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農業・食品産業強化対策整備交付金事業等により整備した生産技術高度化施設において、低コスト耐候性ハウスの強度が交付金等の交付対象基準等を満たしていない状態になっているのに、事業が適正に完了したとして額の確定が行われていたもの[九州農政局](147)―(152)


(6件 不当と認める国庫補助金 153,087,000円)

 
部局等
補助事業者等 間接補助事業者等 補助事業等
年度
事業費
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費 不当と認める国庫補助金等相当額
            千円 千円 千円 千円
(147)
九州農政局
長崎県
長崎市
ことのうみ第三花き生産組合
(事業主体)
農業・食品産業強化対策整備交付金 29 107,741 53,870 107,741 53,870
(148)
諫早市
山留坂トルコギキョウ生産組合
(事業主体)
26 93,715 46,857 93,715 46,857
(149)
諫早市
株式会社岩永園芸
(事業主体)
国産農産物生産・供給体制強化対策地方公共団体整備費補助金 28、29 18,878 9,439 18,878 9,439
(150)
雲仙市
お花屋さん百花園有限会社
(事業主体)
28、29 19,680 9,639 19,680 9,639
(151)
A
(事業主体)
28、29 25,965 12,982 25,965 12,982
(152)
南島原市
B
(事業主体)
28、29 40,600 20,300 40,600 20,300
(147)―(152)の計 306,580 153,087 306,580 153,087

(注) 事業主体名のアルファベットは、個人事業者を示している。

これらの交付金事業等は、6事業主体が、トルコギキョウ等の花きの生産を行うための生産技術高度化施設として、低コスト耐候性ハウス、暖房機等を整備したものである。長崎県は、6事業主体が実施した本件交付金事業等に対して市費補助金を交付した長崎、諫早、雲仙、南島原各市に県費補助金を交付しており、これに対して本件交付金等が交付されている。

強い農業づくり交付金実施要領(平成17年16生産第8262号大臣官房国際部長、総合食料局長、生産局長及び経営局長通知)等によれば、整備の対象とする生産技術高度化施設のうちの低コスト耐候性ハウスについては、50m/s以上の風速に耐えることができる強度を有するものとするなどとされている。そして、事業主体は、請負人が工事を完了したときは、しゅん功検査を行った上で引渡しを受けることとされており、また、都道府県又は市町村は、必要に応じてしゅん功検査を実施し、不適正な事態がある場合は手直しなどの措置を指示し、交付対象事業が完了したときは、交付決定に基づく交付対象事業が適正に完了したことを確認することとされている。

6事業主体は、本件交付金事業等の実施に当たり、設計事務所等との間で、低コスト耐候性ハウスの設計、施工管理(工事の監理を含む。)等の業務を行わせる施主代行委任契約を締結しており、設計事務所等は、これに基づき、低コスト耐候性ハウスについて、50m/s以上の風速に耐えることができる強度となるように胴縁(注1)及び母屋(注2)の間隔を設計していた。また、設計事務所等は、施工については請負業者と工事請負契約を締結して実施していた。

(注1)
胴縁(どうぶち)  外壁材を取り付けるために柱と柱の間に水平に渡す材
(注2)
母屋(もや)  屋根材を取り付けるために棟と平行に渡す材

その後、6事業主体は、設計事務所等によるしゅん功検査を経て、生産技術高度化施設の整備が完了したとして、請負業者から工事関係書類の提出を受けるとともに、低コスト耐候性ハウスの引渡しを受けた。そして、長崎、諫早、雲仙、南島原各市は、更にしゅん功検査を実施し、長崎県等は実績報告書等を確認するなどして、低コスト耐候性ハウスが実績報告書及び工事関係書類のとおりに整備され本件交付金事業等が適正に完了していることを確認したとして、交付金等の額の確定を行っていた。

しかし、現地の施工状況を確認したところ、胴縁及び母屋が設計よりも広い間隔で設置されるなどしており、設計と施工が異なっていた。

そこで、実際に施工された胴縁及び母屋の間隔に基づいて、風速50m/s時に胴縁及び母屋に発生する応力度を再計算したところ、それぞれの部材の許容応力度を上回ることから、本件低コスト耐候性ハウスは、いずれも50m/s以上の風速に耐えることができないものとなっていた。

したがって、本件交付金事業等(交付対象事業費計306,580,782円)は、低コスト耐候性ハウスの強度が交付金等の交付対象基準等を満たしていない状態になっているのに、事業が適正に完了したとして額の確定が行われており、これに係る交付金等計153,087,000円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、請負業者が適切に施工していなかったことや設計事務所等において工事の監理及びしゅん功検査が十分でなかったことなどにもよるが、6事業主体において低コスト耐候性ハウスの引渡しの際の確認が十分でなかったこと、4市において6事業主体に対する指導及びしゅん功検査が十分でなかったこと、長崎県において6事業主体に対する指導及び確認が十分でなかったことなどによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

ことのうみ第三花き生産組合(以下「組合」という。)は、平成29年度に、長崎市において、低コスト耐候性ハウス9棟の整備を行うに当たり、設計、施工管理等の業務を全国農業協同組合連合会長崎県本部(以下「連合会」という。)に代行委任して実施しており、連合会は、低コスト耐候性ハウスの設計については自ら実施し、施工については請負業者と工事請負契約を締結して実施していた。

そして、連合会は、胴縁を0.65mの間隔で、母屋を0.65m又は0.7mの間隔でそれぞれ設置すれば、胴縁に発生する応力度が1.7t/cm2又は1.73t/cm2、母屋に発生する応力度が1.69t/cm2から1.78t/cm2となり、それぞれの部材の許容応力度1.8t/cm2を下回ることから50m/s以上の風速に耐えることができると設計していた。

その後、組合は、連合会のしゅん功検査を経て、工事関係書類の提出を受けるとともに、請負業者から低コスト耐候性ハウス9棟の引渡しを受けた。そして、長崎市は、更にしゅん功検査を実施し、長崎県等は実績報告書等を確認するなどして、本件交付金事業が適正に完了していることを確認したとして、交付金の額の確定を行っていた。

しかし、現地の施工状況を確認したところ、設計と異なり、胴縁は0.92m又は1.025m、母屋は0.9575mから1.275mの間隔で設置されていた。

そこで、実際に施工された胴縁及び母屋の間隔に基づいて、風速50m/s時に胴縁及び母屋に発生する応力度を再計算したところ、胴縁に発生する応力度が2.35t/cm2又は2.73t/cm2、母屋に発生する応力度が1.84t/cm2から2.38t/cm2となり、それぞれの部材の許容応力度1.8t/cm2を上回ることから、前記の低コスト耐候性ハウス9棟は、いずれも50m/s以上の風速に耐えることができないものとなっていた。

したがって、本件交付金事業(交付対象事業費107,741,965円、交付金交付額53,870,000円)は、低コスト耐候性ハウスの強度が交付金の交付対象基準を満たしていない状態になっていた。

(参考図)

低コスト耐候性ハウスの概念図

低コスト耐候性ハウスの概念図 画像