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(5) 施設改修等支援事業の実施に当たり、事業により改修整備等を行った加工流通施設について改善計画を策定させるなどの指導を行ったり、事業主体に対して実施計画の策定段階における調査・検討を十分行うよう周知したり、実施計画のより効果的な審査を行うための方策を検討したりすることなどにより、HACCPの認定が取得されるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)水産庁 (項)漁村振興対策費
部局等
水産庁
補助の根拠
予算補助
補助事業者
事業主体
21会社等
補助事業
HACCP対応のための施設改修等支援事業
補助事業の概要
輸出拡大を目指す加工流通業者が行う輸出先国のHACCP基準を満たす施設への改修整備に要する経費等について補助するもの
認定予定時期から1年以上を経過しているのに施設認定が取得されていない事業に係る事業費
21事業 37億2282万余円(平成25年度~27年度)
上記に対する国庫補助金相当額
17億7589万円

【改善の処置を要求したものの全文】

HACCP対応のための施設改修等支援事業における施設認定の取得状況について

(平成29年10月30日付け 水産庁長官宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 補助事業等の概要

(1) HACCP対応のための施設改修等支援事業の概要

国は、水産基本法(平成13年法律第89号)に基づき、水産に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、水産基本計画(平成24年3月閣議決定)を定めており、この水産基本計画において、世界的に水産物の需要が高まる中、海外市場を積極的に開拓していくことが必要であり、衛生証明を求める輸出先国が増加するなど安全に対する要求が高まっている状況を受けて、水産物の品質管理の高度化を進めていくことなどが重要であるとしている。

米国、欧州連合等への水産物の輸出に当たっては、これらの輸出先国等が輸入する水産物についてHACCP(注1)を取り入れた衛生管理を行うことを義務付けており、我が国において輸出しようとする水産物を取り扱う水産加工・流通施設(以下「加工流通施設」という。)については、その仕様等が輸出先国等の求めるHACCPを取り入れた衛生管理基準(以下「HACCP基準」という。)を満たしている旨の認定(以下「施設認定」という。)を認定機関(注2)から取得していることが求められている。

このため、貴庁は、平成25年度から、水産物の輸出を拡大することを目的として、輸出拡大を目指す水産加工・流通業者(以下「加工流通業者」という。)がHACCP基準を満たすために行う加工流通施設の改修整備等(以下「施設改修等支援事業」という。)に対して補助金を交付しており、28年度までの補助金交付額は計77億9842万余円となっている。

HACCP対応のための施設改修等支援事業実施要綱(平成25年24水漁第1678号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等によれば、貴庁は、施設改修等支援事業の実施に当たり、公募により選定された者(以下「事業主体」という。)に対して、施設認定の取得を予定している時期(以下「認定予定時期」という。)等を記載した事業実施計画(以下「実施計画」という。)に改修整備等を行おうとする施設の詳細資料等を添付して提出させ、これを審査することとされている。実施計画の審査に当たっては、輸出拡大のために加工流通施設の改修整備等をする場合であって、当該改修整備等により新たに施設認定の取得が見込まれる場合に、事業の採択基準を満たすものとしてこれを承認することとされている。

そして、実施計画の承認を得た事業主体は、加工流通施設の床面や側壁等を清潔な状態に保つために清掃が容易となるように改修したり、温度上昇による細菌の繁殖を防止するために作業場に空調設備を増設したりするなどの改修整備等を行っている。

なお、事業主体は、施設改修等支援事業の実施に当たり、必要に応じて、一般社団法人大日本水産会や都道府県等の機関に所属する品質・衛生管理に関する知見を有する専門家(以下「品質・衛生管理専門家」という。)の助言・指導を受けている。

また、実施要綱等によれば、貴庁は、事業主体に対して、改修整備等を行った加工流通施設の利用状況や施設認定の取得の状況、施設認定が取得されていない場合の取得に向けた検討内容等について、事業完了年度の翌年度から5年間、毎年、利用状況等報告書を提出させるとともに、施設認定が取得されていない場合等には、改善計画を策定させるなどの指導を行うことができることとされている。

(注1)
HACCP  食品の全ての製造工程で、あらかじめ食中毒等の危害を予測し、危害防止につながるポイントで継続的に監視・是正することにより、問題のある製品の出荷を未然に防止する管理手法
(注2)
認定機関  施設認定を行う機関は輸出先国等により異なり、米国については、一般社団法人大日本水産会、都道府県、政令指定都市等の機関、欧州連合については、貴庁、都道府県、政令指定都市等の機関となっている。

(2) 施設認定の取得の概要

事業主体は、施設改修等支援事業により加工流通施設の改修整備等を行って、当該施設の仕様をHACCP基準を満たすものとするとともに、製造工程における危害を予測して、危害発生の要因となる微生物による汚染や異物混入等を防止するための衛生管理手順を定めた文書等の施設認定の取得に必要な文書(以下「HACCP文書」という。)を整備したり、従業員に対して教育を行ったりするなどして、加工流通施設においてHACCPを取り入れた高度な衛生管理を行うための体制(以下「HACCP体制」という。)を確立して、認定機関の中から任意に選択したものに施設認定の取得のための申請を行うこととなっている。

申請を受けた認定機関は、申請内容について審査を行い、適当と認められた場合に当該施設について施設認定を行うこととなる。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、事業主体において認定予定時期までに施設認定が取得されているか、施設認定が取得されていない場合に貴庁は事業主体に対して十分な指導を行っているかなどに着眼して、施設認定については、申請から取得までに審査のため一定の期間を要することを踏まえて、認定予定時期を記載した実施計画が承認され、25年度から27年度までの間に施設改修等支援事業を実施した66事業主体の72事業(事業費計106億0445万余円、国庫補助金交付額計49億3755万余円)を対象に検査した。

検査に当たっては、貴庁及び47事業を実施した46事業主体において、実施計画、利用状況等報告書等の関係書類や現地を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、上記66事業主体の72事業について、各事業主体から調書等の提出を受けて、その内容を分析し確認するなどの方法により検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 施設認定の取得状況

72事業における施設認定の取得状況についてみたところ、表1のとおり、認定予定時期までに施設認定が取得されていたものは12事業(72事業の16.6%)となっていて、残りの60事業は認定予定時期までに施設認定が取得されていなかった。

そして、上記60事業のうち29事業は、29年3月末時点で施設認定が取得されておらず、このうち21事業(同29.1%、事業費計37億2282万余円、国庫補助金交付額計17億7589万余円)は認定予定時期から1年以上が経過しており、中には2年を超えているものも見受けられた。

表1 認定予定時期における施設認定の取得状況等

施設認定の取得状況 認定予定時期における施設認定の取得状況等
認定予定時期までに取得したもの 認定予定時期までに取得していないもの
  平成29年3月末までに取得したもの 29年3月末時点で未取得のもの
  認定予定時期からの経過期間
1年未満 1年以上
2年未満
2年以上
3年未満
事業数 12 60 31 29 8 13 8 72
割合(%) 16.6 83.3 43.0 40.2 11.1 18.0 11.1 100.0
(注)
割合については、表示単位未満を切り捨てているため、合計しても100%にならない。

そこで、上記の21事業について、施設認定が取得されていない要因をみたところ、次のとおりとなっていた。

ア 事業主体が行った改修整備等ではHACCP基準を満たすことができないもの

21事業のうち8事業(21事業の38.0%、8事業主体、事業費計14億1417万余円、国庫補助金交付額計6億9700万余円)については、事業主体において施設認定の取得のために必要となる加工流通施設の改修整備等についての調査・検討が十分でなかったため、実施計画提出の際に行うこととしていた改修整備等では、加工流通施設の仕様がHACCP基準を満たすことができなかった。そして、事業完了後に更なる改修整備が必要となることが判明したが、これに係る資金の調達が困難であるなどとして、追加の改修整備を実施していなかった。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

株式会社大一奈村魚問屋(千葉県銚子市所在)は、平成26年度に施設改修等支援事業を事業費2億9841万余円(国庫補助金交付額1億4419万余円)で実施し、26年12月に完了している。同社は、認定予定時期を27年12月としていたが、事業完了後の同年1月に品質・衛生管理専門家の指導を受けた際、生産ラインにおける開口部を外部と区画するために、外壁等の更なる改修が必要であることが判明した。しかし、これに必要な資金の調達が困難であるとして、追加の改修を実施しておらず、事業完了後の加工流通施設の仕様がHACCP基準を満たしていないため、29年3月末時点においても施設認定を取得できない状況となっていた。

イ HACCP体制を確立できていないもの

21事業のうち19事業(同90.4%、19事業主体、事業費計33億6748万余円、国庫補助金交付額計16億0830万余円)については、事業主体において、実施計画の策定に当たりHACCP体制の確立方法についての調査・検討が十分でなかったため、HACCP文書を整備したり、従業員に対する教育を実施したりすることに想定よりも時間を要しているなどとして、HACCP体制を確立できていなかった。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

北海食品株式会社(北海道釧路市所在)は、平成26年度に施設改修等支援事業を事業費3億7592万円(国庫補助金交付額1億8796万円)で実施し、27年3月に完了している。同社は、認定予定時期を同年3月としていたが、HACCP体制の確立方法についての事前の調査・検討が十分でなかったため、製品の仕様書等のHACCP文書を整備したり、従業員に対する衛生管理に係る教育を実施したりすることに想定よりも時間を要していて、HACCP体制を確立しておらず、29年3月末時点においても施設認定を取得できない状況となっていた。

なお、上記ア及びイの要因が重複しているものが6事業(6事業主体、事業費計10億5883万余円、国庫補助金交付額計5億2941万余円)ある。

前記のとおり、貴庁は、事業主体に提出させた実施計画を審査し、施設認定の取得が見込まれる場合に事業を採択することとしているが、以上のように、施設改修等支援事業を実施した多くの加工流通施設について、施設認定が取得されていないなどの状況が見受けられた。

(2) 実施計画の策定段階における施設認定の取得に向けた取組状況

(1)のとおり、実施計画の策定段階において加工流通施設の改修整備等やHACCP体制の確立方法についての調査・検討が十分でなかったことが、施設認定が取得されていない要因となっていたことから、前記の72事業について、事業主体の実施計画の策定段階における品質・衛生管理専門家の活用状況をみたところ、表2のとおり、品質・衛生管理専門家を活用していた44事業のうち31事業(44事業の70.4%)においては施設認定が取得されていた。他方で、品質・衛生管理専門家を活用していなかった28事業のうち施設認定が取得されていたものは12事業(28事業の42.8%)となっていて、16事業(同57.1%)は施設認定の取得には至っていなかった。

表2 実施計画の策定段階における品質・衛生管理専門家の活用状況

品質・衛生管理専門家の活用状況 施設認定取得済み 施設認定未取得
活用していた 事業数 31 13 44
割合(%) 70.4 29.5 100.0
活用していなかった 事業数 12 16 28
割合(%) 42.8 57.1 100.0
事業数 43 29 72
(注)
割合については、表示単位未満を切り捨てているため、合計しても100%にならない。

上記について、実施計画の策定に当たり、品質・衛生管理専門家を活用して施設認定が取得されていた参考事例を示すと次のとおりである。

<参考事例>

極洋食品株式会社(宮城県塩竈市所在)は、平成27年度に同社の八戸工場(青森県八戸市所在)の改修を施設改修等支援事業により事業費3000万余円(国庫補助金交付額1500万余円)で実施し、27年8月に完了している。同社は、加工流通施設の仕様がHACCP基準を満たすために必要となる改修の内容やHACCP体制の確立方法について、事業実施前に品質・衛生管理専門家から複数回にわたり指導を受けており、これらの指導内容に基づき凍結庫の床面等を改修するなどの実施計画を策定し、これに基づき改修を実施するとともに、衛生管理手順を定めた文書の整備等に事業実施前から取り組んでいた。

そして、同社は、認定予定時期を同年8月下旬としていたところ、ほぼ実施計画どおりの同年9月上旬に施設認定を取得していた。

このように、施設改修等支援事業において、実施計画の策定段階で、品質・衛生管理専門家を活用することは、事業完了後に、施設認定を取得するために効果的であると認められる。

(3) 事業完了後の事業主体に対する指導等の状況

貴庁は、前記のとおり、事業完了年度の翌年度から5年間、毎年、事業主体に対して施設認定の取得状況等を記載した利用状況等報告書を提出させることとしている。そこで、前記の21事業に係る利用状況等報告書の内容についてみたところ、5事業については、認定予定時期から1年以上を経過しても施設認定が取得されていないのに、その要因及びそれを解決するための方策が具体的に記載されておらず、貴庁は事業主体に対して指導を行っていく上で参考となる情報を把握できていなかった。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

株式会社長万部北勝水産(北海道山越郡長万部町所在)は、平成26年度に施設改修等支援事業を事業費5億2500万円(国庫補助金交付額2億6250万円)で実施し、27年3月に完了している。その後、同年5月に品質・衛生管理専門家の指導を受けた際、従業員の加工流通施設内での動線を確保するための通路を新設するなどの更なる改修が必要であることが判明したが、28年5月に提出された利用状況等報告書をみたところ、上記の改修が必要であることが記載されていなかった。なお、同社は、認定予定時期を27年12月としていたが、追加の改修を実施しておらず、加工流通施設の仕様がHACCP基準を満たしていないため、29年3月末時点においても施設認定を取得できない状況となっていた。

また、施設認定が取得されていない場合等には事業主体に対して改善計画を策定させるなどの指導を行うことができることとなっているにもかかわらず、改善計画を策定させているものはなかった。

そこで、貴庁が事業主体に対して改善計画を策定させる場合の基準についてみたところ、前記のとおり、施設認定が取得されていない場合等には、改善計画を策定させるなどの指導を行うことができるとしているのみで、改善計画を策定させる場合の基準や策定を求める時期等が具体的に定められていなかった。

(改善を必要とする事態)

施設改修等支援事業の実施に当たり、加工流通施設の仕様がHACCP基準を満たすものとなっていなかったり、HACCP体制を確立できていなかったりしていて、認定予定時期から1年以上を経過しても施設認定が取得されていない事態、また、利用状況等報告書に施設認定が取得されていない要因及びそれを解決するための方策を具体的に記載させていなかったり、改善計画を策定させる場合の基準等を具体的に定めていなかったりしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、事業主体において、事業完了後、施設認定の取得に向けた取組が十分でなかったり、実施計画の策定に当たり、施設認定の取得に向けた調査・検討を十分に行っていなかったりしていることにもよるが、貴庁において、次のことなどによると認められる。

  • ア 事業主体に対して、事業完了後、施設認定の取得に向けた取組を着実に行うことについての指導が十分でないこと
  • イ 事業主体に対して事業完了後に指導を行うに当たり、利用状況等報告書に認定予定時期を超過しているのに施設認定が取得されていない要因及びそれを解決するための方策を具体的に記載させることとしていなかったり、改善計画を策定させる場合の基準等を具体的に定めていなかったりしていること
  • ウ 事業主体に対して実施計画の策定に当たり、施設認定の取得に向けた調査・検討を十分に行わせていないこと
  • エ 事業の採択に当たり、実施計画のより効果的な審査を行うための方策を検討していないこと

3 本院が要求する改善の処置

貴庁は、今後も、水産物の輸出拡大を目指す加工流通業者を支援することにしている。

ついては、貴庁において、施設改修等支援事業の実施に当たり、加工流通施設について施設認定が取得され、もって施設改修等支援事業の事業効果が十分に発現されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 事業主体に対して、施設改修等支援事業により改修整備等を行った加工流通施設について更なる改修整備の実施及びHACCP体制の確立に向けた取組を着実に行い、施設認定を取得するよう、必要に応じて改善計画を策定させるなどして指導すること
  • イ 事業完了後の指導を十分に行えるよう、利用状況等報告書に認定予定時期を超過しているのに施設認定が取得されていない要因及びそれを解決するための方策を具体的に記載させることとすること、また、改善計画を策定させる場合の基準等を具体的に定めること
  • ウ 事業主体に対して、実施計画の策定に当たっては、品質・衛生管理専門家の活用が施設認定を取得するために効果的であることや、品質・衛生管理専門家を活用するなどして施設認定の取得に向けた調査・検討を十分に行うことを周知すること
  • エ 事業の採択に当たり、実施計画のより効果的な審査を行うための方策を検討すること