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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

トンネル工事の実施に当たり、集じん機の機種及び規格の選定を適切なものとすることにより、経済的な設計を行うよう是正改善の処置を求めたもの


(4) トンネル工事の実施に当たり、集じん機の機種及び規格の選定を適切なものとすることにより、経済的な設計を行うよう是正改善の処置を求めたもの

会計名及び科目 道路整備特別会計(平成20年度以降は社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定))
      (項)道路事業費
      (項)北海道道路事業費
      (項)離島道路事業費
      (項)地方道路整備臨時交付金
部局等 直轄事業 10地方整備局等
  補助事業 3県
事業及び補助の根拠   道路法(昭和27年法律第180号)、離島振興法(昭和28年法律第72号)等
事業主体 直轄事業 10地方整備局等  
  補助事業 3県  
    計 13事業主体  
工事の概要 道路交通の安全確保等を図るために、平成18、19両年度にNATM工法により実施するトンネル工事
工事費
直轄事業 398億8940万余円  
補助事業 57億1131万余円  
(国庫補助金交付額31億4122万余円)
集じん機の運転経費の積算額
直轄事業 8億2213万余円  
補助事業 1億5783万余円  
低減できた集じん機の運転経費の積算額
直轄事業 1億6080万円  
補助事業 3810万円  
(国庫補助金相当額 2090万円)  

【是正改善の処置を求めたものの全文】

トンネル工事において使用する集じん機の機種及び規格の選定について

(平成20年10月31日付け 国土交通大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 事業の概要 

(1) トンネル工事の概要

 貴省は、道路交通の安全確保とその円滑化を図るために、国が行う直轄事業又は地方公共団体が行う国庫補助事業として、道路整備事業を実施している。
 そして、国及び地方公共団体は、道路整備事業の一環として、トンネル工事を毎年度多数実施しており、工事に要する費用も多額なものになっている。これらのトンネル工事の多くはNATM工法(注1) により実施されており、この工法による地山の掘削、ずり出し、コンクリートの吹付けなどの作業には、ドリルジャンボ、大型ブレーカ、コンクリート吹付機等の建設機械が使用されている。
 そして、上記の建設機械の使用により、コンクリート吹付作業時等に粉じん及び排気ガスが発生することから、坑内の良好な作業環境を保持するために、集じん機による粉じん対策、換気ファン等による換気対策等を行っている。

 NATM工法  New Austrian Tunnelling Methodの略でナトム工法と呼ばれる。トンネルを掘削して、支保工を建て込んだ後、コンクリート吹付け、ロックボルト等を適宜組み合わせて施工することにより、地山の持っている支持力を最大限に生かす工法

(2) トンネル工事における粉じん対策

 トンネル工事における粉じん対策については、「ずい道等建設工事における粉じん対策の推進について」(平成12年基発第768号の2労働省労働基準局長通知)等により定められた粉じん濃度目標レベルを達成するために、粉じん発生源の近くで、粉じんが拡散する前に効率よく吸引・捕集して周辺の空気を汚染させないよう集じん機を使用することが有効とされている。
 そして、貴省制定の土木工事標準積算基準書及びこれを基に都道府県等がそれぞれ制定している積算基準(以下、これらを合わせて「積算基準等」という。)においては、トンネル工事におけるコンクリート吹付作業時の粉じん対策として、集じん機の使用を標準としている(参考図 参照)。

(3) 集じん機の機種及び規格

 集じん機の機種及び規格については、貴省制定の建設機械等損料算定表(以下「損料算定表」という。)では、フィルタ材を通して粉じんをろ過分離させるフィルタ式集じん機(以下「フィルタ式」という。)及び粉じんを高電圧で荷電させて静電沈降させる電気式集じん機(以下「電気式」という。)の2機種が記載されている。また、集じん機の規格については、集じん機が1分間に吸引できる規格別に示されており、フィルタ式については平成18年度以降10規格(150m /分級〜1,800m /分級、2,400m /分級、3,000m /分級)、電気式については同年度以降3規格(1,800m /分級、2,000m /分級、2,400m /分級)が記載されている。そして、積算基準等では、18年度からフィルタ式及び電気式のいずれについても積算できることになっている。

(4) 集じん機の選定

 貴省及び都道府県等は、集じん機の選定に当たり、ずい道等建設工事における換気技術指針(建設業労働災害防止協会編。以下「換気指針」という。)に基づき、トンネルの規模、機種別の集じん効率等を考慮して、集じん機が汚染された空気を粉じん濃度目標レベル以下に処理するために必要な吸引量(以下「処理容量」という。)を算出して、これを基に損料算定表に記載されている集じん機の機種及び規格の中から処理容量の直近上位のものを選定している。
 そして、フィルタ式と電気式とを比較すると、集じん効率がフィルタ式の方が高いことから、フィルタ式の方が電気式よりも小さい処理容量で済むこととなる。したがって、同一の環境条件であっても、機種の違いにより、選定できる規格が異なってくる場合がある。

(5) 集じん機の運転経費

 集じん機の運転経費については、運転日当たりの損料(以下「損料」という。)及び電力料を基に、掘削1m当たりの運転経費を算出して、これに施工延長を乗ずるなどして算出している。
 そして、損料算定表によると、前記のとおり、電気式の規格は1,800m /分級から2,400m /分級までとなっているために、これらと同程度の処理容量であるフィルタ式1,800m /分級及び2,400m /分級の2規格についてみた場合、電気式の方が損料が安価で電力使用量が少ないことなどから、同規格同士では電気式の方が運転経費は安価となる。また、フィルタ式1,800m /分級と、これよりも大きい規格である電気式2,000m /分級及び2,400m /分級とを比較した場合でも電気式の方が運転経費は安価となる。なお、フィルタ式及び電気式における維持修理費率、年間管理費率等は、いずれの場合でも同率となっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 近年、トンネル工事において使用する集じん機については、電気式が改良されて普及してきており、前記のとおり、電気式はフィルタ式に比べて損料が安価で電力使用量が少ないなどのために、運転経費が安価となっている。
 そこで、本院は、集じん機を使用するトンネル工事について、経済性等の観点から、集じん機の機種及び規格の選定を適切に行い、コストの縮減が図られているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 18、19両年度に発注して施行したトンネル工事のうち、直轄事業として11地方整備局等(注2) が施行した52工事、工事費総額1210億4222万余円及び補助事業として5県(注3) が施行した7工事、工事費総額84億7236万余円(国庫補助金47億2210万余円)、計59工事を検査の対象として、上記の計16事業主体において、各工事の設計図書等の書類により会計実地検査を行い、必要に応じて工事現場に赴き現地の状況を検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、上記の59工事のうち54工事において、集じん機の機種及び規格の選定に当たり、フィルタ式と電気式との比較検討が十分行われていなかった。
 そこで、これらの工事について本院が経済比較等の検討を行ったところ、次の27工事について経済的な電気式を選定することができたと認められる。
 すなわち、直轄事業として10地方整備局等(注4) が施行した23工事、工事費総額398億8940万余円及び補助事業として3県(注5) が施行した4工事、工事費総額57億1131万余円(国庫補助金31億4122万余円)、計13事業主体が施行した27工事については、集じん機の機種及び規格について、電気式による処理容量を算出するなどの比較検討を行うことなくフィルタ式1,800m /分級を選定しているものが15工事、同2,400m /分級を選定しているものが12工事となっていた。そして、これらの運転経費として直轄事業で8億2213万余円、補助事業で1億5783万余円と積算していた。
 しかし、各工事における電気式による処理容量を集じん効率等を考慮して改めて算出した結果、フィルタ式と同規格又は大きい規格の電気式を選定できるものとなっており、これにより、電気式1,800m /分級が2工事、同2,000m /分級が8工事、同2,400m /分級が17工事となり、計27工事のすべてにおいて経済的となる電気式を選定できたと認められる。

<事例>

 A局B事務所は、平成18年度に、トンネル工事(工事費41億0950万円、トンネル延長1,927m)を発注して施行している。この工事では、集じん機の機種及び規格の選定に当たり、機種については、実績が多いことなどから、電気式との比較検討を行わずにフィルタ式を選定していた。また、規格については、換気指針に基づき、フィルタ式の集じん効率等を考慮して処理容量を1,608m /分と算出して、損料算定表記載のフィルタ式のうち、当該処理容量の直近上位の1,800m /分級を選定していた。そして、掘削1m当たりの運転経費を算出して、これに施工延長を乗ずるなどして集じん機の運転経費を9556万余円としていた。
 しかし、電気式による処理容量を改めて算出すると1,910m /分となり、フィルタ式1,800m /分級よりも経済的となる直近上位の電気式2,000m /分級を選定できたと認められる。
 これにより、集じん機の運転経費を修正計算すると7837万余円となり、本件集じん機の運転経費は1719万余円低減できたと認められる。なお、実際の施工では電気式2,000m /分級を設置している状況である。
 上記により、本件27工事における集じん機の運転経費について、電気式を選定することとして修正計算すると、直轄事業において6億6128万余円、補助事業において1億1972万余円となり、前記の積算額を直轄事業で約1億6080万円、補助事業で約3810万円(国庫補助金相当額約2090万円)低減できたと認められる。

(是正改善を必要とする事態)

 前記のように、トンネル工事における集じん機の選定に当たり、フィルタ式と電気式との経済比較等の検討を十分行っておらず、経済的な設計となっていない事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、事業主体において、集じん機の機種及び規格の選定に当たり、フィルタ式に比べて損料が安価で電力使用量が少ない電気式の普及等を考慮して、フィルタ式と電気式との比較検討を適切に実施すれば経済的となるのに比較検討を十分行っていなかったことにもよるが、貴省において、上記について事業主体に十分周知徹底していなかったことなどによると認められる。

3 本院が求める是正改善の処置

 トンネル工事は、今後も引き続き多数実施されることが見込まれる。
 ついては、貴省において、トンネル工事において使用する集じん機の機種及び規格の選定に当たっては、近年の電気式の普及等を考慮するなどして、フィルタ式と電気式との比較検討を適切に実施して経済的な設計となるよう、地方整備局等に対して周知徹底を図るとともに、都道府県等に対しても助言を行い、この旨が管内の関係機関等に周知徹底されることによりコストの縮減を図ることの是正改善の処置を求める。

 11地方整備局等  関東、近畿、中国、九州各地方整備局、北海道開発局小樽、函館、室蘭、留萌、網走、帯広、釧路各開発建設部

  5県  宮城、奈良、香川、宮崎、鹿児島各県

 10地方整備局等  近畿、中国、九州各地方整備局、北海道開発局小樽、函館、室蘭、留萌、網走、帯広、釧路各開発建設部

  3県  宮城、奈良、鹿児島各県

(参考図)

トンネル工事における集じん機の概念図