会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)農林水産本省 | (項) | 農業生産基盤整備事業費 |
(項) | 北海道農業生産基盤整備事業費 | |||
部局等 | 農林水産本省、7農政局 | |||
補助の根拠 | 予算補助 | |||
補助事業者 | 19道府県 | (うち事業主体 府1、県1、計2府県) | ||
間接補助事業者 (事業主体) |
市8、町5、土地改良区76、計89事業主体 | |||
補助事業 | 新農業水利システム保全対策 | |||
補助事業の概要 | 農地の利用集積等への制約要因を除去して、担い手育成に資する合理的な水利用と管理の省力化等を実現するために、農業水利施設の機能診断等の実施により、制約要因及び除去手段を明確にした保全計画を策定するなどのもの | |||
保全計画が適切に策定されていない地区 | 138地区 | |||
上記に係る事業費 | 8億4778万余円
(平成16年度〜19年度)
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上記に対する国庫補助金交付額 | 8億3526万円
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(平成20年10月31日付け 農林水産大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、農業水利施設とそれらの施設を管理する組織の総体である農業水利システムが、我が国における食料の安定供給確保のための重要な基盤として、社会の安定及び国民の安心と健康の維持を図る上で、その役割を永続的に発揮することが不可欠であるとしている。また、貴省は、農業水利システムの役割を発揮させるためには、これを新たな農業構造に対応した担い手中心の省力的システムに再構築することが必要であるとしている。
このため、貴省は、米政策改革基本要綱(平成15年農林水産省決定)に基づき策定された地域水田農業ビジョンの実現に向けて、新農業水利システム保全対策事業実施要綱(平成16年15農振第2543号農林水産事務次官依命通知)等に基づき、平成16年度以降、新農業水利システム保全対策事業(以下「保全対策事業」という。)を国庫補助事業として実施している。
そして、この保全対策事業は、都道府県、土地改良区等が事業主体となって、農業水利システム保全計画(以下「保全計画」という。)の策定等を行う農業水利システム保全計画策定事業(以下「計画策定事業」という。)と、計画策定事業と併せて省力化のための農業水利施設の整備等を行う管理省力化施設整備事業により構成されている。
計画策定事業を実施する事業主体は、あらかじめ関係農家及び関係地域住民と十分調整の上で、水利地域水田農業ビジョン(以下「水利地域ビジョン」という。)及び当該計画策定事業に係る事業計画を策定することとなっている。水利地域ビジョンにおいては、農地の利用集積等への制約要因とその除去のための手段等を記載することとなっており、事業主体は、この水利地域ビジョンと整合しつつ、農業水利施設の機能診断、水利用と管理の在り方の技術的検討等を行い、農地の利用集積等への制約要因を除去して合理的な水利用、管理の省力化等を実現するための保全計画を策定することとなっている。
そして、計画策定事業の実施に当たり、事業主体は、都道府県知事に事業実施の申請を行い、都道府県知事は、事業採択申請書に水利地域ビジョン及び事業計画書等を添えて地方農政局長等に提出して、地方農政局長等は、これらの事業採択申請書等を審査の上、事業の採択を決定することなどとされている。また、毎年度、事業主体は都道府県知事に、都道府県知事は地方農政局長等に、事業の実施結果等を報告することとされており、事業実施3年目の報告にあっては、水利地域ビジョンの進ちょく状況を確認して、保全計画等を添えて提出することとされている。計画策定事業の採択期間は16年度から21年度まで、実施期間は16年度から25年度までの中で5年間とされている。
我が国の農業水利施設は、昭和30年代から40年代にかけて整備されたものが多く、近年はその老朽化が一段と進んでおり、また、農業者の減少、高齢化等に伴い、農業水利施設の十分な管理が困難となってきている。そして、このような現状を背景として、農業水利システムを新たな農業構造に対応した担い手中心の省力的システムに再構築していくことの重要性は、一段と高まっている状況になっている。
そこで、有効性等の観点から、計画策定事業において策定された保全計画は、農地の利用集積等への制約要因を除去して、合理的な水利用と管理の省力化等の実現に資するものとなっているかなどに着眼して検査した。
本院は、貴省、19道府県(注) 、13市町及び86土地改良区において会計実地検査を行った。そして、府県、土地改良区等の101事業主体において、平成16年度から19年度までの間に計画策定事業を実施して、かつ、19年度までに保全計画が策定されている163地区(事業費10億3100万余円、国庫補助金10億1648万余円)を対象として、保全計画、実績報告書等の書類及び現地の状況を検査するとともに、事業主体である土地改良区等に対して計画策定事業の実施内容等についての報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査したところ、計画策定事業において適切とは認められない事態が次のとおり見受けられた。
前記のとおり、保全計画は、水利地域ビジョンと整合したものであるとされており、農業水利施設の機能診断等の結果を反映することなどにより、水利地域ビジョンをより具体化したものとなる。
そして、前記163地区の水利地域ビジョンにおける農地の利用集積等への制約要因についてみると、水門操作が手動式で操作に手間がかかるなどの農業水利施設に起因するものや、農業従事者の高齢化等により用水路周辺の草刈りが困難であるなどの農業水利施設の維持管理に起因するものが見受けられた。
そこで、農業水利施設の機能診断、担い手へのアンケート調査の結果等に基づき策定された保全計画において、農地の利用集積等への制約要因及びその除去のための手段が、どのように具体化されているか調査したところ、次のとおりとなっていた。
ア 農業水利施設に起因する農地の利用集積等への制約要因等
前記163地区のすべての地区において、農業水利施設の機能診断の結果、農業水利施設に起因する農地の利用集積等への制約要因があり、どの農業水利施設が制約要因となっているかが保全計画に明らかにされていた。そして、その制約要因を除去する手段についてみると、163地区のうち、83地区については、制約要因を除去するために整備が必要と診断されたすべての農業水利施設について、水門操作の電動化等の具体的な整備方針及び整備時期が保全計画に記載されていた。
しかし、残りの80地区については、整備が必要と診断された農業水利施設の一部について、その整備方針等が保全計画に具体的に記載されていないため、これらの農業水利施設について、制約要因の除去がどのように図られることとなるのかが明らかにされておらず、保全計画の記載内容が十分なものとなっていなかった。
イ 農業水利施設の維持管理に起因する農地の利用集積等への制約要因等
前記163地区のうち、担い手等へのアンケート調査等の結果、65地区において、農業水利施設の維持管理に起因する農地の利用集積等への制約要因があるとされていた。そして、このうち、34地区については、維持管理活動に係る労力の確保が困難であるなどとして改善の要望がある制約要因と、その除去のための手段として、点在する農業水利施設を一体的に管理できるよう管理組織を再編することなどの具体的な解決策が保全計画に記載されていた。
しかし、残りの31地区については、アンケート調査等の結果で明らかとなった農地の利用集積等への制約要因及びその解決策が保全計画に記載されていないため、制約要因の除去がどのように図られることとなるのかなどについて、保全計画の記載内容が十分なものとなっていなかった。
前記のとおり、貴省は、農業水利システムの役割を発揮させるためには、これを新たな農業構造に対応した担い手中心の省力的システムに再構築することが必要であるとしている。そこで、前記163地区の保全計画において、計画策定事業の実施により農業水利施設の管理体制が従来に比べてどのように変わるのかという点について、保全計画の記載状況を調査したところ、次のとおりとなっていた。
すなわち、38地区の保全計画については、農業水利施設の管理体制を再整備する必要があるとして、施設管理、配水管理等ごとに今後の管理体制が具体的に記載されていたり、新たな管理マニュアルが策定されていたりなどしていた。
しかし、残りの125地区の保全計画については、今後の農業水利施設の管理体制について全く記載されていなかったり、具体的な内容が記載されていなかったりしていて、保全計画の記載内容が十分なものとなっておらず、農業水利システムの再構築に対する事業主体の認識が十分ではない状況になっていた。
そして、(1)及び(2)の状況を整理すると次表のとおりとなり、163地区のうち25地区(4道府県の10事業主体)については、保全計画に農地の利用集積等への制約要因の除去のための手段等がすべて明確に記載されていたが、残りの138地区(19道府県の91事業主体、事業費8億4778万余円、国庫補助金8億3526万円)については、農業水利施設、農業水利施設の維持管理のそれぞれに起因する農地の利用集積等への制約要因及びその除去のための手段並びに今後の農業水利施設の管理体制の一部又は全部が保全計画に明確に記載されておらず、保全計画の記載内容が十分なものとなっていないと認められた。
農地の利用集積等への制約要因等 | 記載状況 | 地区数 | |||||||
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左記〔1〕 、〔2〕 及び〔3〕 のすべてについて明確に記載されている地区 | 25 | |||||||
左記〔1〕 、〔2〕 及び〔3〕 の一部が明確に記載されていない地区 | 72 | 138 | |||||||
左記〔1〕 、〔2〕 及び〔3〕 のすべてについて明確に記載されていない地区 | 66 | ||||||||
計 | 163 |
A県B郡C町に所在するD地区(水利区域面積543ha)においては、土地改良区が事業主体となって、平成17年度から21年度までの5年間を事業実施期間として計画策定事業を実施しており、19年度までの間の事業費は計900万円(国庫補助金同額)となっている。
そして、18年度に、同地区内の用水路、樋(ひ)門等111か所の機能診断及び水利区域内の農家に対するアンケート調査を実施していた。
しかし、19年度に策定された保全計画については、農業水利施設の機能診断により溢(いっ)水等が認められた22か所の用水路等について、その補修内容及び補修時期が具体的に記載されていたが、他の89か所の中にも、溢水等が多数見受けられたのに、これらの補修内容等が明確にされていなかった。また、農業水利施設の維持管理についても、アンケート調査により明らかとなった問題点、解決策及びそれらを反映した今後の管理体制が保全計画に記載されておらず、農業水利施設の機能診断及びアンケート調査の結果が、保全計画に十分反映されていなかった。
上記のように、保全計画が農業水利施設の機能診断等により判明した具体的な農地の利用集積等への制約要因及びその除去のための手段を十分に反映したものとなっていないなどの事態は、制約要因を除去することにより担い手育成に資する合理的な水利用と管理の省力化等を実現するための指針として今後とも保全計画の有効活用を図る上で適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 事業主体において、計画策定事業の趣旨に対する理解が十分でなく、保全計画に農業水利施設の機能診断等の結果を十分に反映させることなどに対する認識が十分でないこと
イ 貴省において、道府県及び事業主体に対する計画策定事業の趣旨の周知徹底及び指導が十分でないこと
ウ 貴省及び道府県において、保全計画に対する審査が行われていないこと及び保全計画の記載内容に対する指導が十分に行われていないこと
貴省は、前記のとおり、計画策定事業を25年度まで実施することとしていることから、計画策定事業の実施において問題が見受けられるものについて、その原因分析を行い、対応策を講じて、計画策定事業を適切に実施していくことが、計画策定事業の事業効果の更なる発現にとって肝要となる。
ついては、貴省において、前記の138地区に係る保全計画を機能診断等の結果を反映した適切なものに修正させるなどするとともに、計画策定事業の事業効果が発現するよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 事業主体に対して、都道府県を通じて、計画策定事業の趣旨の周知徹底及び指導を行い、計画策定事業の趣旨に基づく事業の実施を図ること
イ 事業主体が策定した保全計画に対する審査を行い、農業水利施設の機能診断等の結果を十分反映させていない保全計画については事業主体にこれを修正させるなどして、事業主体に対して適時適切な指導を行うこと