部局等
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独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(平成18年3月31日以前は独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構及び独立行政法人食品総合研究所、15年9月30日以前は独立行政法人農業技術研究機構及び独立行政法人食品総合研究所)
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設置根拠法
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独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構法(平成11年法律第192号)
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施設の概要
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民間等の研究者と産学官の共同研究を行うために予算措置されて、設置された14の施設
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上記の共同研究施設に係る施設整備費
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86億2307万余円
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(平成9、11、12各年度、14、15両事業年度)
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共同研究の実績がないなどの施設数及びその施設整備費の合計
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5施設
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11億7610万円
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(平成11年度、14事業年度)
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上記以外の施設において共同研究のための利用状況が全く把握できない研究機器数及びその取得価額の合計
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53研究機器
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1億1414万円
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(平成11、12両年度、14、15両事業年度)
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計
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12億9025万円
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(平成20年10月20日付け 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構理事長あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴機構は、民間や大学等との間で共同して研究を行うことなどを目的として、貴機構が所有する研究施設のうち一部の施設を開放型研究施設及び共同利用施設として運営している。このうち開放型研究施設は、当該施設及び当該施設に設置されている研究機器をホームページで広報するなどして、広く一般に開放することにより、貴機構以外の者と共同研究等を行うものであり、また、共同利用施設は、開放型研究施設のように広報はしないものの、特定の研究機関と共同研究契約を締結するなどして施設等を共同利用して研究を行うものである。
貴機構が運営するこれら開放型研究施設及び共同利用施設(これらの施設に設置されている研究機器を含む。)の多くは、科学技術基本法(平成7年法律第130号)、総合経済対策(平成10年4月経済対策閣僚会議決定)等において、国が、国の試験研究機関、大学、民間等による共同研究の促進に必要な施策を講ずるものとされていることなどを受けて予算措置がなされて、設置されたものである。
そして、上記により設置された施設には、産学官の連携による共同研究を行うため、〔1〕 貴機構が独立行政法人に移行する平成13年4月より前の9、11、12各年度に、農林水産省が当時の国立試験研究機関に整備した施設、〔2〕 貴機構が独立行政法人に移行後の14、15両事業年度に、農林水産省から施設整備費補助金の交付を受けて整備した施設がある(以下、〔1〕 、〔2〕 両施設を「共同研究施設」といい、共同研究のために設置された研究機器を「共同研究機器」という。)。
19事業年度末現在で、貴機構が保有する共同研究施設及び共同研究機器の設置状況は、次表のとおりであり、14施設の施設整備費の合計は86億2307万余円となっている。
設置年度
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施設番号及び共同研究施設名
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左の施設の主な共同研究機器
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施設整備費
(千円)
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共同研究施設の設置箇所
(旧名称)
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平成
9
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〔1〕 食品物理機能実験棟
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エックス線解析装置等2
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229,320
(143,428)
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食品総合研究所
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11
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〔2〕 畑作物品質制御共同実験棟
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−
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247,989
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作物研究所
(旧農業研究センター)
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〔3〕 流通利用共同実験棟
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ガスクロマトグラフィー等16
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321,537
(57,145)
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北海道農業研究センター
(旧北海道農業試験場)
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〔4〕 農産物等成分解析開放型研究施設
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飛行時間型質量測定装置等9
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348,001
(156,697)
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近畿中国四国農業研究センター(旧中国農業試験場)
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〔5〕 傾斜地農業開放型研究施設
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−
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140,589
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近畿中国四国農業研究センター(旧四国農業試験場)
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〔6〕 第2共同実験棟
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恒温恒湿装置等2
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39,507
(−)
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近畿中国四国農業研究センター(旧四国農業試験場)
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〔7〕 共同利用研究棟
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−
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288,160
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九州沖縄農業研究センター
(旧九州農業試験場)
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〔8〕 小麦品質検定施設
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−
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14,490
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九州沖縄農業研究センター
(旧九州農業試験場)
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〔9〕 化学機器分析センター
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核磁気共鳴装置等4
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1,930,950
(882,746)
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食品総合研究所
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〔10〕 複合領域研究センター
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超純水製造装置等3
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1,889,989
(6,408)
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食品総合研究所
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14
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〔11〕 環境保全型病害虫防除技術開発共同実験棟
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共焦点レーザースキャン顕微鏡等13
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1,165,843
(154,598)
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中央農業総合研究センター
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〔12〕 機能性評価実験棟
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炭酸ガスインキュベーター等4
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351,489
(80,253)
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東北農業研究センター
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15
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〔13〕 バイオマス資源エネルギー産学官共同開発研究施設
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超臨界BDF製造装置等23
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354,015
(115,682)
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中央農業総合研究センター
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〔14〕 寒地農業生物機能開発センター
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DNAシーケンサー等51
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1,301,188
(119,365)
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北海道農業研究センター
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合計 14施設
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127機器
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8,623,071
(1,716,324)
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注(1)
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「施設整備費」は、各共同研究施設設置時の整備費であり、併せて取得した共同研究機器の整備費を含む。また、施設整備費が改修工事費のみなどのため、共同研究機器の取得がない場合は、「左の施設の主な共同研究機器」は「−」としている。
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注(2)
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「左の施設の主な共同研究機器」は、共同研究機器のうち取得価額が100万円以上のものであり、「施設整備費」の括弧書きは、当該機器の取得価額の計で、内書きである。ただし、〔6〕 第2共同実験棟については、施設本体と一体的に整備されていて、共同研究機器の取得価額が把握できないため、「−」としている。
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注(3)
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施設番号〔1〕 、〔6〕 、〔8〕 は共同利用施設であり、残りの施設は開放型研究施設である。
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注(4)
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金額は千円未満を切り捨てているため、各項目の数値を合計しても合計欄の数値と一致しない。
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貴機構は、保有する施設及び機器の共同利用を促進するための規則(以下「共同利用規則」という。)を定めており、この中で共同利用を行う施設及び機器は、貴機構の各研究所(農業研究センターを含む。)の長が定めることとされている。
また、貴機構は、産学官の連携の強化等を目標とする農林水産研究基本計画(平成17年3月農林水産技術会議決定)に基づく中期目標を達成するため、第2期中期計画(18事業年度から22事業年度まで)を策定している。この中期計画においては、開放型研究施設について、その情報を広く公開して利用の促進を図るなどとされている。
そして、貴機構は産学官の連携による共同研究を一層強化することなどのため、19年10月に、企業への研究成果の紹介、産学の共同研究等に関する意向の把握等の業務を担う産学官連携本部を設立するなどしている。
貴機構は、国の行政改革の一環として、12の国立試験研究機関が再編、統合されて、13年4月に独立行政法人農業技術研究機構として発足したが、その後、15年10月には、特別認可法人生物系特定産業技術研究推進機構と統合して、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構となった。さらに、18年4月には、独立行政法人農業工学研究所、独立行政法人食品総合研究所及び独立行政法人農業者大学校と統合して、現在の貴機構に至っている。このため、これらの組織の再編、統合とともに、独立行政法人への移行前及び移行後に整備された共同研究施設及び共同研究機器の所属も、同様の再編等を経てきている。
貴機構の運営費交付金及び施設整備費補助金は、毎事業年度多額に上っており、また、農林水産研究基本計画等に基づき策定された第2期中期計画において、開放型研究施設の利用の促進を図るなどとしている。そこで、本院は、貴機構において、有効性等の観点から、共同研究施設や共同研究機器が、組織の再編、統合の下でも目的どおり運営、利用されているか、利用状況等が著しく低調となっているものはないか、貴機構がこれらの施設の運営状況や機器の利用状況の把握を適切に行い、それに基づいた施設の運営体制等の見直しを行っているかなどに着眼して検査した。
本院は、14共同研究施設(施設整備費計86億2307万余円)及び施設整備費で取得した共同研究機器のうち取得価額が100万円以上の機器(機器の取得のない4施設を除く10施設分計127機器、計17億1632万余円。ただし、複数の共同研究機器が一式として取得されているなど個々の取得価額が把握できないものも含む。)を対象として、これら施設及び機器の利用状況等に関する資料等を徴するとともに、貴機構の本部等において、独立行政法人に移行した13事業年度から19事業年度までの間における共同研究施設の運営状況や共同研究機器の利用状況等について会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
14共同研究施設(開放型研究施設11、共同利用施設3)における共同研究の実施状況についてみたところ、次のとおり、5施設(施設整備費計11億7610万余円)については、産学官の共同研究を促進するという設置目的に沿った運営が十分に行われているとは認められない状況となっていた。
ア 13事業年度以降、産学官の共同研究の実績がない施設
イ 産学との間の共同研究の実績は19事業年度だけで、大部分が官と官の間だけの実績となっている施設
ウ 第1期中期計画期間(13事業年度から17事業年度まで)には、産学官の共同研究の実績はあるものの、第2期中期計画が実施に移された18、19両事業年度には、産学官の共同研究の実績がない施設
エ 共同研究の実績が年平均で1件に満たない施設
施設番号〔3〕 流通利用共同実験棟
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施設整備費3億2153万余円
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施設番号〔12〕 機能性評価実験棟
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施設整備費3億5148万余円
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東北農業研究センターの機能性評価実験棟は、東北地域農畜産物の生体調節機能に関する試験等を行う共同研究施設として、平成14事業年度に設置されている。同実験棟においては、運営開始後15事業年度から19事業年度の5事業年度の間に産学との共同研究は、17、18両事業年度の各1件のみの計2件しか実施されていなかった。
共同研究機器の取得がある10施設に係る共同研究機器の利用状況についてみたところ、研究所によっては利用状況を全く把握していなかったり、一部の機器しか把握していなかったりなどしていて、共同研究機器の利用状況を把握する体制が各研究所で区々となっていた。
このため、独立行政法人に移行した13事業年度以降、共同研究のための利用状況が把握できるものは、10施設に係る計127機器のうち3施設(施設番号〔3〕 、〔11〕 、〔14〕 )に係る計6機器(取得価額計7089万余円)にすぎず、一方、共同研究のための利用状況が全く把握できないものは、8施設(同〔3〕 、〔4〕 、〔6〕 、〔10〕 、〔11〕 、〔12〕 、〔13〕 、〔14〕 )に係る計74機器(取得価額計1億5466万余円)に上っていた。
そして、利用状況が全く把握できないものの中には、前記(1)で取り上げた設置目的に沿った運営が十分に行われているとは認められない5施設のうち、共同研究機器が設置されている3施設(同〔3〕 、〔4〕 、〔12〕 )に係る計21機器(取得価額計4052万余円)が含まれているほか、前記(1)で取り上げた5施設以外の施設のうち、5施設(同〔6〕 、〔10〕 、〔11〕 、〔13〕 、〔14〕 )に係る計53機器(取得価額計1億1414万余円)が含まれていた。
北海道農業研究センターの寒地農業生物機能開発センターは、寒地農業等の実現に向けた低温耐性強化研究等を行う共同研究施設として、平成15事業年度に設置されている。同開発センターにおいては、19事業年度までに31件の共同研究が実施されているが、共同研究機器51機器の利用状況をみると、高額機器等以外は利用状況を把握していないため、遺伝子導入装置、顕微鏡等30機器(取得価額計5359万余円)については、全く把握していなかった。
以上のように、共同研究施設の設置目的に沿った運営が十分に行われていないことから、そこに設置されている共同研究機器についても同様に、産学官の共同研究に供するという設置目的に沿った利用が十分になされているとは認められないものがあるほか、共同研究の実績がある場合でも、共同研究機器が当該研究に係る共同研究の用に供されたかどうか把握ができないものが多数見受けられる状況となっていた。
貴機構における共同研究施設の運営体制について更に検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 共同研究に係る業務等の総括を行う貴機構本部においては、共同研究施設を用いた産学官の共同研究をどのように推進していくかについて、具体的な方針や計画を定めていなかった。
イ 貴機構本部において、各研究所の共同研究施設における共同研究や共同研究機器の利用の実態等を把握しておらず、これらの実態等を踏まえた見直しを行っていなかった。
ウ 貴機構の業務実績評価においては、開放型研究施設についてのみ評価の対象とされていて、開放型研究施設とされていない3共同利用施設については評価の対象となっておらず、見直しなどの対象となっていなかった。また、開放型研究施設についての評価のために提出された数値は、共同研究以外も含めた利用日数に関する数値であり、共同研究の実態を十分把握できるような数値とはなっていなかった。
エ 施設及び研究機器のうち、共同利用を行うものについては、共同利用規則に基づき各研究所の長が定めることとなっているものの、開放型研究施設以外の施設や研究機器については、共同利用に関する定めがなく、また、ホームページ等による周知も行っていなかった。
上記のように、民間、大学等と共同して研究を実施して、産学官の連携を推進するために整備された共同研究施設及び共同研究機器(5施設に係る施設整備費及び53機器に係る取得価額の合計12億9025万余円)について、施設の設置目的に沿った運営、利用が十分に行われていなかったり、機器の利用状況の把握が十分に行われていなかったりしており、また、研究機関の再編、統合を経てきた貴機構の本部が、そのような状況を十分に把握しておらず、適切な対応等を執っていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴機構において、それぞれの共同研究施設の運営を各研究所の長に任せていることなどから、産学官の連携や研究のために整備された共同研究施設の適切な運営についての認識が十分でなかったり、組織内の連携が十分とれていなかったりしていることなどによると認められる。
貴機構は、農林水産研究基本計画等に基づき策定した第2期中期計画において産学官の連携の強化を図るとともに、19年10月に産学官連携本部を設立したところである。
ついては、貴機構において、産学官の共同研究を目的とした共同研究施設の運営や共同研究機器の利用の実態を十分把握するとともに、より効果的、効率的な共同研究の推進が図れるよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 貴機構本部において、
(ア) 共同研究施設の効果的、効率的な活用を図るための方針や計画の策定を行うこと
(イ) 各研究所の共同研究施設の運営状況や共同研究機器の利用状況を把握する体制を整備するとともに、共同研究を目的とした共同研究施設の運営、利用状況についても十分な評価ができるよう改善を図ること
(ウ) 開放型研究施設として取り扱っていない共同利用施設についても、外部の者が共同研究に利用できることを周知すること
イ 各研究所において、研究施設や研究機器の共同利用規程を整備するとともに、研究機器の利用状況等を把握して、それを踏まえて適切に利用促進を図る体制を整備すること