厚生労働省は、平成22年1月1日に社会保険庁が廃止されたことに伴い、従来、社会保険庁が所掌していた健康保険及び厚生年金保険の事業に関する事務を所掌している。そして、同省は、当該事業に関する事務の一部を日本年金機構(以下「機構」という。)に委任又は委託して、機構は、同省の監督の下に、本部、全国9ブロック本部、312年金事務所等において当該委任又は委託された事務を実施している。
健康保険は、常時従業員を使用する事業所の従業員を被保険者として、業務外の疾病、負傷等に関して医療、療養費、傷病手当金等の給付を行う保険である。また、厚生年金保険は、常時従業員を使用する事業所の70歳未満の従業員を被保険者として、老齢、死亡等に関して年金等の給付を行う保険である。
そして、事業所に使用される従業員のうち、いわゆるパートタイム労働者等の短時間就労者については、労働時間、労働日数等からみて当該事業所に常用的に使用されている場合には被保険者とすることとされている。
保険料は、被保険者と事業所の事業主とが折半して負担し、事業主が納付することとなっている。
そして、事業主は、年金事務所(21年12月31日以前は、社会保険庁地方社会保険事務局の社会保険事務所又は地方社会保険事務局社会保険事務室)に対して、健康保険及び厚生年金保険に係る次の届け書を提出することとなっている。
これらの届け書の提出を受けた年金事務所は、その記載内容を審査するとともに、届け書に記載された被保険者の報酬月額に基づいて標準報酬月額(注1)を、また、被保険者の賞与額に基づいて標準賞与額(注2)を、それぞれ決定してこれらに保険料率を乗じて得た額を保険料として算定している。厚生労働本省(以下「本省」という。)は、その算定した額を保険料として調査決定するなどして徴収している(21年12月31日以前は、社会保険事務所等がこれを行っていた。)。
保険料の24年度の収納済額は、健康保険保険料7兆8659億余円、厚生年金保険保険料24兆1549億余円、計32兆0209億余円に上っている。
本院は、合規性等の観点から、被保険者資格取得届等の提出が適正になされているかなどに着眼して、9ブロック本部の管轄区域内に所在する215年金事務所において、短時間就労者を多数使用していると見込まれるなどの1,705事業主を対象として、20年度から25年度までの間における保険料の徴収の適否について検査した。
検査に当たっては、本省において、機構本部から提出された保険料の調査決定等の基礎となる書類により、また、上記の215年金事務所において、事業主から提出された健康保険及び厚生年金保険に係る届け書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に年金事務所に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。
検査の結果、9ブロック本部の管轄区域内に所在する175年金事務所が管轄する1,491事業所の事業主のうち556事業主について、徴収額が1,247,124,665円(健康保険保険料404,392,501円、厚生年金保険保険料842,732,164円)不足していて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業主が制度を十分理解していなかったり、誠実でなかったりして、次のように届出を適正に行っていなかったのに、上記の175年金事務所において、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったこと、また、本省において機構に対する監督が十分でなかったことによると認められる。
372事業主 徴収不足額 1,085,371,274円
62事業主 徴収不足額 89,225,504円
122事業主 徴収不足額 72,527,887円
徴収不足額の大部分を占める被保険者資格取得届の提出を怠っていた事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>A会社は、娯楽業の業務に従事する従業員299人を使用していた。同会社の事業主は、これらの従業員のうち220人については勤務時間が短く常用的な使用でないなどとして、年金事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
しかし、上記の220人について調査したところ、同会社はこのうち56人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
このため、健康保険保険料11,397,657円、厚生年金保険保険料19,031,120円、計30,428,777円が徴収不足になっていた。
なお、これらの徴収不足額については、本院の指摘により、全て徴収決定の処置が執られた。
これらの徴収不足額及び徴収過大額を労働局ごとに示すと次のとおりである。
ブロック本部名 | 年金事務所 | 本院の調査に係る事業主数 | 徴収不足があった事業主数 | 徴収不足額 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
健康保険保険料 | 厚生年金保険保険料 | 計 | ||||
千円 | 千円 | 千円 | ||||
北海道 | 札幌東等10 | 74 | 17 | 3,331 | 14,002 | 17,334 |
東北 | 青森等7 | 97 | 22 | 24,554 | 33,879 | 58,433 |
北関東・信越 | 水戸南等19 | 201 | 92 | 50,917 | 149,954 | 200,871 |
南関東 | 幕張等38 | 274 | 112 | 93,060 | 267,345 | 360,406 |
中部 | 岐阜南等24 | 162 | 62 | 33,588 | 62,559 | 96,147 |
近畿 | 大津等34 | 257 | 95 | 66,561 | 105,822 | 172,383 |
中国 | 広島東等12 | 119 | 43 | 28,689 | 40,514 | 69,203 |
四国 | 徳島南等6 | 71 | 21 | 8,023 | 13,475 | 21,499 |
九州 | 東福岡等25 | 236 | 92 | 95,664 | 155,178 | 250,843 |
計 | 175か所 | 1,491 | 556 | 404,392 | 842,732 | 1,247,124 |