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  • 昭和54年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

補助事業の実施及び経理の適正化について処置を要求したもの


(1) 補助事業の実施及び経理の適正化について処置を要求したもの

(昭和55年11月21日付け55検第546号 農林水産大臣あて)

 農林水産省では、国庫補助事業として北海道ほか46都府県及び市町村等が事業主体となって実施する事業に要する費用について、昭和53年度1兆5099億余円、54年度1兆7053億余円の国庫補助金をこれら事業主体に対して直接又は間接に交付している。
 しかして、本院で55年中に、53、54両年度に実施された国庫補助事業について調査したところ、53年度分については青森県ほか34都府県(注1) 、54年度分については青森県ほか15都県(注2) において農道、林道、用排水路、治山、漁港修築、農業近代化施設等の工事及びこれに伴って必要な用地の買収等(以下「補助工事等」という。)について、53年度分2,597件(これに係る工事費等679億余円)、54年度分246件(同86億余円)が年度内に完了していなかった。
 しかるに、上記の都府県等は、これらの未完了補助工事等について法令上年度末までに行うことになっている予算の繰越手続を執ることなく、当該工事等が年度内に完了したとする処理を行い、国庫補助金の全額(53年度分370億余円、54年度分45億余円)の交付を受けていた。

 そして、上記未完了の補助工事等に係る工事費等のうち前金払い又は部分払いとして年度末までに既に支払ったものを除いた額(以下「工事費等の残額」という。)の経理処理についてみると、いずれも補助工事等が年度内に完了したとする関係書類を作成し、このうち出納閉鎖期日までに完了したものについては、当該年度の予算から支払い、また、同日までに完了しなかったものについては、これらに係る工事費等の残額53年度分300件54億4千万余円(国庫補助金相当額28億4千2百万余円)、54年度分16件4億8百万余円(国庫補助金相当額2億4百万余円)を、出納閉鎖期日以降別途に保管し工事等の完了の都度支払ったり、工事等が完了していないのにその全額を支払ったりなどしている状況であった。また、これらの工事等の施行についてみると、年度経過後相当期間にわたり工事等が完了していないものも一部に見受けられた。

 このような事態は補助金等の予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号。以下「補助金適正化法」という。)等関係法令に違背するものであり、また、年度経過後、実際に補助工事等が完了するまでの間、交付済みの国庫補助金が事業主体に長期間滞留することになり、国庫補助金の効率的使用を妨げることにもなると認められる。
 本院では、このような未完了補助工事等の事態について、従来からその是正を図るよう注意してきたところであり、同省においては49年10月に農林事務次官名で、また、55年3月に農林水産大臣官房長名でこのような事態の防止について、各都道府県知事等に対し通達を発しており、更に同年4月、54年度末で未完了となっているものの工事費等の残額に係る国庫補助金の繰越手続を同月末日までに執るよう特別に指示しているところであるが、年度内に完了していない補助工事等を完了したものとして処理している事態が依然として多数発生している状況である。

 このような事態を生じているのは、近年、事業実施過程において、用地買収や補償交渉が難航したり、工事中の騒音その他に対する住民の反対があったりするなど各種の制約を受けることが多いため、年度内に完了しないと予測される補助工事等が増加しているにもかかわらず、各地方公共団体において、補助事業に係る予算の繰越手続を執ることをできるだけ避け、年度経過について意を用いない傾向があるなど補助事業を法令に従って実施する意識に欠けていることによると認められるが、同省においでも、このような事態の発生に対して、従来、通達等によって、注意を喚起するだけで、これを防止するための実効性ある強い指導を欠き、特にかかる事態が発生した場合に厳正な態度で臨む姿勢に欠けていたことによると認められる。
 同省では、本年の本院会計実地検査の結果に基づき、このような事態を防止するため、55年10月、重ねて農林水産事務次官名の通達を各都道府県知事等に対し発しているが、従来再度にわたり通達を発しているにもかかわらず事態が改善されず、未完了補助工事等がその跡を絶っていないことにかんがみ、同省部局はもとより、地方公共団体等に対し実効性のある強い指導を行う要があると認められる。
 ついては、農林水産省において、地方公共団体等に対し補助事業の円滑かつ適正な執行を図るための指導を一層強化、徹底するとともに、更に、今後このような事態が生じた場合には、補助金適正化法に基づく厳正な処置を執るなどして、補助事業の実施及び経理の適正化を図る要があると認められる。

(注1)  青森県ほか34都府県 青森、宮城、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、福井、山梨、長野、静岡、愛知、三重、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、沖縄各県、東京都、大阪府

(注2)  青森県ほか15都県 青森、宮城、山形、福島、茨城、埼玉、新潟、富山、福井、岐阜、三重、兵庫、島根、熊本、鹿児島各県、東京都