ページトップ
  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(3) 受動喫煙防止対策助成事業について、労働局に対して、事業実績報告書の審査の際に領収書の金額が正しいことを証する書面を事業主から提出させるなどしてその内容を十分に確認させるとともに、喫煙室等の運用を適切に行うことなどについて事業主に対して周知徹底を図ったり、喫煙室等の設置後に実効性のある追跡調査を実施したりすることを指示して、助成金の交付が適正に行われるなどするよう改善させたもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(労災勘定) (項)労働安全衛生対策費
部局等
厚生労働本省、38労働局
交付の根拠
予算補助
受動喫煙防止対策助成事業の概要
事業場内受動喫煙を防止するために喫煙室等の設置等を行った中小企業事業主に対して助成金を交付するもの
検査の対象とした事業件数及びこれに対する助成金交付額
2,463件 25億2509万余円(平成25年度~29年度)
助成金が過大に交付されていた事業件数及び過大となっていた助成金相当額(1)
33件 624万円(平成25年度~29年度)
喫煙室等の運用が適切に行われていなかった事業件数及び当該喫煙室等に係る助成金相当額(2)
66件 7086万円(平成25年度~29年度)
喫煙室等を無断で譲渡するなどしていた事業件数及び当該喫煙室等の財産処分時点の残存価額(3)
31件 1240万円(平成25年度~28年度)
(1)、(2)及び(3)の計
130件 8950万円(平成25年度~29年度)

1 受動喫煙防止対策助成事業の概要等

(1) 受動喫煙防止対策助成事業の概要

厚生労働省は、中小企業事業主が、その事業場の室内及びこれに準ずる環境において、労働者が他人のたばこの煙を吸わされること(以下「事業場内受動喫煙」という。)を防止するための対策を推進することを目的として、平成23年度から、受動喫煙防止対策助成金交付要綱(平成23年厚生労働省発基安0916第1号)、受動喫煙防止対策助成金交付要領(平成23年基発0916第6号。以下「交付要領」という。)等(以下、これらを合わせて「交付要綱等」という。)に基づき、受動喫煙防止対策助成事業(以下「助成事業」という。)を実施している。助成事業は、事業場内受動喫煙を防止するために喫煙室、屋外喫煙所等(以下、これらを合わせて「喫煙室等」という。)の設置等(以下「助成対象事業」という。)を行った中小企業事業主(以下「事業主」という。)に対して、受動喫煙防止対策助成金(以下「助成金」という。)を交付するものである。

交付要綱等によれば、助成事業の対象となる喫煙室及び屋外喫煙所は、喫煙のための専用の室等とされており、当該室等で飲食等の喫煙以外のことを行うことは認められないとされている。また、助成対象経費については喫煙室等の設置等に係る経費のうち工費、設備費等とされており、助成金の交付額はこれら経費の実支出額の合計額に補助率2分の1を乗じて得た額とするなどとされている。

(2) 事業実績報告書の審査等

交付要綱等によれば、事業主は助成対象事業を完了したときは助成対象経費の支払に係る領収書の写しなどを添付した事業実績報告書を都道府県労働局長(以下「労働局長」という。)に提出することとされており、労働局長は、事業実績報告書に記載された助成対象経費と領収書の金額との整合がとれているかを確認するなど、提出された事業実績報告書の審査等を行うこととされている。

また、事業主は、助成対象事業に係る収入及び支出についての証拠書類を整理しておくほか、事業実績報告書等の根拠となる詳細な資料(以下、上記の証拠書類と合わせて「証拠書類等」という。)について、助成対象事業の完了した日の属する年度(以下「事業完了年度」という。)の終了後5年間を経過するまで、これを保存しなければならないとされている。

(3) 助成対象事業完了後の喫煙室等の取扱い

交付要綱等によれば、事業主は、助成対象事業により取得するなどした喫煙室等の財産については、助成対象事業の完了後においても、助成金交付の目的に従ってその効率的な運用を図らなければならないなどとされている。また、事業主は、助成対象事業において取得した不動産及びその従物並びに助成対象事業において取得するなどした価格が30万円以上の機械及び重要な器具については、事業完了年度の終了後5年間(以下「処分制限期間」という。)を経過するまでに、助成金交付の目的に反して使用し、譲渡し、取り壊すなど(以下、これらの行為を「財産処分」という。)する場合は、労働局長の承認を受けることとされている。そして、労働局長は、財産処分の承認に当たっては、財産処分を行う喫煙室等に係る助成金額に、処分制限期間に対する処分制限期間から経過年数を差し引いた年数の割合を乗じて得た額(以下「残存価額」という。)を国庫納付する条件を付すことなどとなっている。

また、交付要綱等によれば、都道府県労働局(以下「労働局」という。)は、助成金により設置された喫煙室等の適正な運用のため、喫煙室等の運用状況等の確認等(以下「追跡調査」という。)を処分制限期間内に少なくとも1回実施することとされており、追跡調査の調査日については処分制限期間が経過した時点から遡って6か月以内に設定することが望ましいなどとされている。追跡調査の具体的な手法については、事業主から喫煙室等の現状についての報告書を労働局に提出させて、労働局において、報告された内容に基づき、不適切な喫煙室等の運用の有無、不適切な財産処分の有無等を確認することなどとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、有効性等の観点から、助成金の交付が適正に行われているか、喫煙室等の運用が助成金交付の目的に従って適切に行われているかなどに着眼して、25年度から29年度までの間に全国47労働局管内で実施された助成事業2,463件(助成金交付額計25億2509万余円)を対象として、16労働局(注1)において、事業主から労働局に提出された事業実績報告書、喫煙室等の現況写真等を確認したり、担当者から説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行うとともに、上記の16労働局を含む47労働局から喫煙室等の運用状況等に関する調書等の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。

(注1)
16労働局  北海道、岩手、宮城、茨城、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、石川、愛知、大阪、広島、香川、福岡、鹿児島各労働局

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 助成金が過大に交付されていた事態

事業主が、事業実績報告書に記載した助成対象経費よりも低額で助成対象事業を実施するなどしていたにもかかわらず、支払の事実と異なる領収書の写しを添付した事業実績報告書を労働局に提出していて、助成金が過大に交付されていた事態が20労働局(注2)において33件見受けられた(過大に交付されていた助成金相当額計624万余円)。

そして、20労働局における事業実績報告書の審査の状況を確認したところ、交付要綱等において、事業実績報告書に記載された助成対象経費等について領収書以外の証拠書類等と整合がとれているか確認することとされていないことから、20労働局は証拠書類等による確認を十分に行っていなかった。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

事業主Aは、平成27年10月に、事務所2階の会議室を間仕切り壁で仕切り、天井に換気扇を取り付けるなどして喫煙室を設置する助成対象事業を実施して、同年11月に助成対象経費2,261,412円、助成金申請額1,130,000円とする事業実績報告書を石川労働局に提出していた。そして、同労働局は、当該事業実績報告書に事業主Aが添付した助成対象経費と同額の領収書の写しを確認した上で、同年同月に助成金申請額と同額の助成金を事業主Aに交付していた。

しかし、当該助成対象経費について事業主Aの預金通帳の写しで確認したところ、実際に事業主Aから施工業者に支払われていた金額は1,129,680円であり、1,131,732円が水増しされていた。

このため、適正な助成対象経費を算定すると1,129,680円となり、これに係る適正な助成金相当額は564,000円となり前記の助成金交付額1,130,000円との差額566,000円が過大に交付されていた。

(注2)
20労働局  北海道、山形、茨城、栃木、埼玉、東京、石川、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、和歌山、福岡、佐賀、鹿児島、沖縄各労働局

(2) 喫煙室等の運用が適切に行われていなかったなどの事態

ア 喫煙室等の運用が適切に行われていなかった事態

厚生労働省は、非喫煙者が出入りするなどすると事業場内受動喫煙を誘発することにつながることから、前記のとおり、喫煙室及び屋外喫煙所においては、飲食等の喫煙以外のことを行うことは認められないとしている。しかし、事業主が喫煙室及び屋外喫煙所に飲食を目的とする飲料自販機や冷蔵庫を設置するなどしていて、喫煙室等の運用が事業場内受動喫煙の防止対策を推進するという助成金交付の目的に従って適切に行われていなかった事態が29労働局(注3)において66件見受けられた(これらの喫煙室等に係る助成金相当額計7086万余円)。

イ 労働局に無断で喫煙室等を譲渡するなどしていた事態

前記のとおり、交付要綱等において、事業主は、助成対象事業により取得するなどした喫煙室等については、処分制限期間を経過するまでに、財産処分を行う場合には、労働局長の承認を受けることとされている。しかし、事業主が、処分制限期間内であるにもかかわらず、労働局長の承認を受けずに無断で喫煙室等を譲渡したり取り壊したりしていた事態が17労働局(注4)において31件見受けられた(これらの喫煙室等の財産処分時点における残存価額計1240万余円)。

そして、ア及びイの事態計97件が見受けられた32労働局(注5)における追跡調査の実施状況を確認したところ、27労働局(注6)における83件については、交付要綱等において、処分制限期間が経過した時点から遡って6か月以内に設定することが望ましいとされていることを受けて、追跡調査の調査日が事業完了年度の終了から5年目に設定されており、追跡調査が実施される前に、喫煙室等の運用が適切に行われていなかったなどの事態が生じていた。また、財産処分の時期が把握できたイの31件についてみても、喫煙室等が完成してから平均2年11か月で財産処分が行われており、これらを踏まえると、事業完了年度の終了から5年目に実施する追跡調査では、不適切な喫煙室等の運用の有無、不適切な財産処分の有無等を適時適切に把握できているとはいえず、労働局における追跡調査の実施が実効性のあるものとなっていないと認められた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

事業主Bは、平成26年2月に、天井に換気扇を3機取り付けたり、脱臭付集じん機を購入したりするなどして喫煙室を設置する助成対象事業を3,380,090円(助成対象経費同額)で実施し、同年3月に、大阪労働局に事業実績報告書を提出して、助成金1,690,000円の交付を受けていた。

しかし、当該喫煙室の運用状況等を確認したところ、当該喫煙室は、完成してから4か月目の同年5月に、同労働局長の財産処分の承認を受けることなく、店舗移転のために無断で取り壊されていた(当該喫煙室に係る残存価額1,577,333円)。

このように、助成金が過大に交付されていたり、喫煙室等の運用が適切に行われていないなどしていたりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(注3)
29労働局  北海道、青森、岩手、宮城、山形、茨城、栃木、埼玉、東京、神奈川、新潟、富山、石川、福井、長野、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、島根、広島、香川、高知、福岡、大分、宮崎、鹿児島各労働局
(注4)
17労働局  北海道、宮城、茨城、千葉、東京、神奈川、新潟、富山、石川、福井、長野、大阪、広島、山口、福岡、長崎、鹿児島各労働局
(注5)
32労働局  北海道、青森、岩手、宮城、山形、茨城、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、富山、石川、福井、長野、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、島根、広島、山口、香川、高知、福岡、長崎、大分、宮崎、鹿児島各労働局
(注6)
27労働局  北海道、青森、岩手、山形、茨城、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、富山、石川、長野、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、島根、広島、香川、高知、長崎、大分、鹿児島各労働局

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、事業主において助成対象事業を適正に実施するという認識が欠けていたことにもよるが、労働局において、事業実績報告書の確認が十分でなかったこと、追跡調査による喫煙室等の運用状況等の把握が十分でなかったこと及び喫煙室等の運用を適切に行ったり、適正な手続により財産処分を行ったりすることについての事業主に対する周知徹底が十分でなかったこと、また、厚生労働本省において、労働局に対して事業実績報告書の適切な審査方法等を示していなかったこと、実効性のある追跡調査の実施方法についての指示が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、令和元年8月までに、労働局に対して、過大に交付されていた助成金及び事業主が労働局に無断で譲渡するなどしていた喫煙室等の残存価額の返還の処置を執らせたり、事業主に対して、喫煙室等を助成金交付の目的に従った運用に改めさせたりするとともに、通達を発するなどして次のような処置を講じた。

ア 交付要領等を改正するなどして、事業実績報告書の審査の際に領収書の金額が正しいことを証する書面を事業主から提出させるなどして労働局にその内容を十分に確認させることとした。

イ 労働局に対して、喫煙室等の運用を助成金交付の目的に従って適切に行うこと及び適正な手続により財産処分を行うことについて、事業主に対して周知徹底を図ることを指示した。

ウ 労働局に対して、今後は、喫煙室等の設置後おおむね1年を経過するごとに、その運用状況等を確認するなど実効性のある追跡調査を実施することを指示した。