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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

政府開発援助の実施に当たり、人口減少が著しい地域に所在する小学校の改修工事等を行う事業において、完了検査等により事業計画における児童数を下回っていたり、事業開始前よりも児童数が減少していたりなどしていることを認識した場合、事業完了後も引き続き利用状況等を確認するなどして、援助の効果が十分に発現するよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費
部局等
外務本省
政府開発援助の内容
無償資金協力
検査及び調査の実施事業数並びにこれらの事業に係る贈与額計
39事業 234億8475万余円
(平成19年度~21年度、23年度~令和3年度)
援助の効果が十分に発現していないと認められる事業数及び贈与額
2事業 1830万円(背景金額)(平成28、30両年度)

【意見を表示したものの全文】

政府開発援助の効果の発現について

(令和4年10月26日付け 外務大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 政府開発援助の概要

開発協力大綱(平成27年2月閣議決定)によれば、我が国は、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保により一層積極的に貢献することを目的として、開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動を推進することとされている。そして、政府開発援助は、開発に資する様々な活動の中核として、多様な資金・主体と連携しつつ、様々な力を動員するための触媒、ひいては国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に資する様々な取組を推進するための原動力の一つとしての役割を果たしていくこととされている。

貴省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を実施するとともに、自らも、無償の資金供与による協力(以下「無償資金協力」という。)等を実施している。また、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、無償資金協力、技術協力、有償の資金供与による協力等を実施している。このほか、各府省庁がそれぞれの所掌に係る国際協力として技術協力を実施するなどしている。

このうち、無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより実施されるものである。無償資金協力は、平成20年9月までは貴省が実施し機構がその一部の実施の促進に必要な業務を実施していたが、同年10月以降は、貴省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。貴省が実施することとなっている無償資金協力の中には、在外公館が資金を贈与する草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下「草の根無償」という。)等がある。草の根無償は、開発途上国で活動するNGO、地方公共団体、教育機関等の非営利団体を対象とし、事業の実施期間が贈与契約締結日から1年以内に完了することとされている比較的小規模なプロジェクト(原則1000万円以下)である。

令和3年度に貴省及び機構が実施した無償資金協力の実績は1597億6175万余円となっている。

2 本院の検査及び調査の結果

(検査及び調査の観点及び着眼点)

本院は、貴省又は機構が実施する無償資金協力を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び調査を実施した。

① 貴省及び機構は、事前の調査、審査等において、援助の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、交換公文、贈与契約等に則して援助を実施しているか、さらに、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。

② 相手国等において、援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国等によって順調に運営されているか、さらに、援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、事業間のずれ、重複等が生じないよう調整されているか。

(検査及び調査の対象及び方法)

本院は、無償資金協力39事業(贈与額計234億8475万余円、うち草の根無償24事業に係る贈与額計2億4571万余円)を対象として、貴省本省及び機構本部において援助対象事業について協力準備調査報告書等を確認したり、説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行うとともに、7か国(注1)に所在する在外公館及び機構の在外事務所から事業に係る資料等や現地の画像及び動画の提出を求めてその内容を確認したり、情報通信システムを活用して事業の実施状況等について説明を聴取したりするなどして検査した。

また、上記7か国のうち1か国(注2)においては、機構の職員の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、情報通信システムを活用して相手国の事業実施責任者等から説明を受けて調査した。

(注1)
7か国  パラオ共和国、パナマ共和国、フィリピン共和国、南アフリカ共和国、トルコ共和国、ウガンダ共和国、ザンビア共和国
(注2)
1か国  フィリピン共和国

(検査及び調査の結果)

検査及び調査を実施したところ、無償資金協力のうち草の根無償2事業(贈与額計1830万余円)については援助の効果が十分に発現していなかった。

(1) 草の根無償:トカット県ブユックコズルジャ小学校改修計画

ア 事業の概要

この事業は、トルコ共和国トカット県ジレ市ブユックコズルジャ村にある老朽化が著しいブユックコズルジャ小学校の校舎等を改修し、トイレ、暖房設備を新設することで、児童の教育環境を向上させるものである。

在トルコ日本国大使館(以下「トルコ大使館」という。)は、平成29年3月に、事業実施機関であるジレ市との間で贈与契約を締結して、同月に、この事業に必要な資金として、82,426米ドル(邦貨換算額989万余円)を贈与している。

そして、トルコ大使館は、事業実施機関からの申請書等を踏まえ、本件事業計画において、28年6月の事業開始前の同小学校に在籍する児童は32人であり、同小学校改修後には、児童36人が利用するとしていた。さらに、同小学校については、ブユックコズルジャ村近隣の2村(以下「近隣村」という。)の小学校との統廃合が予定されており、ブユックコズルジャ小学校改修後には近隣村の児童39人も同小学校に転校することになる見込みであることから、改修後の同小学校は75人の児童が利用するとしていた。

イ 検査の結果

検査したところ、同小学校の改修工事は30年4月に完了しており、トルコ大使館が同年6月に完了検査を実施した際に、事業実施機関から聞き取りを行ったところ、同小学校を利用している児童は27人であるとの報告を受けており、事業計画において想定していた同小学校改修後の児童数36人に比べて少なく、28年6月の事業開始前の児童数32人からも減少している状況となっていた。また、30年9月には、近隣村の人口減少を理由として、トルコ共和国国家教育省(以下「教育省」という。)が手配するとしていた通学バスを取りやめたため、近隣村の小学校からブユックコズルジャ小学校へ転校してくる児童はいなくなった。そして、同小学校が所在する地域の人口減少により、同小学校の児童数は31年1月には14人、令和2年2月には11人と年々減少しており、教育省が、児童数が少なくなったことを理由として同年9月に同小学校を閉鎖していて、事業の効果が十分に発現していない状況となっていた。

しかし、トルコ大使館は、完了検査において、同小学校を利用している児童数が事業計画の想定より少ない状況であったこと、また、事業開始前の児童数よりも少なくなっていたことを認識していたにもかかわらず、事業実施機関に対して、事業完了後も引き続き児童数を報告させるなどの働きかけを行っておらず、事業完了後の利用状況等の確認を行っていなかった。そして、トルコ大使館は、教育省が通学バスの手配を取りやめていたり、2年9月に同小学校を閉鎖していたりしていたことを、同年11月のフォローアップ調査を実施するまで、全く把握していなかった。

上記の事態を踏まえて、事業実施機関は、同年12月に改修した同小学校を職業訓練施設として再利用することをトルコ大使館に申し出ている。しかし、近隣村も含め、地域の人口減少が進んでいる中にあって、職業訓練施設として再利用しても十分な受講生を確保できないおそれがあるものとなっていた。貴省は、職業訓練施設以外の利用も含めて同小学校の活用を検討しているものの、4年6月の貴省本省会計実地検査時点においても活用が図られていなかった。

(2) 草の根無償:南コタバト州トゥピ町カブロン村給水システム整備計画

ア 事業の概要

この事業は、フィリピン共和国南コタバト州トゥピ町カブロン村において、既存の給水システムの水源が飲み水に適した安全なものではなく、かつ、給水所が遠く離れており水汲みの労働が負担となっていることから、住民の安全な生活及び飲料用水へのアクセスの確保に寄与することを目的として、新しい水源から各集落までの水道管(総延長9,619.2m)、給水スタンド25基等で構成される給水システムを整備するものである。

在フィリピン日本国大使館(以下「フィリピン大使館」という。)は、平成30年12月に、事業実施機関である南コタバト州との間で贈与契約を締結して、同月に、この事業に必要な資金として、75,149米ドル(邦貨換算額841万余円)を贈与している。

そして、本事業の実施により、同村の3集落計308世帯の住民1,087名が、浄化された安全な水源に容易にアクセスできるようになるなどとしていた。

また、草の根無償については、貴省が定めた「草の根・人間の安全保障無償資金協力ガイドライン」によると、在外公館は、実施意義があると認められる案件については、案件の内容等について詳細な事前調査を行うこととされ、事業完了後には事業実施機関から監査報告書の提出を受けることとされている。そして、贈与された資金により整備された施設等の維持管理等については、一義的には事業実施機関の責任において行われることとされている一方で、在外公館としても責任をもってフォローアップを行う必要があるなどとされている。

イ 検査の結果

検査したところ、フィリピン大使館は、30年6月に事前調査を実施して、給水システムに接続する新しい水源は、年間を通じて使用するのに十分な取水量があることを確認したとしていた。また、当該事前調査の報告書等によると、水質検査の結果、既存の給水システムの水源が飲み水に適した安全なものではないとされていた。そして、フィリピン大使館は、事業実施機関からの報告により、給水システムに接続する新しい水源が飲み水に適していることを確認したとしていた。

その後、事業実施機関は、給水システム機材の据付け及び設置を令和2年10月に完了して供用を開始していた。

3年3月に事業実施機関からフィリピン大使館に提出された監査報告書によれば、給水スタンド全25基中19基からは水が出ていないなどとされており、この状況を認識したフィリピン大使館は、コロナ禍で活動が制限される中で、同年5月に事業実施機関に対して電話等による確認を行い、水量が回復したことなどの報告を受けたとしていた。しかし、同年10月にフォローアップの一環として事業実施機関から提出された報告書によると、複数の集落においていまだ水量が回復していないとされていたのに、フィリピン大使館は事業実施機関から現場写真等を入手するなどして、各集落の給水スタンド25基においてそれぞれの給水スタンドから実際に水が出ているかなどの確認を十分に行っていなかった。

そして、4年6月に、本院が貴省に対して25基の給水スタンドそれぞれの状況を報告するよう求め、フィリピン大使館が事業実施機関から聞き取りを行ったところ、25基のうち正常に作動していたのは6基のみとなっていた。

フィリピン大使館が同年7月に事業完了後のフォローアップの一環として現地を調査したところ、事業実施機関は上記のフィリピン大使館による聞き取り後、2集落において、全13基の給水スタンドを飲み水に適した安全なものではないとされていた水源から取水している既存の給水システムに接続するなどして、水量を回復するよう試みていた。そして、フィリピン大使館は事業実施機関から報告を受けておらず、このような状況を把握していなかった。

上記のように既存の給水システムに接続するなどした結果、飲み水に適した安全な水質で水量が確保されている給水スタンドは25基のうち3基となっており、浄化された安全な水源に容易にアクセスできるようになるという当初想定されていた事業の効果が十分に発現していない状況となっていた。

なお、事業実施機関は、水量を回復できていない原因について、複合的な原因によるものとして調査中としており、いまだ特定できていない。

(改善を必要とする事態)

援助の効果が十分に発現していない事態は適切ではなく、貴省において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

  • ア トカット県ブユックコズルジャ小学校改修計画については、小学校改修後の児童数が事業計画における児童数を下回っていることや、事業開始前の児童数よりも減少していることを完了検査において認識するなどしていたのに、事業実施機関に対して、事業完了後も引き続き利用状況等の確認を行っていなかったこと
  • イ 南コタバト州トゥピ町カブロン村給水システム整備計画については、フォローアップの一環として事業実施機関から提出された報告書においていまだ水量が回復していないとされていたのに、個々の給水状況を事業実施機関を通じて確認した上で、整備された給水システムが各集落において使用できるようにするために原因究明を行わせるなどの働きかけを事業実施機関に対して十分に行っていなかったこと、事業実施機関が既存の給水システムに接続するなどの対策を行うに際し、適切に報告させるなどの働きかけを十分に行っておらず、その内容を把握していなかったこと

3 本院が表示する意見

貴省において、援助の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア トカット県ブユックコズルジャ小学校改修計画については、児童減少により閉校となった小学校の今後の活用方法について引き続き検討するなどして、有効活用されるよう事業実施機関に適切な働きかけを行うとともに、当該計画における事態を踏まえて、今後、草の根無償で人口減少が著しい地域に所在する小学校の改修工事等を行う事業を実施するに当たり、完了検査等により事業計画における児童数を下回っていたり、事業開始前よりも児童数が減少していたりなどしていることを認識した場合、事業完了後も引き続き利用状況等を確認すること
  • イ 南コタバト州トゥピ町カブロン村給水システム整備計画については、事業実施機関に対して、引き続き原因を究明させるなどして、整備された給水システムが有効に活用されるよう働きかけるとともに、当該計画における事態を踏まえて、今後、草の根無償で給水スタンドを複数設置する事業を実施するに当たり、多くの給水スタンドから水が出ていないなどの報告を受けるなどしてその状況を認識した場合、事業実施機関に報告させるなどして個々の給水状況を確認し、事業実施機関に対して、整備された給水施設が十分に活用されるように原因究明を行わせるなどの働きかけを行うとともに、事業実施機関が行う対策について、適切に報告させるなどしてその内容を把握すること