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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 農林水産|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

沿岸漁業改善資金の貸付けにおいて、審査及び確認の際に必要な証拠書類等を徴したり、事業実施報告書等の確認及び借受者調査書の作成に当たっての留意事項を整理したりなどして、適切な貸付事業の実施を図るよう改善させたもの


(3) 沿岸漁業改善資金の貸付けにおいて、審査及び確認の際に必要な証拠書類等を徴したり、事業実施報告書等の確認及び借受者調査書の作成に当たっての留意事項を整理したりなどして、適切な貸付事業の実施を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)水産庁 (項) 水産業振興費
部局等 水産庁
助成の根拠 沿岸漁業改善資金助成法(昭和54年法律第25号)
事業主体 11県
事業の内容 沿岸漁業従事者等に対する無利子の沿岸漁業改善資金の貸付け
貸付件数 41件(40沿岸漁業従事者)
上記に対する不適切な貸付金額
6166万余円
 

補助の目的に沿わない国庫補助金相当額
4110万円
 

1 事業の概要

 水産庁は、沿岸漁業改善資金助成法(昭和54年法律第25号)に基づき、沿岸漁業の経営の健全な発展、漁業生産力の増大及び沿岸漁業の従事者の福祉の向上を図るために、沿岸漁業従事者等に対して沿岸漁業経営の改善等に必要な資金の貸付けを行う都道府県に対して、その貸付けに必要な資金の3分の2以内を沿岸漁業改善資金造成費補助金として交付している(沿岸漁業改善資金事業の概要については、前掲の「沿岸漁業改善資金の貸付けが不当と認められるもの」 参照)。
 そして、都道府県は、「沿岸漁業改善資金制度の運営について」(平成17年16水推第1032号水産庁長官通知)等により、貸付事業の的確な事務処理を図るために、貸付申請書及び貸付対象事業の実施について次のような審査、確認等を行うこととなっている。
ア 貸付申請書については、〔1〕 貸付申請書に記載された事業量、対象機器等、事業費等の審査、〔2〕 貸付申請書に記載された事業計画が法令、通知等に適合しているかの審査
イ 事業実施については、〔1〕 事業実施報告書記載事項についての審査(領収書の審査を含む。)、〔2〕 現地の事業実施状況の確認、〔3〕 実績事業費が貸付金額を下回る場合の当該差額の繰上償還又は期限前償還の徹底
 また、普及指導に当たる都道府県の職員は、借受者に対して、貸付前のみならず貸付後の事業実施等について積極的な指導援助を行い、借受者からの事業実施報告書の提出後、当該借受者に関する指導事項、事業実施結果の評価及び今後の指導留意事項を記載した借受者調査書を作成することとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 都道府県における沿岸漁業改善資金造成額の総額は、平成19年度末で210億4939万円と多額に上っている。
 そこで、本院は、合規性等の観点から、借受者は貸付けの目的どおりに事業を実施しているか、また、貸付対象事業費に貸付対象外の機器等の経費を含んでいないか、これに対する道県の審査及び確認は適切に行われているかなどに着眼して検査した。
 本院は、水産庁、26道県(注1) 及び307借受者において会計実地検査を行った。そして、26道県が17年度から19年度までの間に貸付けを行った340件、貸付金額計23億8255万余円(国庫補助金相当額計15億8836万余円)を対象に、事業実施報告書等の書類を確認するなどの方法により検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が、11県(注2) において、41件(40沿岸漁業従事者)、貸付金相当額計6166万余円(国庫補助金相当額計4110万余円)見受けられた。

(1) 貸付対象となった機器等をほとんど沿岸漁業以外の経営に使用していたもの

     3件(2県、2沿岸漁業従事者)

不適切な貸付金相当額計 1825万円(国庫補助金相当額計1216万余円)

 借受者は、沿岸漁業の経営に係る事業を実施するとした事業計画書を添えて貸付申請を行っているが、事業計画に沿って実施しておらず、貸付対象となった機器等をほとんど遊漁船業として沿岸漁業以外の経営に使用していて、貸付けの対象とならない事態が見受けられた(具体的な事例については、前掲の「沿岸漁業改善資金の貸付けが不当と認められるもの」 の愛知、長崎両県の事態を参照)。

(2) 貸付決定前に貸付対象となった機器等の据付け及び引渡しを受けていたもの

     2件(2県、2沿岸漁業従事者)

不適切な貸付金相当額計 810万円(国庫補助金相当額計539万余円)

 借受者は、貸付決定前に貸付対象となった機器等の据付け及び引渡しを受けており、貸付けの対象とならない事態が見受けられた(具体的な事例については、前掲の「沿岸漁業改善資金の貸付けが不当と認められるもの」 の和歌山県の事態を参照)。

(3) 貸付対象となった機器等を貸付金額より低額で設置していたもの

     7件(4県、7沿岸漁業従事者)

不適切な貸付金相当額計 550万余円(国庫補助金相当額計366万余円)

 借受者が、貸付決定後に値引き等により機器等を貸付金額より低額で設置していた事態が見受けられた(具体的な事例については、前掲の「沿岸漁業改善資金の貸付けが不当と認められるもの」 の福島県の事態を参照)。

(4) 貸付対象の範囲を明確に示していなかったため、貸付けの対象とならない周辺機器等を貸付対象事業費に含めていたもの

     35件(8県、35沿岸漁業従事者)

不適切な貸付金相当額計 2981万余円(国庫補助金相当額計1987万余円)

 借受者が、エンジンを設置する際、貸付けの対象とならないプロペラ等の周辺機器等を貸付対象事業費に含めていた事態が見受けられた。
 (上記の(3)及び(4)には、事態が重複している貸付けが6件(3県、6沿岸漁業従事者)ある。)
 以上のように、貸付対象となった機器等をほとんど沿岸漁業以外の経営に使用していたり、機器等を貸付金額より低額で設置していたり、貸付対象の範囲を明確に示していなかったため貸付けの対象とならない周辺機器等を貸付対象事業費に含めていたりなどしていた貸付けが多数見受けられる事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、借受者が制度を十分理解していなかったり、事実と異なる報告を行っていたりしているほか、次のことなどによると認められた。

ア 県において、沿岸漁業の経営とそれ以外の経営とを区分した収支状況等の沿岸漁業に従事する借受者としての適格性を判断するための資料を徴したり、品目を列記した見積書、契約書、納品書、請求書、領収書等を徴したりしておらず、的確な審査及び確認を十分に実施していなかったこと
イ 水産庁において、
(ア) 都道府県に対して、沿岸漁業改善資金の貸付けにおける審査及び確認に当たり、上記の証拠書類等を十分徴するなどの指導をしていなかったこと
(イ) 都道府県が事業実施報告書等の審査及び確認に当たって留意すべき事項を整理するなどの検討が十分でなかったこと
(ウ) 都道府県が作成する借受者調査書の作成に当たって、指導のみならず、貸付事業の確認に活用するなどの検討が十分でなかったこと
(エ) エンジンについて貸付対象の範囲を明確にしていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、前記検査の結果(1)から(3)までの事態に該当する7県(注3) は、不適切な貸付け12件(11沿岸漁業従事者)に係る貸付残高について繰上償還の処置を講ずるとともに、水産庁は、20年9月に、都道府県に対して通知を発して、適切な貸付事業の実施を図るよう次のような処置を講じた。
ア 沿岸漁業改善資金の貸付けにおける審査及び確認に当たり、沿岸漁業の経営と遊漁船業等沿岸漁業以外の経営とを区分した収支状況、稼働日数等の沿岸漁業に従事する借受者としての適格性を判断するための資料、また、品目を列記した見積書、契約書、納品書、請求書、領収書等の証拠書類を徴して、的確な審査及び確認を行うこととした。
イ 事業実施報告書等の審査及び確認に当たって、貸付対象外、事前着工、目的外使用、事業未実施等に留意して、必要な証拠書類を十分徴して、機器等の購入、設置時期等の事実確認を十分行うこととした。
ウ 借受者調査書の作成に当たって、目的外使用等不適切な貸付けの防止の観点から、貸付事業の導入目的達成のための具体的指導事項を記載することとするなど貸付事業の確認に資するようにした。
エ エンジンについて貸付対象の範囲を明確に示した。

 26道県  北海道、青森、岩手、福島、茨城、千葉、神奈川、石川、福井、静岡、愛知、三重、兵庫、和歌山、鳥取、島根、広島、山口、徳島、愛媛、福岡、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄各県

 11県  青森、岩手、福島、神奈川、石川、静岡、愛知、三重、和歌山、島根、長崎各県

 7県 青森、福島、神奈川、静岡、愛知、和歌山、長崎各県