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  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

コンテンツグローバル需要創出促進事業において、中小・小規模事業者の財政基盤等を考慮する必要があるとして交付額事後調整の対象外とする仕組みを設けていたのに、経済産業省が想定していた中小・小規模事業者に該当しない事業主体が実施する事業についても交付額事後調整の対象外となるなどしていたことを踏まえて、同種の補助金による事業の実施に当たり、公募要項を見直すとともに、実績報告書等の収支等に係る電子データを入手し分析するなどして公募要項の見直しを行う態勢整備を図るよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)経済産業本省 (項)クールジャパン推進費
部局等
経済産業本省
補助の根拠
予算補助
補助事業
コンテンツグローバル需要創出促進事業
補助事業の概要
日本発のコンテンツの海外展開を促進することなどを目的として、日本発のコンテンツの公演及びそのプロモーションを行う民間事業者等に対して、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い国内外の公演を延期又は中止した場合に、後日実施する公演の実施等に要した経費の一部を補助するもの
(1) ライブ1事業(令和2年度補正予算(第1号)を財源とするもの)
(2) ライブ2事業(令和2年度補正予算(第3号)等を財源とするもの)
補助事業者
特定非営利活動法人映像産業振興機構
間接補助事業者
(事業主体)
(1) 957事業主体(令和2年度~4年度)
(2) 828事業主体(令和3、4両年度)
経済産業省が想定していた中小・小規模事業者に該当しない事業主体が実施した事業のうち交付額事後調整が実施されていなかった事業に係る補助金交付額(ア)
(1) 856事業 17億9932万余円(令和2年度~4年度)
(2) 972事業 19億6311万余円(令和3、4両年度)
交付額事後調整が実施されていなかった中小企業者のうち差額(利益額)が多い上位5事業主体に対する補助金交付額
(1) 823事業 11億3789万円(背景金額)(令和3、4両年度)
(2) 788事業 16億8319万円(背景金額)(令和3、4両年度)
(ア)について交付額事後調整を実施した場合の補助金交付額(試算額)(イ)
(1) 6億6181万余円
(2) 7億2779万余円
(ア)と(イ)との開差額(試算額)(ウ)
(1) 11億3750万円
(2) 12億3532万円
計 23億7283万円
ライブ2事業においてリアルタイムフル配信等を行う事業の累計が30件を超えておらず、交付額事後調整が実施されていなかった事業に係る補助金交付額(エ)
(2) 146事業 15億8061万余円(令和3、4両年度)
(エ)について交付額事後調整を実施した場合の補助金交付額(試算額)(オ)
(2) 4億1850万余円
(エ)と(オ)との開差額(試算額)(カ)
(2) 11億6210万円
(ウ)及び(カ)の計
35億3493万円

1 コンテンツグローバル需要創出促進事業の概要等

(1) コンテンツグローバル需要創出促進事業の概要

経済産業省は、日本発のコンテンツの海外展開を促進し、日本ブーム創出を通じた関連産業の海外展開の拡大等を目的として、表1のとおり、コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金を交付するコンテンツグローバル需要創出促進事業を実施している。本事業は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により公演を延期又は中止し、後日実施するなど一定の要件を満たした法人である民間事業者等に対して、国内における公演の実施及び当該公演を収録した動画の全部又は一部の海外向けのデジタル配信の実施に要する経費の一部を補助するものである(以下、令和2年度一般会計補正予算(第1号)を財源とする事業を「ライブ1事業」、令和2年度一般会計補正予算(第3号)等を財源とする事業を「ライブ2事業」という。)。

表1 コンテンツグローバル需要創出促進事業の概要

補助金名 予算等 事業名 補助の要件
(以下のいずれにも該当する場合)
補助率
コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金 令和2年度一般会計補正予算
(第1号)
ライブ1事業
① 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により公演を延期又は中止し、後日、感染症対策を講じた上で実施すること
② 当該公演を収録した動画を海外に配信すること
2分の1以内
令和2年度一般会計補正予算
(第3号)等
ライブ2事業
① 同上
② 同上
③ 公演の実施に当たって、当該公演の収益に直接的な影響を及ぼす方法でコンテンツの付加価値を向上させるための取組を行うこと

経済産業省は、本事業の実施に当たり、公募により特定非営利活動法人映像産業振興機構(以下「機構」という。)を補助事業者として選定している。そして、機構は、同省がエンターテインメント業界(以下「エンタメ業界」という。)の団体に対して実施したヒアリング等を踏まえ、同省と協議した上で補助金公募要項(以下「公募要項」という。)を制定している。同省は、公募要項等に基づき、機構を通じて、間接補助事業者である民間事業者等(以下「事業主体」という。)に対して補助金を交付している。事業主体は、事業完了時には実績報告書、収支報告書等を電子データで機構に提出することとなっている。これを受けて、機構は、補助金の交付実績等を集計して、予算の執行状況等を同省に報告している。

また、経済産業省は、先例のないコロナ禍においてエンタメ業界の民間事業者等に対する支援の必要性が喫緊に迫られた状況の中で同事業を行うことから、事業の実施状況を見ながら制度設計を見直すことにしていたとしている。

(2) 交付額事後調整の仕組みの概要

経済産業省及び機構は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)第7条第2項の規定の趣旨を踏まえて、公募要項において、補助金の額の確定に当たり、公演等の間接補助事業の実施により事業主体が直接得た収入額(以下「直接収入」という。)が、補助対象経費と補助対象外経費を合わせた間接補助事業全体に要する経費総額(以下「経費総額」という。)を超えた場合には、その差額(以下「差額(利益額)」という。)を補助金額から減額して補助金を交付するとの規定を設けている(以下、この仕組みを「交付額事後調整」という。)。

(3) 交付額事後調整の対象外とする仕組みを設けた趣旨とその要件

経済産業省は、コロナ禍で影響を受けた公演等の実施を支援するに当たり、エンタメ業界に多数存在する中小・小規模事業者の財政基盤等を考慮する必要があるとして、一定の要件に該当する案件について交付額事後調整の対象外とする仕組みを設けている(以下、この仕組みを「調整対象外の仕組み」という。)。すなわち、案件の採択時に総採択件数が30件を超えていない申請者の案件や動員人数が1,000人を超えない案件には、中小・小規模事業者ではない事業者が実施する案件が含まれることは少ないと想定して、これらを交付額事後調整の対象外とする要件(以下「調整対象外要件」という。)として設定している。また、同省は、ライブ1事業を開始した当時のエンタメ業界においては、無観客ライブ等におけるリアルタイムフル配信の実績がほとんどなかったことから、新たな取組を促すために、リアルタイムフル配信等を行う案件を調整対象外要件として設定している。そして、調整対象外要件のいずれかに該当する案件については、差額(利益額)を補助金額から減額せずに交付することとしている(表2参照)。

表2 各事業における調整対象外要件

事業名 直接収入
(A)
経費総額
(B)
差額
(利益額)
調整対象外要件
(以下のいずれかに該当する場合)
ライブ1
事業
観客動員によるチケット収入 補助対象経費

補助対象外経費
A-B
① リアルタイムフル配信等を行う案件
② 動員人数が1,000人を超えない採択案件(動員人数にはオンラインで鑑賞する観客は含まない。)
③ 採択時に総採択件数の累計が30件(①・②は含まない。)を超えていない申請者の採択案件
ライブ2
事業
観客動員によるチケット収入
リアルタイムフル配信等による配信チケット収入
同上 同上
① 動員人数が1,000人を超えない採択案件(動員人数にはリアルタイムフル配信等で鑑賞する観客は含まない。)
② 総採択件数のうち、リアルタイムフル配信等を行う案件の累計が30件を超えていない申請者の採択案件
③ 採択時に総採択件数の累計が30件(①・②は含まない。)を超えていない申請者の採択案件

上記のとおり、本事業においては、エンタメ業界の中小・小規模事業者の財政基盤等を考慮するという趣旨から、中小・小規模事業者が行うことが想定される案件について調整対象外の仕組みを設けることとして、総採択件数や動員人数の要件を設定している。一方、経済産業省の中小企業施策においては、対象とする中小企業者の範囲を中小企業基本法(昭和38年法律第154号)に基づき定義する場合も見受けられる。同法によれば、エンタメ業界が該当する業種であるサービス業の場合、中小企業者の範囲は、資本金の額又は出資の総額が5000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人であるとされている。なお、同法における中小企業者の範囲は、株式市場における資金調達力を考慮するなどして設定されているものであるとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、本事業において、調整対象外の仕組みを設けた趣旨を踏まえて調整対象外要件が適切に設定されているか、事業の実施状況を見ながらより合理的な制度設計となるよう適切に見直しが行われているかなどに着眼して、令和2、3両年度に補助金の交付決定が行われたライブ1事業の全23,233事業(このうち2年度から4年度までの間に補助金が交付されたものは23,081事業(957事業主体、補助金交付額計622億0808万余円))及び3年度に補助金の交付決定が行われたライブ2事業の全18,179事業(このうち3、4両年度に補助金が交付されたものは17,871事業(828事業主体、同計580億7431万余円))を対象として、経済産業本省、機構及び33事業主体において、実績報告書、収支報告書等を確認し、公演等の実施状況を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、機構から関係資料の提出を受けて、その内容を分析するなどの方法により検査した。

(検査の結果)

補助金が交付されていた事業のうち、直接収入が経費総額を上回って差額(利益額)が生じていたものは、ライブ1事業で上記23,081事業のうち3,379事業、ライブ2事業で上記17,871事業のうち4,215事業となっていた。また、これらのうち、調整対象外要件に該当することにより交付額事後調整が実施されていなかった事業数は、表3のとおり、ライブ1事業で3,129事業、ライブ2事業で3,983事業となっていて、交付額事後調整が実施されなかった事業が相当数に上っていた。

なお、交付額事後調整の結果、補助金が交付されていなかった事業(ライブ1事業で152事業、ライブ2事業で273事業)については、差額(利益額)が補助金額以上となったことから、補助金が交付されていなかったものである。

表3 交付額事後調整の実施状況

項目 ライブ1事業 ライブ2事業
事業数 事業主体数 補助金交付額
(千円)
事業数 事業主体数 補助金交付額
(千円)
① 補助金が交付されていたもの
23,081 957 62,208,089 17,871 828 58,074,312
② ①のうち直接収入が経費総額を上回って差額(利益額)が生じていたもの
3,379 251 6,709,859 4,215 335 12,391,770
③ ②のうち交付額事後調整が実施されていたもの
250 7 552,441 232 15 805,727
④ ②のうち交付額事後調整が実施されていなかったもの
3,129 251 6,157,418 3,983 335 11,586,043
⑤ 交付額事後調整の結果、補助金が交付されていなかったもの
152 5 273 17
⑥ 事業主体が実績報告書に経費総額及び補助金額を計上しておらず、補助金が交付されていなかったもの
0 0 35 1
①+⑤+⑥ 23,233 957 62,208,089 18,179 828 58,074,312

このような状況を踏まえて、交付額事後調整が実施されていなかった事業の状況、要因等について更に検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 経済産業省が想定していた中小・小規模事業者に該当しない事業主体が実施する事業についても交付額事後調整の対象外となるなどしていた事態

前記のとおり、経済産業省は、調整対象外要件の設定に当たり、案件の採択時に総採択件数が30件を超えていない申請者の案件や動員人数が1,000人を超えない案件には、中小・小規模事業者ではない事業者が実施する案件が含まれることは少ないと想定していた。

そこで、差額(利益額)が生じている事業主体のうち上位50事業主体(ライブ1事業で全事業の差額(利益額)の88.3%、ライブ2事業で同85.0%を占めている。)について、上記の調整対象外要件ごとの該当状況をみたところ、実施した事業の総数が30件を超えているか、又は動員人数が1,000人を超える事業を行っている事業主体が、ライブ1事業では49事業主体、ライブ2事業では全50事業主体となっていて、中小・小規模事業者が実施すると同省が想定していた事業数や動員人数を上回る事業を行う事業主体が、上位50事業主体のほとんど全てを占めていた。

また、経済産業省は、中小・小規模事業者の財政基盤等を考慮するという趣旨から調整対象外の仕組みを設けているが、中小・小規模事業者を定義していない。そこで、中小企業基本法において株式市場における資金調達力を考慮するなどして中小企業者の範囲が設定されていることを踏まえて、これらの上位50事業主体について、公益財団法人各2事業主体を除いてみたところ、ライブ1事業では16事業主体、ライブ2事業では15事業主体が、資本金の額が5000万円を超え、かつ常時使用する従業員の数が100人を超えていて、中小企業基本法における中小企業者の定義に該当しない者(以下「中小企業者に該当しない者」という。)となっていた。これらの中小企業者に該当しない者は、中小企業基本法における中小企業者の範囲が株式市場における資金調達力を考慮するなどして設定されているものであることを踏まえると、本事業において財政基盤等を考慮する必要があるとしている中小・小規模事業者には該当しないと思料された。そして、中小企業者に該当しない者が実施した事業のうち、案件の採択時に総採択件数が30件を超えていない申請者の案件や動員人数が1,000人を超えない案件のいずれかに該当するとして交付額事後調整が実施されていない事業について、これらの調整対象外要件別に交付額事後調整を実施した場合の補助金額を機械的に算出し、実際に交付された補助金額との差額(開差額)を試算したところ、表4のとおり、開差額の合計は23億7283万余円となった。

表4 中小企業者に該当しない者が実施した事業のうち交付額事後調整が実施されていない事業における調整対象外要件別の開差額

項目 事業数 事業主体数 補助金交付額
(A)(千円)
差額(利益額)
(千円)
交付額事後調整を実施した場合の補助金交付額
(B)(千円)
開差額
(A-B)
(千円)
① ライブ1事業における調整対象外要件別の開差額等
856 15 1,799,327 1,545,204 661,818 1,137,509
② ①のうち案件の採択時に総採択件数が30件を超えていない申請者の案件
115 9 570,896 602,056 131,942 438,954
③ ①のうち動員人数が1,000人を超えない案件
741 14 1,228,431 943,148 529,876 698,555
④ ライブ2事業における調整対象外要件別の開差額等
972 15 1,963,115 1,866,080 727,791 1,235,324
⑤ ④のうち案件の採択時に総採択件数が30件を超えていない申請者の案件
168 13 589,570 560,052 272,055 317,515
⑥ ④のうち動員人数が1,000人を超えない案件
804 12 1,373,545 1,306,027 455,736 917,809
①+④の合計 2,372,833
  • 注(1) ①の事業主体数は、②及び③の事業主体数の純計である。
  • 注(2) ④の事業主体数は、⑤及び⑥の事業主体数の純計である。
  • 注(3) ライブ1事業における中小企業者に該当しない者である16事業主体のうち1事業主体は、②又は③に該当する案件がなかった。

また、前記の上位50事業主体のうち中小企業基本法における中小企業者に該当する者は、ライブ1事業で32事業主体、ライブ2事業で33事業主体となっていた。そして、これらの中小企業者に該当する事業主体が実施した事業についても、交付額事後調整が実施されていない状況等をみたところ、表5のとおり、差額(利益額)が多い上位5事業主体(ライブ1事業の補助金交付額計11億3789万余円、ライブ2事業の補助金交付額計16億8319万余円)に事業数や差額(利益額)の合計額が集中し、全体の半分近くを占めていた。これらの上位5事業主体の中には、交付額事後調整が実施された事業を含めて差額(利益額)が生じていた全ての事業の事業数や差額(利益額)の合計額をみても、中小企業者に該当しない者の平均値を上回る者が見受けられた。

表5 財政基盤等を考慮する必要があるとして交付額事後調整が実施されていない事業における差額(利益額)が多い上位5事業主体の中小企業者全体の差額(利益額)等に占める割合

事業主体名 ライブ1事業 ライブ2事業
事業数 中小企業者全体(32事業主体)のうち左が占める割合
(%)
差額(利益額)
(千円)
中小企業者全体(32事業主体)のうち左が占める割合
(%)
補助金交付額
(千円)
事業数 中小企業者全体(33事業主体)のうち左が占める割合
(%)
差額(利益額)
(千円)
中小企業者全体(33事業主体)のうち左が占める割合
(%)
補助金交付額
(千円)
A 173 13.2 236,351 14.4 175,108
B 565 43.1 224,982 13.7 239,334 627 47.6 531,694 13.0 416,075
C 21 1.6 143,285 8.7 377,133 27 2.0 600,354 14.7 448,962
D 54 4.1 92,606 5.6 185,148
E 10 0.7 85,626 5.2 161,172
F 21 1.5 452,268 11.0 331,974
G 31 2.3 234,117 5.7 97,889
H 82 6.2 233,234 5.7 388,295
823 62.8 782,852 47.9 1,137,895 788 59.9 2,051,669 50.3 1,683,195

このように、経済産業省が想定していた中小・小規模事業者に該当しない事業主体が実施する事業についても、交付額事後調整の対象外となるなどしていた。

(2) 実績報告書等の収支等に係る電子データを入手し分析するなどして、その結果に基づく公募要項の見直しを行うための態勢が整備されていなかった事態

前記のとおり、リアルタイムフル配信等は、ライブ1事業を開始した当時は実績がほとんどないとされていた。また、ライブ1事業における直接収入の範囲は観客動員によるチケット収入のみとされていた。そこで、ライブ1事業において、機構に提出されていた実績報告書等の収支等に係る電子データを分析するなどして、観客動員によるチケット収入にリアルタイムフル配信等を視聴するためのチケットの販売による収入を合算したものを直接収入と仮定して差額(利益額)をみたところ、差額(利益額)が生ずるものは4,248事業(319事業主体)となり、前記の3,379事業(251事業主体)に交付額事後調整の結果、補助金が交付されていなかった152事業(5事業主体)を加えた3,531事業(251事業主体)より増加しており、ライブ2事業の補助事業者を公募する時点で、リアルタイムフル配信等による事業は相当数実施され、利益を計上している事業主体が一定数存在していたと考えられた。

しかし、経済産業省は、ライブ2事業において、直接収入にリアルタイムフル配信等を視聴するためのチケットの販売による収入を含めるなどの見直しを行っていたものの、総採択件数のうちリアルタイムフル配信等を行う案件の累計が30件を超えていない申請者の案件については交付額事後調整を実施しないこととしていた(表2参照)。

そこで、ライブ2事業において上記の調整対象外要件に該当するとして交付額事後調整が実施されていなかった事業について、交付額事後調整を実施した場合の補助金額を機械的に算出し、実際に交付された補助金額との差額(開差額)を試算したところ、表6のとおり11億6210万余円となった。

表6 ライブ2事業においてリアルタイムフル配信等を実施しており調整対象外要件に該当するとして交付額事後調整が実施されていない事業における開差額

項目 事業数 事業主体数 補助金交付額
(A)(千円)
差額(利益額)
(千円)
交付額事後調整を実施した場合の補助金交付額
(B)(千円)
開差額
(A-B)
(千円)
総採択件数のうちリアルタイムフル配信等を行う案件の累計が30件を超えていない申請者の案件 146 53 1,580,611 4,571,911 418,502 1,162,109

そして、経済産業省が上記のような実績報告書等の収支等に係る電子データに基づいて事業の実施状況を分析するなどしていれば、ライブ2事業等の公募要項の見直しにおいても有用であったと認められる。また、(1)のような事態についての分析においても電子データ等を基に確認や検証を行うことが必要だったと認められる。

しかし、経済産業省は、事業の実施状況を見ながら制度設計を見直すことにしていたにもかかわらず、機構に提出されていた実績報告書等の収支等に係る電子データを入手し分析するなどしておらず、それらの分析結果に基づき公募要項の見直しを行う態勢を整備していなかった。

以上のように、経済産業省が中小・小規模事業者の財政基盤等を考慮する必要があるとして調整対象外の仕組みを設けていたのに、同省が想定していた中小・小規模事業者に該当しない事業主体が実施する事業についても交付額事後調整の対象外となるなどしていた事態及び機構に提出されていた実績報告書等の収支等に係る電子データを入手し分析するなどしておらずそれらの分析結果に基づく公募要項の見直しを行うための態勢が整備されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、経済産業省において、調整対象外の仕組みを設けた趣旨を踏まえて調整対象外要件が適切に設定されているかの把握・検証が十分でなかったこと、機構に提出されていた実績報告書等の収支等に係る電子データを入手し分析するなどしてその結果に基づく公募要項の見直しを行う態勢整備の検討が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、経済産業省は、次のような処置を講じた。

ア ライブ1事業、ライブ2事業等の実施状況を把握し検証して、5年3月から実施している同種の事業(コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金(ライブエンタメ産業の基盤強化支援))において、中小企業者に該当しない者を交付額事後調整の対象とし、交付額事後調整の対象とならない中小企業者についても、事業主体ごとの交付決定総数及び交付決定総額に上限を設けるなどして、調整対象外の仕組みを設けた趣旨に沿って補助金が交付されるよう公募要項を見直した。

イ 上記事業の実施に際して、補助事業者から実績報告書等の収支等に係る電子データを入手し分析するなどして、補助事業者と定例の打合せを行い、事業主体の収支を含む確定検査の進捗状況等に関する報告を受けるなどの公募要項の見直しを行う態勢を整備するとともに、今後新たな制度設計を行う場合にも同様の態勢を整備することが可能となるよう5年8月に関係部署に通知を発して周知徹底を図った。