科目 | (款)鉄道事業営業収益 (項)旅客運輸収入 |
部局等の名称 | 東日本旅客鉄道株式会社本社 |
契約名 | 定期乗車券の委託販売に関する契約 11契約 |
契約の概要 | 事業所に対して定期乗車券を一括して販売するために、東日本旅客鉄道株式会社と帝都高速度交通営団ほか8会社との間で、それぞれ相手方の路線のみに係る定期乗車券を販売する業務を無償で相互に委託するものなど |
契約の相手方 | 帝都高速度交通営団、東京都、東武鉄道株式会社ほか8会社 |
収受できたと認められる手数料 | 3億8170万円(平成元年度) |
東日本旅客鉄道株式会社では、上記の契約に従い、私鉄等の路線のみに係る定期乗車券を一括して販売(平成元年度計42,163,618,250円)し、これに多額の経費を負担している。一方、私鉄等では、同会社の路線のみに係る定期乗車券を一括して販売する体制がなく、取扱いの実績も全くないため、実態は同会社の一方的な役務提供となっている。このような販売等の実態からみて、上記の11契約で販売に係る手数料を無償としているのは適切でないと認められ、仮に有償にしたとすれば、収受できたと認められる販売に係る手数料は約3億8170万円に上る計算となる。
このような事態が生じているのは、同会社において私鉄等における委託販売契約の履行状況を十分に把握していなかったこと、私鉄等の路線のみに係る定期乗車券の委託販売に伴う経費が多額に上っていることを十分認識していなかったことなどによると認められた。
東日本旅客鉄道株式会社において、私鉄等の路線のみに係る定期乗車券の販売に見合う手数料を私鉄等から収受できるよう委託販売契約を改めるなどの要があると認められた。
上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成2年12月5日に東日本旅客鉄道株式会社代表取締役社長に対して是正改善の処置を要求した。
(平成2年12月5日付け 東日本旅客鉄道株式会社代表取締役社長あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 契約の概要
(定期乗車券の委託販売)
貴会社では、従業員のために一括して購入する民間企業等の事業所(以下「事業所」という。)に対し定期乗車券を販売する業務について、平成元年4月に、帝都高速度交通営団、東京都、東武鉄道株式会社ほか8会社(以下「私鉄等」という。)と、それぞれ定期乗車券の委託販売に関する契約(以下「委託販売契約」という。)を締結している。
委託販売契約の内容についてみると、貴会社は私鉄等の路線のみに係る定期乗車券(以下「私鉄単独定期券」という。)を、また、私鉄等のうち、帝都高速度交通営団ほか8会社(以下「9会社等」という。)は貴会社の路線のみに係る定期乗車券(以下「JR単独定期券」という。)を、それぞれ販売することとなっている。そして、その取扱箇所は貴会社においては、東京圏営業本部(平成2年9月から東京地域本社)東京営業支店ほか5営業支店(注)
及び千葉支社(以下「営業支店等」という。)、9会社等においては指定した駅となっている。
この委託販売契約に基づき、元年度に、上記営業支店等が4,765事業所に対し販売した私鉄単独定期券は、総額42,163,618,250円に上っている。
(委託販売契約締結の経緯)
委託販売契約は、次のような経緯から、昭和62年度に貴会社と私鉄等との間で締結され、毎年更新されてきたものである。
(ア) 私鉄単独定期券は、従来、株式会社日本交通公社ほか12会社(以下「旅行代理店」という。)が、JR単独定期券及び貴会社の路線と私鉄等の路線とを連絡する定期乗車券とともに貴会社、私鉄等から委託され所定の手数料を得て、従業員のために一括して購入する事業所に対し、販売していた。
(イ) 貴会社では、62年6月に定期乗車券の直販化を決定し、その実施に当たり、従前と同様、JR単独定期券のほかに私鉄単独定期券等もまとめて購入したいとする事業所の要請に応えるため、私鉄等と協議のうえ委託販売契約を締結した。
(委託販売に係る手数料)
双方の路線を連絡する乗車券類の販売に当たっては、連絡運輸契約等に基づき、相互に手数料を収受しない取扱いとしていること、委託販売契約において貴会社及び私鉄等が相互に定期乗車券を販売するとしていることなどを考慮して、貴会社では、委託販売に係る手数料は収受しないこととしている。
2 本院の検査結果
(調査の対象)
委託販売に係る手数料を収受しないことの適否を検討するため、私鉄単独定期券の販売等の実態について調査した。
(私鉄単独定期券の販売等の実態)
私鉄単独定期券の販売状況及びこれに係る経費の実態は、次のとおりとなっている。
(ア) 貴会社では、定期乗車券を一括して事業所に販売するために必要な定期券一括発売システム(以下「一括発売システム」という。)を導入し、JR単独定期券等とともに私鉄単独定期券を取り扱っているが、私鉄等においては、JR単独定期券を一括して販売する体制がなく、取扱いの実績も全くない。これは、実態としては、貴会社のみが販売するという一方的な役務提供となっている。
(イ) 一括発売システムは、営業支店等において、事業所が必要とする定期乗車券を短期間に大量に発券することから8億1300万円を投じ、導入したものであり、また、定期乗車券の販売に係る人件費等の直接経費は、元年度に約14億1081万円に上っている。そして、本件私鉄単独定期券の販売金額は、定期乗車券の販売金額の32.1%(販売枚数では59.0%)を占めており、その取扱いの比重は高くなっていることから、私鉄単独定期券の販売に係る経費も多額なものとなっている。
(適切とは認められない事態)
私鉄単独定期券の販売は、私鉄等にとって本来の営業の一部であって、自ら販売するか、又は旅行代理店に手数料を支払って販売させるのが原則であるが、上記の実態からみると、私鉄単独定期券の販売に関しては、貴会社が一方的に多額の経費を負担し販売しているものと認められる。
一方、私鉄等においては、貴会社と委託販売契約を締結する以前から私鉄単独定期券の販売を旅行代理店に委託し、販売額等に応じて所定の手数料を支払っている。また、貴会社においても、JR単独定期券の販売を旅行代理店に委託し、同様の手数料を支払っている。
以上のことから、委託販売契約において私鉄等から私鉄単独定期券の販売に係る手数料を収受しないこととしているのは適切とは認められない。
(収受することができたと認められる手数料)
いま、私鉄単独定期券について、私鉄等と旅行代理店との間で締結している委託販売に関する契約と同様の手数料を収受することとすると、元年度において約3億8170万円収受することができた計算となる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、委託販売契約について私鉄等の履行状況の把握が十分でなかったこと、私鉄単独定期券を販売するに当たり、多額の経費を要していることの認識が不十分であったことなどによると認められる。
3 本院が要求する是正改善の処置
貴会社では、私鉄等のJR単独定期券の販売実績が全くないという実態に即して委託販売契約を改めることにより、その販売に見合う手数料を私鉄等から収受し、もって収入の確保に努めることとするなどの要があると認められる。
(注) 東京営業支店ほか5営業支店 東京、上野、新宿、立川、横浜、大宮各営業支店