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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • (第38 国立大学法人東北大学)|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

東北大学において、内部統制等が十分機能するための体制を整備するなどして、常に適正な契約事務が行われるよう意見を表示したもの


東北大学において、内部統制等が十分機能するための体制を整備するなどして、常に適正な契約事務が行われるよう意見を表示したもの

科目
経常費用
部局等
国立大学法人東北大学
契約名
(1)
東北大学病院外来診療棟5階眼科屈折矯正手術室間仕切その他改修工事
 
(2)
東北大学病院外来診療棟5階眼科屈折矯正手術室改修機械設備工事
 
(3)
東北大学病院外来診療棟5階眼科屈折矯正手術室建具その他改修工事
契約の概要
東北大学病院の眼科に屈折矯正手術室を整備する目的で、外来診療棟の間仕切りなどの改修を行うもの
内部統制等が機能していないと認められる契約件数及び契約額
3件
2310万円
(平成18年度)

【意見を表示したものの全文】

東北大学病院が発注した工事契約に係る内部統制等について

(平成20年10月31日付け 国立大学法人東北大学学長あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 東北大学病院手術室改修工事等の概要

 貴法人の東北大学病院(以下「病院」という。)は、平成18年度に、病院の外来診療棟に眼科屈折矯正手術室を整備する目的で、下表のとおり「東北大学病院外来診療棟5階眼科屈折矯正手術室間仕切その他改修工事」(契約金額9,660,000円)等3件の工事(以下「本件工事」という。)を同一の業者に発注して、18年11月から12月にかけて工事を施工している。

工事名
契約金額(円)
東北大学病院外来診療棟5階眼科屈折矯正手術室間仕切その他改修工事
9,660,000
東北大学病院外来診療棟5階眼科屈折矯正手術室改修機械設備工事
6,825,000
東北大学病院外来診療棟5階眼科屈折矯正手術室建具その他改修工事
6,615,000

 本件工事については、19年8月に、本件工事は本来、一つの工事であり、その予定価格が学内規程で定めた工事の随意契約の限度額1000万円を超えることから、入札に付するべきであったのに、入札に付することなく特定の業者に請け負わせて工事を行い、工事完了後に、学内規程で認められる随意契約となるように三つの契約に分けるなどの不適切な事態があると報道された。
 これを受けて、貴法人は、学外の有識者を含めた調査検討委員会を設置して、本件工事に係る事実関係を調査した結果、不適切な契約の締結があったなどとする報告書を同年10月に取りまとめた。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、前記の報道があったことなどを踏まえて、合規性、経済性等の観点から、本件工事に係る会計事務が会計に関する規程等に基づいて適正に行われているかなどに着眼して、貴法人において、契約書等の書類により会計実地検査を行うとともに、本件工事に係る契約事務を中心として、貴法人の内部統制等の状況について検査を行った。

(検査の結果)

 本件工事に係る契約について検査したところ、次のとおり、適正を欠くなどの事態が見受けられた。

(1) 会計規程等の法令が遵守されていない事態について

ア 会計規程等に違反した契約事務が行われたこと

 国立大学法人東北大学会計規程(平成16年規第77号。以下「会計規程」という。)等によれば、契約に当たっては、あらかじめ仕様書、設計書等により予定価格を設定したり、工事発注時には、契約書を作成したりしなければならないこととされている。
 しかし、これらの契約事務を行うべき病院の事務部経理課(以下「経理課」という。)施設企画室は、本件工事について、あらかじめ予定価格を設定するなどの契約事務を行わずに、18年10月に口頭で一括して業者に発注していた。そして、工事完了後の19年2月に、当該業者への発注を正当化するため、一括して発注した工事を三つの本件工事に分けて、予定価格が少額であることを理由として会計規程等で認められる随意契約(以下「少額随契」という。)となるようにして、それぞれの契約について予定価格を設定したり、18年10月又は11月の日付の契約書を作成したりするなどしていて、会計規程等に違反した契約事務が行われていた。

イ 病院において職務権限を逸脱した契約事務が行われたこと

 病院が行う工事契約については、会計規程等において、予定価格が2000万円を超えない工事契約の経理責任者は病院の事務部長と、予定価格が2000万円を超える工事契約の経理責任者は貴法人の本部の施設部長とされている。
 そして、前記のとおり、本件工事は一括して発注されていて、その予定価格は2000万円を超えていることから、施設部長の権限で契約されるべき工事であったのに、病院は、事務部長の権限内の契約となるように三つの契約に分けて契約事務を行うなどしていて、職務権限を逸脱した契約事務が行われていた。

ウ 病院において所掌を越えた契約事務が行われたこと

 経理課施設企画室は、病院が発注する工事に係る会計事務を行っており、工事図面の作成、業者との打合せ、施工管理、完成検査等の事務を所掌している。そして、同室の施設経理係は、契約に際しての見積合わせ、予定価格の設定、入札手続、入札の結果に基づく業者への発注等の契約事務を行うこととされている。また、同室の営繕係及び設備係は、工事の施工管理等の事務を行うこととされている。
 しかし、発注等の契約事務を所掌していない営繕係及び設備係が、前記アの業者への発注を行っていて、所掌を越えた契約事務が行われていた。

エ 本件工事について契約の内容等が公表されなかったこと

 国立大学法人は、文部科学省の通知文書等により、予定価格が250万円を超える工事契約については、その契約の内容等をホームページ等で公表することとされている。そして、貴法人では、公表の対象となる工事契約があった場合には、病院その他の各部局が、本部施設部に当該工事契約の内容等を所定の様式により電子メールで送付して、同部が取りまとめた上で、ホームページに掲載することとしている。
 しかし、本件工事に係る契約は、いずれも予定価格が250万円を超えるもので、公表すべきであったにもかかわらず、病院が上記の手続をとらなかったため、公表されなかった。

(2) 内部統制等が十分機能していない事態について

 上記のとおり、本件工事の契約について、会計規程等の法令が遵守されていないなどの適切とは認められない事態が見受けられたことから、本件工事に係る契約事務を中心として、病院の内部統制等の状況について検査したところ、次のとおり、内部統制等が十分機能していない事態が見受けられた。

ア 病院における内部統制

(ア) 病院における統制環境

 本件工事は、18年2月に、病院の眼科の教授(以下「眼科教授」という。)が病院に提出した「平成18年度事業計画提案書」の中の整備計画「屈折矯正手術運用システム」の一つとして実施されたものである。
 そして、本件工事の実施に当たり、工事費が割高になることが判明したことから、経理課施設企画室は、工事費について眼科教授に相談していた。その後、眼科教授を通じるなどしてA会社が紹介されて、A会社との間で工事費についての合意が得られたことなどから、本件工事は、あらかじめ、A会社をその契約の相手方とすることとしていた。このため、前記のような契約事務が行われていた。
 このように、病院においては、教授等から契約の相手方となり得る業者の紹介を受けたり、工事を行うに当たり専門的な医学の知識が必要となるなどのため、施設等を使用する教授等の意見を聞かざるを得なかったりする場合があり、経理担当部局においては教授等の意向を受け入れざるを得ない状況に陥りやすい統制環境下にあると認められる。

(イ) 病院における内部牽(けん)制

 本件工事は、前記のとおり、経理課施設企画室の営繕係及び設備係が、18年10月に口頭で一括して業者に発注していたものである。そして、同室の施設経理係において、工事完了後の19年2月に、18年10月又は11月に起案したこととする3件の契約伺が作成された。
 この契約伺は、本件工事に係る決裁権限が、東北大学病院決裁権限に関する要項(平成16年病院長裁定)により、病院の事務部長から経理課長に委任されていることから、施設経理係長、営繕係長(又は設備係長)、施設企画室室長補佐、施設企画室室長並びに病院の会計監査等を担当している経理課総務監査係長及び経理課課長補佐(監査)の決裁を経た上で、経理課長の決裁を得ていた。
 しかし、この決裁の過程において、書類の内容を点検すべき経理課総務監査係長、経理課課長補佐(監査)、決裁権者である経理課長のいずれにおいても、経理課施設企画室が工事完了後に契約書を作成するなどしたことに対する問題提起はされなかった。このため、「ア 会計規程等に違反した契約事務が行われたこと」及び「ウ 病院において所掌を越えた契約事務が行われたこと」に対する内部牽制が十分機能していなかった。
 これは、工事の施工管理等を行うこととされている営繕係及び設備係、工事に係る契約事務を行うこととされている施設経理係が、いずれも経理課に置かれていることや、病院の会計監査等を担当する総務監査係等が、経理課に置かれていることなどから、内部牽制が十分機能しなかったものと認められる。

(ウ) 病院に対する本部施設部の内部牽制

a 「ア 会計規程等に違反した契約事務が行われたこと」に対する牽制

 貴法人において、工事契約に係る契約名義人は、会計規程等により、財務担当理事(16年4月1日から18年11月5日まで。同月6日以降は、財務及び会計に関する事務の委任を受けた副学長)となっている。そして、財務担当理事は、契約に用いる公印の保管及びその押印に係る事務を、職員に委任することができるとされていることから、契約に用いる公印は、本部財務部財務課で保管されており、工事契約書への押印は、同課課長補佐の立会いの下に、本部施設部が行うことにしている。
 本件工事についてみると、経理課施設企画室において、工事完了後の19年2月に、契約年月日を18年10月又は11月とする契約書を作成の上、業者へ送付して、業者が押印した契約書の返送を受けた。その後、当該契約書を本部施設部に送付して押印を依頼して、同部において、本部財務部財務課課長補佐の立会いの下に、財務担当理事印の押印がされた。
 このとき、本部施設部は、当該契約書の送付を、病院からの単なる事務処理としての押印依頼としてとらえて、その内容の確認等を十分に行わなかったことから、病院において、少額随契の体裁を整えた虚偽の契約書が工事完了後に作成されていたのに、これを看過していた。
 これは、同部において、当該契約書について問題提起する機会があったにもかかわらず、これを看過していて、病院に対する同部の内部牽制が十分機能しなかったものと認められる。

b 「イ 病院において職務権限を逸脱した契約事務が行われたこと」に対する牽制

 前記のとおり、工事契約書への押印依頼時に、工事契約書が病院から本部施設部に送付されるものの、貴法人において、これとは別途に、病院その他の各部局から、工事契約の締結に当たって、予定工事の案件、内容等について、同部と事前に協議を行うなどの体制とはなっていなかった。
 このため、同部において、貴法人全体の工事契約を一元的に管理、コントロールすることができず、本件工事のように、一つの契約として契約すべき契約を三つに分けて契約したことについて、内部牽制が機能しなかった。

c 「エ 本件工事について契約の内容等が公表されなかったこと」に対する牽制

 前記のとおり、予定価格が250万円を超える工事契約については、その契約の内容等をホームページ等で公表することとされている。
 貴法人においては、前記のとおり、公表の対象となる工事契約があった場合、工事契約の押印依頼とは別途に、本部施設部へその旨を電子メールで送付することとしていて、同部が、押印依頼と同時に、公表対象工事契約の有無等について確認できる体制とはなっていなかった。
 このため、本件工事の契約内容等が公表されなかったことについて、内部牽制が機能しなかった。

イ 監査の状況

(ア) 監事監査

 貴法人の監査機関として、「監事」及び「監査室」がある。
 このうち、監事は、国立大学法人法(平成15年法律第112号)第10条第1項により設置され、同法第12条第8項に基づき文部科学大臣により任命されている。
 そして、監事は、貴法人の最高意思決定権者である学長から独立した立場で、貴法人の主たる利害関係者である国(又は国民)に代わって業務の運営状況を点検するため、その意思決定の内容も含めた業務全般について、第三者的な立場で、大局的な視点から監査を行っている。
 監査の実施に当たっては、貴法人の業務が多岐にわたっていることから、監事監査計画を各年度当初に策定して、幾つかの重点項目を定めるなどしている。
 そして、18年度は、決算監査のほか、業務監査として、8項目の重点項目を定めるなどして、役員会等の重要な会議に出席したり、重要な文書を閲覧したりするなどの方法により監査を実施している。
 しかし、契約に係る制度や組織が適正に運営されて有効に機能しているかどうかについては重点項目に含まれていなかったため、病院の統制環境等についての監査は行われず、本件工事について、内部統制が機能しなかった。

(イ) 監査室監査

 監査室は、国立大学法人東北大学事務組織規程(平成16年規第151号)により、学長直属の組織として設置されている。
 そして、監査室は、学長の指揮命令の下で、学長に代わって貴法人の業務の運営状況を点検して、貴法人の意思決定に資するために、貴法人の意思決定の内容及び教授等が行う個々の教育研究内容を除く貴法人の業務について、学内者としての立場で実務の現場により近い視点から、業務のより詳細な手続等にまで踏み込んで監査している。
 監査の実施に当たっては、内部監査の基本方針、内部監査基本計画書、内部監査実施要領を年度ごとに策定して、これらに基づき、契約に係る監査等を行っている。そして、契約に係る監査は、年度ごとに部局を特定して、何件かの契約を抽出して、会計規程等に違反する事務が行われていないかなどの監査を行っている。
 18年度の監査においては、病院以外の部局が監査対象部局とされるとともに、内部統制の状況も監査事項とされている。そして、統制環境についても監査事項とされているが、これは、財務会計に関する業務の教育・指導の実施状況についての監査であって、個別の契約についての監査ではなかった。
 このように、18年度は、病院が監査対象部局ではなかったことなどから、本件工事に係る契約事務の適正性や病院の統制環境についての監査は行われず、本件工事について、内部統制が機能しなかった。

(ウ) 経理課総務監査係等の監査

 病院は、他の部局に比べて業務量が多いことなどから、経理課に会計監査等を担当する総務監査係及び課長補佐(監査)が置かれている。そして、総務監査係等は、経理課が行う支払の処理等の業務を行うほか、病院の会計に関する監査及び検査を行うこととされており、ここでいう監査及び検査とは、病院内で作成される各種伝票等が会計規程等に沿った手続等で行われているかを日常的に点検することであるとされている。
 しかし、総務監査係等は、監査及び検査を行わなければならないのにこれを行っていなかったため、本件工事の契約についての問題提起はされなかった。このため、本件工事について、内部統制が十分機能しなかった。

(エ) 公認会計士(会計監査人)監査

 貴法人と監査契約を締結している公認会計士(会計監査人)による監査は、貴法人を取り巻く環境の変化にかんがみて、毎年度、事業運営リスクの評価を行った上で、重要な勘定科目、主要なプロセスを把握して、財務諸表の適正性、内部統制の状況についての監査を行っている。
 その監査は、主に未払伝票等の会計伝票をサンプリングにより抽出して、その会計伝票が証ひょうに基づき適正に起票されて、決裁権限を有する者の決裁を受けているかを主な観点としている。
 すなわち、契約書の金額、日付、契約者に着眼した監査であり、公認会計士(会計監査人)が契約書について疑義を抱いた場合に限って、当該契約書の作成に関して、予定価格の積算、入札等の手続について詳細な監査が行われるものである。しかし、通常、上記のような詳細な監査が行われることはない。
 このため、18年度において、本件工事の契約について詳細な監査は行われなかった。

(オ) 監査機関等相互の調整が十分でない事態

 貴法人は、定期的に、理事等、監事、監査室及び公認会計士(会計監査人)による4者協議会を開催して、それぞれの監査計画等について協議している。
 本件工事における不適切な事態を監査により発見するためには、各監査機関等が、内部牽制の状況を含めて、多角的な観点から監査を行うことが必要であるが、各監査機関等の人員も限られており、必ずしも十分な監査体制がとれない状況となっている。したがって、監査対象の重複、漏れが極力生じないよう、各監査機関等が監査計画を調整するなどして、効率的、効果的な監査を行うことが必要となる。
 しかし、18年度は、前記のとおり、本件工事の契約や病院の統制環境については、いずれの監査機関等も監査対象としていなかった。

(改善を必要とする事態)

 病院において、会計規程等に定められた契約事務が行われず内部牽制が十分機能していなかったり、貴法人の各監査機関等において内部統制についての監査が適切に行われていなかったりするなどの事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴法人において、内部統制等の重要性について職員等の認識が十分でなかったこと、内部統制が十分機能するための体制の整備が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

 病院において、個別の工事契約に係る会計事務を適正に行うことは当然のことであるが、貴法人において、内部統制等が十分機能していない事態について、適切な処置を講ずる要がある。
 ついては、貴法人において、内部統制等が十分機能するよう、次のとおり意見を表示する。
ア 病院の経理担当部局において、工事を行うに当たり専門的な医学の知識が必要となることなどから、教授等の意向を受け入れざるを得ない状況に陥りやすい統制環境の改善に資するため、適正な工事契約事務を行えるよう内部統制の体制を整備すること
イ 各部局の担当者に対して、内部牽制におけるそれぞれの役割を果たすことの重要性を十分認識した上で、適正に契約事務を実施するよう周知徹底すること
ウ 各監査機関等が、監査対象部局の統制環境を十分把握した上で、個別の契約事務等についても厳正に監査するなど、的確な監査を実施していくこと
エ 各監査機関等が監査計画等を策定するに当たっては、監査対象の重複、漏れが極力生じないよう、各監査機関等が相互に、適切に調整するなどして、監査を行っていくための体制を整備すること