ページトップ
  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 令和5年1月

新型コロナウイルス感染症患者受入れのための病床確保事業等の実施状況等について


4 検査の状況に対する所見

(1) 検査の状況の主な内容

会計検査院は、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①交付金及び受入補助金の交付状況はどのようになっているか、②全国におけるコロナ病床の確保等の状況はどのようになっているか、③交付金や受入補助金の交付の対象となった医療機関における確保病床の状況等はどのようになっているか、④交付金や受入補助金の交付の対象となった医療機関の医業収支の状況はどのようになっているか、⑤病床確保事業における病床確保料等は医療機関の実態に沿ったものとなっているかに着眼して検査した。

検査の状況の主な内容は次のとおりである。

ア 交付金及び受入補助金の交付状況

2、3両年度における交付金及び受入補助金の交付状況をみると、交付金は、2年度は2,290医療機関に対して1兆1403億4947万円、3年度は3,320医療機関に対して1兆9626億2872万円、計3,477医療機関に対して3兆1029億7819万円となっており、受入補助金は、2年度は1,732医療機関に対して1606億4650万余円、3年度は1,694医療機関に対して1212億0442万余円、計2,248医療機関に対して2818億5092万余円となっていた(1015_3_2リンク参照)。

イ 全国の医療機関におけるコロナ病床の確保等の状況

2年4月から4年3月までの間の各月最終週時点の国内における入院コロナ患者数と最大確保病床数の推移をみたところ、入院コロナ患者数には何回かのピークがあり、大きく増減を繰り返していたが、この間、最大確保病床数は、3年9月から同年10月にかけて及び4年2月から同年3月にかけて入院コロナ患者数が急激に減少した時期に一時減少したものの、その他の時期においてはほぼ一貫して増加しており、2年5月1日には16,081床であったものが、4年3月30日には43,671床となっていた(1015_3_3リンク参照)。

ウ 医療機関における確保病床の状況等

確保病床の病床利用率が50%を下回っていた医療機関に対してアンケート調査を実施したところ、各医療機関において、当該医療機関が当初受け入れることを想定したコロナ患者等の看護必要度等に見合った入院受入体制は確保されていたものの、実際は、既に入院しているコロナ患者等の対応に看護師等の稼働が割かれるなどして人数が不足し、入院受入要請のあったコロナ患者等の受入れが困難になっていた状況や、確保病床数には、コロナ患者等を担当する医師、看護師等の人数を増員できた場合に受入可能となる病床が含まれていたが、実際は想定していた人数を確保できなかったため、都道府県調整本部等からのコロナ患者等の入院受入要請を断っていたと回答した医療機関が見受けられた。

また、休止病床を設定している382医療機関において、病床の一部又は全部が休止病床となっている病棟を対象に、休止病床として設定する前の元年度の病床使用率をみると、80%以上90%未満となっていた医療機関が123医療機関と最も多くなっていた一方で、50%を下回っていた医療機関も17医療機関と一定数見受けられた。そして、検査の対象とした医療機関による休止病床の設定自体には一定の合理性があるものが多かったが、病床確保補助金等の額が当該病床が100%稼働しているものとして算定されることとなっていることなどのため、休止前の稼働状況に基づく診療報酬を上回る額の病床確保補助金等の交付を受けている医療機関も生じているものと思料された(1015_3_4リンク参照)。

エ コロナ関連補助金の交付を受けた医療機関の医業収支の状況

検査の対象とした国が出資等を行っている独立行政法人等が設置する269医療機関の医業収支の状況についてみると、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した2、3両年度は、コロナ関連補助金を除く医業収支の赤字が増大するなどの状況がみられた一方、コロナ関連補助金を含めると、全体の医業収支が黒字に転換し又は赤字幅を縮小していたり、黒字が更に増大していたりしている状況が見受けられた。

そして、医業収支の状況と、確保病床数、休止病床数、入院コロナ患者数等との関係について相関係数を算出するなどして確認したところ、元年度から2、3両年度までの医業収支の増減率と、医療機関の許可病床数に占める確保病床数及び休止病床数の合計の割合との相関係数は0.66となっており、両者の間には中程度以上の正の相関関係がみられた(1015_3_5リンク参照)。

オ 病床確保事業における病床確保料等の状況

検査の対象とした496医療機関のうち重点医療機関となっている426医療機関について、各医療機関における実際の入院患者に係る診療報酬額と病床確保料上限額とを比較したところ、医療機関によって大きな差が生じており、医療機関によって、機会損失を上回る額の交付を受けることとなったり、十分な補塡となっていなかったりする結果となっていた(1015_3_6リンク参照)。

(2) 所見

新型コロナウイルス感染症の感染が完全な終息には至っていない中、病床確保事業等を適切に実施し、必要なコロナ病床を確保し、コロナ患者等に対して十分な医療を提供することは引き続き課題となっている。

また、新型コロナウイルス感染症のみならず、今後、新たに大規模な感染症の流行が発生するなどした際に、病床確保事業等と同様の事業を実施し、患者を受け入れるための病床を確保するなどの医療提供体制の整備を行う必要が生ずることも考えられる。

ついては、会計検査院の検査で明らかになった状況を踏まえて、引き続き病床確保事業等を実施したり、今後同様の事業を実施したりする場合には、厚生労働省において、次の点に留意することが重要である。

ア 交付金がコロナ患者等の入院受入体制が整い即応病床として確保されているコロナ病床に対して交付されるという制度の趣旨に照らして、交付金交付要綱等において、交付金は、当該確保病床の運用に必要な看護師等の人員が確保できているなど実際に入院受入体制が整っている確保病床を交付対象とするものであることを明確に定めるとともに、各医療機関の入院受入体制は看護師等の人員の確保の状況、受け入れている患者の状況等に応じて変動し得るものであることを踏まえて、医療機関において、確保病床の運用に必要な看護師等の確保が困難になった場合には、都道府県と当該医療機関との間で病床確保補助金等の交付対象となる確保病床数を適宜調整するよう、都道府県に対して指導すること

イ 病床確保事業における病床確保料等について、病床確保料上限額の設定等が適切であるか改めて検証し、その検証結果を踏まえて、確保病床に係る病床確保料については入院コロナ患者等の診療報酬額を、休止病床に係る病床確保料については休止前入院患者の診療報酬額を、それぞれ参考にするなどして、病床確保料上限額の設定を見直したり、医療機関の医療提供体制等の実態を踏まえた交付金の交付額の算定方法を検討したりして、交付金の交付額の算定の在り方を検討すること

会計検査院としては、厚生労働省における新型コロナウイルス感染症患者受入れのための病床確保事業等の実施状況等について、引き続き注視していくこととする。