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  • 令和4年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
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  • 予算経理

公共補償の実施に当たり、既存公共施設等の機能廃止の時までの財産価値の減耗分について、一般会計において負担すべきであるのに特別会計において負担しており、また、既存公共施設等の処分利益について、特別会計において支出する撤去工事の費用から控除するなどすべきであるのに一般会計の歳入として処理されていたもの[大阪航空局、第七管区海上保安本部](228)


会計名及び科目
一般会計 (部)雑収入 (款)諸収入 (項)物品売払収入
自動車安全特別会計(空港整備勘定) (項)空港整備事業費
部局等
大阪航空局(公共補償の実施部局)
第七管区海上保安本部(公共補償の対象となった既存庁舎等の管理部局)
補償の概要
福岡空港の滑走路の増設整備事業に伴い支障となる海上保安本部の既存庁舎等の機能を北九州空港に移転させるに当たり補償を行うもの
北九州空港における海上保安庁庁舎・格納庫新築工事費
2,352,200,000円(平成30、令和元両年度)
福岡空港における海上保安庁福岡航空基地庁舎・格納庫撤去工事費
165,720,000円(令和元、2両年度)
一般会計において負担すべきであるのに特別会計において負担している減耗分相当額(1)
955,639,105円
特別会計において支出する補償工事の費用から控除するなどすべきであるのに一般会計の歳入として処理されている処分利益の額(2)
7,475,050円
(1)及び(2)の計
963,114,155円

1 公共補償の概要等

(1) 一般会計と特別会計との区分経理

国は、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号。以下「特会法」という。)に基づき、空港等の設置、改良等の空港整備事業等に関する政府の経理を明確にすることを目的として、自動車安全特別会計(空港整備勘定)(以下「特別会計」という。)を設置して、一般会計と区分して経理している。そして、特別会計においては、航空会社等の航空運送事業者等が支払う無線施設、レーダー等の航行援助施設の利用料、着陸料等の収入が財源の多くを占めており、これらの特定の収入をもって空港整備事業等に要する費用等の歳出に充てられていて、一般会計の歳入歳出とは明確に区分されている。

(2) 公共補償の概要

公共事業の施行により事業地内の公共施設等についてその機能の廃止又は休止が必要となる場合(以下、このような公共施設等を「既存公共施設等」という。)であって、公益上、その機能回復を図ることが必要である場合は、「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」(昭和42年閣議決定。以下「要綱」という。)、「公共補償基準要綱の運用申し合せ」(昭和42年用地対策連絡会。以下、これらを合わせて「公共補償基準」という。)等に基づき、当該公共事業の事業主体が既存公共施設等の管理者に対して補償を行うこととなっている(以下、この補償を「公共補償」といい、補償を受ける既存公共施設等の管理者を「被補償者」という。)。

公共補償基準は、要綱に規定されている適用除外条項に該当する場合を除き、国の機関に対する公共補償にも適用されるものである。

公共補償基準によれば、公共補償は、金銭をもってするものとされている。ただし、公共事業に係る工事の施行上、技術的、経済的に合理的と認められる場合等においては、公共事業の起業者が代替の公共施設等を建設し、又は公共施設等を移転等すること(以下「現物補償」という。)によることができることとされている。

そして、公共補償基準によれば、既存公共施設等の機能回復が代替の公共施設等を建設することにより行われる場合においては、当該公共施設等を建設するために必要な費用から、既存公共施設等の処分利益(以下「処分利益」という。)及び既存公共施設等の機能廃止の時までの財産価値の減耗分(以下「減耗分」という。)を控除した額を補償することとされている。

国土交通省航空局は、空港整備事業等において現物補償により公共補償を行う場合は、減耗分については、被補償者の予算措置への対応を考慮して原則として立て替えることとし、被補償者との間であらかじめ精算等に関する協定等を締結して、後日、被補償者から還付を受けることとしている。また、処分利益については、補償工事の費用から当該処分利益を控除するなどして精算を行うこととしている。

(3) 福岡空港における第七管区海上保安本部の庁舎等の移転に係る公共補償

大阪航空局(以下「大阪局」という。)は、福岡空港の滑走路の増設整備事業に伴い支障となる同空港所在の海上保安庁第七管区海上保安本部(以下「海上保安本部」という。)の福岡航空基地の庁舎、格納庫等(以下、これらを「既存庁舎等」という。)について、その機能を北九州空港に移転させることとし、これに係る公共補償を行っている(以下「本件公共補償」という。)。

大阪局は、既存庁舎等の機能の移転については、福岡空港における既存庁舎等の解体、北九州空港における代替の庁舎、格納庫等の建設等が、いずれも空港内で実施されることから、大阪局で代替の公共施設等を建設した方が技術的、経済的に合理的であると判断して、本件公共補償を現物補償により行っている。

そして、本件公共補償の実施に当たっては、平成27年12月に、国土交通省航空局と海上保安庁本庁との間で協定が締結され、国土交通省航空局が講ずる公共補償に係る予算措置を要綱に基づき行うことなどが取り決められている。

大阪局は、現物補償として、30、令和元両年度に北九州空港において海上保安庁庁舎・格納庫新築工事(工事費2,352,200,000円)を、元、2両年度に福岡空港において海上保安庁福岡航空基地庁舎・格納庫撤去工事(工事費165,720,000円。以下「撤去工事」という。)を、それぞれ実施している。

2 検査の結果

本院は、合規性等の観点から、国の機関に対して公共補償を行う場合の減耗分及び処分利益の取扱いは公共補償基準等に基づき適切に行われているか、これらに係る会計経理が適正に行われているかなどに着眼して、大阪局において、本件公共補償に係る協定書や工事の関係書類を確認するとともに、海上保安本部との本件公共補償についての協議状況、減耗分及び処分利益の精算状況を聴取するなどして会計実地検査を行った。

検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

(1) 既存庁舎等の減耗分の取扱いが適切に行われていない事態

本件公共補償は現物補償により行われ、かつ、既存庁舎等は、2年3月にその機能が廃止されていた。したがって、大阪局は、昭和57年3月等の既存庁舎等の築造時から令和2年3月の機能廃止の時までの減耗分について、前記のとおり、あらかじめ海上保安本部との間で精算等に関する協定を締結するなどして、海上保安本部から還付を受ける必要がある。

しかし、大阪局は、築造時から機能廃止の時までの経過年数等を勘案すると減耗分の額は数億円規模になると想定し、海上保安本部が減耗分に係る予算を確保することは困難であるなどと判断して、海上保安本部に対して減耗分を負担する必要があることを伝えておらず、減耗分の取扱いについて協議していなかった。

このため、前記の協定では、減耗分の取扱いについて定められておらず、大阪局は海上保安本部から減耗分の還付を受けていなかったことから、本来、海上保安本部が一般会計において負担すべき減耗分相当額を、大阪局が特別会計において負担している状況となっていた。

そこで、減耗分相当額を、公共補償基準等に基づき、築造時から機能廃止の時までの経過年数等により算定すると、955,639,105円となる。

(2) 既存庁舎等の処分利益の取扱いが適切に行われていない事態

撤去工事では、工事の過程で、鉄くずなどの有価物332.15tが発生していた(以下、撤去工事で発生した有価物を「工事発生有価物」という。)。工事発生有価物は、現物補償として実施した撤去工事において発生したものであるから、前記のとおり、大阪局が撤去工事の費用(165,720,000円)からその処分利益を控除するなどして精算を行う必要がある。

しかし、大阪局は、工事発生有価物は、海上保安本部が使用していた既存庁舎等の解体の過程で発生したものであることから、海上保安本部に引き渡す必要があるとして、工事発生有価物を自ら処分せず、海上保安本部に無償で引き渡していた。そして、海上保安本部は、大阪局に工事発生有価物の処分方法について確認を行い、大阪局から、海上保安本部において売払処分を行い一般会計の歳入として処理することとする旨の回答を受けた上で、2年8月に、引き渡された工事発生有価物を売り払い、処分利益の額7,475,050円を一般会計の歳入として処理していた。

このため、本来、大阪局が特別会計において支出する撤去工事の費用から控除するなどすべき処分利益の額7,475,050円が、海上保安本部において一般会計の歳入として処理されている状況となっていた。

したがって、本件公共補償に当たり、減耗分相当額955,639,105円について、一般会計において負担すべきであるのに特別会計において負担しており、また、処分利益の額7,475,050円について、特別会計において支出する撤去工事の費用から控除するなどすべきであるのに一般会計の歳入として処理されていて、計963,114,155円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、大阪局において、本件公共補償の実施に当たり、公共補償基準等における減耗分及び処分利益の取扱いについての理解が十分でなかったこと、特別会計を設置して一般会計と区分して経理することとした特会法の趣旨についての認識が欠けていたことなどによると認められる。