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  • 令和4年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

第2 食料の安定供給に向けた取組について


検査対象
農林水産省
食料の安定供給に向けた取組の概要
国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせることにより食料の安定的な供給を確保し、不測の事態が生じた場合にも、国民が最低限度必要とする食料の供給が確保されるよう食料・農業・農村基本法等に基づき実施される各種施策等
食料の安定供給に向けた取組に係る執行額
16兆4654億円(平成29年度~令和4年度)

<構成>

1 検査の背景(a1リンク参照)

(1) 食料の安定供給の概要等(a1_1リンク参照)

ア 食料の安定供給の概要(a1_1_1リンク参照)

イ 食料自給率の概要等(a1_1_2リンク参照)

(2) 社会情勢の変化及び国内の対応(a1_2リンク参照)

ア 食料安全保障強化政策大綱の策定(a1_2_1リンク参照)

イ 基本法の見直し(a1_2_2リンク参照)

(3) 食料の安定供給に向けた取組等と政策評価体系との関係(a1_3リンク参照)

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法(a2リンク参照)

(1) 検査の観点及び着眼点(a2_1リンク参照)

(2) 検査の対象及び方法(a2_2リンク参照)

3 検査の状況(a3リンク参照)

(1) 食料の安定供給に向けた取組に係る執行額等(a3_1リンク参照)

ア 政策分野別の執行額(a3_1_1リンク参照)

イ 生産の増大、輸入及び備蓄に係る取組別の執行額(a3_1_2リンク参照)

(2) 食料の安定供給に向けた取組の実施状況(a3_2リンク参照)

ア 生産の増大に係る取組(a3_2_1リンク参照)

イ 輸入に係る取組(a3_2_2リンク参照)

ウ 備蓄に係る取組(a3_2_3リンク参照)

(3) 総合食料自給率等の指標に係る目標の達成状況等及び検証状況(a3_3リンク参照)

ア 供給熱量ベースの総合食料自給率に係る目標の達成状況等(a3_3_1リンク参照)

イ 小麦、大豆及び飼料作物に係る指標の推移等(a3_3_2リンク参照)

ウ 農地及び農業労働力の確保に係る指標の見通し及び実績(a3_3_3リンク参照)

エ 生産資材に係る指標に係る目標の達成状況(a3_3_4リンク参照)

オ 総合食料自給率等の指標の検証状況(a3_3_5リンク参照)

4 本院の所見(a4リンク参照)

1 検査の背景

(1) 食料の安定供給の概要等

ア 食料の安定供給の概要

農林水産省は、食料の安定的な供給について、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号。以下「基本法」という。)に基づき、世界の食料の需給及び貿易が不安定な要素を有していることに鑑み、国内の農業生産の増大(以下、国内の林業及び水産業における食料の生産の増大と合わせて「生産の増大」という。)を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせることにより確保することとしている。

また、凶作や輸入の途絶等の不測の事態が生じた場合にも、国民が最低限度必要とする食料の供給が確保されるよう食料安全保障の確立を図ることとしている。

基本法によれば、政府は、食料、農業及び農村に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、食料・農業・農村基本計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならないとされている。そして、基本計画において、①食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針、②食料自給率の目標、③食料、農業及び農村に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策等について定めるものとされている。また、政府は、食料、農業及び農村をめぐる情勢の変化を勘案し、並びに食料、農業及び農村に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね5年ごとに、基本計画を変更するものとされている(以下、平成12年、17年、22年、27年及び令和2年に策定された基本計画をそれぞれ「平成12年基本計画」「平成17年基本計画」「平成22年基本計画」「平成27年基本計画」及び「令和2年基本計画」という。)。

イ 食料自給率の概要等

(ア) 食料自給率の概要

基本計画によれば、食料自給率は、国内の食料供給に対する国内生産の割合を示すものとされている。そして、図表1のとおり、その示し方には総合食料自給率と品目別自給率があり、総合食料自給率には、更に供給熱量ベース及び生産額ベースがある。

図表1 食料自給率の種類及び概要

食料自給率の種類 概要
総合食料自給率 食料全体について共通の尺度で単位を揃えることにより計算して国内の食料供給に対する国内生産の割合を示す指標
供給熱量ベース  基礎的な栄養価であるエネルギーに着目して、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標
 国民の生命と健康の維持に不可欠な最も基礎的な物資である食料の供給の実態がより反映されるという特徴を有し、食料安全保障の状況を評価する観点からは、その実態を測るのに適しているとされている。
(計算式) 供給熱量ベースの総合食料自給率
=1人1日当たり国産供給熱量/1人1日当たり総供給熱量
生産額ベース  経済的価値に着目して、国民に供給される食料の国内消費仕向額(注)に対する国内生産の割合を示す指標
 高度な生産管理により高品質な農産物等を生み出すという我が国農林水産業の強みがより適切に反映されるなどの特徴を有し、農業の経済活動の状況を評価する観点からは、その実態を測るのに適しているとされている。
(計算式) 生産額ベースの総合食料自給率
=食料の国内生産額/食料の国内消費仕向額
品目別自給率
(重量ベース)
 品目別に国内消費仕向量(注)に対する国内生産の割合を示す指標
(計算式) 品目別自給率=国内生産量/国内消費仕向量
品目別供給熱量自給率  国民に供給される品目別の熱量に対する国内生産の割合を示す指標
(計算式) 品目別供給熱量自給率
=当該品目の1人1日当たり国産供給熱量/当該品目の1人1日当たり供給熱量
  • (注) 国内消費仕向量及び国内消費仕向額とは、1年間に国内で消費に回された食料の量(額)を表すもので、国内生産量(額)と輸入量(額)の合計から輸出量(額)を差し引くなどして計算される。

食料自給率の目標は、基本法によれば、その向上を図ることを旨とし、国内の農業生産及び食料消費に関する指針として、農業者その他の関係者が取り組むべき課題を明らかにして定めるものとされており、平成12年基本計画の策定以降、消費の見通しや消費者ニーズを踏まえた基本計画期間内における実現可能性を考慮して、基本計画において、総合食料自給率の目標が設定されている。そして、各基本計画に定められた総合食料自給率の目標については、図表2のとおりとなっていて、令和2年基本計画においては、12年度を目標年度として、供給熱量ベースの総合食料自給率で45%となっている。また、我が国の総合食料自給率は、図表2のとおり、長期的に低下傾向で推移してきたが、近年はおおむね横ばいとなっていて、4年度の供給熱量ベースの総合食料自給率は38%となっている。

図表2 各基本計画に定められた総合食料自給率の目標及び我が国の総合食料自給率の推移

図表2 各基本計画に定められた総合食料自給率の目標及び我が国の総合食料自給率の推移 画像

基本計画によれば、総合食料自給率の目標は、品目(注1)ごとに食料消費の見通し及び生産努力目標を示した上で設定することとされている。また、基本計画と共に公表されている参考資料には、総合食料自給率の目標の前提としたデータとして、品目ごとの食料消費の見通しや生産努力目標のほかに、主要品目の10a当たりの収量(以下「単収」という。)、作付面積、品目別自給率等の指標ごとの目標が示されている。

(注1)
品目  令和2年基本計画においては、米(米粉用米、飼料用米を除く。)、米粉用米、飼料用米、小麦、大麦・はだか麦、大豆、そば、かんしょ、ばれいしょ、なたね、野菜、果実、てん菜、さとうきび、茶、生乳、牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵、飼料作物、魚介類、海藻類及びきのこ類が示されている。

総合食料自給率と品目ごとの食料消費の見通し及び生産努力目標等との関係を示すと、図表3のとおりである。

図表3 総合食料自給率と品目ごとの食料消費の見通し及び生産努力目標等との関係

図表3 総合食料自給率と品目ごとの食料消費の見通し及び生産努力目標等との関係 画像

(イ) 我が国の4年度における供給熱量ベースの総合食料自給率等の状況

(ア)図表1のとおり、食料安全保障の状況を評価する観点からは、供給熱量ベースの総合食料自給率が、その実態を測るのに適しているとされており、4年度の供給熱量ベースの総合食料自給率は、前記のとおり38%となっている。そして、図表4のとおり、1人1日当たり総供給熱量は2,260kcalであり、供給熱量を品目別にみると、米、畜産物、油脂類、小麦、砂糖類、魚介類及び大豆の供給熱量が大きく、これらの品目で計1,846kcalとなっていて、全体の約8割を占めている。

また、4年度の品目別供給熱量自給率についてみると、上記品目のうち、畜産物、油脂類、小麦及び大豆は30%を下回っており、海外依存度が比較的高い品目となっている。そして、畜産物については、国内で生産されたもののうち国産飼料(注2)により生産された分に係る供給熱量を基に計算しているため品目別供給熱量自給率が17%と低くなっているが、輸入飼料により生産された分を加えて計算すると63%となることから、畜産物の品目別供給熱量自給率が低い要因は飼料の自給率が低いことにあるとされている(4年度の国内に供給される飼料に対する国内生産の割合である飼料自給率は26%)。

(注2)
飼料  飼料は、生草、乾草等の繊維質を多く含む粗飼料と、穀類、大豆油粕等のたんぱく質や炭水化物を多く含む濃厚飼料とに分類される。また、粗飼料は更に良質粗飼料と低質粗飼料に分類され、基本計画に示された品目の飼料作物は良質粗飼料に該当する。

図表4 令和4年度の1人1日当たり総供給熱量の品目別の内訳

図表4 令和4年度の1人1日当たり総供給熱量の品目別の内訳 画像

(2) 社会情勢の変化及び国内の対応

平成11年の基本法制定後20年以上が経過し、その間に基幹的農業従事者(注3)が半減し、その高齢化が進むなど、我が国の農業環境は大きく変化している。さらに、近年の気候変動等による世界的な食料生産の不安定化、世界的な食料需要の拡大に伴う調達競争の激化、ウクライナ情勢の緊迫化等に伴う輸入食品原材料や肥料、飼料等の生産資材の価格高騰等を背景として、政府は、食料安全保障の強化が国家の喫緊かつ最重要課題となっているとしている。

(注3)
基幹的農業従事者  15歳以上の世帯員のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している者

ア 食料安全保障強化政策大綱の策定

食料安定供給・農林水産業基盤強化本部(内閣に設置され、内閣総理大臣を本部長、内閣官房長官及び農林水産大臣を副本部長として関係閣僚が参加)は、近年の急激な食料安定供給リスクの高まりに鑑み、早期に食料安全保障の強化を実現していく必要があるとして、令和4年12月に「食料安全保障強化政策大綱」(以下「大綱」という。)を策定した。大綱においては、食料安全保障の強化のための重点対策として、海外依存度が高い麦、大豆、飼料作物等の生産拡大等を推進する「食料安全保障構造転換対策(過度な輸入依存からの脱却に向けた構造的な課題への対応)」等が掲げられ、農林水産物・生産資材共に、過度に輸入に依存する構造を改め、生産資材の国内代替転換や備蓄、輸入食品原材料の国産転換等を進めて、耕地利用率や農地の集積率等も向上させつつ、更なる食料の安全保障の強化を図ることなどとされた。

イ 基本法の見直し

前記のような社会情勢の変化を受けて、4年9月以降、農林水産省に設置された食料・農業・農村政策審議会(以下「審議会」という。)において、5年度中の基本法の改正案の国会提出を視野に入れて、基本法の検証・検討が進められ、5年9月に農林水産大臣に対する答申が行われた。同答申では、平時から食料安全保障の達成を図るなど、今後20年の変化を見据えて、現行の基本法の基本理念や主要施策等を見直すこととされた。また、食料自給率については、国内生産と消費に関する目標の一つとし、それに加えて、新たに策定される基本計画において整理される課題に適した数値目標等を設定することとされた。

(3) 食料の安定供給に向けた取組等と政策評価体系との関係

農林水産省は、行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号)に基づく政策評価の実施に当たり、基本法に基づく基本計画等を踏まえて政策評価体系を構築している。

農林水産省は、同省が実施している事業については、その大部分が食料の安定供給に資することから、食料を対象としないなどの食料の安定供給に資さない一部の事業を除き、食料の安定供給に向けた取組に係る事業に該当するとしている。同省における食料の安定供給に向けた取組について、基本法、基本計画、食料自給率の目標等も含めて、政策評価体系との関係を示すと図表5のとおりである。

図表5 食料の安定供給に向けた取組等と政策評価体系との関係

図表5 食料の安定供給に向けた取組等と政策評価体系との関係 画像

農林水産省は、政策評価において、政策の効果の測定指標及び目標を政策分野単位で定めて目標の達成状況を評価しているが、食料自給率の目標については、政策評価体系に位置付けられていないことなどから、その達成状況を評価、検証等することとはなっていない(図表5参照)。これについて、同省は、食料自給率は農林水産行政の総合的な推進に加えて外交、経済等の様々な要因により決定されるものであり、各施策は各政策分野において定められた効果の測定指標等により評価されることになるためであるとしている。

そして、3(2)に記述する食料の安定供給に向けた取組及び大綱で示された食料安全保障の強化のための重点対策が、それぞれ政策評価体系のどの政策分野に位置付けられるかについて整理すると、図表6のとおりである。

図表6 食料の安定供給に向けた取組及び大綱で示された食料安全保障の強化のための重点対策と政策評価体系における各政策分野との関係

政策評価体系
大綱
注(2)
大目標
(使命)
食料の安定供給の確保、農林水産業の発展、農山漁村の振興、農業の多面的機能の発揮、森林の保続培養と森林生産力の増進、水産資源の適切な保存・管理等を通じ、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展を図る。 食料の安定供給に向けた取組

生産の増大 注(3) 輸入 備蓄
中目標 小麦、大豆、
飼料作物
農地 農業
労働力
生産
資材
政策分野
1 食料の安定供給の確保
① 新たな価値の創出による需要の開拓
② グローバルマーケットの戦略的な開拓
③ 消費者と食・農とのつながりの深化
④ 食品の安全確保と消費者の信頼の確保
⑤ 総合的な食料安全保障の確立
2 農業の持続的な発展
⑥ 担い手の育成・確保等と農業経営の安定化
⑦ 農地集積・集約化と農地の確保
⑧ 農業の成長産業化や国土強靱化に資する農業生産基盤整備
⑨ 需要構造等の変化に対応した生産基盤の強化と流通・加工構造の合理化
⑩ 農業のデジタルトランスフォーメーションの推進
⑪ イノベーション創出・技術開発の推進
⑫ 環境政策の推進
3 農村の振興
⑬ 地域資源を活用した所得と雇用機会の確保
⑭ 農村に人が住み続けるための条件整備
⑮ 農村を支える新たな動きや活力の創出
4 東日本大震災からの復旧・復興と大規模自然災害への対応
⑯ 東日本大震災からの復旧・復興
⑰ 大規模自然災害への備え
⑱ 大規模自然災害からの復旧
5 森林の有する多面的機能の発揮と林業・木材産業の持続的かつ健全な発展
⑲ 森林の有する多面的機能の発揮
⑳ 林業の持続的かつ健全な発展
㉑ 林産物の供給及び利用の確保
6 水産物の安定供給と水産業の健全な発展
㉒ 水産資源管理の着実な実施
㉓ 水産業の成長産業化の実現
㉔ 漁村の活性化の推進
7 横断的に関係する政策
㉕ 政策ニーズに対応した統計の作成と利用の推進
  • 注(1) 令和4年度政策評価体系等に基づき本院が作成した。
  • 注(2) 大綱における食料安全保障の強化のための重点対策を示す。同対策は、食料の安定供給に向けた取組に含まれるが、本図表では大綱と政策評価体系における各政策分野との関係を示すために、別立てとしている。また、政策評価体系における同対策の位置付けについては、大綱に掲げられた主要施策を本院において令和2年基本計画を踏まえた政策評価体系上で整理したものであり、農林水産省は、今後、大綱等を踏まえて新たな基本計画が策定された際には、同基本計画を踏まえた政策評価体系を検討するとしている。
  • 注(3) 「生産の増大」の各区分のうち、「小麦、大豆、飼料作物」及び「生産資材」は大綱において海外依存度が高く今後生産拡大等を図ることとなっている小麦、大豆及び飼料作物並びに生産資材に係る取組、「農地」及び「農業労働力」は国内農業の生産基盤であり、生産の増大を図る上で欠くことのできない重要な要素である農地及び農業労働力に係る取組をそれぞれ示す。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

食料の安定供給に向けた取組は、平成11年の基本法制定以降、長期間、多岐にわたり実施されている。そして、小麦、大豆及び飼料作物については、我が国の総供給熱量に占める割合が大きいなどのため供給熱量ベースの総合食料自給率に与える影響が大きく、大綱において、生産資材と合わせて海外依存度が高いことから、重点対策の一つとして、今後、生産拡大や国内代替転換等を図ることとなっている。

そこで、本院は、有効性等の観点から、食料の安定供給に向けたこれまでの取組に係る執行額や事業の実施状況はどのようになっているか、食料自給率等の基本計画等に示された指標に係る目標の目標年度における達成状況はどのようになっていて、その達成状況は基本計画の変更に当たりどのように検証されているか、特に海外依存度が高い小麦、大豆及び飼料作物並びに生産資材に係る取組の実施状況及び指標に係る目標の達成状況はどのようになっているかなどに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

検査に当たっては、29年度から令和4年度までの間(注4)の食料の安定供給に向けた取組に係る事業(農林水産省が実施している事業のうち、同省が食料安定供給に資さないとしている事業を除いた554事業)等を対象に、同省が作成した食料需給表等の食料の安定供給に関する各種統計資料等を分析するとともに、同省から食料の安定供給に向けた取組の実施状況に係る調書及び関係資料を徴したり、同省において関係部局から考え方を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。

(注4)
行政文書の保存期間等を考慮して本院において設定した。

3 検査の状況

(1) 食料の安定供給に向けた取組に係る執行額等

平成29年度から令和4年度までの間の食料の安定供給に向けた取組に係る事業の執行額をみると、図表7のとおり、毎年度2兆円以上が支出されており、上記554事業の合計で16兆4654億余円となっていた。また、農林水産省は、上記の554事業について、地方公共団体等に対する補助金等の交付(補助事業)、委託等により行う国の直轄事業、独立行政法人に対する運営費交付金の交付等の方法により実施しており、これらの実施方法別にみると、補助事業が10兆3860億余円(執行額全体に占める割合63.0%)、直轄事業が5兆4461億余円(同33.0%)、運営費交付金が6159億余円(同3.7%)となっていて、補助事業が大部分を占めていた。なお、食料の安定供給に向けた取組としては、上記554事業の実施のほかに、「農地等についての相続税の納税猶予等」「肉用牛の売却による農業所得の課税の特例」等の租税特別措置等が講じられていた。

図表7 食料の安定供給に向けた取組に係る事業の実施方法別の執行額

(単位:億円、%)
区分 平成
年度
30年度 令和
元年度
2年度 3年度 4年度 割合
補助事業 1兆1960 1兆5477 1兆6829 2兆0406 2兆0006 1兆9178 10兆3860 63.0
直轄事業 1兆1629 7466 8122 8050 9203 9988 5兆4461 33.0
運営費交付金 934 1024 1042 1047 1058 1051 6159 3.7
その他 注(1) 13 14 38 1 55 50 173 0.1
2兆4539 2兆3983 2兆6033 2兆9505 3兆0323 3兆0269 16兆4654 100.0
(参考)
農林水産省一般会計の支出済歳出額
2兆6876 2兆6828 2兆8255 3兆2728 3兆2206 3兆4033 18兆0929
農林水産省所管食料安定供給特別会計の支出済歳出額
注(2)
8418 8137 8506 8209 9134 1兆1505 5兆3913
  • 注(1) 「その他」は、出資等である。
  • 注(2) 農林水産省所管食料安定供給特別会計の各勘定の支出済歳出額を単純に合計したものである。

ア 政策分野別の執行額

平成29年度から令和4年度までの政策評価体系を基に、基本計画別・政策分野別の執行額をみたところ、図表8のとおり、平成27年基本計画に基づく平成29年度から令和元年度までの間の執行額の合計は、中目標「2 農業の持続的な発展」の「(6)力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保等」が1兆8114億余円、「(8)構造改革の加速化や国土強靭化に資する農業生産基盤整備の推進」が1兆2212億余円、「(9)需要構造等の変化に対応した生産・供給体制の改革」が1兆1816億余円となっており、上記中目標の3政策分野だけで執行額全体の5割以上を占めていた。また、令和2年基本計画に基づく2年度から4年度までの間の執行額の合計は、中目標「2 農業の持続的な発展」の「⑨需要構造等の変化に対応した生産基盤の強化と流通・加工構造の合理化」が1兆7977億余円、「⑥担い手の育成・確保等と農業経営の安定化」が1兆6911億余円、「⑧農業の成長産業化や国土強靭化に資する農業生産基盤整備」が1兆3740億余円となっており、平成27年基本計画と同様に、上記中目標の3政策分野だけで執行額全体の5割以上を占めていた。

図表8 平成29年度から令和4年度までの間の食料の安定供給に向けた取組に係る基本計画別・政策分野別の執行額の合計額

(単位:億円、%)
大目標 食料の安定供給の確保、農林水産業の発展、農山漁村の振興、農業の多面的機能の発揮、森林の保続培養と森林生産力の増進、水産資源の適切な保存・管理等を通じ、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展を図る。
中目標 構成比
注(2)
中目標 構成比
注(2)
平成27年基本計画に基づく政策分野
注(1)
令和2年基本計画に基づく政策分野
注(1)
1 食料の安定供給の確保 1兆1891 1 食料の安定供給の確保 1兆7787
(3) 生産・加工・流通過程を通じた新たな価値の創出による需要の開拓
773 1.0
① 新たな価値の創出による需要の開拓
1428 1.5
(4) グローバルマーケットの戦略的な開拓
287 0.3
② グローバルマーケットの戦略的な開拓
1540 1.7
(2) 幅広い関係者による食育の推進と国産農産物の消費拡大、「和食」の保護・継承
9 0.0
③ 消費者と食・農とのつながりの深化
1574 1.7
(1) 国際的な動向等に対応した食品の安全確保と消費者の信頼の確保
235 0.3
④ 食品の安全確保と消費者の信頼の確保
232 0.2
(5) 様々なリスクに対応した総合的な食料安全保障の確立
1兆0585 14.6
⑤ 総合的な食料安全保障の確立
1兆3011 14.4
2 農業の持続的な発展 5兆0279 2 農業の持続的な発展 5兆7631
(6) 力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保等
1兆8114 25.1
⑥ 担い手の育成・確保等と農業経営の安定化
1兆6911 18.7
(7) 担い手への農地集積・集約化と農地の確保
5489 7.6
⑦ 農地集積・集約化と農地の確保
6181 6.8
(8) 構造改革の加速化や国土強靱化に資する農業生産基盤整備の推進
1兆2212 16.9
⑧ 農業の成長産業化や国土強靱化に資する農業生産基盤整備
1兆3740 15.2
(9) 需要構造等の変化に対応した生産・供給体制の改革
1兆1816 16.3
⑨ 需要構造等の変化に対応した生産基盤の強化と流通・加工構造の合理化
1兆7977 19.9
(11) 先端技術の活用等による生産・流通システムの革新等
531 0.7
⑩ 農業のデジタルトランスフォーメーションの推進
290 0.3
(10) 戦略的な研究開発と技術移転の加速化
2041 2.8
⑪ イノベーション創出・技術開発の推進
2509 2.7
(12) 気候変動に対する緩和・適応策の推進及び生物多様性の保全・利用
3 0.0
⑫ 環境政策の推進
20 0.0
(13) 農業の自然循環機能の維持増進とコミュニケーション
69 0.0
3 農村の振興 2598 3 農村の振興 2787
(15) 多様な地域資源の積極的活用による雇用と所得の創出
4 0.0
⑬ 地域資源を活用した所得と雇用機会の確保
22 0.0
(16) 多様な分野との連携による都市農村交流や農村への移住・定住等
1 0.0
⑮ 農村を支える新たな動きや活力の創出
1 0.0
(14) 地域コミュニティ機能の発揮等による地域資源の維持・継承等
2591 3.5
⑭ 農村に人が住み続けるための条件整備
2764 3.0
4 東日本大震災からの復旧・復興と大規模自然災害への対応 注(1)
2845
⑯ 東日本大震災からの復旧・復興
643 0.7
⑰ 大規模自然災害への備え
⑱ 大規模自然災害からの復旧
2202 2.4
4 森林の有する多面的機能の発揮と林業・木材産業の持続的かつ健全な発展
35
5 森林の有する多面的機能の発揮と林業・木材産業の持続的かつ健全な発展
43
(17) 森林の有する多面的機能の発揮
⑲ 森林の有する多面的機能の発揮
(18) 林業の持続的かつ健全な発展
35 0.0
⑳ 林業の持続的かつ健全な発展
43 0.0
(19) 林産物の供給及び利用の確保
㉑ 林産物の供給及び利用の確保
5 水産物の安定供給と水産業の健全な発展 7306
6 水産物の安定供給と水産業の健全な発展
注(3)
9002
(20) 水産資源の回復
1107 1.5
㉒ 水産資源管理の着実な実施
1011 1.1
(21) 漁業経営の安定
3003 4.1
㉓ 水産業の成長産業化の実現
4545 5.0
(22) 漁村の健全な発展
3195 4.4
㉔ 漁村の活性化の推進
3445 3.8
計 (平成29年度から令和元年度まで) 注(4) 7兆2110 100 計 (2年度から4年度まで) 注(4) 9兆0098 100
  • 注(1) 平成27年基本計画から令和2年基本計画への変更による政策評価体系の見直しに伴い、令和2年度から中目標「4 東日本大震災からの復旧・復興と大規模自然災害への対応」が追加されたほか、一部の政策分野が変更されている(政策分野番号(10)は⑪に、(11)は⑨及び⑩に、(12)及び(13)は⑫に、(15)は⑬に、(16)は⑬及び⑮にそれぞれおおむね対応)。
  • 注(2) 平成29年度から令和元年度まで又は2年度から4年度までの間の食料の安定供給に向けた取組に係る基本計画別の執行額全体に占める当該政策分野の執行額合計の割合
  • 注(3) 令和4年3月の水産基本計画の変更に伴い、当該中目標に係る政策分野は4年度に変更されている。
  • 注(4) 食料の安定供給に向けた取組に係る事業の執行額には、本図表の合計額のほか、平成29年度から令和元年度までの間に実施された東日本大震災からの復旧・復興等に係る執行額2445億余円があるため、図表7及び図表9の合計額(16兆4654億余円)とは一致しない。

イ 生産の増大、輸入及び備蓄に係る取組別の執行額

食料の安定供給については、生産の増大を図ることを基本とし、輸入及び備蓄を適切に組み合わせて行うとされている。そこで、平成29年度から令和4年度までの間の食料の安定供給に向けた取組に係る事業の執行額について、生産の増大、輸入及び備蓄に係る取組別にみると、図表9のとおり、生産の増大が12兆8609億余円(執行額全体に占める割合78.1%)、輸入が1兆8614億余円(同11.3%)、備蓄が3439億余円(同2.0%)となっており、生産の増大に係る取組の執行額が大部分を占めていた。

図表9 生産の増大、輸入及び備蓄に係る取組別の執行額

(単位:億円、%)
区分 平成
29年度
30年度 令和
元年度
2年度 3年度 4年度 割合
生産の増大 1兆9000 1兆8435 2兆0436 2兆3586 2兆3864 2兆3287 12兆8609 78.1
輸入 2806 2873 2634 2572 3359 4368 1兆8614 11.3
備蓄 553 427 604 710 610 532 3439 2.0
その他 2178 2247 2358 2636 2489 2080 1兆3990 8.4
2兆4539 2兆3983 2兆6033 2兆9505 3兆0323 3兆0269 16兆4654 100.0
  • (注) 「その他」は、農業者年金事業、農業施設災害復旧等事業等の年金給付、大規模自然災害からの復旧等に関する取組等、「生産の増大」「輸入」又は「備蓄」のいずれにも区分できないものである。

(2) 食料の安定供給に向けた取組の実施状況

ア 生産の増大に係る取組

生産の増大に係る取組については、平成29年度から令和4年度までの間に、補助事業397事業、直轄事業139事業、運営費交付金13事業等、計519事業(重複を除く。)が実施されていた。

小麦、大豆及び飼料作物並びに生産資材は、前記のとおり、大綱において、海外依存度が高いことから今後生産拡大等を図ることとなっている。また、農地及び農業労働力は、国内農業の生産基盤であり、生産の増大を図る上で欠くことのできない重要な要素であると考えられる。そこで、①小麦、大豆及び飼料作物の生産の増大、②農地及び農業労働力並びに③生産資材のそれぞれの取組に係る事業の実施状況をみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 小麦、大豆及び飼料作物の生産の増大に係る取組

小麦、大豆及び飼料作物の生産の増大に係る取組については、平成29年度から令和4年度までの間に小麦に係る206事業、大豆に係る205事業、飼料作物に係る160事業、計226事業(重複を除く。)が実施されており、農林水産省は、図表10のとおり、水田活用の直接支払交付金等を主要な事業と位置付けて実施していた。

図表10 小麦、大豆及び飼料作物の生産の増大に係る取組として実施された主要な事業の実施状況

事業名 品目 事業量(平成29年度~令和4年度) 事業の概要
水田活用の直接支払交付金 小麦大豆 支払件数
注(1)
延べ1,976,070件 水田を活用して、主食用米以外の作物(麦、大豆、飼料用米、米粉用米等)の生産・販売を行う農業者等に対して交付金を交付する事業
執行額
注(1)
1兆8532億6784万円
新市場開拓に向けた水田リノベーション事業 小麦 取組対象面積
注(2)
67,981ha 水田農業を新たな需要拡大が期待される作物を生産する農業へと刷新するために、実需者ニーズに応えるための低コスト生産等の取組、需要の創出・拡大のための製造機械・施設等の導入を支援する事業
執行額 注(2) 271億8372万円
大豆 取組対象面積 40,916ha
執行額 163億6388万円
麦・大豆収益性・生産性向上プロジェクト 小麦大豆 事業実施団体数
注(2)
378団体 国産麦・大豆の生産体制強化・生産の効率化、安定供給体制の確立に向けて、作付けの団地化の推進、営農技術の新規導入、保管施設の整備、商品開発等の取組を支援する事業
執行額
注(2)
59億6806万円
国産小麦供給体制整備緊急対策事業 小麦 事業実施団体数
注(2)
125団体 国産小麦等の安定供給体制を緊急的に強化するために、作付けの団地化や営農技術・機械の導入、一時保管等を通じた安定供給体制等の取組を支援する事業
執行額
注(2)
11億7709万円
畜産生産力・生産体制強化対策事業のうち草地生産性向上対策 飼料作物 交付件数 47件 不安定な気象に対応したリスク分散を図るための複数草種の導入等による草地改良、飼料作物の優良品種の迅速な普及の促進等の取組を支援する事業
執行額 7億9859万円
畜産生産力・生産体制強化対策事業のうち国産飼料資源生産利用拡大対策 飼料作物 交付件数 118件 未利用資源を活用した飼料の普及、地域の食品残さ等の未利用資源の有効活用等の取組を支援する事業
執行額 4億1716万円
  • 注(1) 水田活用の直接支払交付金は、小麦及び大豆以外の品目を含む事業全体の事業量である。
  • 注(2) 新市場開拓に向けた水田リノベーション事業、麦・大豆収益性・生産性向上プロジェクト及び国産小麦供給体制整備緊急対策事業の事業量には、小麦以外の麦(二条大麦、六条大麦、はだか麦)を含む。
(イ) 農地及び農業労働力に係る取組

農地については、令和2年基本計画と合わせて策定された「農地の見通しと確保」において、多面的機能支払交付金、中山間地域等直接支払交付金、農地中間管理事業等の荒廃農地の発生防止・解消に関連する施策の効果を織り込んで農地面積の見通しが示されている。そして、上記の施策としては、平成29年度から令和4年度までの間に7事業が実施されており、このうち多面的機能支払交付金、中山間地域等直接支払交付金及び農地中間管理事業の実施状況についてみると、図表11のとおりとなっていた。

図表11 荒廃農地の発生防止・解消に関連する施策として実施された事業のうち、多面的機能支払交付金等の実施状況

事業名 事業量(注)(平成29年度~令和4年度) 事業の概要
多面的機能支払交付金 認定農用地面積 延べ13,752千ha 農業者等の組織する団体が行う、農地法面の草刈りや水路の泥上げ、農道の路面維持等の地域資源の基礎的な保全活動及び農村の構造変化に対応した体制の拡充・強化等の推進活動等を支援する事業
執行額 2913億0897万円
中山間地域等直接支払交付金 対象農用地面積 延べ3,963千ha 中山間地域等において、集落等を単位とする協定に基づき、農地や農道、水路等の維持・管理等の共同活動を行う農業者等を支援する事業
執行額 1560億6504万円
農地中間管理事業 事業実施主体数 延べ282主体 担い手への農地集積・集約化を加速化するために、農地中間管理機構が農地の集積・集約化に取り組むために必要となる事業費(農地賃料、保全管理費等)、事業推進費等を支援する事業
執行額 586億9812万円
  • (注) 各事業の事業量から荒廃農地の発生防止・解消に係る事業量のみを区分できないため、「事業量」欄には各事業全体の事業量を記載している。

また、農業労働力については、令和2年基本計画と合わせて策定された「農業構造の展望」において、青年層の新規就農の促進や雇用者の増加等を前提に見通しが示されている。そして、青年層の新規就農の促進や雇用者の増加を目的として実施された事業は、図表12のとおり、平成29年度から令和4年度までの間に、農業人材力強化総合支援事業等4事業となっていた。

図表12 青年層の新規就農の促進や雇用者の増加を目的として実施された事業の実施状況

事業名 事業量(平成29年度~令和4年度) 事業の概要
農業人材力強化総合支援事業 注(1) 対象者数等 延べ10万6063人等 注(2) 次世代を担う農業者となることを志向する者に対して、就農前の研修を後押しする資金(準備型(最長2年間))及び就農直後の経営確立を支援する資金(経営開始型(最長5年間))を交付等する事業
執行額
注(3)
1135億6430万円
新規就農者育成総合対策
注(4)
対象者数等 延べ6887人等 注(2) 次世代を担う農業者となることを志向する者に対して、就農前の研修を後押しする資金(最長2年間)及び就農直後の経営確立を支援する資金(最長3年間)を交付等する事業
執行額 70億2723万円
新規就農者確保加速化対策 対象者数 延べ571人 就職氷河期世代の就農を後押しするために、研修期間に必要な資金を交付等する事業
執行額 12億4596万円
新規就農支援緊急対策事業 対象者数等 延べ457人等 注(2)
執行額 11億4152万円
  • 注(1) 令和3年度補正予算の新規就農者確保緊急対策を含む。
  • 注(2) 個人に対する支援を行っていない事業メニューがあるため、「人等」としている。
  • 注(3) 農業人材力強化総合支援事業の執行額から青年層の新規就農の促進、雇用者の増加等を目的にしている事業の執行額のみを区分できないため、「執行額」欄には上記事業全体の執行額を記載している。
  • 注(4) 令和4年度補正予算の新規就農者確保緊急対策を含む。
(ウ) 生産資材に係る取組

我が国は、化学肥料の主な原料のほぼ全量を輸入しており、飼料については、前記のとおり4年度の飼料自給率が26%となっているなど、肥料や飼料等の生産資材を輸入に依存しており、大綱等において、堆肥や下水汚泥資源等の肥料の利用拡大及び国産飼料の供給・利用拡大を図ることとなっている。

そして、堆肥、下水汚泥資源及び国産飼料の利用拡大等に係る取組としては、平成29年度から令和4年度までの間で、堆肥に係る54事業、下水汚泥資源に係る38事業、飼料に係る60事業、計73事業(重複を除く。)が実施されており、農林水産省は、国産飼料の供給・利用拡大については、図表13のとおり、畜産生産力・生産体制強化対策事業のうち草地生産性向上対策等2事業を主要な事業として位置付けている一方、堆肥、下水汚泥資源等の肥料の利用拡大に係る取組として実施された事業については、平成29年度から令和4年度までの間において主要な事業に位置付けているものはないとしている。

図表13 国産飼料の供給・利用拡大に係る取組として実施された主要な事業の実施状況((ア)図表10の一部再掲)

事業名 事業量
(平成29年度~令和4年度)
事業の概要
畜産生産力・生産体制強化対策事業のうち草地生産性向上対策 交付件数 47件 不安定な気象に対応したリスク分散を図るための複数草種の導入等による草地改良、飼料作物の優良品種の迅速な普及の促進等の取組を支援する事業
執行額 7億9859万円
畜産生産力・生産体制強化対策事業のうち国産飼料資源生産利用拡大対策 交付件数 118件 未利用資源を活用した飼料の普及、地域の食品残さ等の未利用資源の有効活用等の取組を支援する事業
執行額 4億1716万円

イ 輸入に係る取組

輸入に係る取組については、平成29年度から令和4年度までの間に7事業が実施されており、このうち執行額が大きい主要な事業をみると、図表14のとおり、麦管理経費等となっていた。

図表14 輸入に係る取組として実施された主要な事業の実施状況

事業名 (注) 事業量(執行額)
(平成29年度~令和4年度)
事業の概要
麦管理経費 1兆3362億6114万円 汎用性が高く輸入ロットが大きい主要5銘柄の小麦について、海外から買い入れるために必要な経費
米管理経費 4857億3512万円 WTO協定に基づく国際約束数量を踏まえたミニマム・アクセス米の輸入及びCPTPP協定に基づく米穀等の輸入に必要な経費
麦買入費 385億7421万円 飼料用輸入麦について、海外から買い入れるために必要な経費
世界食料需給動向等総合調査・分析関係経費 8億5042万円 海外の食料需給動向等について、現地コンサルタント等を活用し、生育状況及び流通関係等の情報の収集・分析を行うなどするために必要な経費
  • (注) 「事業名」は、行政事業レビューシートの事業名を記載している。

このうち、海外依存度が高い麦について、国は、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号。以下「食糧法」という。)等に基づき、海外で買い入れた麦の輸入価格(買付価格及び港湾経費)に、国内産麦の振興対策に係る原資や輸入した麦の備蓄等に要する経費に充当するマークアップを上乗せして、製粉企業等の実需者に売り渡している。そして、国が輸入している麦について、平成29年度から令和4年度までの間の輸入に係る国の収支をみると、図表15のとおりとなっていて、2年度の国際価格の下落による売渡価格の下落、3年度の米国等の不作及び4年度のウクライナ情勢の影響を受けた買付価格の高騰等により、2年度以降、売買差益は大きく減少していた。

図表15 麦の輸入に係る国の収支の推移

(単位:百万円)
区分 平成29年度 30年度 令和元年度 2年度 3年度 4年度
買入費(a) 199,933 200,681 179,583 180,186 233,109 336,341
売払収入(b) 284,417 284,157 261,056 247,566 266,947 351,302
売買差益
(国の収支)
(b−a)
84,465 83,476 81,472 67,380 33,838 14,960
  • (注) 平成29年度の「売払収入」には前年度に買い入れた麦の売払収入が含まれているが、「売買差益(国の収支)」は、麦の売払収入を当該麦を買い入れた年度ごとに整理しているため、買入費と売払収入の差額と一致しない。

また、農林水産省は、国が輸入している麦のうち、一般輸入方式(注5)で輸入される小麦について、通常、年に2回、直近6か月の同省の買付価格を基に算定した政府売渡価格に基づき売買契約を締結して、製粉企業等に売り渡している。しかし、同省は、4年10月から5年3月までの間に売り渡す小麦に係る政府売渡価格については、ウクライナ情勢による買付価格の急騰の影響を緩和するために、4年3月第2週から9月第1週までの6か月間の買付価格を基に算定せず、前期の政府売渡価格を据え置く緊急措置を講じていた(図表16参照)。そこで、本院において、上記の緊急措置によるマークアップの減収額を試算(注6)すると、309億6215万余円となっていた。

(注5)
一般輸入方式  あらかじめ国が製粉企業等からの買受申込みを取りまとめ、一括して輸入・販売をする方式
(注6)
政府売渡価格については令和4年10月に4年3月第2週から9月第1週までの期間の買付価格を基に算定した価格、売渡数量については4年10月から5年3月までの間に売り渡された数量(実績)とそれぞれ仮定して売払金額を算出し、実際の売払金額との差額を機械的に試算した。

図表16 輸入小麦の政府売渡価格に係る緊急措置の概要

図表 輸入小麦の政府売渡価格に係る緊急措置の概要 画像

ウ 備蓄に係る取組

国が備蓄水準を定めている品目は、4年度末時点において、食糧法等に基づき備蓄を行っている米、食糧用小麦及び飼料穀物となっている。そして、上記品目の備蓄に係る取組についてみると、図表17のとおり、米の備蓄については国自らにより、食糧用小麦及び飼料穀物の備蓄については製粉企業、配合飼料メーカー等に補助金を交付することにより、それぞれ実施されていた。

図表17 米、食糧用小麦及び飼料穀物の備蓄の概要

品目 備蓄水準 備蓄水準の考え方 国の財政負担
100万t程度 10年に1度の不作や通常程度の不作が2年連続した事態にも国産米をもって対処し得る水準

・平成13年の需要量をベースに設定(23年の備蓄方式の変更により主食用として販売しなくなった際にも、引き続き100万t程度として設定)

・備蓄分の米の所有権は国

・備蓄に要する経費は全て国費

食糧用小麦 国として外国産食糧用小麦の需要量の2.3か月分(90万t程度) 過去の港湾ストライキ、鉄道輸送等の停滞による船積遅延の経験等を考慮した水準

・代替輸入に4.3か月程度必要

・既に契約を終了し、海上輸送中の輸入小麦の量は平均2か月分程度

・差引き2.3か月分程度の備蓄が必要

・備蓄分の食糧用小麦の所有権は製粉企業等に移転

・国家備蓄として、製粉企業等が需要量の2.3か月分を備蓄した場合に、1.8か月分の保管経費を100%助成

飼料穀物 100万t程度 不測の事態における海外からの供給遅滞・途絶、国内の配合飼料工場の被災に伴う配合飼料の急激なひっ迫等に対処し得る水準

・過去に備蓄を活用した最大実績は75万t(東日本大震災時)

・海上輸送中の飼料穀物が、平均約100万t存在しており、備蓄飼料穀物と合わせて2か月程度のストックとなり、この間に代替輸入国への変更等が可能

・備蓄分の飼料穀物の所有権は企業

・配合飼料メーカー等が事業継続計画に基づき実施する飼料穀物備蓄に対し、その費用の一部(約75万tの保管経費の1/3以内等)を助成

  • (注) 「食料・農業・農村をめぐる情勢の変化(備蓄、食品安全・食品表示、知的財産)」(令和5年2月農林水産省)を基に本院が作成した。

上記の品目について、平成29年度から令和4年度までの間の備蓄に係る国の財政負担をみると、図表18のとおり、6か年の平均で、1か年当たり、米については461億余円(備蓄水準1t当たり46,155円)、食糧用小麦については43億余円(同4,833円)、飼料穀物については14億余円(同1,461円)の財政負担が生じていた。

図表18 米、食糧用小麦及び飼料穀物別の備蓄に係る国の財政負担等

品目 区分 平成
29年度
30年度 令和
元年度
2年度 3年度 4年度 6か年平均
買入量(千t) 193 120 183 210 209 202 186
国の財政負担
(売買損益及び保管経費等の合計)(百万円)
注(1)
44,950 39,985 44,623 50,047 49,087 48,242 46,155
国の財政負担の単価(円/t)注(2) 44,950 39,985 44,623 50,047 49,087 48,242 46,155
食糧用小麦
交付対象数量
(千t)
940 960 870 860 850 890 895
国の財政負担
(保管経費に対する補助金の交付額)(百万円)
4,395 4,418 4,488 4,356 4,207 4,232 4,350
国の財政負担の単価(円/t)注(2) 4,883 4,909 4,987 4,840 4,675 4,703 4,833
飼料穀物
交付対象数量
(千t)
765 746 782 748 741 761 757
国の財政負担
(保管経費に対する補助金の交付額)(百万円)
1,437 1,431 1,117 1,840 1,458 1,480 1,461
国の財政負担の単価(円/t)注(2) 1,437 1,431 1,117 1,840 1,458 1,480 1,461
  • 注(1) 国の財政負担のうち、売買損益は、売上額から売上原価を差し引いて算出している。
  • 注(2) 「国の財政負担の単価」は、各年度の国の財政負担の額を備蓄水準(米:100万t、食糧用小麦:90万t、飼料穀物:100万t)で除して機械的に算出している。

(3) 総合食料自給率等の指標に係る目標の達成状況等及び検証状況

ア 供給熱量ベースの総合食料自給率に係る目標の達成状況等

農林水産省は、供給熱量ベースの総合食料自給率の目標について、目標年度における品目ごとの食料消費の見通しが適切に見込まれ、かつ、生産努力目標の生産量が生産されれば達成されるとしている。そして、供給熱量ベースの総合食料自給率と食料消費及び国内生産との関係を整理すると、図表19のとおり、食料消費の減少による1人1日当たり総供給熱量の減少及び国内生産の増大による1人1日当たり国産供給熱量の増加は総合食料自給率の上昇要因になる一方、食料消費の増加による1人1日当たり総供給熱量の増加及び国内生産の減少による1人1日当たり国産供給熱量の減少は総合食料自給率の低下要因になる。

図表19 供給熱量ベースの総合食料自給率と食料消費及び国内生産の関係

図表19 供給熱量ベースの総合食料自給率と食料消費及び国内生産の関係 画像

そして、平成10年度以降、供給熱量ベースの総合食料自給率は40%前後で推移し、これまで各基本計画に掲げられた総合食料自給率の目標は達成されていない(1(1)イ(ア)図表2参照)。一方、このような状況下において、農林水産省は、基本計画がおおむね5年ごとに見直されることなどを理由として、各基本計画の目標年度における品目別の食料消費の見通し及び生産努力目標とそれぞれの実績とを対比した資料を作成、公表していない(理由の詳細については、後掲オの農林水産省の指標の検証に対する考え方に関する記述参照)。

そこで、本院において、品目別の食料消費の見通し及び生産努力目標とそれぞれの実績とを対比するとともに、供給熱量ベースの総合食料自給率への品目別の寄与度を試算したところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 食料消費の見通し及び生産努力目標と実績との対比

前記のとおり、1人1日当たり総供給熱量に占める割合が大きい米、畜産物(生乳、牛肉、豚肉、鶏肉及び鶏卵)、油脂類、小麦、砂糖類、魚介類及び大豆の11品目について、目標年度に到達している平成12年基本計画、平成17年基本計画及び平成22年基本計画に示された品目別の食料消費の見通し及び生産努力目標とそれぞれの実績とを対比すると、食料消費については、図表20のとおり、米及び魚介類は3か年度とも実績が見通しを下回っており、見通しに対して1人1日当たり総供給熱量を減少させる要因となっていた。一方、豚肉及び鶏肉は3か年度とも実績が見通しを上回っており、見通しに対して1人1日当たり総供給熱量を増加させる要因となっていた。また、大豆、牛肉、豚肉、鶏肉及び魚介類の5品目については、見通しと実績とが20%以上かい離する年度が見受けられた。

図表20 品目別の食料消費の見通しと実績との対比

図表20 品目別の食料消費の見通しと実績との対比 画像

そして、上記の5品目について、農林水産省に食料消費の見通しと実績とがかい離した理由を確認したところ、図表21のとおり、消費者ニーズの変化や家畜伝染病の発生等によるとしていた。

図表21 食料消費の見通しと実績とがかい離した理由

品目 目標年度 食料消費の見通しと実績とがかい離した理由
見通しに対する実績の割合が120%以上の品目
豚肉 平成22 BSE発生により消費量が減少した牛肉の代替需要による消費量の増加
平成27 牛肉の需要減少を受けて豚肉の需要が増加したことなどによる消費量の増加
鶏肉 平成22
平成27
令和2
消費者の低価格志向や健康志向の高まり、むね肉を使った商品開発が進んだことなどによる消費量の増加
見通しに対する実績の割合が80%以下の品目
大豆 平成22 国際相場において大豆価格が大きく変動したこと、なたねとの価格差が広がったことによる油糧大豆の消費量の減少
牛肉 平成22 国内や米国でのBSE発生による消費量の減少
平成27 平成22年の口蹄疫発生等による生産量の減少に伴う卸売価格の高騰等による消費量の減少
魚介類 平成27
令和2
少子高齢化や共働き世帯の増加等を背景とした食の簡便化志向による消費量の減少

一方、生産努力目標については、図表22のとおり、小麦、豚肉、鶏肉及び鶏卵は生産努力目標を実績が上回り、生産努力目標に対して1人1日当たり国産供給熱量を増加させる要因となった年度があった。しかし、全体的にみると、生産努力目標を実績が下回る傾向となり、生産努力目標に対して1人1日当たり国産供給熱量を減少させる要因となっていた。また、小麦、大豆、なたね、砂糖類、生乳、牛肉及び魚介類については、生産努力目標を実績が20%以上下回る年度も見受けられた。

図表22 品目別の生産努力目標と実績との対比

図表22 品目別の生産努力目標と実績との対比 画像

そして、生産努力目標を実績が上回った品目及び20%以上下回った品目について、農林水産省にその理由を確認したところ、図表23のとおり、生産努力目標を実績が上回ったものは、天候に恵まれたこと、消費や価格の堅調な推移等によるとしていて、生産努力目標を実績が20%以上下回ったものは、天候不順等、生産者の高齢化・減少、生産努力目標の達成のための対策が進捗等しなかったことなどによるとしていた。

図表23 生産努力目標を実績が上回った理由及び下回った理由

品目 目標年度 生産努力目標を実績が上回った理由及び下回った理由
生産努力目標を実績が上回った品目
小麦 平成27 天候に恵まれ北海道の単収が良好であったことによる生産量の増加
豚肉 令和2 出荷頭数の増加
鶏肉 平成22
平成27
令和2
消費者の健康志向の高まりや国産志向を背景として消費や価格が堅調に推移したため
鶏卵 平成22
平成27
令和2
安価で良質なたんぱく質として需要が安定していたため
生産努力目標を実績が20%以上下回った品目
小麦 平成22 天候不順による単収の減少等
令和2 生産努力目標(180万t)達成の前提として見込んだ関東以西の排水良好田での二毛作の拡大(19万ha)が実現しなかったため
大豆 令和2 生産努力目標(60万t)達成の前提として見込んだ多収品種の育成、水田への作付等が進捗しなかったため
なたね 令和2 消費者ニーズに対応した搾油事業者が限られているため
砂糖類 平成22 生育期間における高温及び多雨の影響で病害が多発したことによる生産量の減少(てん菜)
台風被害や収穫期の日照不足等による生産量の減少(さとうきび)
生乳 平成22 経産牛頭数の減少や夏場の猛暑の影響等による個体乳量の減少、景気低迷による飲用向け需要の減退等による生産量の減少
平成27 高齢化に伴う酪農家戸数の減少等による生産量の減少
牛肉 平成27 平成22年の口蹄疫の発生等による生産量の減少
魚介類 平成22
平成27
水産資源の悪化、漁業就業者の減少・高齢化等に伴う生産構造の脆弱化による生産量の減少
令和2 地球温暖化を背景とした海洋環境の変化等による生産量の減少
(イ) 供給熱量ベースの総合食料自給率への品目別の寄与度

1(1)イ(ア)図表2のとおり、29年度から令和4年度までの間の供給熱量ベースの総合食料自給率は37%から38%となっており、平成10年度の40%を基準として2ポイントから3ポイント低下している。また、(ア)のとおり、各基本計画の目標年度において、食料消費の見通しと実績が20%以上かい離したり、生産努力目標を実績が下回ったりするなどの品目が見受けられた。

そこで、前記の1人1日当たり総供給熱量に占める割合が大きい11品目について、食料消費や国内生産の増減が供給熱量ベースの総合食料自給率の低下にどのように影響したか(ア図表19参照)をみるために、新型コロナウイルス感染症の影響の小さい直近の年度である令和元年度(供給熱量ベースの総合食料自給率38%)において、平成10年度に対する総供給熱量及び国産供給熱量の増減による供給熱量ベースの総合食料自給率への寄与度を試算すると、図表24のとおりとなっていた。

すなわち、品目別自給率が高い米及び魚介類についてみると、消費量の減少による総供給熱量の減少がそれぞれ総合食料自給率を1.69ポイント及び0.44ポイント上昇させる要因となっていたが、これに伴う生産量の減少による国産供給熱量の減少がそれぞれ総合食料自給率を3.60ポイント及び0.89ポイント低下させる要因となっており、上昇要因より低下要因の方が大きいため、総合食料自給率を低下させる大きな要因となっていた。一方、豚肉及び鶏肉についてみると、消費量の増加による総供給熱量の増加がそれぞれ総合食料自給率を0.22ポイント及び0.24ポイント低下させる要因となるなど、総合食料自給率を低下させる大きな要因となっていた。

また、生産量の増加による総合食料自給率への寄与度をみると、小麦及び大豆についてはそれぞれ総合食料自給率を1.00ポイント及び0.14ポイント上昇させる要因となっていたが、小麦及び大豆以外の品目については、上昇への寄与度が小さかったり、生産量の減少により低下させる要因となっていたりしていた。

図表24 令和元年度における供給熱量ベースの総合食料自給率への品目別の寄与度(対平成10年度)(試算)

図表24 令和元年度における供給熱量ベースの総合食料自給率への品目別の寄与度(対平成10年度)(試算) 画像

イ 小麦、大豆及び飼料作物に係る指標の推移等

小麦、大豆及び飼料作物に係る総合食料自給率の目標の前提となっている指標である生産量、単収、作付面積及び品目別自給率について、それぞれ基本計画に掲げられている目標と実績とを対比すると、次のとおりとなっていた。

(ア) 生産量、単収及び作付面積

生産量、単収及び作付面積の推移をみると、図表25のとおり、生育が天候の影響を受けると考えられるため年度により増減が大きいものの、小麦の生産量、単収及び作付面積は、令和2年度を除き目標をおおむね達成している状況であった。また、大豆については、生産量及び作付面積は2年度を除き目標をおおむね達成している状況であったが、単収は目標を下回る状況で推移していた。そこで、農林水産省に大豆の単収が目標を達成できていない理由を確認したところ、水田での湿害、水田転作の拡大・長期化に伴う連作障害・地力低下等によるとしていた。

このため、前記大豆の生産の増大に係る取組の効果の発現には、単収向上の面で一定の制約があったと思料される。

一方で、飼料作物については、農林水産省において、必ずしも毎年度の実績を把握していないため、目標と実績とを対比できない年度があるが、確認できた範囲では、生産量が目標の7割程度、単収及び作付面積が目標の8割程度となっており、目標を達成できていなかった。そこで、同省にこれらが目標を達成できていない理由を確認したところ、条件が良い土地の確保が困難であること、飼料作物の生産に係る労働力不足等によるとしていた。

このため、前記飼料作物の生産の増大に係る取組の効果の発現には、農地や農業労働力等の生産条件の面で一定の制約があったと思料される。

図表25 小麦、大豆及び飼料作物に係る生産量、単収及び作付面積の推移

図表25 小麦、大豆及び飼料作物に係る生産量、単収及び作付面積の推移 画像

(イ) 品目別自給率

品目別自給率の推移をみると、図表26のとおり、小麦及び大豆については、平成12年基本計画の目標年度である平成22年度以降、小麦が9%から17%、大豆が6%から8%で推移しており、目標をおおむね達成している状況であった。そして、令和2年基本計画における令和12年度の目標は、小麦が19%、大豆が10%にとどまっており、仮に、今後、小麦及び大豆の生産の増大に係る取組を令和2年基本計画どおりに継続してこれらの目標が達成できたとしても、海外依存度が高いことに変わりはない状況となっている。

また、飼料作物については、前記のとおり、確認できた範囲では、生産量、単収及び作付面積の目標を達成できていない一方で、平成22年基本計画以降、品目別自給率の目標はいずれも100%と設定されている。飼料作物は粗飼料のうち良質粗飼料に該当するものである((注2)参照)が、農林水産省では良質粗飼料の実績を把握していないため、飼料作物の品目別自給率について、低質粗飼料を含めた粗飼料全体でみたところ、図表26のとおり、70%台後半で推移している状況となっていた。

図表26 小麦、大豆及び飼料作物に係る品目別自給率の推移

図表26 小麦、大豆及び飼料作物に係る品目別自給率の推移 画像

ウ 農地及び農業労働力の確保に係る指標の見通し及び実績

(ア) 農地

農地の確保に係る指標としては、各基本計画において、基本計画の目標年における農地面積の見通しや、生産努力目標を前提とした場合に必要となる耕地利用率等が示されている。そして、農地面積及び耕地利用率の推移をみると、図表27のとおり、いずれも、これまでの全ての基本計画の目標年で見通しを下回っており、農地面積については、2年において437万haとなっていて、既に7年の見通しの水準(440万ha)まで減少してきている。

図表27 農地面積及び耕地利用率の推移

図表27 農地面積及び耕地利用率の推移 画像

農地面積については、各基本計画と合わせて策定された「農地の見通しと確保」等において、農地の転用や荒廃農地がこれまでと同水準で発生し、かつ、荒廃農地の発生防止・解消に係る施策を講じないと仮定した場合の農地面積に、同施策の効果として増加する農地面積を加えるなどして見通しが示されている。そこで、農地面積の増減事由別に、それぞれの農地面積の見通しと実績とを対比すると、図表28のとおり、平成22年基本計画においては、農地の転用及び荒廃農地の発生の実績については見通しを上回り、荒廃農地の解消の実績については見通しを下回る状況となっていた。

図表28 増減事由別の農地面積の見通しと実績との対比

(単位:千 ha)
増減事由 平成12年基本計画
(目標年:平成22年)
平成17年基本計画
(同:平成27年)
平成22年基本計画
(同:令和2年)
平成27年基本計画
(同:令和7年)
見通し
(a)
実績
(b)

(b-a)
見通し
(a)
実績
(b)

(b-a)
見通し
(a)
実績
(b)

(b-a)
見通し
(a)
実績
(b)
注(4)

(b-a)
農地の転用
(減少)
-230 -176 54 -140 -128 12 -90
注(3)
-144
注(3)
▲ 54 -110 -128 ▲ 18
荒廃農地の発生
(減少)
-260 -163
注(1)
▲ 113 -260 -110
注(1)
▲ 13 -210 -137
注(1)
▲ 107 -210 -119
注(1)
▲ 49
荒廃農地の発生防止
(増加)
+210 +190
注(2)
+180 +140
荒廃農地の解消
(増加)
+40 +28 ▲ 52 +27 +120 +46 ▲ 74 +50 +49 ▲ 1
農地の拡張
(増加)
+40
東日本大震災からの復旧
(増加)
+10 +5 ▲ 5
-200 -311 ▲ 111 -210 -211 ▲ 1 0 -235 ▲ 235 -120 -193 ▲ 73
  • 注(1) 荒廃農地の発生防止の実績を把握できないため、荒廃農地の発生の実績に荒廃農地の発生防止の施策効果も含めた実績を記載している。
  • 注(2) 平成17年基本計画では、「荒廃農地の発生防止」と「荒廃農地の解消」の見通しが区分されていないため、両者を合わせた計数を記載している。
  • 注(3) 優良農地の転用の抑制の実績を把握できないため、平成22年基本計画の「農地の転用(減少)」には、「優良農地の転用の抑制等」の施策効果が含まれている。
  • 注(4) 平成27年基本計画の実績は、令和4年時点の実績である。
  • 注(5) 平成29年以降の「農地の転用」「荒廃農地の解消」及び「東日本大震災からの復旧」に係る実績については、統計調査において調査項目から除外されたため、推計値である。
(イ) 農業労働力

農業労働力の確保に係る指標としては、各基本計画と合わせて策定された「農業構造の展望」において、基幹的農業従事者数等について、近年の傾向が続いた場合の見通し(以下「すう勢ベース」という。)及び新規就農を促進することなどにより増加することを前提にした場合の見通し(以下「展望ベース」という。)が示されている。そして、上記基幹的農業従事者数等の見通しと実績とを対比すると、図表29のとおり、平成12年基本計画及び平成17年基本計画の基幹的農業従事者数についてはすう勢ベースを上回っていたが、平成22年基本計画の基幹的農業従事者数及び販売農家(注7)数についてはすう勢ベースを下回っていた。また、4年時点で、平成27年基本計画及び令和2年基本計画において、展望ベースとしてそれぞれの基準年から増加を見込んでいた40代以下及び49歳以下の青年層について、それぞれの基本計画の基準年の農業就業者数よりも減少している状況となっていた。

(注7)
販売農家  経営耕地面積が30a以上又は農産物販売金額が年間50万円以上の農家

図表29 農業労働力に係る指標の見通しと実績の対比

(単位:千人、千戸)
計画年 区分 基準年 すう勢
ベース
(a)
展望
ベース
(b)
実績
(c)
実績との差
すう勢
ベース
(c−a)
展望
ベース
(c−b)
年基本計画
(基準年:平成11年)
(目標年:平成22年)
基幹的農業従事者数 2,340 1,840 2,051 211
65歳以上 1,060 930 1,253 323
40〜64歳 1,130 770 701 ▲ 68
39歳以下 150 150 96 ▲53
平成17年基本計画
(基準年:平成16年)
(目標年:平成27年)
基幹的農業従事者数 2,200 1,460 1,753 293
65歳以上 1,190 900 1,132 232
40〜64歳 890 450 536 86
39歳以下 110 100 85 ▲14
平成22年基本計画
(基準年:平成21年)
(目標年:令和2年)
基幹的農業従事者数 1,910 1,450 1,363 ▲ 86
65歳以上 1,160 940 948 8
40〜64歳 660 400 347 ▲ 52
39歳以下 90 110 66 ▲ 43
販売農家数 1,700 1,110 1,210 1,027 ▲ 82 ▲ 182
平成27年基本計画
(基準年:平成22年)
(目標年:令和7年)
農業就業者(基幹的農業従事者及び雇用者(常雇い))数 2,190 1,700 1,840 1,377 ▲ 322 ▲ 462
60代以下 1,240 870 1,010 658 ▲ 211 ▲ 351
40 代以下 310 300 440 219 ▲ 80 ▲ 220
令和2年基本計画
(基準年:平成27年)
(目標年:令和12年)
農業就業者(基幹的農業従事者、雇用者(常雇い)及び役員等(年間150日以上農業に従事))数 2,080 1,310 1,400 1,464 154 64
49歳以下 350 280 370 250 ▲ 29 ▲ 119
  • 注(1) 平成27年基本計画及び令和2年基本計画の実績は、令和4年時点の実績である。
  • 注(2) 令和2年及び4年の基幹的農業従事者数の実績は、個人経営体の値である。

エ 生産資材に係る指標に係る目標の達成状況

生産資材のうち飼料については、基本計画において飼料自給率目標が設定されている。

そして、飼料自給率目標の達成状況をみると、図表30のとおり、平成10年度以降、粗飼料((注2)参照)の自給率は70%台後半で推移しているが、飼料の国内供給量の8割を占める濃厚飼料((注2)参照)の自給率が10%前後で推移していることから、飼料自給率は20%台で推移しており、飼料自給率目標を達成できていなかった。

なお、生産資材のうち肥料については、基本計画等に目標や総合食料自給率の目標の前提となる指標が設定されていない。

図表30 飼料の国内供給量及び飼料自給率目標の達成状況

図表30 飼料の国内供給量及び飼料自給率目標の達成状況 画像

オ 総合食料自給率等の指標の検証状況

アからエまでのとおり、総合食料自給率等の基本計画等に示された指標の中には、目標を達成していないなどしているものが見受けられたことから、同指標の検証状況を確認したところ、農林水産省は、基本計画を策定する際には、基本法に基づき、審議会において、政策評価の結果等を踏まえた施策の検証を行っているとしていた。

そこで、直近で目標年度(目標年を含む。以下同じ。)に到達した平成22年基本計画等に示された指標が、政策評価の指標として設定されているかをみたところ、図表31のとおり、牛肉、豚肉及び鶏肉の生産努力目標に係る指標は設定されていた一方、それ以外の指標については設定されていなかった。

また、令和2年基本計画の策定の際の審議会(令和元年9月から2年3月まで)における、基本計画等に示された指標の検証状況をみたところ、図表31のとおり、品目別自給率を除き、全ての指標について、平成27年基本計画等で示された指標の進捗状況は検証されていたが、目標年度に到達した基本計画等に示された指標に係る目標年度における目標の達成状況を確認して、目標年度において目標を達成していなかった場合の要因分析をするなどの検証は行われていなかった。

上記について、農林水産省は、総合食料自給率については、平成16年に総合評価による政策評価を実施していたものの、外交、経済等の様々な要因により決定されるものであることなどから、政策評価の対象とすることができないとしていた。また、基本計画等に示された指標について、審議会において、直近の基本計画の進捗状況で検証していることについては、今後10年程度先までの施策の方向等を示すものとして策定される基本計画がおおむね5年ごとに見直されることから、その時点における施策の方向等を示しているのが直近の基本計画であることを理由としていた。

しかし、総合食料自給率については、上記のとおり政策評価の対象とし難い面があるとしても、長期に多額の予算を措置してきた食料の安定供給に向けた取組について、総合食料自給率やその目標の前提となっている指標に係る目標の達成状況を適時適切に検証することにより、得られた知見等を将来の政策に的確に反映していくことが重要である。

図表31 基本計画等で示された総合食料自給率等の指標の検証状況

指標 政策評価における平成22年基本計画等で示された指標の設定状況 令和2年基本計画策定時の審議会における指標の検証状況
総合食料自給率 指標として設定されていない 平成27年基本計画に示された目標(目標年度:令和7年度)の平成30年度時点の進捗状況を検証
飼料自給率
生産努力目標
(国内生産量)
牛肉、豚肉及び鶏肉の指標は設定されていたものの、他の品目については設定されていない
総合食料自給率の目標の前提としたデータ(単収、作付面積等、品目別自給率) 指標として設定されていない 品目別自給率を除き、全ての品目について、平成27年基本計画に示された目標(目標年度:令和7年度)の平成30年度時点の進捗状況を検証(品目別自給率については、その算定要素である国内消費仕向量及び国内生産量の進捗状況を検証)
農地(農地面積及び耕地利用率) 平成27年基本計画に示された見通し(令和7年時点)の平成30年時点(耕地利用率)及び令和元年時点(農地面積)の進捗状況を検証
農業労働力(農業就業者数等) 平成27年基本計画に示された見通し(令和7年時点)の平成27年時点の進捗状況を検証

4 本院の所見

食料の安定供給については、前記のとおり、近年の気候変動等による世界的な食料生産の不安定化、ウクライナ情勢の緊迫化等に伴う輸入食品原材料や生産資材の価格高騰等を背景として、政府は、食料安全保障の強化が国家の喫緊かつ最重要課題となっているとしている。一方、基本法は、制定から20年以上が経過し、農業構造の変化に加えて、食料安全保障上のリスクが制定時には想定されなかったレベルに達してきており、基本法の改正に向けた検証・検討が進められている。

このような中、本院において、基本法制定以降に策定された基本計画について、総合食料自給率等の基本計画等に示された指標に係る目標年度における目標の達成状況等を検査したところ、次のような状況となっていた。

基本計画等に示された指標の中には、目標年度において目標を達成等していない指標があり、その中には、総合食料自給率や飼料自給率等、全ての目標年度において目標を達成していない指標もあった。また、飼料作物に係る指標の中には、目標と対比可能な実績を把握しておらず、目標と実績とを対比できないものなどがあった。しかし、基本計画等に示された指標について、農林水産省は、進捗状況は検証していたものの、基本計画の目標年度における目標の達成状況等の検証は行っていなかった。

そこで、品目ごとの供給熱量ベースの総合食料自給率への寄与度を本院が試算した結果、小麦及び大豆を除いて生産量の増加による総合食料自給率の上昇への寄与度が小さいことなどが明らかになった。また、小麦、大豆及び飼料作物の生産の増大に係る取組について、大豆及び飼料作物はその効果の発現に一定の制約があることが思料されるとともに、小麦及び大豆は基本計画どおりに当該取組を継続したとしても海外依存度が高いことに変わりはない状況となるなどしていた。一方、小麦の輸入について、ウクライナ情勢の影響を緩和するための政府売渡価格に係る緊急措置による減収額を試算すると、300億円超になっていた。

今後、農林水産省が、限られた予算の中で、食料の安定供給に向けた取組により、農業構造の変化や食料安全保障上のリスクに対応していくためには、より一層、効率的、効果的な施策の実施が求められている。そして、食料の安定供給や食料自給率向上に向けた施策の実施に当たっては、情報提供等を通じて国民の理解を深めるとともに、基本計画等に示された指標に係る目標の達成状況等を適時適切に検証するなどして効率的、効果的に実施していくことがますます重要になる。

ついては、本院の検査で明らかになった状況を踏まえて、今後、農林水産省において、食料の安定供給に向けた取組について、効率的、効果的な施策の実施に資するよう基本計画等に示された指標に係る目標の達成状況等の検証を適時適切に行うことの重要性に留意して、引き続き、生産の増大、輸入及び備蓄の適切な組合せにより食料の安定供給が図られるよう努めることが望まれる。

本院としては、食料の安定供給に向けた取組について、引き続き注視していくこととする。