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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

住宅新築資金等貸付事業における宅地取得資金貸付けの適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの


住宅新築資金等貸付事業における宅地取得資金貸付けの適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計(組織)建設本省 (項)住宅建設等事業費
部局等の名称 三重県ほか8府県
補助事業 住宅新築資金等貸付事業(宅地取得資金)
補助の根拠 予算補助
事業の概要 歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域の環境の整備改善を図るため、当該地域に係る自ら居住する住宅の用に供する土地の取得に必要な資金を貸し付けるもの
事業主体 市28、町44、村1、計73市町村
目的を達していない貸付金額 1,222,508,000円
上記に対する国庫補助金相当額 305,627,000円

<検査の結果>

 宅地取得資金の貸付けは、自ら居住する住宅の用に供する土地の取得に必要な資金を貸し付けるもので、借受人はこれによって取得した土地に住宅を建設する義務があり、建設に着手する期限は、貸付後2年とされている。そこで、宅地取得資金の貸付けについて、貸付対象土地における住宅建設の状況等について調査した。
 調査の結果、借受人が、貸付対象土地を取得していなかったり、取得した貸付対象土地を無断で処分していたり、貸付対象土地を取得していても住宅の建設に着手していなかったりしている不適切な事態が9府県の73市町村において346件貸付金額1,222,508,000円(国庫補助金相当額305,627,000円)見受けられた。
 このような事態が生じているのは、借受人が貸付事業について十分認識していなかったことにもよるが、市町村が、貸付対象土地の取得及び住宅建設の状況把握や指導を十分に行っていないこと、建設省が、市町村において貸付事業の運営を適正に行うよう指導監督を十分に行っていないことなどによると認められた。

<是正改善の処置要求>

 建設省において、市町村が、次のような措置を執るなどするよう指導監督を行うことにより、貸付事業の適正な運営を確保し、もって国庫補助事業の目的の達成を期する要があると認められた。

(ア) 貸付対象土地の未取得及び無断処分並びに住宅建設未着手の事態について是正措置を講じること

(イ) 貸付対象土地の取得及び使用の状況や住宅建設状況を把握できるような手段を講じること

 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成2年12月5日に建設大臣に対して是正改善の処置を要求した。

【是正改善の処置要求の全文】

住宅新築資金等貸付事業における宅地取得資金の貸付けについて

(平成2年12月5日付け 建設大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 制度の概要

 (宅地取得資金の貸付け)

 貴省では、歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域の環境の整備改善を図るため、住宅新築資金等貸付制度要綱(昭和49年建設省住整発第69号。以下「要綱」という。)等に基づき、住宅の新築若しくは改修又は住宅の用に供する土地の取得に必要な資金を貸し付ける事業(以下「貸付事業」という。)を行う市町村に対し、貸付事業に必要な財源の一部として国庫補助金を交付している。このうち、住宅の用に供する土地の取得に必要な資金(以下「宅地取得資金」という。)の貸付けについて交付された国庫補助金の額は、この貸付制度が発足した昭和48年度から63年度までに合計277億6061万円となっている。
 そして、市町村では、要綱、住宅新築資金等貸付要領(昭和49年建設省住整発第70号の2)等で定められている宅地取得資金の貸付条件等について、条例及び規則等(以下「貸付条例等」という。)を定めて貸付事業の運用の適正を図ることとしている。

 (宅地取得資金の貸付条件等)

 宅地取得資金は、自ら居住する住宅の用に供するため、土地又は借地権の取得(当該土地又は借地権の目的となっている土地の造成を含む。)を行おうとする者に対し貸し付けられる資金である。
 そして、要綱、貸付条例等によれば、宅地取得資金の借受人には、次のとおり、住宅の建設義務等が課せられている。

(ア) 貸付けを受けた日から起算して2年以内に貸付けに係る土地(借地権の目的となっている土地を含む。以下「貸付対象土地」という。)において自ら居住する住宅の建設に着手しなければならない。

(イ) 貸付金の償還前において貸付金に係る土地又は借地権を貸付けの目的に反して譲渡してはならない。

(ウ) 借受人がこれらの住宅建設義務や処分制限の規定に違反したときは、市町村は償還期限前に借受人に対し貸付金の全部又は一部の償還を請求できる。

 ただし、(ア)及び(イ)については、市町村が特別の事情があるものとして承認したときは、この限りでないとされている。

 (貸付事業の事務手続)

 この貸付事業の事務手続は次のとおりとなっている。

(ア) 宅地取得資金の貸付けを受けようとする者は、住所、氏名、貸付対象土地の所在地・地目・面積・取得造成費、住宅の建設期間等の事項を記載した借受申込書に貸付対象土地の平面図その他の図面を添付して、現に居住する区域の市町村に提出する。

(イ) 市町村は、借受けの申込みがあったときは、その借受申込書及び添付図面を審査のうえ、貸付けの決定を行う。

(ウ) 市町村は、貸付利率、償還期限、償還方法等の貸付条件を定めた貸付契約を借受人と締結する。

(エ) 借受人は、この貸付契約を締結するまでに貸付対象土地の売買契約書を市町村に提示する。

(オ) 市町村は、借受人が締結した貸付対象土地の売買契約の内容が借受申込書等の内容と合致することを確認した後、貸付金の支払を行う。

2 本院の検査結果

 (調査の対象)

 本院は、三重県ほか8府県(注) 管内の202市町村が、48年度から63年度までの間に実施した宅地取得資金貸付けのうち、借受人に対し住宅の新築資金の貸付けを実施したものを除く3,198件103億9184万余円(国庫補助金相当額25億9796万余円)の貸付けに係る住宅建設の状況等について調査した。

 (調査の結果)

 調査の結果、三重県ほか8府県管内の73市町村において、次のとおり、適切とは認められない事態が346件貸付金額1,222,508,000円(国庫補助金相当額305,627,000円)見受けられた。

(1) 貸付対象土地を取得していないもの

10市町 27件 貸付金額 82,200,000円
(国庫補助金相当額 20,550,000円

 この事態は、借受人が宅地取得資金の貸付けを受けているにもかかわらず、土地の売買契約を締結していなかったり、売買契約の締結後売買代金を支払っていなかったりなどしていて、貸付後相当な期間(2年から11年)を経過しているのに、宅地の取得に至っていないものである。

(2) 取得した貸付対象土地を無断で処分しているもの

6市町 10件 貸付金額 26,580,000円
(国庫補助金相当額 6,645,000円

 この事態は、借受人が貸付対象土地を取得したものの住宅の建設に着手することなく、市町の承認を得ないまま貸付金の償還前(借受け後3箇月から8年)に当該土地を第三者に譲渡したものである。

(3) 貸付対象土地において住宅の建設に着手していないもの

67市町村 309件 貸付金額 1,113,728,000円
(国庫補助金相当額 278,432,000円

 この事態は、借受人が貸付対象土地を取得しているが、貸付けを受けた日からの経過期間が2年を超えている(最長14年)にもかかわらず、市町村の承認を得ないまま当該土地において自ら居住する住宅の建設に着手していないものである。そして、当該土地は空地となっていたり、貸付目的外の用途である事務所用地、資材置場等に使用されたりしている。

 (是正改善を必要とする事態)

 上記の事態は、自ら居住する住宅の用に供するため土地を取得する者に対して必要な資金を貸し付けることにより地域の環境の整備改善を図る貸付事業の目的を達しておらず、ひいては、国庫補助事業の目的が達成されていないものと認められる。
 したがって、是正改善を図る必要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じたのは、借受人において、本件貸付事業についての認識が十分でなかったことにもよるが、次のような理由によるものと認められる。

ア 市町村において、次のように適切でない点があったこと

(ア) 貸付けの決定に当たり、借受申込書に住宅建設予定時期を記載させていないなど審査を十分に行っていないこと

(イ) 借受人は貸付対象土地に2年以内に住宅を建設する義務があり、これに違反した場合は期限前償還をさせることができる旨を貸付契約書に明示していないところがあること

(ウ) 貸付後の貸付対象土地の取得及び使用の状況や住宅建設義務の履行期限到来後の住宅建設の状況等の把握を十分に行っていないこと

(エ) 住宅建設義務の履行期限が経過しているものについて、住宅建設の指導を十分に行っていないこと、また、借受人に対し期限前償還を請求できることとなっているのにこの措置を適切に執っていないこと

イ 貴省において、市町村における貸付事業の適正な運営が図られるよう十分に指導監督を行っていなかったこと

3 本院が要求する是正改善の処置

 貴省においては、市町村が次のア、イなどの処置を執るよう、指導監督を行うことにより本件貸付事業の適正な運営を確保し、もって国庫補助事業の目的の達成を期する要があると認められる。

ア 前記本院の検査結果の(1)、(2)及び(3)の事態については次のような是正措置を講じる。

(ア) 貸付対象土地を取得していないもの及び取得した貸付対象土地を無断で処分しているものについては、速やかに借受人に対し貸付対象土地の取得の指導を行い、必要に応じて期限前償還を請求すること

(イ) 貸付対象土地において住宅の建設に着手していないものについては、借受人に対し住宅建設の指導を行い、なかでも特段の理由が無いまま履行期限を相当な期間経過していて住宅建設の目途がたたないものについては、必要に応じて期限前償還を請求すること

イ 今後の貸付事業の運営に当たっては、借受人に対し貸付制度の趣旨、内容等についての理解を徹底させるとともに、次のような措置を講じる。

(ア) 貸付けの決定に当たり、借受申込書等に住宅建設の予定時期等を記入させることとするなどして、審査を充実させること

(イ) 貸付契約書に、住宅建設義務及びこれに違反した場合の期限前償還の条項を設けることとするなど貸付条例等を整備すること

(ウ) 貸付対象土地の取得及び使用の状況や住宅建設状況を把握できるような手段を講じること

(エ) 住宅建設の履行期限を経過しても住宅の建設に着手しない場合には、上記ア(イ)と同様の措置を講じること

 (注)  三重県ほか8府県 京都府、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、広島、徳島、高知各県