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  • 平成20年10月

我が国政府開発援助における無償資金協力及び技術協力において被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約に関する会計検査の結果について


2 契約の競争性・透明性の向上に向けたJICAの取組の状況

(1) JICAによる技術協力プロジェクトの実施手順等

 JICAによる技術協力プロジェクトの実施手順は、図3のとおりである。

図3 JICAによる技術協力プロジェクトの実施手順

図3JICAによる技術協力プロジェクトの実施手順

 JICAは、開発途上国の政府の要請にこたえるため、開発途上国等に供与する目的で、図3のとおり、JICA自らの予算により海外での施設の建設や海外向けの資機材の調達等を実施する契約を多数締結している。一方、JICAによる技術協力においては、JICAの予算により被援助国が契約の主体となって施設の建設や資機材の調達等を実施する仕組みになっていないため、被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等に係る契約はないことになる(表5 参照)。そして、15年度下半期から19年度までについて検査したところ、そのような契約は見受けられなかった。

表5 JICAによる技術協力における施設の建設や資機材の調達等の契約の有無
施設の建設 資機材の調達等
被援助国が実施 JICAが実施 被援助国が実施 JICAが実施
× ×

 また、施設の所有権は、現地で施設を建設後、施設が相手国に引き渡された時点で相手国政府に移転されることになっている。供与機材の所有権は、本邦調達の場合は、供与機材が相手国の港に到着した時点で相手国政府に移転されることになっている。一方、現地調達の場合は、供与機材が相手国に引き渡された時点で相手国政府に移転されることになっており、その際、JICAは相手国政府から受領書を受け取ることになっている。

(2) JICAにおける調達の体制

 JICAは、独立行政法人国際協力機構組織規程(平成16年規程(総)第4号)により、その組織及び事務の分掌を定めている。
 同規程によると、本部においては、調達部が技術協力事業等に係る資機材等の購入、賃貸借、輸送等の契約に関する事務を行うこととされている。また、在外事務所は、調達部が行う事務のうち一部の事務を行うこととされている。そして、調達部は、自ら本邦で調達する分の資機材の調達等を実施するほか、在外事務所が現地で調達する分の資機材の調達等に対して必要な支援を行っている。調達部の職員のうち、入札から契約に至る調達業務に精通していて資機材の調達等の事務に直接携わっている職員の数は限られているため、JICAは関連公益法人である財団法人日本国際協力システム(Japan International Cooperation System。以下「JICS」という。)に機材調達支援業務を委託している。一方、海外での施設の建設に関する事務は、公共政策、地球環境、農村開発等の特定分野の課題に関する事務をつかさどる各課題部が分掌するとされている。
 このように、JICAは、海外での施設の建設と海外向けの資機材の調達等を一元的に管理する体制を採っていない。
 JICAは、以前、技術協力は我が国が有する技術を移転するものであるから、技術協力で使用する資機材については、我が国で調達された我が国の製品を充てるとの考えから、本邦調達を中心にしていた。そして、現地調達を行うための条件が備わった在外事務所が、価格比較をした上で本部から承認された場合に限り現地調達を行っていた。しかし、JICAは、15年10月の独立行政法人化後は、現場主義をJICA改革の大きな柱として掲げ、開発途上国の要望に的確かつ迅速に対応するために、また、維持管理、アフターケア等を容易にするために、16年10月から、現地に代理店がない場合や特注品等を調達する場合を除き、資機材の調達等を原則として現地調達とすることとし、その契約件数を増やしている。
 在外事務所で入札や契約の事務に携わる職員は、在外事務所に異動する直前に調達事務に関する事項を含む赴任前研修を受けるものの、多くの場合、在外事務所に着任して初めて入札や契約に関する事務に携わることになるため、それらの事務に不慣れな者が多く、また、赴任地によっては、英語ではなく、フランス語、スペイン語等による対応が求められることもあることから、調達事務は在外事務所にとって大きな負担になっている。そのため、JICAは、JICSに機材調達支援業務を委託し、「現地調達支援」として、「現地調達手続支援」及び「在外調達支援調査(出張型)」の二つの支援業務を実施させ、在外事務所の支援を行わせている。JICSにおいて、「現地調達手続支援」は仕様書作成、入札図書案作成、入札評価支援及び契約手続支援を行うことを主な業務内容としており、「在外調達支援調査(出張型)」は支援要員を在外事務所に派遣して企業情報調査等の機材調達支援を行うことを業務内容としている。
 このように、JICA本部においては、調達業務のうち多くの事務をJICSに任せることができるが、在外事務所においては、JICSの支援は受けられるものの、事務所職員自らが入札や契約に関する事務を行わなければならないのが実態である。

(3) JICAにおける契約入札手続等

 本邦調達及び現地調達の入札契約の手順は、図4のようになっている

図4 本邦調達及び現地調達の入札契約の手順

図4本邦調達及び現地調達の入札契約の手順

 JICAは、独立行政法人国際協力機構会計規程(平成18年規程(経)第3号。以下「会計規程」という。)により、会計機関の設置、契約の方法、予定価格の設定方法等を定めている。
 同規程によると、会計機関の一つとして、契約その他収入又は支出の原因となる行為を担当する契約担当役が設けられており、本部においては財務部担当理事が、また、在外事務所においては当該事務所長がその任に当たっている。そして、契約担当役は、理事長が支出予算示達書により財務部担当理事に示達した支出予算の範囲内において契約その他支出の原因となる行為を行うこととされている。
 JICAにおいて売買、賃貸借、請負その他の契約を締結する場合は、指名競争契約又は随意契約をする場合を除き、すべて公告して一般競争に付さなければならないとされている。そして、契約の性質又は目的が一般競争に付するに適さないとき、一般競争に付することが不利と認められるときなどの場合は指名競争入札に付することができるとし、会計規程に定める基準額を超えないときや外国で契約するときなど一定の要件を満たした場合は、随意契約によることができるとされている。
 また、契約担当役は、契約を締結しようとするときは、あらかじめ当該契約に係る予定価格を、当該契約事項に関する仕様書、図面、設計書その他の事項に基づき、契約価格の総額について設定しなければならないとされている。この予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して、適正に定めなければならないとされている。そして、随意契約の場合で予定価格が500万円を超えない工事、製造、加工、修理又は物件の購入のときなどは、予定価格の設定を省略することができるとされ、競争入札に付する場合を除き、理事長が予定価格の設定を要しないと認めたものについても、予定価格の設定を省略することができるとされている。
 さらに、特例として、海外の会計機関において、所在国の法令、慣習等により会計規程により難い事情がある場合は、理事長の指定により、又は理事長の承認を受けて会計規程と異なる処理をすることができるとされている。
 なお、JICAは、政府が策定した独立行政法人整理合理化計画において、19年度中に随意契約限度額を国と同額の基準に設定するよう措置することが定められたことに伴い、会計規程等を改正し、20年1月1日から、随意契約の場合で予定価格の設定を省略できる契約を、250万円を超えない工事又は製造をさせるとき、160万円を超えない財産を買い入れるときなどに改めた。

(4) 契約の競争性・透明性の向上に向けた取組の状況

ア 見積競争方式の導入

 現地調達においては、契約担当役である在外事務所長が当該国の現地法人と契約を締結することになる。しかし、JICAによると、国によっては入札の方法が異なっていたり、入札という考え方自体が商慣習として存在していなかったりするなどの事情があり、開発途上国における調達環境等は我が国と大きく異なっているとしている。そのため、すべての在外事務所で一律に一般競争入札等を行うことが困難なことから、随意契約にせざるを得ない場合が多いが、そのような場合でも可能な限り価格競争性を高めた方法を採用するように努めることとしている。
 そして、16年1月に、調達部長は「随意契約における見積競争方式の導入について」の通知を発し、見積競争方式が導入された。この通知によると、見積競争方式とは、見積依頼書において価格競争であることを明示するとともに、見積書提出期限を提示し、見積書提出期限後に見積書を一斉開封する方式であると定義している。見積競争方式には見積提出者の選定方法の違いにより、後記の契約競争参加有資格者を対象に、ホームページ、掲示等の方法により公告し見積提出者を募集する一般見積競争と、JICAにおいて複数者を見積提出者として指名する指名見積競争の二つの方法がある。このうち、指名見積競争の適用範囲は、在外事務所における機材調達に係る随意契約案件で、指名見積競争を行うことが可能なときなどとしている。
 JICAは、指名見積競争が入札会を省略するものであることから随意契約に分類しているが、実質的には競争入札と同等の効果があると説明している。指名見積競争の具体的な手順は、図5のようになっている。

図5 JICAにおける指名見積競争の手順

図5JICAにおける指名見積競争の手順

イ 調達研修会等の実施

 JICA本部は、18年12月に、調達業務の更なる強化とコンプライアンスの保持やサービスの向上を目指して、在外事務所からの入札等に関する質問に答えられる体制を調達部内に整えた。そして、本部は、メキシコとケニアに設置された地域支援事務所と共催で域内の在外事務所の職員や現地採用職員を対象にした調達研修会を開催し、調達情報の共有化を図るなどしている。JICAは、このような研修会は、現地採用職員同士が相互に連絡を取り合える体制作りにも寄与しているとしている。

ウ 業者登録簿の整備

 JICAが15年10月から19年3月までの中期目標を達成するために定めた独立行政法人国際協力機構中期計画によると、調達業務に関して、一般競争入札を既に導入済みの国内に加え、現地商慣習の異なる在外事務所においても、複数業者から見積りを徴し、価格競争を原則とすることなどにより、機材の調達業務の透明化・適正化に努めること、引き続きホームページを通じ公示、入札結果等の調達関連情報を迅速に公表し、透明性の確保を図ることなどが記述されている。
 JICA本部は、本邦で資機材の調達等を行う際に、予定価格が500万円を超える場合は、原則として一般競争入札を行っており、その入札に参加を希望する者は、JICAに契約競争参加者資格登録を行わなければならないとしている。この契約競争参加者資格登録は、業者に全省庁統一資格審査結果を申告させ、その結果通知書に記載されている地域、資格種類、営業品目及び等級をそのまま登録し、一般競争入札や指名競争入札等に活用する制度である。
 また、JICA本部は、16年10月1日に、在外事務所に対して「海外の会計機関における機材調達に係る内規の制定について」の通知を発し、在外事務所が資機材の調達等を行う際は、競争性の確保の観点から、随意契約を行う場合であっても、より競争的な方法を採用するように内規を定め、これに基づき契約を行わせることとしたため、在外事務所は「機材調達に係る内規」を定めている。
 しかし、同内規に基づき、業者登録制度を設けることとしているのに、業者登録簿を整備して業者登録を行っていた在外事務所は、全55在外事務所のうち約3割に相当する17在外事務所となっていた。
 なお、被援助国の中には民間企業の活動が制限されているところがあり、そのような国においては財務諸表等に基づく格付けや登録は困難かつ信頼性が乏しいため、同内規により過去の取引実績を基にした「名簿」の作成をもって登録に代えている在外事務所もある。

エ 入札関連情報等の公表

 JICAは、本邦調達による海外向けの資機材の調達等については、6年度から、毎週水曜日に、本部に設置されているJICAプラザで一般競争入札を実施する案件の入札説明書を機材仕様明細書とともに公示しており、同じ情報をホームページでも公表している。また、過去2年間の公示と業者選定の結果をホームページで閲覧できるようにもしている。さらに、従来からの公示に加えて、18年度からは、競争性を高める観点から、半期ごとに「海外向け資機材本邦調達(一般競争入札案件)」の実施予定案件を公表している。
 一方、現地調達については、13年9月から、予定価格1000万円以上の資機材を価格競争により調達しようとする場合は、競争性の確保等の観点から、調達案件の概要を事前に公表している。
 また、JICAは、他の契約の予定価格が類推されるおそれがあるとして、予定価格を公表してこなかったが、随意契約の見直し計画の一環として、20年4月から、本邦調達のうち競争に付した案件及び一部の随意契約案件について、他の契約の予定価格が類推されるおそれがある場合等を除き、同年1月分までさかのぼり、契約締結後72日以内に予定価格を公表している。また、現地調達のうち競争に付した案件及び一部の随意契約案件について、同様に20年1月分までさかのぼり、各四半期ごとに取りまとめ、各四半期後72日以内に予定価格を公表している。