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  • 第2 検査の結果

4 機構及び東京電力の決算の状況


機構は、原子力損害賠償支援機構の財務及び会計に関する命令(平成23年内閣府・文部科学省・経済産業省令第1号)第22条に基づき会計規程を定め、23年10月に主務大臣の承認を受けている。そして、機構は、同規程により財務諸表を作成している。

また、東京電力は、電気事業法第34条の規定に基づき制定された電気事業会計規則により財務諸表を作成している。

(1) 23年度決算

機構は、23年度の財務諸表を24年6月26日に主務大臣に提出し、同年6月29日に承認された。財務諸表のうち、貸借対照表及び損益計算書の要旨は図表4-1のとおりである。

図表4-1 機構の貸借対照表及び損益計算書の要旨(平成23年度)

貸借対照表
(単位:百万円)
(資産の部)
流動資産
現金及び預金 2,766
有価証券 9,998
未収金 998,483
その他 7
固定資産
資金援助事業資産
交付国債 3,419,678
有形固定資産 56
その他 6
資産合計 4,430,997
(負債の部)
流動負債
未払金 917,221
(うち資金交付金の未払額
未払国庫納付金 79,992
その他 104
固定負債
交付国債見返 3,419,678
その他 1
負債合計 4,416,997
(純資産の部)
資本金
政府出資金 7,000
民間出資金 7,000
純資産合計 14,000
負債及び純資産合計 4,430,997
損益計算書
(単位:百万円)
資金援助事業収入
一般負担金収入 81,500
交付国債受贈益 1,580,322
その他 266
経常収益合計 1,662,088
資金援助事業費
資金交付費 1,580,322
事業諸費 1,213
その他 559
経常費用合計 1,582,095
当期経常利益 79,992
税引前当期純利益 79,992
法人税等 0
当期純利益 79,992

国から機構に交付された国債5兆円に関して、貸借対照表及び損益計算書への計上の状況をみると、このうち23年度中に決定された資金交付の額1兆5803億2200万円については損益計算書の交付国債受贈益及び資金交付費に計上され、これ以外の3兆4196億7800万円については貸借対照表の資金援助事業資産と交付国債見返に両建てで計上されている。また、貸借対照表の未払金には、上記の資金交付の額のうち、23年度中に東京電力に支払われた6636億円を除く9167億2200万円が計上されている。

東京電力の平成23年度の財務諸表のうち、貸借対照表及び損益計算書の要旨は図表4-2のとおりである。

図表4-2 東京電力の貸借対照表及び損益計算書の要旨(平成23年度)

貸借対照表
(単位:百万円)
(資産の部)
固定資産
電気事業固定資産 7,440,562
附帯事業固定資産 49,208
事業外固定資産 6,965
固定資産仮勘定 882,115
核燃料 845,754
投資その他の資産
未収原子力損害賠償支援機構資金交付金 1,762,671
その他 2,032,638
流動資産
現金及び預金 1,202,251
その他 927,095
資産合計 15,149,263
(負債の部)
固定負債
社債 3,677,244
長期借入金 3,216,377
原子力損害賠償引当金 2,063,398
その他 3,318,758
流動負債
1年以内に期限到来の固定負債 919,919
短期借入金 440,250
その他 972,282
特別法上の引当金 13,552
負債合計 14,621,783
(純資産の部)
株主資本
資本金 900,975
資本剰余金 243,631
利益剰余金 ▲609,237
自己株式 ▲7,569
評価・換算差額等 ▲319
純資産合計 527,479
負債及び純資産合計 15,149,263
損益計算書
(単位:百万円)
営業収益 5,107,778
営業費用 5,426,954
営業利益 ▲319,176
営業外収益 76,572
営業外費用 165,755
当期経常利益 ▲408,359
特別法上の引当金引当 2,383
特別利益
原子力損害賠償支援機構資金交付金 2,426,271
その他 91,191
特別損失
災害特別損失 297,499
原子力損害賠償費 2,524,930
その他 42,712
税引前当期純利益 ▲758,423
法人税等(調整額含む) 0
当期純利益 ▲758,423

原子力損害の賠償のため機構から援助を受ける資金等に関し、貸借対照表及び損益計算書への計上の状況をみると、23年度中に行われた資金交付に係る資金援助の申込額2兆4262億7100万円が損益計算書に特別利益である原子力損害賠償支援機構資金交付金として計上されるとともに、23年度中に交付を受けた6636億円を除き年度末時点で未収となっている1兆7626億7100万円が貸借対照表に未収原子力損害賠償支援機構資金交付金として計上されている。

上記のとおり、機構の損益計算書に計上されている資金交付費1兆5803億2200万円と東京電力の損益計算書に計上されている原子力損害賠償支援機構資金交付金2兆4262億7100万円の間に8459億4900万円の開差があるのは、東京電力が24年3月29日に申し込んだ追加の資金交付の額について、資金援助の決定が行われていないとして機構が資金交付費に計上していないことによるものであるが、会計検査院が検査したところ、資金交付に係る資金援助の費用及び収益の認識及び計上に関して次のような状況となっていた。

ア 資金援助の決定に係る機構法の規定と機構における費用の認識及び計上

機構法は、第41条において、原子力事業者は、機構に資金援助を申し込むことができると規定している一方、第42条第1項において、機構は、運営委員会の議決を経て、資金援助を行うかどうか並びに当該資金援助を行う場合にあってはその内容及び額を決定しなければならないと規定している。また、第43条第1項において資金援助を行う旨の決定を受けた原子力事業者は、要賠償額の増加その他の事情により必要が生じた場合には、当該資金援助の内容又は額の変更の申込みをすることができると規定している一方、同条第3項において、機構は、運営委員会の議決を経て、当該申込みに係る資金援助の内容又は額の変更を行うかどうかを決定しなければならないと規定している。そして、第42条第2項において、機構は、同条第1項の規定による決定をしたときは、当該決定に係る事項を当該申込みを行った原子力事業者に通知するとともに、主務大臣に報告しなければならないと規定している(この規定は、資金援助の内容又は額の変更の決定について準用される。)。

また、第45条において、機構が資金援助を行う旨の決定をしようとする場合には、機構は、原子力事業者と共同して特別事業計画を作成し、主務大臣の認定を受けなければならない、第46条において、認定を受けた特別事業計画を変更する場合にも機構及び原子力事業者は、主務大臣の認定を受けなければならないと規定している。

このように、原子力事業者が資金援助の申込み又は資金援助の内容若しくは額の変更の申込みを行った段階では、資金援助が行われるかどうか並びにその内容及び額又は変更の申込みに係る変更が行われるかどうかについては決定されていない。

機構は、上記機構法の規定を踏まえて、23年度の損益計算書に、23年度中に資金援助の決定(変更の決定を含む。以下同じ。)を行った1兆5803億2200万円の範囲で資金援助事業費を計上したとしている。

イ 東京電力における収益の認識及び計上

東京電力は、23年9月30日以降、図表4-3のとおり資金交付に係る資金援助の申込み(変更の申込みを含む。以下同じ。)を行い、資金援助の申込みを行った日に資金交付の申込額に相当する収益が実現したものとして、24年3月29日までの23年度中に行った資金交付に係る資金援助の申込額2兆4262億7100万円を原子力損害賠償支援機構資金交付金として特別利益に計上する会計処理を行っている。

図表4-3 資金交付に係る資金援助の申込みと決定

(単位:百万円)

申込
回数
申込み 計画認定(変更)
申請年月日
決定
年月日 金額 (追加申込額) 年月日 金額
1 平成23. 9.30 543,638
23.10.28

23.11. 4

890,908
2 23.10.28 890,908 347,270
3 23.12.27 1,580,322 689,414 24. 2. 3 24. 2.13 1,580,322
4 24. 3.29 2,426,271 845,949 24. 4.27 24. 5. 9 2,426,271
5 24.12.27 3,123,079 696,808 25. 1.15 25. 2. 4 3,123,079
6 25. 5.31 3,789,334 666,255 25. 6. 6 25. 6.25 3,789,334
注(1)
資金援助の申込みの金額は、各申込みに当たり東京電力が機構に提出した申込書に記載されている「合理的に見積りが可能な額」又は「要賠償額」から賠償措置額1200億円を控除した額である。
注(2)
(追加申込額)は、直前の申込みの金額から増加した額である。
注(3)
第4回の申込みの際に、上記の資金交付のほかに東京電力が発行する株式の引受け(1兆円)についても合わせて申込みが行われており、当該株式の引受けに係る資金援助の決定も平成24年5月9日に行われている。

そして、東京電力は、初めて資金交付に係る資金援助の申込みを行った際に、次のような考え方を基に会計監査人と協議し、申込みを行った日に収益が実現したとする会計方針を採用することとしていた。

【原子力損害賠償支援機構資金交付金の収益認識についての東京電力の考え方】

勘案すべき事項・事実

① 機構法は、機構により原子力事業者が損害を賠償するために必要な資金の交付その他の業務を行うことにより、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保を図り、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に資することを目的としている。

② 東京電力は平成23年9月30日の取締役会において、機構法第41条第1項第1号に基づく申込みを決定し、同日、機構に対して申込みを行っている。

③ 東京電力は、同年8月30日に紛争審査会の中間指針を踏まえた賠償基準を公表し、これまでの「仮払」から「本賠償」に取り組むなど、今回の事故の当事者としての責任を真摯に受け止め、被害者の方々へ早期の賠償に努めている。

④ 東京電力は、同年10月28日に、機構法第41条第1項第1号の資金交付の申請に必要な書類を提出し、同日、機構においても、資金援助申請の承認及び資金援助の前提となる緊急特別事業計画の主務大臣への認定申請が行われた。その後、同年11月4日、主務大臣の緊急特別事業計画の認定及び資金交付の決定が行われた。

結論

東京電力は、①から④を総合的に勘案し、23年度第2四半期末時点で、東京電力が申請を行った金額については、実質的に、交付金を受け取る起因が発生していたものと考えることができるため、原子力損害賠償支援機構資金交付金については、「実現主義の原則」の範囲内において、23年度第2四半期末時点での収益認識が可能であると判断した。

また、東京電力は、「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」(平成23年5月13日関係閣僚会合決定)に、「原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応する支援組織(機構)を設ける。」、「機構は、原子力損害賠償のために資金が必要な原子力事業者に対し援助(資金の交付、資本充実等)を行う。援助には上限を設けず、必要があれば何度でも援助し、損害賠償、設備投資等のために必要とする金額のすべてを援助できるようにし、原子力事業者を債務超過にさせない。」などの具体的な支援の枠組みが含まれており、機構法は、同関係閣僚会合決定を受けて制定されたものであるから、上記関係閣僚会合決定の具体的な支援の枠組みが、機構法の法的枠組みとなっているとしている。

このような考え方の下に、東京電力は、23年9月30日に5436億3800万円の資金交付に係る資金援助の申込みをしたこと及び同年11月4日に申込額のとおり機構から資金援助の決定通知を受けていることなどをもって、23年度第2四半期報告書において当該資金援助の申込額を収益計上している。そして、東京電力は、申込みを行った日をもって収益計上するという会計方針について、上記の考え方を書面にして会計監査人に提出し、会計監査人から当該会計方針が妥当なものと認められたとしている。

しかし、資金援助の決定が行われていないのに 、「交付金を受け取る起因が発生していた」ことをもって「実現主義の原則」の範囲で収益の認識を行うこと、また、資金援助の決定が11月4日に行われていたことをもって第2四半期末の9月30日までに収益が実現していたと判断することについては、疑問があるとする見方もある。調査委員会が調査の実施に当たり活用した外部専門家の23年9月30日付けの財務・税務デュー・デリジェンス報告書においては、当時23年9月30日までに行われることが見込まれていた資金交付に係る資金援助の申込みについて、「資金援助収入の収益認識時期については、収益認識の客観性の高い支援機構からの資金援助決定通知が第3四半期以降になるため、原則としては第2四半期には認められない可能性が高く、引当金の積み増し分だけ、純資産が毀損するリスクがある」と指摘されている。

そして、資金交付に係る資金援助の申込みを行った日に申込額をもって収益を認識し、計上することは、機構法が、第42条第1項、第45条及び第46条において、機構が資金援助の決定をしようとする場合には機構と原子力事業者が共同で特別事業計画を作成し、主務大臣の認定を受けなければならないなどの手続を定めている趣旨と整合しないと考えられる。

したがって、東京電力においては、資金交付に係る資金援助の申込みを行った日に申込額をもって収益を認識し、計上することとする会計方針が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠し、また、機構法が資金援助の申込みから決定までの手続を定めている趣旨とも整合するとしていることについて、十分な説明を行うことが必要である。

なお、機構は、機構及び東京電力の23年度決算において、資金交付に係る資金援助の費用及び収益の認識及び計上に関して上記のように整合性が取れていない事態となっていることについて、「東電及び当機構の会計処理は、それぞれの会計方針に基づいて行われているものであり、個々の会計処理自体は適正になされているものと判断します。」としており、24年7月に東京電力の株式を取得して議決権の過半数を取得した後においても上記の判断に変わりはないとしている。

しかし、資金援助を受ける側の東京電力が資金交付に係る資金援助の申込みを行った日に収益を認識し、計上することとする会計方針が、前記の「東京電力の考え方」により妥当とされるのであれば、東京電力に資金援助を行う側の機構においても、機構の会計方針の妥当性について十分な説明を行う必要がある。

(2) 24年度決算

機構が25年6月19日に主務大臣に提出し、同年6月28日に承認された24年度の財務諸表のうち、貸借対照表及び損益計算書の要旨は図表4-4のとおりである。

図表4-4 機構の貸借対照表及び損益計算書の要旨(平成24年度)

貸借対照表
(単位:百万円)
(資産の部)
流動資産
現金及び預金 3,826
有価証券 8,003
未収金 992,604
その他 19
固定資産
資金援助事業資産
交付国債 1,876,921
原子力事業者株式 1,000,000
有形固定資産 54
その他 6
資産合計 3,881,437
(負債の部)
流動負債
短期借入金 1,000,000
未払金 891,922
(うち資金交付金の未払額
未払国庫納付金 97,322
その他 1,258
固定負債
交付国債見返 1,876,921
その他 13
負債合計 3,867,437
(純資産の部)
資本金
政府出資金 7,000
民間出資金 7,000
純資産合計 14,000
負債及び純資産合計 3,881,437
損益計算書
(単位:百万円)
資金援助事業収入
一般負担金収入 100,804
交付国債受贈益 1,542,757
その他 141
経常収益合計 1,643,702
資金援助事業費
資金交付費 1,542,757
事業諸費 1,300
その他 2,323
経常費用合計 1,546,380
当期経常利益 97,322
税引前当期純利益 97,322
法人税等 0
当期純利益 97,322

前記の23年度決算と同様に、国から機構に交付された国債5兆円に関して、貸借対照表及び損益計算書への計上の状況をみると、24年度に決定された資金交付の額1兆5427億5700万円については、損益計算書の交付国債受贈益及び資金交付費に計上され、この金額と23年度に決定された資金交付の額1兆5803億2200万円の合計3兆1230億7900万円を5兆円から控除した残額1兆8769億2100万円については、貸借対照表の資金援助事業資産及び交付国債見返に両建てで計上されている。また、貸借対照表の未払金には、上記の3兆1230億7900万円のうち24年度までに東京電力に支払われた2兆2313億円を除く8917億7900万円が計上されている。

東京電力の24年度の財務諸表のうち、貸借対照表及び損益計算書の要旨は図表4-5のとおりである。

図表4-5 東京電力の貸借対照表及び損益計算書の要旨(平成24年度)

貸借対照表
(単位:百万円)
(資産の部)
固定資産
電気事業固定資産 7,379,570
附帯事業固定資産 44,335
事業外固定資産 4,547
固定資産仮勘定 953,304
核燃料 807,639
投資その他の資産
未収原子力損害賠償支援機構資金交付金 891,779
その他 2,018,486
流動資産
現金及び預金 1,583,620
その他 936,488
資産合計 14,619,772
(負債の部)
固定負債
社債 3,768,108
長期借入金 2,980,428
原子力損害賠償引当金 1,765,716
その他 3,180,453
流動負債
1年以内に期限到来の固定負債 1,114,117
短期借入金 9,500
その他 964,918
特別法上の引当金 4,780
負債合計 13,788,023
(純資産の部)
株主資本
資本金 1,400,975
資本剰余金 743,621
利益剰余金 ▲1,303,618
自己株式 ▲7,565
評価・換算差額等 ▲1,664
純資産合計 831,749
負債及び純資産合計 14,619,772
損益計算書
(単位:百万円)
営業収益 5,769,462
営業費用 6,034,976
営業利益 ▲265,513
営業外収益 49,052
営業外費用 161,212
当期経常利益 ▲377,673
特別法上の引当金引当 ▲8,771
特別利益
原子力損害賠償支援機構資金交付金 696,808
その他 195,561
特別損失
災害特別損失 40,231
原子力損害賠償費 1,161,970
その他 15,582
税引前当期純利益 ▲694,316
法人税等(調整額含む) 64
当期純利益 ▲694,380

23年度と同様に、原子力損害の賠償のため機構から援助を受ける資金等に関し、貸借対照表及び損益計算書への計上の状況をみると、資金交付に係る資金援助の申込みが24年度中に行われた6968億0800万円が損益計算書に特別利益である原子力損害賠償支援機構資金交付金として計上されている。この6968億0800万円については、東京電力による資金援助の申込みと機構による資金援助の決定がいずれも24年度中に行われているため、24年度末までの累計の資金交付に係る資金援助の申込額と資金交付決定額は3兆1230億7900万円で同額となっている。しかし、前記23年度の損益計算書上の開差が24年度の損益計算書にも影響を与え、24年度の機構の損益計算書に計上されている資金交付費1兆5427億5700万円と東京電力の損益計算書に計上されている原子力損害賠償支援機構資金交付金6968億0800万円の間には8459億4900万円の開差がある。