ページトップ
  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 令和5年1月

新型コロナウイルス感染症患者受入れのための病床確保事業等の実施状況等について


検査対象
厚生労働省、47都道府県、496医療機関
病床確保事業等の概要
入院が必要な新型コロナウイルス感染症患者を受け入れるための病床の確保等を行うもの
検査の対象とした496医療機関に対して交付された上記の事業に係る交付金等の交付額
病床確保事業1兆2834億円(令和2、3両年度)
緊急支援事業1223億円(令和2、3両年度)

1 検査の背景

(1) 新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備に係る取組等の概要

ア 新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備に係る取組

新型コロナウイルス感染症は、令和元年12月以降、その感染が国際的な広がりを見せており、我が国においても、多数の感染者が確認され、感染の拡大に伴い、医療機関において、新型コロナウイルス感染症患者(以下「コロナ患者」という。)を受け入れるための病床がひっ迫する状況が生じた。

このような状況を受け、政府は、2年2月に「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(令和2年2月新型コロナウイルス感染症対策本部決定)を、同年3月に「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(令和2年3月新型コロナウイルス感染症対策本部決定)をそれぞれ定め、都道府県を通して、コロナ患者及び新型コロナウイルス感染症疑い患者(以下「疑い患者」といい、コロナ患者と合わせて「コロナ患者等」という。)を集約して優先的に受け入れる医療機関を指定するなどして地域の医療機関の役割分担を行うとともに、一般の医療機関の一般病床等を活用して、コロナ患者等を受け入れるための病床(以下「コロナ病床」という。)を確保することとした。

そして、2年4月に閣議決定された「「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」について」(以下「2年4月閣議決定」という。)において、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策や医療提供体制の整備について、地域の感染状況等の実情に応じて、各都道府県が必要とする対応を柔軟かつ機動的に実行していくことができるよう、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)が創設された。さらに、今後の動向について見込み難い面があるとして、更なる対応が必要となる場合には、新型コロナウイルス感染症対策予備費を活用することなどとされた。

その後、2年末のコロナ患者の急増により、コロナ病床が一部の地域でひっ迫している中で、更にコロナ病床と医療従事者(医療事務に関わる事務職員等を含む。以下同じ。)の人員を確保する必要が生じたことなどから、上記の予備費により予算措置が行われて、2年12月に新型コロナウイルス感染症患者等入院受入医療機関緊急支援事業補助金(以下「受入補助金」という。)が創設されて、医療機関に対して、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)に加えて受入補助金が交付されることになった。

イ 病床確保計画の概要

都道府県は、厚生労働省が定めた「今後を見据えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備について」(令和2年厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡。以下「2年事務連絡」という。)等に基づき、2年6月以降、病床・宿泊療養施設確保計画を策定し、新型コロナウイルス感染症の感染状況に応じて必要となるコロナ病床を、都道府県が指定する医療機関において確保することとしている。2年事務連絡等によれば、病床・宿泊療養施設確保計画は、通常医療とコロナ患者のための医療とを両立する医療提供体制を整備することを前提としている。そして、都道府県は、新型コロナウイルス感染症との共存も見据えた中長期的な目線で医療提供体制を整備するよう同計画を策定し、同計画に基づいて病床を確保していくこととされており、2年7月上旬に最初の病床・宿泊療養施設確保計画の策定を行い、その後、感染拡大のピークごとに同計画の見直し作業を行っている。

また、感染力が強いとされる変異株の流行による感染拡大の状況等を踏まえて、厚生労働省は3年10月に、「今夏の感染拡大を踏まえた今後の新型コロナウイルス感染症に対応する保健・医療提供体制の整備について」(令和3年厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)を発出した。これを受けて、都道府県は、今後も中長期的に感染拡大が反復する可能性があることを前提に、保健所等による療養調整を含めた総合的な保健・医療提供体制の構築に向けて、これまで策定していた病床・宿泊療養施設確保計画を新たに保健・医療提供体制確保計画として充実させることとなった(以下、病床・宿泊療養施設確保計画と保健・医療提供体制確保計画を合わせて「病床確保計画」という。)。

ウ 病床確保計画の策定等

2年事務連絡等によれば、都道府県が病床確保計画を策定するに当たっては、感染ピーク時のみならず、感染拡大の経過や収束時期も含めた時間軸を踏まえた対策が必要であるとして、①地域の実情に応じたフェーズ(注1)を設定し、フェーズごとに必要なコロナ病床を確保すること、②地域の感染状況等を勘案するなどして、あらかじめ設定したフェーズの切替えのタイミングを定めること、③コロナ患者数の推計を行うための推計ツール(注2)を活用するなどして算出される患者推計を踏まえて、推計最大入院患者数(注3)として見込んだ数を上回る病床数を設定すること、④即応病床(注4)と準備病床(注5)を設定し、通常医療にも配慮した効率的な病床を確保することなどが求められている。

2年事務連絡によれば、都道府県は、感染拡大の兆候を捉えるなど、あらかじめ設定したフェーズの移行時期に至った場合には、次のフェーズで準備病床を即応病床に転換させることを予定している医療機関に連絡し、準備病床から即応病床への転換を進めることとされている。そして、都道府県は、医療機関に対して即応病床とするように連絡、要請を行った後、入院患者数がピークを越え、明らかに減少してきた場合は、新規感染者数の動向等を注視しながら、順次、即応病床を通常医療に活用できる準備病床に戻すなど、通常医療の確保に十分に配慮しながら病床確保を適宜行う必要があるとされている。

(注1)
フェーズ コロナ病床を計画的に確保していくために設定する段階。療養者数(入院又は宿泊療養が必要な者の数)の増加に応じて移行する。各都道府県において想定される療養者数のピークとなる段階を最終フェーズとして、地域の実情に応じて二つから六つの段階が設定されている。フェーズが上がるほど入院患者数が増加するなど感染が拡大している状況にあることを示すものとなっている。
(注2)
推計ツール 厚生労働省が作成した人口分布や人口構成に基づいたコロナ患者数の推計計算式のモデル
(注3)
推計最大入院患者数 患者推計を踏まえて、療養者数のピーク時に入院が必要となる者の数
(注4)
即応病床 コロナ患者の発生、又はこれを受けた都道府県からの受入要請があれば、即時にコロナ患者の受入れを行うことについて医療機関と調整している病床
(注5)
準備病床 あらかじめ設定したフェーズの移行時期に至った場合に、都道府県からの要請に基づいて即応病床に切り替わる病床。都道府県の要請があれば、一定の準備期間(1週間程度)内にコロナ患者を受け入れる即応病床とすることについて医療機関と調整が行われている。

エ 入院が必要なコロナ患者等を受け入れる医療機関の指定

都道府県は、「新型コロナウイルス感染症重点医療機関及び新型コロナウイルス感染症疑い患者受入協力医療機関について」(令和2年厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡。以下「重点医療機関等事務連絡」という。)に基づき、2年6月以降、コロナ患者専用の病院や病棟を設定する新型コロナウイルス感染症重点医療機関(以下「重点医療機関」という。)及び疑い患者専用の個室を設定して疑い患者を受け入れ、必要な医療を提供する新型コロナウイルス感染症疑い患者受入協力医療機関(以下「協力医療機関」といい、疑い患者を受け入れる病床を「疑い患者病床」という。)をそれぞれ指定することとなっている。そして、都道府県は、これによるなどしてコロナ病床を確保し、コロナ患者等の受入体制を整備することとなっている。

オ コロナ患者の入院受入れに係る手続等

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)によれば、コロナ患者を診断した医師は、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事(保健所を設置する市にあっては市長、特別区にあっては区長)に届け出ることとされている。そして、届出を受けた都道府県知事は、コロナ患者に対して入院の勧告、措置等の必要な措置を執ることができることとされている。また、都道府県は、感染症指定医療機関(注6)が不足するおそれがある場合等に、保健所を設置する市若しくは特別区又は医療機関その他の関係者に対し、入院の勧告又は入院の措置その他の事項に関する総合調整を行うこととされている。

コロナ患者が大幅に増えたときに備えた入院医療提供体制等の整備については、基本的に都道府県が対応することとされており、「新型コロナウイルス感染症の患者数が大幅に増えたときに備えた入院医療提供体制等の整備について」(令和2年厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)によれば、都道府県は、都道府県内の患者受入れを調整する機能を有する組織・部門(以下「都道府県調整本部」という。)を設置することとされている。

都道府県調整本部は、都道府県内の重点医療機関の設置等の医療提供体制整備状況、各医療機関の病床稼働状況、人工呼吸器やECMO(注7)の稼働状況等を把握した上で、コロナ患者の入院受入医療機関の調整を行うこととされている。

(注6)
感染症指定医療機関 感染症法に規定する新型インフルエンザ等感染症等の患者の入院を担当させる医療機関として厚生労働大臣が指定したもの
(注7)
ECMO Extracorporeal Membrane Oxygenationの略。体外式膜型人工肺のことであり、救命困難な重症の呼吸不全又は循環不全の患者に使用する救命・生命維持装置

(2) コロナ患者受入れのための病床確保事業等の概要

ア 病床確保事業の概要

(ア) 交付金の概要

2年4月閣議決定を受け、厚生労働省は、「令和2年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の交付について」(令和2年厚生労働省発医政0430第1号・厚生労働省発健0430第5号。以下「交付金交付要綱」という。)等に基づき、2、3両年度に、都道府県に対して、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)を交付している。

新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)の対象事業(以下「包括支援交付金事業」という。)は、①新型コロナウイルス感染症に関する相談窓口設置事業、②新型コロナウイルス感染症対策事業、③帰国者・接触者外来等設備整備事業、④新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業(以下「重点医療機関体制整備事業」という。)等、2年度で20事業、3年度で21事業ある。これらの事業のうち、コロナ病床の確保に係るものは、②の新型コロナウイルス感染症対策事業のうち病床確保に関する事業(以下「感染症対策事業」という。)及び④の重点医療機関体制整備事業となっている(以下、両事業を合わせて「病床確保事業」という。)。

そして、厚生労働省は、病床確保事業として、都道府県に対して、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)のうち病床確保事業に係る分(以下「交付金」という。)を交付しており、都道府県は、コロナ病床を確保した医療機関に対して交付金を原資とした補助金を交付したり、一部の都道府県では交付金を原資として都道府県自らが開設するなどして運営する医療機関においてコロナ病床を確保したりしている(以下、病床確保事業のうち都道府県が医療機関に対して交付する補助金を「病床確保補助金」といい、都道府県自らが運営する医療機関分として国から都道府県に交付される交付金と合わせて「病床確保補助金等」という。)。

厚生労働省が定めた「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)の実施について」(令和2年医政発0616第1号・健発0616第5号・薬生発0616第2号)等によれば、国は、重点医療機関体制整備事業は重点医療機関を、感染症対策事業は協力医療機関及びその他医療機関(重点医療機関及び協力医療機関以外の医療機関)を、それぞれ対象としてコロナ病床の空床確保に要する費用を支援するものとされている。そして、交付金の対象となる病床は、補助対象期間において即応病床として確保された病床(以下「確保病床」という。)のうち空床となっている病床及びコロナ患者等を受け入れるために休床とした休止病床(注8)からなっている(図表0-1参照)。

(注8)
休止病床 コロナ患者等を受け入れる医療機関において、看護職員等をコロナ患者等が収容される病棟に配置換えするために当該看護職員等が従来配置されていた病棟を閉鎖したり、感染予防の見地から多床室に収容するコロナ患者等を1名のみとし、多床室の残りの病床を空床としたりするなどのために、休床とする既存の病床

図表0-1 交付金の対象となる病床

図表0-1 交付金の対象となる病床 画像

交付金の交付目的、交付先、交付対象となる医療機関等を整理すると図表0-2のとおりとなる。

図表0-2 交付金の概要

内容等
事業名
感染症対策事業 重点医療機関体制整備事業
交付目的 コロナ患者等の入院病床の確保等について支援を行うことにより、公衆衛生の向上を図ること コロナ患者専用の病院や病棟を設定する医療機関である重点医療機関に対して、空床確保のための支援等を行うことにより、患者受入体制を整備すること
交付先 都道府県
交付対象となる
医療機関
協力医療機関
その他医療機関
(注)
重点医療機関
交付対象となる
コロナ病床
確保病床のうち空床となっている病床及び休止病床
対象経費 病床確保料、委託料、補助金等
交付率 10/10
(注)  重点医療機関には、院内感染により病棟又は病院全体でコロナ患者の治療を行っていて、実質的に重点医療機関の要件を満たす医療機関も含まれる。
(イ) 交付金の交付額の算定方法

交付金交付要綱等によれば、交付金の交付額は、次のとおり算定することとされている。

  • a 都道府県自らが運営する医療機関分として国が交付する場合
    • ① 厚生労働大臣が必要と認めた額(基準額)と、対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額を選定する。
    • ② ①により選定された額と総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額に交付金の交付率(10分の10)を乗じて得た額を交付額とする。
  • b 都道府県がコロナ病床を確保した医療機関に対して交付する補助金の原資として国が交付する場合
    • ① 厚生労働大臣が必要と認めた額(基準額)と、対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額を選定する。
    • ② ①により選定された額と総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額に交付金の交付率(10分の10)を乗じて得た額と、都道府県が補助した額とを比較して少ない方の額を交付額とする。

そして、重点医療機関等事務連絡等によれば、a①及びb①の基準額の算定に当たっては、確保病床、休止病床の別に定められた病床確保料の上限額(以下「病床確保料上限額」という。)を使用することとされている。

病床確保料は、確保病床、休止病床の別、及び重点医療機関である特定機能病院等(注9)、重点医療機関である一般病院、協力医療機関及びその他医療機関の別に、病床区分(確保病床に係るものについては、ICU(注10)、HCU(注11)及びICU・HCU以外の病床。休止病床に係るものについては、ICU、HCU、療養病床(注12)、ICU・HCU・療養病床以外の病床)ごとに、それぞれ1日1床当たりの上限額として定められている(図表0-3及び図表0-4参照)。

そして、前記の基準額は、次のように算定することになっている。

確保病床については、重点医療機関等事務連絡等に確保病床分として定められた1日1床当たりの病床確保料上限額に、コロナ患者等を受け入れるために空床としていた延べ病床数(以下「延べ空床数」という。)を乗ずるなどして算定する。

休止病床については、当該病床を休止する前の診療報酬の区分に応じた病床確保料を適用することとされており、交付金交付要綱等に休止病床分として定められた1日1床当たりの病床確保料上限額に、コロナ患者等を受け入れるために休止病床としていた延べ病床数(以下「延べ休止病床数」という。)を乗ずるなどして算定する。

また、患者の入院期間中であって空床ではない日は診療報酬の支払対象となっており、交付金交付要綱等において、病床確保料の対象とはならないこととなっている。

(注9)
特定機能病院等 高度の医療の提供、高度の医療技術の開発及び評価並びに高度の医療に関する研修を実施する能力を備え、それにふさわしい人員配置、構造設備等を有するものとして医療法(昭和23年法律第205号)の規定に基づき厚生労働大臣の承認を得た病院(特定機能病院)及びECMOによる治療を行うなど特定機能病院と同程度に重症のコロナ患者を受け入れている病院
(注10)
ICU Intensive Care Unitの略。集中治療室のことであり、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している医療機関において、生命の危機にひんした重症患者を24時間体制で集中的に治療するための専門の病室
(注11)
HCU High Care Unitの略。高度治療室のことであり、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している医療機関において、ICUに入室するほどではないものの、重症化や急変のリスクがある患者を入室させる病室
(注12)
療養病床 慢性期の患者を長期療養を目的として入院させるための病床

図表0-3 確保病床に係る病床確保料上限額

(単位:円/日)
区分 重点医療機関である
特定機能病院等
重点医療機関である
一般病院
協力医療機関 その他医療機関
確保病床 ICU 1床当たり 436,000 301,000 301,000 97,000
HCU 1床当たり 211,000 211,000 211,000 (注) 41,000
ICU・HCU以外の病床 1床当たり 74,000 71,000 52,000 16,000
(注)  その他医療機関におけるHCU1床当たりの欄に掲げた41,000円は、重症患者又は中等症患者を受け入れ、酸素投与、呼吸モニタリングなどが可能な病床を確保する場合の金額を示している。

図表0-4 休止病床に係る病床確保料上限額

(単位:円/日)
区分 重点医療機関である
特定機能病院等
重点医療機関である
一般病院
協力医療機関 その他医療機関
休止病床 ICU 1床当たり 436,000 301,000 301,000 97,000
HCU 1床当たり 211,000 211,000 211,000 (注) 41,000
療養病床 1床当たり 16,000 16,000 16,000 16,000
ICU・HCU・療養病床以外の病床 1床当たり 74,000 71,000 52,000 16,000
(注)  その他医療機関におけるHCU1床当たりの欄に掲げた41,000円は、重症患者又は中等症患者を受け入れ、酸素投与、呼吸モニタリングなどが可能な病床を確保する場合の金額を示している。

イ 緊急支援事業の概要

(ア) 受入補助金の概要

前記のとおり、受入補助金は2年12月に創設されており、厚生労働省は、「令和2年度新型コロナウイルス感染症患者等入院受入医療機関緊急支援事業補助金の交付について」(令和2年厚生労働省発健1225第1号。以下「受入補助金交付要綱」という。)等に基づき、コロナ病床を確保した医療機関に対して、コロナ患者等の対応を行う医療従事者を支援して受入体制を強化するための補助を行うことにより感染症対策の強化を図ることを目的として、包括支援交付金事業とは別に、2年度から新型コロナウイルス感染症患者等入院受入医療機関緊急支援事業(以下「緊急支援事業」といい、病床確保事業と合わせて「病床確保事業等」という。)を実施している。

受入補助金交付要綱等においては、次のいずれかの要件に該当する場合において、国は当該都道府県に所在するコロナ病床を確保した医療機関に対して、確保したコロナ病床数に応じて受入補助金を交付することとなっている。

  • ① 病床確保計画の最終フェーズとなった都道府県又は病床がひっ迫し受入体制を強化する必要があると判断した都道府県が厚生労働省に申請し認められた場合
  • ② 都道府県が新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言(以下「緊急事態宣言」という。)により緊急事態措置を実施すべき区域(以下「緊急事態措置区域」という。)とされた場合
  • ③ 都道府県内に新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置を実施すべき区域が定められた場合

受入補助金の交付目的、交付先、交付対象となる医療機関等を整理すると図表0-5のとおりとなる。

図表0-5 受入補助金の概要

交付目的 新型コロナウイルスの感染が拡大し、コロナ患者等の受入病床がひっ迫した場合に、コロナ病床と医療従事者の人員を確保するため、コロナ病床を確保する医療機関に対して、コロナ患者等の対応を行う医療従事者を支援して受入体制を強化するための補助を行うことにより感染症対策の強化を図ること
交付先 医療機関(国から直接交付される。)
交付対象となる
医療機関
緊急事態措置区域とされるなどした都道府県内においてコロナ病床を確保した医療機関
基準額の算定対象となるコロナ病床 (注) (令和2年度)
2年12月25日から3年3月21日までの間における最大の確保病床数
(3年度)
2年12月25日から3年9月30日までの間における最大の確保病床数
(2年度に受入補助金の対象とした病床を除く。)
対象経費 コロナ患者等の対応を行う医療従事者の人件費(新規職員の雇用に係る人件費、コロナ患者等の対応を行う医療従事者の処遇改善・人員確保を図るために要する経費等)、院内等での感染拡大防止対策や診療体制確保等に要する経費
補助率 10/10
(注)  受入補助金の基準額の算定対象となるコロナ病床は、交付金の交付対象にもなる。
(イ) 受入補助金の交付額の算定方法

受入補助金交付要綱等によれば、受入補助金の交付額は、厚生労働大臣が定めた基準額と対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額と、総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額とすることなどとされている。そして、このうち基準額は、確保したコロナ病床の種別ごとに、受入補助金交付要綱に1床当たりとして定められている基準額(以下「1床当たりの基準額」という。)に、2年度については2年12月25日から3年3月21日までの間における最大の確保病床数、3年度については2年12月25日から3年9月30日までの間における最大の確保病床数(2年度に受入補助金の対象とした病床を除く。)を乗じた額を合計して算定することとされている(図表0-6参照)。

図表0-6 受入補助金に係る1床当たりの基準額

(単位:円/床)
コロナ病床の種別 令和2年12月24日以前から確保しているコロナ病床 緊急的に新たにコロナ病床を確保する観点からの加算措置
緊急事態措置区域とされた都道府県において2年12月25日以降新たに確保したコロナ病床 緊急事態措置区域とされていない都道府県において2年12月25日以降新たに確保したコロナ病床
うち加算額 うち加算額
コロナ患者の
重症者病床 注(1)
15,000,000 19,500,000 4,500,000 18,000,000 3,000,000
コロナ患者の
その他病床 注(2)
4,500,000 9,000,000 4,500,000 7,500,000 3,000,000
協力医療機関の
疑い患者病床
4,500,000 4,500,000 - 4,500,000 -
注(1)  「コロナ患者の重症者病床」は、コロナ患者の重症者の治療に必要な設備と、設備の活用に必要十分な人員体制の双方を有する病床をいう。
注(2)  「コロナ患者のその他病床」は、「コロナ患者の重症者病床」及び「協力医療機関の疑い患者病床」のいずれにも該当しない病床をいう。

(3) 病床確保事業等をめぐる議論等

ア 病床確保事業等をめぐる報道及び制度の見直し

病床確保事業等については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大期であった3年8月頃において、コロナ病床が空いているのにコロナ患者が入院できなかったり、コロナ病床を確保したとして病床確保補助金等や受入補助金の交付を受けながらコロナ患者を受け入れない医療機関が見受けられたりするなどの報道がなされた。

そして、厚生労働省は、これらの報道等を踏まえて、3年11月、交付金交付要綱等を改正するなどして、コロナ病床を確保した医療機関名や当該医療機関の入院コロナ患者数等を公表することとしたり、従来、病床使用率に応じて交付金の交付額を減ずることはしていなかったが、改正後においては、医療機関の即応病床使用率(注13)が、医療機関の所在する都道府県における平均の即応病床使用率よりも30%を超えて下回る場合は、当該医療機関に係る交付金の交付額を減じたりするなどの措置を講じている。

イ 財政制度等審議会財政制度分科会における審議

3年10月に開催された財政制度等審議会財政制度分科会の審議において、厚生労働省が2年度に受入補助金の交付を受けた医療機関を対象として実施したアンケート調査の結果として、病床確保補助金、受入補助金等の新型コロナウイルス感染症対策に関連して医療機関に交付される補助金等(地方自治体が地方単独事業として交付する補助金等を含む。以下「コロナ関連補助金」という。)が数多く設けられた2年度の医療機関の平均医業収支は、コロナ関連補助金を除くと赤字となるものの、コロナ関連補助金を含めると元年度と比較して大幅に改善していることなどが明らかにされた。

(注13)
即応病床使用率 次の算式により算出される病床使用率
延べ入院コロナ患者数 割る (延べ即応病床数 引く コロナ患者以外の患者を受け入れている延べ病床数) 掛ける 100

(4) これまでの会計検査の実施状況

会計検査院は、2年度に交付された交付金において、患者が入院していて空床や休止病床となっていないのに、当該入院期間中に係る病床数を延べ空床数や延べ休止病床数に算入して、延べ空床数や延べ休止病床数を過大に計上したり、延べ空床数や延べ休止病床数の一部に、1日1床当たりの単価がより高額な病床区分の病床確保料を適用したりするなどしていたため、交付対象事業費が過大に算定されており、これに係る交付金が過大に交付されていた事態が見受けられたことから、その結果を不当事項「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)(新型コロナウイルス感染症対策事業及び新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業に係る分)が過大に交付されていたもの」として令和3年度決算検査報告に掲記している(令和3年度決算検査報告135ページ参照)。