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  • 平成20年10月

文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省所管の政府開発援助に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 ODA事業に係る予算・決算及びDAC報告

(1) ODA事業に係る予算

 我が国のODAの実施状況については、政府開発援助大綱(平成4年6月30日閣議決定、15年8月29日改定閣議決定。以下「ODA大綱」という。)に基づき、毎年、外務省が「政府開発援助(ODA)白書」(以下「ODA白書」という。)として取りまとめ、閣議報告している。ODA白書では、一般会計ODA予算及びODA事業予算の額が集計されて公表されている。
 なお、ODA白書で公表されている一般会計ODA予算及びODA事業予算はいずれも当初予算の額に基づくものであり、補正予算等を加えた予算現額は示されていない。

ア 一般会計ODA予算

 一般会計ODA予算は、国の一般会計における1会計年度内のODAとして支出される予定額である。
 国の予算においては、一般会計について、10年度以降、ODAに要する経費につき「政府開発援助庁費」のように「政府開発援助」という名称を冠した科目名を用いており、原則として、このように「政府開発援助」という名称を冠した科目の予算を集計することにより一般会計ODA予算の総額が算定される。
 ただし、19年度予算においては、18年度まで計上されていた文部科学省所管の「政府開発援助私立大学等経常費補助金」(外国人留学生の受入れに係るもの)が「私立大学等経常費補助金」に統合され、「政府開発援助」という名称を冠さないものとなったが、統合後の「私立大学等経常費補助金」のうち一定の額(52億4700万円。18年度予算における「政府開発援助私立大学等経常費補助金」の額と同額)は一般会計ODA予算の額に含められている。このように「政府開発援助」という名称を冠した科目の予算を集計しても、年度によっては一般会計ODA予算の総額と一致しない場合がある。

イ ODA事業予算

 ODA事業予算は、一般会計ODA予算に、特別会計におけるODA予算、円借款の原資となる財政融資資金及び国際開発金融機関への出資のために交付される出資国債等の額を加えたものである。技術協力には財政融資資金、出資国債等を財源とするものはないので、5省所管の技術協力に係るODA事業予算は5省に係る一般会計ODA予算と特別会計におけるODA予算の合計額となる。
 なお、特別会計においては、前記アの一般会計とは異なり、科目の名称において「政府開発援助」という名称は冠されていないので、特別会計予算のうちどれがODAに係るものであるかは、科目の名称からは区分できず、個別に判断されることになる。
 そして、5省のうち、15年度から19年度までの間に特別会計予算を財源として技術協力を実施しているのは、文部科学省(15年度のみ)及び厚生労働省であるので、これら2省所管の技術協力に係るODA事業予算の額は、それぞれの一般会計ODA予算の額に特別会計におけるODA予算の額を加えたものとなる。一方、他の3省所管の技術協力に係るODA事業予算の額は、それぞれの一般会計ODA予算の額と一致する。
 15年度から19年度までの5省所管の技術協力に係る一般会計ODA予算及びODA事業予算の額は表3のとおりであり、ODA予算全体と同じく漸減傾向にある。なお、5省所管の技術協力に係るODA事業予算が15年度から16年度にかけて大きく減少しているのは、文部科学省所管国立学校特別会計に計上されていたODA事業予算(15年度94億7516万余円)が、同特別会計の廃止に伴い、16年度以降は、ODA事業予算に計上されなくなったことなどによるものである(後記事例1参照)

(2) ODA事業に係る決算

 我が国のODAの実績については、ODAを実施している各府省庁等からの報告を外務省が取りまとめて、ODA白書等において「政府開発援助(ODA)実績」として公表されているものがある。これらは経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(Development Assistance Committee。以下「DAC」という。)へのODA実績の報告と合わせて、暦年による集計値とされており、年度単位での決算額は示されていない。また、技術協力全体の額は示されているものの、その所管別の額等は示されていない。
 今回の検査の対象とした15年度から19年度までの5省所管の技術協力に係る決算額について、決算書により又は5省に対し調書の提出を求めるなどして集計した結果は表4のとおりである。

表4
 5省所管の技術協力に係る決算額
(単位:百万円)

所管 会計名 平成15年度 16年度 17年度 18年度 19年度
文部科学省 一般会計 45,439
(46,378)
43,247
(44,244)
43,483
(43,777)
42,927
(43,195)
37,026
(42,653)
212,124
(220,249)
国立学校特別会計
(9,475)





(9,475)
小計 45,439
(55,854)
43,247
(44,244)
43,483
(43,777)
42,927
(43,195)
37,026
(42,653)
212,124
(229,724)
厚生労働省 一般会計 1,753
(1,886)
1,508
(1,629)
1,409
(1,520)
1,288
(1,386)
1,195
(1,208)
7,155
(7,631)
国立高度専門医療センター特別会計 574
(995)
547
(863)
634
(940)
725
(828)
596
(729)
3,077
(4,357)
労働保険特別会計 721
(818)
653
(721)
679
(727)
627
(701)
630
(699)
3,312
(3,669)
小計 3,049
(3,700)
2,709
(3,214)
2,722
(3,188)
2,642
(2,916)
2,421
(2,637)
13,545
(15,658)
農林水産省 一般会計 3,251
(3,570)
2,986
(3,280)
2,893
(3,115)
2,722
(2,860)
2,667
(2,682)
14,522
(15,509)
経済産業省 一般会計 28,474
(30,205)
26,156
(28,943)
26,120
(29,506)
24,156
(26,831)
23,996
(26,025)
128,904
(141,512)
国土交通省 一般会計 916
(995)
788
(891)
696
(776)
718
(779)
661
(680)
3,781
(4,123)
5省所管技術協力に係る一般会計ODA予算に係る決算額計 79,835
(83,037)
74,687
(78,990)
74,603
(78,696)
71,814
(75,053)
65,547
(73,249)
366,488
(389,026)
5省所管技術協力に係るODA事業予算に係る決算額計 81,131
(94,326)
75,888
(80,574)
75,916
(80,364)
73,168
(76,584)
66,773
(74,678)
372,878
(406,528)

(注)
 上段は決算額、下段の括弧書きは当初予算額である。

 表4のうち、19年度の文部科学省所管の技術協力に係る一般会計の決算額は予算額426億余円に対して370億余円となっていて、両者に大きな開差が生じている。これは、主として、前記(1)アのとおり、文部科学省所管の「私立大学等経常費補助金」のうち約52億円が一般会計ODA予算に算入されたが、同補助金の算定の仕組みが変更されたため、従来ODAに係るものとされていた外国人留学生の受入れに係る補助金に相当する分をその他の分から区別することができなくなったことから、この予算額に対応する決算額が把握できないことによるものである。
 また、15年度の文部科学省所管国立学校特別会計については、決算額が不明となっている。これは、次のとおり、同省が同特別会計の予算について、会計法令上区分管理が求められていないこともあり、予算の執行過程においてODA事業とその他の事業とを区分していなかったため、ODA事業に係る決算額を把握できないことによるものである。

<事例1>

 文部科学省は、平成15年度まで、各国立学校が実施する事業の中には、留学生受入れ、開発途上国との学術交流などODAに当たるものがあるとし、これらに係る予算を国立学校特別会計予算に計上し、ODA事業予算に含めていた。そして、特別会計では「政府開発援助」という名称を冠した科目が用いられていないことから、これらの予算は、ODA以外の事業に係る予算とともに「校費」等の科目に含められていた。
 したがって、ODA事業に係る執行額(決算額)を把握するためには、予算の執行過程において、内部管理上ODA事業に係るものとそれ以外とを区分して把握しておく必要があるが、会計法令上その区分管理が求められていないこともあり、文部科学省や各国立学校は、予算の執行に当たってODA事業とそれ以外とを区分して把握していなかった。
 この結果、国立学校特別会計に係るODA事業の決算額は把握できない状況となっていた。
 なお、16年度からは国立大学が国立大学法人化されたことに伴い、同特別会計は廃止されている。また、同年度からは、文部科学省は各国立大学法人に対し国立大学法人運営費交付金を交付しており、各国立大学法人はこの運営費交付金等を財源として留学生受入れなど従前ODA事業とされていたものと同様の事業を実施しているが、この運営費交付金はODA事業予算として取り扱われてはいない。

(3) ODA実績とDAC報告

ア DAC報告

 上記(2)のとおり、我が国のODA実績はODA白書等において公表されており、このODAの実績はDACにも報告される。DACは、我が国からの報告も含めた各加盟国からの報告を取りまとめて公表しており(以下、この公表を「DAC報告」という。)、DAC報告は、各援助国によるODA実績の国際比較等に広く用いられている。
 DACは報告等のためにODAの定義を示しており、それによれば、ODAとは、DACが世界の国・地域をその国民等1人当たりの国民総所得(GNI)に基づいて分類したリスト(以下「DACリスト」という。)に掲載されている国・地域等に対する援助であり、次の三つの要件をすべて満たすものとされている。

1 政府ないし政府の実施機関によって供与される。
2 開発途上国の経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的とする。
3 資金協力については、その供与条件が開発途上国にとって重い負担にならないようになっており、グラント・エレメント(注1) が25%以上である。

 グラント・エレメント  援助条件の緩やかさを示す指標。商業条件(金利10%と仮定)の借款をグラント・エレメント0%とし、条件(金利、返済期間、据置期間)が緩和されるに従ってグラント・エレメントは高くなり、贈与の場合は100%となる。

 我が国を含む各加盟国がDACにODAの事業実績を報告するに当たっては、これらの定義や報告基準に従って報告することとなる。

イ 5省所管の技術協力に係る予算・決算とDAC報告との関係

 我が国が技術協力を実施する場合は、相手国・地域がDACリストに掲載されている被援助国・地域(以下「開発途上国」という。)であることを目安とするとされている。したがって、我が国が実施する技術協力は、原則として、DACの報告基準に合致し、技術協力のために支出した費用はDAC報告に計上され、我が国の国際貢献として評価されることになる。
 しかし、5省所管の技術協力について検査したところ、次のとおり、ODA事業に係る予算・決算とDAC報告との間にずれが生じている事態が見受けられた。

(ア) ODA事業予算により実施している事業の一部に開発途上国以外の国に係る事業を含めているなど、DAC報告から除外されている事業をODA事業予算により実施しているもの

 一般に、ODA事業予算により技術協力を実施する場合は、その対象とされるのは開発途上国ないしその国民である。しかし、次のとおり、文部科学省はODA事業予算により実施している外国人留学生(以下「留学生」という。)の受入事業において、開発途上国以外の先進国等からの留学生も対象としており、これに係る経費は予算上はODA事業予算とされているが、DAC報告からは除外されていた。

<事例2>

 文部科学省は、留学生の受入事業等において、開発途上国だけではなく、先進国等からも我が国の負担により国費外国人留学生を受け入れるなどしている。これらの開発途上国以外の国からの留学生の受入れなどに係る経費については、開発途上国からの留学生の受入れなどに係る経費と同様に予算(「政府開発援助国費外国人留学生給与」等)上はODA事業予算とされているが、DACへの報告においては、開発途上国以外の国の出身者に係る分として計算された額は除外されている(例えば2006年(平成18年)のDAC報告には、総額426億2976万余円のうち81.8%である348億7906万余円だけが計上されている。)。
 なお、予算において開発途上国以外の国からの留学生に係る経費をODAに含めているのは、当該事業が主として開発途上国からの留学生に係るものであること、国別の採用枠がない場合もあり、あらかじめ国別に採用数を示すことが困難であることなどによるとされるが、開発途上国以外の国からの留学生は国費外国人留学生で23.7%(19年5月1日現在の在籍者10,020人のうち2,381人)、私費外国人留学生(注2) で20.8%(19年度の学習奨励費給付対象者13,833人のうち2,885人)と相当の割合に上っている。

 私費外国人留学生  国費留学生及び外国政府が派遣する留学生以外の留学生であり、独立行政法人日本学生支援機構が給付する学習奨励費、民間団体等の奨学金を受給している留学生、自ら経費を負担している留学生等である。

 また、次のとおり、厚生労働省は、ODA事業予算により実施している事業をDACの報告基準に該当しないとしてDACへの報告から除外していた。

<事例3>

 厚生労働省所管国立高度専門医療センター特別会計における国際医療協力研究委託費及び国立国際医療センター研究所経費はODA事業予算とされている。しかし、同省は、これらは日本の技術や技能、知識を開発途上国に移転するものではなく、また、技術等の開発や改良を支援し、技術水準の向上、制度や組織の確立や整備等に寄与するものではないためDACの報告基準に該当しないとして、平成17年分以降DACへの報告から除外していた(17年度から19年度まで計19億4898万余円。なお、DACへの報告は暦年を単位とすることとされているが、上記の金額は年度単位の決算額を参考のために示したものである。以下、事例4において同じ。)。

(イ) ODA事業予算により実施している事業で、DAC報告に含めることが可能であると思料されるにもかかわらず、DAC報告に含められていないもの

 次のとおり、厚生労働省(一部の部局)及び農林水産省は、政府開発援助庁費等の事務経費について、予算上はODA事業予算とされているが、DACへの報告からは除外していた。しかし、事務経費のうちには、DACへの報告に含めても差し支えないものもあることから、それらについては、DACへの報告に含めることができるものと思料される。

<事例4>

 厚生労働省の一部の部局及び農林水産省は、ODA事業予算のうち、委託費及び補助金の額のみをDACへの報告に計上しており、政府開発援助職員旅費、政府開発援助庁費等の事務経費については、予算上はODA事業予算とされているものの、DACへの報告からは除外していた(厚生労働省:平成15年度から17年度まで計3302万余円。農林水産省:15年度から19年度まで計3億9829万余円)。

 このように、予算上のODA事業予算の取扱いとDAC報告における取扱いとの間に相違があることについては、それぞれの目的の違いによる部分もあると考えられるが、国会や国民においては、ODA事業予算(特に予算科目上「政府開発援助」という名称を冠しているもの)を決定するに当たり、当該予算が我が国のODAとして国際的に評価されることも期待していると考えられる。それにもかかわらず、上記のように予算上はODA事業予算として扱われていながら、DAC報告に計上されていないものについては、結果として、国会や国民の期待に十分にこたえていないものとなっているおそれがある。また、DACの報告基準によればDAC報告に含めることが可能であると思料されるものについては、DACへの報告に含めることにより我が国の国際貢献が正当に評価されるようにすることが望まれる。