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国立大学の授業料の免除が不当と認められるもの


(29)−(37) 国立大学の授業料の免除が不当と認められるもの

会計名及び科目 国立学校特別会計 (款)授業料及入学検定料
(項)授業料及入学検定料
部局等の名称 北海道大学ほか8大学
授業料免除の根拠 国立学校設置法(昭和24年法律第150号)
授業料免除の概要 国立大学の学生に対し、経済的理由によって納付が困難であり、かつ、学業優秀と認める場合に、授業料の納付を免除するもの
授業料の免除額 平成2年度 延べ23,533人 3,263,722,800円
不当と認める免除額 平成2年度 延べ1,274人 127,611,900円

 上記の9大学において、授業料を免除する学生の選考に当たって経済的困窮度及び学業優秀の判定が適切でなかったため、免除できないのに免除したり、半額しか免除できないのに全額免除したりしていて、学生延べ1,274人に対する免除額計127,611,600円が不当と認められる。

1 授業料免除制度の概要

(授業料の免除)

 国立大学では、学生の奨学援護の一環として修学継続を容易にするため、国立学校設置法(昭和24年法律第150号)第12条等の規定に基づき、経済的理由によって授業料の納付が困難であり、かつ、学業優秀と認められる場合に、一定の範囲内で、免除を受けようとする学生の申請に基づいて授業料(学生の区分、入学年度により異なる。平成2年度入学で昼間の学部の場合は年額339,600円)の納付を免除している。 これにより、2年度中に授業料の免除を受けた学生等の数は延べ107,218人、免除額計139億5842万余円となっている。 この授業料の免除は、国立学校の授業料等免除及び徴収猶予取扱要領(昭和35年文部大臣裁定。以下「取扱要領」という。)に基づいて、各大学において免除する学生の選考基準を定めて実施することとなっている。また、この取扱要領では、免除の取扱いは年度を前期と後期に分け各期ごとに行うこと、免除の額は学生が属する世帯の所得に応じて、原則として各期分の授業料の全額又は半額とすることとなっている。

(経済的困窮度等の判定)

 経済的困窮度及び学業優秀の判定は、文部省高等教育局長が定めた「授業料免除選考基準の運用について」(昭和61年文高学第268号)により、次のとおり行うこととなっている。

(1) 経済的困窮度の判定について

 経済的困窮度の判定は、学生が属する世帯の1年間の総所得金額と、世帯の所在地域の区分、構成人員等の別に応じて定められている全額免除又は半額免除の基準額とを比較して行う。そして、総所得金額が全額免除の基準額以下の場合は全額免除とし、これを超え半額免除の基準額以下の場合は半額免除とする。

 この場合において、総所得金額は、次により算定する。

総所得金額=総収入金額-必要経費-特別控除額

そして、総収入金額、必要経費及び特別控除額はそれぞれ次のとおりとなっている。

(ア) 総収入金額は、学生の属する世帯の前年1年間における金銭等のすべての収入額とする。そして、学生本人や兄弟姉妹等が得ている各種奨学金のほか、新入生で日本育英会の奨学金を受ける予定の場合及び世帯において免除実施前6箇月間に退職金、保険金等の臨時的な収入がある場合にはこれらも収入額として取り扱う。

(イ) 必要経費は、給与所得、臨時所得等の種類別に定められている一定の計算方法等によって得られる額とする。

(ウ) 特別控除額は、学生の属する世帯が母子・父子世帯、就学者のいる世帯、又は障害者のいる世帯などの特別の事情に応じて定められている額とする。

(2) 学業優秀の判定について

 学業優秀の判定は、1年次の学生については高校の成績や入試成績等が評価基準以上であること、2年次以上の学生については大学が定める標準単位数を修得し、かつ、成績の状況が評価基準以上であることなどとする。また、留年している学生及び修業年限を超えた学生(以下「留年生等」という。)については、病気、留学など特別な事由があると認められる場合を除き、免除しないこととする。

2 検査の結果

(不適切な事態)

 検査の結果、北海道大学ほか8大学において、2年度(前期、後期)に授業料を免除した学生数延べ23,533人、免除額計3,263,722,800円のうち、授業料を免除できないのに免除したり、半額の免除しかできないのに全額免除したりしていたものが、学生数延べ1、274人について、免除額計127,611,900円あった。これは上記の9大学において、授業料を免除する学生の選考に当たって制度の理解が十分でないなどのため、経済的困窮度及び学業優秀の判定が適切でなかったことによるものである。

(態様別の区分)

 上記の授業料免除が適切に行われていなかった事態について、その態様を示すと次のとおりである。

(1) 経済的困窮度の判定が適切でなかったもの

東北、東京、金沢、鳥取、長崎、熊本、琉球各大学 計7大学
学生数延べ1,045人、免除額計 100,164,900円

これらは、経済的困窮度の判定が次のように適切でなかったものである。

(ア) 総所得金額は前年1年間における総収入金額を基に算定することになっているのに、前々年の総収入金額を基に算定していた。

この一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 琉球大学では、免除を受けようとする学生Aについて、その世帯の総所得金額を父の前々年の収入額5,807千円から必要経費を差し引くなどして3,004千円と算定し、これは全額免除の基準額を超えるが半額免除の基準額以下であることから、半額免除と判定していた。

 しかし、総所得金額は、前年の収入額である6,259千円を基に算定すべきであり、これによれば総所得金額は3,321千円となり、半額免除の基準額も超えることになり、免除できないものである。

(イ) 総所得金額の算定において、学生本人や兄弟姉妹等が日本育英会等の奨学金を受けていたり、新入生である本人が日本育英会の奨学金を受ける予定になっていたり、世帯員が免除実施前6箇月間に退職金、保険金等の臨時所得を得ていたりなどしているのに、これらを収入額として取り扱っていなかった。

 この一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 東北大学では、免除を受けようとする学生Bについて、その世帯の総所得金額を父の前年の収入額1,842千円から必要経費を差し引くなどして183千円と算定し、これは全額免除の基準額以下であることから、全額免除と判定していた。

 しかし、同世帯においては、免除実施月の2箇月前に母が退職金19,808千円を得ているのに、これを収入額として取り扱っておらず、これを含めれば総所得金額は19,991千円となり、半額免除の基準額をも超えることになり、免除できないものである。

(ウ) 所定の必要経費の計算方法や基準額によらず、日本育英会における奨学金貸与の判定に係る基準に基づいて判定するなどしていた。

 この一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 長崎大学では、免除を受けようとする学生Cについて、その世帯の総所得金額を父の前年の収入額5,788千円から必要経費を差し引くなどして1,840千円と算定し、全額免除の基準額以下であることから、全額免除と判定していた。

 しかし、上記の額は日本育英会の計算方法により算定したものであり、所定の方法により計算すると適正な総所得金額は3,708千円となるので、半額免除の基準額をも超えることになり、免除できないものである。

(2) 学業優秀の判定が適切でなかったもの

北海道、東北、東京、京都各大学 計4大学
学生数延べ229人、免除額計27,447,000円

 これらは、留年生等については、病気や留学などの特別な事由がある場合を除き免除しないこととなっているのに、国家試験の受験準備等自己の都合により留年している学生について免除していたものである。

 この一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 東京大学では、免除を受けようとする学生Dについて、家計の状況が半額免除の基準額以下であることから、半額免除と判定していた。

 しかし、同人は、一般教養課程から専門課程に進級するに当たって、希望する学科に進級できなかったため留年している学生であって、免除できないものである。

これらを大学別に示すと次のとおりである。

大学名 授業料免除学生数 授業料免除額 不当と認める免除学生数 不当と認める免除額 摘要
(延べ)人 千円 (延べ)人 千円
(29) 北海道大学 3,017 407,630 20 3,000 自己都合による留年生を免除していたもの
(30) 東北大学 3,535 482,502 53 6,940 自己都合による留年生等を免除していたものなど
(31) 東京大学 3,981 551,580 179 22,586

(32) 金沢大学 1,433 199,674 123 10,719 前々年の収入により総所得金額を算定していたもの
(33) 京都大学 3,639 498,466 43 4,812 自己都合による留年生等を免除していたもの
(34) 鳥取大学 989 137,786 44 4,089 前々年の収入により総所得金額を算定していたもの
(35) 長崎大学 2,634 368,688 665 61,710 所定の必要経費の計算方法や基準額によらなかったものなど
(36) 熊本大学 2,370 338,446 75 7,186 前々年の収入により総所得金額を算定していたものなど
(37) 琉球大学 1,935 278,947 72 6,567 前々年の収入により総所得金額を算定していたもの
(29)-(37) の計 23,533 3,263,722 1,274 127,611