会計名及び科目 | 労働保険特別会計(雇用勘定)(項)雇用安定等事業費 |
部局等の名称 | 労働省 |
支給の根拠 | 雇用保険法(昭和49年法律第116号) |
給付金の種類 | 地域雇用特別奨励金 |
給付金の内容 | 雇用機会が不足している地域内において、事業所の設置又は整備(建物の建設、機械の購入等)を行い、これに伴って当該地域に居住する求職者等を一定数以上雇い入れた事業主に対し、当該事業所の設置、整備に要した費用と雇入れ労働者数に応じて支給する給付金 |
支給の相手方 | 21事業主 |
上記に対する地域雇用特別奨励金の支給額の合計 | 昭和63年度 | 31,000,000円 |
平成元年度 | 99,000,000円 | |
計 | 130,000,000円 | |
不適切となっていた地域雇用特別奨励金の支給額 | 昭和63年度 | 26,500,000円 |
平成元年度 | 89,500,000円 | |
計 | 116,000,000円 |
労働省では、上記の地域雇用特別奨励金の支給に当たり、〔1〕 事業主が、建物の建設費等について申請した費用より低額で実施していたり、既に購入していた機械等を新たに購入したこととしていたりしているのに、申請額どおりに支給していた。また、〔2〕 他の省庁の補助の対象となった建物の建設費や機械の購入費について、さらに地域雇用特別奨励金の支給の対象としていた。その結果、地域雇用特別奨励金116,000,000円の支給が不適切なものになっていると認められた。
このような事態が生じていたのは、労働省が定めた支給要領において、〔1〕 事業所の設置、整備に要した費用の確認及び設置、整備した機械等の確認の方法について適切を欠いていたこと、〔2〕 既に他の省庁の補助の対象となった建物や機械等の取扱いについて適切な配慮を欠いていたことなどによる。
したがって、速やかに支給要領の見直しを行うなどして、地域雇用特別奨励金の支給の適正を図る要があると認められた。
本院の指摘に基づき、労働省では、平成2年10月に支給要領を改正して、〔1〕 事業所の設置、整備に要した費用の確認及び設置、整備した機械等の確認の方法について適正なものに改めるとともに、〔2〕 他の省庁の補助の対象となった建物や機械等については、地域雇用特別奨励金の対象にしないこととするなどの処置を講じた。
1 地域雇用特別奨励金の概要
労働省では、雇用保険法(昭和49年法律第116号)の規定に基づき、同保険で行う事業のうちの雇用安定事業の一環として、雇用機会が不足している地域の雇用開発を促進するため、昭和62年度以降、地域雇用奨励金、地域雇用特別奨励金及び地域雇用移転給付金から成る地域雇用開発助成金(以下「助成金」という。)制度を設けている。この助成金のうち地域雇用特別奨励金(以下「特別奨励金」という。)の支給額は、62年度46億2400万円、63年度299億3130万円、平成元年度538億4540万円となっている。
特別奨励金の支給要件、支給額等については、雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)及び地域雇用開発助成金支給要領(昭和62年職業安定局長通達第184号。以下「支給要領」という。)に定められている。
これらによれば、支給の対象となる事業主は、地域雇用開発等促進法(昭和62年法律第23号)の規定に基づいて政令で指定された雇用開発促進地域(注1)
(以下「促進地域」という。)又は特定雇用開発促進地域(注2)
(以下「特定促進地域」という。)内の事業主であって、次のいずれの要件をも充足するものとされている。
(ア) 地域雇用奨励金(雇い入れた労働者の賃金額についての助成)の支給要件に該当すること。すなわち、事業の用に供する施設や設備を新設、増設、購入又は賃借(以下「施設等の設置・整備」という。)して、新たに事業を始めるか又は事業を拡大し、そして、これに伴い、当該地域に居住する求職者等を公共職業安定所(以下「安定所」という。)の紹介により常用労働者として雇い入れること。そして、実際に地域雇用奨励金の受給資格決定を受けていること。
(イ) 事業の計画日(注3) から完了日(注4) までの間に行った施設等の設置・整備に要した費用の合計額が500万円以上で、これに伴い雇い入れた労働者が5人(小規模企業事業主(注5) の場合は3人)以上であること。
特別奨励金の支給額は、下表のとおり、事業の計画日から完了日までの間の施設等の設置・整備に要した費用と雇い入れた労働者数に応じて、1回当たり50万円から1000万円とされており、毎年1回ずつ計3年間(促進地域の場合)又は計5年間(特定促進地域の場合)支給されることになっている。
1回当たりの支給額
雇い入れた労働者数
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施設等の設置・整備に要した費用
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5〜9人 | 10〜19人 | 20人以上 |
500万円以上1000万円未満 | 50万円 | 75万円 | 100万円 |
1000万円以上2000万円未満 | 100万円 | 150万円 | 200万円 |
2000万円以上5000万円未満 | 200万円 | 300万円 | 400万円 |
5000万円以上 | 500万円 | 750万円 | 1000万円 |
(小規模企業事業主にあっては「5〜9人」とあるのは「3〜9人」)
特別奨励金の支給を受けようとする事業主は、事業所の所在地を管轄する安定所に対し、次のような手続により申請することとされている。
(ア) 事業所設置、整備及び雇入れ計画書を提出する。
(イ) 操業を開始した後に、事業所操業開始届・地域雇用奨励金受給資格決定申請書を提出して、地域雇用奨励金の受給資格の決定を受ける。
(ウ) 施設等の設置・整備及びそれに伴う雇入れが完了した際に、施設等の設置・整備に要した費用、雇い入れた労働者数等を記載した同一様式の地域雇用特別奨励金受給資格決定申請書・地域雇用特別奨励金支給申請書・事業所設置、整備及び雇入れ完了届(以下「申請書等」という。)を提出して、支給を申請する。
そして、上記の申請書等には、設置・整備した施設等の件名、費用額等について事業主が記載した地域雇用特別奨励金事業所設置、整備費用申告書と、設置・整備した施設等の引渡日、契約金額等について施工業者又は販売業者が証明した証明書等を添付することとされている。
安定所では、これらの関係書類に基づいて、支給要件に適合しているかどうかなどについて審査を行ったうえで支給の決定を行い、これに基づいて都道府県が支給することになっている。
(注1) 雇用開発促進地域 多数の求職者が居住し、雇用機会が相当程度不足している地域
(注2) 特定雇用開発促進地域 雇用開発促進地域のうち産業構造の変化などにより雇用状況が著しく悪化している地域又は悪化するおそれがあると認められる地域
(注3) 計画日 事業所設置、整備及び雇入れ計画書を安定所に提出した日
(注4) 完了日 事業所設置、整備及び雇入れ完了届を安定所に提出した日。ただし、新たに始める事業の操業開始日から起算して1年を限度とする。
(注5) 小規模企業事業主 常時雇用する労働者の数が20人(商業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5人)を超えない事業主
2 検査の結果
本院は、平成2年1月から同年5月までの間に、北海道、ほか12県(注6) (支給決定庁 函館公共職業安定所ほか78安定所)において、特別奨励金の支給を受けた382事業主(特別奨励金支給額63年度13億1800万円、元年度17億2075万円、計30億3875万円)について検査した。
検査したところ、次のような適切でない事態が見受けられた。
(1) 秋田県ほか5県(注7)
(支給決定庁 大曲公共職業安定所ほか7安定所)から特別奨励金の支給を受けた12事業主(支給額63年度2350万円、元年度2900万円、計5250万円)が、申請した費用より低額で実施していたり、既に購入していた機械等を新たに購入したこととしていたりしていた。これに対し、安定所では申請額どおりに支給決定しており、特別奨励金4050万円(63年度1900万円、元年度2150万円)が不適正に支給されていた。
これを態様別に示すと次のとおりである。
〔1〕 建物の建設費又は機械等の購入費について申請した費用より低額で実施していたもの
8事業主
(特別奨励金支給額4350万円)
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不適正となっていた特別奨励金の支給額
3150万円
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〔2〕 計画日前に既に購入していた機械等を、施設等の設置・整備に伴い新たに購入したこととしていたもの
4事業主
(特別奨励金支給額 900万円)
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不適正となっていた特別奨励金の支給額
900万円
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(2) 長崎県ほか3県(注8)
(支給決定庁長崎公共職業安定所ほか6安定所)から特別奨励金の支給を受けた9事業主(支給額63年度750万円、元年度7000万円、計7750万円)において、建物の建設又は機械の購入に要した事業費の全部又は一部が既に厚生省又は農林水産省の補助の対象となっていた。当該事業主は、その事業費を新たに特別奨励金に係る施設等の設置・整備に要した費用として申請していたが、これに対し、安定所では申請額どおりに支給決定しており、同一の施設等の設置・整備の費用について国が重ねて助成の対象としている事態となっていた。
いま、(2)の事態について、設置・整備に要した費用の額から他の省庁の補助の対象となった施設等の事業費を差し引いた額により特別奨励金の支給額を修正計算すると、前記9事業主の支給額7750万円は200万円(元年度)となり、7550万円(63年度750万円、元年度6800万円)が過大な支給になっていると認められる。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(1)の事態については、労働省において、支給要領で〔1〕 事業の完了日までに支払が済んでいないものについても設置・整備に要した費用に含めることができることとしていながら、実際に支払われた費用について確認する取扱いにしていないこと。また、〔2〕 設置・整備した機械等の確認について、もっぱら事業主の申告書と販売業者の証明書で行うこととしていること
(2)の事態については、労働省において、他の省庁の補助の対象となった施設等の取扱いに関し、安定所からの問い合わせに対しその都度事務連絡を発するなどしているだけで、他の省庁の補助の対象となった施設等の取扱いについて適切な配慮を欠いていたこと
(注6) 北海道ほか12県 北海道、秋田、茨城、静岡、兵庫、広島、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎各県
(注7) 秋田県ほか5県 秋田、広島、高知、佐賀、熊本、宮崎各県
(注8) 長崎県ほか3県 長崎、熊本、大分、宮崎各県
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、労働省では、2年10月に支給要領の改正を行い、次のとおり特別奨励金の支給の適正化を図る処置を講じた。
(1)の事態については、施設等の設置・整備に要した費用は事業主が事業の完了日までに実際に支払った額とし、当該費用の額を総勘定元帳、現金出納簿等の事業主の帳簿、領収書等によって確認する取扱いにした。また、設置・整備した機械等の確認は、上記の事業主の帳簿等のほか現地調査によって行うこととした。
(2)の事態については、他の省庁の補助の対象となった施設等については、特別奨励金の対象の施設等としないこととした。
なお、(1)の事態については、2年7月までにすべて返還の処置を講じた。