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  • 令和4年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

参考:報告書はこちら

第2 東日本大震災からの復興等に関する事業の実施状況等について


検査対象
国会、裁判所、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、238地方公共団体(11道県、227市町村)
復旧・復興事業の概要
国から財政支援等を受けて地方公共団体等が実施する補助事業等、復興関連基金事業、復興交付金事業、被災者支援総合交付金事業、福島再生加速化交付金事業等の事業
検査の対象とした復旧・復興事業に係る支出済額
38兆1711億円(平成23年度~令和2年度)
報告を行った年月日
令和5年2月3日

1 検査の状況の主な内容

本院は、東日本大震災からの復興等に関する事業の実施状況等について、合規性、効率性、有効性等の観点から、①東日本大震災復旧・復興関係経費に係る予算(以下「復旧・復興予算」という。)は、どのような経費に配分され執行されているか、また、復興財源はどのように確保されているか、事業規模に見合うものとなっているか、②「東日本大震災からの復興の基本方針」(平成23年7月。以下「復興基本方針」という。)において「復興期間」と位置付けられた平成23年度からの10年間(以下、この10年間を「復興期間(当初)(注1)」という。)において、国からの財政支援等を受けて地方公共団体等が実施する事業等の執行状況等はどのようになっているか、特に、地方公共団体等が国からの国庫補助金等の交付を受けて設置造成又は積増し(以下「設置造成等」という。)を行った基金により復旧・復興事業を実施する事業(以下「復興関連基金事業」という。)及び東日本大震災復興交付金(以下「復興交付金」という。)を原資として実施する事業(以下「復興交付金事業」という。)は、計画どおりに進捗し実施されているか、また、使用見込みのない額が基金に滞留するなどしていないか、③復興期間(当初)に実施された復旧・復興事業により、どのような施設等が整備され、これらによりどのような成果が得られているか、特に、津波防災に関する施策に係る事業は適切に実施され、災害に強い地域づくりに寄与しているか、復興交付金事業等による住宅や土地の整備等は被災者の住まいの再建等に寄与しているか、産業再生に関する事業は企業の立地や雇用の創出に寄与しているか、また、被災者支援に関する復旧・復興事業は、避難生活の長期化、復興の進捗等の状況に対応して実施されているか、④岩手、宮城、福島各県(以下「東北3県」という。)における避難者の状況はどのようになっているか、特に、原子力災害からの復興及び再生に向けて引き続き様々な取組が実施されている福島県における住民の帰還等の状況等はどのようになっているかに着眼して検査した。

(注1)
復興基本方針において、復興期間(当初)のうち当初の5年間は「集中復興期間」と位置付けられた。また、平成27年6月に決定された「平成28年度以降の復旧・復興事業について」において、28年度からの5年間は、「復興・創生期間」と位置付けられた。その後、令和2年7月に決定された「令和3年度以降の復興の取組について」において、復興期間は3年度から7年度までの5年間を含む15年間とされ、平成28年度から令和2年度までは「第1期復興・創生期間」、3年度から7年度までの5年間は「第2期復興・創生期間」と位置付けられた(以下、第1期復興・創生期間を「平成28年度以降の復旧・復興事業について」と同様に「復興・創生期間」という。)。

検査の状況の主な内容は次のとおりである。

(1) 復旧・復興予算の執行状況等

ア 復旧・復興予算の歳出予算額及び執行状況

復興期間(当初)において各年度に措置された予算現額の合計額44兆7478億余円の令和2年度末現在における執行状況は、支出済額38兆1711億余円、翌年度繰越額(以下「繰越額」という。)4317億余円、不用額6兆1448億余円であり、復興期間(当初)全体の執行率は85.3%、繰越率は0.9%、不用率は13.7%となっていた(注2)

(注2)
令和2年度までの各年度予算の執行状況を予算措置年度別の予算現額ごとに、当該予算措置年度の翌年度以降の執行状況も含めて分析した。すなわち、予算現額は、歳出予算額(当初予算額、補正予算額及び予算移替額の合計)に予備費使用額及び流用等増減額を加減したものとしており、前年度から繰り越された額は含めていない。支出済額は、当該予算措置年度における支出済額に、繰越額として翌年度以降に支出された額も含めている。また、繰越額は、予算措置年度別の予算現額が2年度末現在で繰り越されている額を、不用額は、予算措置年度別の予算現額が2年度末までに不用とされている額を示している。すなわち、執行率、繰越率及び不用率はそれぞれ復旧・復興事業に係る支出済額、繰越額及び不用額の予算現額に対する割合であり、また、繰越率及び不用率は、それぞれ予算措置年度別の予算現額が、2年度末現在でどの程度繰り越され、又は、2年度末までにどの程度不用とされたかを示している。

イ 予算の経費の内容から区分した項目別の執行状況

復旧・復興予算の支出済額を予算の経費の内容から区分した項目ごとにみると、「復興関係公共事業等」7兆7456億余円、「原子力災害復興関係経費」6兆1223億余円、「地方交付税交付金」5兆8790億余円、「東日本大震災復興交付金」3兆3281億余円等となっている。

ウ 財源等の内容から区分した項目別の歳入の状況

復旧・復興事業の財源等の決算額を財源等の内容から区分した項目ごとにみると、「復興特別所得税」3兆0830億余円、「復興特別法人税」2兆2995億余円、「一般会計より受入」10兆3057億余円、「復興公債金」17兆3933億余円等となっている。

エ 復興債の発行及び償還の状況

復興債(注3)の発行状況をみると、発行計画額計22兆5395億円に対して発行実績額は計17兆3933億余円、復興債の2年度末現在額は6兆7845億余円となっている。

(注3)
復興債  東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号。以下「復興基本法」という。)第8条で定める復興に必要な資金を確保するため、復興期間中に実施する施策に必要な財源を確保するための特別措置について定めた「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号)に基づき発行される公債

オ 復興財源フレームの状況

2年度末現在の事業規模及び財源の状況をみると、事業規模は、復興期間(当初)の事業費31.3兆円程度に第2期復興・創生期間における事業費1.6兆円程度を加えて計32.9兆円程度、財源は、既に収納されているものに3年度以降に収納するものを含めると計32.9兆円程度となり、財源は事業規模に見合うものと見込まれた。

(2) 国から財政支援等を受けて地方公共団体等が実施する復旧・復興事業の状況

復興期間(当初)の10か年度に東日本大震災復旧・復興関係経費として国から交付された、財政支援等における国庫補助金等及び地方交付税のうち、特定被災自治体(注4)に交付されたものは計19兆3389億余円、このうち東北3県に交付されたものが計17兆6796億余円となっていて、全体の91.4%を占めている。

(注4)
特定被災自治体  次の①から③までの11道県及び管内227市町村

① 「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」(平成23年法律第40号)第2条第2項に規定する地方公共団体(以下「特定被災地方公共団体」という。)である青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉、新潟、長野各県

② 特定被災地方公共団体である市町村及びその区域が特定被災区域(同条第3項に規定する区域をいう。)内にある特定被災地方公共団体以外の市町村

③ ①の9県以外で特定被災地方公共団体である市町が所在する北海道及び埼玉県

ア 復興関連基金事業の実施状況

復興関連基金事業の実施状況をみると、186事業に係る国庫補助金等交付額計5兆1322億余円、取崩額計3兆8223億余円、国庫補助金等交付額に対する取崩額の割合(以下「基金事業執行率」という。)は74.4%となっている。そして、復興関連基金事業の終了予定年度が3年度以降である109事業のうち、国からの国庫補助金等の交付を受けて基金を設置造成等した地方公共団体、公益法人その他の団体(以下「基金団体」という。)が公益財団法人等である59事業に係る19基金の基金事業終了年度までに必要な基金事業費に対する基金残額の割合(以下「保有割合」という。)をみると、2年度末現在で59事業のうち15事業に係る3基金の保有割合が1を上回っており、最大で1.85となっているなどしている。

イ 復興交付金事業の実施状況

復興交付金事業の実施状況をみると、特定被災自治体のうち8道県及び99市町村に復興交付金計3兆3283億余円が交付されていて、このうち基金型事業を選択しているのは7県及び89市町村で、交付額は計3兆3248億余円、取崩額は計3兆1318億余円、基金事業執行率は94.1%となっている。復興交付金は、2年6月の東日本大震災復興特別区域法(平成23年法律第122号)の改正により、2年度をもって廃止することとされたが、その後に改正された東日本大震災復興交付金制度要綱(平成24年府復第3号等)によれば、2年度中に完了しない場合には、復興交付金事業の計画期間の最終年度を3年度に変更する手続を行った上で実施することとされた。さらに、3年度中に生じた避け難い事故により完了しない場合には、計画期間の最終年度を4年度に変更する手続を行った上で4年度の確実な事業完了に向け必要な措置を講ずることとされている。復興交付金事業の完了等の状況をみると、基幹事業2,911事業のうち、中止又は廃止となった108事業を除き、2年度末までに完了したものが2,656事業、3年度中に完了したものが103事業となっていたが、残りの44事業は4年度に延長して実施されている。復興庁は、4年度に復興交付金事業を実施する特定被災自治体に対して、自らの責任において同年度中に確実に事業を完了するよう求めている。

(3) 復旧・復興事業の実績及び成果の状況

ア 津波防災に関する施策に係る復旧・復興事業の実績及び成果

(ア) 防潮堤の整備状況

沿岸37市町村(注5)に所在する海岸保全区域に係る583海岸のうち、復興期間(当初)において津波等の災害を防止するために設置された堤体、水門等(以下、これらを合わせて「防潮堤」という。)が完成した海岸数は444海岸、完成率は76.1%となっている(3年度末現在、完成した海岸数は537海岸、完成率92.1%)。また、市町村別の完成率をみると、21市町村では80%以上、このうち13市町村では100%となっている一方、3町では50%未満となっている。3町のうち福島県双葉郡大熊、双葉両町では、完成していない防潮堤の整備予定地が全て帰還困難区域(注6)となっているため、完成率が低くなっている。

(注5)
沿岸37市町村  岩手県の宮古、大船渡、久慈、陸前高田、釜石各市、上閉伊郡大槌、下閉伊郡山田、岩泉、九戸郡洋野各町、下閉伊郡田野畑、普代、九戸郡野田各村、宮城県の仙台、石巻、塩竈、気仙沼、名取、多賀城、岩沼、東松島各市、亘理郡亘理、山元、宮城郡松島、七ヶ浜、利府、牡鹿郡女川、本吉郡南三陸各町、福島県のいわき、相馬、南相馬各市、双葉郡広野、楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江、相馬郡新地各町
(注6)
帰還困難区域  平成24年3月時点での空間線量率から推定された年間積算線量が50mSv(Sv(シーベルト)は人体の被ばくによる生物学的影響の大きさ(線量当量)を表す単位)を超えていて、事故発生後6年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれがある地域

なお、地域によっては、地域住民等との調整により防潮堤の高さが当初設計に基づくものよりも低くなったものもあり、このような場合には、復興基本方針で掲げられているような「多重防御」の発想による対策がより重要となると考えられる。

(イ) 津波災害警戒区域の指定、津波避難計画の策定、避難対象地域の指定及び避難困難地域の設定の状況

東北3県における津波災害警戒区域の指定の状況についてみると、2年度末現在でいずれの県においても津波災害警戒区域は指定されていない(4年9月末現在においても同様)。沿岸31市町村(注7)における津波避難計画(注8)の策定状況、避難対象地域の指定及び避難困難地域の設定の状況をみると、2年度末現在で津波避難計画は全ての市町村で策定されていて、避難対象地域は、該当する地域がない2市を除いた29市町村のうち7市町で指定されておらず、避難困難地域は、該当する地域がない10市町村を除いた21市町村のうち10市町で設定されていない。

(注7)
沿岸31市町村  沿岸37市町村のうち、福島県の南相馬市、双葉郡楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町の計6市町を除いた31市町村で、会計検査院法第30条の3の規定に基づく平成29年4月12日の報告に係る会計実地検査実施箇所である。
(注8)
津波避難計画  市町村が住民等の生命及び身体の安全を確保するための避難対策について定める計画

イ 住まい、市街地等の整備に関する復旧・復興事業の実績及び成果

(ア) 恒久住宅の供給等の状況
a 災害公営住宅整備事業等による恒久住宅の供給

災害公営住宅の整備状況をみると、計画戸数29,806戸に対して29,653戸が完成し、完成率(計画戸数に対する整備済戸数の割合)は99.4%となっており、災害公営住宅の整備はおおむね完了しているものの、福島県において整備が4年以上保留されていて、原子力災害による避難者のための災害公営住宅の宅地として利用されていない土地がある。同県は、帰還に向けての環境整備の進捗状況等を総合的に踏まえて、保留を継続するとしている。

b 災害公営住宅の入居等の状況

災害公営住宅の入居の状況をみると、管理戸数29,589戸のうち27,410戸が入居済み又は入居手続中であり、2,179戸が入居者未定で空室となっている。また、東北3県における被災者以外の者の入居を可能とする取扱いとされた災害公営住宅への被災者以外の者の入居戸数の状況をみると、29,589戸のうち2,613戸(8.8%)となっている。

(イ) 都市再生区画整理事業の実施状況等

都市再生区画整理事業のうち被災市街地復興土地区画整理事業により整備された土地の面積及び整備された面積に対する利用されている土地(駐車場等の一時的な利用も含む。)の面積の割合(以下「利用率」という。)をみると、整備された面積は、21市町村計で住宅が立地する地区が471ha、商工業施設等が立地する地区が435ha、行政機関、消防等防災施設、公園等が立地する地区が408haとなっていて、それぞれの利用率は69.2%、73.7%、96.8%となっている。

ウ 産業再生に関する復旧・復興事業の実績及び成果

(ア) 中小企業者等の事業に係る施設等の復旧状況

東北3県において中小企業組合等共同施設等災害復旧費補助金の交付決定を受けた延べ12,505事業者のうち延べ9,148事業者が事業を完了しているが、資金や用地の確保が困難となったことなどから延べ569事業者が事業を廃止し又は取り消しているほか、延べ2,788事業者が事業を延期するなどしている。

(イ) 企業立地支援による復旧・復興の状況

津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金による事業、地域経済産業復興立地推進事業費補助金による事業及び自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金による事業の各事業を合わせた採択事業者数1,668事業者のうち、事業を完了した事業者は867事業者、辞退等事業者数は509事業者となっていて、辞退等事業者数の割合は30.5%となっている。また、新規地元雇用者数について、採択事業者に係る見込数と完了事業者に係る実績数とを比較すると、両者に開差が生じている事業があり、これは、事業を実施中で完了していない事業者や、採択後又は交付決定後に事業を辞退した事業者があることなどのためである。

エ 被災者支援に関する復旧・復興事業の実績及び成果

(ア) 相談活動の実施回数

被災者の孤立防止や心のケアを図るための訪問等(以下「相談活動」という。)の実施回数については減少傾向にあるが、事業実施主体によると、避難等で家族構成が変化したことなどにより、支援を必要とする高齢者世帯や単身者世帯等が増加していることから、これらの者の孤独死を未然に防ぐなどのためにも、復興・創生期間後においても、引き続き相談活動の実施が必要であるとしている。

(イ) 交流活動の実施回数

地域住民と融合しコミュニティの形成を図るための交流会、イベントの開催等(以下「交流活動」という。)の実施回数は、複数の事業について元年度から2年度で大きく減少しているが、事業実施主体によると、避難指示が解除された地区において、地域住民同士のつながりの修復が必要であるという課題が残っていることなどから、復興・創生期間後も引き続き交流活動の実施が必要であるとしている。

(ウ) 第2期復興・創生期間に向けての被災者支援総合交付金事業に関する取組

国は、元年12月に「「復興・創生期間」後における東日本大震災からの復興の基本方針」を定めて、復興・創生期間後の各分野における取組、復興を支える仕組み及び組織についての方針を示し、その後、3年3月に同基本方針の見直しを行っている(以下、見直し後の基本方針を「3年基本方針」という。)。被災者支援については、3年基本方針において、東日本大震災の影響によりケアが必要な高齢者等の被災者に対する心のケア等の被災者支援が第2期復興・創生期間の取組事項として掲げられており、被災者支援総合交付金の東北3県及び管内市町村以外の事業実施主体分を含めた3年度の予算額も125億余円となっていて、引き続き被災者支援総合交付金を原資として実施する被災者支援総合交付金事業の実施が見込まれる。

オ 住民の帰還等の状況等

(ア) 東北3県における避難者数の状況

復興庁は、全国避難者情報システムにより避難先市町村が把握している避難者数を調査して公表しているが、復興庁が公表している避難者数の中には、既に避難を終了したと考えられる者が多数含まれており、復興庁が公表している宮城県の県外避難者数は、同県の把握している県外避難者数と大きくかい離していた。復興庁は、同県が把握している避難者数について確認したり、避難先市町村と共有するようにしたりなどして、かい離の解消に努めるとしている。

(イ) 福島県における住民の帰還等の状況

平成26年4月以降、避難指示解除準備区域(注9)及び居住制限区域(注10)の避難指示は順次解除され、復興期間(当初)の終了時点までに、7市町村(注11)に設定されている帰還困難区域を除き、全ての避難指示解除準備区域及び居住制限区域の避難指示が解除されている(以下、避難指示区域が設定され、又は避難指示が解除されるなどした区域が所在する12市町村(注12)を「避難指示・解除区域市町村」という。)。避難指示・解除区域市町村別に22年と令和2年の人口を比較すると、2年度末現在で区域内に帰還困難区域が設定されている大熊町等5町村の減少率は70%を超えている。また、平成23年3月11日現在の住民登録数に対する令和2年7月1日現在の帰還者数の割合をみたところ、田村市、双葉郡広野町及び川内村では50%を超えているが、区域内に帰還困難区域が設定されている町村では低くなっていて、特に、双葉郡富岡、大熊、浪江各町の同割合は5%未満となっているなどしている。住民の帰還促進は、3年3月に改定された福島復興再生基本方針において、引き続き重要な課題であるとされており、現在、避難指示・解除区域市町村は様々な帰還環境整備事業(福島再生加速化交付金を原資として実施する福島再生加速化交付金事業の交付対象項目である帰還環境整備の交付対象事業。以下同じ。)を実施しているが、複数の市町村では、避難指示の解除後も住民の帰還が順調に進んでいないため、利用されないままとなっているなどの施設が見受けられた。

(注9)
避難指示解除準備区域  平成24年3月時点での空間線量率から推定された年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された地域
(注10)
居住制限区域  平成24年3月時点での空間線量率から推定された年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあると確認されていて、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難の継続を求める地域
(注11)
7市町村  南相馬市、双葉郡富岡、大熊、双葉、浪江各町、双葉郡葛尾、相馬郡飯舘両村
(注12)
12市町村  田村、南相馬両市、伊達郡川俣、双葉郡広野、楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町、双葉郡川内、葛尾、相馬郡飯舘各村
(ウ) 認定復興再生計画による帰還のための取組の実施状況

平成29年5月の福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号。以下「福島特措法」という。)の改正により、内閣総理大臣は、帰還困難区域等をその区域に含む市町村の長が申請した「特定復興再生拠点区域の復興及び再生を推進するための計画」(以下「復興再生計画」という。)が福島復興再生基本方針に適合することなどの基準に適合すると認めるときは、復興再生計画を認定するとされていて、帰還困難区域が設定されている7市町村のうち、南相馬市を除く6町村は、復興再生計画を申請し、内閣総理大臣による認定を受けている(以下、内閣総理大臣の認定を受けた復興再生計画を「認定復興再生計画」という。)。復興再生計画を作成した6町村のうち、令和4年6月に双葉郡葛尾村及び大熊町の特定復興再生拠点区域全域の避難指示が、8月に双葉町の特定復興再生拠点区域全域の避難指示が解除された。6町村の認定復興再生計画に基づく事業等の進捗状況を確認したところ、4年6月時点において未着手又は実施中となっている事業等が多数見受けられ、認定復興再生計画に記載された事業等のうち完了している事業等が占める割合は、おおむね10%台にとどまっている状況となっている。復興庁は、認定復興再生計画は福島特措法等において、計画期間終了後、国による検証等を行うこととなっていないとしている。

2 検査の状況に対する所見

復興期間(当初)における国や地方公共団体等の取組により、復興期間(当初)が終了した時点において、地震・津波被災地域では、住まいの再建・復興まちづくりはおおむね完了し、産業・生業の再生も一定程度進展している。一方で、原子力災害被災地域においては、いまだに帰還困難区域が設定されているなどしていて、多くの住民が避難生活を余儀なくされている状況となっており、帰還困難区域では、可能なところから段階的に、一日も早い復興を目指した各種の復旧・復興事業が行われるなどしている。

そして、3年基本方針によれば、復興の進展に伴い、引き続き対応が必要となる事業や新たな課題も明らかとなっているとして、地震・津波被災地域においては、復興の総仕上げの段階に入っている一方で、今後も一定の支援が必要な心のケア等の被災者支援、住まいとまちの復興等の取組を行うこと、原子力災害被災地域においては、復興・再生には中長期的な対応が必要であり、本格的な復興・再生に向けた帰還・移住等の促進等の取組を行うことなどとされている。ついては、復興庁及び関係府省等は連携して、国及び地方公共団体が行う施策が復興基本法に定める基本理念に即して更なる復旧・復興の進展につながるよう、今後も次の点に留意するなどして、第2期復興・創生期間における復興施策の推進及び支援に適切に取り組む必要がある。

ア 復興期間(当初)に実施された各種事業に係る予算執行の実績等を踏まえて、東北3県等との緊密な連絡調整を行うことなどにより、第2期復興・創生期間において各種事業が円滑かつ着実に実施されるよう努めること

イ 3年度以降に終了することとなっている復興関連基金事業について、基金事業終了年度までに必要な基金事業費よりも基金残額が上回っているものが見受けられることから、基金団体が地方公共団体である基金を含め、引き続き、使用見込みのない余剰金等が生じていないか確認するなど、資金が有効に活用されるよう、基金団体と十分に連携して適切な基金の執行管理を行うこと。また、復興交付金事業について、3年度中に完了せず4年度に延長して実施されている事業が同年度中に完了するよう助言等を行うこと

ウ 津波防災に関する施策に係る復旧・復興事業について、引き続き、災害に強い地域が形成されるよう、警戒避難体制の整備を進めていくなどして、「多重防御」のための施策を円滑に遂行していくよう助言等を行っていくこと。住まい、市街地等の整備に関する復旧・復興事業について、復興交付金事業等により整備された住宅の入居状況や土地の利用状況を踏まえ、新たな整備について慎重に検討するなどの必要な助言等を行っていくこと。産業再生に関する復旧・復興事業について、引き続き、被災地における企業立地の進展により新規雇用を創出するために、事業を実施して新規地元雇用者数を確保できるよう支援するとともに、事業完了後も継続して雇用が確保されるよう助言等を行っていくこと

エ 被災者支援に関する復旧・復興事業について、引き続き、東北3県等における課題等を把握して、支援・助言等を行っていくとともに、東北3県等からの要望も踏まえつつ、適切に事業内容の見直しを図るなどの取組を行っていくこと

オ 東北3県における避難者数を正確に把握したり、帰還環境整備事業により整備された施設の利用状況等を把握したり、帰還困難区域が設定されている市町村の課題等を把握したりなどして、これらを踏まえて支援・助言等を行っていくこと

本院としては、今後も復興等に関する事業の実施状況について引き続き注視していくこととする。