会計名 | 農業経営基盤強化措置特別会計 |
部局等の名称 | 農林水産本省、東北農政局ほか6農政局、北海道ほか18都府県 |
国有農地等の概要 | 戦後、自作農を創設し、我が国の農業生産力の発展と農村の民主的傾向の促進を図るなどのため、自作農創設特別措置法等により、国が小作人に売り渡すことなどを目的として不在地主等から買収した土地 |
検査の対象とした市街化区域内の国有農地等の面積 | 国有農地 | 156万余m2 | ||
開拓財産 | 266万余m2 | |||
計 | 422万余m2 | |||
上記のうち意見表示の対象とした国有農地等の件数、面積及び評価額 | 国有農地 | 1,067件 | 790,301m2 | 313億4335万余円 |
開拓財産 | 56件 | 86,039m2 | 36億6068万余円 | |
計 | 1,123件 | 876,340m2 | 350億0404万余円 |
<検査の結果> |
市街化区域内に所在する国有農地等は、もはや自作農の創設等の目的に供しないものであることから、市街化区域内に所在する国有農地等について、宅地等として有効利活用するなどのためにその処分の促進が図られているかについて検査を行った。 その結果、北海道ほか18都府県において、次のとおり、適切とは認められない事態が、1,123件、面積87万6千余m2 、評価額350億0404万余円見受けられた。 |
(1) 市街化区域内に所在する農耕貸付地が、家庭菜園程度にしか利用されていなかったり、全く利用されていなかったりしているなどの事態が、773件、面積45万3千余m2 、評価額127億6558万余円あった。 |
(2) 市街化区域内に所在する転用貸付地について、依然として長期間にわたり貸付けを継続していて処分されていない事態が、350件、面積42万3千余m2 、評価額222億3845万余円あった。 |
このような事態となっているのは、その背景として、農地法において国有農地等の売払いの相手方を原則として旧所有者及びその一般承継人としているため、関係者が多数に上り権利関係の調整も困難となっていることなどの事情があるが、次のようなことなどによると認められた。 |
(1) 農耕貸付地及び未貸付地について |
ア 売払いの相手方となる旧所有者等についての調査を積極的に行っていないこと |
イ 農耕貸付地売払促進円滑化事業の対象範囲を旧所有者等以外の者に売り払うものに限定していること |
(2) 転用貸付地について |
転用借受者に対して、当該土地の買受けの計画を作成させるなど計画的かつ継続的な取組みにより、長期の転用貸付けを解消するための方策を十分に講じていないこと |
<改善の意見表示> |
国有農地等の現況等を調査のうえ、現行制度上の課題を総合的に検討し、次の処置を執ることなどによって、市街化区域内の国有農地等の有効利活用を図るなどのため処分を促進する要があると認められた。 |
(1) 農耕貸付地及び未貸付地について |
ア 旧所有者等についての調査を行うとともに、旧所有者等への売払いの通知ができない場合の公告制度を積極的に活用すること |
イ 農耕貸付地売払促進円滑化事業の対象範囲に、新たに旧所有者等に係るものを含めること |
(2) 転用貸付地について |
転用借受者に対して、買受けの計画を作成させ、その計画に基づき買受けを積極的かつ継続的に勧奨すること |
上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、平成3年12月6日に農林水産大臣に対して改善の意見を表示した。 |
【改善の意見表示の全文】
(平成3年12月6日付け 農林水産大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。
記
1 国有農地等の概要
貴省では、自作農創設特別措置法(昭和21年法律第43号。昭和27年廃止)、農地法(昭和27年法律第229号)等に基づき、昭和21年度以降、自作農創設等のため土地等の買収、管理及び処分を行っている。そして、これらの業務に係る経理は、農業経営基盤強化措置特別会計(59年度までは自作農創設特別措置特別会計)において一般会計と区分して行われている。
この特別会計に所属する土地は、〔1〕 国有農地(採草放牧地を含む。以下同じ。)及び〔2〕 開拓財産に区分されている(以下、これらを「国有農地等」という。)。
〔1〕 国有農地は、戦後、自作農を創設し、我が国の農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図るため、自作農創設特別措置法及び農地法により、国が小作人に売り渡すことなどを目的として不在地主等から買収した小作地等である。
〔2〕 開拓財産は、戦後、食糧の増産と帰農促進を目的とする開拓事業を行うため、自作農創設特別措置法及び農地法により、国が地権者から買収した山林、原野等である。
国有農地等については、その処分(売渡し又は売払い)が行われるまでの間、農地法第78条等の規定に基づいて管理が行われることとなっている。これによれば、農耕以外の目的で貸し付ける開拓財産は貴省が、その他については都道府県が、それぞれ関係市区町村の農業委員会の協力を得て管理を行うこととなっている。
これらの国有農地等は、平成2年度末現在で国有農地1175万余m2 、開拓財産5866万余m2 、計7042万余m2 あり、次の形態により管理されている。
〔1〕 農耕貸付地
当該土地が旧都市計画法(大正8年法律第36号。昭和43年廃止)第2条の規定による都市計画区域内にあったり、経営規模が零細であったりしたため、小作人への売渡しを保留し、農耕目的で貸し付けたものである。
〔2〕 未貸付地
いったん農耕貸付けをしたものの、その後、借受者が離農したことなどによって国に返還されたままとなっているものである。
〔3〕 転用貸付地
戦後の特殊な事情の下で、国有農地等を公用、公共用又は国民生活の安定上緊急に必要な施設の用に供するために、一時的に住宅、店舗、工場等の用地として、農耕以外の目的で貸し付けたものである。
国有農地等の処分の態様は、次のとおりである。
〔1〕 売渡し
国有農地等は、本来、自作農の創設又は土地の農業上の利用増進の目的に供するため、買収後直ちに農業者等に売り渡すこととなっている。
〔2〕 売払い
上記の〔1〕 以外の国有農地等については、貴省において、農地法第80条等の規定に基づき、自作農の創設又は農業上の利用増進の目的に供しないことを相当と認めた場合に、不要地認定を行い売り払うこととなっている。
この売払いの対象者及び方法は、次のとおりである。
(ア) 原則として旧所有者及びその一般承継人(以下「旧所有者等」という。)に売り払う。その対価は、国有農地等の売払いに関する特別措置法(昭和46年法律第50号)、国有農地等売払評価基準(昭和46年46農地B第1509号農地局長通達)によって算定された価額(時価)に10分の7を乗じて得た額である。
なお、旧所有者等についての調査を行ったにもかかわらず、国有農地等の売払いの旨を旧所有者等に通知できないときは公告を行い、公告の日から3箇月以内に買受けの申込みがない場合には、旧所有者等以外の者に売り払うことができることとなっている。
(イ) 旧所有者等が買受けを希望しないなどの場合は、借受者や地方公共団体等に売り払う。その対価は原則として時価である。
そして、売払いの対象となる土地が、農耕貸付地又は転用貸付地の場合には、その対価から耕作権相当額又は借地権相当額等を控除することができることとなっている。
上記の売払いの対象となる土地のうち、特に市街化区域(注1) (市街化の傾向が著しい区域を含む。以下同じ。)内に所在する国有農地等については、貴省が、農地法第80条及び同法施行令(昭和27年政令第445号)第16条の規定により、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないこととして、不要地認定を行い売払うこととしている。そして、これらの国有農地等が処分された場合、これらの土地は、社会的、経済的にみて宅地や公共用地等(以下、これらを「宅地等」という。)として利活用されることが見込まれるものである。
そこで、その処分を促進するため、貴省では、国有農地等に係る旧所有者等についての調査を行ったり、農耕貸付地のうちで旧所有者等以外に売り払うこととしている土地について、農耕貸付地の借受者(以下「農耕借受者」という。)と折衝等を行い農耕借受者に離作補償料を支払うことによって農耕貸付契約の解約を行う事業(以下、これを「農耕貸付地売払促進円滑化事業」という。)を実施したりしている。
(注1) 市街化区域 既に市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域
2 本院の検査結果
近年、都市及び都市周辺においては、地価の高騰などに起因した宅地供給不足等が深刻な社会問題となっている。このため、市街化区域内の農地を積極的に活用することにより、宅地供給の促進を図ろうとする国民世論の高まりなどを背景として、市街化区域内農地に対する税制措置の改正等の施策が講じられているところである。そして、国民共有の貴重な財産である国有財産についても、適正な管理を行うことはもとより、有効な利活用を図っていくことが求められている。
このような状況のなかで、貴省においても、市街化区域内に所在する国有農地等については、前記の事業等を行うことにより、その売払いの促進に努めてきているところである。
しかし、長年月の経過により権利・利害関係が複雑化したことなどにより売払いが進んでおらず、土地の有効利活用の観点からみて早急に検討を要するものとなっている。
そこで、都市及び都市周辺に所在する国有農地等のうち、市街化区域内に所在する国有農地等の利活用の状況等を検査した。
本院が検査を実施した北海道ほか18都府県(注2) に所在する市街化区域内の国有農地等の面積は、2年度末現在で国有農地182万余m2 、開拓財産339万余m2 、計522万余m2 である。本院は、このうち、国有農地156万余m2 、開拓財産266万余m2 、計422万余m2 について検査を実施した。
検査の結果、北海道ほか18都府県において、市街化区域内に所在する国有農地等で、宅地等としての有効利活用を図るなどの観点からみて適切とは認められない事態が、次表のとおり、1,123件、面積87万6千余m2 見受けられた。その評価額を、3年1月1日現在の固定資産課税台帳登録価格(当該地にこの登録価格が設定されていない場合は、近傍類似地の登録価格)及び台帳面積により計算すると350億0404万余円となる。
都道府県名 | 件数 | 面積 | 評価額 |
北海道 |
件 133 |
m2
168,035 |
千円 612,504 |
秋田県 | 14 | 6,854 | 300,450 |
栃木県 | 48 (4) |
26,502 (3,854) |
460,194 (62,558) |
埼玉県 | 14 | 7,860 | 381,060 |
千葉県 | 40 (16) |
44,171 (22,721) |
1,238,421 (472,432) |
東京都 | 520 (21) |
286,173 (40,082) |
15,193,179 (2,504,170) |
神奈川県 | 143 (8) |
75,291 (1,970) |
4,529,227 (128,486) |
新潟県 | 8 | 2,888 | 33,552 |
岐阜県 | 4 | 806 | 19,677 |
静岡県 | 20 (1) |
11,850 (198) |
377,136 (4,197) |
愛知県 | 41 (1) |
14,487 (304) |
352,787 (9,473) |
三重県 | 9 | 1,264 | 11,223 |
京都府 | 38 (2) |
23,203 (1,334) |
973,954 (90,357) |
大阪府 | 43 (1) |
140,872 (10,327) |
9,190,162 (276,639) |
和歌山県 | 6 | 2,541 | 65,389 |
山口県 | 6 | 21,896 | 465,300 |
愛媛県 | 25 | 28,187 | 459,874 |
福岡県 | 6 (2) |
9,649 (5,249) |
291,375 (112,374) |
大分県 | 5 | 3,811 | 48,566 |
合計 | 1,123 (56) |
876,340 (86,039) |
35,004,040 (3,660,689) |
(注) ( )書きは開拓財産に係るもので内数。
これを大別すると次のとおりである。
(1) 市街化区域内に所在する農耕貸付地及び未貸付地で、宅地等として有効利活用を図るため、処分を促進する要があると認められるもの
市街化区域内には依然として多くの農地が存在しているが、近年の地価高騰の状況下において、保全すべき緑地としての農地を除き、市街化区域内農地の処分を促進し、これを宅地等として有効に利活用することが求められている。
しかし、市街化区域内の国有農地等が家庭菜園程度にしか利用されていなかったり、全く利用されていなかったりしている状態が継続しているのに、なお農耕を目的として貸し付けられているなどの事態が、北海道ほか18都府県において、773件、面積45万3千余m2 、評価額127億6558万余円見受けられた。
この件数、面積及び評価額並びに主な事例を態様別に示すと、次のとおりである。
〔1〕 農耕貸付地が家庭菜園程度の農耕にしか利用されていないにもかかわらず、貸付けが継続しているもの
国有農地 |
件 597 |
千m2 308 |
千円 10,625,202 |
|
開拓財産 | 2 | 4 | 153,668 |
都道府県名 | 所在地 | 区分(種目) | 面積 | 評価額 | 貸付料(年額) |
東京都 |
A区 |
国有農地(畑) |
m2 101 |
千円 17,984 |
円 1,212 |
この土地は、昭和22年12月に買収したもので、買収直後から、同区在住者に農耕を目的として貸し付けている(貸付料年額1m2
当たり12円)。当該土地は、地下鉄等の駅から約100m離れたバスターミナルに隣接し、地形も正方形状で、極めて利用価値が高いと認められる土地である。 しかし、その営農状況を調査したところ、農耕借受者は、専ら農業以外の職(不動産業)に就業していて、当該土地のほかに農地を所有していない。そして、現在、農耕借受者は当該土地に枝豆、小松菜を作付けしているものの、家庭菜園程度にしか利用されておらず、その年間の農業所得は全くない。 |
都道府県名 | 所在地 | 区分(種目) | 面積 | 評価額 | 貸付料(年額) |
東京都 |
B市 |
開拓財産 (開拓用地) |
m2 1,982 |
千円 65,009 |
円 23,784 |
この土地は、昭和24年10月大蔵省より所管換を受けたもので、25年2月、いったん農業者に売り渡されたものの、第三者に賃貸していることが判明したため、31年3月同人から買い戻し、37年11月から、同市在住者に農耕を目的として貸し付けている(貸付料年額1m2
当たり12円)。 しかし、その営農状況を調査したところ、農耕借受者は、専ら農業以外の職(駐車場経営)に就業していて、当該土地のほかに農地は所有していない。そして、現在、当該土地には、梅、栗等を植樹しているものの、自家消費程度にしか利用されておらず、その年間の農業所得はほとんどない。 |
〔2〕 農耕貸付地が全く耕作されていないにもかかわらず、貸付けが継続しているもの
国有農地 |
件 50 |
千m2 23 |
千円 |
都道府県名 | 所在地 | 区分(種目) | 面積 | 評価額 | 貸付料(年額) |
神奈川県 | C市 | 国有農地(畑) | m2 1,434 |
千円 62,809 |
円 21,510 |
この土地は、昭和31年3月に買収したもので、40年4月から、同市在住者に農耕を目的として貸し付けている(貸付料年額1m2
当たり15円)。 当該土地は、住居地域に所在し、地形も長方形状で利用価値が高いと認められる土地である。 しかし、その営農状況を調査したところ、農耕借受者は、高齢のため当該土地での耕作を全く行っていない。県は、同人に対して耕作を促しているものの、同人はこれに応じていない。 |
〔3〕 未貸付けの状態が長期間継続しているもの
国有農地 |
件 124 |
千m2 116 |
千円 1,376,469 |
都道府県名 | 所在地 | 区分(種目) | 面積 | 評価額 | 貸付料(年額) |
静岡県 | D市 | 国有農地(田) | m2 307 |
千円 9,578 |
− |
この土地は、昭和27年8月に買収し、29年11月、D市に市営保育園用地として貸し付けていたが、同保育園の移転に伴い、46年7月以降未貸付地となっている。当該土地は、国道から約50m入った公道及び住宅地に囲まれた角地にあり、極めて利用価値が高いと認められる土地である。 しかし、荒地のまま未貸付けの状態が長期間継続している。 |
(2) 市街化区域内に所在する転用貸付地で、宅地・公共用地等として長期にわたり貸し付けられているため、その処分の促進を図る要があるもの
市街化区域内に所在する転用貸付地は、一時的に貸し付けられたものであり、もはや自作農の創設等の目的に供しないことが相当と認められ、また、その使用形態も定着したものとなっていることから、早期に処分の促進を図る要がある。
しかし、依然として長期間にわたり転用貸付けを継続している事態が、北海道ほか16都府県(注3) において、350件、面積42万3千余m2 、評価額222億3845万余円見受けられた。
この件数、面積及び評価額並びに主な事例を態様別に示すと、次のとおりである。
〔1〕 民間に転用貸付けしているもの
国有農地 |
件 219 |
千m2 62 |
千円 2,912,563 |
|
開拓財産 | 48 | 64 | 3,177,126 |
都道府県名 | 所在地 | 区分(種目) | 面積 | 評価額 | 貸付料(年額) |
埼玉県 | E市 | 国有農地(畑) | m2 79 |
千円 14,496 |
円 753,186 |
この土地は、昭和23年10月に買収したもので、32年3月から、F市在住者に店舗用地として転用貸付けしている(貸付料年額1m2
当たり9,534円)。そして、現在、美容室及び飲食店が入居してそれぞれ営業を行っている。 しかし、当該土地は、その周辺にビルディングなどが建ち並ぶ市街化が著しく進んだ地域にあり、今後も同様の使用形態が継続されると予測される土地であるのに、借受者の買受資金の不足などから、売払いが行われないまま現在に至っている。 |
都道府県名 | 所在地 | 区分(種目) | 面積 | 評価額 | 貸付料(年額) |
大分県 | G市 | 国有農地(田) | m2 2,758 |
千円 29,924 |
円 2,050,111 |
この土地は、昭和27年3月に買収したもので、買収直後から、G市内の会社に工場用地として転用貸付けしている(貸付料年額1m2
当たり743円)。 しかし、同社は、当該土地を今後も継続して使用する意向を持っているものの、買受資金の不足などから、売払いが行われないまま現在に至っている。 |
〔2〕 地方公共団体に転用貸付けしているもの
国有農地 |
件 77 |
千m2 279 |
千円 15,818,866 |
|
開拓財産 | 6 | 16 | 329,895 |
都道府県名 | 所在地 | 区分(種目) | 面積 | 評価額 | 貸付料(年額) |
大阪府 | H市 | 国有農地(田) | m2 10,413 |
千円 666,432 |
円 10,419 |
この土地は、昭和27年3月に買収したもので、買収直後からH市に小学校用地として転用貸付けしている(貸付料年額1m2
当たり1円)。 しかし、同市では、当該土地を恒久的に小学校用地として使用する意向を持っているものの、財政事情を事由に買受けに応じないなどのため、売払いが行われないまま現在に至っている。 |
市街化区域内に所在する国有農地等については、自作農の創設等の目的に供しないことを相当と認めた土地であり、保全すべき緑地としての農地を除き、農地として残す意義が薄れており、これらの処分を促進し、宅地等として有効利活用を図る必要がある。
しかし、上記のように、市街化区域内に所在する国有農地等が家庭菜園程度にしか利用されていなかったり、全く利用されていなかったりしている事態や早期に売払いを要する転用貸付地が長期にわたり貸し付けられたままとなっている事態などが見受けられた。
これらの事態は、国有農地等を宅地等として有効利活用するなどの観点からみて適切ではなく、改善を必要とすると認められる。
上記のような事態の背景として、国有農地等の処分に関する制度面及び実態面において、次のような事情がある。
(ア) 農地法において売払いの相手方が買収前の旧所有者等とされているため、その関係者が多数に上り権利関係の調整も困難となっていること
(イ) 売払いの際に、慣行として農耕借受者に支払われる離作補償料が宅地価格(時価)に基づいて算定されているため、農耕借受者が多額の離作補償料を期待していたり、農耕貸付地の貸付料が小作料の額に準じているため、宅地価格(時価)に比べて著しく低額になっていたりしていて、農耕借受者の離作が進展しないこと
前記のような事態が生じているのは、貴省及び都道府県において、次の発生原因があることによると認められる。
(1) 農耕貸付地及び未貸付地について
〔1〕 貴省における発生原因
(ア) 農耕貸付地の売払いの相手方の大部分を旧所有者等が占めているのに、農耕貸付地売払促進円滑化事業の範囲を旧所有者等以外の者に売り払うものに限定していて、農耕借受者の離作を促進する措置を十分に講じていないこと
(イ) 都道府県に対し、農耕借受者の営農状況及び離作の意向を把握したり、耕作が全く行われていない場合に積極的に契約解除の措置を講じたりするための指導を行っていないこと
(ウ) 地方公共団体等における国有農地等の公用又は公共用の利用計画の有無を調査するなど、国有農地等の利活用を積極的に図るための方策を十分に講じていないこと
〔2〕 都道府県における発生原因
(ア) 市街化区域内の国有農地等は、早期に売り払うべき財産であるという基本的認識が十分でないこと
(イ) 売払いの相手方となる旧所有者等についての調査が十分でなかったり、旧所有者等への売払いの通知ができない場合の公告制度を活用していなかったりしていること
(ウ) 農耕貸付地が全く耕作されていない場合においても、農耕借受者に対する離作に関する指導や貸付契約の解除等をほとんど行っていないこと
(2) 転用貸付地について
〔1〕 貴省における発生原因
(ア) 都道府県に対して、転用貸付地の処分の促進を図るための売払計画を策定させていないこと
(イ) 転用貸付地の借受者(以下「転用借受者」という。)に対して、買受け及び資金調達の計画を作成させておらず、計画的かつ継続的な取組みにより、長期の転用貸付けを解消するための方策を十分に講じていないこと
(ウ) 転用借受者の買受資金不足の解消を図るための方策を十分に講じていないこと
〔2〕 都道府県における発生原因
(ア) 転用貸付地の処分の促進を図るための売払計画を策定していないため、処分促進についての継続的な取組みが行われていないこと
(イ) 転用借受者に対する買受けの意向調査や買受けの勧奨等を積極的に行っていないこと
3 本院が表示する改善の意見
近年における土地の有効利活用に関する社会的要請や、国民の土地問題に対する関心の高まりの中で、国民共有の貴重な財産である国有財産の有効な利活用が特に求められている。このことにかんがみ、貴省において、国有農地等の現況等を調査のうえ、現行制度上の課題を総合的に検討し、次の処置を執ることなどによって、国有農地等の有効利活用を図るなどのため、その処分を促進する要があると認められる。
(1) 農耕貸付地及び未貸付地について
ア 市街化区域内の国有農地等は、早期に売払いを要する財産であるということを、都道府県及び農耕借受者に対し周知徹底させること
イ 売払いの相手方となる旧所有者等についての調査を計画的かつ積極的に行うとともに、旧所者等への売払いの通知ができない場合の公告制度を積極的に活用すること
ウ 農耕貸付地売払促進円滑化事業の対象範囲に、新たに売払いの相手方の大部分を占める旧所有者等に係るものを含めることとして、農耕借受者の離作を促進させるための方策を積極的に講ずること
エ 農耕借受者の営農状況及び離作の意向を的確に把握するとともに、農耕借受者が耕作を全く行っていない場合、積極的に契約解除の措置を講ずること
オ 地方公共団体等における国有農地等の公用又は公共用の利用計画を定期的に調査するとともに、農耕貸付地もこの調査の対象に含めるなどして国有農地等の有効利活用に関する需要を発掘するための方策を十分に講ずること
(2) 転用貸付地について
ア 都道府県に対し売払計画を作成させるとともに、転用借受者に対して、買受け及び資金調達の計画を作成させて、都道府県に提出させること
イ アの資金調達計画の作成に当たり、転用借受者の買受資金不足の解消を図るための方策を適切に講ずること
ウ 都道府県に対し、売払計画及び転用借受者から提出された買受けの計画に基づき、転用借受者に対して買受けを積極的かつ継続的に勧奨させること
(注2) 北海道ほか18都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、秋田、栃木、埼玉、千葉、神奈川、新潟、岐阜、静岡、愛知、三重、和歌山、山口、愛媛、福岡、大分各県
(注3) 北海道ほか16都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、秋田、栃木、埼玉、千葉、神奈川、新潟、静岡、愛知、和歌山、山口、愛媛、福岡、大分各県