(平成25年10月31日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
貴省は、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下、これらを合わせて「事業主体」という。)が法による保護(以下「保護」という。)を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護に要する費用(以下「保護費」という。)の4分の3について生活保護費等負担金を交付している。
また、保護は、その内容によって、生活扶助、葬祭扶助等の8種類に分けられている。
そして、貴省、都道府県等は、生活保護行政がより適正かつ効率的に運営できるよう指導及び援助するために、事業主体に対して、生活保護法施行事務監査を実施している。
事業主体は、保護の開始の申請があったときは、世帯を単位として、保護の要否、種類、程度及び方法を決定することとされている。また、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定することとされている。そして、単身世帯の被保護者が死亡した場合には、当該世帯は保護を必要としなくなることから、保護は廃止されることとなる。
保護は、被保護者がその利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるものであり、また、「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)に基づき算定される額(以下「基準額」という。)のうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行われるものである。そして、この基準は、保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならないこととされている。
保護費のうち、衣食その他日常生活の需要に必要な費用に充当するために行われる生活扶助費は、原則として、一月分以内を限度として前渡するものとされている。
そして、保護の変更、廃止又は停止に伴い、前渡した保護費に過払い等が生ずる場合があるが、返還の免除について定めた法第80条の規定によると、前渡した保護費の全部又は一部を返還させるべき場合において、前渡した保護費を消費し、又は喪失した被保護者に、やむを得ない事由があると認めるときは、これを返還させないことができることとされている。
保護のうち葬祭扶助は、法第18条第1項の規定により、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、火葬又は埋葬、納骨その他葬祭等のために必要な費用(以下「葬祭費用」という。)の範囲内において行われることとなっている。そして、貴省は、葬祭費用が葬祭扶助の基準額を超える葬祭については、最低限度の生活を保障する保護の対象とならないことから、これに対して葬祭扶助を行うことはできないとしている。
また、法第18条第2項の規定により、被保護者が死亡した場合においてその者の葬祭を行う扶養義務者がないときなどには、その葬祭を行う者(以下「葬祭執行者」という。)に対して葬祭扶助を行うことができることとされている。そして、この場合には、葬祭執行者の申請に基づき葬祭扶助費の支給を行うこととなるが、上記と同様に、基準額を超える葬祭に対して葬祭扶助を行うことはできないとされている。
さらに、法第18条第2項の規定に基づいて、葬祭執行者に対して葬祭扶助を行う場合に、事業主体は、その死亡した被保護者等の遺留した金品(以下「遺留金品」という。)を葬祭扶助費に充当できることとされている。
平成22、23両年度の葬祭扶助の基準額は、その所在地域によって175,900円以内又は201,000円以内とされており、葬祭扶助費の支給額は、22年度74億8710万余円、23年度77億3518万余円となっている。
近年、保護の廃止理由のうち、死亡による廃止が約3割を占め、また、いわゆる高齢者の孤立死についても、社会的な関心が高まっている。
そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、単身世帯の被保護者が死亡したことにより保護を廃止した場合に、過払いとなった保護費について適切に返還の処理が行われているか、葬祭扶助が適切に行われているかなどに着眼して、貴省及び24都道府県(注)の201事業主体において、22、23両年度に被保護者が死亡したことにより保護を廃止した38,074世帯及び当該被保護者の葬祭に対して行われた法第18条第2項の規定による葬祭扶助10,863件を対象として、保護費の支給決定等に係る関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、24都道府県の125事業主体において、次のような事態が見受けられた。
21都道府県の56事業主体における287世帯
過払いとなっていた保護費計3151万余円(うち負担金相当額2363万余円)
前記のとおり、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の廃止を決定することとされている。そして、単身世帯の被保護者が死亡した場合には原則として、死亡日に遡って保護を廃止することになるが、上記の事業主体は、被保護者が死亡した事実の把握が遅れたなどのため、保護の廃止等を決定するまでの間に支給したことにより過払いとなった死亡月の翌月以降の分の保護費について、返還の処理を行っていなかったり、法第80条の規定を適用して返還の免除を決定したりしていた。そして、上記の保護費は、被保護者の口座に預けられたままとなっているなどしていた。
しかし、死亡月の翌月以降の分の保護費については、保護を要しなくなった後に支給されたものであり、過払いとなっていることから、これを債権として管理するとともに返還の処理を行う必要がある。また、法第80条の規定は、被保護者に対し前渡した保護費の返還を免除することができるとしたものであることから、保護を要しなくなった後に支給された死亡月の翌月以降の分の保護費については、同条の規定を適用することはできないとされている。
<事例>事業主体Aは、平成18年10月に単身世帯の世帯主であるBの保護を開始し、23年3月分までの生活扶助費等を、各月の初めに支給していた。しかし、実際には、Bは22年10月中旬に死亡しており、同年11月から23年3月までの間に口座払いで支給された保護費計542,990円は、死亡後に支給されていた(なお、事業主体Aは、Bとの連絡が途絶えたため、23年4月以降の保護費の支給方法を窓口払いに変更していて、同月以降、保護費の受取はなかった。)。そして、事業主体Aは、同年7月にBの死亡を把握したことから、22年11月1日付けをもって同世帯の保護を廃止していた。
しかし、事業主体Aは、死亡月の翌月以降に支給したために過払いとなった保護費計542,990円について、返還の処理を行うことなく、法第80条の規定を適用して返還の免除を決定していた。
16都道府県の41事業主体
葬祭扶助の件数 889件
支給された葬祭扶助費計2億0544万余円(うち負担金相当額1億5408万余円)
((2)及び(3)の事態には重複しているものがある。)
上記の事業主体は、葬祭費用が基準額を超える葬祭に対して、葬祭執行者の申請により葬祭扶助を行っていた。
しかし、前記のとおり、保護は、基準額の範囲内で行われるものであり、葬祭費用が葬祭扶助の基準額を超える葬祭に対して、その費用の一部に充当するために葬祭扶助費を支給することはできないとされている。
22都道府県の87事業主体
葬祭扶助の件数 1,013件
支給された葬祭扶助費計1億9646万余円(うち負担金相当額1億4734万余円)
上記の事業主体は、法第18条第2項の規定に基づき葬祭扶助を行うに当たって、必ずしも死亡した被保護者の遺留金品を葬祭扶助費に充当しなければならないとはされていないとして、死亡した被保護者が医療機関等に入院又は入所していたなどの場合であっても、医療機関等に遺留金品の有無、額等を問い合わせるなどの方法により当該被保護者の遺留金品を把握することなく、遺留金品を葬祭扶助費に充当できるか検討しないまま葬祭扶助を行っていた。
しかし、貴省によると、保護は、被保護者が利用し得る資産等あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるものとされる法の趣旨を踏まえ、法第18条第2項の規定に基づき葬祭扶助を行う場合で、死亡した被保護者の遺留金品がある場合には、これを葬祭扶助費に充当して活用することを検討すべきであるとされているにもかかわらず、上記の事業主体において、死亡した被保護者の遺留金品を把握せず、葬祭扶助費に充当できるか検討しないまま葬祭扶助を行っていた。
上記のように、単身世帯の被保護者が死亡したことにより保護を廃止した場合において、過払いとなった死亡月の翌月以降の分の保護費について返還の処理を行っていない事態は適切とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。また、葬祭費用が葬祭扶助の基準額を超える葬祭に対して葬祭扶助を行っていたり、死亡した被保護者の遺留金品について把握せず、葬祭扶助費に充当できるか検討しないまま葬祭扶助を行っていたりしている事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
被保護世帯の半数近くを高齢者世帯が占め、そのうちの約9割が単身世帯となっており、そのような単身世帯の被保護者の中には、葬祭を行う扶養義務者等との関係が疎遠となっている場合も多いことなどから、事業主体においては、死亡による保護の廃止に際して適切に対応していく重要性が、従来にも増して高まっている。
ついては、貴省において、単身世帯の被保護者が死亡したことにより過払いとなった死亡月の翌月以降の分の保護費について、事業主体に対して速やかに返還の処理を行わせるよう是正の処置を要求するとともに、単身世帯の被保護者が死亡したことにより保護を廃止したり葬祭扶助を行ったりする場合の取扱いが適切に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。