総合評価落札方式は、会計法(昭和22年法律第35号)第29条の6第2項の規定に基づく競争契約における落札方式の一形態であり、通常の落札方式が国にとって最も有利な価格で入札した者を落札者とするのに対して、価格のみではなく機能、性能その他の条件にも着目して費用対効果の面で国にとって最も有利な入札をした者を落札者とするものである。
国土交通省は、平成12年度以降、公共工事の品質向上の点からも、総合評価落札方式を適用してきているが、その一方で、価格競争の激化による公共工事の品質低下が懸念されたことなどから、公共工事の品質確保の促進に関する法律(平成17年法律第18号。以下「品確法」という。)が制定され、品確法第3条第2項において、公共工事の品質は、経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならないと規定されている。
そして、品確法第8条第1項の規定に基づき、「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針」(以下「基本方針」という。)が17年8月に閣議決定され、これに基づき国土交通省は、工事の品質確保の促進をより一層図るため、国土交通省が発注する河川及び道路の公共工事(以下「河川及び道路直轄工事」という。)について、「国土交通省直轄工事における品質確保促進ガイドライン」(以下「国交省ガイドライン」という。)を同年9月に作成するなどして、総合評価落札方式を実施してきている。
さらに、品確法第3条第4項において、公共工事の品質確保に当たっては、談合、入札談合等関与行為その他の不正行為の排除が徹底されることなどにより、入札及び契約の適正化が図られるように配慮されなければならないと規定されている。
河川及び道路直轄工事において、23年度に総合評価落札方式で実施された契約が競争契約全体に占める割合は、件数、契約金額共に約99%となっており、ほとんどが総合評価落札方式で実施されている状況である。そこで、河川及び道路直轄工事における総合評価落札方式の内容についてみると、次のとおりとなっている。
総合評価落札方式は、国交省ガイドラインによると、24年度までは工事の難易度等に応じて、簡易型、標準型、高度技術提案型のいずれかのタイプを選択して行うこととされており、その内容は、次のとおりである。
なお、これらのタイプ分類については、25年3月に、総合評価落札方式の基本的な評価方法は変わらないものの、施工能力の評価を大幅に簡素化し、工事の品質の向上が図られるよう技術提案の評価を重視するという見直しが行われ、施工能力を評価する施工能力評価型及び施工能力に加え技術提案を求めて評価する技術提案評価型に区分して順次実施されることとなった。
総合評価落札方式の実施手順は、地方整備局等及び地方整備局等管内の事務所等並びに入札参加希望者に関しては、国交省ガイドラインに図のような標準的な手順が示されている。
図 総合評価落札方式の実施手順
総合評価落札方式においては、入札参加希望者が提出した技術資料に対して、入札説明書等に記載された要求要件を満たす場合に付与される標準点、入札説明書等に記載された要求要件を実現できる確実性の高さに付与される施工体制評価点、入札参加希望者の技術力等に応じて付与される各評価項目の技術評価に関する加算点をそれぞれ付与し、これらの合計点(以下「技術評価点」という。)により技術提案等の評価を行っている。なお、技術評価に関する加算点の評価項目として、企業の工事成績や配置予定技術者の資格や予定下請業者の優良工事における下請者表彰の有無等がある。
そして、入札参加業者の技術評価点を当該入札参加業者の入札価格で除した数値の最も高い者を落札者とすることとしている。
公正取引委員会は、24年10月17日に、四国地方整備局において総合評価落札方式により発注された一般土木工事の入札参加業者等に対して、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)第3条の規定に違反する行為を行っていたとして、排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。
そして、公正取引委員会は、これらの違反行為に関して、同局管内の高知河川国道事務所及び土佐国道事務所の職員が、特定の入札参加業者に対して入札書の提出締切日前までに、他の入札参加業者の名称、技術評価点、予定価格等の未公表情報を教示していたという入札談合等関与行為を認定した。そして、同委員会は、国土交通大臣に対して、入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(平成14年法律第101号)第3条第2項の規定に基づき、当該入札談合等関与行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を速やかに講ずるよう求めた。
河川及び道路直轄工事に係る総合評価落札方式については、各地方整備局等が、国交省ガイドライン等を参考にしつつ、基本方針に定める事項が適切に措置できるよう努めることとされており、各地方整備局等は、その運用方法等をそれぞれ定めている。また、総合評価落札方式は、談合防止に一定の効果があると期待されているが、前記のとおり四国地方整備局管内の二つの事務所において、河川及び道路直轄工事に係る入札談合等関与行為等が発生している。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、河川及び道路直轄工事における総合評価落札方式が、競争契約における落札方式の一形態として、各地方整備局等において適切に実施されているか、入札談合等関与行為に関する改善措置等が適切に講じられているかなどに着眼して検査を実施した。
本院は、23、24両年度に9地方整備局等(注1)の54事務所等(注2)管内において総合評価落札方式により発注された契約金額2000万円以上の河川及び道路直轄工事5,825件、契約金額計9741億9850万余円を対象として検査を実施した。
検査に当たっては、上記の契約に係る調書を徴して調査分析するとともに、この中から抽出した工事について、競争参加資格確認申請書及び技術資料、技術審査会の資料等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。また、国土交通本省及び四国地方整備局において、前記の入札談合等関与行為に関する改善措置等について調査した。
総合評価落札方式のタイプ別の契約件数、契約金額等は、表1のとおりである。
表1 総合評価落札方式のタイプ別の契約件数、契約金額等
総合評価落札方式のタイプ | 平成23年度 | 24年度 | 計 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
契約件数 | 契約金額 | 契約件数 | 契約金額 | 契約件数数(割合) | 契約金額 | |
簡易型 | 2,171 | 235,848,456 | 2,196 | 257,181,709 | 4,367(74.9) | 493,030,166 |
標準Ⅱ型 | 796 | 123,014,486 | 472 | 103,292,353 | 1,268(21.7) | 226,306,839 |
標準Ⅰ型 | 113 | 143,743,221 | 74 | 109,194,256 | 187( 3.2) | 252,937,477 |
高度技術提案型 | 1 | 533,820 | 2 | 1,390,200 | 3( 0.0) | 1,924,020 |
計 | 3,081 | 503,139,983 | 2,744 | 471,058,519 | 5,825(100) | 974,198,503 |
タイプ別の実施状況は、件数で簡易型が全体の74.9%、標準Ⅱ型が21.7%、標準Ⅰ型が3.2%であり、この3タイプが総合評価落札方式のほとんどを占めており、高度技術提案型はほとんど実施されていない。
そこで、総合評価落札方式についての分析は、簡易型、標準Ⅱ型及び標準Ⅰ型について行うことにした。
総合評価落札方式のタイプ別の入札参加業者数の状況は、表2のとおりである。
表2 タイプ別の入札参加業者数
総合評価落札方式のタイプ | 入札参加業者数 | 計 | |||
---|---|---|---|---|---|
1者 | 2者 | 3者 | 4者以上 | ||
簡易型 | 762 (17.4) |
552 (12.6) |
489 (11.1) |
2,564 (58.7) |
4,367 (100) |
標準Ⅱ型 | 111 ( 8.7) |
96 ( 7.5) |
110 ( 8.6) |
951 (75.0) |
1,268 (100) |
標準Ⅰ型 | 1 ( 0.5) |
1 ( 0.5) |
5 ( 2.6) |
180 (96.2) |
187 (100) |
計 | 874 (15.0) |
649 (11.1) |
604 (10.3) |
3,695 (63.4) |
5,822 (100) |
入札参加業者数は、タイプ別にみると、簡易な施工計画のみで技術提案を求めない簡易型は、標準Ⅱ型及び標準Ⅰ型に比べて1者応札が比較的多いが、技術提案を求める標準Ⅱ型及び標準Ⅰ型は、1者応札が1割以下となっている。
一部の地方整備局及び事務所等においては、前記のとおり技術評価に関する加算点の評価項目として、予定下請業者の優良工事における下請者表彰の有無の項目を設けている。
そこで、この評価項目についてみたところ、北陸地方整備局新潟国道事務所において、4契約について複数の入札参加希望者が、優良工事における下請者表彰を受けている同一の業者と下請範囲を示した工事内容や概算契約額を取り決めた覚書をそれぞれ交わした上で当該業者を予定下請業者としていた。しかし、この予定下請業者は、自らもこの4契約に係る入札に参加しており、他の入札参加希望者の入札金額等の情報を推測できるようになっていて、競争契約における入札の公正性が十分に確保されていないおそれのある状況が見受けられた。
技術評価に関する加算点の算定方法には、各評価項目の得点の合計点をそのまま加算点とする「素点計上方式」、各評価項目の得点の合計点が最高点の者に加算点の満点を付与し、それ以外の者には得点の合計点に応じて案分して加算点を付与する「一位満点方式」等がある。このうち、「一位満点方式」は、技術力の高い者が優位に評価されることとなる特徴がある。
しかし、「一位満点方式」を採用している四国地方整備局の3事務所等において、技術提案の得点の差が加算点に直接的に反映されていないため、技術力の高い者が必ずしも優位に評価されていない状況が見受けられた。
四国地方整備局徳島河川国道事務所は、技術提案の加算点を「一位満点方式」で算定しているが、同地方整備局が定めた評価基準に基づき、得点の合計点が最高点の者以外の者に対しては、得点の合計点に応じて案分して加算点を付与するのではなく、最高点に対する得点の比率が70%以上の者には加算点の満点を付与するなど、得点をグループ分けし、そのグループごとに同一の加算点を付与していた。そして、「一位満点方式」であるにもかかわらず、得点が8点の最高点の者と6点の者のいずれに対しても加算点の満点である20点を付与していた。
国交省ガイドラインにおいて、総合評価落札方式により技術提案の審査・評価を行うに当たっては、発注者の恣意を排除し、中立かつ公正な審査・評価を行うこととされ、この確保のために学識経験者の意見を聴取することとされている。
国土交通省は、総合評価委員会の設置要領準則を定め、各地方整備局等は、これに基づき総合評価委員会規則等を作成している。
各地方整備局等管内の総合評価委員会及び部会において、学識経験者から意見を聴取する事項は、①総合評価落札方式の実施方針に関すること、②複数の工事に共通する評価方法に関すること、③必要に応じ個別工事の評価方法や落札者の決定に関することとされている。
このうち、①及び②は、評価方法全体に関わる内容であり、主として総合評価委員会において審議されている。一方、③は、個別工事に関わる内容であり、各地方整備局等が発注する工事については、総合評価委員会において審議されているが、事務所等が発注する工事については、部会において審議されている。そして、③の審議は、前記の図のとおり、一般的に1件の入札に対して複数回実施されており、このうち、落札者決定前の総合評価委員会及び部会の審議(前記図中のbを参照)においては、発注者の恣意を排除するなどのため、個別工事の技術評価に関する加算点の適否等、評価案について意見が聴取されることになっている。
そこで、各地方整備局等管内の9総合評価委員会及び38部会における落札者決定前の個別工事の評価案についての審議状況をみたところ、北海道開発局等4地方整備局等の1総合評価委員会及び15部会においては、全ての総合評価落札方式のタイプを通じて、これについての個別の審議を行っておらず、前記のとおり、発注者の恣意を排除し、中立かつ公正な審査等を行うという審議の趣旨が十分に生かされないおそれのある状況が見受けられた。
河川及び道路直轄工事における総合評価落札方式において、入札参加業者間における落札者の技術評価点や入札金額の順位が入札結果にどのような影響を与えているのかについてみると、表3のとおりである。
表3 入札参加業者間における落札者の技術評価点の順位及び入札金額の順位の割合
(上段の( )の割合:タイプ別、技術評価点の順位別に合計した落札者数(①)に対して各欄の落札者数が占める割合
下段の< >の割合:タイプ別、入札金額の順位別に合計した落札者数<②>に対して各欄の落札者数が占める割合)
簡易型 | 技術評価点の順位 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
入札金額の順位 | 順位 | 1位 | 2位 | 3位以下 | 計<②> | |||||
1位 | 1,017 | (a)(51.9) (b)<57.4> |
450 | (70.3) <25.4> |
304 | (78.9) <17.1> |
1,771 | <100> | ||
2位 | 428 | (21.8) <71.3> |
116 | (18.1) <19.3> |
56 | (14.5) <9.3> |
600 | <100> | ||
3位以下 | 514 | (26.2) <83.8> |
74 | (11.5) <12.0> |
25 | ( 6.4) <4.0> |
613 | <100> | ||
計(①) | 1,959 | (100) | 640 | (100) | 385 | (100) | 2,984 | |||
標準Ⅱ型 | 技術評価点の順位 | |||||||||
入札金額の順位 | 順位 | 1位 | 2位 | 3位以下 | 計<②> | |||||
1位 | 362 | (a)(49.6) (b)<65.1> |
121 | (65.7) <21.7> |
73 | (76.0) <13.1> |
556 | <100> | ||
2位 | 166 | (22.7) <75.1> |
38 | (20.6) <17.1> |
17 | (17.7) <7.6> |
221 | <100> | ||
3位以下 | 201 | (27.5) <86.6> |
25 | (13.5) <10.7> |
6 | ( 6.2) <2.5> |
232 | <100> | ||
計(①) | 729 | (100) | 184 | (100) | 96 | (100) | 1,009 | |||
標準Ⅰ型 | 技術評価点の順位 | |||||||||
入札金額の順位 | 順位 | 1位 | 2位 | 3位以下 | 計<②> | |||||
1位 | 38 | (a)(25.8) (b)<70.3> |
13 | (54.1) <24.0> |
3 | (30.0) <5.5> |
54 | <100> | ||
2位 | 37 | (25.1) <82.2> |
4 | (16.6) <8.8> |
4 | (40.0) <8.8> |
45 | <100> | ||
3位以下 | 72 | (48.9) <87.8> |
7 | (29.1) <8.5> |
3 | (30.0) <3.6> |
82 | <100> | ||
計(①) | 147 | (100) | 24 | (100) | 10 | (100) | 181 |
表3において、技術評価点と入札金額の順位がいずれも1位である落札者についてみると、タイプ別、技術評価点の順位別に合計した落札者数(①)に対する割合(表中では(a)と表記)は、簡易型については51.9%となっており、標準Ⅱ型は49.6%、標準Ⅰ型は25.8%となっている。このように、簡易型は、標準Ⅰ型と比較して、入札金額の最も低い者が落札する割合が高いなど、難易度の低い工事については、価格が工事を受注することに与える影響が大きいと思料される。
また、タイプ別、入札金額の順位別に合計した落札者数<②>に対する割合(表中では(b)と表記)は、簡易型については57.4%となっており、標準Ⅱ型は65.1%、標準Ⅰ型は70.3%となっている。このように、標準Ⅰ型は、簡易型と比較して、技術評価点が最も高い者が落札する割合が高いなど、難易度の高い工事については、技術評価点が工事を受注することに与える影響が大きいと思料される。
国土交通省は、24年12月に、四国地方整備局管内において発生した入札談合等関与行為の再発防止対策等のうち、入札・契約手続の見直しに関する具体的措置を示した通達を、各地方整備局等に発出している。
上記の通達によると、入札参加希望者から提出された技術資料について、技術審査会や総合評価委員会等に提出する場合には、事務の効率性も考慮した上で入札参加希望者が特定可能な箇所をマスキングしたり、特定の職員以外が見ることのできないように管理を徹底したりすることとされているが、技術審査会等で使用する資料を作成するなどの業務(以下「技術審査業務」という。)を外部に発注する際の技術資料の取扱いは示されていない。
そこで、技術審査業務における技術資料のマスキング等の実施状況についてみたところ、東北地方整備局等4地方整備局の7事務所において、技術資料に添付された技術提案書についてマスキングを行わないまま業務の請負者へ貸与しており、請負者が技術提案書の入札参加希望者名を知り得る状況になっていて、情報漏えい防止の措置が十分に執られていないおそれのある状況が見受けられた。
国土交通省は、20年8月以降、工事請負契約書の違約金条項を改正し、公正取引委員会の課徴金納付命令の対象契約に加えて、同委員会が違反行為があったとした期間に違反行為者が落札した契約についても、請負代金額の10分の1に相当する額を違約金として請求することとしている。
そして、国土交通省は、25年7月26日に、前記の入札談合等関与行為等に係る違反行為者等に対して176契約に係る違約金計30億0626万余円を請求し、納付期限の同年8月14日までに120契約に係る違約金計21億7492万余円の納付を受けているが、残りの56契約に係る違約金計8億3133万余円は未納となっている。
また、違約金を請求した上記176契約のほかに、同年8月14日現在で違約金等の請求が未済となっているものが14契約ある。このうち、審判請求により課徴金納付命令が確定していないなどの5契約については、命令確定後に違約金の請求を行うこととしており、残りの9契約については、違約金条項が改正前のものであり、課徴金納付命令の対象とされていないため、今後、損害賠償の請求を検討することとしている。
前記3(3)のとおり、難易度の高い工事については技術力の高い入札参加者が多く落札するなど、総合評価落札方式は一定の効果を上げてきていると思料されるが、国土交通省は、同方式についての見直しを随時行っており、前記のとおり、25年3月には技術力評価等の考え方の見直しなどを行ったところである。
一方、前記の3(1)ウ、(2)ア、イ及び(4)アで記述した状況が見受けられたことなどや、工事の品質確保のために入札及び契約が適切に実施されなければならないことから、国土交通省において、次の点に留意して、総合評価落札方式をより有効に活用できるよう検討する必要がある。
本院としては、総合評価落札方式が、工事の品質確保のため、今後とも適切に実施される必要があることなどから、総合評価落札方式による入札及び契約の実施状況等について引き続き注視していくこととする。