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労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの


(167) 労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(労災勘定)(項)保険給付費
部局等の名称 労働本省(支出庁)
北海道労働基準局ほか10労働基準局(審査庁)
支払の相手方 83医療機関
不適正支払額 12,515,836円

 労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払に当たり、医療機関からの請求に対する審査が十分でなかったため、上記の83医療機関に対して12,515,836円が不適正に支払われていた。これらについては、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られることになっている。

1 保険給付の概要

(労働者災害補償保険)

 労働者災害補償保険は、工場、事務所、商店等に雇われる労働者を被保険者とし、業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対し療養の給付等の保険給付を行うほか、労働福祉事業を行う保険である。

(療養の給付に要する診療費の支払)

 療養の給付は、保険給付の一環として、都道府県労働基準局長の指定する病院若しくは診療所又は労働福祉事業で設置された病院において、負傷又は発病した被保険者を診察し薬剤の支給等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行ったこれらの医療機関は、都道府県労働基準局に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、都道府県労働基準局では請求の内容を審査し、その結果に基づき、労働本省において労災診療費を支払うこととなっている。
 また、労災診療費は、労働省労働基準局長が定めた「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号。以下「算定基準」という。)に基づき算定することとなっている。算定基準によれば、労災診療費は、労災診療の特殊性などを考慮して、〔1〕 健康保険法(大正11年法律第70号)の規定に基づく診療報酬点数表の点数(以下「健保点数」という。)に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、ただし、〔2〕 初診料、再診料等特定の診療項目については、健保点数とは異なる点数又は金額を別に定め、これにより算定することとなっている。

2 検査の結果

(検査の対象)

 北海道労働基準局ほか20労働基準局において、労災診療費の請求に対する支払の適否について検査した。

(不適正支払の事態)

 検査したところ、北海道労働基準局ほか10労働基準局において、労災診療費が不適正に支払われていたものが、83医療機関について12,515,836円あった。これは、上記の11労働基準局において、医療機関が労災診療費を誤って算定し請求していたのに、これに対する審査が十分でないまま支払額を決定していたことによるものである。
 なお、これらの不適正支払額については、すべて返還の処置が執られることになっている。

(主な態様)

 上記の労災診療費が不適正に支払われていた事態について、その主な態様を示すと次のとおりである。

(ア) 入院時医学管理料に関するもの

 入院時医学管理料は、入院期間が長くなるにつれて点数が減ずるよう定められている。そして、いったん退院した患者が同一傷病で同一医療機関に再入院した場合でも、初めに入院した日を起算日として入院期間を計算することとなっている。
 しかし、茨城労働基準局ほか5労働基準局において、16医療機関が154件について再入院した日を起算日として算定するなどしていて、入院時医学管理料が3,902,285円不適正に支払われていた。

(イ) 理学療法料に関するもの

 手足の傷病に対して理学療法を行った場合には、労災診療費では、健保点数の1.5倍の点数で算定できることとなっている。また、運動療法又は牽引療法をマッサージ等による消炎、鎮痛を目的とする理学療法と併せて行った場合には、運動療法又は牽引療法の点数だけを算定し、消炎、鎮痛を目的とする理学療法の点数は算定しないこととなっている。
 しかし、北海道労働基準局ほか7労働基準局において、26医療機関が402件について健保点数の2倍の点数で算定したり、運動療法又は牽引療法とマッサージ等による消炎、鎮痛を目的とする理学療法の両方の点数を合わせて算定したりなどしていて、理学療法料が3,780,649円不適正に支払われていた。

(ウ) 手術料に関するもの

 手足の傷病に対して傷口を縫合するなど創傷処理等の手術を行った場合には、労災診療費では、健保点数の1.5倍の点数で算定できることとなっている。
 しかし、北海道労働基準局ほか7労働基準局において、35医療機関が318件について健保点数の2倍の点数で算定するなどしていて、手術料が1,863,221円不適正に支払われていた。

(労働基準局別の内訳)

 上記の不適正支払額を労働基準局別に示すと次のとおりである。

労働基準局名 医療機関数 不適正支払件数 不適正支払額
千円
北海道労働基準局 9 268 1,902
青森労働基準局 6 267 1,873
福島労働基準局 7 202 528
茨城労働基準局 3 51 549
埼玉労働基準局 8 138 1,465
千葉労働基準局 12 252 1,105
静岡労働基準局 2 37 592
愛知労働基準局 4 50 519
鳥取労働基準局 8 275 541
広島労働基準局 14 264 2,187
沖縄労働基準局 10 205 1,252
83 2,009 12,515