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エネルギー対策のための地域新生コンソーシアム研究開発委託事業で取得した物品について、改造等の承認や売却処分等を円滑に行うことにより、これらの物品が同事業の目的に照らして十分有効に活用されるよう改善の処置を要求したもの


(3) エネルギー対策のための地域新生コンソーシアム研究開発委託事業で取得した物品について、改造等の承認や売却処分等を円滑に行うことにより、これらの物品が同事業の目的に照らして十分有効に活用されるよう改善の処置を要求したもの 会計名及び科目 エネルギー対策特別会計(エネルギー需給勘定)   (項)エネルギー需給構造高度化対策費 部局等 経済産業本省、8経済産業局 物品の概要 地域新生コンソーシアム研究開発委託事業において取得した物品 地域新生コンソーシアム研究開発委託事業において取得した物品 1,877個、80億1829万余円 (平成19年度末)   (1) 有効に活用されないまま無償貸付けしている物品の数量及び償却後価格 357個、11億6121万円 (平成19年度末)   (2) 有効に活用されないまま保管させている物品の数量及び償却後価格 48個、1億8260万円 (平成19年度末)   (1)、(2)の計 405個、13億4381万円 (平成19年度末)   【改善の処置を要求したものの全文】

エネルギー対策のための地域新生コンソーシアム研究開発委託事業で取得した物品の管理について

(平成20年10月31日付け 経済産業大臣あて)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(1) 地域新生コンソーシアム研究開発事業の概要

 貴省は、8経済産業局(注) (以下「各経産局」という。)等を通じて、平成14年度から地域新生コンソーシアム研究開発委託事業を実施している。この事業は、地域において新産業・新事業を創出して地域経済の活性化を図るため、地域における産学官の共同研究体制(以下「コンソーシアム」という。)の下で、大学等の技術シーズや知見を実用化するための研究開発を行わせて、地域における新産業の創出に貢献しうる製品等を開発することを目的としている。このうち、エネルギー使用の合理化、石油代替エネルギーの開発及び利用に寄与する研究開発委託事業(以下「委託事業」という。)を、エネルギー対策特別会計(18年度までは石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計。以下「特別会計」という。)で実施している。
 コンソーシアムは、国と委託契約を締結して委託事業の運営管理等を行う管理法人と、管理法人と再委託契約等を締結して研究開発を行う研究実施法人で構成される。
 委託事業の実施から製品等の開発までは、おおむね次のとおりとなっている。
〔1〕  各経産局は、委託事業を原則として2年以内の期間で実施して、管理法人に大学等の技術シーズ等を実用化するための研究開発を行わせて、必要に応じて特許権等の知的所有権を取得させる。委託事業には、研究開発のために実証機等を製作する場合があるが、知的所有権が実証機等の物品に含まれる場合もある(以下、知的所有権を含む物品を「ノウハウ物品」という。)。
〔2〕  委託事業終了後、コンソーシアムの構成員は、委託事業で開発した新技術を活用したり、製作したノウハウ物品を使用したりなどして地域の新産業の創出に貢献しうる製品の試作品等を開発するために、補完研究を3年間から5年間程度実施する。
 そして、補完研究の終了後、コンソーシアムの構成員は、試作品等をもとに製品化等を行い、地域における新産業・新事業として開発した製品等により事業化する。

(2) 委託事業で取得した物品の管理の概要

 各経産局は、管理法人に、委託事業で必要な物品を購入させたり、研究実施法人が開発したノウハウ物品等を取得させたりして研究実施法人に使用等させている。
 各経産局は、管理法人に、当該年度に取得した物品の品名、数量、取得年月日、取得価格、保管場所等を記載した取得財産移転届を翌年度に提出させて、国の資産として特別会計に帰属させている。
 貴省は、各経産局に対して、委託事業終了後の物品の処分等の方法について、原則として次のような優先順位によることを指導している。
〔1〕  他会計への管理換等
〔2〕  管理法人等への無償貸付け又は有償貸付け
〔3〕  コンソーシアムの構成員又は第三者への売却
〔4〕  廃棄

(3) 委託事業で取得した物品の委託事業終了後の無償貸付け

 貴省は、経済産業省所管に属する物品の無償貸付及び譲与に関する省令(平成15年経済産業省令第81号)等(以下「無償貸付規程等」という。)に基づき、委託事業で取得した物品を委託事業終了後、補完研究のためにコンソーシアムを組織した管理法人(公益法人に限る。)に貸し付ける場合等には、1年を超えない期間で、無償貸付けすることができることとしている。
 各経産局は、管理法人等に無償貸付けする場合に、物品の改造その他物品の現状を変更(以下「改造等」という。)するときにはあらかじめ各経産局の承認を受けることなどの条件を付している。また、無償貸付けの期間満了日までに特段の意思表示をしないときは、同一条件で更に1年間無償貸付けを認め、翌年度以降も同様とすることとしている。
 管理法人に無償貸付けされた物品の大半は、全国に所在する研究実施法人に転貸されていることなどから、無償貸付け中の物品は各地に散在しており、各経産局は、直接物品を確認して管理することが困難なために、貸付先から物品の使用実績報告書等を提出させるなど主に書面により管理している。

(4) 委託事業で取得した物品の返還後に行われる処分等の方法

 国の物品は、物品管理法(昭和31年法律第113号)で、国以外の者の施設に物品を保管することを妨げないとされている。各経産局は、管理法人等から無償貸付けの条件に該当しないために貸し付けることができなかったり、研究実施法人で必要がなくなったりして物品の返還を受けた場合には、売却、廃棄等の処分の手続を行うまでの間、管理法人等に書面で当該物品の保管を依頼して、管理法人等から預り証を受領した上で保管させている。そして、各経産局は、物品の保管者等が保管中にその物品を使用することを認めていない。
 また、各経産局は、管理法人が委託事業で取得した知的所有権を譲り受けないこととしていることから、ノウハウ物品に含まれる知的所有権を保護するために、コンソーシアムの構成員が当該物品の買取りをしない場合には、廃棄することとしている。

(5) 委託事業で取得して特別会計に帰属した物品の状況

 14年度から18年度までの間に、各経産局が特別会計で実施した委託事業の件数は表1のとおりである。

表1 委託事業の新規採択件数の推移(平成14年度から18年度まで)
年度 平成14年度 15年度 16年度 17年度 18年度
件数 30 43 53 39 50

 また、15年度末及び19年度末の委託事業で取得して特別会計に帰属した物品の数量及び取得価格は、15年度末241個、12億2766万余円、19年度末1,877個、80億1829万余円となっていて、委託事業の件数の累増に伴って物品の数量も15年度からの5年間で7.7倍に急増している。また、表2のとおり、物品のほとんどは委託事業実施時の管理法人等(以下、委託事業終了後も委託事業実施時の管理法人や研究実施法人をそれぞれ「管理法人」、「研究実施法人」という。)に、無償貸付けしたり、保管依頼したりして管理している。そして、19年度末の物品の無償貸付先(転貸先を含む。以下同じ。)又は保管先は44都道府県の200市町村に散在している。

表2 委託事業で取得して特別会計に帰属している物品の状況
年度 合計 無償貸付け 法人の研究実施場所等に保管 経済産業局に保管
数量 取得価格
(千円)
数量 取得価格
(千円)
数量 取得価格
(千円)
数量 取得価格
(千円)
平成15年度末 241 1,227,668 176 1,067,790 56 146,315 9 13,562
平成19年度末 1,877 8,018,296 1,496 6,720,992 293 1,212,116 88 85,182

 19年度末の委託事業で取得して特別会計に帰属している物品のうち、取得価格の上位5物品を挙げると、表3のとおりである。

表3 主な物品の状況(取得価格の上位5物品の例)
管理法人名 物品名 数量 取得価格
(円)
取得年月日 状況
A商工会議所 a 表面処理装置 1 72,397,500 平成18年1月30日 無償貸付け
B県中小企業団体中央会 b 成膜装置 1 68,752,950 平成17年3月25日 無償貸付け
財団法人C c 移動式処理プラント 1 65,860,200 平成19年1月22日 無償貸付け
D県中小企業団体中央会 d 熱分解装置 1 58,482,597 平成19年1月24日 無償貸付け
国立大学法人E e 燃焼装置 1 54,390,000 平成19年3月5日 無償貸付け

 一方、19年度末までに委託事業で取得して特別会計に帰属した物品を売却又は廃棄した数量は、計234個であり、19年度末までに委託事業で取得して特別会計に帰属した物品の数量2,111個に対する割合は11.0%になっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 委託事業で取得して特別会計に帰属している物品の数量は急増して、かつ、物品の所在箇所が全国に散在しており、各経産局が物品を直接確認しながら管理してその状況を十分に把握することが困難になってきている。
 そこで、特別会計がこれらの物品の取得に要する経費を負担していることにかんがみて、有効性等の観点から、物品が地域新生コンソーシアム研究開発事業の目的に照らして十分有効に活用されているか、事業化率を高めるためにより研究開発を促進する方途はないかなどに着眼して検査した。
 本院は、貴省及び各経産局において、19年度末現在管理している物品1,877個を対象に、会計実地検査を行った。そして、これらのうち458個については、無償貸付先や保管先の法人計60か所に直接に赴いて現況を調査した。また、1,877個すべての物品について、各経産局を通じて、無償貸付先や保管先の法人に対して製品等の開発に当たっての物品の改造等の必要性及び買取りの希望の有無等を調査するために調査票等を送付して調査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような状況が見受けられた。
 すなわち、各経産局は、前記のとおり、委託事業終了後の物品の管理に当たっては、貸付先の法人に物品の使用実績報告書等を提出させるなど主に書面によって管理しているが、製品等の開発の進ちょく状況については把握しているものの、個々の物品が製品等を開発するために有効に利用されているか、研究実施法人等が製品等を開発するために物品の改造等や買取りを希望しているかなどについて十分把握していなかった。
 そして、貴省は、各経産局における上記のような物品管理の現状を十分に把握しておらず、物品を有効に利用するための適切な指導をしていなかった。
 このため、ノウハウ物品405個、13億4381万余円(取得価格を基礎とし減価償却を行い、当該減価償却相当額を控除した後の19年度末の価格。以下「償却後価格」という。)が次のように有効活用されていない事態となっていた。

ア 無償貸付けしているノウハウ物品が製品開発等のために十分有効に活用されていないもの

 無償貸付けの物品1,364個について、物品の改造等が必要か調査票等により調査したところ、製品等の開発には改造等が必要などとしているノウハウ物品が357個、償却後価格11億6121万余円あった。
 そして、研究実施法人は、無償貸付けを受けたノウハウ物品であっても改造等を行うには事前に改造等の内容等を申請して承認を受ける必要があるが、無償貸付けの条件に基づく手続が煩雑で時間を要するために、研究開発の進ちょくに合わせて自由に改造等を行うことが困難であるとしていた。また、各経産局は、無償貸付けしている物品が、ノウハウ物品であるか一般の物品であるかを十分に把握していないまま、研究実施法人に対して、無償貸付規程等では、原状回復が困難な改造等や経済的価値の下落となる改造等は各経産局の承認の手続等が必要とされていることなどを説明している。これらのため、結果として、研究実施法人が物品を原状のまま使用していて改造等を自粛する傾向となっていた。
 しかし、上記の物品357個は、研究実施法人しか使用できないノウハウ物品であり、返還を受けても特別会計で使用したり売却したりせずに廃棄する予定のものであるので、原状回復の必要がないことから、貴省は、各経産局に製品等を開発するための改造等の承認手続を円滑に行わせて、研究実施法人にノウハウ物品を有効に活用させるべきである。

<事例1>

 F経済産業局は、管理法人のG財団法人に、「モータ用部品の特性を試験する装置」(平成18年12月取得、償却後価格408万余円)を製品となるモータの開発に使用するために、研究実施法人のH株式会社に20年4月に無償貸付けしている。
 H株式会社は、製品開発のためには当該物品の改造等が必要であるとしていたが、研究開発の結果を反映しながら自由に改造等を行うための承認手続が煩雑で原状回復も困難であることから、改造等の承認申請を行わず改造等をあきらめていた。
 しかし、当該物品はノウハウ物品であるのでH株式会社から不必要として返還されたとしても特別会計の負担で廃棄されることになるものであるが、改造等を認めれば地域新生コンソーシアム研究開発事業の目的に沿って有効に活用できるものである。

イ 保管させているノウハウ物品が製品開発等のため有効に活用されないままになっているもの

 管理法人等から、管理法人が公益法人ではないなどのために無償貸付けを受けることができないという理由から返還を受けて、売却、廃棄等の処分をするまでの間、当該管理法人等に依頼して、使用を認めることなく保管させている物品266個の中には、ノウハウ物品が78個あった。そして、この中には、製品等の開発に使用するなどとして買取りを希望する物品が48個、償却後価格1億8260万余円あった。
 特別会計が、研究実施法人にこれらのノウハウ物品を売却することとすれば、研究実施法人において有効に活用できるものであり、返還後に特別会計がノウハウ保護のために廃棄する費用を節減できることも見込まれる。
 上記のことから、保管させているノウハウ物品を製品開発等に有効活用させるために、手続の透明性等にも十分に配慮した処分方針等を示すなどして、買取りを希望する研究実施法人に、地域新生コンソーシアム研究開発事業の成果の向上等に寄与する売却等の促進を図るべきである。
 なお、前記アの無償貸付けしているノウハウ物品357個の中にも、研究実施法人が製品等の開発には改造等が必要などとして買取りを希望しているものが296個あった。

<事例2>

 I経済産業局は、管理法人のJ株式会社から委託事業が終了したとして返還を受けたノウハウ物品である「超音波画像表示の関連部品」(平成16年12月取得、償却後価格364万余円)を18年3月にJ株式会社に保管を依頼して、具体的な処分を行うまでの間、研究実施法人のK株式会社を保管場所として、使用を認めることなく管理させている。
 当該物品は、特別会計の負担で廃棄することになるノウハウ物品であるが、研究実施法人に売却を行えば、この事業の目的に沿って超音波画像システムの製品開発のために有効活用できるものである。そして、K株式会社は、当該物品の買取りを希望していた。

(改善を必要とする事態)

 上記のように、研究実施法人が物品の改造等を自粛する傾向にあるため、製品等の開発のため無償貸付けしているノウハウ物品が、必要な改造等が行われずに原状のまま使用されていて、十分有効に活用されていなかったり、無償貸付けや保管をしているノウハウ物品が、製品等の開発等で必要とする研究実施法人に売却等されておらず、有効に活用されないままになっていたりしている事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、各経産局において、物品の改造等の必要性及び買取りの希望の有無等について十分に把握していないこと、貴省において、ノウハウ物品について、各経産局が改造等の承認の手続を円滑に行えるような承認基準、手続の透明性等にも十分に配慮した物品の処分方針等を定めて、各経産局に対して適切な指導を行っていないことによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

 貴省は、委託事業で取得した物品を引き続き多数管理していくことが見込まれる。
 ついては、委託事業で取得したノウハウ物品について、改造等の承認や売却処分等を円滑に行うことにより、これらの物品が地域新生コンソーシアム研究開発事業の目的に照らして十分有効に活用されて研究開発の促進に資するよう、貴省に対して次のとおり改善の処置を要求する。
ア 各経産局に対して、物品の改造等の必要性及び買取りの希望の有無等について十分に把握させること
イ 各経産局が委託事業で取得したノウハウ物品の改造等の承認を円滑に行えるよう承認基準等を定めること
ウ 各経産局が委託事業で取得した物品の売却等を促進できるよう、手続の透明性等にも十分に配慮した物品の処分方針等を定めること

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