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  • 第3章 個別の検査結果|第1節 省庁別の検査結果|第5 総務省|意見を表示し又は処置を要求した事項

(3) 地上テレビジョン放送のデジタル化に伴い発生した空き周波数帯について速やかに有効活用が図られるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計(組織)総務本省 (項)ユビキタスネットワーク整備費 (項)東日本大震災復旧・復興情報通信技術利用環境整備費 (項)電波利用料財源電波監視等実施費
部局等
総務本省
地上テレビジョン放送のデジタル化等に係る施策の概要
地上テレビジョン放送のデジタル放送への円滑な移行のための環境整備や空き周波数帯で使用するシステムに関する調査研究等
地上テレビジョン放送のデジタル化等に係る施策に対する支出額
4927 億1089 万円(背景金額)(平成14 年度〜24 年度)
【意見を表示したものの全文】

地上テレビジョン放送のデジタル化に伴い発生した空き周波数帯の利用について

(平成25年10月31日付け 総務大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 電波利用の概要

貴省は、電波の公平かつ能率的な利用を確保することによって公共の福祉を増進することを目的として、電波法(昭和25年法律第131号)に基づき、電波の利用を求める者に対して免許を与えるなどしてその利用を認めている。そして、近年、携帯電話等の普及やデジタル家電の無線によるネットワーク接続の増加等によって、周波数がひっ迫したことから、貴省は、「電波政策ビジョン」(平成15年7月情報通信審議会答申)等により、周波数割当ての抜本的な見直しによる新規の電波需要に対する迅速な周波数の確保を図るため、地上テレビジョン放送をアナログ放送からデジタル放送へ移行させることに伴い発生する空き周波数帯(以下、この周波数帯のことを「空き周波数帯」という。)を再編して新たな用途に再配分する施策を実施している。

新たな用途で電波が利用できるようになるまでには、次のような手続等を経る必要があるとされている(図1参照)。

① 貴省が、国民からの意見や電波監理審議会の答申を受けて、周波数割当計画を決定して、官報に公示する。

② 貴省が、情報通信審議会の審議等を経て、割り当てた周波数帯で使用する設備等に関する技術基準や開設する無線局の目的等を審査する審査基準を策定する(以下、これらの基準を策定することを「制度整備」という。)。

③ メーカー等の開発により、技術基準に沿った無線機やシステム等が技術的に利用可能となる。また、貴省が、一部の無線局については、割り当てた周波数帯に対して無線局開設希望者の募集を行い、事業計画等を審査して事業者の選定を行う。

④ 貴省が、無線局申請書により、実際に使用する無線設備等が技術基準等に適合しているかを審査し、無線局の免許を交付して、個別電波の割当てを行う。

⑤ 事業者において電波の利用が可能となり、サービスが開始される。

図1 周波数の割当てから電波の利用までの流れ

周波数の割当てから電波の利用までの流れ

(2) 地上テレビジョン放送のデジタル化のための施策等

貴省は、平成13年7月に周波数割当計画等を変更して、地上テレビジョン放送のアナログ放送の周波数使用期限を23年7月24日とする告示を行った。また、13年6月の電波法の改正により、一定の要件に該当する周波数割当計画等の変更の場合は、国が国庫補助事業等により必要な援助を実施できることとなるとともに、20年5月以降3回にわたる電波法の改正により、アナログ放送からデジタル放送への円滑な移行のための環境整備等が実施できることとなった。この環境整備等の事業に係る貴省の支出額は、14年度から24年度までの11年間で計2798億余円となっている。なお、この事業は、国庫債務負担行為によって実施されているため、25年度以降も計1008億余円が支出される見込みとなっている。さらに、貴省は、19年度から24年度までの間に空き周波数帯で使用するシステムに関する調査研究等を行うために計45億余円、21年度から24年度までの間にデジタル放送対応のテレビに買い替えた者に対して購入価格の10%程度相当のエコポイントを付与するなどのために計2083億余円をそれぞれ支出している。これらの14年度から24年度までの間の地上テレビジョン放送のデジタル化等に係る施策に対する支出額の合計は、4927億1089万余円に上っている。

なお、地上テレビジョン放送のアナログ放送は、23年7月に岩手、宮城、福島各県(以下「東北3県」という。)を除く44都道府県において、24年3月に東北3県において、それぞれ終了しており、デジタル放送への移行が実現している。

(3) デジタル放送の導入に伴い発生した空き周波数帯の利用方法

地上テレビジョン放送のデジタル化により、ハイビジョン映像等の放送サービスの高度化が実現するとともに、必要な周波数の幅がアナログ放送で使用していた周波数の幅の約65%で済むことから、130MHz幅の空き周波数帯が発生する。

このため、貴省は、15年7月に、前記の「電波政策ビジョン」を受けて、周波数の再編方針を策定して、空き周波数帯の利用方法について検討することにした。そして、情報通信審議会は、19年6月に、空き周波数帯を次のアからエまでの四つのシステムに使用させることが適当であると答申し、これを受けて、貴省は、同年12月に周波数割当計画を変更した(図2参照)。

図2 地上テレビジョン放送のデジタル化に伴い発生した空き周波数帯の利用方法

地上テレビジョン放送のデジタル化に伴い発生した空き周波数帯の利用方法

  • ア 移動体向けマルチメディア放送システム(90MHz〜108MHz及び207.5MHz〜222MHzを割当て)

    このシステムは、時間や周波数帯域を柔軟に組み合わせて利用することにより、携帯電話や車載型の移動受信機等に向けて、映像、音響、データ等の様々な情報を放送する新たなシステムであり、VHF帯域の低域を利用する地域向けのV—Lowマルチメディア放送(以下「V—Low」という。)と、同帯域の高域を利用する全国向けのV—Highマルチメディア放送(以下「V—High」という。)から成る。

  • イ 公共ブロードバンド移動通信システム(170MHz〜202.5MHzを割当て)

    公共ブロードバンド移動通信システム(以下「公共BB」という。)は、警察、消防、水防、防災行政等の場で可搬基地局等を利用することによって、災害現場等の映像を伝送できるようにする新たなシステムである。

  • ウ 移動通信システム(718MHz〜748MHzを割当て)

    移動通信システムは、音声通話から動画や高度なアプリケーションにまで対応できる携帯電話等のシステムである。

  • エ 高度道路交通システム(755MHz〜765MHzを割当て)

    高度道路交通システム(以下「ITS」という。)は、交通事故を未然に防止することを目的とする安全運転支援システムのうち、路車間通信(注)等により出会い頭等の事故を防止する新たなシステムである。

(注)
路車間通信  路上に設置された通信装置と車両とが電波等を使用して信号情報、規制情報、歩行者情報、車両の位置情報等を送受信すること

(4) 「新たな情報通信技術戦略工程表」等の概要

政府は、我が国の情報通信技術戦略の一環として、上記四つのシステムのうち、公共BB及びITSを政府が推進していくべき具体的取組に位置付けた。そして、内閣官房の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下「IT戦略本部」という。)は、22年5月に「新たな情報通信技術戦略」を決定するとともに、各府省の連携が必要な施策について、各府省の役割分担と達成すべき事項を明確化する目的で「新たな情報通信技術戦略工程表」(以下「工程表」という。)を作成した。

工程表によると、公共BBについては、22、23両年度に貴省が制度整備と実用化を実施し、24、25両年度に貴省、警察庁及び国土交通省が公共BBの導入を促進することになっていた。

また、ITSについては、22年度にIT戦略本部がロードマップを策定することになっていた。そして、このロードマップによると、空き周波数帯の700MHz帯を使用するITSのうち路車間通信は、警察庁及び貴省が施策を担当することとされており、23年度までに貴省が技術基準を策定し、24年度に貴省が周波数帯を開放して、警察庁がサービス内容の充実や道路インフラの整備を推進することになっていた。ITSの施策の実施に当たっては、貴省は、電波政策に関わる分野について関係府省と連絡調整を主体的に行うこととされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、空き周波数帯において新たなシステム等が実用化されて有効に利用されているかなどに着眼して、空き周波数帯を利用することになっている四つのシステムについて、電波政策を所掌している貴省のほかIT戦略本部の工程表において施策担当府省とされている内閣官房、内閣府本府、警察庁、経済産業本省及び国土交通本省において会計実地検査を行った。検査に当たっては、空き周波数帯の利用状況や利用のための調査研究等に関する資料の提出を受けるとともに、貴省が公共BBの利用者の一部として想定している都道府県から調書を徴するなどして、システム導入等の進捗状況等を確認した。

(検査の結果)

検査したところ、前記四つのシステムのうち、移動体向けマルチメディア放送システムのV—Highについては、24年4月から事業者によるサービスが開始されており、貴省は、割り当てられた周波数帯を一層有効に活用するため、事業者の追加公募や制度の一部修正等を進めることとしていた。

また、移動通信システムについては、諸外国における周波数帯の割当ての状況を踏まえて、使用する周波数帯を関係事業者や有識者と検討した結果、別の周波数帯も併せて確保することとしており、23年5月の電波法の改正により、貴省は、携帯電話事業者の費用負担により上記の別の周波数帯を使用しているシステムを他の周波数帯に早期に移行させる措置を導入した。そして、この措置の導入により、27年1月以降、移動通信システムのサービスが順次開始される予定となっている。

しかし、これら以外のシステムが利用することになっている周波数帯は、次のとおり一部を除いて利用されておらず、利用される予定も決まっていない状況となっていた。

  • ア 移動体向けマルチメディア放送システム(V—Low)

    貴省が22年5月に作成した「地上デジタル放送の導入に伴う空き周波数帯の利用について」(以下「貴省資料」という。)によると、貴省は、事業者を選定した上で、23年7月のアナログ放送の終了に合わせてV—Lowのサービスを開始させることとしていた。

    しかし、V—Lowへの参入を希望する事業者は業態や規模が多岐にわたっており、貴省は、この帯域の具体的な用途や割当てなどに関して関係者の意見を十分に調整しておらず、制度整備に時間を要していて、制度整備や事業者の選定に至っていない状況となっていた。

  • イ 公共BB

    貴省は、22年8月に電波法施行規則(平成22年総務省令第82号)、無線設備規則(平成22年総務省令第83号)等を改正するとともに、25年7月に審査基準を改正して、公共BBの導入に向けた制度整備を行っていた。そして、警察庁は25年3月に全国9管区警察局等に公共BBを導入し、同年4月以降に運用を開始しているが、国土交通省は、導入の必要性を検討している段階である。

    一方、貴省は、警察庁及び国土交通省とともに公共BBの利用者として想定している都道府県等に対して、導入に関する需要調査を行っておらず、都道府県等の導入の予定を把握していなかった。そこで、本院は、25年4月に、都道府県の導入の予定等を確認するため、東北3県を除く44都道府県から調書を徴したところ、表のとおり、公共BBを導入している都道府県はなく、導入を予定している都道府県も1県にすぎなかった。

    表 都道府県における公共BBに関する導入の予定等

回答総数 公共BBに関する導入の予定等
導入予定あり 導入予定なし  
左のうち、貴省から情報提供あり  
左のうち、提供された情報が公共BB の紹介や概要のみ
都道府県数 44 1 43 18 7

また、貴省が公共BBに関する情報を提供していた都道府県は、全体の半数以下の18都道県であり、そのうちの7県に対しては公共BBの紹介や概要にとどまっていて、導入を検討するために必要な利用方法、機材導入経費、運用経費、導入効果等に関する詳細な情報を提供していなかった。なお、公共BBの導入を予定している1県は、貴省からではなく、公共BBの機器を開発しているメーカーから公共BBに関する情報を得ていた。

  • ウ ITS

    貴省資料によると、貴省は、空き周波数帯が利用可能となる24年7月にITSのサービスを開始させることとしており、貴省は、ITSの施策の実施に当たり、技術基準に関する省令及び審査基準を改正して、空き周波数帯の700MHz帯について制度整備を行った。

    一方、貴省は、空き周波数帯とは別の5.8GHz帯を有料道路自動料金収受システム(ETC)等に割り当てているが、その周波数帯でも出会い頭等の事故を防止するための路車間通信は、一定程度実現可能とされている。

    そして、貴省は、路車間通信に空き周波数帯の700MHz帯と5.8GHz帯のどちらを利用させることにするのかについて、警察庁等と十分な調整を行っていなかった。このため、警察庁は、その決定を関係メーカー間の協議に委ねており、関係メーカー間の協議がまとまらないことから、決定時期のめどさえ立っておらず、25年7月現在、空き周波数帯においてITSの路車間通信のサービスは開始されていない。

(改善を必要とする事態)

前記のとおり、貴省は、需要の増加による周波数のひっ迫に対応して周波数の有効活用等を図るため、多額の国費を投入して地上テレビジョン放送のデジタル化を実施し、周波数帯を空けているのに、その空き周波数帯に割り当てたシステムのうち、V—Low及びITSはいまだに実用化されておらず、また、公共BBは一部実用化されているものの十分に使用されておらず、空き周波数帯が十分に利用されていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

  • ア V—Lowについては、利用者等関係者の意見を十分に調整していないこと
  • イ 公共BBについては、利用者として想定している都道府県等に対して機材導入経費等や導入効果に関する詳細な情報を提供していないこと
  • ウ ITSについては、空き周波数帯の利用に向けて、警察庁等と十分な調整を行っていないこと

3 本院が表示する意見

地上テレビジョン放送のデジタル化は、貴省が多額の国費を投入して実施した周波数帯の有効活用等を目的とする施策であるため、それに伴い発生した空き周波数帯は、速やかに利用されて、国民がその便益を享受できるようにする必要がある。

ついては、貴省において、空き周波数帯が速やかに利用されるよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア V—Lowについては、利用者等関係者の意見を十分に調整して、速やかに制度整備が行えるようにすること
  • イ 公共BBについては、利用者として想定している都道府県等に対して機材導入経費等や導入効果に関する詳細な情報提供を適時適切に行い、それでも導入が促進しない場合は、利用者の意向を踏まえた上で、空き周波数帯を他の目的へ割り当てるなどの方策を検討すること
  • ウ ITSについては、空き周波数帯の利用に向けて、路車間通信で使用する周波数帯について警察庁等と速やかに調整を行うこと