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  • 令和5年3月|

新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種事業の実施状況等について


3 検査の状況

(1) ワクチン接種事業に係る国の予算及び決算の状況

ア ワクチン接種事業に係る国の予算の状況

ワクチン接種事業に係る2、3両年度における国の予算額(予備費の使用決定により配賦された予算額(以下「予備費使用額」という。)を含む。)を事業別にみると、図表1-1のとおり、厚生労働省所管分で、ワクチンの確保に係る経費として計2兆4036億余円(2年度7269億余円、3年度1兆6766億余円)、ワクチン接種で使用する物品の調達等に係る経費として計302億余円(2年度201億余円、3年度100億余円)、都道府県及び市町村への補助金等として計2兆7498億余円(2年度5854億余円、3年度2兆1643億余円)が、それぞれ計上されていた。

また、V-SYS及びVRSの開発等に係る経費として、2年度は厚生労働省所管分で34億余円が、3年度はデジタル庁所管分で96億余円がそれぞれ計上されていた。

さらに、自衛隊大規模接種センター等の運営に係る経費として、3年度の防衛省所管分で181億余円が計上されていた。

そして、ワクチン接種事業に係る予算額全体でみると、厚生労働省、デジタル庁及び防衛省所管分を合わせて計5兆2149億余円(2年度計1兆3360億余円、3年度計3兆8788億余円)が計上されていた。

また、上記予算額のうち、予備費使用額についてみると、令和2年度一般会計新型コロナウイルス感染症対策予備費の使用決定により2年9月に6714億余円及び776億余円、計7490億余円が、令和3年度一般会計新型コロナウイルス感染症対策予備費等の使用決定により3年5月に5119億余円、同年6月に56億余円、同年8月に92億余円及び8415億余円並びに4年3月に6670億余円、計2兆0353億余円が、それぞれ予算配賦されており(2、3両年度の予備費使用額計2兆7843億余円)、予算額全体に占める予備費使用額の割合は、2年度56.0%、3年度52.4%となっている。

予備費使用額のうち主なものは、ワクチンの確保に係る経費であり、2、3両年度の予備費使用額計2兆7843億余円のうちの2兆3355億余円に上っており、予備費使用額全体に占める割合は83.8%となっている。

図表1-1 ワクチン接種事業に係る予算額

(単位:千円)
所管
(会計名)
事業名 予算科目(目) 令和2年度
2次補正
(2年6月12日成立)
予備費使用額
(9月8日決定)
予備費使用額
(9月15日決定)
3次補正
(3年1月28日成立)
2年度計
厚生労働省
(一般会計)
ワクチンの確保 新型コロナウイルスワクチン等生産体制整備臨時特例交付金 671,440,000 55,550,000 726,990,000
ワクチン接種で使用する物品の調達等 健康対策関係業務庁費 104,000 7,839,466 7,943,466
ワクチン等購入費 4,987,125 4,600,396 9,587,521
医薬品等保管料 33,182 355,167 2,249,058 2,637,407
5,020,307 5,059,563 10,088,524 20,168,394
都道府県及び市町村への補助金等 新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業費臨時補助金 16,997,746 136,581,533 153,579,279
新型コロナウイルスワクチン接種対策費負担金 431,915,187 431,915,187
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金
16,997,746 568,496,720 585,494,466
V-SYS及びVRSの開発等 健康対策関係業務庁費 2,849,000 594,000 3,443,000
合計 7,869,307 671,440,000 77,607,309 579,179,244 1,336,095,860
所管
(会計名)
事業名 予算科目(目) 3年度 2年度及び
3年度合計
予備費使用額
(3年5月14日決定)
予備費使用額
(6月25日決定)
予備費使用額
(8月20日決定)
予備費使用額
(8月27日決定)
1次補正
(12月20日成立)
予備費使用額
(4年3月25日決定)
3年度計
厚生労働省
(一般会計)
ワクチンの確保 新型コロナウイルスワクチン等生産体制整備臨時特例交付金 511,953,882 429,560,000 68,112,000 667,004,752 1,676,630,634 2,403,620,634
ワクチン接種で使用する物品の調達等 健康対策関係業務庁費 7,994,689 7,994,689 15,938,155
ワクチン等購入費 9,587,521
医薬品等保管料 2,065,349 2,065,349 4,702,756
10,060,038 10,060,038 30,228,432
都道府県及び市町村への補助金等 新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業費臨時補助金 330,107,650 759,776,047 1,089,883,697 1,243,462,976
新型コロナウイルスワクチン接種対策費負担金 535,630,773 535,630,773 967,545,960
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金 81,834,717 456,960,530 538,795,247 538,795,247
411,942,367 1,752,367,350 2,164,309,717 2,749,804,183
V-SYS及びVRSの開発等 健康対策関係業務庁費 3,443,000
デジタル庁
(一般会計)
情報処理業務庁費 9,680,332 9,680,332 9,680,332
防衛省
(一般会計)
自衛隊の
大規模接種
医療費等 5,613,774 9,274,703 3,306,217 18,194,694 18,194,694
合計 511,953,882 5,613,774 9,274,703 841,502,367 1,843,525,937 667,004,752 3,878,875,415 5,214,971,275
  • (注) 各予算科目のうちワクチン接種事業に係る分のみを示したものである。ただし、防衛省所管分の医療費等については、ワクチン接種事業に係る予算額とそれ以外とを区分することができないため、予算科目全体の金額を計上している。

イ ワクチン接種事業に係る国の決算の状況

ワクチン接種事業に係る2、3両年度における国の決算の状況を事業別にみると、図表1-2のとおり、厚生労働省所管分のうち、ワクチンの確保に係る経費については、支出済額が2年度7269億余円(歳出予算現額(歳出予算額に、前年度繰越額、予備費使用額及び流用等増減額を加減したもの。以下「予算現額」という。)に対する割合100%)、3年度1兆6766億余円(同100%)、ワクチン接種で使用する物品の調達等に係る経費については、支出済額が2年度112億余円(同19.9%)、3年度398億余円(同59.6%)、都道府県及び市町村への補助金等については、支出済額が2年度343億余円(同4.4%)、3年度1兆6805億余円(同60.5%)となっていた。

また、V-SYSの開発等に係る経費については、支出済額が2年度2億余円(同4.0%)、3年度90億余円(同64.1%)、VRSの開発等に係る経費については、支出済額が2年度5500万円(同0.8%)、3年度72億余円(同61.1%)となっていた。

さらに、自衛隊大規模接種センター等の運営に係る経費については、支出済額が3年度165億余円となっていた。

そして、ワクチン接種事業に係る決算額全体でみると、支出済額は計4兆2026億余円(同68.4%。2年度7728億余円(同49.0%)、3年度3兆4298億余円(同75.1%))となっていた。

図表1-2 ワクチン接種事業に係る予算科目別の決算の状況

(単位:千円)
所管
(会計名)
事業名 予算科目(目) 令和2年度
予算現額(A) 支出済額(B) 繰越額(C) 不用額(D) 執行率(B/A)
厚生労働省
(一般会計)
ワクチンの確保 新型コロナウイルスワクチン等生産体制整備臨時特例交付金 726,990,000 726,990,000 100.0%
ワクチン接種で使用する物品の調達等 健康対策関係業務庁費 43,925,466 4,454,351 39,228,044 243,070 10.1%
ワクチン等購入費 9,587,521 6,590,824 2,996,063 633 68.7%
医薬品等保管料 2,637,407 171,856 2,437,407 28,143 6.5%
56,150,394 11,217,031 44,661,514 271,847 19.9%
都道府県及び市町村への補助金等 新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業費臨時補助金 346,726,480 34,303,469 311,089,784 1,333,225 9.8%
新型コロナウイルスワクチン接種対策費負担金 431,915,187 20,017 431,894,842 327 0.0%
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金
778,641,667 34,323,486 742,984,627 1,333,552 4.4%
V-SYSの開発等 健康対策関係業務庁費 5,969,523 239,243 5,730,280 4.0%
VRSの開発等 健康対策関係業務庁費 6,474,050 55,000 6,402,308 16,742 0.8%
2年度計 1,574,225,634 772,824,762 799,778,730 1,622,142 49.0%
所管
(会計名)
事業名 予算科目(目) 3年度
予算現額(A) 支出済額(B) 繰越額(C) 不用額(D) 執行率(B/A)
厚生労働省
(一般会計)
ワクチンの確保 新型コロナウイルスワクチン等生産体制整備臨時特例交付金 1,676,630,634 1,676,630,634 100.0%
ワクチン接種で使用する物品の調達等 健康対策関係業務庁費 59,270,281 36,038,410 7,991,052 15,240,817 60.8%
ワクチン等購入費 2,996,063 2,389,732 606,330 79.7%
医薬品等保管料 4,502,756 1,424,347 2,065,349 1,013,059 31.6%
66,769,100 39,852,490 10,056,401 16,860,208 59.6%
都道府県及び市町村への補助金等 新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業費臨時補助金 1,268,167,091 734,629,656 504,677,810 28,859,624 57.9%
新型コロナウイルスワクチン接種対策費負担金 967,525,615 655,841,088 291,716,459 19,968,067 67.7%
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金 538,795,247 290,121,282 53.8%
2,774,487,954 1,680,592,027 796,394,269 48,827,692 60.5%
V-SYSの開発等 健康対策関係業務庁費 8,361,040 8,360,306 733 99.9%
情報処理業務庁費 5,710,375 660,000 5,050,375 11.5%
14,071,415 9,020,306 5,050,375 733 64.1%
VRSの開発等 健康対策関係業務庁費 7,846,318 7,224,434 621,883 92.0%
デジタル庁
(一般会計)
VRSの開発等 情報処理業務庁費 3,969,957 3,969,957
防衛省
(一般会計)
自衛隊の大規模接種 医療費等 18,194,694 16,505,134
3年度計 4,561,970,073 3,429,825,028 815,471,002 66,310,517 75.1%
  • 注(1) 予算の移替え及び支出委任を行っている事業については、移替え元及び支出委任元の省庁において計数を計上している。
  • 注(2) 新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金に係る繰越額及び不用額については、予算科目全体で算出されていることから、当該交付金に係るワクチン接種事業以外の分を区分することができないため表示していない。
  • 注(3) 厚生労働省及びデジタル庁の両所管分を合わせたVRSの開発等に係る執行率は61.1%となる。
  • 注(4) 防衛省所管分の医療費等に係る予算現額については、ワクチン接種事業に係る予算額とそれ以外とを区分することができないため、令和3年度補正予算及び予備費により措置された予算額全体の金額を計上している。一方、支出済額については、上記予算現額のうちワクチン接種事業に係る金額を計上している。また、ワクチン接種事業に係る不用額は、それ以外の不用額と区分することができないため表示していない。さらに、上記のとおり、予算現額と支出済額の計上方法が異なるため、防衛省所管分の執行率を表示しておらず、3年度計の執行率に防衛省分は含まれていない。
  • 注(5) 防衛省は、図表に示したもののほか、令和3年度当初予算からもワクチン接種事業の経費の一部を支出している。

(2) ワクチン接種の実施状況

4年3月末現在のワクチンの接種実績をみると、図表2-1のとおり、全人口の約8割が1回目及び2回目の接種を完了しており、全人口の約4割が3回目接種を完了している状況となっていた。

図表2-1 ワクチンの接種実績(令和4年3月末現在)

接種回数 全体 ファイザーワクチン モデルナワクチン アストラゼネカワクチン
回数 接種率 回数 全体に占める割合 回数 全体に占める割合 回数 全体に占める割合
254,641,904 199,399,391 78.3% 55,125,607 21.6% 116,906 0.0%
うち1回目接種に係るもの 101,656,297 80.2% 85,292,313 83.9% 16,305,512 16.0% 58,472 0.0%
うち2回目接種に係るもの 100,509,856 79.3% 84,262,090 83.8% 16,189,332 16.1% 58,434 0.0%
うち3回目接種に係るもの 52,475,751 41.4% 29,844,988 56.8% 22,630,763 43.1%
  • 注(1) 首相官邸ホームページのデータ等に基づき会計検査院が作成した。
  • 注(2) 接種率は、首相官邸ホームページの令和3年1月1日現在の人口データ(全人口126,645,025人)を基に計算している。
  • 注(3) 1回目及び2回目の接種は原則として同一のワクチンを接種するとされているが、医師の判断等により1回目と異なるワクチンを2回目に接種することが認められていること、3回目接種はアストラゼネカワクチン以外のどのワクチンを使用してもよいとされていることから、各回で異なったワクチンが接種されていることもある。
  • 注(4) 全体に占める割合は、小数点以下第2位を切り捨てているため、合計しても100%にならない。

なお、5年1月末現在のワクチンの接種実績は、図表2-2のとおりとなっている。

図表2-2 ワクチンの接種実績(令和5年1月末現在)

接種回数 全体 ファイザーワクチン モデルナワクチン アストラゼネカワクチン ノババックスワクチン
回数 接種率 回数 全体に占める割合 回数 全体に占める割合 回数 全体に占める割合 回数 全体に占める割合
379,271,889 295,737,457 77.9% 83,123,492 21.9% 117,837 0.0% 293,103 0.0%
うち1回目接種に係るもの 104,626,720 81.3% 88,105,652 84.2% 16,409,086 15.6% 58,674 0.0% 53,308 0.0%
うち2回目接種に係るもの 103,247,691 80.3% 86,929,911 84.1% 16,209,100 15.6% 59,163 0.0% 49,517 0.0%
うち3回目接種に係るもの 85,730,992 68.0% 51,985,869 60.6% 33,567,945 39.1% 177,178 0.2%
うち4回目接種に係るもの 57,167,803 45.4% 41,449,448 72.5% 15,705,597 27.4% 12,758 0.0%
うち5回目接種に係るもの 28,498,683 22.6% 27,266,577 95.6% 1,231,764 4.3% 342 0.0%
  • 注(1) 首相官邸ホームページのデータ等に基づき会計検査院が作成した。
  • 注(2) 接種率は、首相官邸ホームページの令和4年1月1日現在の人口データ(全人口125,918,711人)を基に計算している(ただし、同日現在の死亡者に係る3年中の接種回数を除く。)。
  • 注(3) 1回目及び2回目の接種は原則として同一のワクチンを接種するとされているが、医師の判断等により1回目と異なるワクチンを2回目に接種することが認められていること、3回目以降の接種はアストラゼネカワクチン以外のどのワクチンを使用してもよいとされていることから、各回で異なったワクチンが接種されていることもある。
  • 注(4) 全体に占める割合は、小数点以下第2位を切り捨てているため、合計しても100%にならない。
  • 注(5) 令和4年11月からノババックスワクチンが「令和4年秋開始接種」に追加されている(ただし、オミクロン株には対応していない。)。

ワクチン接種は、被接種者の選択により、接種機関のほか、集団接種会場、大規模接種会場、職域接種会場及び自衛隊大規模接種センター等のいずれでも受けることができるとされている。

2、3両年度にワクチン接種が行われた会場数についてみると、2年度は接種機関が4,936機関、集団接種会場が77会場となっており、3年度は接種機関が78,553機関、集団接種会場が6,068会場、大規模接種会場が253会場、職域接種会場が4,000会場、自衛隊大規模接種センター等が4会場となっていた。また、職域接種会場に係る相談に応じるために、3年6月、11省庁(注20)に職域接種を行う業界ごとの相談窓口が設けられた。

(注20)
11省庁  内閣官房、警察、金融両庁、総務、財務、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境各省

(3) ワクチンの確保、管理、配布等の状況

ア ワクチンの確保の状況

(ア) ワクチンの供給を受けるための契約

厚生労働省は、1(1)ウのとおり、ファイザーワクチン、モデルナワクチン及びアストラゼネカワクチンを確保することとして、2年10月にモデルナ・スイス社(米国のモデルナ社のスイスに所在する子会社)及び武田薬品(以下、モデルナ・スイス社と武田薬品を合わせて「武田/モデルナ社」という。)との間で3年第3四半期までに5000万回分のモデルナワクチンの供給を受けるための契約を、2年12月にアストラゼネカ株式会社との間で3年初頭から同年内に1億2000万回分のアストラゼネカワクチンの供給を受けるための契約を、同年1月にファイザー株式会社との間で同年内に1億4400万回分のファイザーワクチンの供給を受けるための契約を、それぞれ薬事承認を受ける前の段階で締結していた。

その後、厚生労働省は、ワクチンの追加接種等を行うため、数次にわたり、同省とファイザー株式会社及び武田/モデルナ社との間でワクチンの追加供給を受けるための変更契約をそれぞれ締結していた。他方、ノババックスワクチンについて、3年9月に武田薬品との間で4年初頭からおおむね1年間で1億5000万回分の供給を受けるための契約を、薬事承認を受ける前の段階で締結していた。なお、モデルナワクチンについては、3年8月に武田薬品からモデルナ・ジャパン株式会社に製造販売承認を受けた者の地位が承継されている。

一方、これらの契約に係る契約書では、ワクチンの確保に係る費用の支払として、厚生労働省とは別の基金管理団体に置かれたワクチン生産体制等緊急整備基金(以下「団体基金」という。)に資金を積み立てた上で、当該資金を財源として基金管理団体がワクチン製造販売業者に対して支払を行うことなどが定められている。

これに関して、厚生労働省は、世界各国でワクチンの獲得競争が継続している中、各国に後れを取らずに十分な量のワクチンを確保していくためには、ワクチン製造販売業者との間で早急に契約を締結する必要があり、ワクチンが薬事承認される前の段階で契約を締結することを想定していたが、薬事承認されていない以上、調達の対象がワクチンであるとは言い難いことなどから、ワクチンの購入代金等としての支払を行うことは困難であったとしている。

これらの契約について、契約書の署名は厚生労働大臣により行われていた。また、これらの契約に基づき、納入されたワクチンはその所有権が国へ移転し、国が取得した物品として、接種を終えるまで国が管理の責任を負うことになる。

また、これらの契約や別途締結した契約に基づき、ワクチンを厚生労働省が指定した場所に配送するなどの流通業務についても、ワクチンの供給と合わせて、ワクチン製造販売業者が行うこととなっていた。

厚生労働省とワクチン製造販売業者との間で締結された契約(以下「ワクチン供給契約」という。)の状況を整理すると、図表3-1のとおりとなっており、同省は、計8億8200万回分のワクチンの供給を受けることにしていた。

図表3-1 ワクチン供給契約の内容

ワクチンの種別 ワクチン製造販売業者等名 契約年月日
(変更年月日)
供給時期及び供給量 令和4年3月末までに締結した契約に係る供給量の計(回分)
ファイザーワクチン ファイザー株式会社 令和3年1月20日 2021年内に1億4400万回分の供給を受ける。 3億9900万
(3年5月14日) 2021年第3四半期に5000万回分の供給を受ける。
(3年10月7日) 2022年1月から1年間で1億2000万回分の供給を受ける。
(4年2月7日) 2022年第1四半期に1000万回分の追加供給を受ける。
(4年3月25日) 2022年下半期に7500万回分の追加供給を受ける。
モデルナワクチン 武田/モデルナ社 2年10月29日 2021年第3四半期までに5000万回分の供給を受ける。 2億1300万
(3年7月20日) 2022年初頭から半年間で1バイアル当たり15回追加接種できるものと計算して、7500万回分の供給を受ける。
(4年3月1日) 2022年第1四半期に、1バイアル当たり15回追加接種できるものと計算して、1800万回分の追加供給を受ける。
(4年3月25日)
注(1)
2022年下半期に、7000万回分の追加供給を受ける。
アストラゼネカワクチン アストラゼネカ株式会社 2年12月10日
注(2)
2021年初頭から同年内に1億2000万回分のワクチンの供給を受ける。 1億2000万
ノババックスワクチン 武田薬品 注(3) 3年9月6日
注(4)
2022年初頭から、おおむね1年間で1億5000万回分の供給を受ける。 1億5000万
8億8200万
  • 注(1) 令和4年8月1日に、武田薬品からモデルナ・ジャパン株式会社に製造販売承認を受けた者の地位が承継されており、承継以降の供給はモデルナ・ジャパン株式会社から行われている。
  • 注(2) アストラゼネカワクチンの流通業務については令和3年2月2日に契約を締結している。
  • 注(3) 武田薬品が米国のノババックス社から技術移管を受けて国内で生産等を行うことになっている。
  • 注(4) ノババックスワクチンの流通業務については令和4年3月31日に契約を締結している。

(イ) ワクチンの確保に係る費用の支払

a ワクチンの確保に係る費用の支払に関する枠組み

(ア)のとおり、ワクチン供給契約に係る契約書では、ワクチンの確保に係る費用の支払については、団体基金に資金を積み立てた上で、当該資金を財源として基金管理団体がワクチン製造販売業者に対して支払を行うことなどが定められており、厚生労働省は、支払に関する枠組みを次のとおりとしていた。

すなわち、厚生労働省は、2年7月に公募により一般社団法人新薬・未承認薬等研究開発支援センターを基金管理団体に選定した上で、基金管理団体に対して団体基金への積立てに必要な経費として新型コロナウイルスワクチン等生産体制整備臨時特例交付金(以下「特例交付金」という。)を交付することとした。そして、基金管理団体は、ワクチン製造販売業者からの申請に基づき、所要額を団体基金から取り崩した上で、特例交付金に係る助成金(以下「助成金」という。)としてワクチン製造販売業者に交付する形で支払うこととした。

そして、厚生労働省の会計部局に対する支払に関するりん議は、ワクチンの供給を受けるための契約締結時には特に行われておらず、支出負担行為の決議は、基金管理団体に対する特例交付金の交付の際に行われていた。

ワクチンの確保に係る費用の支払の枠組みについて示すと、図表3-2のとおりである。

図表3-2 ワクチンの確保に係る費用の支払の枠組み

図表3-2 ワクチンの確保に係る費用の支払の枠組み画像

b 枠組みを設けることとした理由

ワクチンの確保に係る費用の支払をaのような枠組みとすることとした理由について、厚生労働省は、次のとおりであるとしている。

すなわち、前記のとおり、厚生労働省は、世界各国でワクチンの獲得競争が継続している中、各国に後れを取らずに十分な量のワクチンを確保していくためには、ワクチン製造販売業者との間で早急に契約を締結する必要があり、ワクチンが薬事承認される前の段階で契約を締結することを想定していたが、薬事承認されていない以上、調達の対象がワクチンであるとは言い難いことなどから、ワクチンの購入代金等としての支払を行うことは困難であったとしている。そして、このことなどから、国がワクチン製造販売業者に対してワクチンの購入代金等を支払うのではなく、団体基金に積み立てられた資金を財源として、基金管理団体がワクチン製造販売業者に対してワクチンの国内供給確保のための費用を助成するという形で支払う枠組みを設けることとしたとしている。

また、厚生労働省は、ワクチンの確保及び国内流通には少なくとも1年以上の複数年度にわたる期間を要することが想定される一方、各年度の所要額をあらかじめ見込むことは難しいことや、ワクチンを追加的に確保するために弾力的な支出を可能とする必要があることから、あらかじめ複数年度にわたる財源を基金の形で確保しておく必要があったとしている。

c 特例交付金及び助成金の交付状況

ワクチン供給契約に係る契約書等に記載されたワクチンの確保に係る費用は、合計で2兆4718億余円となっている。これに対して、4年3月末までに厚生労働省から基金管理団体に対して交付された特例交付金の額は、図表3-3のとおり、合計で2兆4498億2087万余円(基金管理団体が団体基金に関する事務処理を行うために必要な費用(事務費)を除く。)となっていた。そして、4年3月末までにワクチンの確保に係る費用として基金管理団体からワクチン製造販売業者に対して交付された助成金の額は、合計で1兆4578億1837万余円(事務費を除く。)となっていた。

図表3-3 特例交付金及び助成金の交付状況等(令和4年3月末現在)

(単位:円)
内容 特例交付金の交付額 助成金の交付額等 団体基金の資金残高
ワクチン製造販売業者へ支払うための資金 2,449,820,873,580 1,457,818,374,693 992,002,498,887
事務費 180,439,000 82,824,805 97,614,195
2,450,001,312,580 1,457,901,199,498 992,100,113,082

上記特例交付金及び助成金の交付状況について確認したところ、次のような状況となっていた。

(a) 4年3月29日までの状況

4年3月29日までの期間において、基金管理団体は、ワクチン製造販売業者に対して計18回の助成金を交付していたが、1回を除き、厚生労働省から特例交付金を受領した日と同日に、受領した額と同額を助成金として交付していて、団体基金には、ワクチンの確保に係る費用を支払うための資金が実質的に積み立てられていなかった。

この理由について、厚生労働省は、次のとおりとしている。

すなわち、日本銀行が平成28年2月から導入しているいわゆるマイナス金利政策の下で、金融機関等が相互間の資金決済等のために日本銀行に保有している当座預金残高のうち所定の残高を上回る額に対してマイナス金利が適用されており、金融機関が顧客から多額の預金を受け入れて日本銀行の当座預金に預託した場合、金融機関がマイナス金利の負担をしなければならないことになる。このため、基金管理団体の取引先金融機関が特例交付金の受入れに難色を示していたため、取引先金融機関にマイナス金利の負担が生じないよう、このような方法を採ったとしている。

(b) 令和4年3月30日及び31日の状況

その後、厚生労働省は、4年3月30日及び31日に、基金管理団体において4年度以降に一定の負担が発生(注21)することを認識した上で、3年度分として予算計上していた特例交付金の未交付分の全額9920億0249万余円を基金管理団体に交付していた。この理由について、同省は、特例交付金は団体基金を積み立てるために必要な経費として交付されるものであり、その性質上、年度内にその支出を終わらない見込みのあるものでないため、繰越明許費には該当せず3年度中に支出する必要があったためとしている。

(注21)
取引先金融機関への預金以外の手段を検討した結果、基金管理団体は、令和4年3月末に、団体基金の資金残高9920億0249万余円等を金融機関に信託する旨を厚生労働省に申請し、同省はこれを承認していた。この結果、4年度以降、金融機関等に対する信託報酬の支払等の一定の負担が生ずることになる。

これらの状況を踏まえ、今後、緊急に物資の確保が必要となり、当該物資の確保に係る枠組みを立案する際は、上記の枠組み以外に方法がないのかなどについて十分に検討した上で意思決定を行うことが求められる。

(ウ) 確保するワクチンの数量の算定

(ア)のとおり、厚生労働省は、計8億8200万回分のワクチン供給契約を締結しているが、この回数分を確保する必要があるとした理由について、同省は、世界各国でワクチンの獲得競争が継続している中、国民が速やかにワクチンを接種できるよう、あらゆる可能性を視野に入れて確保に努めたためであるなどとしており、具体的には次のとおり説明している。

① 2年度に締結したワクチン供給契約については、どの企業がワクチン開発に成功するかどうかが明らかでない状況で、必要なワクチンを確実に確保するために、ファイザーワクチン1億4400万回分を、モデルナワクチン5000万回分を、アストラゼネカワクチン1億2000万回分を、それぞれ確保することにしたものである。

② 3年5月に締結したワクチン供給契約(変更契約)については、接種の促進のためにファイザーワクチン5000万回分を確保することにしたものである。

③ 3年7月及び同年10月に締結したワクチン供給契約(変更契約)については、3回目接種について1回目及び2回目に接種したワクチンと異なるワクチンを接種することができるかどうかが明らかでない状況で、接種に必要なワクチンを確実に確保するために、ファイザーワクチン1億2000万回分を、モデルナワクチン7500万回分を、それぞれ確保することにしたものである。

④ 4年2月及び同年3月に締結したワクチン供給契約(変更契約)については、3回目接種の促進のために、ファイザーワクチン1000万回分を、モデルナワクチン1800万回分を、それぞれ確保することにしたものである。

⑤ ④の契約とは別に4年3月に締結したワクチン供給契約(変更契約)については、今後の追加接種の可能性に備え、どの企業がオミクロン株対応のワクチンの開発に成功するかどうかが明らかでない状況で、オミクロン株対応のワクチンを確実に確保するために、ファイザーワクチン7500万回分を、モデルナワクチン7000万回分を、それぞれ確保することにしたものである。

⑥ 3年9月に締結したワクチン供給契約については、海外におけるワクチン輸出規制の可能性に備え、国産のワクチンによりワクチンの供給の安定性を確保するとともに、ワクチンの種類の多様性を図るために、ノババックスワクチン1億5000万回分を確保することにしたものである。

上記①から⑥までの回数分を確保することにしたことについて、厚生労働省は、まず、ワクチン製造販売業者の我が国への供給可能数量を確認した上で、次に、特定のワクチン製造販売業者がワクチンの開発に失敗することなどがあったとしても国民にワクチンを接種できるように、当該供給可能数量を基に将来にわたるワクチン接種回数等について種々シミュレーションを行って決定したとしている。

しかし、厚生労働省がワクチンの確保に当たり作成していた資料には、確保することにした数量に係る算定根拠が十分に記載されておらず、それ以上の説明は得られなかった。

ワクチンの確保に当たり、確保した数量が実際の必要数量に比べて著しく過大であれば、契約のキャンセルによるキャンセル料の支払や保管期限が到来したことによる廃棄といった不経済な事態が発生しかねないことなどを踏まえると、その算定根拠を十分に確認することができない状況となっていることは必ずしも適切とは認められない。

したがって、厚生労働省は、今後、ワクチンと同様に確保する数量に不確定要素のある物資を緊急で確保する場合であっても、当該数量に係る算定根拠資料を作成して保存し、事後に当該数量の妥当性を客観的に検証することができるようにする必要がある。

イ ワクチンの管理、配布等の状況

(ア) ワクチンの管理の状況

ワクチン供給契約に基づき、納入されたワクチンはその所有権が国に移転し、国が取得した物品として、接種を終えるまで国が管理の責任を負うことになる。また、1(2)アのとおり、納入されたワクチンは、都道府県、市町村、接種機関等へ配布されるまでの間は、ワクチン製造販売業者において国内で保管されている。

国が管理する物品については、物品管理法(昭和31年法律第113号)等において、物品管理簿等を備え、その増減等の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項等を記録しなければならないとされている。ただし、「物品管理及び物品調達業務の抜本的効率化について」(平成21年1月16日各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)で示された統一基準において、おおむね1年以内に消耗することを予定する物品であって、減数消耗(一定の数を購入したものが使用のたびに減少すること)するものについては、物品管理簿等への異動の記録を不要とするとされている。厚生労働省は、ワクチンは上記の統一基準が適用される物品に該当するとして、その増減等の異動については物品管理簿等に記録していない。

一方、ワクチンの確保のためには多額の費用を要しており、その数量も膨大であること、また、その管理の適否が国民の健康に影響を及ぼす可能性が高いことに鑑みると、厚生労働省において、ワクチンの管理に係る基本的な情報となる在庫数量(注22)を適時適切に把握することが重要である。

(注22)
ここでいう在庫数量とは、未接種となっているワクチンのうち都道府県等に配布されていないものの数量、すなわちワクチン製造販売業者において国内で保管されているワクチンの数量を指す。

そこで、厚生労働省におけるワクチンの在庫数量の把握状況についてみたところ、同省は、納入数量について、ファイザー株式会社及び武田/モデルナ社からは週1回程度の頻度で、アストラゼネカ株式会社からは任意の時期に、それぞれ報告を受けていた一方、都道府県、市町村及び接種機関への配布数量については、V-SYSにより確認できるとし、在庫数量については、納入数量と配布数量との差引きにより算出することができるとしていた。

しかし、厚生労働省は、このような把握方法があること自体は承知していたものの、実際には、納入数量及び配布数量を必要の都度確認していたのみで、納入数量と配布数量との差引きにより在庫数量を算出するなどしたことを示す記録を作成していなかった。このため、同省は、4年3月の会計実地検査時点において、過去の特定日現在におけるワクチンの在庫数量を把握していなかった。

確保したワクチンの数量が膨大であること、ワクチンの納入及び配布が頻繁に行われていること、ワクチン接種事業の実施に当たる担当部署の事務負担等を考慮すると、ワクチンの在庫数量の記録を厳格に行うことには困難な側面があるものの、前記のとおり、ワクチンの確保のためには多額の費用を要しており、その数量も膨大であること、また、その管理の適否が国民の健康に影響を及ぼす可能性が高いことに鑑みると、厚生労働省は、ワクチン等の管理を適切に行うために、基本的な情報となる在庫数量を適時適切に把握することができるよう、体制を整える必要がある。

(イ) ワクチンの配布等の状況

(ア)のとおり、厚生労働省は、ワクチン製造販売業者からワクチンの納入数量の報告を適宜受けており、この数量を基に内閣官房との調整を行うなどした後に、事務連絡により都道府県等へ配布数量の通知を行っていた。

最初の配布日である3年2月16日から4年3月31日までの間に厚生労働省が都道府県等に配布したワクチンの数量は、ファイザーワクチン36,705,525バイアル(注23)、モデルナワクチン6,420,760バイアル、アストラゼネカワクチン18,590バイアル、計43,144,875バイアルとなっていた(別図表1参照)。

(注23)
バイアル  ガラス又はプラスチックでできた瓶にゴムで栓をした注射液を入れるための容器のことで、ゴム栓に注射針を刺して容器内の薬剤を吸い出すことから、容器内の薬剤を複数回に分けて使用することができる。ワクチンは1個のバイアルに入れることができる分量の単位で流通している。

そして、ワクチンの接種可能回数については、都道府県等に配布したワクチンのバイアル数に、各ワクチン製造販売業者が示すなどしているワクチン1バイアル当たりの接種可能回数を乗ずることにより換算すると、ファイザーワクチン219,515,130回分、モデルナワクチン78,988,650回分、アストラゼネカワクチン185,900回分、計298,689,680回分となっていた(別図表2参照)。

また、4年3月末時点では、ワクチンの廃棄について都道府県等は厚生労働省に報告することとはなっていなかったが、検査の対象とした47都道府県及び305市区町村のうち、38都府県及び46都道府県の297市区町村は、ワクチンの廃棄状況を接種機関等に報告させているなどしていた。このうち実際に廃棄が生じたとしていた36都府県及び46都道府県の269市区町村が同年同月末現在で把握していた廃棄数量は、ファイザーワクチン計20,262バイアル、モデルナワクチン計6,154バイアル、アストラゼネカワクチン計2,954バイアル、合計29,370バイアルとなっていた(参考:同省が都道府県等に配布したワクチンの数量は計43,144,875バイアル)。

(ウ) アストラゼネカワクチンに係るキャンセルの状況等

a アストラゼネカワクチンに係るキャンセルの状況

ア(ア)のとおり、厚生労働省は、2年12月に、アストラゼネカ株式会社との間でアストラゼネカワクチン1億2000万回分の供給を受けるための契約を締結している。

一方、アストラゼネカワクチンの都道府県等への配布数量は、3年度末の段階で18万5900回分と、上記の数量に比して僅かな量にとどまっていた。その理由について、厚生労働省は、非常にまれではあるが接種により血栓症又は血栓塞栓症が発現することが契約締結後に判明したことなどから、都道府県からの配布希望が少なく、これにより、都道府県への配布が少数にとどまったためとしている。

このような状況を踏まえて、厚生労働省は、4年2月1日にアストラゼネカ株式会社と別途の契約を締結して、①ワクチン供給契約上確保することにしていた1億2000万回分のうち、同日時点で同社が同省に納入していないアストラゼネカワクチン(同省の要求に基づき、同日以降納入することが決定されていたものを除く。)をキャンセルして、②同省と同社がアストラゼネカワクチンの流通業務が完了したと認めたときに同社が一定額を同省へ返金することなどを定めていた。

そこで、4年3月の会計実地検査において、上記契約の内容について確認したところ、厚生労働省が、上記の契約に定められている同省へ返金することとなっている金額の妥当性について確認していなかったことが判明した。

その後、厚生労働省は、4年3月及び7月の会計実地検査を受けて、アストラゼネカ株式会社に前記の返金することとなっている金額の算定根拠の提出を求めて、同年10月に算定根拠の概略について説明された文書の提出を受けているところであるが、引き続き同省において、算定根拠資料を入手するなどして、前記の契約に定められている、同省へ返金することとなっている金額の妥当性について確認するよう努める必要がある。また、今後、ワクチンの確保に係る費用の精算を行うための契約を締結するなどの場合は、精算額の算定根拠資料を入手するなどして、その妥当性を適切に確認する必要がある。

b アストラゼネカワクチンに係る配布等の状況

アストラゼネカワクチンについて、契約上確保することにしていた1億2000万回分のうち、4年9月末までに5774万余回分が厚生労働省に納入されており、残りの6225万余回分がaのとおり別途に締結した契約に基づきキャンセルされていた。

納入された5774万余回分のうち、都道府県等に配布されたのは19万余回分となっており、このほかに、4403万余回分については、国際社会の新型コロナウイルス感染症対策にも貢献できるよう、健康安全保障やUHC(注24)の達成に資する国際貢献に協力していくとして、4年4月末までに各国・地域に、直接又はCOVAXファシリティ(注25)を通じて供与されていた。そして、残る1351万余回分については、同年9月末時点で、有効期限切れにより、アストラゼネカ株式会社側において廃棄され、又は廃棄される予定となっていた。

(注24)
UHC  Universal Health Coverageの略。全ての人が、適切な健康増進、予防、治療及び機能回復に関するサービスを、支払可能な費用で受けられる状態
(注25)
COVAXファシリティ  ワクチンを複数国で共同購入し、公平に配布するための国際的な枠組み

このほか、厚生労働省は、5年2月に、ワクチン供給契約に基づき納入されたモデルナワクチン約1億4300万回分のうち、都道府県等に配布した約9690万回分を除く約4610万回分を有効期限切れにより廃棄したこと、また、武田薬品との契約により供給されることとなっていたノババックスワクチン1億5000万回分のうち、2月までに納入された約824万回分を除く約1億4176万回分をキャンセルすることについて武田薬品と合意したことを公表している。

以上の検査に当たり提出を受けたワクチン供給契約に係る各契約書等では、契約当事者に契約の条件、契約締結の状況、交渉の過程、交渉内容等を対象とした守秘義務が課され、契約単価、供給スケジュール等の契約書等に記載されている全ての事項について、契約当事者間の同意がない限り、公開することができないこととされている。

これに関して厚生労働省は、特定の時点までに納入されたワクチンのワクチン製造販売業者ごとの数量、個々の契約書等に記載されたワクチンの確保に係る費用の額、ワクチン製造販売業者に対する個々の支払額、4年2月1日にアストラゼネカ株式会社と別途に締結した契約で定められた返金することとなっている金額、アストラゼネカワクチンの廃棄に係る費用の額等について、ワクチン製造販売業者から、「ワクチンの製造能力を推知され得る情報であり、これらの情報が公開されると、他国から既存契約の見直しの要請を受けたり、今後の取引条件交渉の際に不利な立場に置かれたりする可能性があること」などを理由に公開することに同意できない旨の回答を受けているとして、同省として公開することはできないとしている。

このため、上記に記載した情報については、本報告書に記述していない。

(4) ワクチン接種で使用する物品の調達、配布等の状況

ア 調達の状況

厚生労働省は、2、3両年度に、ワクチン接種で使用する物品である超低温冷凍庫、低温冷凍庫、保冷バッグ、注射針及びシリンジの調達に係る契約を、緊急の必要により競争に付することができないなどの場合に該当するとして、いずれも随意契約により締結しており、これらに係る支払額は計392億8502万余円となっている(別図表3参照)。

(ア) 超低温冷凍庫及び低温冷凍庫

超低温冷凍庫の調達数量は、9,900台(これに係る契約件数4件、支払額計64億0110万余円)となっており、その算定方法は次のとおりとなっていた。

厚生労働省は、集団接種会場又は接種機関1か所につき1台配布するとして、調達数量を計10,000台とし、さらに、当時、他の顧客からも超低温冷凍庫の生産に係る引き合いを受けていた製造業者の生産能力等を考慮するなどして、最終的な調達数量を9,900台と算定していた。

また、低温冷凍庫の調達数量は、12,000台(これに係る契約件数6件、支払額計26億5480万余円)となっており、その算定方法は次のとおりとなっていた。

厚生労働省は、当初、集団接種会場又は接種機関1か所につき1台配布するとして、調達数量を計10,000台と算定していた。

その後、厚生労働省は、職域接種会場でもモデルナワクチンを接種するケースが増えたため、低温冷凍庫が不足するおそれが生じたとして、職域接種会場の増加見込数と同会場1か所当たりの配布実績台数を考慮するなどして不足する数量を2,000台と見込み、最終的に調達数量を12,000台と算定していた。

(イ) 保冷バッグ

保冷バッグの調達数量は、40,000個(これに係る契約件数1件、支払額6億8200万円)となっており、その算定方法は次のとおりとなっていた。

厚生労働省は、超低温冷凍庫が配布される基本型接種施設等に対して、1施設当たり4個ずつ保冷バッグを配布することとして、超低温冷凍庫の当初の調達予定数量10,000台に4を乗じて、保冷バッグの調達数量を計40,000個と算定していた。

(ウ) 注射針及びシリンジ

注射針及びシリンジの調達数量は、注射針単体3億5292万余本(これに係る契約件数14件、支払額計106億3221万余円)、シリンジ単体3億7230万余本(これに係る契約件数22件、支払額計109億3870万余円)及び注射針・シリンジ一体型2億2139万余本(これに係る契約件数7件、支払額計79億7620万余円)となっており、これらの調達の考え方や算定方法は次のとおりとなっていた。

厚生労働省は、注射針及びシリンジの調達を開始した2年9月から3年4月までの間において、ワクチン接種による需要増加により注射針及びシリンジの供給が世界的にひっ迫していた状況下にあって、注射針及びシリンジが調達できないことによりワクチン接種に支障を来すことがないよう、個々の製品の規格等にこだわらず、可能な限り確保することを目指していた。このため、あらかじめ調達数量を算定せず、適宜、製造販売業者の供給能力等を確認しながら、調達を行うことにしていた。そのため、上記のように注射針単体、シリンジ単体及び注射針・シリンジ一体型と種々の規格のものが混在することとなった。

その後、厚生労働省は、全国民が全て3回目接種又は4回目接種を受けると仮定して、これらの接種に必要な注射針とシリンジとの組合せの本数を2億7000万本と算定し、これから、注射針とシリンジとの組合せ(ワクチン接種の現場から使いづらいという意見が寄せられた規格のものを除く。)の在庫本数等1億8200万本を差し引いて、注射針とシリンジとの組合せでの調達必要数量を計8800万本と算定していた。

イ 配布等の状況

調達された物品の配布等の状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 超低温冷凍庫及び低温冷凍庫

厚生労働省は、全ての市町村に対して超低温冷凍庫及び低温冷凍庫を最低1台割り当てるとともに、可能な限り公平な配布になるように人口規模に応ずるなどして割り当てることとして、都道府県に対して、都道府県及び市町村ごとの割当数量を通知していた。

都道府県及び市町村は、厚生労働省から通知された割当数量を踏まえて、超低温冷凍庫及び低温冷凍庫の配布先を検討し、検討の結果、その全部又は一部の配布を希望しない場合は、その旨を同省に報告していた。

厚生労働省は、上記の報告を踏まえて、都道府県及び市町村からの希望を考慮した数量を配布することとして、3年2月から4年3月までの間に、都道府県、市町村、自衛隊大規模接種センター等に対し、超低温冷凍庫8,563台及び低温冷凍庫11,350台を無償で配布するなどしており、4年3月末現在の保管数量は、超低温冷凍庫1,337台(調達相当額計9億1775万余円)、低温冷凍庫650台(調達相当額計1億4386万余円)となっていた。

(イ) 保冷バッグ

厚生労働省は、同省が配布する超低温冷凍庫1台当たり4個ずつ保冷バッグを配布することなどとして、3年2月から4年3月までの間に、都道府県及び市町村に対し、保冷バッグ33,857個を無償で配布(自衛隊大規模接種センター等には配布されていない。)しており、4年3月末現在の保管数量は、6,143個(調達額計1億0473万余円)となっていた。

(ウ) 注射針及びシリンジ

注射針及びシリンジは、1回のワクチン接種において、注射針単体及びシリンジ単体の組合せの場合は1本ずつの計2本が、注射針・シリンジ一体型の場合は1本がそれぞれ必要になることから、これらの配布本数は、ワクチンの配布数量(接種可能回数分)に応じて機械的に算定される。

厚生労働省は、都道府県、市町村、自衛隊大規模接種センター等へ配布したワクチンの数量(接種可能回数分)に応じた本数の注射針及びシリンジを配布することとして、3年2月から4年3月までの間に、都道府県、市町村、自衛隊大規模接種センター等に対し、注射針単体2億3592万余本、シリンジ単体2億4026万余本及び注射針・シリンジ一体型1億4964万余本、計6億2583万余本を無償で配布しており、4年3月末現在の保管数量は、注射針単体1億1699万余本(調達相当額計10億3488万余円)、シリンジ単体1億3203万余本(調達相当額計32億9647万余円)及び注射針・シリンジ一体型7175万余本(調達相当額計26億8304万余円)、計3億2078万余本(調達相当額計70億1440万余円)となっていた。

(5) 補助事業の実施状況等

ア 補助金等の交付状況及び補助事業の実施状況

(ア) 補助金等の交付状況

1(3)のとおり、厚生労働省は、都道府県及び市町村が行うワクチン接種に係る事務に対して各種の補助金等の交付を行っている。2、3両年度における交付決定額の全体像についてみると、負担金は1,737市区町村に対して計6958億余円(2年度計5億余円、3年度計6952億余円(2年度からの繰越分4313億余円を含む。))、体制確保補助金は47都道府県及び1,736市区町村に対して計8791億余円(2年度計1526億余円、3年度計7265億余円(2年度からの繰越分1913億余円を含む。))、包括支援交付金は47都道府県に対して計2901億余円(全て3年度分)となっていた。

次に、検査の対象とした47都道府県及び305市区町村に対する交付決定件数及び交付決定額の状況についてみると、2、3両年度の計で、負担金は618件、4967億7894万余円(交付決定額全体に占める割合71.3%)、体制確保補助金は949件、6890億5378万余円(同78.3%)、包括支援交付金は47件、2901億2128万余円(同100%)、合計で1,614件、1兆4759億5401万余円となっていた。このうち4年6月末現在で額の確定が行われているのは、負担金は20件、44億7477万余円、体制確保補助金は77件、300億9623万余円、包括支援交付金は0件、0円、合計で97件、345億7100万余円となっており、交付決定件数1,614件の6.0%にすぎない状況となっている(別図表4参照)。

額の確定が遅れている理由について、厚生労働省は、都道府県又は市町村が事業実績報告書を一旦提出した後に、内容に誤びゅうがあったなどとして差替えや訂正を頻繁に行ったためなどとしており、順次、額の確定の作業を進めるとしている。

(イ) 負担金に係る補助事業の実施状況

負担金は、厚生労働大臣の指示に基づきワクチン接種を実施することを目的として、市町村が支弁するワクチン接種事業に要する費用として市町村に交付されるものである。

市町村は、負担金を原資として、接種機関に対して、ワクチン接種等1回当たりの定額単価にワクチン接種等の回数を乗ずるなどして算定した額を支払うこととなっている。また、集団接種会場を設置した場合の医療従事者や接種会場の確保等に要する経費についても、ワクチン接種等1回当たりの定額単価にワクチン接種等の回数を乗じた額を上限として支払うことなどとなっている。

厚生労働省は、負担金の交付の対象となるのは、接種機関がワクチン接種のために通常必要とする予診費用、接種費用(注射料)及び事務費であり、具体的な定額単価を接種1回当たり2,277円(消費税込み)としており、診療時間外の接種の場合は予診1回当たり803円(同)、休日の接種の場合は予診1回当たり2,343円(同)等を加算するとしている。

検査の対象とした305市区町村における負担金に係る補助事業の2、3両年度の実施状況についてみると、接種機関に対する支払(事業実績額。以下3(5)において同じ。)が両年度計2880億1220万余円、市町村が設置した集団接種会場の集団接種に要する経費の支払が両年度計1303億1458万余円となっていた(別図表5参照)。

(ウ) 体制確保補助金に係る補助事業の実施状況

体制確保補助金は、ワクチン接種のために必要な体制を実際の接種より前に着実に整備することを目的として、都道府県及び市町村に交付されるものである。

検査の対象とした47都道府県及び305市区町村における体制確保補助金に係る補助事業の2、3両年度の実施状況についてみると、47都道府県では、コールセンターの設置に要する経費の支払が両年度計67億3937万余円、ワクチン、シリンジ等の配送業務に要する経費の支払が両年度計14億6623万余円などとなっていた(別図表6参照)。また、305市区町村では、集団接種会場の運営委託に係る支払が両年度計1137億0357万余円、コールセンターの設置に要する経費の支払が両年度計1080億8548万余円などとなっていた(別図表7参照)。

(エ) 包括支援交付金に係る補助事業の実施状況

包括支援交付金の交付対象事業のうちワクチン接種事業に係るものである医療従事者派遣事業及び接種体制支援事業の具体的な内容は、次のとおりとなっている。

医療従事者派遣事業は、ワクチン接種のための医療従事者の確保が困難な地域であるなどの一定の条件下で、接種機関等が時間外・休日に集団接種会場に医療従事者を派遣した場合に、1人1時間当たり所定の単価(医師7,550円、医師以外の医療従事者2,760円)に医師等を派遣した時間を乗ずるなどして算定した金額を、都道府県が、当該接種機関等に対して補助するものである。

接種体制支援事業は、①都道府県による大規模接種会場の設置等、②個別接種促進のための支援及び③職域接種促進のための支援の3事業に分けられる。

①都道府県による大規模接種会場の設置等は、都道府県が設置する大規模接種会場の設置及び運営に係る実費相当額を補助するものである。②個別接種促進のための支援は、個別接種に協力する接種機関が、週100回以上接種したなどの場合は接種1回当たり2,000円、週150回以上接種したなどの場合は接種1回当たり3,000円等、接種回数等に応じた一定額の上乗せ額を接種機関に交付するものである。③職域接種促進のための支援は、複数の中小企業が共同で実施するなどの職域接種や大学等で実施する職域接種に外部の接種機関が出張して接種を行う場合等に、1回目及び2回目の職域接種は接種1回当たり1,000円を、3回目等の職域接種は接種1回当たり1,500円をそれぞれ上限として当該中小企業や大学等に対して実費を補助するものである。

検査の対象とした47都道府県における包括支援交付金に係る補助事業の実施状況についてみたところ、厚生労働省に包括支援交付金の事業実績報告書を提出期限の4年6月30日までに提出したのは25道府県にとどまっており、残りの22都府県は、事業が3年度中に完了せず4年度に繰り越して実施するなどしていた。

そこで、事業実績報告書を提出した上記の25道府県における3年度の実施状況についてみたところ、医療従事者派遣事業では、医療従事者を派遣した接種機関等数が2,244機関、事業費が5億9393万余円となっていた。また、接種体制支援事業では、①大規模接種会場の設置等については、支援対象となった大規模接種会場数が94会場、事業費が256億0480万余円、②個別接種促進のための支援については、支援対象となった接種機関数が8,443機関、事業費が530億5360万余円、③職域接種促進のための支援については、支援対象となった職域接種会場数が168会場、事業費が5億9419万余円となっていた(別図表8参照)。

イ 体制確保補助金による接種協力金の支払

体制確保補助金に係る補助事業の実施状況についてみたところ、検査の対象とした47都道府県及び305市区町村のうち5都県及び65市区において、ワクチン接種に係る協力金(以下「接種協力金」という。)という名目で、ワクチン接種に協力した接種機関等に支払を行っているものが見受けられた。

接種協力金に係る支払額は、2年度で3都県1億0825万余円、19市6億7542万余円、計7億8367万余円、3年度で4都県1億7409万余円、55市区113億4066万余円、計115億1475万余円となっている(別図表6及び別図表7「j.ワクチン接種に係る協力金(接種協力金)」参照)。

接種協力金は、体制確保補助金の交付要綱等には補助対象経費として明記されておらず、その名称からは支払目的や支払内容等が分かりづらいものであるため、5都県及び65市区が独自に定めるなどした接種協力金の支払要綱等により支払目的を確認したところ、ワクチン接種体制を確保するためとしていたり、個別接種を促進するためとしていたりしているものなどが見受けられた。

次に、接種協力金の支払内容等を確認したところ、図表5-1のとおり、各接種機関等に一律の金額を支払っていたり、接種回数に接種1回当たりの単価を乗じた額を支払っていたりするなどしていた。

図表5-1 接種協力金の支払内容等

支払内容 令和2年度 3年度 計 (注)
都県・市区数 接種協力金の
支払を受けた
接種機関等数
都県・市区数 接種協力金の
支払を受けた
接種機関等数
都県・市区数 接種協力金の
支払を受けた
接種機関等数
①:各接種機関等に一律の金額を支払っている。 5 372 12 1,041 15 1,408
②:一定回数以上の接種を行った週の数に一定の単価を乗じた額を支払っている。 - - - - - -
③:接種回数に接種1回当たりの単価を乗じた額を支払っている。 5 478 15 638 17 1,091
④:①及び② - - 1 24 1 24
⑤:②及び③ - - 1 131 1 131
⑥:①及び③ 1 216 3 1,379 3 1,590
⑦:超低温冷凍庫の設置工事費等に対して支払っている。 2 14 1 45 3 59
⑧:ワクチン接種の予約枠として確保した数等に応じて支払っている。 1 315 4 600 4 600
⑨:その他 8 612 22 3,205 26 3,613
22 2,007 59 7,063 70 8,516
  • (注) 支払内容ごとの計欄の都県・市区数及び接種協力金の支払を受けた接種機関等数は、令和2、3両年度の純計である。

都道府県及び市町村において、接種協力金の支払単価等を具体的な経費の積算を行うなどせずに設定した場合、接種協力金が、本来は負担金により支弁される接種機関がワクチン接種のために通常必要とする費用や、本来は包括支援交付金の交付対象である接種回数等に応じた上乗せ額(前記の週100回以上接種したなどの場合に接種1回当たりで交付される2,000円等)を対象に支払われてしまっている可能性がある。

そこで、5都県及び65市区において、接種協力金の支払状況について確認したところ、次のとおりとなっていた。

30市区(注26)(これらの市区が2、3両年度に支払った接種協力金の額54億9159万余円)は、接種協力金の支払要綱等を策定するに当たり、接種協力金の全部又は一部について、具体的な経費の積算を行うなどせずに、明確な根拠に基づくことなく支払内容や支払単価を設定していたり、支払対象経費が何であるかを具体的に定めていなかったりしていた。このため、接種協力金が、接種機関がワクチン接種のために通常必要とする費用や接種回数等に応じた上乗せ額を対象に支払われたものではないことを確認することができなかった。

したがって、厚生労働省は、都道府県及び市町村に対して、接種機関等に支払った接種協力金を体制確保補助金の補助対象経費とする場合は、接種協力金の支払要綱等の策定又は改定に当たり、明確な根拠に基づいて接種協力金の支払内容、支払単価等を決定するよう指導する必要がある。

前記の状況について、事例を示すと次のとおりである。

<事例> 接種協力金の支払要綱等を策定するに当たり、接種協力金の一部について、明確な根拠に基づくことなく支払内容や支払単価を決定していたもの

川崎市は、令和3年度に実施した体制確保補助金に係る補助事業において、接種協力金を接種機関に支払うために、川崎市新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業負担金等交付要綱等を定めている。

上記の要綱等によれば、3年4月から7月までの期間、高齢者の接種を加速する必要があり接種機関の協力を得るために、川崎市に住所を有する65歳以上の高齢者に接種を行った場合に、高齢者接種推進支援金として接種1回につき3,000円を、また、同年8月から11月までの期間、高齢者以外の一般世代への接種スピードを落とさないようワクチン接種を促進するために、同市に住所を有する者に接種を行った場合に、新型コロナウイルスワクチン接種促進支援金として接種1回につき1,500円を、それぞれ接種機関に支払うなどとされている。同市は、これらの定めに基づき、3年度に市内の510接種機関に接種協力金として、高齢者接種推進支援金及び新型コロナウイルスワクチン接種促進支援金(以下、これらを合わせて「支援金」という。)計14億7999万余円を支払っていた。このほか、同市は、接種協力金として、ワクチン管理業務を行う人員の確保等に係る経費計3億1365万余円を接種機関に支払っていた。

しかし、川崎市は、支援金について、前記の要綱等を策定するに当たり、類似の予防接種費用とワクチンの接種費用の差額分をもって接種1回当たりの単価を設定していた。そして、ワクチン接種のために通常必要とする費用以外にどのような費用がどれだけかかるかについて具体的な経費の積算を行うなどして接種1回当たりの単価を決定していたことなどを示す根拠資料を作成しておらず、明確な根拠に基づくことなく支払内容や支払単価を設定していた。このため、支援金が、接種機関がワクチン接種のために通常必要とする費用や接種回数等に応じた上乗せ額を対象に支払われたものではないことを確認することができなかった。

(注26)
30市区  札幌、桐生、川口、深谷、佐倉、流山、印西、小金井、川崎、甲府、上田、岐阜、大垣、多治見、各務原、可児、春日井、岸和田、茨木、泉佐野、寝屋川、大東、天理、米子、高松、飯塚、大分、別府各市、新宿、杉並両区

(6) 自衛隊によるワクチン接種の実施状況等

ア 自衛隊によるワクチン接種の体制及び実施状況

(ア) ワクチン接種の体制

陸幕は、3年4月30日に自衛隊大規模接種センターのワクチン接種に係る要員の基準を定め、これに基づき医官・看護官等を配置して運営の準備を行い、5月24日からの運営開始を目標としていた。そして、4月30日からは、1日当たりの要員の基準については、両センターを合わせて380人としていたところ、運営開始後は、ワクチン接種の予約数に応じるなどのために、上記の基準を随時見直して、5月28日以降は423人まで増やし、9月26日以降は順次減らして、10月24日以降は159人としていた。また、自衛隊大規模接種会場の1日当たりの要員の基準については、両会場を合わせて運営開始当初は26人としていたところ、4年2月7日以降は順次増やして、同月14日以降は132人としていた(図表6-1参照)。

図表6-1 自衛隊大規模接種センター等におけるワクチン接種に係る1日当たりの要員の基準

(単位:人)
区分 期間等 大規模接種センター 大規模接種会場
令和3年
4月30日~


5月14日~


5月28日~


9月26日~


10月24日~
11月30日
4年
1月31日~


2月7日~


2月14日~
3月31日
東京 大阪 東京 大阪 東京 大阪 東京 大阪 東京 大阪 東京 大阪 東京 大阪 東京 大阪
医官 42 28 48 28 48 33 48 29 13 8 7 - 35 9 35 17
看護官等 131 69 131 69 131 69 131 67 27 27 18 - 45 15 45 31
その他の要員 59 51 71 59 83 59 78 60 39 45 1 - 2 1 2 2
232 148 250 156 262 161 257 156 79 80 26 - 82 25 82 50
合計 380 406 423 413 159 26 107 132

民間看護師の募集人数については、ワクチン接種の予約数に応じて見直しており、自衛隊大規模接種センターの運営開始当初は1日当たり200人としていたところ、3年6月22日以降は219人まで増やして、9月26日以降は順次減らして11月1日からは55人としていた。また、自衛隊大規模接種会場においては、運営開始当初から順次増やして、4年2月14日以降は122人としていた(図表6-2参照)。

図表6-2 自衛隊大規模接種センター等における民間看護師の1日当たりの募集人数

(単位:人)
期間

会場
大規模接種センター 大規模接種会場
令和3年
5月17日~


5月31日~


6月22日~


9月26日~


11月1日~
11月30日
4年
1月31日~


2月7日~


2月10日~


2月14日~
3月31日
東京 112 130 133 133 43 17 35 81 81
大阪 88 86 86 71 12 - 16 16 41
200 216 219 204 55 17 51 97 122
  • (注) 8時30分から17時までの人数を記載している。

(イ) ワクチン接種の実施状況

図表6-3のとおり、自衛隊大規模接種センターにおいては、3年5月から11月までの間に計1,969,552回の予約を受け付け、延べ1,964,442人にワクチンを接種していた。1か月当たりの接種者数は、7月が475,731人で最も多く、11月が25,884人で最も少なくなっていた。また、自衛隊大規模接種会場においては、4年1月から3月までの間に合計266,029回の予約を受け付け、延べ257,443人にワクチンを接種していた。

図表6-3 自衛隊大規模接種センター等におけるワクチン接種の実施状況(令和4年3月末現在)

(単位:回、延べ人)
会場 予約数と
接種者数
大規模接種センター
令和3年5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月
東京 予約数 56,120 298,255 317,502 309,470 257,924 61,237 17,590 1,318,098
接種者数 53,635 306,051 319,510 306,174 256,880 59,160 16,728 1,318,138
大阪 予約数 28,847 149,663 156,486 151,983 127,714 27,412 9,349 651,454
接種者数 28,599 147,891 156,221 150,689 127,013 26,735 9,156 646,304
予約数 84,967 447,918 473,988 461,453 385,638 88,649 26,939 1,969,552
接種者数 82,234 453,942 475,731 456,863 383,893 85,895 25,884 1,964,442
会場 予約数と
接種者数
大規模接種会場
4年1月 2月 3月
東京 予約数 720 109,680 72,002 182,402
接種者数 711 105,989 69,679 176,379
大阪 予約数 - 43,237 40,390 83,627
接種者数 - 41,685 39,379 81,064
予約数 720 152,917 112,392 266,029
接種者数 711 147,674 109,058 257,443
  • 注(1) 予約数は、前日までに予約された数であり、当日のキャンセル数を含む。
  • 注(2) 接種者数は、予約なしで当日接種した者を含む。
  • 注(3) 接種者数に自衛官、民間看護師等は含まれていない。
  • 注(4) 令和3年5月分は5月24日から5月31日までの8日間の接種実績となっている。
  • 注(5) 令和4年1月分は1月31日のみの接種実績となっている。

イ 自衛隊大規模接種センター等に係る委託契約等の状況

(ア) 自衛隊大規模接種センターに係る委託契約等の状況

中央会計隊等は、自衛隊大規模接種センターの運営に当たり、多数の委託契約等を締結している。この委託契約等の契約金額についてみると、当初は、東京センターで計22億1943万余円、大阪センターで計19億4318万余円となっていたが、運営期間の延長等に伴う契約変更により、東京センターで計74億6665万余円、大阪センターで計54億9154万余円となっていた。そして、これらに両センターに共通している民間看護師の派遣契約を加えると、両センターの契約金額の合計は当初が49億2639万余円、契約変更後は143億2269万余円となっていた。

主な委託契約等の内容についてみると、次のとおりとなっていた。

予約の受付、接種会場における案内、警備、清掃等の業務については、短期間での会場設営等の準備が必要となるため、緊急の必要により競争に付することができない場合に該当するとして、随意契約により、東京センターについては株式会社日本旅行(以下「日本旅行」という。)と、大阪センターについては東武トップツアーズ株式会社(以下「東武トップツアーズ」という。)と、それぞれ業務委託契約を締結していた。

また、両センターへの民間看護師の派遣については、一般競争契約により、株式会社キャリア(以下「キャリア」という。)と派遣契約を締結していた。

このほか、大阪センターについては、大阪府立国際会議場を借り上げていたが、同会議場でなければ大規模なワクチン接種を行うことができないため、契約の性質又は目的が競争を許さない場合に該当するとして、随意契約により、同会議場の指定管理者である株式会社大阪国際会議場(以下「大阪国際会議場」という。)と会場借上契約を締結していた。

そして、中央会計隊等は、これらの委託契約等に係る140億3737万余円のほか、両センターの運営に必要な消耗品等の調達に係る4億2525万余円を含めて計144億6263万余円を支払っていた(自衛隊大規模接種センターに係る委託契約等の状況は別図表9参照)。

(イ) 自衛隊大規模接種会場に係る委託契約等の状況

中央会計隊等は、自衛隊大規模接種会場の運営に当たっても、多数の委託契約等を締結している。この委託契約等の契約金額についてみると、当初は、東京会場で計4億7784万余円、大阪会場で計4億1080万余円となっていたが、予約枠の拡大等に伴う契約変更により、東京会場で計11億4782万余円、大阪会場で計7億2279万余円となっていた。そして、これらに両会場に共通している民間看護師の派遣契約等を加えると、両会場の契約金額の合計は当初が10億1296万余円、契約変更後は20億8688万余円となっていた。

主な委託契約等の内容についてみると、次のとおりとなっていた。

予約の受付、接種会場における案内、警備、清掃等の業務については、緊急の必要により競争に付することができない場合に該当するとして、随意契約により、東京会場については日本旅行と、大阪会場については東武トップツアーズと、それぞれ業務委託契約を締結していた。

また、両会場への民間看護師の派遣については、一般競争契約により、キャリアと派遣契約を締結していた。

このほか、大阪会場については、民間施設2か所を借り上げていたが、契約の性質又は目的が競争を許さない場合に該当するとして、随意契約により、株式会社マルス及び株式会社日本経済新聞社と会場借上契約を締結していた。

そして、中央会計隊等は、これらの委託契約等に係る20億7677万余円のほか、両会場の運営に必要な消耗品等の調達に係る1億3163万余円を含めて計22億0841万余円を支払っていた(自衛隊大規模接種会場に係る委託契約等の状況は別図表10参照)。

(ウ) 変更契約の状況

a 大阪センターの会場借上契約に係る予約取消協力金

大阪国際会議場と締結した会場借上契約については、大阪センターの運営期間の延長に伴う借上期間の延長等を理由として計5回の契約変更が行われている。このうち3年8月の契約変更では、大阪国際会議場からの要望により、5月から8月下旬までの間に既に大阪府立国際会議場の利用を予約していた者(以下「会場予約者」という。)に対して、大阪国際会議場が返金した利用料金(前納分)とは別に、予約取消しに応じたことに対して、大阪国際会議場が会場予約者に支払った協力金(以下「予約取消協力金」という。)に相当する金額として、契約金額を1億9802万余円増額していた。また、9月及び11月の契約変更でも同様の理由で契約金額を4115万余円及び1億0237万余円増額し、計3回の契約変更で契約金額を計3億4155万余円増額していた。

これは、大阪センターの設置が急きょ決定され、会場予約者がその責によらない損失を被っていること、公益のための予約取消しであり、迅速に国の使用に供する必要性・緊急性が高いことなどから、大阪国際会議場が会場予約者と協議を行い、その合意を踏まえ予約取消協力金として支払ったものである。そして、中央会計隊は、上記の大阪国際会議場からの要望を踏まえた防衛省の方針により、これに相当する金額を支払っていた。

なお、大阪会場については、会場決定時に会場の利用を予約していた者がいなかったため予約取消しが発生しておらず、中央会計隊は予約取消協力金に相当する金額を支払うことはなかった。

b 利益制限付特約条項

中央会計隊が自衛隊大規模接種センターの運営に当たり3年4月に日本旅行と、5月に東武トップツアーズとそれぞれ締結していた業務委託契約については、契約金額を概算額とする概算契約となっており、契約の履行後に中央会計隊が原価監査を実施して契約金額を確定することとなっていた。しかし、運営期間の延長等により、出納整理期間中に原価監査及び精算が終わらない見込みとなったことから、4年3月に概算契約から利益制限付特約条項(注27)を付した確定契約に改める変更契約を締結した。そして、中央会計隊は、契約の履行を確認した上で、4月までに契約金額と同額の70億8292万余円を日本旅行に、31億9985万余円を東武トップツアーズにそれぞれ支払っていた。

(注27)
利益制限付特約条項  契約の相手方が契約の履行により適正利益を超える利益を得た場合には、この適正利益を超える利益に相当する金額を返納させる条件を課したもの

また、中央会計隊が自衛隊大規模接種会場の運営に当たり4年1月に日本旅行及び東武トップツアーズとそれぞれ締結していた業務委託契約については、契約期間が同年3月末までとなっており、出納整理期間である同年4月中に原価監査及び精算が終わらない見込みであったことから、当初から利益制限付特約条項を付した確定契約を締結した。そして、中央会計隊は、契約の履行を確認した上で、同年4月までに契約金額と同額の10億7559万余円を日本旅行に、5億1889万余円を東武トップツアーズにそれぞれ支払っていた。

これらの業務委託契約に係る利益制限付特約条項では、中央会計隊は実際価格報告書を受理した後に原価監査を実施して、実績価格を決定することとなっていて、4年5月までに両社から実際価格報告書を受理していたが、実際価格報告書の確認に時間を要しているため、5年2月の会計実地検査時点において原価監査は終わっておらず、実績価格はまだ決定していなかった。

(エ) 再委託の状況

日本旅行及び東武トップツアーズは、委託を受けた業務の主要部分を第三者に委託(以下「再委託」という。)する必要がある場合は、それぞれの業務委託契約に基づきあらかじめ中央会計隊の承認(以下「再委託承認」という。)を得なければならないこととされている。

そこで、再委託の状況についてみたところ、次のとおりとなっていた(業務委託契約に係る再委託の状況は別図表11及び別図表12参照)。

自衛隊大規模接種センターにおいて、日本旅行は、キャリアリンク株式会社等14社との間で再委託契約を契約金額計48億9886万余円(再委託費率(契約金額に占める再委託先への支払額の割合をいう。)69.1%)で締結していて、当該14社に対して同額を支払っていた。また、東武トップツアーズは、株式会社トップ・スタッフ等6社との間で再委託契約を契約金額計21億8207万余円(同68.1%)で締結していて、当該6社に対して同額を支払っていた。

再委託承認の状況についてみると、東武トップツアーズは、全6社に対する再委託承認を得ていたが、日本旅行は、キャリアリンク株式会社等10社に対する再委託承認は得ていたものの、株式会社ワンコンシスト等4社(支払金額計15億6240万余円)に係る書面による事前の申請をしておらず、再委託承認を得ていなかった。日本旅行によれば、上記の4社については、当初から再委託を予定して運営開始前に上記の4社を含めた要員の配置案で防衛省と調整していたことから、再委託の状況の共有が図られていたと認識していたこと、自衛隊大規模接種センターを支障なく運営するためには再委託承認の申請に係る手続より再委託による要員の手配を優先する必要があったことなどによるとしていた。

一方、自衛隊大規模接種会場においては、日本旅行は、株式会社ワンコンシスト等11社との間で再委託契約を契約金額計7億6350万余円(同70.9%)で締結していて、当該11社に対して同額を支払っていた。また、東武トップツアーズは、株式会社トップ・スタッフ等7社との間で再委託契約を契約金額計3億8651万余円(同74.4%)で締結していて、当該7社に対して同額を支払っていた。

再委託承認の状況についてみると、両社とも再委託する上記18社全てについて再委託承認を得ていた。

(7) ワクチン接種事業に係る国の情報システムの開発等の状況

ア システムの開発等の状況

(ア) V-SYSの開発等の状況

厚生労働省は、V-SYSの開発等や、3年3月末までの運用、保守等に係る契約を、緊急の必要により競争に付することができないなどの場合に該当するとして、2年9月に随意契約により、日本電気株式会社(以下「NEC」という。)との間で契約金額20億5876万円で締結している。

同契約について、厚生労働省は、被接種者の性別、年齢階級別等の詳細な統計情報を接種機関等が登録できるように改修して、これらの統計情報をインターネット上で国民に公表する機能を追加するなどしたり、当該改修等に係る履行期限の延長に伴い契約期間の終期を3年3月末から同年5月末まで延長したりするなどのため、2回の変更契約を締結しており、同契約の最終的な契約金額は26億3076万円となっている。

そして、厚生労働省は、V-SYSの3年4月から4年3月末までの運用、保守等に係る契約を、契約の性質又は目的が競争を許さない場合に該当するとして、3年4月に随意契約により、NECとの間で契約金額9億7499万余円で締結している。

同契約について、厚生労働省は、V-SYSの利用者からの問合せに対応するサービスデスクを拡充したり、職域接種を実施する企業等への支援業務を行うこととしたりするなどのため、4回の変更契約を締結しており、同契約の最終的な契約金額は62億7644万余円となっている。

厚生労働省は、V-SYSの開発時には被接種者ごとの接種記録を登録することを想定していなかったことから、V-SYSは、1(5)アのとおり、被接種者ごとの接種記録を登録するための機能を有していない。一方、1(5)アのとおり、市町村において、被接種者の個人単位の接種記録をリアルタイムで把握するなどの必要性が認識されるようになったことを踏まえて、同省は、マイナンバーを活用して被接種者ごとの接種記録を登録するシステムを新たに開発することを検討した。これに関して、同省は、開発中であったV-SYSを確実に稼働させるためには、別の組織を設置して上記の新たに開発するシステムに係る対応を執る必要があるが、当時の同省には、そのような別の組織に割り当てる人的余力はないと考えていたとしている。

このため、内閣官房が上記のシステムとなるVRSの開発を担うこととなり、3年1月26日、VRSに係る開発チームが内閣官房に発足した。

(イ) VRSの開発等の状況

内閣官房は、VRSの開発、運用及び保守業務に係る契約を、契約の性質又は目的が競争を許さない場合に該当するとして、3年2月に随意契約により、株式会社ミラボとの間で契約金額3億8500万円で締結している。

同契約について、内閣官房(3年9月以降はデジタル庁。以下同じ。)は、被接種者のスマートフォン等に、接種記録を証明する接種証明書を表示できる機能を追加開発したり、接種期間の延長に対応して契約期間の終期を3年9月末から4年3月末まで延長したりするなどのため、2回の変更契約を締結しており、最終的な契約金額は8億6196万余円となっている。

また、内閣官房は、1(5)イのとおり、タブレット端末をレンタルにより調達するなどの契約を、緊急の必要により競争に付することができない場合に該当するとして、3年2月に随意契約により、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社及び株式会社NTTドコモ(以下、これらを合わせて「NTTコム等」という。)との間で契約金額48億0158万余円で締結し、約4万箇所の接種機関等に配布できるよう、41,000台のタブレット端末を調達していた。

その後、内閣官房は、基本型接種施設1万箇所について、多くの接種希望者が来場すると見込み、1施設当たり2台以上のタブレット端末を配布するなどとして、3年8月末までに17,000台のタブレット端末を追加調達して、計58,000台を調達するなどした。また、同契約期間が終了する4年3月末における各タブレット端末のデータ通信実績に応じてデータ通信料を精算することとした。

以上により、タブレット端末をレンタルにより調達するなどの契約について、7回の変更契約を締結しており、最終的な契約金額は64億0845万余円となっていて、上記の精算を踏まえた支払金額は64億0380万余円となっていた。

(ウ) ワクチン接種の統計情報に関する国民への公表に係る機能

(ア)及び(イ)のとおり、開発が先行したV-SYSについては厚生労働省が、後発となったVRSについては内閣官房が、それぞれの開発、運用、保守等を担当している。

両システムの開発等の状況について確認したところ、ワクチン接種の統計情報に関する国民への公表に係る機能について、次のような状況が見受けられた。

3年3月5日に、厚生労働省及び内閣官房は、連名による事務連絡により、市町村に対してVRSに登録された接種記録に基づく統計情報の公表等を実施することを周知し、同年5月27日にはVRSにおいて公表が開始された。

一方、厚生労働省は、(ア)のとおり、V-SYSについて、ワクチン接種に関する統計情報をインターネット上で国民に公表する機能を追加するなどのために、3年3月18日に変更契約を締結しており、これに係る費用は4億1018万余円となっていた。そして、同省は、V-SYSの統計情報とVRSの統計情報とで内容が重複することから、V-SYSの統計情報については国民に対する公表を行わないこととし、当該統計情報の公開先を同省内に限定して上記の追加した機能を利用していた。

当該統計情報の公開先を厚生労働省内に限定した理由について、同省は、政府としてVRSにより接種記録の統計情報を国民に対して公表することが3年3月までに決定していたことから、V-SYSによりワクチンの使用に関する統計情報を集計したり、国民に対して公表したりする必要がなくなったためとしている。そして、前記の機能を追加した理由について、同省は、同年3月18日の変更契約の締結時には、VRSの統計情報により国民への公表を行うことを認識していたものの、同年4月に稼働することとされていたVRSが、一部の機能に限定して稼働したり、稼働が間に合わなかったりする場合を想定して、ワクチン接種事業を滞りなく進めるためには、V-SYSにおいても、国民への公表を行うことができるよう機能を追加したとしている。

上記の状況が見受けられたことを踏まえ、今後、複数の省庁が関係するシステムの開発に当たっては、緊急的に開発が必要となる場合も含め、関係省庁間での調整や情報共有を十分に行うことが求められる。

イ VRSにおける接種記録の修正等の状況

1(5)イのとおり、接種記録のうち、接種日や接種したワクチンに係るワクチン製造販売業者名等の情報は、プリセット情報としてタブレット端末に手入力により登録し、OCRラインに記載されている接種券番号、市町村コード等の情報は、タブレット端末のカメラ等で読み取って登録することとなっている。

一方、3年4月に、VRSに登録された接種記録に一部誤りがあり、また、接種機関等において、タブレット端末のカメラによりOCRラインを読み取る際に、読取りに時間がかかったり、OCRラインの数字を誤って別の数字と認識したりなどしているという報道がなされた。

上記については、各市町村において、発生状況の確認及び誤りの解消を行っていることから、検査対象とした305市区町村の4年7月末における状況を確認したところ、次のような状況となっていた。

305市区町村のうち216市区町は、OCRラインを正しく認識しなかったことにより、ある被接種者の接種記録が、誤って別の者の接種記録としてVRSに登録されていたり、誰のものかわからない接種記録がVRSに登録されたりしている事態が発生しているとしていた。また、216市区町のうち26市区町は、計11,304件のOCRラインの読取り誤りが発生していたことを記録として残していた。

次に、上記の216市区町における、誤った接種記録の解消方法についてみると、101市区町は、予診票の内容とVRSに登録された接種記録を、目視や読み合わせにより全件突合して確認を行った上で、誤った記録の修正を行っていた。また、51市区町は、パンチ入力等のタブレット端末以外の方法により別途作成した接種記録を、既にVRSに登録されていた接種記録に一括して上書きして修正を行っていた(別図表13参照)。なお、上記の51市区町には、プリセット情報の誤りの修正を行うなどのために、既にVRSに登録されていた接種記録の内容にかかわらず上書きを行っていた市区町も含まれている。

そして、上記51市区町のうち46市区は、2、3両年度においてパンチ入力の業務を体制確保補助金による補助事業により行っており、このうち、事業実績報告書を厚生労働省に提出していた41市区におけるパンチ入力に係る事業費は、計71億9662万余円となっていた。また、上記51市区町のうち残りの5市町は、既にVRSに登録されていた接種記録に一括して上書きするための業務を、補助事業によることなく、当該5市町の職員が自ら行っていた。

上記状況の背景には、市町村によって接種券の様式が区々となっていたり、既に接種券の印刷を発注済としていたりして、VRSの開発開始時点において、タブレット端末のカメラ等で読み取るための符号をOCRラインとせざるを得なかったことがあると思料される。

このように、開発期間が短く、仕様の検討を十分に行えなかったなどのやむを得ない事情があったものの、一部の市区町において、誤って登録された接種記録の解消のために、追加的な業務や費用が生じている状況が見受けられた。

ついては、今後、今般のワクチン接種事業により開発されたシステムのように、緊急的にシステムを導入する必要がある場合であっても、システムを利用する際に利用者に大きな負担が生じることのないよう、仕様等について適切に検討する必要がある。

なお、内閣官房及び厚生労働省は、VRSにおけるデータの入力方法等に関して、次のような対策を講じていた。

内閣官房は、前記タブレット端末のレンタルに係るNTTコム等との契約において、タブレット端末のカメラの焦点を合わせやすくすることにより接種機関等におけるOCRラインの読取りを効率化するために、3年5月から順次、タブレット端末を置くための読取り台51,500台を9584万余円で追加調達して、接種機関等に配布していた。

また、厚生労働省は、3年8月以降、内閣官房、市町村等からの意見の聴取及び意見の調整を行い、「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き」の第5版(令和3年11月16日公表)において、タブレット端末のカメラで接種券番号等をより一層読み取りやすくするために、3回目接種以降に係る接種券の様式について、二次元コード(注28)の印刷を必須とすることとしていた。

(注28)
二次元コード  一次元コードであるバーコードに対し、横(水平)及び縦(垂直)の両方向に情報を持たせた符号。厚生労働省の資料によれば、OCRラインに比べて二次元コードの方が、タブレット端末のカメラで読み取りやすいとされている。