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  • 第2章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

国立大学医学部附属病院等の診療棟、病棟等の建築工事における鉄筋の加工組立費の積算を鉄筋の径別の使用割合の実態に即して行うよう是正改善の処置を要求したもの


(3) 国立大学医学部附属病院等の診療棟、病棟等の建築工事における鉄筋の加工組立費の積算を鉄筋の径別の使用割合の実態に即して行うよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 国立学校特別会計 (項)施設整備費
部局等の名称 北海道、弘前、京都、大阪、鳥取各大学
工事名 医学部附属病院病棟新営その他工事ほか8工事
工事の概要 診療棟、病棟等を建築する工事
工事費 21,406,708,000円
請負人 戸田・鹿島・熊谷特定建設工事共同企業体ほか5共同企業体
契約 昭和63年3月〜平成2年3月 指名競争契約、指名競争後の随意契約、随意契約
過大積算額 5600万円

<検査の結果>
 診療棟等の建築工事における鉄筋の加工組立費は、文部省が定めた積算指針に基づいて積算することとされている。この積算指針に示された鉄筋加工組立の歩掛かりは、一般の建築物における鉄筋の径別の標準的な使用割合を基に設定されている。
 しかし、鉄筋の径別の加工組立歩掛かりは、鉄筋の径が太くなるほど低くなるものであり、一方、本件診療棟等は、大型の機器を設置するなどの構造となっていて、実際の鉄筋の径別の使用割合は一般の建築物とは異なると考えられたので、その実態を調査した。
 調査の結果、本件各工事における実際の鉄筋の径別の使用割合は、前記の積算指針で前提としている標準的な使用割合とは著しく異なっていて、太い鉄筋が多く使用されていた。したがって、本件各工事における鉄筋の加工組立費の積算は、鉄筋の径別の使用割合の実態に即して行う要があり、そのようにしたとすれば積算額(6億6822万余円)を約5600万円低減できたと認められた。
 このような事態が生じているのは、鉄筋の径別の使用割合の実態に即した積算を行うための具体的な方法が示されていないことなどによると認められた。
<是正改善の処置要求>
 文部省において、診療棟等のような大規模な建築工事の鉄筋の加工組立費の積算に当たり、径別の使用割合の実態に即して積算するよう、積算指針の改正を行うなどして、予定価格積算の適正を期する要があると認められた。
 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成2年12月5日に文部大臣に対して是正改善の処置を要求した。

【是正改善の処置要求の全文】

国立大学医学部附属病院等の診療棟、病棟等の建築工事における鉄筋の加工組立費の積算について

(平成2年12月5日付け 文部大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 工事の概要

(診療棟等の建築工事)

 貴省及び各国立大学等では、国立大学医学部附属病院等の診療棟、病棟等(以下「診療棟」という。)の建築工事を毎年多数実施している。このうち、北海道大学ほか4大学(注) (以下「大学」という。)では、平成元年度に、鉄骨鉄筋コンクリート構造により、床面積が延べ10,000m2 以上の大規模な診療棟等を建築する工事を9工事(工事費総額214億0670万余円)施行している。

(鉄筋の加工組立費の積算)

 これらの工事における鉄筋の加工組立費については、貴省大臣官房文教施設部が定めた「積算指針(建築工事)」(以下「積算指針」という。)に基づいて積算することとされている。積算指針では、鉄筋は径13mm以下の細物と径16mm以上の太物の2つに区分され、この区分ごとに1t当たりの鉄筋の加工組立歩掛かり(1t当たりの鉄筋を加工し組み立てるのに必要な作業員の人日数をいう。以下「歩掛かり」という。)が定められている。
 大学では、鉄筋の加工組立費の積算に当たり、積算指針に基づき、細物と太物との区分ごとの歩掛かりに労務単価を乗ずるなどして1t当たりの鉄筋の加工組立単価(細物で58,620円から76,150円、太物で22,280円から29,060円)を算出し、これに各工事における細物と太物の鉄筋重量を乗じ、9工事における鉄筋総重量15,319.5t(細物計6,208.5t、太物計9,111.0t)で総額6億6822万余円と算定していた。

(積算に用いた歩掛かり)

 本件各工事の鉄筋の加工組立費の積算に用いた積算指針の歩掛かりは、公共建築工事の主要発注機関である貴省、建設省等の担当者によって構成された研究会の研究成果である「公共建築工事標準歩掛り(建築工事編)」に示されている歩掛かりを貴省が採用したものである。この歩掛かりは、細物及び太物の鉄筋ごとに、鉄筋の各径別の歩掛かりを、一般の建築物における鉄筋の重量による標準的な径別の使用割合(表1。以下「標準使用割合」という。)で加重平均して設定されたものである。

表1 鉄筋の標準使用割合

区分 細物 太物
10mm 13mm 16mm 19mm 22mm 25mm 29mm 32mm 35mm

標準
使用割合

60

40

17.6

4.8

11.0

55.9

10.7


2 本院の検査結果

(調査の対象)

 大学が建築している診療棟等は、大型の機器等を設置する構造となっていたり、近年、更に高層化が図られていたりしていることから、鉄筋の実際の径別の使用割合は一般の建築物とは異なると考えられたので、本件各工事において使用されている鉄筋の径別の使用割合の実態について調査した。

(調査の結果)

 調査したところ、次のとおり鉄筋の実際の径別の使用割合(表2)は標準使用割合とは著しく異なっていた。

表2 鉄筋の実際の使用割合

区分 細物 太物
10mm 13mm 16mm 19mm 22mm 25mm 29mm 32mm 35mm

実際の
使用割合

42.8

57.2

20.3

11.7

5.7

15.8

15.0

29.2

2.3

(ア) 細物の鉄筋では、径10mmの鉄筋の使用割合が標準使用割合の60%に対し平均で42.8%と低くなっており、径13mmの鉄筋の使用割合が標準使用割合の40%に対し平均で57.2%と高くなっていた。

(イ) 太物の鉄筋においても、標準使用割合では最も太い鉄筋を径29mmとしているが、実際には標準使用割合で想定されていない径32mm及び35mmの太い鉄筋が平均で31.5%も使用されていた。

(是正改善を必要とする事態)

 径別の歩掛かりは、鉄筋の径が太くなるほど単位重量当たりの本数が少なくなって単位重量当たりの加工組立の手間が減るため、径が太くなるにしたがって低くなる。このため、本件各工事における鉄筋の径別の使用割合の実態に基づいて積算すると、鉄筋加工組立費は相当程度低減されることになる。
 したがって、一般の建築物に比べて太い鉄筋の使用割合が高くなっている診療棟等の建築工事における鉄筋の加工組立費の積算に当たっては、一般の建築物における標準使用割合を前提とした歩掛かりをそのまま適用することは適切でなく、鉄筋の径別の使用割合の実態に即した積算をする要があると認められる。

(低減できた積算額)

 いま、本件各工事における鉄筋の加工組立費を、鉄筋の径別の使用割合の実態に即して積算したとすれば、前記の積算額6億6822万余円は6億1200万余円となり、その積算額を約5600万円低減できたと認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、鉄筋の径別の使用割合の実態に即した積算を行うための具体的な方法を示していないことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正改善の処置

 貴省及び各国立大学等では、診療棟等のような大規模な建物の建築工事を今後も多数実施することが見込まれる。したがって、貴省において、この鉄筋の加工組立費の積算に当たり、鉄筋の径別の使用割合の実態に即して積算するよう、積算指針の改正を行うなどして、予定価格積算の適正を期する要があると認められる。

(注)  北海道大学ほか4大学 北海道、弘前、京都、大阪、鳥取各大学