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医療費に係る国の負担が不当と認められるもの


(58)−(114) 医療費に係る国の負担が不当と認められるもの

会計名及び科目 一般会計(組織)厚生本省 (項)老人福祉費
(項)国民健康保険助成費
(項)生活保護費
(項)精神保健費
厚生保険特別会計(健康勘定) (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
船員保険特別会計 (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
部局等の名称 社会保険庁、北海道ほか22都府県
国の負担の根拠 老人保健法(昭和57年法律第80号)、健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、生活保護法(昭和25年法律第144号)、精神保健法(昭和25年法律第123号)
医療給付の種類 老人保健法に基づく医療、医療保険各法に基づく療養の給付、生活保護法に基づく医療扶助、精神保健法に基づく入院
実施主体 国、市188、特別区21、町194、村30、国民健康保険組合18、計452実施主体
医療機関 公立9、法人33、個人20、計62医療機関
不当と認める国の負担額 347,491,120円

 上記の452実施主体において、看護料、診察料、注射料等の診療報酬の支払に当たり、請求に対する審査点検が十分でなかったことなどのため、医療費631,977,086円の支払が適切でなく、これに対する国の負担347,491,120円が不当と認められる。

1 医療給付の概要

(医療給付の種類)

 厚生省所管の医療保険各法(健康保険法、船員保険法及び国民健康保険法をいう。以下同じ。)等に係る医療給付には、次のものがある。

(ア) 市町村(特別区を含む。以下同じ。)が、医療保険各法による被保険者(被扶養者を含む。以下同じ。)のうち、当該市町村の区域内に居住する老人(70歳以上の者及び65歳以上70歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。)に対して、老人保健法の規定に基づき老人保健事業の一環として行う医療の実施

(イ) 医療保険各法に規定する保険者がその被保険者(ア)の老人を除く。)に対して行う療養の給付

(ウ) 都道府県又は市等が、生活保護法の規定に基づき要保護者に対して行う医療扶助及び精神保健法の規定に基づき精神障害者を病院に入院させて行う医療

(診療報酬)

 これらの医療給付において診療を担当する医療機関は、その医療に要する費用を、所定の診療点数に単価(10円)を乗じて算定し、診療報酬として患者及び各保険者、都道府県又は市町村に請求することになっている。
 このうち保険者等に対する請求額は、医療に要する費用の額から所定の患者負担分を控除した額(以下「医療費」という。)で、その額を記載した診療報酬請求書に費用の明細を明らかにした診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して請求することになっている。そして、この請求を受けた市町村、各保険者等及びこれらの委託を受けた社会保険診療報酬支払基金又は都道府県の国民健康保険団体連合会(以下「審査支払機関等」という。)は、請求内容について審査点検を行ったうえで支払うことになっている。

(国の負担)

 保険者等が支払う医療費について、国は次の額を負担している。

(ア) 老人保健事業による医療の実施に係る医療費については、〔1〕 市町村の支払った医療費の20%、〔2〕 市町村等が国民健康保険の保険者として市町村の支払った医療費に充てるため拠出する資金の約52%(市町村の支払った医療費の約14%)及び〔3〕 同様に国が健康保険等の保険者として拠出する分(市町村の支払った医療費の約20%)

(イ) 健康保険等の療養の給付等に係る医療費のうち、〔1〕 国が行う健康保険等に係るものについてはその全額、及び〔2〕 市町村等が行う国民健康保険に係るものについては市町村等が支払った医療費の50%又は47%

(ウ) 生活保護としての医療扶助及び精神障害者の入院に係る医療費については、都道府県又は市等が支払った医療費の4分の3(昭和63年度以前は10分の7)

2 検査の結果

 検査の結果、前記の452実施主体が行った老人保健法に基づく医療及び医療保険各法に基づく療養の給付等について医療機関から不適正な診療報酬の請求があったのに、これに対する審査点検が十分でなかったことなどのため、医療費631,977,086円 の支払が適切でなく、これに対する国の負担347,491,120円が不当と認められる。
これを診療報酬の別に整理して示すと、次のとおりである。

〔1〕  看護料の支払が適切を欠いたもの

172実施主体(16医療機関) 不当と認める国の負担額 178,713,445円

〔2〕  診察料の支払が適切を欠いたもの

20実施主体(16医療機関) 不当と認める国の負担額 42,837,234円

〔3〕  注射料等の支払が適切を欠いたもの

27実施主体(5医療機関) 不当と認める国の負担額 24,946,934円

〔4〕  入院時医学管理料等の支払が適切を欠いたもの

45実施主体(9医療機関) 不当と認める国の負担額 20,483,148円

〔5〕  検査料等の支払が適切を欠いたもの

188実施主体(7医療機関) 不当と認める国の負担額 18,662,784円

〔6〕  運動療法料等の支払が適切を欠いたもの

62実施主体(6医療機関) 不当と認める国の負担額 15,624,236円

〔7〕  処置料等の支払が適切を欠いたもの

66実施主体(3医療機関等) 不当と認める国の負担額 46,223,339円

 上記の事態について、診療報酬の別に、その算定方法及び医療機関における実際の算定・請求の概要を示すと次のとおりである。

〔1〕  看護料の支払が適切を欠いたもの

(看護料の算定方法)

 看護料には、都道府県知事の承認を得て厚生大臣の定める基準に該当する看護(基準看護)を行った場合に算定できる看護料(以下「基準看護料」という。)と、それ以外の場合に算定する看護料(以下「その他の看護料」という。)とがある(下図参照)

 この基準看護料は、看護婦(厚生大臣の免許を受けて看護に当たる者、以下「正看護婦」という。)、准看護婦(都道府県知事の免許を受けて看護に当たる者)及び看護助手(以下これらを総称して「看護職員」という。)1人当たりの入院患者数及び看護職員の合計数に占める正看護婦の割合等に応じて特3類看護料以下12種類の看護料に区分される。例えば、基準看護料のうち1類看護料の承認要件は、〔1〕 看護職員の1人当たりの入院患者数が4人以下であること、〔2〕 看護職員のうち正看護婦の占める割合(〔1〕 による最小必要数に対する割合。以下同じ。)が4割以上であることなどとされている。

 この基準看護料は、看護職員1人当たりの入院患者数が少ないほど、そして、看護職員のうち正看護婦の占める割合が高いほど、看護料算定に用いる点数が高くなっている。

 そして、基本看護料や1類看護料等の点数は、老人の患者については入院期間が6月を超える場合、6月以内の点数よりも1日につき10点低く定められている。

 都道府県知事は、医療機関が、基準看護の承認を得た後に当該看護の所定の要件を満たさなくなった場合には、変更の申請をさせることになっている。また、基準看護の承認を得ている医療機関に対しては、毎年、実地調査を行うとともに、看護職員の員数等を記載した定時報告書を徴して審査を行うことになっている。

医療費に係る国の負担が不当と認められるものの図1

(検査の結果)

 検査の結果、札幌市ほか11市町に所在する16医療機関において、看護料の請求が不適正と認められるものが33,422件あった。その態様は次のとおりである。

(ア) 看護職員のうち正看護婦の数が、基準看護のいずれの要件をも満たさなくなったり、その他の看護料を算定すべきであるのに、変更の申請を行わないまま2類看護料を算定していた。

(イ) 看護職員のうち正看護婦の数が、特1類看護、1類看護又は2類看護の要件を満たさず、それぞれ点数の低い基本看護、2類看護又は3類看護に該当することになっているのに、変更の申請を行わないまま従前の特1類看護料、1類看護料又は2類看護料を算定していた。

(ウ) 看護職員1人当たりの入院患者数が、特1類看護又は1類看護の要件を満たさず、それぞれ点数の低い基本看護又は2類看護に該当することになっているのに、変更の申請を行わないまま従前の特1類看護料又は1類看護料を算定していた。

(エ) 基本看護料又は1類看護料の請求に当たり、入院期間が6月を超える老人の患者について入院6月以内の場合の高い点数により算定していた。

 このように医療機関から不適正な請求がなされていたのに、(ア)から(ウ)については、都府県において医療機関から別途提出される定時報告書の活用が十分でなく、また、(エ)については、審査支払機関等におけるレセプトの審査点検が十分でなかった。
 このため、上記の33,422件の請求に対し札幌市ほか171市町村等が支払った医療費のうち307,612,026円の支払は適切でなく、これに対する国の負担額178,713,445円は負担の要がなかったものである。
 これを医療機関の所在する都道府県別に示すと次のとおりである。

都道府県名 実施主体 不当と認める医療費の支払件数 不当と認める医療費 不当と認める国の負担額

摘要

千円 千円
(58) 北海道 札幌市ほか6市町 746 2,131 1,028 看護料の支払不適切
(59) 岩手県 久慈市ほか12市町村等 1,070 14,009 7,947
(60)  同 下閉伊郡岩泉町ほか3町村等 356 6,358 3,950
(61) 東京都 練馬区ほか36市区町等 15,892 128,550 75,318
(62) 神奈川県 横浜市ほか6市町 1,237 3,331 1,706
(63)  同 小田原市ほか7市町 711 2,038 898
(64) 大阪府 泉佐野市ほか27市町等 2,880 35,269 22,269
(65) 兵庫県 川西市ほか13市町等 432 4,948 2,481
(66) 鳥取県 倉吉市ほか28市町村等 6,842 86,156 46,275
(67) 広島県 広島市ほか13市町 1,059 2,945 1,898
(68) 徳島県 徳島市ほか3町 908 2,619 1,800
(69) 福岡県 粕屋郡篠栗町ほか17市町等 1,289 19,252 13,138

小計

33,422 307,612 178,713

〔2〕  診察料の支払が適切を欠いていたもの

(診察料の算定方法)

 診察料には、初診料、再診料、生活指導料等がある。このうち、初診料は患者の傷病について医学的に初診といわれる医師の診療行為があった場合に、再診料はその後の診療行為の都度それぞれ算定できることとされている。また、生活指導料は、厚生大臣の定める慢性疾患を主病とする患者又はその家族に対して、栄養、運動、日常生活その他について療養上必要な指導を行った場合に算定できることとされている。ただし、特別養護老人ホーム(以下「特養ホーム」という。)に配属されている医師(以下「嘱託医」という。)が特養ホームにおいてその入所者に行っている診療については、その診療が別途国の補助事業として実施されている老人福祉施設保護事業の一環として行われているものであることから、診察料は算定できないこととされている。そのため、患者が特養ホームの入所者である場合には、レセプトにその旨を表示することとされている。

(検査の結果)

 検査の結果、青森市ほか12市町に所在する16医療機関において、診察料の請求が不適正と認められるものが21,112件あった。その態様は次のとおりである。

(ア) 診療日が月に2回ないし週に3回と限られている医療機関において、診療日以外で医師が不在の日に来所した患者に対して行われた処置について、医師の診療行為が伴わないのに、初診料や再診料を算定していた。

(イ) 特養ホームの嘱託医が特養ホームにおいて入所者に行った診療について、初診料、再診料、生活指導料等を算定していた。

(ウ) 嘱託医となっていない医師が、特養ホームの入所者からの往診の求めによってではなく、定期的に特養ホームヘ赴いて入所者の診療に当たっている場合、その医師は実質的には嘱託医と認められるのに、その医師が行った診療について(イ)と同様に初診料、再診料、生活指導料を算定していた。 このように医療機関から不適正な請求がなされていたのに、(ア)については、保険者及び市町において医師が勤務していない日があるということをレセプトの点検の際に考慮していなかった。また、(イ)、(ウ)のうち、レセプトに患者が特養ホームの入所者である旨が表示されているものについては審査支払機関等においてその審査点検が十分でなく、その旨が表示されていないものについては市町村において特養ホームの入所者か否かについての点検が十分でなかった。

 このため、この21,112件の請求に対し青森市ほか19市町村等が支払った医療費について74,586,160円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額42,837,234円は負担の要がなかったものである。
 これを医療機関の所在する県別に示すと次のとおりである。

県名 実施主体 不当と認める医療費の支払件数 不当と認める医療費 不当と認める国の負担額

摘要

千円 千円
(70) 青森県 青森市 2,183 7,030 4,075 診察料の支払不適切
(71)  同 弘前市及び国 4,085 14,990 8,281
(72) 新潟県 新潟市 1,799 4,333 2,311
(73)  同 長岡市 1,705 3,057 1,848
(74) 長野県 岡谷市ほか4市町村 1,150 2,217 1,259
(75) 愛知県 名古屋市 1,715 5,242 2,808
(76) 広島県 山県郡芸北町及び国 532 2,306 1,325
(77) 愛媛県 大洲市 959 1,836 913
(78)  同 大洲市ほか1市 945 1,447 787
(79)  同 喜多郡長浜町ほか1市 441 1,315 668
(80)  同 西宇和郡保内町 722 1,332 724
(81)  同 北宇和郡松野町 825 2,007 1,054
(82) 熊本県 熊本市 1,030 5,097 3,013
(83)  同 天草郡五和町 3,021 22,370 13,765
小計 21,112 74,586 42,837

〔3〕  注射料等の支払が適切を欠いたもの

(注射料の算定方法)

 注射料は、注射に係る技術料の点数に、注射に使用した薬剤に係る薬剤料の点数を加算して算定することになっている。この注射に使用する薬剤については、厚生大臣が承認した用法、用量等によることを標準とし、かつ患者個々の症状に応じて行うことになっている。
 そして、特例許可外老人病院(注1) の入院患者で入院期間が1年を超える者に対して同一月に行った注射等に係る薬剤料については、1月当たりの点数について入院日数に応じた上限が定められている。また、人工腎臓(注2) の回路を通して行った注射については、人工透析の処置の一部として処置料が算定されることから、注射に係る技術料は算定できないことになっている。

(検査の結果)

 検査の結果、東京都板橋区ほか4市に所在する5医療機関において、注射料等の請求が不適正と認められるものが1,776件あった。その態様は次のとおりである。

(ア) 注射の薬剤を標準とされる用法、用量によることなく画一的に使用し、これにより注射料を算定していた。

(イ) 特例許可外老人病院はレセプトにその旨を表示すべきであるのに表示しないで、入院期間が1年を超える患者に対する注射等に係る薬剤料を、上限の点数を超える点数により算定していた。

(ウ) 人工透析の患者に対して人工腎臓の回路を通して行った点滴注射について、人工透析の処置料のほかに注射に係る技術料を別途算定していた。

 このように医療機関から不適正な請求がなされていたのに、審査支払機関等において、(ア)、(ウ)についてはレセプトの審査点検が十分でなく、また、(イ)については、別途都県から審査支払機関等に対して行われたこれら医療機関が特例許可外老人病院である旨の通知を看過していた。
 このため、投薬料、入院時医学管理科等の算定を誤っているものも含めて、上記の1,776件の請求に対し東京都板橋区ほか26市町村等が支払った医療費について45,718,354円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額24,946,934円は負担の要がなかったものである。

(注1)  特例許可外老人病院 主として老人慢性疾患の患者を収容する病院であって、医師、看護婦等の配置が医療法(昭和23年法律第205号)上の基準に達しないことなどから特例許可老人病院(参照) としての許可や基準看護の承認等を受けていない病院

(注2)  人工腎臓 透析療法において用いられる装置で、患者の血液から老廃物や他の不必要な物質を取り除き、必要な電解質を補給するもの
これを医療機関の所在する都県別に示すと次のとおりである。

都県名 実施主体 不当と認める医療費の支払件数 不当と認める医療費 不当と認める国の負担額

摘要

千円 千円
(84) 東京都 板橋区ほか10区 327 22,383 11,059 注射料、投薬料、入院時医学管理料等の支払不適切
(85) 富山県 高岡市ほか2市 211 5,388 3,239 注射料の支払不適切
(86) 愛知県 一宮市 162 6,019 3,534 注射料、投薬料の支払不適切
(87) 広島県 広島市ほか3市町 341 4,115 2,277 注射料の支払不適切
(88) 徳島県 小松島市ほか7市町村等 735 7,812 4,835

小計 1,776 45,718 24,946

〔4〕  入院時医学管理料等の支払が適切を欠いたもの

(入院時医学管理料の算定方法)

 特例許可老人病院(注) における入院時医学管理料は、患者が〔1〕 特例許可病棟に入院している場合には、老人診療報酬点数表のうち特例許可老人病院分として定められている点数を、〔2〕 一般病棟に入院している場合には、〔1〕 の点数よりも割高な一般病院分として定められている点数を、それぞれ用いて算定することになっている。そのため、特例許可病棟に入院している患者については、レセプトにその旨を表示することとされている。そして、この入院時医学管理料は、患者の入院期間が長くなるにつれて算定に用いる点数が低くなるよう定められているが、いったん退院した患者が同一疾病で再入院した場合の入院期間は、初回の入院期間を含めて計算することになっている。

(検査の結果)

 検査の結果、岩手県北上市ほか8市に所在する9医療機関において、入院時医学管理料等の請求が不適正と認められるものが3,376件あった。その態様は次のとおりである。

(ア) 特例許可病棟に入院している老人の患者について、一般病院分として定められている割高な点数により入院時医学管理料を算定していた。

(イ) いったん退院した患者が同一疾病で再入院したのに、初回の入院期間を含めることなく入院期間を短いものとすることにより高い点数により入院時医学管理料を算定していた。

 このように医療機関から不適正な請求がなされていたのに、(ア)については、審査支払機関等において、これらの医療機関の毎月のレセプトの中に特例許可病棟の表示をしたものがほとんどないことからこのような事態は容易に推定されるのに、これを考慮しなかった。また、(イ)については、市町村において、レセプトに記載されている診療開始月についての点検が十分に行われていなかった。
 このため、看護料、注射料、処置料等の算定を誤っているものも含めて、上記の3,376件の請求に対し北上市ほか44市町村等が支払った医療費のうち39,619,259円の支払は適切でなく、これに対する国の負担額20,483,148円は負担の要がなかったものである。

(注)  特例許可老人病院 主として老人慢性疾患の患者を収用する病院であって、医師、看護婦等の配置について、医療法(昭和23年法律第205号)第21条第1項のただし書きによる特例として、都道府県知事から一般病院より緩和された基準によることの許可を受けた病棟を有するもの
これを医療機関の所在する府県別に示すと次のとおりである。

府県名 実施主体 不当と認める医療費の支払件数 不当と認める医療費 不当と認める国の負担額

摘要


(89)

岩手県

北上市ほか11市町村等

781
千円
10,881
千円
6,293

入院時医学管理料、看護料の支払不適切
(90) 埼玉県 川口市ほか12市等 714 6,111 2,664 入院時医学管理料、注射料、処置料等の支払不適切
(91) 神奈川県 相模原市ほか10市町 758 4,388 1,508

(92) 石川県 金沢市ほか4町村等 166 2,697 1,467 入院時医学管理料、看護料の支払不適切
(93)  同 加賀市ほか1町 155 3,032 1,823 入院時医学管理料の支払不適切
(94) 滋賀県 大津市 150 2,538 784
(95) 大阪府 大阪市 223 3,359 2,086
(96) 愛媛県 松山市 165 1,926 1,245
(97)  同 今治市 264 4,682 2,608
小計 3,376 39,619 20,483

〔5〕  検査料等の支払が適切を欠いたもの

(検査料の算定方法)

 検査は、治療方針の決定に必要な限度で行うこととし、診療上必要があると認められる範囲において選択して行うこと、同一の検査はみだりに反復して行ってはならないこととされている。
 そして、検体検査料のうち一定の血液化学検査料については、その検体について20項目以上の検査を一括して行った場合は、項目の種類、回数によらず、上限として定められた点数(280点)で算定することとされている。 また、生体検査料のうち呼吸心拍監視装置による検査に係る検査料は、重篤な心機能障害又は呼吸機能障害を有する患者に対して5時間以上監視を行った場合等に算定することになっている。

(検査の結果)

 検査の結果、盛岡市ほか6市に所在する7医療機関において、検査料等の請求が不適正と認められるものが20,853件あった。その態様は次のとおりである。

(ア) 入院患者について検体検査や生体検査を毎月画一的に多数の項目にわたって繰り返し実施し、これに係る検査料を算定していた。

(イ) ほとんどの患者について毎月20項目以上の血液検査を実施するに当たり、上限として定められた点数によらずに、検査を2回に分けて実施してその都度血液化学検査料を算定していた。

(ウ) 重篤な心機能障害又は呼吸機能障害がないと思料される患者に、呼吸心拍監視装置による検査を長時間実施しその検査料を算定していた。

 このように医療機関から不適正な請求がなされていたのに、(ア)、(ウ)については、審査支払機関等において、検査の項目とレセプトに記載された傷病名とが対応していないものが多数あることを看過していた。また、(ア)、(イ)については、審査支払機関等において、医療機関からほとんどの患者に対し画一的に同一の検査を行ったとする請求がなされていることを看過していた。
 このため、注射料、画像診断料等の算定を誤っているものも含めて、上記の20,853件の請求に対し盛岡市ほか187市町村等が支払った医療費について34,696,233円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額18,662,784円は負担の要がなかったものである。
 これを医療機関の所在する府県別に示すと次のとおりである。

府県名 実施主体 不当と認める医療費の支払件数 不当と認める医療費 不当と認める国の負担額

摘要

千円 千円
(98) 岩手県 盛岡市ほか34市町村等 4,075 9,445 4,830 検査料の支払不適切
(99) 埼玉県 熊谷市ほか98市区町村等 13,420 11,261 6,264
(100) 石川県 金沢市ほか14市町村等 1,518 2,629 1,477
(101) 愛知県 名古屋市ほか4市町 59 1,478 876
(102) 京都府 京都市 211 6,658 3,577 検査料、注射料、画像診断料等の支払不適切
(103) 兵庫県 神戸市ほか20市町等 884 2,087 1,058 検査料の支払不適切
(104) 広島県 三原市ほか15市町 686 1,135 577

小計 20,853 34,696 18,662

〔6〕  運動療法料等の支払が適切を欠いたもの

(運動療法料の算定方法)

 運動療法料には、運動機能回復訓練の内容に応じて複雑な訓練に係るものと簡単な訓練に係るものとがある。このうち、前者は、理学療法士等が患者に対して重点的に個別的訓練を1対1で40分以上行った場合に、後者は、それ以外の運動機能回復訓練を15分以上行った場合にそれぞれ算定できることとされている。
 また、都道府県知事が常時勤務する専従の理学療法士がいることなどの施設基準に適合していることの承認をしている医療機関においては、承認施設として所定の点数より高い点数によって算定できることとされている。そして、都道府県知事は、医療機関が上記の承認後に施設基準の要件を欠くに至った場合には、変更の申請をさせることになっている。

(検査の結果)

 検査の結果、富山市ほか5市に所在する6医療機関において、運動療法料等の請求が不適正と認められるものが4,372件あった。その態様は次のとおりである。

(ア) 複雑な訓練でないものについて、複雑な訓練を行った場合に用いることになっている高い点数で運動療法料を算定していた。

(イ) 常勤の理学療法士が退職して常勤者がいなくなり承認施設の基準に適合しなくなったのに、変更の申請をしないまま運動療法料を従来どおり承認施設に適用される高い点数で算定していた。

 このように医療機関から不適正な請求がなされていたのに、(ア)については、審査支払機関等において、運動療法とレセプトに記載された傷病名等とが対応しないものがあることや、ほとんどの患者に対し複雑な訓練を画一的に繰り返し行ったとする請求がなされていることを看過していた。また、(イ)については県において医療機関に対する変更申請についての指導が十分でなかった。
 このため、注射料の算定を誤っているものも含めて、上記の4,372件の請求に対し富山市ほか61市町村等が支払った医療費について28,580,905円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額15,624,236円は負担の要がなかったものである。
これを医療機関の所在する県別に示すと次のとおりである。

県名 実施主体 不当と認める医療費の支払件数 不当と認める医療費 不当と認める国の負担額

摘要

千円 千円
(105) 富山県 富山市ほか3市村等 1,619 6,887 4,051 運動療法料の支払不適切
(106) 愛知県 名古屋市ほか4市町等 301 1,206 881

(107) 広島県 広島市ほか6市町 316 2,492 1,386 運動療法料及び注射料の支払不適切
(108) 愛媛県 松山市ほか29市町村 1,570 14,987 7,909 運動療法料の支払不適切
(109)  同 東予市ほか2町 394 1,699 704
(110) 福岡県 宗像市ほか16市町等 172 1,306 691
小計 4,372 28,580 15,624

〔7〕  処置料等の支払が適切を欠いたもの

(処置料、給食料及び投薬料の算定方法)

 処置料のうち、救急的処置として行う高気圧酸素治療に係るものは、高気圧環境下における酸素投与により著効が認められる急性疾患の患者に対して、発症後1週間以内に行った場合に算定することとされている。また、高気圧酸素治療のうち非救急的なものに係る処置料は、救急的処置として行う高気圧酸素治療が適応する疾患の患者等に対して発症後1週間を超えて行う場合等に算定することとされている。
 給食料については、厚生大臣が定める特別食を給与した場合には、所定の点数に特別食の点数を加算することとされている。そして、この給食料の加算を行うことができる特別食は、疾病治療の直接手段として、医師の発行する食事せんに基づいて特別に調理されたものであることなどが要件とされている。
 また、投薬料は、調剤料等の技術料の点数に薬剤の価格相当の点数を加算して算定するものであり、その薬剤の使用については厚生大臣が承認した用法、用量等によることを標準とし、患者個々の症状に応じて使用することになっている。

(検査の結果)

 検査の結果、群馬県太田市ほか2市に所在する3医療機関及び鹿児島県内の医療機関において、処置料等の請求が不適正と認められるものが3,279件あった。その主な態様は次のとおりである。

(ア) 救急的処置として行う高気圧酸素治療に係る処置料を、治癒による退院直前の患者や発症後2か月を経過した患者などについて算定していた。

(イ) 高気圧酸素治療のうち非救急的なものに係る処置料を、数か月にわたって多数の患者について算定していた。

(ウ) 特別食の加算の対象となる疾病がない者も含めて入院患者のほとんどの者について、特別食の点数を加算して算定していた。

(エ) 患者について標準となる用法、用量によることなく、かつ、画一的に薬剤を使用し、これにより投薬料を算定していた。

 このように医療機関から不適正な請求がなされていたのに、(ア)から(ウ)については、審査支払機関等において、病名や診療開始日等に基づくレセプトの審査点検が十分でなかった。また、(エ)については、市町村が、再審査の請求又は過誤調整の依頼(注) によって減額されたことにならい、同一患者に係るそれ以前の同種の事態について再審査の請求等を行っても、国民健康保険団体連合会はこのような請求等については再審査しないという方針の下にこれに応じておらず、県も同連合会に対して適切な指導をしていなかった。
 このため、検査料、注射料等の算定を誤っているものも含めて、上記の3,279件の請求に対し太田市ほか65市町村等が支払った医療費のうち101,164,149円の支払は適切でなく、これに対する国の負担額46,223,339円は負担の要がなかったものである。

(注)  再審査の請求又は過誤調整の依頼 市町村は、国民健康保険団体連合会等の審査を経て毎月送付されてくるレセプトについて、数か月分を縦覧的に点検するなどしている。その結果、診療内容の適否に関し疑義がある場合には再審査の請求を、計算上の誤り等の事務的な過誤がある場合には過誤調整の依頼を国民健康保険団体連合会等にすることになっている。

これを医療機関の所在する県別に示すと次のとおりである。

県名

実施主体

不当と認める医療費の支払件数 不当と認める医療費 不当と認める国の負担額

摘要

千円 千円
(111) 群馬県 太田市及び国 208 1,516 635 給食料の支払不適切
(112) 埼玉県 深谷市ほか23市町等 1,234 69,704 30,842 処置料及び検査料の支払不適切
(113)  同 入間市ほか34市区町村等 1,070 26,978 13,109 処置料の支払不適切
(114) 鹿児島県 鹿児島市ほか7市町 767 2,964 1,636 投薬料、注射料、検査料等の支払不適切
小計 3,279 101,164 46,223
〔1〕 〜〔7〕 の計 88,190 631,977 347,491