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  • 平成元年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第4 文部省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

高等学校定時制課程に在学する生徒への教科書の給与事業及び夜食費の補助事業について改善の意見を表示したもの


(1) 高等学校定時制課程に在学する生徒への教科書の給与事業及び夜食費の補助事業について改善の意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計(組織)文部本省(項)学校教育振興費
部局等の名称 文部省
補助事業 高等学校定時制及通信教育振興奨励事業(教科書の給与事業、夜食費の補助事業)
補助の根拠 予算補助
事業の概要 高等学校の定時制課程に在学する生徒に対して教科書の支給、夜食費の補助を行うもの
事業主体 北海道ほか24都府県
上記に対する国庫補助金交付額の合計 教科書の給与事業 3億6980万余円
夜食費の補助事業 6億4045万余円
10億1026万余円

<検査の結果>
 高等学校定時制及通信教育振興奨励費補助金は、勤労青少年の修学の促進を目的として交付するものであるが、近年、高等学校の定時制課程の在学生徒は、働きながら学ぶ者のほか、全日制課程に入学を希望したが果たせなかった者等が増大し、多様化している。そこで、定時制課程の教科書の給与事業及び夜食費の補助事業の対象となっている生徒の実態について調査した。
 調査の結果、25都道府県において、次のとおり、両事業の対象とした生徒の大部分が「勤労青少年」すなわち「経常的収入を得る職業に就いている者」に該当しない者となっており、補助金の交付の目的からみて適切でないと認められた。

(ア) 定時制課程の在学生徒で教科書の支給を受けた者延べ220,612人(教科書冊数1,249,205冊)のうち、その64.3%に当たる延べ141,915人(同826,203冊)が「勤労青少年」に該当しない生徒であった。 

(イ) 夜間の定時制課程の在学生徒で夜食の供給を受けた者延べ191,202人(夜食数29,134,653食)のうち、その64.3%に当たる延べ122,978人(同18,037,935食)が「勤労青少年」に該当しない生徒であった。

<改善の意見表示>
 文部省において、補助金の交付の目的にかんがみ、定時制課程の在学生徒の多様化の実態に対応して、補助制度の見直しを行い、上記の事態を改善する要があると認められた。
 上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、平成2年11月1日に文部大臣に対して改善の意見を表示した。

【改善の意見表示の全文】

高等学校定時制課程に在学する生徒への教科書の給与事業及び夜食費の補助事業について

(平成2年11月1日付け 文部大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。

1 制度の概要

(高等学校定時制及通信教育振興奨励費補助金)

 貴省では、教育基本法(昭和22年法律第25号)及び高等学校の定時制教育及び通信教育振興法(昭和28年法律第238号)の趣旨にのっとり、高等学校定時制及通信教育振興奨励費補助金交付要綱及び関連の実施細則(以下「補助要綱」という。)を定め、高等学校定時制及通信教育振興奨励費補助金(以下「定時制補助金」という。)を都道府県に交付している。
 定時制補助金は、勤労青少年教育の重要性にかんがみ、勤労青少年が高等学校の定時制課程(夜間その他特別の時間又は時期において授業を行う課程)又は通信制課程へ修学することを促進し、教育の機会均等を保障することを主眼として、これらの課程に在学する生徒の修学条件の改善を図るために交付されるものである。
 定時制補助金は、補助要綱により、都道府県が、高等学校の定時制課程又は通信制課程に在学する生徒を対象として、教科書等の給与、修学奨励費の貸与、夜食費の補助等の各事業を行う場合に補助することとなっている。国の補助額は、各事業により、事業に要する経費の2分の1又は3分の1以内の定額となっている。そして、その交付額は、昭和62年度から平成元年度までの3箇年度で47億9524万余円となっており、うち定時制課程の各事業に対するものが33億7078万余円となっている。

(教科書の給与事業及び夜食費の補助事業)

 高等学校の定時制課程の各事業のうち、教科書の給与事業は、都道府県が教科書を購入し、定時制課程に在学する生徒に無償で支給するものである。また、夜食費の補助事業は、都道府県が夜間の定時制課程に在学する生徒に対して夜食費を補助するものである。この2事業に対する定時制補助金の交付額は、昭和62年度から平成元年度までの3箇年度でそれぞれ6億9507万余円、12億2749万余円、計19億2257万余円となっている。

2 本院の検査結果

(調査の観点)

 定時制補助金は勤労青少年の修学を促進することを主眼とするものであるが、補助の対象である教科書の給与事業及び夜食費の補助事業の対象となる者は、補助要綱において定時制課程に在学する生徒であればよいこととされており、勤労青少年であることなどの特段の限定はされていない。一方、近年、定時制課程に在学する生徒は、経済的な理由により働きながら学ぶ者のほか、全日制課程に入学を希望したが果たせなかった者、同課程からの進路変更等に伴い転・編入学した者などが増大し、多様化している状況にある。
 このような状況にかんがみ、今回、高等学校の定時制課程の教科書の給与事業及び夜食費の補助事業について、勤労青少年の修学の促進を主眼とする定時制補助金の交付の目的からみて適切かどうかという観点から調査を行った。
 この調査を行うに当たり、「勤労青少年」の範囲について特段の定義がないことから、本院において、その範囲を、仮に、定時制補助金の対象事業のひとつである修学奨励費貸与事業で、事業の対象となる生徒の要件のひとつとして貴省が補助要綱により定めている「経常的収入を得る職業に就いている者」とした。

(調査の対象)

 本院は、高等学校の定時制課程の教科書の給与事業及び夜食費の補助事業の対象となっている生徒の実態について、次の都道府県及び年度を対象として調査した。        

〔1〕  平成2年1月から3月までの間に検査した北海道ほか7県(注1) においては昭和62、63両年度分

〔2〕  平成2年4月から6月までの間に検査した東京都ほか16府県(注2) においては昭和63、平成元両年度分

(調査の結果)

 調査の結果、教科書の給与事業及び夜食費の補助事業の対象とした生徒の大部分が、本院が仮に設定した「勤労青少年」に該当しない者となっている状況であった。
これを事業の別に示すと次のとおりである。

(1) 教科書の給与事業について

 25都道府県管内で定時制課程を有する高等学校は、昭和62年度から平成元年度の間に656校あった。
 これらの高等学校の定時制課程に在学している生徒で、調査の対象とした前記の2箇年度において教科書の支給を受けた者は延べ220,612人(教科書冊数1,249,205冊)であり、これに係る定時制補助金交付額は3億6980万余円である。この教科書の支給を受けた生徒の64.3%に当たる延べ141,915人(同826,203冊)が、「勤労青少年」に該当しない生徒であり、これに係る定時制補助金交付額は2億4181万余円となっていた。これを、都道府県別、高等学校別にみると、次のとおりである。

(ア) 都道府県別に「勤労青少年」に該当しない生徒の割合をみると、50%を超えているものが17都道府県あり、うち東京都ほか5道県(注3) では75%を超えており、最高では96.8%であった。

(イ) 高等学校別にみると、50%を超えているものが420校、うち75%を超えているものが286校あり、全員が「勤労青少年」に該当しない生徒となっている学校も30校あった。

(2) 夜食費の補助事業について

 25都道府県管内で夜間の定時制課程を有する高等学校は、昭和62年度から平成元年度の間に599校あった。
 これらの高等学校の夜間の定時制課程に在学している生徒で、調査の対象とした前記の2箇年度において夜食の供給を受けた者は延べ191,202人(夜食数29,134,653食)であり、これに係る定時制補助金交付額は6億4045万余円である。この夜食の供給を受けた生徒の64.3%に当たる延べ122,978人(同18,037,935食)が「勤労青少年」に該当しない生徒であり、これに係る定時制補助金交付額は3億9646万余円となっていた。これを、都道府県別、高等学校別にみると、次のとおりである。

(ア) 都道府県別に「勤労青少年」に該当しない生徒の割合をみると、50%を超えているものが15都道府県あり、うち東京都ほか5道県(注4) では75%を超えており、最高では96.9%であった。

(イ) 高等学校別にみると、50%を超えているものが381校、うち75%を超えているものが243校あり、全員が「勤労青少年」に該当しない生徒となっている学校も14校あった。

(改善を必要とする事態)

 定時制補助金は、勤労青少年教育の重要性にかんがみ、勤労青少年の高等学校定時制課程等への修学の促進、教育の機会均等の保障を主眼とするものである。
 したがって、教科書の給与事業や夜食費の補助事業の対象となっている生徒の多数が「勤労青少年」に該当しない事態は、定時制補助金の交付の目的からみて適切ではなく、改善を必要とすると認められる。

3 本院が表示する改善の意見

 定時制補助金の交付の目的にかんがみ、定時制過程に在学する生徒の多様化の実態に対応して、補助制度の見直しを行い、上記の事態を改善する要があると認められる。

(注1)  北海道ほか7県 北海道、青森、宮城、新潟、長野、岡山、熊本、鹿児島各県

(注2)  東京都ほか16府県 東京都、大阪府、秋田、茨城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、富山、岐阜、静岡、愛知、兵庫、奈良、和歌山、愛媛、沖縄各県

(注3)  東京都ほか5道県 東京都、北海道、宮城、神奈川、和歌山、沖縄各県

(注4)  東京都ほか5道県 東京都、北海道、青森、宮城、神奈川、沖縄各県