【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
内閣官房及び内閣府本府における物品の管理等について
(平成28年10月27日付け 内閣総理大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
内閣官房は、内閣法(昭和22年法律第5号)に基づき、閣議事項の整理その他内閣の庶務、内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務等をつかさどっており、その組織については、その時々の政策課題に応じ、柔軟かつ弾力的な運営が可能な仕組みとすることとなっている。
また、内閣官房は、組織の新設・統廃合に伴い、総理大臣官邸及び内閣府本府庁舎だけでなく、民間のビルを含む他の多くの建物に点在している執務室をその都度移転したり、平成26年3月の中央合同庁舎第8号館の完成により、多くの執務室を同館へ移転したりするなどしている。
内閣府本府は、内閣府設置法(平成11年法律第89号)に基づき、男女共同参画社会の形成の促進、災害からの国民の保護等に関する政府全体の見地からの関係行政機関の連携の確保等を図るとともに、内閣総理大臣が政府全体の見地から管理することがふさわしい行政事務の円滑な遂行を図ることを任務としている。そして、これらの所掌事務を遂行するために、内部部局等に加えて、重要政策に関する会議、審議会等、施設等機関、特別の機関及び地方支分部局が設置されている。
また、内閣府本府は、組織の新設・統廃合を頻繁に行っており、26年10月に、原子力防災に係る政府全体の総合調整を担当するために、政策統括官が新たに設置されたり、27年4月に、子ども・子育て支援新制度の施行により厚生労働省の一部の事務が内閣府本府に移管されたりなどしており、それらに伴い、併任発令された他省庁の職員等が多く在籍している。
さらに、内閣官房と同様に、組織の新設・統廃合に伴い、執務室の移転等が行われており、また、災害からの国民の保護に関する業務では、内閣府本府が直接管理する建物以外に、地方公共団体の庁舎、電力、ガス会社等の指定公共機関の建物等に同業務に必要となる物品を設置しており、東日本大震災以降は、設置箇所を更に増加させている。
国の物品については、物品管理法(昭和31年法律第113号)等に基づき、各省各庁の長が物品の取得、保管、供用及び処分(以下、これらを合わせて「管理」という。)を行い、その管理に関する事務の委任を受けた当該各省各庁所属の職員等(以下「物品管理官」という。)が管理事務を行うこととなっている。また、物品管理官は、必要があるときは、その所属する各省各庁所属の職員に、物品の供用に関する事務を委任することができる(以下、物品の供用に関する事務の委任を受けた職員を「物品供用官」といい、物品管理官と合わせて「物品管理官等」という。)こととなっている。
物品管理官は、物品管理簿を、また、物品供用官は、物品供用簿(以下、物品管理簿と合わせて「物品管理簿等」という。)を、それぞれ備えて、その管理する物品の分類、品目ごとに、物品の増減等の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項等を記録することとなっており、財務大臣が指定する取得価格が50万円以上の機械、器具等(以下「重要物品」という。)については、物品管理簿に、その価格も記録しなければならないこととなっている。
また、物品を使用する職員は、物品を使用する必要がなくなった際には、その旨を物品供用官に通知しなければならず、物品供用官は、供用中の物品で供用の必要がないものなどがあると認めるときは、その旨を物品管理官に報告することとなっており、報告を受けるなどした物品管理官は、物品供用官に対して、当該物品の返納を命じなければならないこととなっている。そして、物品管理官は、供用及び処分の必要がない物品について、他の物品管理官への管理換等により適切な処理をすることができないときなどは、これらの物品について不用決定をして廃棄等することができることとなっており、重要物品について不用決定をする場合は、あらかじめ各省各庁の長等の承認を受けなければならないこととなっている。
各省各庁の長は、定期的に、及び物品管理官等が交替する場合等は随時に、その所管に属する物品の管理について検査しなければならないこととなっている(以下、この検査を「物品検査」という。)。
また、各省各庁の長は、重要物品について、毎会計年度末の物品管理簿の記録内容に基づいて、物品増減及び現在額報告書(以下「物品報告書」という。)を作成することとなっており、物品報告書に基づいた物品の現在額等は内閣から国会に報告されている。
内閣総理大臣は、内閣官房においては内閣官房内閣参事官等に、また、内閣府本府においては内閣府大臣官房参事官等に、それぞれの所管に属する物品の管理に関する事務を委任し、物品管理官として物品を管理させている。物品管理官は、必要があるときは、物品供用官に物品の供用に関する事務を委任している。
そして、内閣官房及び内閣府本府においては、それぞれの業務を一体的に行うなどのために、各組織において、会計部門等の多くの職員が相互に併任発令されていたり、共通の会計規程等が定められたりしている。また、内閣府本府の一部の物品管理官等は、地方公共団体の庁舎等、内閣府本府が直接管理する建物以外の場所に設置されている物品の管理も行っている。
内閣官房及び内閣府本府においては、物品供用官は、供用の必要がないものなどがあると認めるときは、物品管理官に供用不要品等報告書を提出することとなっている。そして、自らが直接管理する建物以外に設置された物品を多数管理している組織等においては、物品供用官は当該物品を直接確認することはできないことなどから、物品の設置、使用等を担当している職員(以下「業務担当職員」という。)は、供用の必要がなくなったときや、物品検査のときも含めて適時に供用場所の変更等、物品の状況を把握した上で、物品供用官に対して、使用している物品に関する必要な情報を提供するなどの必要があるが、内閣官房及び内閣府本府において、当該手続は特段定められていない。
また、組織の新設・統廃合により移転をする場合には、物品の異動に伴い、新設、移設、廃棄等が生ずることが想定され、物品検査を行うなどして、物品管理簿等への記載が適切に行われているかを確認することが重要であるが、内閣官房及び内閣府本府において、組織の新設・統廃合により移転をする際に、物品検査を行うなどの手続は特段定められていない。
そして、物品の取得の際は、業務担当職員が経費伺決裁(取得する物品の件名、購入理由、概算金額等が記載された文書)を会計部門に提出して、その決裁後、物品供用官が物品請求書を物品管理官に提出することとなっている。物品管理官は経費伺決裁又は物品請求書の内容に基づき、会計部門に対して、取得のために必要な措置を請求し、会計部門は物品の購入等に関する契約手続を行い物品を調達する。物品管理官は、会計部門から物品の取得に関する通知を受けた後、物品請求書の内容に基づいて物品管理簿に記録する。その後、物品供用官へ受領命令を行い、これを受けた物品供用官は、物品供用簿に記録した上で、供用することとなっている。
上記の物品請求書を提出するためには、物品供用官が業務担当職員から取得する物品の分類、品目等の必要な情報を入手し、又は、業務担当職員が物品供用官にこれらの情報を提供する必要があるが、内閣官房及び内閣府本府において、当該手続は特段定められていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
前記のとおり、重要物品については、物品管理簿にその価格も記録しなければならないこととなっており、物品管理簿の記録内容に基づいて作成された物品報告書により、物品の現在額等は国会に報告されている。
また、内閣官房及び内閣府本府においては、前記のとおり、組織の新設・統廃合が多く、それに伴い、執務室を移転するなどしている。さらに、内閣府本府においては、重要な政策課題の多くが府省横断的な対応を要することから、近年、多岐にわたる業務を集中して行うようになってきており、その中には、東日本大震災をはじめとする災害への対処を行う災害からの国民の保護に関する業務も含まれていて、内閣府本府が直接管理する建物以外にも、地方公共団体の庁舎、電力、ガス会社等の指定公共機関の建物等に同業務に必要となる物品が多数設置されている状況となっている。
そこで、本院は、正確性、合規性等の観点から、業務担当職員から物品供用官に対して必要な情報が提供されるなどして、物品の管理が適切に行われているか、物品の異動が物品管理簿等に適切に記録されているか、物品検査が適切に行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、内閣官房の所管に属する26年度末の重要物品729個(価格計1056億7577万余円)及び内閣府本府の所管に属する26年度末の重要物品2,923個(価格計182億0418万余円)を対象として、物品管理簿等と現物を照合するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
内閣官房 重要物品 26個、価格 3468万余円
内閣府本府 重要物品201個、価格64億3788万余円
これらは、重要物品として物品管理簿に記録され、保管中又は供用中とされているが、廃棄された物品が物品管理簿等に記録されたままとなっていたものや、現物の確認ができなかったものである(表参照)。
これらについては、物品供用官が、業務担当職員から重要物品の供用場所の変更等の物品に関する必要な情報を入手していなかったり、業務担当職員が、物品供用官に供用の必要がなくなったことや供用場所を変更したことなどの情報を適時に提供していなかったりなどしていた。
また、内閣府本府において、組織の新設・統廃合による移転に際して、物品が廃棄等されているが、当該移転の機会を捉えて、物品検査は行われておらず、物品管理簿等の記録内容と現物との照合が適切に行われていなかった。
このため、返納及び不用決定の承認の手続が行われておらず、不用決定をせずに廃棄された物品が物品管理簿等に記録されたままとなっていたり、現物が確認できないばかりか、その原因や現物が確認できなくなった時期が不明となっていたりなどしていた。
廃棄された物品が物品管理簿等に記録されたままとなっていたものについて、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
内閣府本府の内部部局等である政策統括官(防災担当)は、平成17年3月に、大規模災害発生時における通信手段の確保等のために、無線通信網を構成する機器の一つである複合型多重端局装置17台(取得価格計1219万余円)を取得し、防衛省(19年1月8日以前は内閣府防衛庁)等に設置していた。そして、21年3月から24年3月までの間に当該機器の更新を行った際、更新前の機器については、更新後も部品等の利用が考えられることからすぐに廃棄はせず、災害対策本部の予備施設である防災予備施設(東京都立川市所在)に一時的に保管していた。当該機器については、26年5月に政策統括官(防災担当)が中央合同庁舎第8号館へ移転することに伴って発生した廃棄すべき物品と合わせて、廃棄が行われた。
しかし、当該機器の設置、使用等を担当する政策統括官(防災担当)災害緊急事態対処担当の業務担当職員が、同施設に当該機器を一時的に保管する際、この情報を物品供用官に提供していなかったことから、物品供用官は当該機器の状況を把握できていなかった。このため、当該機器が廃棄される際、物品供用官は、物品管理官に供用不要品等報告書を提出することができず、物品管理官の不用決定を受けずに廃棄された物品が物品管理簿等に記録されたままとなっていた。
内閣府本府 重要物品57個、価格4億9734万余円
これらは、購入等により取得した重要物品について、取得時に物品管理法等に基づく手続等がなされていなかったことから、物品管理簿等に記録されていなかったものである(表参照)。
これらについては、業務担当職員から会計部門へ経費伺決裁は提出されており、契約手続は行われていたものの、業務担当職員が、物品供用官に必要な情報を提供していなかったり、物品供用官が、業務担当職員から必要な情報を入手していなかったりなどしていたため、物品供用官から物品管理官に対して物品請求書が提出されておらず、取得した重要物品が物品管理簿等に記録されていなかった。
また、物品検査において、重要物品が内閣府本府が直接管理する建物以外に設置されているなどしている中で、物品供用官が、業務担当職員から必要な情報を入手していなかったり、業務担当職員が、物品供用官に必要な情報を提供していなかったりなどしたため、物品管理簿等の記録内容と現物との照合ができておらず、物品検査が適切に行われていなかった。
このとおり、内閣官房及び内閣府本府において、物品の管理が適正を欠いていて、物品管理簿等及び物品報告書が重要物品の現況を反映した正確なものとなっていない状況となっていた。
表 内閣官房及び内閣府本府における重要物品の数量、取得価格及び検査の結果
組織 | 物品管理官 | 平成26年度末の重要物品 | 取得した重要物品が物品管理簿等に記録されていないもの
(2) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
うち物品管理簿等に記録されている重要物品の現物が確認できないなどのもの
(1) |
|||||||
数量 | 取得価格 | 数量 | 取得価格 | 数量 | 取得価格 | ||
内閣官房 | 会計担当内閣参事官 | 228 | 10億3429 | 26 | 3468 | ― | ― |
内閣衛星情報センター管理部長 | 501 | 1046億4148 | ― | ― | ― | ― | |
内閣官房 計 | 729 | 1056億7577 | 26 | 3468 | ― | ― | |
内閣府本府 | 内閣府大臣官房会計担当参事官 | 2,749 | 175億7695 | 200 | 64億3044 | 57 | 4億9734 |
政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官 | 6 | 819 | ― | ― | ― | ― | |
経済社会総合研究所次長 | 3 | 227 | ― | ― | ― | ― | |
迎賓館庶務課長 | 83 | 4億3608 | ― | ― | ― | ― | |
国際平和協力本部事務局長 | 4 | 791 | ― | ― | ― | ― | |
日本学術会議事務局管理課長 | 4 | 669 | ― | ― | ― | ― | |
沖縄総合事務局総務部長 | 64 | 1億4608 | 1 | 744 | ― | ― | |
沖縄総合事務局開発建設部長 | 10 | 1996 | ― | ― | ― | ― | |
内閣府本府 計 | 2,923 | 182億0418 | 201 | 64億3788 | 57 | 4億9734 |
(是正及び是正改善を必要とする事態)
内閣官房及び内閣府本府において、物品管理簿等に記録されている重要物品の現物が確認できなかったり、取得した重要物品が物品管理簿等に記録されていなかったりするなど、物品の管理が適正を欠いていて、物品管理簿等及び物品報告書が重要物品の現況を反映した正確なものとなっていないなどの事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
物品管理簿については、その記録内容に基づいて、毎年度、物品報告書が作成され、物品の現在額等が内閣から国会に報告されていて、国民に対して重要物品の現況を明らかにするという性格を有するものとなっており、物品管理法等に基づき、正確に物品管理簿等に記録することは、極めて重要である。
特に、内閣府本府は、内閣が取り組もうとする政策課題に、より機動的に対応するため、組織の新設・統廃合及びそれに伴う執務室の移転が多く、併任発令された他省庁の職員等が多く在籍している。また、内閣府本府が直接管理する建物以外に多数の物品が設置されている。このような状況の中で、物品について適正かつ効率的な供用その他良好な管理を図る必要がある。
ついては、内閣官房及び内閣府本府において、その所管に属する物品について、適切な管理が行われるとともに、物品の異動が物品管理簿等に適切に記録されるよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。