独立行政法人国立精神・神経医療研究センター、独立行政法人国立成育医療研究センター及び独立行政法人国立長寿医療研究センターは、「高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律」(平成20年法律第93号)に基づき、平成22年4月1日に、国立高度専門医療研究センターとして設立された。そして、各研究センターは、国の医療政策として、公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的として、それぞれ、精神・神経疾患等に係る医療、成育に係る疾患に係る医療、加齢に伴う疾患に係る医療に関して、調査、研究等を行っている。
独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)によれば、主務大臣は、3年以上5年以下の期間において独立行政法人が達成すべき業務運営に関する中期目標を定めて、これを当該独立行政法人に指示することとされており、独立行政法人は、この中期目標に基づき、当該中期目標を達成するための計画(以下「中期計画」という。)及び年度計画を作成して、これらの計画に基づき、適正かつ効率的にその業務を運営することとなっている。
各研究センターの中期目標には、財務内容の改善に関する事項が定められており、その中に、運営費交付金以外の外部資金の積極的な導入に努めることが掲げられている。そして、各研究センターの中期計画では、自己収入の増加に関する事項として民間企業等からの資金の受入体制を構築して、寄附の受入れや研究の受託等により、外部資金の獲得を行うこととしている。
各研究センターに所属する研究者は、自らが各研究センターの施設、設備等を使用するなどして職務上行う研究の経費として、科学研究費補助金、厚生労働科学研究費補助金等の国から交付される公的研究費のほか、財団法人等が実施する研究助成制度に応募して採択を受けることなどにより、財団法人等から資金の交付を多数受けている(以下、財団法人等から交付を受けた資金を「財団等研究費」という。)。
公的研究費については、内閣府に設置されている総合科学技術会議が、18年8月に「公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)」を策定して、研究費の不正使用等を防止し、研究費の効率的な執行を図るため、関係する府省、研究機関等において、研究費の使用等の規則の整備及び明確化や研究費の機関管理の徹底等を図ることとしているが、財団等研究費については、同指針の対象とはなっていない。
一方、各研究センターと同様に所属する研究者が外部から資金の交付を受けて研究を行っている国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下、これらを合わせて「国立大学法人等」という。)においては、従前から、所属する研究者が職務上行う教育・研究については国立大学法人等にその遂行に関する事務上の管理責任があるとして、所属する研究者が財団等研究費と同様の個人宛ての研究助成金である民間等外部の個人宛て寄附金を受けたときは、改めて国立大学法人等に寄附することとする旨の規程等を整備して、国立大学法人等が研究者が職務上行う研究に交付される外部資金の管理及び経理を行うこととしている。
前記のとおり、各研究センターの中期計画では、民間企業等からの資金の受入体制を構築して、寄附の受入れや研究の受託等により、外部資金の獲得を行うこととしている。
そこで、本院は、効率性等の観点から、財団等研究費の交付を受けた研究者から、その管理及び経理の事務の委任を受けるよう規程等を整備しているか、研究者が交付を受けた財団等研究費の管理及び経理は適切に行われているかなどに着眼して、各研究センターにおいて、22年度から24年度までの間に研究者が交付を受けた財団等研究費計162件、2億8389万余円を対象として検査した。検査に当たっては、研究費の助成を行った財団法人等が開示している研究費についての情報を基に、財団等研究費の交付を受けた研究者が各研究センターにその管理及び経理に係る事務の委任を申し出ているかを聴取するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)検査したところ、次のような事態が見受けられた。
各研究センターは、「競争的研究資金取扱規程」等の研究費の取扱いを定めた規程等(以下「研究費規程等」という。)を策定しており、研究費規程等の対象とする研究費は、厚生労働科学研究費補助金等のほか、研究者からの申出等を受けてあらかじめ各研究センターの総長が事務委任を行うことを承諾した研究費等とされていて、研究費を獲得した研究者は、研究費の受領並びに管理及び経理の権限を総長に委任しなければならないなどとされているが、財団等研究費が研究費規程等の対象となることは明確となっていなかった。なお、独立行政法人国立精神・神経医療研究センターは、24年8月にセンター内の電子掲示板において、財団等研究費の公募に応募して採択された場合には同センターに申し出る旨を周知するなどしていた。
また、各研究センターは、所属する研究者が財団等研究費の交付を受けて各研究センターへ管理及び経理に係る事務の委任を行う旨の申出を行っていた財団等研究費(22年度から24年度までの間の計102件、2億2959万余円(国立精神・神経医療研究センター計46件、6845万余円、国立成育医療研究センター計29件、1億0563万余円、国立長寿医療研究センター計27件、5550万円))については、各研究センターにおいて管理及び経理を行っていた。しかし、各研究センターにおいて、財団等研究費の研究費規程等における取扱いが明確となっておらず、所属する研究者に対して、財団等研究費の交付を受けた場合は各研究センターに申し出る旨の周知を十分に行っていなかったことなどから、22年度から24年度までの間に、計60件、5429万余円(国立精神・神経医療研究センター計25件、1999万余円、国立成育医療研究センター計23件、2673万余円、国立長寿医療研究センター計12件、757万余円)の財団等研究費について、研究者が個人で管理及び経理を行っている状況となっていた。
上記のように、財団等研究費は研究者が職務上行う研究の経費に充てられるものであるのに、研究者が個人で管理及び経理を行っている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
(発生原因)このような事態が生じていたのは、各研究センターにおいて、財団等研究費が研究費規程等の対象となることが明確になっていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、各研究センターは、研究者が交付を受けた財団等研究費を適切に管理及び経理を行うために、25年9月までに、財団等研究費が研究費規程等の対象となることを研究費規程等に明確に記載して、研究者向けの説明会を実施するなどして、研究費規程等に基づく財団等研究費の取扱いについて周知徹底を図った。