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  • 令和4年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • (1) 工事の設計が適切でなかったなどのもの

集水桝(ます)の設計が適切でなかったもの[2県](242)(243)


(2件 不当と認める国庫補助金 12,385,715円)

 
部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等
年度
事業費
国庫補助対象事業費
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
不当と認める国庫補助金等相当額
千円 千円 千円 千円
(242)
岩手県
一関市
防災・安全交付金
(下水道)
3
25,993
(24,000)
12,000 7,385
(6,819)
3,409
(243)
滋賀県
蒲生郡日野町
社会資本整備総合交付金
(下水道)
元、2
78,524
(77,785)
38,892 18,137
(17,951)
8,975
(242)(243)の計 104,517
(101,785)
50,892 25,523
(24,771)
12,385

これらの交付金事業は、雨水を河川に排水するなどのために、2県の2市町が一関市花泉天神前地内及び日野町大字日田地内において、集水桝(ます)、ボックスカルバート、側溝等の築造等を実施したものである。

このうち集水桝は、道路下を横断するボックスカルバートの接続部等に設置するもので、一関市は現場打ち無筋コンクリート造の集水桝4基の築造を、日野町は現場打ち鉄筋コンクリート造の集水桝5基と現場打ち無筋コンクリート造の集水桝3基の計8基の築造を、それぞれ実施している(参考図参照)。

これらの集水桝の設計について、一関市は「建設省制定土木構造物標準設計1 側こう類・暗きょ類」(社団法人全日本建設技術協会。以下「標準設計」という。)等に基づき、日野町は「設計便覧(案)」(国土交通省近畿地方整備局編)等に基づき、それぞれ行うこととしている。

そして、2市町は、本件工事の設計業務を設計コンサルタントに委託し、設計図面、設計計算書等の成果品を検査して受領した上で、この成果品に基づき施工することとしていた。

集水桝の設計に当たり、一関市は、標準設計の中から、設置箇所の条件に適合する標準図を選定し、この標準図に基づいて側壁、底版等の部材の形状や厚さを決定して、これにより施工していた。

また、日野町は、集水桝の側壁及び底版の部材に作用する土圧等の荷重を求めて、鉄筋コンクリート造の集水桝では、側壁及び底版の部材に配置する鉄筋の応力計算を行い、鉄筋に生ずる引張応力度(注1)が許容引張応力度(注1)を下回ること、無筋コンクリート造の集水桝では、側壁及び底版の部材のコンクリートの応力計算を行い、コンクリートに生ずる曲げ引張応力度(注2)が許容曲げ引張応力度(注2)を下回ることなどから、いずれも応力計算上安全であるとして、これにより施工していた。

(注1)
引張応力度・許容引張応力度  「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいい、その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。
(注2)
曲げ引張応力度・許容曲げ引張応力度  「曲げ引張応力度」とは、材の外から曲げようとする力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力のうち引張側に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいい、その数値が設計上許される上限を「許容曲げ引張応力度」という。

しかし、一関市は、集水桝4基のうち3基について、車両等が通行することが想定される路肩等に設置するため、自動車荷重の影響を考慮した標準図を選定すべきであったのに、誤って自動車荷重の影響を考慮しない場合に適用する標準図を選定していた。

また、日野町は、集水桝8基のうち5基(鉄筋コンクリート造2基、無筋コンクリート造3基)について、車両等が通行する道路等に設置するため、自動車荷重等の影響を考慮した応力計算を行うべきであったのに、誤ってこれを行っていなかった。さらに、上記とは別の鉄筋コンクリート造の集水桝2基の側壁及び底版に配置する鉄筋について、設計計算書とは異なった配置間隔により配筋図を作成していた。

そこで、2市町の集水桝について改めて応力計算を行ったところ、鉄筋コンクリート造の集水桝4基(日野町4基)については、底版の鉄筋に生ずる引張応力度が鉄筋の許容引張応力度を大幅に上回るなどしており、また、側壁や底版のコンクリートに生ずるせん断応力度(注3)、曲げ圧縮応力度(注4)及び付着応力度(注5)が、コンクリートの許容せん断応力度(注3)、許容曲げ圧縮応力度(注4)及び許容付着応力度(注5)をそれぞれ大幅に上回るなどしていて、いずれも応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

また、無筋コンクリート造の集水桝6基(一関市3基、日野町3基)については、側壁や底版のコンクリートに生ずる曲げ引張応力度及びせん断応力度が、コンクリートの許容曲げ引張応力度及び許容せん断応力度をそれぞれ大幅に上回っていて、いずれも応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

(注3)
せん断応力度・許容せん断応力度  「せん断応力度」とは、外力が材に作用し、これを切断しようとする力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいい、その数値が設計上許される上限を「許容せん断応力度」という。
(注4)
曲げ圧縮応力度・許容曲げ圧縮応力度  「曲げ圧縮応力度」とは、材に外から曲げようとする力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力のうち圧縮側に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいい、その数値が設計上許される上限を「許容曲げ圧縮応力度」という。
(注5)
付着応力度・許容付着応力度  「付着応力度」とは、外力が材に作用し、これを切断しようとする力がかかったとき、そのために材の内部の鉄筋とコンクリートの間に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいい、その数値が設計上許される上限を「許容付着応力度」という。

したがって、2市町が設置した集水桝計10基等(工事費相当額計25,523,652円、交付対象事業費計24,771,433円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態となっており、これらに係る交付金相当額計12,385,715円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、2市町において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのにこれに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

日野町は、令和元、2両年度に、ボックスカルバート、鉄筋コンクリート造の集水桝5基(高さ2.4m~3.0m、幅1.2m~4.5m)、無筋コンクリート造の集水桝3基(高さ1.1m~1.3m、幅0.9m)の築造等を実施していた。

同町は、鉄筋コンクリート造の集水桝5基の側壁及び底版に配置する鉄筋について、径13㎜又は径16㎜の鉄筋を12.5㎝間隔で配置すれば、鉄筋に生ずる引張応力度が許容引張応力度を下回ることなどから、応力計算上安全であるとしていた。また、無筋コンクリート造の集水桝3基について、鉄筋を配置しなくとも側壁及び底版の厚さを15.0㎝確保すれば、コンクリートに生ずる曲げ引張応力度が許容曲げ引張応力度を下回ることなどから、応力計算上安全であるとしていた。

しかし、同町は、鉄筋コンクリート造の集水桝5基のうち2基及び無筋コンクリート造の集水桝3基について、車両等が通行する道路等に設置するのに、設計に際して、自動車荷重を考慮するなどして応力計算を行っていなかった。また、設計計算書によれば、上記とは別の鉄筋コンクリート造の集水桝2基の側壁及び底版に配置する鉄筋について、径13㎜又は径16㎜の鉄筋を12.5㎝間隔に配置することとしていたが、配筋図を作成する際に、誤ってそれぞれの鉄筋を25㎝間隔で配置することとし、これにより施工していた。

そこで、上記の集水桝計7基について自動車荷重を考慮するなどして改めて応力計算を行ったところ、のとおり、側壁又は底版に生ずる応力度が許容応力度を大幅に上回るなどしていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

表 集水桝7基の側壁又は底版に生ずる応力度の最大値と許容応力度

(単位:N/mm2)
鉄筋コンクリート造の集水桝4基 無筋コンクリート造の集水桝3基
鉄筋 コンクリート コンクリート
許容引張応力度 引張応力度 許容せん断応力度 せん断応力度 許容曲げ圧縮応力度 曲げ圧縮応力度 許容付着応力度 付着応力度 許容曲げ引張応力度 曲げ引張応力度 許容せん断応力度 せん断応力度
底版 上段:側壁
下段:底版
底版 上段:側壁
下段:底版
底版 底版
160 312 0.32 0.36 8.0 12.9 1.6 2.1 0.22 2.09 0.33 0.60
0.38 0.73 4.8

したがって、本件集水桝7基等(工事費相当額18,137,768円(交付対象事業費17,951,858円)、交付金相当額8,975,928円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態となっていた。

(参考図)

集水桝の概念図

集水桝の概念図 画像