しかし、その後も、木材市況の低迷を背景として多額の繰越金が発生している事態はいまだ大きくは改善されていない状況にある。
 そこで、有効性等の観点から、都道府県における資金が自主納付制度を活用するなどして貸付需要に対応した適切な資金規模で効果的な運営が図られているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 資金により貸付事業を実施している17県(注1) (19年度末の資金造成総額86億5415万余円、うち国庫補助金55億2934万余円)において会計実地検査を行い、15年度から19年度までの5年間の貸付額、繰越額、自主納付の状況等について分析を行うなどして検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 資金の貸付け及び繰越しの状況
 19年度末の資金の貸付け及び繰越しの状況をみると、表2のとおり、貸付残高率が12県において50%を下回っており、このうち9県は30%に満たない状況であった。また、貸付残高率が5.4%と著しく低く、造成された資金がほとんど貸し付けられていない県も見受けられた。

表2  県別の貸付残高率(平成19年度末)
貸付残高率 10%未満 10%以上20%未満 20%以上30%未満 30%以上40%未満 40%以上50%未満 50%以上60%未満 60%以上70%未満 70%以上80%未満 80%以上90%未満 90%以上100% 合計
県数 1 2 6 2 1 1 2 1 0 1 17
12 5

イ 貸付けの計画と実績

 都道府県は、毎年度、近年の貸付実績を勘案するなどして資金の貸付事業計画(以下「貸付計画」という。)を策定して、国の承認を受けた上で事業を実施するとともに、その実績を国に報告することとなっている。
 そこで、15年度から19年度までの5年間の貸付計画と実績をみると、表3のとおり、12県において貸付計画額に対する実績額の比率の年平均値が50%を下回っていた。これは、必ずしも近年の貸付実績に基づくことなく貸付需要の増大を見込むなどしているためで、多年にわたって貸付計画額が適切な貸付需要見込みを反映したものとはなっていない状況が見受けられた。

表3  県別の計画実施率
計画実施率 10%未満 10%以上20%未満 20%以上30%未満 30%以上40%未満 40%以上50%未満 50%以上60%未満 60%以上70%未満 70%以上80%未満 80%以上90%未満 90%以上100% 合計
県数 0 3 5 3 1 0 2 3 0 0 17
12 5
(注)
「計画実施率」とは、平成15年度から19年度までの貸付計画額に対する実質額の比率の年平均値である。

ウ 自主納付制度の活用状況

 貴庁は、前記のとおり、都道府県において資金を貸付需要に対応した適切な資金規模とすることを目的として、将来にわたり貸付けに活用されないと見込まれる額のうち国の補助金に相当する額を国へ自主納付できることとした。
 そこで、自主納付制度の活用状況についてみると、自主納付を2回実施した県が2県、1回実施した県が5県にとどまっており、表4のとおり、19年度における繰越率が50%以上となるなど、資金が滞留しているにもかかわらず、貸付需要の増大を見込むなどして自主納付を実施していない県が多数見受けられた。
 また、自主納付は実施したものの、19年度における繰越率が50%以上となっており、資金の滞留状況が改善されているとは認められない県が6県見受けられた。

表4  県別の自主納付の実施状況及び繰越率(平成19年度末)
繰越率 10%未満 10%以上20%未満 20%以上30%未満 30%以上40%未満 40%以上50%未満 50%以上60%未満 60%以上70%未満 70%以上80%未満 80%以上90%未満 90%以上100% 合計
県数 1 0 1 2 1 1 2 6 2 1 17
小計 5 12
  うち自主納付実施 0 0 0 1 0 1 0 2 2 1 7
小計 7 6
うち自主納付未実施 1 0 1 1 1 0 2 4 0 0 10

<事例>

 A県では、平成13年度に国庫補助金相当額4000万円の自主納付を実施して、19年度末で総額6億7032万余円(国庫補助金4億3461万余円)の資金規模となっているが、15年度から19年度までの各年度の貸付実績がそれぞれ1件68万円、7件3582万円、4件3375万円、6件3755万円及び2件800万円と低調であったため、その繰越額はそれぞれ4億5156万余円(繰越率67.6%)、4億8535万余円(同72.6%)、5億1056万余円(同76.4%)、5億1392万余円(同76.9%)及び5億4798万余円(同81.7%)と年々増加していた。
 これは、木材市況の低迷を背景として、毎年度の貸付実績が資金規模に比べて著しく低い水準にとどまっていて、13年度の自主納付実施後も資金の滞留状況が改善されていないにもかかわらず、貸付実績に基づいた貸付需要の予測により、適切な資金規模を把握した上で、これにより自主納付の検討を行っていなかったことなどによると認められる。

エ 自主納付の検討及び自主納付額の算定について

 都道府県は、毎年度、貸付計画の承認申請に先立ち、将来の資金収支状況を予測するため、中期的な貸付年次計画(以下「中期計画」という。)を作成して貴庁に提出している。中期計画においては、前年度繰越額、償還額等を財源とした貸付原資を収入として、貸付額及び自主納付額を支出としてその収支差額を繰越額として中期的な見込みを立てている。そして、多くの都道府県で自主納付の要否及び自主納付額を決定する場合には、資金が回転することを前提として中期的な資金の滞留額を予測した上で、貸付原資の不足を来さないよう検討を行っている。
 そこで、今回検査した17県が作成した20年度から25年度までの6年間の中期計画を用いて、15年度から19年度までの過去5年間における最大の貸付実績額を毎年度の貸付見込額として自主納付の検討対象とすべき額を試算してみると、表5のとおり、14県(注2) で計9億6528万余円(国庫補助金相当額)の資金が自主納付の検討対象になると見込まれた。

表5  自主納付の検討対象とすべき額
(単位:千円)

貸付原資
(a)
貸付額
(b)
繰越額
(c)=((a)−(b))
自主納付の検討対象額
(d)=(c)/2
左のうち国庫補助金相当額
(d)×2/3
3,826,621 930,768 2,895,853 1,447,926 965,284
(注)
 「貸付原資」、「貸付額」及び「繰越額」は中期計画を用いて算出した平成20年度を始期とする5年先(24年度末)の見込額である。

 なお、上記自主納付の検討を随時繰り返し行うことにより、最新の貸付見込額に基づいて算出される将来の繰越額のうち余剰分とみなされる資金が着実に解消される効果が見込まれる。

(改善を必要とする事態)

 上記のように、貴庁は自主納付制度を整備したものの、多くの県において資金が依然として貸付需要に対応した適切な資金規模となっておらず、多額の繰越金を発生させている事態は適切でなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 都道府県において、適切な貸付需要予測に基づいた貸付計画を作成して、これを基に貸付需要に対応した適切な資金規模を把握することにより自主納付の要否についての検討がなされていなかったこと、また、自主納付をする場合に貸付需要に対応した適切な資金規模に基づいた納付額の算定がなされていなかったこと
イ 貴庁において、都道府県に対して、貸付需要に対応した適切な資金規模による資金の運営についての把握及び指導が十分ではなかったこと、また、自主納付の検討対象とすべき額の算定方法等について、自主納付制度の活用に資する指針を示していなかったこと

3 本院が表示する意見

 本件貸付事業は、昭和51年に発足して以来、無利子資金の貸付けを通じて林業経営及び木材産業経営の健全な発展等に貢献してきたところである。しかし、近年は少しずつ貸付額が増加する傾向が見受けられるとはいえ、木材市況の低迷等により貸付需要が落ち込み、いまだ多額の資金が活用されないまま滞留する状況となっている。
 貴庁では、前記の事態に係る本院の指摘を受けて、平成20年9月12日付けで都道府県に対して通知を発して、今後更に貸付需要の拡大への取組を積極的に行うよう要請するとともに、自主納付の検討対象とすべき額の算定方法等について、自主納付制度の活用に資する指針を示すなどしている。
 ついては、今後、都道府県が、貸付需要に対応した適切な資金規模で資金を有効に運営するために、上記の指針に基づいて自主納付制度を活用することが重要であることにかんがみ、貴庁において、都道府県に対して、自主納付の検討に関する指針の周知徹底を図るとともに、資金の運営状況についてより一層把握に努め、その状況に応じた的確な指導を行うよう意見を表示する。

 17県  青森、岩手、宮城、秋田、福島、埼玉、愛知、三重、滋賀、奈良、和歌山、鳥取、広島、山口、高知、福岡、熊本各県

 14県  青森、宮城、秋田、福島、埼玉、愛知、滋賀、奈良、鳥取、広島、山口、高知、福岡、熊本各県