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  • 平成24年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(5) 太陽光発電導入事業により公立学校に設置した太陽光発電設備について、事業主体に対して、環境教育における意義及び効果を周知するとともに、災害時の非常用電源としての使用方法を学校防災マニュアル等に記載することなどについて指導することなどにより、環境教育への活用及び災害時の使用が図られるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計(組織)文部科学本省(項)公立文教施設整備費
部局等
文部科学本省
交付の根拠
義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律(昭和33 年法律第81 号)
太陽光発電導入事業の概要
公立の義務教育諸学校等に太陽光発電設備を設置する地方公共団体に対して国が交付金を交付する事業
環境教育への活用が低調となっていた公立学校の数(1)
472 校
災害時の非常用電源としての使用方法を学校防災マニュアル等に記載していなかった公立学校の数(2)
322校
(1)及び(2)の純計
716校
上記の太陽光発電導入事業に係る交付金交付額の計
71億5159万円(背景金額)(平成21年度〜23年度)
【改善の処置を要求したものの全文】
太陽光発電導入事業により公立学校に設置された太陽光発電設備について

(平成25年10月31日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 公立学校における太陽光発電導入事業等の概要

(1) 公立学校における太陽光発電導入事業の概要

貴省は、義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律(昭和33年法律第81号)等に基づき、義務教育諸学校等における教育の円滑な実施を確保することを目的として、地方公共団体に対して、学校施設環境改善交付金(平成22年度以前は安全・安心な学校づくり交付金。以下「交付金」という。)を交付する事業(以下「交付金事業」という。)を実施している。

そして、貴省は、21年度に交付金事業の一環として、環境教育への積極的な取組を推進するために、太陽光発電設備の設置に関する事業(以下「太陽光発電導入事業」という。)を新設して、公立の義務教育諸学校等(以下「公立学校」という。)に太陽光発電設備を設置する地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して交付金を交付している。

(2) 公立学校に設置される太陽光発電設備の概要

公立学校に設置される太陽光発電設備は、太陽光パネル、パワーコンディショナ(注1)、データ収集装置、表示装置等で構成され、校舎等の屋上等に設置した太陽光パネルにより発電し、パワーコンディショナを経て学校施設内に電力を供給する設備である。

(注1)
パワーコンディショナ  太陽光パネルにより発電された直流電力を学校施設で使用可能な交流電力に変換する装置

このうち、データ収集装置は発電電力量、日射量、気温等のデータを収集及び記録する装置であり、表示装置はこれらのデータを表示する装置であり、貴省はこれらの装置は公立学校における環境教育に必要な設備であるとしている。

そして、23年4月1日現在で、全国の公立学校37,727校のうち太陽光発電設備が設置されているのは5,270校となっている(表1参照)。

表1 太陽光発電設備の設置状況

(単位:校、%)
区分 学校数(A) 太陽光発電設備 備考
設置校数(B) 設置率(B/A)
幼稚園 4,372 95 2.1 岩手、宮城、福島各県については、東日本大震災による業務への影響を考慮し、集計の対象外となっている。
小中学校 28,953 4,508 15.5
高等学校 3,481 537 15.4
特別支援学校 921 130 14.1
37,727 5,270 13.9

(平成23年4月1日現在。文部科学省大臣官房文教施設企画部調べ)

(3) 導入の意義及び効果

貴省は、太陽光発電導入事業の実施に当たり、公立学校への太陽光発電の導入の意義及び効果(以下、単に「導入の意義及び効果」という。)として、地球温暖化対策への貢献、経済的効率性、環境教育への活用、防災上の効果を挙げている。

そして、これらのうち環境教育への活用及び防災上の効果は、学校施設に太陽光発電設備を導入する場合に特有の意義及び効果と考えられるものであり、その内容は、次のとおりとなっている。

ア 環境教育への活用

太陽光パネルや表示装置を活用して、発電の仕組みや原理、二酸化炭素削減効果、消費電力計算について学習できるほか、地球温暖化、省エネルギー、省資源等についても学習できるとしている。そして、環境教育の教材として活用することができる教科等の例として総合的な学習の時間、社会、算数、理科、生活、家庭、特別活動(注2)等を示している。

(注2)
特別活動  学級活動、児童会活動、クラブ活動、学校行事等の教育課程における教科外活動

イ 防災上の効果

学校施設は、災害時には地域住民の避難所としての役割を果たすこととなるが、太陽光発電設備に防災機能を備えたパワーコンディショナ等を設置した場合には、災害等により停電が発生した場合でも一定の操作をすることにより、非常用電源として使用可能となる。

そして、貴省は、東日本大震災において避難所となった施設において停電時の電源確保が課題となったことなどを受けて24年2月に事務連絡を発し、24年度以降に設置する太陽光発電設備等の新エネルギー設備については、原則として防災機能を付加することとし、既に設置されている設備についても防災機能を追加する場合には交付金事業の対象とすることとしているため、今後は、防災機能を有する設備の設置が一層進められることとなる。

また、学校においては、学校保健安全法(昭和33年法律第56号)に基づき、児童生徒等の安全の確保を図るために、事故、加害行為、災害等による危険等発生時において学校の職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた危険等発生時対処要領(以下、災害を想定した危険等発生時対処要領を「学校防災マニュアル等」という。)を作成することとなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、貴省は、導入の意義及び効果として地球温暖化対策への貢献等の4項目を挙げているが、その中で、環境教育への活用及び防災上の効果については、学校施設に特有の項目と考えられる。そして、その活用については事業主体に委ねられている。

そこで、本院は、有効性等の観点から、太陽光発電導入事業により公立学校に設置された太陽光発電設備が、環境教育のために活用されているか、災害時において非常用電源として使用できるようになっているかなどに着眼して、21年度から23年度までの間に交付金の交付を受けた16都道県(注3)及び24都道県(注4)管内の383市区町村が実施した幼稚園19校、小学校1,279校、中学校664校、高等学校66校、特別支援学校43校、計2,071校の太陽光発電導入事業(交付金交付額計206億2087万余円)を対象として、実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注3)
16都道県  東京都、北海道、青森、栃木、埼玉、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、滋賀、奈良、和歌山、鳥取、長崎、熊本各県
(注4)
24都道県  東京都、北海道、青森、栃木、埼玉、千葉、新潟、石川、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、福岡、長崎、熊本、沖縄各県
(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 環境教育への活用状況

ア 授業や特別活動等における活用状況

貴省は、導入の意義及び効果において、教科等の例を示し環境教育の教材として活用することができるとしていることから、2,071校における太陽光発電設備の環境教育への活用状況についてみたところ、太陽光発電設備を教材として授業や特別活動等に活用していない公立学校が、表2のとおり、計472校(交付金交付額計46億4648万円)見受けられた。そして、これらの公立学校においては、児童、生徒等に校内に太陽光発電設備が設置されていることを周知したり、表示装置を点灯させたりしているものの、環境教育への活用は低調な状況となっていた。

表2 授業や特別活動等での活用状況

(単位:校)
区分 幼稚園 小学校 中学校 高等学校 特別支援学校
授業や特別活動等に活用していなかった 9 224 183 33 23 472
校内に設置されていることを周知 5 145 135 14 9 308
表示装置を点灯 5 215 177 29 15 441
授業や特別活動等に活用していた 10 1,055 481 33 20 1,599
19 1,279 664 66 43 2,071

一方、太陽光発電設備を授業や特別活動等に活用していた1,599校においては、太陽光パネルの観察や表示装置の観察を実施している。しかし、このうちの1,298校においては、環境教育を実施するために必要な設備としているデータ収集装置を設置しているが、これらの公立学校において、同装置を用いて収集、記録した発電電力量等のデータを活用した授業や特別活動等を実施した実績があったのは321校にとどまっていた。

イ 太陽光発電設備の環境教育への活用方法の事前検討

授業や特別活動等に活用していなかった472校について、太陽光発電設備の導入に当たり、環境教育への活用方法の検討をあらかじめ行っていたかについてみたところ、授業や特別活動等での活用を検討していたのは、157校(33.2%)にすぎなかった。一方、授業や特別活動等に活用していた1,599校については、そのうちの1,425校(89.1%)において授業や特別活動等での実施をあらかじめ教育委員会等で検討を行っていた。

太陽光発電設備の導入前に活用方法の検討を行って同設備を環境教育に活用している事例を参考に示すと、次のとおりである。

<参考事例>

埼玉県川口市は、平成22年度に、元郷南小学校に10kWの太陽光発電設備を設置していた。そして、同校での環境教育の実施状況等は次のとおりとなっていた。

  • (ア) 授業や特別活動等における活用状況

    同校は、毎年7月の4年生の理科の授業(電気のはたらき)において、太陽光パネルや表示装置を利用した太陽光発電の学習を実施している。太陽光パネル本体は屋上に設置しているため触れることはできないが、太陽光パネルのサンプルに触れて学べる機会を設けている。そして、データ収集装置で収集した時間別の発電量のデータを分かりやすくグラフにして表示装置に表示し、時間と発電量の関係等の説明に用いるなどしていた。また、同校は、年1回、外部専門家を講師として招き、4年生を対象に、太陽光発電の仕組みや太陽光発電の設置状況、太陽光発電の利点等を児童に分かりやすく説明している。

    特別活動等については、理科クラブ(4年生から6年生)において、太陽光パネルの仕組みや発電量について実験や観察を行うことにより、児童の興味、関心を高めている。

  • (イ) 太陽光発電設備の環境教育への活用方法の事前検討状況

    設備導入前に、同市教育委員会において、授業及び特別活動等において表示装置を用いた環境教育を実施することのほか、学習の成果を学校のホームページや広報誌で地域へ情報発信することについても検討していた。

(2) 災害時の使用

前記のとおり、防災機能を有した太陽光発電設備は災害等により停電が発生した場合の電源の確保の有効な手段となるが、停電時に稼働させる場合の操作手順や使用できる電気機器をあらかじめ学校防災マニュアル等に記載しておくことが重要である。

前記の2,071校のうち、防災機能を有した太陽光発電設備は、幼稚園6校、小学校193校、中学校106校、高等学校14校、特別支援学校3校、計322校(交付金交付額32億4249万余円)に設置されていたが、このうち319校においては学校防災マニュアル等に太陽光発電設備が設置されていることについて記載しておらず、残りの3校においては太陽光発電設備が設置されていることについて記載しているものの、非常用電源としての使用方法について具体的に記載していなかった。

なお、上記の(1)及び(2)の事態には重複している事態があり、その重複を除くと、716校(交付金交付額71億5159万余円)となる。

(改善を必要とする事態)

公立学校に設置された太陽光発電設備が、授業や特別活動等で十分に活用されていないなど環境教育への活用が低調となっている事態や、災害時の非常用電源としての使用方法が学校防災マニュアル等に記載されておらず、災害時での使用が困難となり得る事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 事業主体において、環境教育における導入の意義及び効果に対しての理解が十分でなく、太陽光発電導入事業の実施前段階における環境教育への活用方法の検討が十分でないこと。災害時の非常用電源としての使用方法を学校防災マニュアル等に記載することの必要性についての理解が十分でないこと
  • イ 貴省において、環境教育における導入の意義及び効果や環境教育への活用方法を事前に検討することの重要性に関する事業主体への周知や、災害時の非常用電源としての使用方法を学校防災マニュアル等に記載することなどについて事業主体に対する指導が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

貴省は、全ての公立学校に太陽光発電が導入されるよう、必要な支援を行い、太陽光発電設備の設置を一層進めることとしている。また、東日本大震災において避難所となった施設において停電時の電源確保が課題となったことを受けて、既存の太陽光発電設備についても防災機能を追加する場合には交付金事業を活用することができることとしている。

ついては、貴省において、公立学校に設置した太陽光発電設備が環境教育への活用及び災害時における使用に資するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 事業主体に対して、環境教育における導入の意義及び効果や新たに太陽光発電設備を導入する場合に環境教育への活用方法を事前に検討することの重要性を周知し、環境教育への活用を一層促すこと
  • イ 事業主体に対して、災害時の非常用電源としての使用方法を学校防災マニュアル等に記載することなどについて、必要な指導をすること