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  • 令和4年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

第3 燃料油価格激変緩和対策事業の実施状況について


検査対象
資源エネルギー庁
所管、会計名及び科目
経済産業省所管 一般会計 (組織)資源エネルギー庁 (項)燃料安定供給対策費 (項)エネルギー需給構造高度化対策費 内閣府、文部科学省、経済産業省及び環境省所管 エネルギー対策特別会計(エネルギー需給勘定) (項)燃料安定供給対策費
燃料油価格激変緩和対策事業の概要
原油価格の高騰がコロナ下からの経済回復の重荷になる事態を防ぐための激変緩和措置として、また、国際情勢の緊迫化による国民生活や経済活動への影響を最小化するための激変緩和措置として、燃料油の卸売価格の抑制のための手当てを行うことで、小売価格の急騰を抑制する事業
燃料油価格激変緩和対策事業の歳出予算現額
6兆2133億円(令和3、4両年度)
上記のうち基金として造成された額
3兆1910億円(令和3、4両年度)
基金補助金の交付額(概算払)
2兆9893億円(令和3、4両年度)
令和5年3月末時点における事務局に対する委託費の上限額
126億円(令和3、4両年度)

<構成>

1 検査の背景(a1リンク参照)

(1) 燃料油価格激変緩和対策事業の概要等(a1_1リンク参照)

ア 燃料油価格激変緩和対策事業の概要(a1_1_1リンク参照)

イ 支給単価の上限の変更等(a1_1_2リンク参照)

(2) 燃料油価格激変緩和対策事業の実施体制の概要(a1_2リンク参照)

(3) 予算執行調査の結果を踏まえた資源エネルギー庁の対応(a1_3リンク参照)

(4) 行政事業レビューシート及び基金シートの作成状況等(a1_4リンク参照)

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法(a2リンク参照)

3 検査の状況(a3リンク参照)

(1) 燃料油価格激変緩和対策事業の予算の執行状況等(a3_1リンク参照)

ア 燃料油価格激変緩和対策事業の予算の執行状況(a3_1_1リンク参照)

イ 基金の造成額(a3_1_2リンク参照)

ウ 基金の取崩額、基金残高等(a3_1_3リンク参照)

エ 基金補助金の交付額(a3_1_4リンク参照)

(2) 基金補助金の交付額の算定方法等(a3_2リンク参照)

ア 基金補助金の交付額の算定方法(a3_2_1リンク参照)

イ 卸売事業者における基金補助金の取扱い(a3_2_2リンク参照)

(3) 事務局における委託業務の状況等(a3_3リンク参照)

ア 事務局における委託業務の実施体制の状況(a3_3_1リンク参照)

イ 委託費及び再委託費の推移等(a3_3_2リンク参照)

ウ 電話調査及び現地調査の実施状況等(a3_3_3リンク参照)

(4) 基金補助金の交付による価格抑制効果等(a3_4リンク参照)

ア 資源エネルギー庁における価格抑制効果の指標(a3_4_1リンク参照)

イ 基金補助金の交付による価格抑制効果(a3_4_2リンク参照)

ウ 行政事業レビューシート及び基金シートにおける成果目標(a3_4_3リンク参照)

4 本院の所見(a4リンク参照)

別図表1 卸売事業者30者に対する基金補助金の交付状況(令和5年3月末時点)(a5リンク参照)

別図表2 支給単価、予測価格、抑制単価等の推移(レギュラーガソリン)(a6リンク参照)

1 検査の背景

(1) 燃料油価格激変緩和対策事業の概要等

ア 燃料油価格激変緩和対策事業の概要

政府は、令和3年11月に「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を閣議決定し、昨今の原油等のエネルギー価格の上昇基調といった景気の下振れリスクにも十分配慮が必要であるとして、燃料油の卸売価格の抑制のための手当てを行うことで、小売価格の急騰を抑制する時限的措置を講ずることとした。これを受けて、資源エネルギー庁は、原油価格の高騰がコロナ下からの経済回復の重荷になる事態を防ぐための激変緩和措置として、燃料油の卸売価格の抑制のための手当てを行うことで、小売価格の急騰を抑制することにより、消費者の負担を低減することを目的として、「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策補助金交付要綱」(20211130財資第2号)を定め、これに基づき、本事業を実施するための基金の造成、管理、運用等を円滑に実施できる事業者(以下「基金設置法人」という。)に対して補助金を交付して基金を造成させて、「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業」を実施することとした。そして、「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策補助金実施要領」(20211130財資第3号)によれば、基金設置法人は、補助金により造成された基金を活用して、燃料油の卸売事業者(注1)(以下「卸売事業者」という。)に対する補助金の交付等の業務について、経済産業大臣が定める事業者(以下「事務局」という。)と委託契約を締結して実施することとされている(以下、基金を取り崩して卸売事業者に交付する補助金を「基金補助金」という。)。

(注1)
燃料油の卸売事業者  石油の備蓄の確保等に関する法律(昭和50年法律第96号)第16条の規定に基づき石油輸入業の登録をした事業者、同法第26条の規定に基づき石油精製業の届出をした事業者等

資源エネルギー庁は、本事業の実施前から、サービスステーション(以下「SS」という。)2,000か所程度を対象として、小売価格に関する石油製品小売市況調査(以下「本庁調査」という。)を毎週行っていた。そして、本事業における基金補助金の交付対象期間(当初は3年12月から4年3月末までとして開始)中に、本庁調査によるレギュラーガソリンの1L当たりの全国平均小売価格が資源エネルギー庁が定める基準価格(当初は170円/L)以上となったときに、基金補助金を交付することとなっていた。基金補助金の交付額は、本庁調査が実施された週の木曜日を起算日とした1週間の燃料油(ガソリン、軽油、灯油及び重油)の卸売販売量に支給単価を乗じた額とされている。そして、4年1月24日に実施された本庁調査において、レギュラーガソリンの全国平均小売価格が基準価格を超える170.2円/Lとなったことから、同月27日以降の燃料油の卸売販売量を対象として、卸売事業者に対する基金補助金の交付が開始された。

基金補助金の交付額の算定に当たり、1L当たりの支給単価は、1週間ごとに、次の算定式のとおり、予測価格(注2)から基準価格を差し引いて算定することとなっている。当初、支給単価の上限は5円/Lとなっていた。

支給単価
=
予測価格
-
基準価格
予測価格
=
令和4年1月24日の本庁調査による全国平均小売価格
+
原油価格の変動分(注3)
(該当週の前週の原油価格
- 1月10日の週の原油価格)
(注2)
予測価格  基金補助金を交付しなかった場合に想定される翌週の本庁調査によるレギュラーガソリンの1L当たりの全国平均小売価格
(注3)
原油価格の変動分  原油価格の変動分の算定に用いる原油価格は、日本経済新聞に掲載されているドバイ原油価格(米ドル建て価格。TTSレート(Telegraphic Transfer Selling rate)を用いて円建てに換算したもの)の1週間の平均値

政府は、その後も国際情勢の緊迫化による原油価格の高騰等に対応するための対策を講じている。図表1のとおり、5年3月末までに講じた対策により、基金補助金の交付対象期間の延長、支給単価の上限の引上げなどが行われている(以下、燃料油価格の激変緩和に係る事業を総称して「燃料油価格激変緩和対策事業」といい、燃料油価格激変緩和対策事業に係る補助金の交付要綱及び実施要領を、それぞれ「交付要綱」及び「実施要領」という。)。そして、燃料油価格激変緩和対策事業の予算額は3、4両年度で累計6兆2133億余円となっている。なお、前記の基金については、燃料油価格激変緩和対策事業の変遷に伴い、その名称は変更されているものの、同一の基金として管理されている。

図表1 燃料油価格激変緩和対策事業の変遷(令和5年3月末時点)

対策名等(閣議決定等) コロナ克服・新時代開拓のための経済対策
(閣議決定)
原油価格高騰に対する緊急対策
(原油価格高騰等に関する関係閣僚会合)等
コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」
(原油価格・物価高騰等に関する関係閣僚会議)
第4回物価・賃金・生活総合対策本部 物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策
(閣議決定)
決定日
令和3年11月19日
4年3月4日 4月26日 9月9日 10月28日
事業名 コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業 コロナ感染症及び国際情勢の緊迫化に伴う燃料油価格激変緩和対策事業 燃料油価格激変緩和対策事業
補助金名 コロナ下における燃料油価格激変緩和対策補助金 コロナ感染症及び国際情勢の緊迫化に伴う燃料油価格激変緩和対策補助金 燃料油価格激変緩和対策補助金
基金名 コロナ下における燃料油価格激変緩和基金 コロナ感染症及び国際情勢の緊迫化に伴う燃料油価格激変緩和基金 燃料油価格激変緩和基金
事業開始日 4年1月27日 3月10日 4月28日
基金補助金の交付対象期間 4年3月末まで 3月末まで
(その後、4月末まで)
9月末まで 12月末まで 5年9月末まで
補助対象燃料油 ガソリン、軽油、灯油、重油 ガソリン、軽油、灯油、重油、航空機燃料
基準価格 170円/L
(4週毎に1円/L切上げ)
172円/L 168円/L
支給単価の上限 5円/L 25円/L 35円/L
(35円/Lを超える分についても1/2を支給)
5年1月から5月にかけて毎月2円/Lずつ引下げ、6月以降は段階的に縮小
予算措置 893億円 3579億余円 1兆4429億余円 1兆2959億余円 3兆0271億余円
  年度、会計名及び科目 令和3年度
エネルギー対策特別会計
エネルギー需給勘定
(項)燃料安定供給対策費
(目)石油製品販売業構造改善対策事業費等補助金
令和3年度
一般会計
(項)燃料安定供給対策費
(目)燃料油価格激変緩和強化対策事業費補助金

令和3年度
エネルギー対策特別会計エネルギー需給勘定
(項)燃料安定供給対策費
(目)石油製品販売業構造改善対策事業費等補助金
令和4年度
一般会計
(項)燃料安定供給対策費
(目)燃料油価格激変緩和強化対策事業費補助金
令和4年度
一般会計
(項)燃料安定供給対策費
(目)燃料油価格激変緩和強化対策事業費補助金
令和4年度
一般会計
(項)エネルギー需給構造高度化対策費
(目)エネルギー価格激変緩和対策事業費補助金
財源の内訳 〇70億円(移用及び流用)
〇予備費
23億円
〇補正予算(特第1号)
800億円(うち300億円は予備費)
〇令和3年度一般会計予備費
3499億余円

〇令和3年度エネルギー対策特別会計
79億余円(移用及び流用)
〇予備費
2774億余円
〇補正予算(第1号)
1兆1655億余円
〇新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費
1兆2959億 余円
〇補正予算(第2号)
3兆0271億 余円
累計
893億円
4472億余円
1兆8901億余円
3兆1861億余円
6兆2133億余円

イ 支給単価の上限の変更等

燃料油価格激変緩和対策事業は、原油価格の高騰等に対応するため、図表1のとおり、数次にわたり基金補助金の交付対象期間が延長されるとともに、支給単価の上限が変更されるなどしている。そして、実施要領等によれば、基準価格については4年3月7日の週から同年4月18日の週までは172円/Lに固定することとされ、同期間の支給単価の上限については5円/Lから25円/Lに引き上げることとされた。また、予測価格については、基金補助金の交付が開始されてから一定の期間が経過したことを踏まえ、該当週の前週の支給単価も用いて算定する方法に改められ、同年3月7日の週以降は、次の算定式により算定することとされた。

予測価格
=
該当週の本庁調査による全国平均小売価格
+
該当週の前週の支給単価
+
原油価格の変動分
(該当週の前週の原油価格
- 該当週の前々週の原油価格)

さらに、4年4月25日の週以降、基準価格については168円/Lに固定することとされ、支給単価の上限については25円/Lから35円/L(注4)に引き上げることとされるとともに、予測価格から基準価格を差し引いた額が35円/L(注4)を超える場合は、その超過分に0.5を乗じた額を支給単価に加算することなどとされた。また、同月28日以降、補助対象となる燃料油として航空機燃料が加えられ、航空機燃料に係る支給単価については、上記の方法により算定した支給単価に0.4を乗じた額とすることとされた。

(注4)
令和5年1月9日の週からは33円/L、同月30日の週からは31円/L、同年2月27日の週からは29円/L、同年4月3日の週からは27円/L、同年5月8日の週からは25円/Lに、それぞれ引き下げることとされていた。そして、同年6月以降は、25円/L以下の部分に対する補助率(10分の10)を引き下げていく一方、25円/L超の部分に対する補助率(2分の1)を引き上げていくこととされている。

(2) 燃料油価格激変緩和対策事業の実施体制の概要

前記のとおり、基金設置法人は、事務局と委託契約を締結して、基金補助金の交付等の業務を実施することとされている。資源エネルギー庁は、3年11月25日に、「令和3年度「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業」に係る基金設置法人募集要領」及び「令和3年度「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業」に係る事務局募集要領」(以下、これらを合わせて「募集要領」という。)を定め、事業内容、委託業務の内容、委託費の上限額、公募期間(3年11月25日から12月2日まで)等を示して、基金設置法人及び事務局をそれぞれ募集した。そして、学識経験等を有する外部有識者3名で構成された委員会による審査の結果、同年12月2日に、基金設置法人については応募があった2者のうち一般社団法人全国石油協会(以下「全国石油協会」という。)を、事務局については応募があった3者のうち株式会社博報堂(以下「博報堂」という。)を、それぞれ採択した。これを受けて、同月同日に全国石油協会が経済産業省に対して補助金の交付申請を行い、同月3日に経済産業省による補助金の交付決定が行われ、同月8日に全国石油協会と博報堂との間で委託契約が締結された(基金設置法人及び事務局の公募の手続については図表2参照)。

図表2 基金設置法人及び事務局の公募の手続

(基金設置法人)

募集期間 令和3年11月25日から同年12月2日12時まで
募集要領 令和3年度「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業」に係る基金設置法人募集要領
  事業内容 ①燃料油価格激変緩和対策事業を実施するための基金の造成及び管理・運用、②燃料油価格激変緩和対策事業の実施に係る業務(交付規程の策定、交付申請の受理、交付の決定及びその取消し、実績報告の受理、額の確定等)
審査機関 学識経験等を有する外部有識者(3名)で構成される委員会
審査基準 ①基金の管理について安全性と資金管理の透明性が確保されているか、②燃料油価格激変緩和対策事業を適切に行えるか、指導監督を適切に行えるか、③必要かつ適正な事務・管理体制を整えられるか、事務を行うために要する費用は適正かつ合理的かなど
提案事業者数 2者
採択された事業者 全国石油協会
基金造成のための補助金の交付申請 (交付申請日)3年12月2日 (交付決定日)3年12月3日
(交付決定額)93億円
事業実施期間 交付決定日から5年3月31日まで(基金補助金の交付対象期間は4年3月末までであるが、卸売事業者からの報告に基づいて行われる基金補助金の交付業務が終了するまでの期間を事業実施期間としている。)

(事務局)

募集期間 令和3年11月25日から同年12月2日12時まで
募集要領 令和3年度「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業」に係る事務局募集要領
  委託業務の内容 ①交付決定に係る業務(交付申請書の内容確認、証ひょうの確認業務等)、②広報活動に係る業務(ポスター、ホームページ及びバナー広告の作成、新聞への広告掲載、コールセンターの設置等)、③価格モニタリングに係る業務(小売価格の現場調査等)等
審査機関 学識経験等を有する外部有識者(3名)で構成される委員会
審査基準 ①提案内容が事業の目的に合致しているか、②事業の実施方法及び実施スケジュールが現実的か、③実施方法等について、事業の成果を高めるための効果的な工夫がみられるか、④事業を円滑に遂行するために、規模等に適した実施体制となっているか、⑤コストパフォーマンスが優れているか、⑥再委託費の割合が50%を超えないかなど
委託費の上限額 25億円
提案事業者数 3者
採択された事業者 博報堂
契約締結日 3年12月8日
契約額 24億余円
事業実施期間 契約締結日から5年3月31日まで(基金補助金の交付対象期間は4年3月末までであるが、卸売事業者からの報告に基づいて行われる基金補助金の交付業務が終了するまでの期間を事業実施期間としている。)

(注) 燃料油価格激変緩和対策事業の拡充等に際して、資源エネルギー庁は新たに交付要綱や実施要領を制定しているが、基金設置法人及び事務局の公募を改めて実施していないため、令和3年12月2日に全国石油協会が基金設置法人に、博報堂が事務局に、それぞれ採択されて以降、そのまま継続して基金設置法人及び事務局となっている。

(3) 予算執行調査の結果を踏まえた資源エネルギー庁の対応

財務省は、4年度に燃料油価格激変緩和対策事業を対象とする予算執行調査を実施している。そして、4年3月から7月までのガソリン販売実績量等を基に基金補助金の交付による価格抑制効果を機械的に推計したところ、ガソリン分について、実際の抑制額が基金補助金の交付額を約110億円下回る結果となっていること、また、基金補助金の趣旨について改めてSSに対して周知徹底を行い、基金補助金全額の販売価格への転嫁を促すべきであることなどの調査結果を、同年10月に公表している。

資源エネルギー庁は、当該予算執行調査の結果を踏まえて、国内の全てのSS(以下「全SS」という。)及びSS以外の一部の小売事業者に対して電話により行っていた小売価格の聞き取り調査(以下「電話調査」という。)において、基金補助金の趣旨について改めて説明するなどして、基金補助金全額の小売価格への反映を促すとともに、全SS等の中から選定したSSに調査員を派遣して行っていた小売価格の視察調査(以下「現地調査」という。)の実施数を増やすなどの対応を執っている。

(4) 行政事業レビューシート及び基金シートの作成状況等

各府省庁は、行政事業レビュー実施要領(平成25年4月行政改革推進会議)等に基づき、行政事業レビューシート及び基金シートを作成し、公表することなどとなっている。行政事業レビューシートは、事業の目的に照らし達成すべき事業の効果発現において要点となる目標を成果目標として記載し、所掌する事業に係る予算の執行状況等を整理した上で検証して見直しを行うために作成するものである。また、基金シートは、基金の透明性を確保するとともに余剰資金の有無等に係る点検を行うために作成するものである。そして、資源エネルギー庁は、燃料油価格激変緩和対策事業について、成果目標を定めるなどした行政事業レビューシート及び基金シートを作成して公表している。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

前記のとおり、燃料油価格激変緩和対策事業は、基金補助金の交付対象期間が数次にわたり延長されるとともに、支給単価の上限が変更されるなどしていて、3、4両年度に6兆2133億余円に上る多額の予算が計上されている。また、資源エネルギー庁は、前記の予算執行調査の結果を踏まえて、基金補助金全額の小売価格への反映を促すなどの対応を執っている。

そこで、本院は、上記の状況等を踏まえて、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、燃料油価格激変緩和対策事業の実施状況はどのようになっているか、基金補助金の交付額の算定は適切か、事務局における委託業務の実施状況はどのようになっているか、交付された基金補助金の小売価格への反映状況はどのようになっているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、燃料油価格激変緩和対策事業を対象として、資源エネルギー庁及び全国石油協会において、基金の造成や取崩しに関する関係書類の提出を受けて、その内容について関係者から説明を徴し、5年3月末までに概算払により基金補助金の交付を受けていた卸売事業者30者のうち20者において、仕入・販売等に係る契約書類、概算払請求書等の関係書類を確認するとともに、資源エネルギー庁が本庁調査を委託している一般財団法人日本エネルギー経済研究所において、本庁調査に関する関係書類の提出を受けるなどして会計実地検査を行った。また、会計実地検査を行わなかった卸売事業者10者については、全国石油協会から仕入・販売等に係る契約書類、概算払請求書等の関係書類の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。さらに、全国石油協会と委託契約を締結している博報堂から、卸売事業者からの概算払請求に対する審査の状況、価格モニタリングに係る業務の実施状況等について、関係書類の提出を受けて、その内容について関係者から説明を徴するなどして調査した。

3 検査の状況

(1) 燃料油価格激変緩和対策事業の予算の執行状況等

ア 燃料油価格激変緩和対策事業の予算の執行状況

燃料油価格激変緩和対策事業の予算の執行状況についてみたところ、図表3のとおり、歳出予算現額は6兆2133億余円、支出済歳出額は3兆1910億余円となっていて、3兆0222億余円を4年度から5年度に繰り越していた。その後、資源エネルギー庁は、5年6月末までに、5年度に繰り越した3兆0222億余円のうち1984億円を基金設置法人に対して補助金として交付している。

図表3 燃料油価格激変緩和対策事業の予算の執行状況(単位:百万円)

所管
(会計名及び勘定名)
予算科目 令和3年度 4年度
歳出予算現額
(a)
支出済歳出額
(b)
翌年度繰越額
(c)
不用額
(a)-(b)-(c)
歳出予算現額
(d)
支出済歳出額
(e)
翌年度繰越額
(f)
不用額
(d)-(e)-(f)
経済産業省
(一般会計)
(項)燃料安定供給対策費
(目)燃料油価格激変緩和強化対策事業費補助金
349,974 349,974 2,738,865 2,738,865
(項)エネルギー需給構造高度化対策費
(目)エネルギー価格激変緩和対策事業費補助金
3,027,175 4,952 3,022,222
内閣府、文部科学省、経済産業省及び環境省
(エネルギー対策特別会計エネルギー需給勘定)
(項)燃料安定供給対策費
(目)石油製品販売業構造改善対策事業費等補助金
97,287 97,287
447,261 447,261 5,766,040 2,743,818 3,022,222
3、4両年度の計 6,213,302 3,191,079 3,022,222

イ 基金の造成額

上記のとおり、基金設置法人に基金を造成させるために措置された予算の多くが5年度に繰り越されていたことから、全国石油協会における基金造成の状況についてみたところ、全国石油協会は、3年12月から5年3月末までの間に、基金の取崩しに必要となる額について、その都度、国から補助金の交付を受けていた。そして、3、4両年度の歳出予算現額6兆2133億余円のうち、5年3月末までに3兆1910億余円を基金に積み立てていたものの、残りの3兆0222億余円は国から交付を受けていなかった。その理由を確認したところ、全国石油協会は、当初予算措置された93億円で燃料油価格激変緩和対策事業を開始したものの、数次にわたる基金補助金の交付対象期間の延長等により多額の基金を管理することは想定しておらず、いわゆるマイナス金利政策の影響により金融機関は多額かつ短期の資金を受け入れるとマイナス金利を負担することになるため、造成した基金を預金できる金融機関を確保できなかったとしている。

ウ 基金の取崩額、基金残高等

全国石油協会は、交付要綱等に基づき、卸売事業者に対して基金補助金を交付する場合のほか、全国石油協会の基金管理等に要する経費(以下「基金管理費」という。)に充てる場合や博報堂に対して委託費を支払う場合に、経済産業大臣の了解を得た後、基金を取り崩すことができることとなっている。

全国石油協会が基金に積み立てた3兆1910億余円について、5年3月末時点における基金の取崩額、基金残高等の状況をみたところ、図表4のとおり、基金の取崩額は計2兆9893億余円となっていて、そのほぼ全額が卸売事業者に対する基金補助金の交付額となっていた。そして、基金残高は2017億余円となっていた。

図表4 基金の取崩額、基金残高等の状況(令和5年3月末時点)(単位:百万円)

基金造成額
(a)
注(1)
基金取崩額
(b)
  運用収入
(c)
基金残高
(a)-(b)+(c)
基金補助金の交付額
基金管理費への充当額
委託費の支払額
3,191,079 2,989,317 2,989,315 1 注(2)
2 201,764
  • 注(1) 全国石油協会は、基金残高に応じて、随時経済産業省に対して補助金の交付申請を行うなどして、基金の取崩しに必要となる額を基金に積み増している。
  • 注(2) 令和5年3月末時点において、博報堂は全国石油協会に対して委託費の支払を請求していないため、これに係る基金の取崩しはない。

エ 基金補助金の交付額

実施要領によれば、基金設置法人は、基金補助金の交付の手続等について交付規程を定め、経済産業大臣の承認を受けなければならないとされている。これを受けて全国石油協会が3年12月に定めた「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策補助金交付規程」によれば、基金補助金の支払に当たり、必要があると認められる経費については概算払を行うことができるとされている。そして、卸売事業者は、概算払の請求に当たっては、概算払請求書のほか、証ひょうとして燃料油別・販売先別の販売数量、販売期間、支給単価等が明記された請求書等を全国石油協会に提出しなければならないとされている。

また、卸売事業者による概算払の請求に当たっては、原則として、週ごとに基金補助金の交付額を算定した上で月単位で翌月に請求することになっており、概算払の請求を受けた全国石油協会は、博報堂の審査を経るなどして、請求を受けた月の月末までに当該卸売事業者に対して概算払を行うことになっている。そして、資源エネルギー庁が3年12月に定めた「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業における実務ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)によると、卸売事業者は、燃料油価格激変緩和対策事業の最終月から3か月を超えない範囲において精算に係る申請等を行うこととなっている。燃料油価格激変緩和対策事業については、5年9月末現在、同年12月末まで延長されることとなっており最終月に至っていないため、精算は行われておらず、概算払が続けられている状況となっている。

そして、5年3月末までの基金補助金の交付状況についてみたところ、概算払により基金補助金の交付を受けていた卸売事業者は30者、交付額は計2兆9893億余円となっていた。また、燃料油別にみると、ガソリン計1兆2849億余円(全体の42.9%)、軽油計9112億余円(同30.4%)、灯油計2911億余円(同9.7%)、重油計4391億余円(同14.6%)及び航空機燃料計628億余円(同2.1%)となっていた(卸売事業者30者に対する基金補助金の交付状況は別図表1参照)。

(2) 基金補助金の交付額の算定方法等

ア 基金補助金の交付額の算定方法

ガイドラインによると、輸入又は国内で精製された燃料油については、同一の燃料油に対して二重に基金補助金が交付されることを防ぐために、原則として、輸入又は国内で精製した卸売事業者が当該燃料油を販売した時点において、基金補助金が一回に限り交付されることとなっている。

資源エネルギー庁は、燃料油価格激変緩和対策事業の開始前に、一部の卸売事業者から聞き取りを行った上で、基金補助金の交付対象となる燃料油の販売量(以下「補助対象数量」という。)の算定について三つの方法を設定しており、これらを算定式で示すと次のとおりとなっている。

(算定式1)

補助対象数量
=
補助対象外数量(注5)を除いた国内向け全販売量(該当週)
×
(
輸入量(注6)
+
精製量(注6)
)
(
輸入量
+
精製量
+
国内調達量(注6)
)
(注5)
補助対象外数量  国内向け全販売量のうち、支給単価を反映した価格で販売することができなかった場合や、燃料以外の用途で用いられることが明らかであった場合等における販売量
(注6)
輸入量、精製量及び国内調達量は、1年以内であり、かつ、各卸売事業者が合理的であると判断する特定の期間(6か月、1年等)内の量となる。また、国内調達量は、他の卸売事業者からの仕入量であることから、原則として基金補助金分が織り込まれたものとなる。

(算定式2)

補助対象数量
=
補助対象外数量を除いた国内向け全販売量(該当週)
-
国内調達量
(該当週)

(算定式3)

補助対象数量
=
補助対象外数量を除いた国内向け全販売量(該当週)
-
補助対象外数量を除いた国内向け全販売量(該当週)
×
国内調達量
(該当週)
補助対象外数量を除いた国内向け全販売量(該当月)

ガイドライン等によると、卸売事業者は、補助対象数量の算定に当たり、当該卸売事業者に係る燃料油取引の実情に合わせて三つの算定式からいずれか一つを選択して補助対象数量を算定し、これに支給単価を乗ずるなどして、基金補助金の交付額を算定することとなっている。なお、卸売事業者は、一度選択した算定式を事業実施期間中に他の算定式に変更することはできないこととなっている。

イ 卸売事業者における基金補助金の取扱い

(ア) 基金補助金の卸売価格への反映状況

ガイドラインによると、卸売事業者が全国石油協会に基金補助金の概算払を請求する際には、支給単価を卸売価格に反映したことが分かる資料を提出することとなっている。そこで、基金補助金の交付を受けていた卸売事業者30者が概算払の請求時に全国石油協会に提出していた証ひょうを確認するなどしたところ、卸売事業者は、燃料油の販売に当たり、支給単価相当分を差し引いた額を卸売価格としていることを小売事業者等に対して通知した上で販売していて、検査した範囲では、支給単価が卸売価格に反映されていない事態は見受けられなかった。

(イ) 国内向け全販売量が国内調達量を下回る場合の取扱い

前記のとおり、卸売事業者は、基金補助金の交付額を算定するに当たり、三つの算定式からいずれかを選択することとなっている。そして、算定式は、いずれも販売量等の計数を週ごとに把握することが想定されている。一方、卸売事業者における燃料油の実際の販売は、卸売事業者の規模や市況等にも左右され、調達した週内で完了することもあれば、翌週以降に及ぶこともあると考えられる。

そして、補助対象外数量がないと仮定すると、ある週の国内向け全販売量が国内調達量を下回る場合、すなわち、ある週に調達した燃料油の販売が翌週以降にも及ぶ場合、算定式2及び算定式3による補助対象数量はマイナス値となる場合があるが、ガイドラインには、補助対象数量がマイナス値となる場合の基金補助金の取扱いについては定められていなかった。

そこで、本院において、卸売事業者30者から全国石油協会に5年6月末までに提出されていた概算払請求書を確認したところ、一部の請求月において週単位の国内向け全販売量が国内調達量を下回り補助対象数量がマイナス値となっている卸売事業者が3者見受けられた。

このうち、卸売事業者1者は、燃料油ごとに基金補助金の交付額を算定する際に、マイナス値となった燃料油の補助対象数量に支給単価を乗じて、当該燃料油に係る基金補助金の交付額を計マイナス8億0890万余円と算定していた。そして、このマイナス分を他の燃料油に係る基金補助金の交付額と相殺していた。

一方、残りの卸売事業者2者は、上記の卸売事業者1者と同様の方法により、マイナス値となった燃料油の補助対象数量に係る基金補助金の交付額を算定すると計マイナス3億6611万余円となったのに、資源エネルギー庁に問合せを行った結果、同庁の指示に基づき、これを0円としたとしていて、基金補助金の交付額の算定に当たり、マイナス分を相殺していなかった。

前記のとおり、資源エネルギー庁は、同一の燃料油に対して二重に基金補助金が交付されることを防ぐためにガイドラインを定めている。また、同庁は、算定式2及び算定式3において国内調達量を差し引くこととしている理由について、卸売事業者が国内で調達した燃料油を小売事業者等に販売する場合、国内で調達した燃料油の卸売価格には基金補助金分が原則として織り込まれていることによるとしている。これらのことから、マイナス値となった燃料油の補助対象数量に係る基金補助金の交付額を0円として、これを相殺せずに基金補助金の交付額を算定した場合、同一の燃料油に対して二重に基金補助金が交付されることになる。

このように、補助対象数量がマイナス値となる場合の基金補助金の取扱いについてガイドラインに定めがなく、また、卸売事業者に対する同庁の指示が適切でなかったため、卸売事業者2者において、国内向け販売量が国内調達量を下回る場合の基金補助金の交付額の算定が適切とは認められない状況となっていた。

なお、資源エネルギー庁は、本院の検査を踏まえて、5年6月30日にガイドラインを改定し、燃料油の補助対象数量がマイナス値となる場合の基金補助金の交付額の算定方法等を定め、その内容を全国石油協会、卸売事業者及び博報堂に対して周知した。

一方、前記のとおり、燃料油価格激変緩和対策事業は終了しておらず、基金補助金の交付は概算払が続けられている状況となっている。

したがって、資源エネルギー庁は、今後の概算払及び精算において、国内向け全販売量が国内調達量を下回る場合の基金補助金の交付が適切なものとなるよう、前記のように同一の燃料油に対して二重に基金補助金が交付されている事態を解消させるとともに、同様の事態の再発防止を図るために、卸売事業者等に対して適切な指導等を行う必要がある。

(3) 事務局における委託業務の状況等

ア 事務局における委託業務の実施体制の状況

博報堂が公募時に資源エネルギー庁に提出した企画提案書によると、委託費の総額は24億9061万余円であり、このうち再委託費は計19億1977万余円、再委託費の割合(以下「再委託費率」という。)は77.0%となっていた。

募集要領によると、再委託費率が50%を超える場合には、再委託費率が50%を超える理由書を資源エネルギー庁に提出することとなっている。博報堂が提出した理由書によると、事務局として実施する各業務は専門性が求められることから、これらの業務を専門的に扱う事業者に再委託することにより、事業全体の品質確保と事業費の効率化を図ることができるためであるとしていた。そして、博報堂は、図表5のとおり、事業全体の企画、立案等に係る業務を除く専門的な業務を株式会社ヴァリアス・ディメンションズ(以下「VD社」という。)、株式会社博報堂プロダクツ、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ及び株式会社D&Iパートナーズ(4年4月1日に株式会社博報堂コネクトに社名変更)の4者に再委託していた。

図表5 事務局における委託業務の実施体制

図表5 事務局における委託業務の実施体制画像

また、博報堂から受託した業務の一部について、VD社は5者(株式会社トータルブレーン、株式会社フォーライン、インパクトフィールド株式会社、デジタルシティ株式会社及びアルサーガパートナーズ株式会社)に対して、株式会社D&Iパートナーズは2者(株式会社グロップ及び日本トータルテレマーケティング株式会社)に対して、それぞれ委託又は外注(博報堂が全国石油協会から受託した業務の再々委託等)を行っていた。なお、5年3月末時点において、再々委託等を受けた上記の5者から更に委託又は外注を行っているものはなかった。

イ 委託費及び再委託費の推移等

燃料油価格激変緩和対策事業については、消費者の負担を低減するという目的の下、原油価格の高騰等による影響に応じて、前記のとおり、基金補助金の交付対象期間が延長されるとともに、支給単価の上限が変更されるなどしていて、その歳出予算現額は当初と比べて大幅に増加している。そのため、全国石油協会と博報堂との間の委託契約についても、4年12月31日に、委託期間の終了日を6年3月末とする委託契約の改定について合意するなどしていて、図表6のとおり、5年3月末時点において、委託費の上限額は当初の24億余円から126億余円に増加していた。

そして、この上限額126億余円のうち、博報堂の人件費等に相当する額を除いた108億余円(再委託費率86.1%)がVD社等4者に対する再委託費に係る額となっていた。

図表6 委託費及び再委託費の上限額の推移

委託先及び再委託先 委託費及び再委託費の上限額(百万円) 当初比(倍)
(b)/(a)
令和3年
12月8日
当初契約
(a)
4年3月29日
変更契約
8月31日
変更契約
9月30日
変更契約
12月31日
変更契約
(5年3月末時点)
(b)
委託先 博報堂 2,490 5,333 5,902 7,689 12,624 5.0
再委託先 VD社 1,402 3,756 3,978 5,380 10,066 7.1
株式会社博報堂プロダクツ 52 77 85 95 104 2.0
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 368 485 485 485 485 1.3
株式会社D&Iパートナーズ 96 110 140 190 220 2.2

(再委託費率)
1,919
(77.0%)
4,429
(83.0%)
4,689
(79.4%)
6,151
(79.9%)
10,878
(86.1%)
5.6

ウ 電話調査及び現地調査の実施状況等

資源エネルギー庁は、燃料油価格激変緩和対策事業を実施するに当たり、小売価格の上昇が適切に抑制されるよう、全国の小売価格の推移をモニタリングすることにより価格抑制の実効性を確保するとしている。

博報堂は、企画提案書において、募集要領において実施することとなっている「価格モニタリングに係る業務」について、ガソリン、軽油、灯油等の小売価格を把握するために、電話調査及び現地調査を行うとしていた。そして、博報堂は、採択決定後の資源エネルギー庁との協議を経て、VD社に価格モニタリングに係る業務を再委託していて、再委託費の上限額は5年3月末時点で62億余円となっていた。

また、博報堂とVD社との間の再委託業務に係る契約書等において、価格モニタリングに係る業務の具体的な内容については明記されていなかった。一方、資源エネルギー庁は、毎週電話調査及び現地調査を実施するよう、博報堂を通じてVD社に指示しており、その結果については、博報堂を通じて毎週報告を受けていた。

前記のとおり、資源エネルギー庁は、予算執行調査の結果を踏まえて、電話調査において基金補助金の趣旨について改めて説明するなどして、基金補助金全額の小売価格への反映を促すとともに、現地調査の実施数を増やすなどの対応を執ったとしている。そこで、電話調査及び現地調査の実施状況等についてみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 電話調査の実施状況

VD社は、博報堂を通じて資源エネルギー庁から全国のSS28,578か所(当時)に係る事業者名、給油所名、電話番号、住所等の基礎情報が記載されたリストの提供を受けて、これを基に電話調査を実施することとしていた。

電話調査は、本庁調査と同様に、SSにおける小売価格を毎週調査するものとなっており、基金補助金の交付が開始された4年1月27日から5年3月末までの間(計61週間)において、VD社が電話調査を実施した時期及び回数(計59回)は本庁調査と全く同じとなっていた。また、資源エネルギー庁は、全SSを対象に電話調査を行うことを博報堂を通じてVD社に指示していたため、4年1月31日の週から同年4月4日の週までに実施された電話調査計10回分については、本庁調査の対象となっているSSに対しても電話調査が重複して実施されていた。

その後、VD社は、本庁調査の対象となるSSについては4年4月11日の週以降、廃業するなどしているSSについてはその都度、それぞれ電話調査の対象から除くことについて、博報堂を通じて資源エネルギー庁の了承を得ていた(以下、電話調査の対象としたSSを「電話調査対象SS」という。)。

そこで、電話調査対象SSに対する電話調査の実施状況についてみたところ、図表7のとおり、電話調査対象SSの数に対する電話調査を実施したSSの数の割合(以下「実施率」という。)は、1回目となる4年1月31日の週は96.7%となっていたが、その後漸減し、同年4月以降は75%程度で推移していた。そして、電話調査が実施されていないSS(以下「電話調査未実施SS」という。)の数は、電話調査開始直後から増加していて、同年3月7日の週以降は約5,000か所から約6,000か所までの間で推移していた。VD社は、電話調査未実施SSのほとんどは、過去の電話調査において回答を拒否したSS(以下「電話回答拒否SS」という。)であるとしている。VD社は、電話回答拒否SSに対しては、次回以降電話調査を実施せず、現地調査の対象とするなどの対応とすることについて、博報堂を通じて資源エネルギー庁の了承を得ていた。

図表7 電話調査の実施率及び電話調査未実施SSの数の推移

図表7 電話調査の実施率及び電話調査未実施SSの数の推移画像

(イ) 現地調査の実施状況

資源エネルギー庁は、現地調査を実施するに当たり、電話調査の結果、小売価格の上昇が抑制されていないSS(小売価格が前週と比較して一定額以上上昇しているSS。以下「価格非抑制SS」という。)や、電話回答拒否SSを現地調査の対象とするよう、博報堂を通じてVD社に指示していた。そして、VD社は、電話調査の結果を踏まえるなどしてSSを選定し現地調査を実施していて、4年2月から5年3月末までの実施回数は計58回となっていた。

現地調査の実施状況についてみたところ、図表8のとおり、現地調査の開始以降、現地調査の実施数は漸増していて、4年5月30日の週以降は1,500か所程度で推移していた。その後、資源エネルギー庁は、予算執行調査の結果を踏まえて、5年1月以降の現地調査の実施数を増やすよう、博報堂を通じてVD社に指示していたことから、同年1月9日の週以降は1,763か所から2,157か所までの間で推移していた。

また、現地調査の実施数(延べ83,344か所)の内訳をみると、価格非抑制SSに対する現地調査の実施数が計7,394か所(延べ14,319か所)、電話回答拒否SSに対する現地調査の実施数が計7,788か所(延べ69,025か所)となっていて、延べ箇所数でみると、電話回答拒否SSの割合が全体の82.8%となっていた。

図表8 現地調査の実施数の推移

図表8 現地調査の実施数の推移画像

現地調査において電話回答拒否SSの割合が全体の8割を超える状況となっていたことから、現地調査を実施した電話回答拒否SS7,788か所について、その実施回数をみたところ、図表9のとおり、1,640か所(全体の21.0%)に対しては1回のみとなっていた。残りの6,148か所(同78.9%)に対しては2回以上となっていて、このうち、30回以上のSSは659か所(同8.4%)となっていた。

図表9 電話回答拒否SS7,788か所に対する現地調査の実施回数(単位:か所)

1回
(a)
2回以上の計
(b)
 
(a)+(b)
2回以上
10回未満
10回以上
20回未満
20回以上
30回未満
30回以上
1,640
(21.0%)
6,148
(78.9%)
4,103
(52.6%)
854
(10.9%)
532
(6.8%)
659
(8.4%)
7,788
(100%)

(注) 割合は、小数点第2位以下を切り捨てているため、合計しても100%にならない。

また、現地調査を実施した価格非抑制SS7,394か所について、その実施回数をみたところ、図表10のとおり、4,331か所(全体の58.5%)に対しては1回のみとなっていた。残りの3,063か所(同41.4%)に対しては2回以上となっていて、このうち、10回以上のSSは76か所(同1.0%)となっていた。

図表10 価格非抑制SS7,394か所に対する現地調査の実施回数(単位:か所)

1回
(a)
2回以上の計
(b)
 
(a)+(b)
2回 3回 4回 5回以上
10回未満
10回以上
4,331
(58.5%)
3,063
(41.4%)
1,527
(20.6%)
684
(9.2%)
356
(4.8%)
420
(5.6%)
76
(1.0%)
7,394
(100%)

(注) 割合は、小数点第2位以下を切り捨てているため、合計しても100%にならない。

(ウ) 電話調査及び現地調査の結果についての報告

前記のとおり、資源エネルギー庁は、小売価格の上昇が適切に抑制されるよう、全国の小売価格の推移をモニタリングすることにより価格抑制の実効性を確保するとして、毎週電話調査及び現地調査を実施するよう、博報堂を通じてVD社に指示しており、その結果については、博報堂を通じて毎週報告を受けている。

そこで、博報堂からの報告内容をみたところ、電話調査及び現地調査のそれぞれについて、毎週の調査件数、回答件数、燃料油別の小売価格の平均価格等が記載されていた。また、現地調査においては、予算執行調査の結果が公表された後の4年10月24日の週以降、SSにおいて基金補助金の交付による効果を感じているか否かなどのアンケート結果についても報告を受けていた。

一方、資源エネルギー庁は、燃料油価格激変緩和対策事業の効果として、毎週、予測価格と本庁調査による全国平均小売価格との差額を算定し、支給単価との関係を示した資料を公表しているが、博報堂を通じて毎週報告を受けている電話調査及び現地調査の結果については、公表しない取扱いとしていた。

また、電話調査の結果については、前記のとおり、現地調査の対象となる価格非抑制SSの選定に活用されているものの、価格非抑制SS及び電話回答拒否SSに対する現地調査については、各調査時点における小売価格の把握にとどまっていた。

そして、資源エネルギー庁は、小売価格の上昇が適切に抑制されていたのかなどについて、電話調査及び現地調査の結果に基づく分析を行っておらず、両調査の実施がどのように小売価格の抑制に寄与しているのかなどについては不明な状況となっていた。

(エ) 電話調査、現地調査及び本庁調査の結果の比較

SSにおける小売価格に関する調査としては、電話調査、現地調査及び本庁調査の三つがあることから、レギュラーガソリンの全国平均小売価格について、これらの調査結果を比較してみたところ、図表11のとおり、電話調査及び現地調査が開始された4年1月31日の週以降、両調査の結果が本庁調査の結果を常に下回る状況となっていたが、価格の推移は、いずれの調査も同様の傾向を示していると見受けられた。

図表11 電話調査、現地調査及び本庁調査の結果(レギュラーガソリン)

図表11 電話調査、現地調査及び本庁調査の結果(レギュラーガソリン)画像

そこで、レギュラーガソリンに係る電話調査、現地調査及び本庁調査の結果についての相関関係をみるために、各調査間の相関係数をそれぞれ算出したところ、0.98から0.99までの間となっていて、強い正の相関関係がみられ、上記の期間中においてほぼ同様の値動きをしていることが認められた。

資源エネルギー庁は、燃料油価格激変緩和対策事業について、予測価格を基に支給単価を決定して基準価格を目指す事業であるとしており、予測価格の算定には、本庁調査の結果を用いることとしている。そして、図表11のとおり、本庁調査による全国平均小売価格は、4年6月27日の週には174.9円/Lとなり、基準価格(168円/L)との差は最大で6.9円/Lまで開いたが、同年11月7日の週以降、基準価格付近で安定して推移していた。また、電話調査及び現地調査の結果をみると、同月同日の週以降、基準価格よりも低い一定の価格帯で安定して推移していた。

上記の比較分析結果を踏まえると、単に全国の小売価格の推移を把握するのであれば、本庁調査の結果を活用することにより十分対応可能であると考えられる。

前記のとおり、価格モニタリングに係る業務は、博報堂からVD社に再委託されていて、再委託費の上限額は5年3月末時点で62億余円となっている。資源エネルギー庁は、小売価格の上昇が適切に抑制されるよう、全国の小売価格の推移をモニタリングすることにより価格抑制の実効性を確保するとして、毎週電話調査及び現地調査を実施するよう博報堂を通じてVD社に指示している。

しかし、前記のとおり、資源エネルギー庁は、小売価格の上昇が適切に抑制されていたのかなどについて、電話調査及び現地調査の結果に基づく分析を行っておらず、両調査の実施がどのように小売価格の抑制に寄与しているのかなどについては不明な状況となっていた。また、単に全国の小売価格の推移を把握するのであれば、本庁調査の結果を活用することにより十分対応可能であると考えられる。

電話調査及び現地調査については、小売価格の把握に加えて、小売事業者に対して心理的に小売価格の抑制を促すという事実上の効果があると思料されるものの、上記のような状況等に鑑みると、両調査の実施が価格抑制の実効性を確保するという目的に照らしてどのように機能しているかを検証した上で、両調査の必要性も含めて、その実施内容や実施方法、報告内容等について十分に検討することが望まれる。

したがって、資源エネルギー庁は、燃料油価格激変緩和対策事業を継続して実施する場合や、今後同種の事業を実施する場合には、事業実施期間中においても、随時、電話調査及び現地調査の必要性も含めて、その実施内容や実施方法、報告内容等について十分に検討する必要がある。

(4) 基金補助金の交付による価格抑制効果等

ア 資源エネルギー庁における価格抑制効果の指標

資源エネルギー庁は、基金補助金の交付による価格抑制効果を測定する指標として、該当週の支給単価の算定の基になった予測価格から翌週の本庁調査による全国平均小売価格を差し引いて算定した額を、1L当たりの抑制された単価(以下「抑制単価」という。)として公表している(支給単価、予測価格、抑制単価等の推移は別図表2参照)。

5年2月27日の週の支給単価(17.0円/L)による価格抑制効果を例にすると、次の算定式のとおり、予測価格185.0円/Lに対して、翌週の本庁調査による全国平均小売価格が167.4円/Lであったことから、これを差し引いた17.6円/Lが抑制単価であると算定していた。

支給単価
(17.0円/L)
=
予測価格
(185.0円/L)
-
基準価格
(168円/L)
抑制単価
(17.6円/L)
=
予測価格
(185.0円/L)
-
翌週の本庁調査による全国平均小売価格
(167.4円/L)

イ 基金補助金の交付による価格抑制効果

(ア) 基金補助金の交付額と実際の抑制額との比較

前記のとおり、財務省は、4年度に燃料油価格激変緩和対策事業を対象とする予算執行調査を実施しており、4年10月に、同年3月から7月までの5か月間のガソリン販売実績量等を基に基金補助金の交付による価格抑制効果を機械的に推計して、ガソリン分で、実際の抑制額が基金補助金の交付額を約110億円下回る結果になったことなどの調査結果を公表している。

そこで、本院は、資源エネルギー庁が抑制単価を算定し、その結果を公表しているガソリン、軽油及び灯油のそれぞれについて、4年2月から5年3月までの14か月間に交付された基金補助金を対象として、予算執行調査と同様の算定方法により基金補助金の交付額と実際の抑制額とを比較した。

その結果、図表12のとおり、基金補助金の交付額は計2兆4713億余円(ガソリン1兆2773億余円、軽油9032億余円及び灯油2907億余円)となっていたのに対して、実際の抑制額は計2兆4508億余円(同1兆2671億余円、同8959億余円及び同2876億余円)となっていた。小売事業者の在庫状況等によって小売価格への反映に時間差が生ずるものであるため、これらを単純に比較することはできないが、ガソリン、軽油及び灯油における実際の抑制額は、基金補助金の交付額を計204億余円下回るものとなっていた。

このうち、ガソリンについてみると、基金補助金の交付額と実際の抑制額との開差額は101億余円となり、予算執行調査の結果として公表されている前記5か月間の開差額約110億円と比べて、約9億円開差額が縮小していた。

図表12 令和4年2月から5年3月までの間の基金補助金の交付額と実際の抑制額との比較(単位:百万円)

油種名 基金補助金の交付額
(a) 注(1)
実際の抑制額
(b) 注(2)
開差額
(a)-(b)
ガソリン 1,277,348 1,267,187 10,160
軽油 903,217 895,977 7,240
灯油 290,755 287,664 3,091
2,471,321 2,450,829 20,492
  • 注(1) 基金補助金の交付額は、各週の支給単価に、卸売事業者が基金補助金の概算払請求において申請した補助対象数量を乗じたものとなっている。
  • 注(2) 実際の抑制額は、各週の抑制単価に、卸売事業者が基金補助金の概算払請求において申請した補助対象数量を乗じたものとなっている。
  • 注(3) 金額は表示単位未満を切り捨てているため、集計しても開差額欄及び計欄と一致しないものがある。
(イ) 小売価格と卸売価格との比較

上記のとおり、ガソリンについては、4年2月から5年3月までの間の14か月間における基金補助金の交付額と実際の抑制額との開差額は101億余円となっており、当該期間についてみると、小売事業者において基金補助金の支給単価に相当する額が小売価格に反映されていない可能性がある。資源エネルギー庁は、前記のとおり毎週2,000か所程度のSSを対象に本庁調査を実施しているほか、毎月1,500か所程度のSSを対象に卸売価格に関する石油製品卸売市況調査を実施している。そこで、本院において、3、4両年度に上記両調査の対象となっており、かつ、3年度分と4年度分の調査結果を比較することができたSS700か所について、一般財団法人日本エネルギー経済研究所から徴した関係書類を基に、レギュラーガソリンの小売価格、卸売価格及びこれらの差(以下「価格差」という。)をみたところ、次のような状況となっていた。

上記のSS700か所の平均でみた小売価格等の推移は、図表13のとおりとなっており、事業開始の前後を問わず、卸売価格が上昇すると価格差が縮小し、卸売価格が下落すると価格差が拡大しているが、3年11月のように卸売価格が上昇しても価格差が縮小しなかった場合や、4年8月のように卸売価格が下落しても価格差が拡大しなかった場合がある。また、燃料油価格激変緩和対策事業の開始前の10か月間(3年4月から4年1月まで)において平均17.8円/Lであった価格差は、開始後の14か月間(4年2月から5年3月まで)では19.4円/Lとなり、1.6円/L拡大していた。

図表13 SS700か所における各月の価格差の推移

(燃料油価格激変緩和対策事業の開始前の10か月間(令和3年4月から4年1月まで))(単位:円/L)

年月 令和
3年4月
5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 4年1月 平均
小売価格
(a)
136.8 138.3 141.1 144.1 144.1 144.2 149.0 153.6 151.5 153.2 145.5
卸売価格
(b)
119.3 121.1 124.4 127.2 125.3 126.6 133.7 135.6 129.4 134.8 127.7
価格差
(a)-(b)
17.5 17.2 16.7 16.9 18.8 17.6 15.3 18.0 22.1 18.4 17.8

(燃料油価格激変緩和対策事業の開始後の14か月間(4年2月から5年3月まで))(単位:円/L)

年月 令和
4年2月
3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 5年1月 2月 3月 平均
小売価格
(a)
156.5 158.9 158.0 154.6 157.1 156.8 154.4 154.8 154.1 152.9 153.1 153.2 152.5 152.7 154.9
卸売価格
(b)
138.9 140.3 138.2 133.5 139.3 134.6 133.6 134.6 134.5 133.8 134.5 134.3 133.0 134.4 135.5
価格差
(a)-(b)
17.6 18.6 19.8 21.1 17.8 22.2 20.8 20.2 19.6 19.1 18.6 18.9 19.5 18.3 19.4

(燃料油価格激変緩和対策事業の開始前後の推移(3年4月から5年3月まで))

図表13 SS700か所における各月の価格差の推移(燃料油価格激変緩和対策事業の開始前後の推移(3年4月から5年3月まで))

レギュラーガソリンの小売価格は、原油コスト、揮発油税等の税金、精製費、備蓄費、販売管理費等で構成されており、そのほとんどが変動する要素であることから、どの要素が小売価格に影響を与えているか明確に示すことは困難であり、また、前記のとおり、卸売価格の変動が価格差に反映されないこともある。

これらのことなどから、基金補助金の支給単価に相当する額が小売価格に適切に反映されていたかどうかを判断することは困難であるが、前記のSS700か所について、SSごとに、燃料油価格激変緩和対策事業の開始前後のそれぞれの期間における価格差の平均を算出して比較し、その拡大又は縮小の状況をみた。そして、上記の拡大又は縮小が0.5円/L未満のものを「価格差に変化がない」とみなして集計したところ、図表14のとおり、700か所のうち、価格差に変化がないSSは102か所(全体の14.5%)、価格差が拡大していたSSは486か所(同69.4%)、価格差が縮小していたSSは112か所(同16.0%)となっていた。

図表14 燃料油価格激変緩和対策事業の開始前後のそれぞれの期間における価格差の平均値の拡大又は縮小の状況

図表14 燃料油価格激変緩和対策事業の開始前後のそれぞれの期間における価格差の平均値の拡大又は縮小の状況画像

ウ 行政事業レビューシート及び基金シートにおける成果目標

資源エネルギー庁が4年12月に公表した燃料油価格激変緩和対策事業に係る行政事業レビューシートにおける定量的な成果目標は、「制度発動期間中にガソリンの全国平均価格が予測価格よりも低くなる週の割合を100%にする」とされており、同庁は、同シートに、上記の成果目標を達成した旨を記載していた。また、同庁が同年10月に公表した燃料油価格激変緩和対策事業に係る基金シートにおいても同様の成果目標が設定されており、同庁は、同じく成果目標を達成した旨を記載していた。

しかし、前記のとおり、同庁は、燃料油価格激変緩和対策事業について、予測価格を基に支給単価を決定して基準価格を目指す事業であるとしていることから、基金補助金の交付によりガソリンの全国平均小売価格が予測価格よりも低くなればその目的が達成されるというものではない。このため、行政事業レビューシート等における定量的な成果目標は、事業の目的に照らし達成すべき目標として適切とはいえない状況となっていた。なお、同庁は、本院の検査を踏まえて、上記成果目標の修正を検討している。

4 本院の所見

資源エネルギー庁は、原油価格の高騰がコロナ下からの経済回復の重荷になる事態を防ぐための激変緩和措置として、また、国際情勢の緊迫化による国民生活や経済活動への影響を最小化するための激変緩和措置として、燃料油価格激変緩和対策事業を実施している。そして、政府は、数次にわたり延長してきた燃料油価格激変緩和対策事業を5年12月末まで実施するとともに、今後とも、国際的なエネルギー価格の動向等を注視しながら、必要な対応を機動的に講ずるとしている。

今回、基金補助金の交付額の算定方法等についてみたところ、補助対象数量がマイナス値となる場合の基金補助金の取扱いについてガイドラインに定めがなく、また、卸売事業者に対する資源エネルギー庁の指示が適切でなかったため、卸売事業者2者において、国内向け販売量が国内調達量を下回る場合の基金補助金の交付額の算定が適切とは認められない状況となっていた。同庁は、本院の検査を踏まえて、5年6月30日にガイドラインを改定し、燃料油の補助対象数量がマイナス値となる場合の基金補助金の交付額の算定方法等を定め、その内容を全国石油協会、卸売事業者及び博報堂に対して周知した。

また、電話調査及び現地調査の実施状況等についてみたところ、資源エネルギー庁は、小売価格の上昇が適切に抑制されていたのかなどについて、両調査の結果に基づく分析を行っておらず、両調査の実施がどのように小売価格の抑制に寄与しているのかなどについては不明な状況となっていた。また、単に全国の小売価格の推移を把握するのであれば、本庁調査の結果を活用することにより十分対応可能であると考えられる。電話調査及び現地調査については、小売価格の把握に加えて、小売事業者に対して心理的に小売価格の抑制を促すという事実上の効果があると思料されるものの、上記のような状況等に鑑みると、両調査の実施が価格抑制の実効性を確保するという目的に照らしてどのように機能しているかを検証した上で、両調査の必要性も含めて、その実施内容や実施方法、報告内容等について十分に検討することが望まれる。

したがって、資源エネルギー庁において、上記のような状況を踏まえた上で、今後の概算払及び精算において、国内向け全販売量が国内調達量を下回る場合の基金補助金の交付が適切なものとなるよう次のアの点に留意するとともに、電話調査及び現地調査については、次のイの点に留意することが必要である。

ア 同一の燃料油に対して二重に基金補助金が交付されている事態を解消させるとともに、同様の事態の再発防止を図るために、卸売事業者等に対して適切な指導等を行うこと

イ 燃料油価格激変緩和対策事業を継続して実施する場合や、今後同種の事業を実施する場合には、事業実施期間中においても、随時、電話調査及び現地調査の必要性も含めて、その実施内容や実施方法、報告内容等について十分に検討すること

本院としては、燃料油価格激変緩和対策事業の実施状況について、今後の原油価格、燃料油価格等の動向も踏まえつつ、資源エネルギー庁において同種の事業として実施されている電気・ガス価格激変緩和対策事業等の実施状況も含めて、引き続き検査していくこととする。

別図表1 卸売事業者30者に対する基金補助金の交付状況(令和5年3月末時点)(単位:百万円)

番号 卸売事業者名 ガソリン 軽油 灯油 重油 航空機燃料
1 ENEOS株式会社 589,843 384,642 124,026 204,764 22,012 1,325,288
2 出光興産株式会社 369,957 291,472 85,435 139,790 29,327 915,982
3 コスモ石油マーケティング株式会社 155,319 141,145 36,673 59,928 8,221 401,288
4 太陽石油株式会社 47,965 36,128 17,539 7,285 1,062 109,981
5 コスモ石油株式会社 52,239 24,272 13,490 6,883 96,886
6 三菱商事株式会社 14,631 14,856 4,181 6,773 40,443
7 中川物産株式会社 16,808 8,251 1,847 171 389 27,467
8 富士石油株式会社 11,060 4,124 79 4,700 1,355 21,320
9 丸紅株式会社 15,828 405 397 16,632
10 伊藤忠エネクス株式会社 5,479 2,850 1,752 10,082
11 全農エネルギー株式会社 3,283 1,001 1,157 181 5,623
12 日本精蠟株式会社 3,413 3,413
13 西部石油株式会社 389 232 2,337 2,960
14 兼松株式会社 885 2,022 2,908
15 丸紅エネルギー株式会社 1,654 176 90 1,921
16 トーヨーエナジー株式会社 1,348 16 12 1,377
17 三井物産エネルギー株式会社 665 415 1,080
18 ユニオン石油工業株式会社 854 854
19 シナネン株式会社 830 830
20 カメイ株式会社 135 226 437 799
21 全国漁業協同組合連合会 428 428
22 三菱商事エネルギー株式会社 371 371
23 阪和興業株式会社 240 89 330
24 谷口石油精製株式会社 302 302
25 林兼石油株式会社 271 271
26 ホクレン農業協同組合連合会 219 219
27 三共油化工業株式会社 103 103
28 大東通商株式会社 92 92
29 伊藤忠商事株式会社 47 47
30 エス・ジー・シー佐賀航空株式会社 5 5
1,284,957
(42.9%)
911,292
(30.4%)
291,126
(9.7%)
439,101
(14.6%)
62,837
(2.1%)
2,989,315
(100%)

(注) 金額は表示単位未満を切り捨てているため、集計しても計欄と一致しないものがある。

別図表2 支給単価、予測価格、抑制単価等の推移(レギュラーガソリン)

別図表2 支給単価、予測価格、抑制単価等の推移(レギュラーガソリン)画像